説明

溶液中物質濃度分析装置および溶液中物質濃度分析方法

【課題】光励起誘起蛍光分析によって、リアルタイムで、広い濃度範囲において分析対象物質濃度を高精度かつ高感度に分析できるようにする。
【解決手段】試料溶液中の分析対象物質の濃度を定量する溶液中物質濃度分析装置は、試料溶液を保持し、分析対象物質から放出される蛍光を透過する少なくとも一つの蛍光透過面が形成された試料溶液セル3を有する。パルスレーザー1は、試料溶液セル3中の分析対象物質を励起する入射パルスレーザー7を入射窓6を介して試料溶液セル3に入射する。入射窓6から入射された透過パルスレーザー光によって励起された分析対象物質から放出されて蛍光透過面を透過する蛍光は、試料溶液セル3の蛍光透過面を覆うように配置された光検出器16によって検知される。試料溶液セル3と光検出器16の間には、光学フィルタ14,15を配置してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液中の分析対象物質の濃度を定量する溶液中物質濃度分析装置および溶液中物質濃度分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中にウランを溶解させる湿式のウラン廃棄物処理においては、溶液処理プロセスの工程管理のために、ウラン濃度分析が必要である。このため、高濃度から低濃度までの広い濃度範囲の溶液中物質濃度を、リアルタイムで高精度に分析する手法の確立が望まれている。
【0003】
試料溶液中の物質濃度を定量する方法として、たとえば非特許文献1には誘導結合プラズマ発光分析法(ICP発光分析法)が開示されている。この方法を用いた溶液中物質濃度分析では、まず、分析対象のサンプリング試料が高濃度の場合は希釈、低濃度の場合は濃縮などの試料濃度を適正にする前処理を行う。その前処理を経た試料溶液を、オフラインでICP発光分析法によって定量する。
【0004】
しかし、この方法では、前処理工程が必要であるため、サンプリングから分析結果を得るまでに数時間を要し、広濃度範囲において溶液中の分析対象物質濃度をリアルタイム分析することができない。また、分析装置自体が複雑な部品構成をしており、装置寸法が数十cm〜数m程度の大型であり可搬性に劣る。このように、ウラン廃棄物の化学反応処理工程を高精度で効率よく管理するための濃度モニタリング手法としては不十分である。
【0005】
非特許文献2に開示されているレーザー励起時間分解誘起蛍光分析法および装置を用いると、実験室レベルでは、溶液中のウラン濃度をリアルタイムで定量できるようになってきている。この方法では、ウラン溶液中のウラニル分子にレーザー光などのパルス光を照射して対象分子を励起し、その励起された分子が基底状態に緩和するときに放出するウラン特有の波長の蛍光を検出することにより、溶液中のウラン濃度を定量する。
【非特許文献1】大道寺英弘、中原武利編、「原子スペクトル測定とその応用」、学会出版センター、1989年、p.87-p.91
【非特許文献2】Laurent Couston、外3名、"Speciation of Uranyl Species in Nitric Acid Medium by Time-Resolved Laser-Induced Fluorescence"、Applied Spectroscopy Volume 49, Number 3, 1995年、p.349-p.353
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザー励起時間分解誘起蛍光分析法は、一般にサンプリング試料中の分析対象物質成分について分離・濃縮・希釈などの前処理をする必要がないため、溶液中の分析対象物質濃度をリアルタイム分析することが可能である。
【0007】
しかし、従来は、試料溶液の一部から発生する分析対象物質の蛍光を、ある限定された立体角を有する光学系を経由して光検出器によって測定している。しかし、試料濃度を調整しないと、高濃度領域においては溶液中の分析対象物質の自己光吸収効果が生じ、低濃度領域では分析対象物質の蛍光量不足が生じる。このため、高精度でかつ感度の高い蛍光検出が困難である。
【0008】
また、この分析装置は、その光照射部、蛍光分光部、蛍光検出部が複雑な部品構成であり、これらの部品によって構成される光反応部の装置寸法は、十〜数十cmと大型となり、可搬性や省スペース性に劣る。
【0009】
そこで、本発明は、光励起誘起蛍光分析によって、リアルタイムで、広い濃度範囲において分析対象物質濃度を高精度かつ高感度に分析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は、試料溶液中の分析対象物質の濃度を定量する溶液中物質濃度分析装置において、前記試料溶液を保持し、前記分析対象物質から放出される蛍光を透過する少なくとも一つの蛍光透過面が形成された試料溶液セルと、前記分析対象物質を励起する励起光を、前記試料溶液セルに保持された前記試料溶液に照射する励起光照射手段と、前記蛍光透過面を覆うように配置され、前記励起光によって励起された前記分析対象物質から放出されて前記蛍光透過面を透過する蛍光を検知する光検出器と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、試料溶液中の分析対象物質の濃度を定量する溶液中物質濃度分析方法において、前記分析対象物質を励起する励起光を、前記分析対象物質から放出される蛍光を透過する少なくとも一つの蛍光透過面が形成された試料溶液セルに保持された前記試料溶液に照射する励起光照射工程と、前記蛍光透過面を覆うように配置された光検出器によって、前記励起光によって励起された前記対象物質から放出されて前記蛍光透過面を透過する蛍光を検知する検知工程と、前記検知工程で検知した蛍光量と、その蛍光量と試料溶液中の前記分析対象物質の濃度との関係に基づいて、前記試料溶液中の分析対象物質の濃度を算出する定量工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光励起誘起蛍光分析によって、リアルタイムで、広い濃度範囲において分析対象物質濃度を高精度かつ高感度で分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る溶液中物質濃度分析装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図および説明における上下左右は便宜的なものであり、ここで示したものには限定されない。また、ギ酸ウラニル溶液を分析対象の溶液試料とし、ギ酸溶液中に含まれるウラン(ウラニルイオン;UO2+)の濃度を定量分析する場合を例として説明するが、分析対象物質および溶液試料はこれに限定されるものではない。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置を模式的に示す斜視図である。
【0015】
この溶液中物質濃度分析装置23は、パルスレーザー1および平板状の試料溶液セル3を有している。パルスレーザー1から放出される入射パルスレーザー光7は、入射窓6を介して試料溶液セル3に導入されるようになっている。
【0016】
一般に二酸化ウランを溶解した酸性溶液中のウラニルイオンは、可視から紫外波長領域(約200〜約500nm)に光吸収波長帯を有している。また、その吸光度は、短波長領域の方が大きい傾向にあることが知られている。このため、パルスレーザー1としては、たとえばNd:YAGレーザーの第4高調波(波長266nm)および第3高調波(波長355nm)、窒素レーザー(波長377nm)などを用いることができる。また、パルス時間幅は、10ns程度のものを用いることができる。
【0017】
一対の光検出器16は、平板状の試料溶液セル3の両面を覆うように配置され、光検出器16と試料溶液セルの間には、二対の光学フィルタ14,15が配置されて、これらは面接触配置の層状構造を形成している。この層状構造は、一端から、光検出器16、第2の光学フィルタ15、第1の光学フィルタ14、試料溶液セル3、第1の光学フィルタ14、第2の光学フィルタ15、光検出器16の順に並んで配列されている。
【0018】
試料溶液セル3の、第1の光学フィルタと接する蛍光透過面は、少なくともウラン蛍光波長領域の光が透過するように形成されている。試料溶液セル3の厚さは、たとえば約5mmである。
【0019】
第1の光学フィルタ14は、励起光波長領域の光を選択的に低減させる特性を有するものであり、たとえば短波長カットタイプの色ガラスフィルタで厚さが約2mmのものを用いる。第2の光学フィルタ15は、ウラン蛍光波長領域の光を選択的に透過させる特性を有するものであり、たとえばバンドパスタイプの干渉フィルタで厚さが約3mmのものを用いる。
【0020】
光検出器16は、厚さが約20mmで、面積が10cm×10cm程度の、小型の光電子増倍管を検出素子として面状に2次元配列した集合体からなるフラットパネルタイプのものである。光検出器16には、CCDタイプのエリアセンサ、CMOSタイプのエリアセンサなどを用いることもできる。
【0021】
光検出器16には、電源17が接続されている。また、光検出器16には、信号処理器18が接続されていて、信号処理器18にはコンピュータ19が接続されている。
【0022】
図2は、第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置に用いる試料溶液セルの平断面図である。
【0023】
試料溶液セル3の内部には、ギ酸ウラニル溶液2を保持する空間が形成されていて、その空間には互いに向かい合う一組の反射ミラー9が取り付けられている。反射ミラー9は、反射コーティングによって形成することができる。また、試料溶液セル3には、入射窓6および出射窓10が取り付けられている。
【0024】
また、試料溶液セル3は、試料導入口12および試料排出口13を有している。ギ酸ウラニル溶液2などの試料溶液21は、試料導入口12を介して一定速度で試料溶液セル3に流入し、この流入した試料溶液22は、試料排出口13から排出される。
【0025】
パルスレーザー1から放出される紫外波長領域の入射パルスレーザー光7は、入射窓6を介して試料溶液セル3に入射する。入射窓6から入射してギ酸ウラニル溶液2中を透過して進む透過パルスレーザー光8は、対向する反射ミラー9で構成される光学機構によって多重反射しながら、多重パスで進行する。透過パルスレーザー光8は、出射窓10を介して出射パルスレーザー光11として試料溶液セル3の外部に伝播する。
【0026】
図3は、第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の一部の立断面図である。
【0027】
透過パルスレーザー光8は、ギ酸ウラニル溶液2で満たされた試料溶液セル3中のウラニルイオン4に照射される。測定対象物質であるウラニルイオン4は光励起され、その励起イオンが放出する蛍光5は、光検出器16で検知される。
【0028】
図1に示す電源17で動作される光検出器16からの出力信号は、信号処理器18によって演算処理されてコンピュータ19に伝達される。コンピュータ19は、分析装置起動時に予め作成しておいた信号と濃度の検量線データに基づいて信号から濃度へ換算する定量分析処理を行い、リアルタイムで、試料溶液セル3中の成分の濃度が求められる。
【0029】
このように、本実施の形態の溶液中物質濃度分析装置を用いると、試料溶液セル3の内部では一定速度でギ酸ウラニル溶液2が置換され、リアルタイムで試料溶液セル3中の成分が濃度計測される。
【0030】
また、光検出器16は、試料溶液セル3に対し第1および第2の光学フィルタ14,15を直列に挟んで、層状構造で面接触配置されている。このため、薄型の試料溶液セル3の中で、放射状に放出されるウラニルイオン4の蛍光5のほとんどすべてが、試料溶液セル3と層状に配置されている2枚の光検出器16で検出される。したがって、十分な蛍光量が得られ、高い検出感度が得られる。
【0031】
また、第1の光学フィルタ14は、励起光波長領域の光を選択的に低減させる特性を有するため、ウラン蛍光観測を妨害するノイズの原因となる透過パルスレーザー光8の散乱成分を低減する。第2の光学フィルタ15は、ウラン蛍光波長領域の光を選択的に透過させる特性を有するため、ウラン以外の共存物質が発する蛍光混入成分を除去する。
【0032】
このように、これらの第1および第2の光学フィルタ14,15を用いているため、ウラン蛍光以外のノイズ成分が除去されてS/N比が改善され、検出感度がより一層向上される。
【0033】
ウラン燃料製作工程で生成した廃棄物を除染した回収廃液の場合は、ギ酸ウラニル溶液2は、数規定のギ酸溶液中に、約10000ppm〜0.01ppm程度の濃度でウランを含有する。高濃度のギ酸ウラニル溶液2の場合には、入射窓6を通過した近傍の領域までで透過パルスレーザー光8は吸収されて減衰してしまう場合がある。
【0034】
光検出器16を、試料溶液セル3に対して、ある一定距離離れた位置に配置すると、放射状に放出されるウラニルイオン4の蛍光5の、ある立体角で広がった部分的な成分のみをレンズ系で光検出器16に集光することになる。このため、十分な蛍光量が得られず、感度が低くなる場合がある。
【0035】
また、光検出器16を試料溶液セル3と離れた位置に配置して、レンズ系によって蛍光を集光する場合には、基本的に点光源を像転送して光検出器の入力面に集光させる。このため、蛍光5の発光点が試料溶液セル3中を伝播する透過パルスレーザー光8の経路に沿って領域発光するような場合は、すべての発光点からの蛍光を検出することは困難である。そこで、一般には、試料溶液セルの中心部分の領域発光を光検出器16の入力面に集光するように、光軸を調整する。このため、高濃度のギ酸ウラニル溶液2の場合は、入射窓6を通過した近傍の領域までで透過パルスレーザー光8は吸収されて減衰してしまい、蛍光の検出は非常に困難である。
【0036】
しかし、本実施の形態の溶液中物質濃度分析装置では、試料溶液セル3に対して、光検出器16は層状構造で面接触配置されている。このため、蛍光5のほぼ半球状の立体放出角を光検出器16から見込むことになり、ウラニルイオン4の蛍光5のほとんどすべてが、2つの光検出器16で検出される。したがって、試料溶液が高濃度で、入射窓6を通過した近傍の領域までで発光が減衰してしまっていても、分析が可能である。
【0037】
光検出器16はフラットパネルタイプの光検出器で、小型の光電子増倍管を検出素子として面状に2次元配列した集合体である。このような光検出器16は、感度が非常に高い。また、上下2枚の光検出器16のそれぞれの出力信号を信号処理器18によって積分演算処理し、さらに2枚の光検出器16の出力信号を合算処理することにより、高い検出感度が得られる。
【0038】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明に係る第2の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置に用いる試料溶液セルの平断面図である。図5は、第2の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の一部の立断面図である。
【0039】
本実施の形態の溶液中物質濃度分析装置24に用いる試料溶液セル3は、入射窓6および出射窓10をそれぞれ2つずつ備えている。また、入射パルスレーザー光7は、分配器30によって2つの光路に分岐された後に、この入射パルスレーザー光7a,7bは、2つの入射窓6a,6bから試料溶液セル3に入射するようになっている。透過パルスレーザー光8は、出射窓10a,10bを介して出射パルスレーザー光11a,11bとして試料溶液セル3の外部に伝播する。なお、分配器30の代わりに、入射パルスレーザー光7を分岐できるように配置されたミラーを用いてもよい。
【0040】
また、第1の実施の形態と同様に、試料溶液セル3を挟んで一対の第1の光学フィルタ14が配置されている。一対の第1の光学フィルタ14の両側には、一対の第2の光学フィルタ15および一対の第3の光学フィルタ31が配置されている。第2の光学フィルタ15および第3の光学フィルタ31は、光学的に並列に並んでいる。つまり、光検出器16が検出する蛍光は、入射パルスレーザー光7aから発せられた蛍光を第1の光学フィルタ14および第2の光学フィルタ15を経由して入射されるものと、入射パルスレーザー光7bから発せられた蛍光を第1の光学フィルタ14および第3の光学フィルタ31を経由して入射されるものの2種類となる。第2および第3の光学フィルタ15,31と光検出器16とは、層状構造で面接触配置されている。
【0041】
第3の光学フィルタ31は、第1の分析対象物質であるウランと共存する、不純物などの第2の分析対象物質の蛍光波長領域の光を選択的に透過させる特性を有するものである。第3の光学フィルタ31としては、たとえばバンドパスタイプの干渉フィルタで厚さ3mmのものを用いる。
【0042】
試料溶液セル3の第1の光学フィルタと接する蛍光透過面は、少なくとも第1および第2の分析対象物質から放出される蛍光が透過するように形成されている。
【0043】
光検出器16は、小型の光電子増倍管を検出素子として面状に2次元配列した集合体からなるフラットパネルタイプの光検出器で、第2および第3の光学フィルタ15,31のそれぞれの領域に対応した2つの検出素子領域毎に信号を出力し、その2つの出力信号を図1に示す信号処理器18によって別々に演算処理し、コンピュータ19によって信号から濃度へ換算する定量分析処理を行なう。
【0044】
第2の光学フィルタ15に対応する領域では、透過パルスレーザー光8によって励起されたウラニルイオン4から放出される蛍光5は光検出器16に到達して検出される。一方、第2の光学フィルタ15に対応する領域では、不純物イオン33から放出される蛍光5は光検出器16に到達せず、光検出器16で検出されない。
【0045】
また、第3の光学フィルタ31に対応する領域では、透過パルスレーザー光8によって励起されたウラニルイオン4から放出される蛍光5は光検出器16に到達せず、光検出器16で検出されない。一方、第3の光学フィルタ31に対応する領域では、不純物イオン33から放出される蛍光5は光検出器16に到達して検出される。
【0046】
第2および第3の光学フィルタ15,31のそれぞれの領域において、それぞれ光検出器16で検出した信号を別々に処理することによって、ウランそのものと共存する不純物などの2種類の分析対象物質を、それぞれリアルタイムで定量分析できる。
【0047】
なお、第1の分析対象物質であるウランの励起に用いた光吸収波長が第2の分析対象物質の励起には有効ではない場合には、別途、第2の分析対象物質の光吸収波長に合わせた励起波長のパルスレーザーを導入するとよい。また、第1の光学フィルタ14と光検出器16との間の光学フィルタの数を増やし、分配器30で入射パルスレーザー光7を3つ以上の光路に分配できるようにすることにより、3種類以上の物質の検出にも適用できる。
【0048】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明に係る第3の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の一部の立断面図である。
【0049】
本実施の形態の溶液中物質濃度分析装置は、第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の試料溶液セル3と第1の光学フィルタ14の間に、一対の第4の光学フィルタ20を挿入配置したものである。平板状の第4の光学フィルタ20は、光検出器16と第1の光学フィルタ14の間に面接触配置されている。
【0050】
第4の光学フィルタ20は、その表面に垂直に入射する蛍光成分のみを選択的に透過させるものであり、ファイバー・オプティック・プレート(FOP)を用いることができる。このFOPは、たとえば素線直径6μmの石英光ファイバーを稠密に束ねた板状の光学素子で、厚さ3mmのものである。
【0051】
このような溶液中物質濃度分析装置では、放射状に放出されるウラニルイオン4の蛍光5のすべてが光検出器16で検出されることは無く、第4の光学フィルタ20の素線方向に放出された蛍光成分のみが光検出器16に到達する。すなわち、試料溶液セル3中で直径が6μmの微小な領域において透過パルスレーザー光8(図2参照)に沿って生じる蛍光5が、第4の光学フィルタ20の素線をそれぞれ経由して、光検出器16の入力面に垂直に伝送される。
【0052】
入射窓6を通過した透過パルスレーザー光8は、ギ酸ウラニル溶液2中で吸収されて減衰し、透過パルスレーザー光8の軌跡に沿って蛍光5の発光量も減衰していく。そこで、蛍光量を透過パルスレーザー光8の伝播距離の関数として測定する。すなわち、入射窓6の位置を原点として透過パルスレーザー光8の伝播した距離を、たとえば光検出器16の画素単位で表す。このパルスレーザー光伝播距離を横軸とし、その伝播距離における蛍光5の蛍光量を縦軸としてプロットすると、図7のような蛍光減衰特性曲線が得られる。
【0053】
この蛍光減衰特性曲線は、A=ε×C×Lのベールの法則を反映している。なお、ここで、Aは吸光度、εは吸収係数、Cは濃度、Lは吸収長である。図1に示すコンピュータ19によって、ベールの法則に従った蛍光強度減衰特性曲線と濃度の検量線データに基づいて、観測曲線から濃度へ換算する定量評価処理を行うことにより、リアルタイム分析が可能となる。
【0054】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施の形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置に用いる試料溶液セルの平断面図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の一部の立断面図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置に用いる試料溶液セルの平断面図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の一部の立断面図である。
【図6】本発明に係る第3の実施の形態の溶液中物質濃度分析装置の一部の立断面図である。
【図7】本発明に係る第3の実施の形態で得られる蛍光減衰特性曲線の例である。
【符号の説明】
【0056】
1…パルスレーザー、2…ギ酸ウラニル溶液、3…試料溶液セル、4…ウラニルイオン、5…蛍光、6,6a,6b…入射窓、7,7a,7b…入射パルスレーザー光、8…透過パルスレーザー光、9…反射ミラー、10,10a,10b…出射窓、11,11a,11b…出射パルスレーザー光、12…試料導入口、13…試料排出口、14…第1の光学フィルタ、15…第2の光学フィルタ、16…光検出器、17…電源、18…信号処理器、19…コンピュータ、20…第4の光学フィルタ、21,22…試料溶液、23,24…溶液中物質濃度分析装置、30…分配器、31…第3の光学フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中の分析対象物質の濃度を定量する溶液中物質濃度分析装置において、
前記試料溶液を保持し、前記分析対象物質から放出される蛍光を透過する少なくとも1つの蛍光透過面が形成された試料溶液セルと、
前記分析対象物質を励起する励起光を、前記試料溶液セルに保持された前記試料溶液に照射する励起光照射手段と、
前記蛍光透過面を覆うように配置され、前記励起光によって励起された前記分析対象物質から放出されて前記蛍光透過面を透過する蛍光を検知する光検出器と、
を有することを特徴とする溶液中物質濃度分析装置。
【請求項2】
前記試料溶液セルは平行に広がる2つの前記蛍光透過面を備え、それらの蛍光透過面をそれぞれ覆うように前記試料溶液セルを挟んで両側に2つの前記光検出器が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項3】
前記蛍光透過面と前記光検出器との間に、前記蛍光透過面を覆うように広がる光学フィルタを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項4】
前記光学フィルタは、前記励起光の波長領域の光を選択的に低減させるものであることを特徴とする請求項3に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項5】
前記光学フィルタは、前記分析対象物質が放出する蛍光を選択的に透過させるものであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項6】
前記光学フィルタは、前記対向面に垂直に入射する蛍光成分のみを選択的に透過させるものであることを特徴とする請求項3ないし請求項5に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項7】
前記光学フィルタは、前記蛍光透過面と前記蛍光入射面との間に直列に配置された複数のフィルタを備えていることを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項8】
前記光学フィルタは、前記蛍光透過面と前記蛍光入射面との間に並列に配置された複数のフィルタを備えていることを特徴とする請求項3ないし請求項7のいずれか1項に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項9】
前記光検出器は、複数の検出素子の集合体であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項10】
前記検出素子は、それぞれの検出素子が検出した光に対応する出力信号をそれぞれ出力するものであることを特徴とする請求項9に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項11】
前記試料溶液セルは、その内部に保持する前記試料溶液中を前記励起光が多重パスで透過する光学機構を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項12】
前記試料溶液セルは、その内部に前記試料溶液を導入する試料導入口および、その外部に前記試料溶液を排出する試料排出口を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項13】
前記光検出器から出力される出力信号と、その出力信号と前記試料溶液中の前記分析対象物質の濃度との関係に基づいて、前記試料溶液中の前記分析対象物質の濃度を算出するコンピューターを有することを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の溶液中物質濃度分析装置。
【請求項14】
試料溶液中の分析対象物質の濃度を定量する溶液中物質濃度分析方法において、
前記分析対象物質を励起する励起光を、前記分析対象物質から放出される蛍光を透過する少なくとも一つの蛍光透過面が形成された試料溶液セルに保持された前記試料溶液に照射する励起光照射工程と、
前記蛍光透過面を覆うように配置された光検出器によって、前記励起光によって励起された前記対象物質から放出されて前記蛍光透過面を透過する蛍光を検知する検知工程と、
前記検知工程で検知した蛍光量と、その蛍光量と試料溶液中の前記分析対象物質の濃度との関係に基づいて、前記試料溶液中の分析対象物質の濃度を算出する定量工程と、
を有することを特徴とする溶液中物質濃度分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−32631(P2008−32631A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208337(P2006−208337)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】