説明

溶液製膜設備の流延停止方法

【課題】ポリマーと溶媒と添加剤とを含んだドープを流延させる溶液製膜設備において、ドープ中の異物の生成を抑制して流延を停止させる。
【解決手段】複数の配管により複数のタンクと濾過装置とが接続されているドープ製造設備により、ポリマーと溶媒と添加剤とを含むドープを調製後、支持体の上に流延させる溶液製膜設備において、ドープの流延を一時停止させるときには、ポリマーと溶媒とを混合させたドープに対する添加剤の投入を停止させる。添加剤投入ドープがすべて流延したのを確認後、ドープを流延から循環させるようにライン(配管)を切り替える。ドープの流延を再開させる場合には、ドープに対する添加剤の投入を再開し、添加剤投入ドープが流延ダイ近くに到達したのを確認した後、循環から流延させるようにライン(配管)を切り替えて添加剤投入ドープを支持体の上に流延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜設備の流延停止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低電圧・低消費電力であり、また、小型化・薄型化が可能であるなどの利点を有することから、パーソナルコンピュータや携帯機器のモニターおよびテレビ用途などに幅広く利用されている。一般に液晶表示装置は、液晶セルや光学補償シートや偏光子などの光学材料から構成されており、このような光学材料の技術分野では、偏光板の保護や画像着色の解消および視野角の拡大などの用途に応じて、様々なポリマーフィルムが用いられている。
【0003】
前記ポリマーフィルムの代表としては、セルロースアシレートフィルムが例示される。前記セルロースアシレートフィルムは、大きな複屈折率や高いレタデーション値を発現し、また偏光板の保護膜になることができるなどの利点を有することから、安価で薄型の液晶表示装置を提供することができる光学材料として幅広く利用されている。光学材料としての主な用途としては、偏光板の保護フィルムやカラーフィルタやパソコン用液晶表示装置の保護膜などが例示され、特に、液晶用表示装置の保護膜としての用途は、近年著しく増大している。さらには、単なる保護膜でなく、視野角の拡大を可能としたフィルム(例えば、富士写真フイルム株式会社製WVフィルム)や液晶テレビの反射防止膜(例えば、富士写真フィルム製CVフイルム)などのように、フィルム自身に新たな機能を付与して利用する事例も増大している。
【0004】
一般的に、前記セルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートなどのポリマーと溶媒と添加剤とを含むドープを用いて、溶液製膜方法により製造される。前記溶液製膜方法とは、フィルムの原料となるポリマーと溶媒とを混合してポリマー溶液を調製後、前記ポリマー溶液に添加剤を混合して調製したドープを製造するドープ製造工程と、連続して走行する支持体の上に前記ドープを流延して流延膜を形成させる流延工程と、前記流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体より溶媒を含むフィルムとして剥ぎ取り、前記フィルムを複数のローラを用いて支持しながら搬送する間に乾燥手段により乾燥させる乾燥工程とを有するセルロースアシレートフィルムの製造方法である。
【0005】
溶液製膜方法によりセルロースアシレートフィルムを製造する際には、前記ドープ製造設備により調製したドープを、連続的に走行する支持体の上に流延して流延膜を形成させた後に、溶媒を含んだ湿潤フィルムとして剥ぎ取り、所定の乾燥手段により乾燥させてフィルムを製造する。しかし、溶液製膜方法における一連の工程を進めるにあたっては、時々、フィルムが巻き付いたり、前記添加剤の凝集による凝集粒子や前記ドープと空気とが触れる気液界面において生成する表面皮膜(かわばり)など(以下、凝集粒子と表面皮膜を総称して異物と称する)がフィルムの中に混入したりする問題が生じる。前記のような問題が生じた場合には、問題解決を目的として、ドープの流延を一時停止させる場合がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このようにドープの流延を一時停止させる場合において、前記ドープには、インラインミキサによって添加剤が投入されているため、流延停止からの時間が経過するにつれて、前記ドープの中に前記添加剤の凝集などによる異物が生成してしまう。この状態で流延を再開すると、流延ダイから支持体の上に異物が流出する。この場合には、異物が洗い出されるまで、ドープを用いることができない(ロス)という問題が生じ、製造コストの増加や生産性の低下を引き起こしてしまう。したがって、何らかのトラブルにより流延を停止させた後に再開させる場合において、異物の流出を抑制した流延停止方法の確立が課題となっている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、溶液製膜設備において、流延を一時停止させる際に、異物の生成を抑制し、生産性の低下や製造コストの増加を回避することができる溶液製膜設備の流延停止方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶液製膜設備において、ドープの流延を一時停止させるとき、流延停止操作として、ドープに対する前記添加剤の投入を停止し、添加剤が投入された添加剤投入ドープがすべて流延されたのを確認後に、流延から循環へとライン(配管)を切り替えて、ドープを循環させることにより、前記課題を解決させようとするものである。
【0009】
すなわち、ポリマーと溶媒とが混合されたドープを濾過装置により濾過した後に、インラインミキサにより添加剤を添加して、この添加剤投入ドープを連続走行する支持体に流延してフィルムを製造する溶液製膜設備において、前記添加剤投入ドープの流延を一時停止する場合には、まず、前記インラインミキサによる添加剤の添加を停止し、添加剤投入ドープがすべて流延された後に、前記インラインミキサの出口からのドープを前記濾過装置よりも上流に還流し循環させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、溶液製膜設備においてドープの流延を一時停止させる場合には、前記ドープに異物が生成するのを抑制することができ、結果として、生産性の低下やセルロースアシレートフィルムの品質低下および製造コストの増加を抑制して、セルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明におけるセルロースアシレートフィルムの製造方法および製造装置などを含んだ実施様態について説明する。ただし、本発明は、以下に述べる実施様態に限定されるものではない。
【0012】
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(以下、TACと称する)が特に好ましい。前記TACとしては、リンター綿とパルプ綿とのいずれから得られたものでもよいが、好ましくはリンター綿から得られたものである。ただし、特に限定されたものではなく、前記リンター綿およびパルプ綿を同時に用いてもよいし、それぞれを単独に用いてもよい。ただし、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、下記式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表しており、Aはアセチル基の置換度であり、Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。また、TACの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0013】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。前記アシル置換度は、2位、3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0014】
全アシル置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6は2.00以上3.00以下が好ましく、より好ましくは2.22以上2.90以下であり、特に好ましくは2.40以上2.88以下である。また、D6S/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上が好ましく、より好ましくは0.322以上であり、特に好ましくは0.324以上0.340以下である。ここで、DS2は、グルコース単位において2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも称する)であり、DS3は、3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも称する)であり、DS6は、6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも称する)。
【0015】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基においてアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.2以上2.86以下であり、特に好ましくは2.40以上2.80以下である。また、DSBは、1.50以上であることが好ましく、特に好ましくは1.7以上である。さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上であり、31%以上がさらに好ましく、32%以上が6位水酸基の置換基であることが特に好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が、0.75以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.80以上であり、特に好ましくは0.85以上である。前記セルロースアシレートを用いることにより、溶解性の好ましいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いた場合には、粘度が低く、かつ濾過性に優れた、より好ましいドープを製造することができる。
【0016】
本発明においけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ケプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0017】
本発明は他のポリマーにおいても適用される。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリメチルメタアクリレート、ポリカーボネイト、再生セルロースエステル、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、ノルボルネン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、又はポリ−4−メチル−1−ペンテンなどがあげられる。溶液製膜と溶融押出製膜とのどちらでフィルムを製造するかについては、ポリマーの種類に応じて適宜選ぶとよい。

【0018】
ドープを調製するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0019】
前記溶媒としては、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが特に好ましく用いられる。また、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点などから、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類をジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%以上25質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、5質量%以上20質量%以下である。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物がより好ましく用いられる。
【0020】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを用いない場合の溶媒組成についても検討が進んでいる。前記目的を達成するためには、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルを用いることが好ましい。ただし、これらを適宜混合したものも好ましく用いることができる。これらのエーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(例えば、−O−,−CO−,−COO−)のいずれか二つ以上を有する化合物も、溶媒として用いることができる。前記溶媒は、アルコール性水酸基のようなほかの官能基を化学構造の中に有するものであってもよい。
【0021】
セルロースアシレートの詳細については、特願2003−319673号の[0141]から[0192]に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤などの添加剤についても、同じく特願2003−319673号の[0193]から[0531]に詳細に記載されている。
【0022】
本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤について説明する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、その高い寸法安定性から、偏光板または液晶表示用部材などの液晶光学製品に好ましく用いられる。したがって、偏光板または液晶表示用部材などの劣化防止を目的として、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤としては、オキシベンゾフェノン系化合物,ベンゾトリアゾール系化合物,サリチル酸エステル系化合物,ベンゾフェノン系化合物,シアノアクリレート系化合物,ニッケル錯塩系化合物などが例示される。
【0023】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としての具体例を下記に列記するが、本発明はこれらに限定されない。2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2' −ヒドロキシ−3' ,5' −ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N'−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜2.0%が好ましく、10ppm〜5000ppmが更に好ましい。
【0024】
また、特開平6−148430号公報、特開平7−11056号公報に記載の紫外線吸収剤も好ましく用いることができる。本発明で好ましく用いられる上記記載の紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れており、特に不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。紫外線吸収剤の使用量は化合物の種類,使用条件などにより一様ではないが、通常はセルロースアシレートフィルム1m2当り、0.2g以上5.0g以下が好ましく、より好ましくは0.4g以上1.5g以下であり、0.6g以上1.0g以下が特に好ましい。
【0025】
また、その他にも旭電化のプラスチック用添加剤概要「アデカスタブ」のカタログにある光安定剤や、チバ・スペシャル・ケミカルズのチヌビン製品案内にある光安定剤,紫外線吸収剤や、SHIPRO KASEI KAISHAのカタログに記載されているSEESORB,SEENOX,SEETECなども用いることができる。さらには、城北化学工業のUV吸収剤,酸化防止剤や、共同薬品のVIOSORB、吉富製薬の紫外線吸収剤も用いることができる。
【0026】
なお、紫外領域の分光透過率に関しては、特開2003−043259号公報に、色再現性や紫外線照射の耐久性に優れた光学フィルム,偏光板および、表示装置を得るために必要な390nmにおける分光透過率が50%以上95%以下であり、かつ350nmにおける分光透過率が5%以下である光学フィルムについて記載されている。
【0027】
光学異方性コントロール剤(レターデーション制御剤)として用いられる化合物に関して説明する。
【0028】
【化1】

【0029】
化1に示されている一般式(2)中でR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、置換基は後述の置換基Tを適用することができる。R1、R2、R3、R4及びR5のうち少なくともひとつは電子供与性基を表す。ただし、好ましくはR1、R3 又はR5のうちのひとつが電子供与性基であり、より好ましくは、R3が電子供与性基であることである。
【0030】
電子供与性基とは、Hammetのσp値が0以下のものを表し、Chem.Rev. ,91,165(1991)に記載されているHammetのσp値が0以下のものが好ましく適用することができ、より好ましくは−0.85以上0以下のものである。具体的には、アルキル基,アルコキシ基,アミノ基,水酸基などが例示される。電子供与性基として好ましくはアルキル基、アルコキシ基であり、より好ましくはアルコキシ基である。また、前記アルコキシ基においては、炭素数1〜12であるものが好ましく、より好ましくは炭素数1〜8であり、さらに好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。
【0031】
一般式(2)中のR1 としては、水素原子または電子供与性基であることが好ましく、より好ましくはアルキル基,アルコキシ基,アミノ基,水酸基であり、さらに好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基,炭素数1〜12のアルコキシ基であり、特に好ましくはアルコキシ基であり、最も好ましくはメトキシ基である。ただし、前記アルコキシ基においては、炭素数1〜12であるものが好ましく、より好ましくは炭素数1〜8であり、さらに好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。一般式(2)中のR2 としては、水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アミノ基,水酸基であることが好ましく、より好ましくは、水素原子,アルキル基,アルコキシ基であり、さらに好ましくは水素原子,アルキル基,アルコキシ基であり、特に好ましくは水素原子,メチル基,メトキシ基である。さらに、一般式(2)中のR3 としては、水素原子または電子供与性基であることが好ましく、より好ましくは水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アミノ基,水酸基であり、さらに好ましくは、アルキル基,アルコキシ基であり、特に好ましくはアルコキシ基である。前記アルコキシ基においては、好ましくは炭素数1〜12であり、より好ましくは炭素数1〜8であり、さらに好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。ただし、これらの中において最も好ましくは、n−プロポキシ基,エトキシ基,メトキシ基である。
【0032】
一般式(2)中のR4 としては、好ましくは水素原子または電子供与性基であり、より好ましくは水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アミノ基、水酸基であり、さらに好ましくは、水素原子,炭素数1〜4のアルキル基,炭素数1〜12のアルコキシ基であり、特に好ましくは水素原子,炭素数1〜4のアルキル基,炭素数1〜4のアルコキシ基であり、最も好ましくは水素原子,メチル基,メトキシ基である。一般式(2)中のR5 としては、好ましくは水素原子,アルキル基,アルコキシ基,アミノ基,水酸基であり、より好ましくは、水素原子,アルキル基,アルコキシ基であり、さらに好ましくは水素原子,アルキル基,アルコキシ基であり、特に好ましくは水素原子,メチル基,メトキシ基である。また、一般式(2)中のR6 、R7 、R9 およびR10としては、好ましくは水素原子,炭素数1〜12のアルキル基,炭素数1〜12のアルコキシ基,ハロゲン原子であり、より好ましくは、水素原子,ハロゲン原子であり、さらに好ましくは水素原子である。
【0033】
一般式(2)中のR8 は、水素原子,炭素数1〜4のアルキル基,炭素数2〜6のアルキニル基,炭素数6〜12のアリール基,炭素数1〜12のアルコキシ基,炭素数6〜12のアリールオキシ基,炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基,炭素数2〜12のアシルアミノ基,シアノ基またはハロゲン原子を表しており、置換基を有してもよく、置換基としては後述の置換基Tを適用することができる。前記R8 として好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基,炭素数2〜6のアルキニル基,炭素数6〜12のアリール基,炭素数1〜12のアルコキシ基,炭素数2〜12のアリールオキシ基であり、より好ましくは、炭素数6〜12のアリール基,炭素数1〜12のアルコキシ基,炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、さらに好ましくは、炭素数1〜12のアルコキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基である。
【0034】
一般式(2)において、より好ましくは下記一般式(2−A)である。
【0035】
【化2】

【0036】
一般式(2−A)中のR11はアルキル基を表しており、R1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R9 およびR10は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表している。R8は水素原子,炭素数1〜4のアルキル基,炭素数2〜6のアルキニル基,炭素数6〜12のアリール基,炭素数1〜12のアルコキシ基,炭素数6〜12のアリールオキシ基,炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基,炭素数2〜12のアシルアミノ基,シアノ基またはハロゲン原子を表す。一般式(2−A)の中において、R1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R8 、R9 およびR10はそれぞれ一般式(2)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0037】
一般式(2−A)の中において、R11は炭素数1〜12のアルキル基を表し、R11で表されるアルキル基は直鎖でも分岐があってもよく、また、置換基を有していてもよいが、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜8のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である(具体的には、メチル基,エチル基,n−プロピル基,iso−プロピル基,n−ブチル基,iso−ブチル基,tert−ブチル基などが例示される)。
【0038】
一般式(2)において、より好ましくは下記一般式(2−B)である。
【0039】
【化3】

【0040】
一般式(2−B)中でR1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R9 およびR10はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表しており、R11は炭素数1〜12のアルキル基を表している。Xは炭素数1〜4のアルキル基,炭素数2〜6のアルキニル基,炭素数6〜12のアリール基,炭素数1 〜12のアルコキシ基,炭素数6〜12のアリールオキシ基,炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基,炭素数2〜12のアシルアミノ基,シアノ基またはハロゲン原子を表す。ただし、一般式(2−B)の中において、R1 、R2 、R4 、R5 、R6 、R7 、R9 およびR10は、一般式(2)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。また、一般式(2−B)の中におけるR11は、一般式(2−A)におけるR11と同義であり、また好ましい範囲も同様である。
【0041】
一般式(2−B)の中において、Xは炭素数1〜4のアルキル基,炭素数2〜6のアルキニル基,炭素数6〜12のアリール基,炭素数1〜12のアルコキシ基,炭素数6〜12のアリールオキシ基,炭素数2〜12のアルコキシカルボニル基,炭素数2〜12のアシルアミノ基,シアノ基またはハロゲン原子を表す。
【0042】
1 、R2 、R4 およびR5 がすべて水素原子の場合には、Xとして好ましくは、アルキル基,アルキニル基,アリール基,アルコキシ基,アリールオキシ基であり、より好ましくは、アリール基,アルコキシ基,アリールオキシ基であり、さらに好ましくはアルコキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基,メトキシ基,n−プロポキシ基,iso−プロポキシ基,n−ブトキシ基である。また、R1 、R2 、R4 又はR5 のうち少なくともひとつが置換基の場合には、Xとして好ましくはアルキニル基,アリール基,アルコキシカルボニル基,シアノ基であり、より好ましくはアリール基、シアノ基、アルコキシカルボニル基であり、さらに好ましくはアリール基,アルコキシカルボニル基,シアノ基であり、特に好ましくは、フェニル基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,n−プロポキシカルボニル基,シアノ基である。
【0043】
一般式(2)において、さらに好ましくは下記一般式(2−C)である。
【0044】
【化4】

【0045】
一般式(2−C)中でR1 、R2 、R4 、R5 、R11およびXは、一般式(2−B)におけるそれらと同義であり、また、好ましい範囲も同様である。
【0046】
一般式(2)で表わされる化合物の中で好ましいのは下記一般式(2−D)で表わされ
る化合物である。
【0047】
【化5】

【0048】
一般式(2−D)の中において、R2 、R4 およびR6 は、一般式(2−C)におけるそれらと同義であり、また、好ましい範囲も同様である。R21、R22はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基である。ここで、R21は炭素数1〜4のアルキル基を表しており、好ましくは炭素数1 〜3のアルキル基であり、より好ましくはエチル基、メチル基である。さらには、R22は炭素数1〜4のアルキル基を表しており、好ましくは炭素数1 〜3のアルキル基であり、より好ましくはエチル基,メチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。また、X1は、炭素数6〜12のアリール基,炭素2〜12のアルコキシカルボニル基、またはシアノ基であり、好ましくは炭素数6〜10のアリール基,炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基,シアノ基であり、より好ましくはフェニル基,p−シアノフェニル基,p−メトキシフェニル基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,n−プロポキシカルボニル基,シアノ基であり、さらに好ましくは、フェニル基,メトキシカルボニル基,エトキシカルボニル基,n−プロポキシカルボニル基,シアノ基である。
【0049】
一般式(2)のうち最も好ましくは下記一般式(2−E)である。
【0050】
【化6】

【0051】
一般式(2−E)の中において、R2 、R4およびR5 は、一般式(2−D)におけるそれらと同義であり、好ましい範囲も同様だが、いずれかひとつは、−OR13で表される基である。ただし、R13は炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはエチル基,メチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。また、R21、R22およびX1 は一般式(2−D)におけるそれらと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0052】
前記置換基Tについて説明する。置換基Tとして、具体的には、アルキル基,アルケニル基,アルキニル基などが例示される。前記アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜12であり、特に好ましくは炭素数1〜8であり、具体的には、メチル,エチル,iso−プロピル,tert−ブチル,n−オクチル,n−デシル,n−ヘキサデシル,シクロプロピル,シクロペンチル,シクロヘキシルなどが例示される。また、前記アルケニル基としては、好ましくは炭素数2〜20であり、より好ましくは炭素数2〜12であり、特に好ましくは炭素数2〜8であり、具体的には、ビニル,アリル,2−ブテニル,3−ペンテニルなどが例示される。さらに、前記アルキニル基としては、好ましくは炭素数2〜20であり、より好ましくは炭素数2〜12であり、特に好ましくは炭素数2〜8であり、具体的には、プロパルギル,3−ペンチニルなどが例示される。
【0053】
置換基Tとしては上記のほかに、アリール基、置換または未置換のアミノ基,アルコキシ基,アリールオキシ基,アシル基,アルコキシカルボニル基,アリールオキシカルボニル基,アシルオキシ基なども挙げられる。前記アリール基としては、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。前記アミノ基としては、好ましくは炭素数0〜20であり、より好ましくは炭素数0〜10であり、特に好ましくは炭素数0〜6であり、具体的には、アミノ,メチルアミノ,ジメチルアミノ,ジエチルアミノ,ジベンジルアミノなどが例示される。前記アルコキシ基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜12であり、特に好ましくは炭素数1〜8であり、具体的には、メトキシ,エトキシ,ブトキシなどが例示される。また、前記アリールオキシ基としては、好ましくは炭素数6〜20であり、より好ましくは炭素数6〜16であり、特に好ましくは炭素数6〜12であり、具体的にはフェニルオキ,2−ナフチルオキシなどが例示される。前記アシル基においては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、アセチル,ベンゾイル,ホルミル,ピバロイルなどが例示される。前記アルコキシカルボニル基としては、好ましくは炭素数2〜20であり、より好ましくは炭素数2〜16であり、特に好ましくは炭素数2〜12であり、具体的には、メトキシカルボニル,エトキシカルボニルなどが例示される。前記アリールオキシカルボニル基としては、好ましくは炭素数7〜20であり、より好ましくは炭素数7〜16であり、特に好ましくは炭素数7〜10であり、具体的には、フェニルオキシカルボニルなどが例示される。前記アシルオキシ基としては、好ましくは炭素数2〜20であり、より好ましくは炭素数2〜16であり、特に好ましくは炭素数2〜10であり、具体的には、アセトキシ,ベンゾイルオキシなどが例示される。
【0054】
また、アシルアミノ基,アルコキシカルボニルアミノ基,アリールオキシカルボニルアミノ基,スルホニルアミノ基なども挙げられる。前記アシルアミノ基としては、好ましくは炭素数2〜20であり、より好ましくは炭素数2〜16であり、特に好ましくは炭素数2〜10であり、具体的には、アセチルアミノ,ベンゾイルアミノなどが例示される。前記アルコキシカルボニルアミノ基としては、好ましくは炭素数2〜20であり、より好ましくは炭素数2〜16であり、特に好ましくは炭素数2〜12であり、具体的には、メトキシカルボニルアミノなどが例示される。前記アリールオキシカルボニルアミノ基としては、好ましくは炭素数7〜20であり、より好ましくは炭素数7〜16であり、特に好ましくは炭素数7〜12であり、具体的には、フェニルオキシカルボニルアミノなどが例示される。前記スルホニルアミノ基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、メタンスルホニルアミノ,ベンゼンスルホニルアミノなどが例示される。
【0055】
くわえて、スルファモイル基,カルバモイル基,アルキルチオ基,アリールチオ基なども挙げられる。前記スルファモイル基としては、好ましくは炭素数0〜20であり、より好ましくは炭素数0〜16であり、特に好ましくは炭素数0〜12であり、具体的には、スルファモイル,メチルスルファモイル,ジメチルスルファモイル,フェニルスルファモイルなどが例示される。前記カルバモイル基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、カルバモイル,メチルカルバモイル,ジエチルカルバモイル,フェニルカルバモイルなどが例示される。前記アルキルチオ基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、メチルチオ,エチルチオなどが例示される。前記アリールチオ基としては、好ましくは炭素数6〜20であり、より好ましくは炭素数6〜16であり、特に好ましくは炭素数6〜12であり、具体的には、フェニルチオなどが例示される。
【0056】
さらには、スルホニル基,スルフィニル基,ウレイド基,リン酸アミド基なども挙げられる。前記スルホニル基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、メシル,トシルなどが例示される。前記スルフィニル基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、メタンスルフィニル,ベンゼンスルフィニルなどが例示される。前記ウレイド基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、ウレイド,メチルウレイド,フェニルウレイドなどが例示される。前記リン酸アミド基としては、好ましくは炭素数1〜20であり、より好ましくは炭素数1〜16であり、特に好ましくは炭素数1〜12であり、具体的には、ジエチルリン酸アミド,フェニルリン酸アミドなどが例示される。
【0057】
例えば、ヒドロキシ基,メルカプト基,ハロゲン原子(例えば、フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子など),シアノ基,スルホ基,カルボキシル基,ニトロ基,ヒドロキサム酸基,スルフィノ基,ヒドラジノ基,イミノ基,ヘテロ環基,シリル基などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。前記ヘテロ環基としては、好ましくは炭素数1〜30であり、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、窒素原子,酸素原子,硫黄原子などが例示される。また、ヘテロ環基としては、イミダゾリル,ピリジル,キノリル,フリル,ピペリジル,モルホリノ,ベンゾオキサゾリル,ベンズイミダゾリル,ベンズチアゾリルなどが例示される。前記シリル基としては、好ましくは炭素数3〜40であり、より好ましくは炭素数3〜30であり、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、具体的には、トリメチルシリル,トリフェニルシリルなどが例示される。
【0058】
一般式(2)で表される化合物は、置換安息香酸とフェノール誘導体との一般的なエステル反応により合成することができる。また、エステル結合形成反応であれば、どのような反応を用いてもよい。具体的には、置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後にフェノールと縮合させる方法や、縮合剤または触媒を用いて置換安息香酸とフェノール誘導体とを脱水縮合させる方法などが例示される。製造工程などを考慮すると、置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換させた後にフェノールと縮合させる方法がより好ましい。
【0059】
反応溶媒としては、トルエン,キシレンなどの炭化水素系溶媒や、ジメチルエーテル,テトラヒドロフラン,ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。これらの溶媒は、単独でも数種類を混合させて用いてもよい。反応溶媒として好ましくは、トルエン,アセトニトリル,ジメチルホルムアミド,ジメチルアセトアミドである。
【0060】
反応温度としては、好ましくは0℃以上150℃以下であり、より好ましくは0℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは、0℃以上90℃以下であり、特に好ましくは20℃以上90℃以下である。本反応には塩基を用いないことが好ましいが、塩基を用いる場合には、有機塩基,無機塩基のどちらを用いてもよい。ただし、好ましくは有機塩基であり、ピリジン,3級アルキルアミンである。前記3級アルキルアミンとしては、好ましくはトリエチルアミン,エチルジイソプルピルアミンなどである。
【0061】
本発明のセルロースアシレートフィルムの光学特性は、
式(IV):Re(λ)=(nx−ny)×d、
式(V) :Rth(λ)={(nx+ny)/2−nz}×d,
で表されるReレターデション値、Rthレターデーション値がそれぞれ、以下の式(VI)および(VII)を満たすことが好ましい。
式(VI) :46nm≦Re(630)≦200nm
式(VII) :70nm≦Rth(630)≦350nm
ただし、式(IV)中のRe(λ)は波長λnmにおける正面レターデーション値(単位:nm)であり、式(V)中のRth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。また、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さである。
さらに好ましくは、下記式(VIII)及び(IX)を満たすことである。
式(VIII):46nm≦Re(630)≦100nm
式(IX) :180nm≦Rth(630)≦350nm
【0062】
湿度変化や高温経時による質量変化や寸法変化にともない、ReおよびRthの光学特性値は変化する。ただし、前記Re,前記Rthの値の変化は、少ないほど好ましい。湿度による光学特性変化を少なくするために、6位アシル置換度の大きなセルロースアシレートを用いるほかに、疎水性の各種添加剤(可塑剤、レターデーション発現剤、紫外線吸収剤など)を用いることによって、フィルムの透湿度や平衡含水率を小さくする。好ましい透湿度は60℃、95%RH24時間で1平方メートル当たり400g以上2300g以下であり、平衡含水率は25℃、80%RHにおける測定値が3.4%以下であることが好ましい。また、25℃における湿度を10%RHから80%RHに変化させたときの光学特性の変化量が、Re値で12nm以下,Rth値で32nm以下であることが好ましい。疎水性添加剤の量は、セルロースアシレートに対して10%以上30%以下であることが好ましく、より好ましくは12%以上25%以下であり、特に好ましくは、14.5%以上20%以下である。添加剤に揮発性や分解性があってフィルムの質量変化や寸法変化が発生すると光学特性変化が起こる。したがって、80℃、90%RHにおいて、48時間経時した後のフィルムの質量変化量が5%以下であることが好ましい。同様に60℃、95%RHにおいて24時間経時後の寸法変化量が5%以下であることが好ましい。ただし、寸法変化や質量変化が少々あっても、フィルムの光弾性係数が小さいと光学特性の変化量は少なくなる。したがって、フィルムの光弾性係数が50×10-13cm2/dyne以下であることが好ましい。
【0063】
本発明では、上記の原料を用いて溶液製膜方法によりフィルムを製造する。以下に溶液製膜方法を説明する。図1に溶液製膜方法による溶液製膜設備10の概略図を示す。ただし、本発明は、図1に示す溶液製膜設備10に限定されるものではない。溶液製膜設備10はドープ製造設備20を有し、ドープ製造設備20により調製したドープを流延する流延ダイ50と、回転ローラ51,52に掛け渡された流延バンド53と、テンター80とが備えられており、さらに、耳切装置82と、乾燥室85と、冷却室87と、巻取り室90とが配されている。また、ドープ製造設備20は、配管により複数のタンクと濾過装置とが接続されている。ドープ製造設備20によるドープ製造方法についての詳細は後述するため、ここでの説明は省略する。
【0064】
図1の溶液製膜設備10の概略図を用いて溶液製膜方法を説明する。ドープ製造設備20により調製されたドープ21は、流延ダイ50に送られる。流延ダイ50の材質としては、2層ステンレス鋼または析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ50の材質として用いることができる。さらには、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いることが好ましいが、特に、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して作製した流延ダイ50を用いることが好ましい。このとき、流延ダイ50の内部を流れるドープの面状を定に保たつことができる。後述するフィードブロックとの接液面の仕上げ精度は、表面粗さにおいて1μm以下であり、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。また、流延ダイ50のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm以上3.5mm以下の範囲において調整できる。流延ダイ50のリップ先端での接液部の角部分においては、そのRは、全幅にわたり50μm以下とされている。流延ダイ50の内部における剪断速度においては、1(1/sec)以上5000(1/sec)以下となるように調整されていることが好ましい。
【0065】
流延ダイ50の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.0倍以上2.0倍以下程度であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ50には温調機を取り付けることが好ましく、流延ダイ50の形状としては、コートハンガー型のものを用いることが好ましく、くわえて、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ50の幅方向において所定の間隔で設け、前記ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ50に備えられていることがより好ましい。前記ヒートボルトは、あらかじめ設定されるプログラムにより、ドープ製造設備20からのドープ21の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。さらに、赤外線厚み計などの厚み計(図示しない)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を実施することもできる。流延エッジ部を除く任意の2点の厚み差は、1μm以内に調整するものとし、幅方向に対する厚みの最小値において最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましく、リップ間隔精度は±50μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0066】
流延ダイ50のリップ先端には、硬化膜が形成されていることが好ましい。前記硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング,ハードクロムめっき,窒化処理などの方法が例示できる。前記硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができるとともに、気孔率が低く、脆くなく、耐腐食性が良好であり、かつ流延ダイ50と密着性がないものを用いることが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al2 3 ,TiN,Cr2 3 などが例示でき、中でもWCを用いることが好ましい。前記WCは溶射法により形成させることができる。また、流延ダイ50のスリット端に流出するドープ21が、局所的に乾燥固化することを防止することを目的として、溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、ドープ21を溶解することができる溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部に供給することが好ましい。なお、ドープ21を溶解することができる溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0067】
流延ダイ50の下方には、回転ローラ51,52に掛け渡された流延バンド53が設けられている。駆動装置(図示しない)により回転ローラ51,52が回転することにより、流延バンド53は無端で走行する。流延バンド53の移動速度(流延速度)が10m/分以上200m/分以下であることが好ましい。また、流延バンド53の表面温度を所定の値にすることを目的として、回転ローラ51,52には伝熱媒体循環装置54が取り付けられていることが好ましく、流延バンド53の表面温度は、−20℃以上40℃以下であることが好ましい。本実施形態において用いた回転ローラ51,52には、伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ51,52の温度を所定の値に保持する。
【0068】
回転ローラ51,52を直接支持体として用いることもできる。この場合には、回転の速度ムラが0.2%以下となるように、高精度で回転できるものであることが好ましい。また、回転ローラ51,52の表面の平均粗さは0.01μm以下であることが好ましい。回転ローラ51,52の表面には、ハードクロムめっきなどの処理を施して十分な硬度と耐久性を持たせることが好ましい。なお、流延バンド53や回転ローラ51,52などの支持体の表面欠陥を最小限に抑制して、好ましい表面状態の支持体を用いることが好ましい。好ましい表面状態とは、30μm以上の大きさのピンホールが無く、10μm以上30μm未満の大きさのピンホールが1m2あたり1個以下であり、10μm未満の大きさのピンホールが1m2あたり2個以下である状態をいう。
【0069】
流延ダイ50や流延バンド53などの流延機器は、流延室55に収められていることが好ましい。流延室55に前記流延機器が収められている場合には、あらゆる原因により発生する空気などが流延膜56の表面に当たることを抑制することができることから、流延膜56の表面欠陥の生成を抑制することができる。流延室55には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備57と、揮発している溶媒を凝縮するコンデンサ58とが設けられており、さらに流延室55の外部には、コンデンサ58により凝縮させた溶媒を回収する回収装置59が設けられている。また、流延ダイ50から流延バンド53にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御することを目的として、減圧チャンバ60が備えられていることが好ましく、本実施形態においてもこれを用いている。
【0070】
さらに、バンド53の上方には、流延膜56の溶媒を蒸発させることを目的として、流延膜56に風を吹き付ける給気ダクト61と、流延膜56からの蒸発溶媒を風とともに排気することを目的として、排気ダクト62が設けられており、給気ダクト61と排気ダクト62との間にはガイド板(図示しない)が備えられている。
【0071】
さらに、支持体から流延膜56を剥ぎ取る剥取ローラ65が備えられており、剥取ローラ65より流延膜56は湿潤フィルム66として剥ぎ取られた後、複数のローラが配されている渡り部70に送られる。渡り部70には送風機71が備えられており、テンター80の下流には、フィルム81の両側端部を切断する耳切装置82と、耳切装置82により切り取られたフィルム81の両側端部を細かく切断するクラッシャー83とが備えられている。また、乾燥室85には、複数のローラ84と、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収する吸着回収装置86とが備えられている。また、図1においては、乾燥室85の下流に冷却室87が設けられているが、乾燥室85と冷却室87との間に調湿室(図示しない)を設けてもよい。冷却室87の下流には、フィルム81の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)88が設けられている。図1においては、強制除電装置88は、冷却室87の下流側とされている様態を示しているが、この設置位置に限定されるものではない。さらに、本実施形態においては、フィルム81の両側端部にエンボス加工を施してナーリングを付与することを目的として、ナーリング付与ローラ89が強制除電装置88の下流に適宜設けられている。ナーリングされた箇所の凹凸が1μm〜200μmであることが好ましい。巻取り室90の内部には、フィルム81を巻取るための巻取りローラ91と、巻取りの際における張力を制御することを目的として、プレスローラ92とが備えられている。
【0072】
次に、前記溶液製膜設備10によりフィルムを製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ製造設備20により製造されたドープ21は、流延ダイ50から回転ローラ51,52により回転している流延バンド53に流延される。このとき、回転ローラ51,52の駆動は、流延バンド53に生じる張力が1.5×104kg/mとなるように調整されることが好ましく、流延バンド53と回転ローラ51,52との相対速度差が、0.01m/分以下となるように調整されることが好ましい。流延バンド53の速度変動は0.5%以下とし、流延バンド53が一回転する際に生じる幅方向の蛇行が1.5mm以下とされることが好ましい。この蛇行を抑制するために、流延バンド53の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき回転ローラ51,52の速度をフィードバック制御により制御することがより好ましい。さらに、流延ダイ50の直下における流延バンド53について、回転ローラ51,52の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。流延室55の内部の温度は、温調設備57により−10℃以上57℃以下とされることが好ましい。なお、流延室55の内部において蒸発した溶媒は、回収装置59により回収された後、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
【0073】
流延ダイ50から流延バンド53にかけては流延ビードが形成され、流延バンド53上には流延膜56が形成される。流延時でのドープ21の温度は、−10℃以上57℃以下であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、このビードの背面が減圧チャンバ60により所定の圧力値に制御されることが好ましく、ビード背面は前面よりも−10Pa以上−1500Pa以下に減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ60には、ジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。くわえて、流延ビードの形状を所望のものに保つために流延ダイ50のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分以上100L/分以下の範囲であることが好ましい。
【0074】
流延膜56は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム66として剥取ローラ65で支持されながら流延バンド53から剥ぎ取られる。湿潤フィルム66は、複数のローラが設けられている渡り部70の内部を搬送されて、テンター80に送り込まれる。渡り部70においては、送風機71から所望の温度の乾燥風を送風することにより湿潤フィルム66の乾燥を進行させる。前記乾燥風の温度は、20℃以上250℃以下であることが好ましい。
【0075】
テンター80に送られた湿潤フィルム66は、クリップなどの所定の把持手段によりその両側端部が把持されて、幅方向に張力が付与されながら搬送される間に乾燥される。このとき付与される幅方向の張力により、湿潤フィルム66は流延方向と幅方向との少なくとも1方向を100.5%以上300%以下の割合で延伸されることが好ましい。また、テンター80の内部を異なった温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。
【0076】
湿潤フィルム66は、テンター80で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、フィルム81としてその下流側に送り出され、耳切装置82によりその両側端部が切断される。フィルム81の切断された両側端部はカッターブロワー(図示しない)によりクラッシャー83に送られ、粉砕されてチップとなる。前記チップは、ドープ調製用に再利用することができ、再利用することにより、製造コストの増加を抑制することができる。なお、耳切装置82によるフィルム81の両側端部の切断工程については、省略することもできるが、フィルム製造設備において、流延工程からフィルムを巻取るまでの工程のいずれかにおいて実施することが好ましい。
【0077】
耳切装置82により両側端部を切断除去されたフィルム81は、複数のローラ84を有する乾燥室85に送られ、さらに乾燥される。乾燥室85の内部の温度は、特に限定されるものではないが、80℃以上150℃以下であることが好ましい。乾燥室85においては、フィルム81は、ローラ84に巻き掛けられながら搬送されており、ここで発生した溶媒ガスは、吸着回収装置86により吸着回収され、さらに、溶媒成分が除去された空気は、乾燥室85の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室85は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置82と乾燥室85との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム81を予備乾燥することが好ましい。前記予備乾燥室を設けた場合には、乾燥室85におけるフィルム81の温度の急激な上昇を防止することができることから、フィルム81の形状変化を、より抑制することができる。
【0078】
フィルム81は、冷却室87において略室温にまで冷却される。なお、乾燥室85と冷却室87との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム81に対して、所望の湿度および温度に調整された空気を吹き付けることが好ましい。これにより、フィルム81の表面におけるカールの発生や巻取る際の巻取り不良の発生を抑制することができる。
【0079】
溶液製膜方法では、支持体から剥ぎ取られたフィルムを巻取るまでの間において、乾燥工程やフィルムの両側端部を切断する工程など、様々な工程が実施される。これらの各工程内または各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために用いられる。一方、駆動ローラは、フィルムに駆動を伝達するとともに、これを下流へと搬送するために用いられており、通常は、サクションローラが用いられている。フィルム製造設備におけるフィルム搬送では、流延工程,剥ぎ取り工程,乾燥工程,巻取り工程などの各工程内あるいは各工程間において、搬送張力の分離が必要となる場合があり、その際には、サクションローラにより駆動力をフィルムに付与することにより搬送張力の分離を図っている。このサクションローラは、それ自体にフィルムを吸着させて搬送することを目的として、ローラ周面には多数の空気吸引孔を有している。
【0080】
サクションローラを用いる場合には、非駆動のローラに比べて、フィルムには方向性が特定できない複雑な力が作用することにより、フィルムは変形しやすく、また、フィルムに掛かる搬送前後の張力差によってフィルムが変形する。さらに、サクションローラの周面上に有する多数の空気吸引孔の孔縁にフィルムが接触した場合において、フィルムがスリップしたり、収縮や変形が発生したりすると、フィルムには微細なキズが発生してしまう。したがって、前記フィルムの変形を抑制することを目的として、搬送工程において用いる駆動ローラには、あらかじめ、その周面を窒化処理や硬化クロムめっき、あるいは焼入れ処理などにより硬化処理を施し、その周面の表面硬度がビッカース硬度において500以上2000以下であるものを用いることが好ましく、より好ましくは800以上1200以下のものを用いることである。
【0081】
サクションローラは周面に多数の空気吸引孔を有するものを用い、前記サクションローラにおいて孔のない平滑部の表面粗さが前記周面粗さをRyとするとき、表面粗さRyが、0.3μm以上1.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上0.8μm以下である。また、その孔径は1mm以上6mm以下であることが好ましく、より好ましくは2mm以上4mm以下であり、その孔の面取り量は、孔径の2%以上20%以下であることが好ましい。
【0082】
前記サクションローラを用いる場合には、その周面温度を制御することが好ましく、そのため、1基のサクションローラに対して少なくとも1つの温度調節設備を有していることが好ましい。また、前記サクションローラの周面温度を、前記サクションローラに接触する直前のフィルム温度よりも高くしながらフィルムを製造することが好ましい。
【0083】
最後に、フィルム81を巻取り室90の内部に備えられている巻取りローラ91により巻取る。このとき、プレスローラ92により所望の張力を付与しながら巻取ることが好ましい。なお、テンションは巻取り開始から終了までの間において、徐々に変化させることがより好ましい。巻取られるフィルム81は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましく、フィルムの幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルムの厚みが15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0084】
図2に示すドープ製造設備20の概略図を用いて本発明におけるドープ製造方法について説明する。図2は、図1に示した溶液製膜設備10の内部に備えられている。ただし、本発明においては、ここに示す様態に限定されるものではない。ドープ製造設備20は、ポリマーと溶媒とを混合して調製したドープを溜めておくミキシングタンク15と、前記ドープを送り出す移送ポンプ2と、ドープを溜めておくストックタンク3a〜3cと、濾過装置を切り替える濾過装置切り替えバルブ4a〜4fと、溶液を定量的に送り出す調整を担う定量ポンプ5a〜5hとを有している。さらには、濾過装置6a〜6fと、流延停止バルブ7aと、流延ラインと循環ラインとを切り替えるライン切り替えバルブ8a〜8mと、添加剤を溜めておくストックタンク9と、ドープに添加剤液を投入して混合するスタティックミキサ16とを有しており、ドープ製造設備20において製造されたドープは、流延ダイ50に送られる。
【0085】
まず、ミキシングタンク15において、ポリマーと溶媒とを混合してドープを調製する。このとき、前記ドープは、ミキシングタンク15に備えられている攪拌羽(図示しない)により十分攪拌され均一化された後、移送ポンプ2により所定の速度に調整されながら、ストックタンク3aに送られる。
【0086】
前記ドープを濾過装置により濾過して、さらに添加剤を投入してドープを調製する。このとき、配管により並列に接続された濾過装置により複数段濾過することが好ましい。前記添加剤の投入方法に関しては、添加剤と溶媒とを混合した添加剤液を投入してもよく、あらかじめポリマーと溶媒と添加剤とを混合するような、添加剤を直接、ミキシングタンク15に添加することもできる。添加剤が常温において液体の場合には、その液体の状態でミキシングタンク15に添加する。添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いてミキシングタンク15に添加することもできる。さらには、添加剤を複数添加する場合には、ストックタンク9の中に複数の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。本実施形態においてはインライン添加を示したが、添加剤液の送り込む方法および調整方法に関しては、特に限定はされない。
【0087】
前記濾過装置を濾過する際には、濾過装置6a〜6fを用いて、複数段濾過を実施する。ここで、濾過装置6aまたは6bによる濾過工程を第1濾過とし、濾過装置6cまたは6dによる濾過工程を第2濾過とし、濾過装置6eまたは6fによる濾過工程を第3濾過とし、本実施形態においては三段階で濾過する様態を示したが、特に限定はされない。前記濾過装置により濾過する場合には、いずれの濾過装置を用いてもよい。このように、並列に配された濾過装置により濾過した場合には、フィルタの根詰まりなどの問題が生じた場合に、濾過装置選択バルブ4a〜4fにより濾過装置を切り替えて、問題の生じていない一方の濾過装置を用いて濾過することができるという利点がある。濾過装置の選択は適宜任意に実施できるものであり、特に限定はされない。例えば、第1濾過では濾過装置6aを用い、第2濾過では濾過装置6cを用い、第3濾過では濾過装置6fをそれぞれ用いて濾過する場合には、濾過装置選択バルブ4a,4c,4fを開けると同時に、4b,4d,4eを閉める。また、濾過装置によりドープを濾過する際には、ライン切り替えバルブ8a〜8mは、いずれも閉じておく。
【0088】
濾過装置によりドープを濾過した後に、定量ポンプ5hによりドープをスタティックミキサ16に送り込むと同時に、ストックタンク9に貯蔵されている添加剤を、定量ポンプ5gによりスタティックミキサ16に送り込み、ドープへ添加剤を連続投入して添加剤投入ドープを調製し、前記添加剤液投入ドープは、流延ダイ50へ送り込まれる。このとき、流延停止バルブ7aは開けておく。また、ドープへ投入する添加剤の量は、定量ポンプ5gの制御により実施する。
【0089】
ミキシングタンク15は、内部に伝熱媒体を流すことにより温度調整されることが好ましく、温度範囲は−10℃以上55℃以下であることが好ましい。濾過装置6a〜6fは溶液に含まれる不純物を取り除くことを目的として用いられる。このとき、濾過装置6a〜6fには濾過フィルタが備えられているものとし、前記濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下のものであることが好ましい。また、濾過流量は、50リットル/時以上であることが好ましい。さらに、前記溶液は、発生した気泡を抜くための泡抜き処理が施されることが好ましい。前記泡抜き方法としては、公知のいずれの方法においても適用することができるものとし、具体的には、超音波照射法が例示される。なお、濾過する際のドープの温度は、0℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0090】
ドープと添加剤とを混合する方法として、スタティックミキサ16を用いた様態を示したが、この様態に限定されるものではなく、2種類以上の材料を投入して混合する際において、均一に攪拌混合させることができる手段であれば、特に限定はされない。ただし、混合方法の異なる複数のインラインミキサを直列に接続して、混合することがより好ましい。前記インラインミキサとしては、スタティックミキサとスルーザミキサとのうち、少なくともひとつを備えていることが好ましい。前記スタティックミキサを備えている場合には、前記スタティックミキサのエレメント数が6以上90以下であることが好ましく、6以上60以下であることがより好ましい。また、前記スタティックミキサと前記スルーザミキサとの両方を備えている場合には、前記スルーザミキサを前記スタティックミキサの上流側に設けることが好ましい。さらに、前記スルーザミキサと添加剤を添加する添加口との距離が5mm以上150mm以下であることが好ましく、5mm以上15mm以下であることがより好ましい。このとき、前記スルーザミキサを構成するエレメントの上流側端部が、前記ドープの流される配管の内側壁近傍に位置することが好ましい。
【0091】
また、ポリマーと溶媒とを混合したドープに、添加剤液と溶媒とを混合させて調製した添加剤液とを混合してドープを製造する場合には、以下の条件を満たしていることが好ましい。
(1)添加剤液の流速をV1、ドープの流速をV2としたとき、1≦V1/V2≦5で
ある。
(2) 添加剤液の添加比率が、流量比で0.1%以上50%以下である。
(3) 添加剤液の粘度をN1、前記ドープの粘度をN2としたときに、1000≦N2/N1≦100000、を満たすとともに、20℃の状態において、5000cP≦N1≦500000cP、かつ0.1cP≦N2≦100cP、を満たしている。
(4) ドープのせん断速度が、0.1(1/s)以上30(1/s)以下である。
(5) ポリマーがセルロースアシレートである。
(6) 添加剤液が、ドープの主溶媒を含んだ溶液である。
(7) 添加剤液が、ドープの主溶媒を含んだ溶液であり、かつ、ドープと異なる組成である。
(8) 添加剤液が、ドープの主溶媒を含んだ溶液であり、かつ、少なくとも1種類の紫外線吸収剤を含んでいる。
(9) 添加剤液が、ドープの主溶媒を含んだ溶液であり、かつ、少なくとも1種類の無機または有機の微粒子を分散してなる。
(10) 添加剤液が、ドープの主溶媒を含んだ溶液であり、かつ、少なくとも1種類の剥離促進剤を含んでいる。
(11) 添加剤液が、ドープの主溶媒を含んだ溶液であり、かつ、少なくとも1種類の貧溶媒を含んでいる。
【0092】
次に、溶液製膜設備10において、何らかのトラブルによってドープの流延を一時停止させる方法について、図2および図3〜図5を用いて説明する。
【0093】
通常、溶液製膜設備10においてセルロースアシレートフィルムを製造する際には、図3に示す手順を実施する。すなわち、ドープ製造設備20において、ポリマーと溶媒とを混合してドープを調製後、前記ドープに添加剤または添加剤液(以下、総称して添加剤とする)を連続的に投入し調製した添加剤投入ドープを流延ダイ50から支持体の上に流延させて、セルロースアシレートフィルムを製造する。
【0094】
ドープの流延を一時停止させる場合には、流延停止操作として図4の手順を実施する。すなわち、流延停止操作として、まず、ポリマーと溶媒とを混合して調製したドープに対する添加剤の投入を停止する。次に、全ての添加剤投入ドープが流延ダイ50に到達したことを経過時間などに基づき検出する。添加剤投入ドープが流延ダイ50から全て吐出された後に、ライン切り替えバルブ8a〜8mを操作して、流延ラインから循環ラインへとライン(配管)を切り替えて、ドープを循環させる。
【0095】
また、一時停止させた流延を再開する場合には、図5の流延再開操作手順を実施する。まず、ドープに対する添加剤の投入を再開する。次に、添加剤投入ドープが流延ダイ50の近くに到達したことを確認する。この場合には、ライン切り替えバルブ8a〜8mを操作して、循環ラインから流延ラインへとライン(配管)を切り替える。これにより、流延ダイ50からの支持体上への添加剤投入ドープの流延を再開させる。流延を停止または再開させるときに、ライン切り替えバルブ8a〜8mを操作してラインを切り替える場合には、配管の内部などに空気が入り込む心配がない。したがって、ドープと空気との気液界面が形成されないことから、ドープの表面に表面皮膜などが生成するのを抑制する効果がある。
【0096】
上記のような溶液製膜設備10における流延停止方法および再開する場合の具体例を、図2を用いて説明する。例えば、図2において、ミキシングタンク15においてポリマーと溶媒とを混合させて調製したドープを、濾過装置6b,6c,6eを用いて濾過し、スタティックミキサ16において添加剤を前記ドープに投入して調製した添加剤投入ドープを流延させる場合には、まず、ミキシングタンク15においてポリマーと添加剤とを混合してドープを調製する。次に、前記ドープを、所定の流量に調製した移送ポンプ2によりストックタンク3aに送り込む。第1濾過として、濾過装置6bを用いる。このとき、濾過装置選択バルブ4bを開けて、4aを閉じる。定量ポンプ5bにより、前記ドープは濾過装置6bに送り込まれて濾過された後、ストックタンク3bへと送り込まれる。第2濾過として、濾過装置6cを用いる。このとき、濾過装置選択バルブ5cを開けて、5dを閉じる。定量ポンプ5cにより、前記ドープは濾過装置6cに送り込まれて濾過された後、ストックタンク3cへと送り込まれる。第3濾過として、濾過装置6eを用いる。このとき、濾過装置選択バルブ4eを開けて、4fを閉じる。定量ポンプ5eにより、前記ドープは濾過装置6eに送り込まれて濾過されたのち、定量ポンプ5hにより、スタティックミキサ16に送り込まれる。このとき、前記ドープをスタティックミキサ16に送り込むのと同時に、あらかじめ、ストックタンク9に貯蔵されている添加剤を定量ポンプ5gにより連続的に投入して、添加剤投入ドープを調製する。前記添加剤投入ドープは、スタティックミキサ16の内部において、十分に攪拌混合された後、流延停止バルブ7aを開けることにより、流延ダイ50に送り込まれて、支持体の上に流延される。ドープを流延させる場合においては、ライン切り替えバルブ8a〜8mは、いずれも閉じておく。本発明において、ポリマーと溶媒と添加剤とを混合してドープを調製する際には、これらの原料を混合させるタイミングおよび方法は特に限定されるものではない。また、ストックタンクや濾過装置およびスタティックミキサなどの構成手段の個数および様態においても、特に限定はされない。
【0097】
流延を一時停止させる場合には、流延を継続させた状態で、まず、定量ポンプ5gを止めて、ストックタンク9からの添加剤の投入を停止させる。次に、ストックタンク9から添加剤が投入されたドープが流延ダイ50から、全て流延されるタイミングを添加剤投入停止からの経過時間に基づき求め、このタイミングで、ドープを流延ラインから循環ラインライン(配管)へと切り替える。このとき、流延停止バルブ7aを閉じて、ライン切り替えバルブ8lを開けるとともに、循環させたい箇所に関連するライン切り替えバルブの開閉を操作する。例えば、第3濾過の内部を循環させる場合には、ライン切り替えバルブ8lを開けるとともに、その他のライン切り替えバルブを全て閉じ、上記のように濾過装置選択バルブの開閉を操作すればよい。このように、ドープに対する添加剤の投入を停止させることによって、流延停止からの時間の経過にともなうドープ中での異物の生成を抑制することができる。したがって、前記異物により生じる様々な問題を回避することができる。また、添加剤が投入された添加剤投入ドープを流しきった後に、ドープを流延から循環させるようにライン(配管)を切り替えることにより、前記ドープを滞留させずに保持することができ、前記ドープでの異物の生成を抑制することができる。
【0098】
流延を再開させる場合には、まず、定量ポンプ5gにより、ストックタンク9からの添加剤の投入を再開する。次に、添加剤投入ドープが流延ダイ50の近くに到達したのを確認できた場合には、ライン切り替えバルブ8lを閉じるとともに、流延停止バルブ7aを開けて、循環ラインから流延ラインへとライン(配管)を切り替え、流延ダイ50から支持体の上への流延を再開させる。
【0099】
以上の方法により、セルローストリアセテート濃度が5質量%以上40質量%以下であるドープを製造することができる。なお、フィルムを製造する際に用いる溶液製膜法での、素材,原料,添加剤の溶解方法,濾過方法,脱泡,添加方法については、特願2003−319673号の[0514]から[0608]に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0100】
本発明では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる方法を用いてもよい。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとのいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0101】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特願2003−319673号の[0610]から[0842]に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用することができる。
【0102】
本発明に用いられるドープの製造方法は、特に限定されるものではない。具体的な一例を説明する。ジクロロメタンを主溶媒として、アルコール類を添加した混合溶媒を用いる。前記混合溶媒にTACおよび可塑剤などのポリマーを添加して攪拌溶解してポリマー溶液を得る。このとき、溶解する際には加温したり冷却したりすることにより溶解性を向上させることができる。また、前記ポリマー溶液と混合溶媒の一部と紫外線吸収剤とを混合し溶解させたものや、前記混合溶液と混合溶媒の一部とシリカ粒子などのマット剤とを混合して分散させたものを調製する(以下、これらの調整した溶液を添加剤液と称する)。前記添加剤液としては、目的に応じて劣化防止剤,光学異方性コントロール剤(レターデーション制御剤),染料,顔料及び剥離剤などを含むものを調製し用いてもよい。前記可塑剤においては、トリフェニルフォスフェート,ビフェニルジフェニルフォスフェートなどが例示される。
【0103】
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能及びそれらの測定法は、特願2003−319673号の[0113]から[0140]に記載されている。これらも本発明にも適用することができる。
【0104】
前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0105】
帯電防止、硬化層、反射防止、易接着、防眩の働きを示す機能層として、前記セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0106】
さらに前記セルロースアシレートフィルムは、これをベースフィルムとし、このベースフィルムに他の機能性層を付与した機能性材料に好ましく用いることできる。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層であることが好ましい。なお、特願2003−319673号の[0843]から[1079]に機能性層の付与方法が、詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0107】
前記セルロースアシレートフィルムは、特に偏光板保護フィルムとしても機能する光学補償フィルムとして有用である。セルロースアシレートフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、周知の各種配置とすることができる。特願2003−319673号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用することができる。また、同出願には光学的異方性層を付与したセルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載もある。更には、適度な光学性能を付与した二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載内容は、本発明にも適用することができる。特願2003−319673号の[1080]から[1252]に詳細が記載されている。
【0108】
また、本発明では、上述のように、ポリマーの種類に応じて、溶液製膜に代えて溶融製膜によりフィルムを製造することもある。この場合には、流延工程に代えて溶融押出工程とし、市販の各種溶融押出ダイによりポリマーを溶融してフィルム形状に押出し、押し出されたフィルムを所定の条件により冷却してフィルムを製造するとよい。長尺状に押し出されたフィルムについては、必要に応じて所定の方向に延伸してもよい。なお、押し出されたフィルムの前記冷却方法としては、自然冷却でもよいし、所定の冷却装置による冷却でもよい。
【0109】
次に、本発明の実施例を説明する。実施例1に用いた実施条件および方法について詳細に示す。また、実施例全般における実施条件および実施結果を表1に示す。下記に、フィルムを製造する際に用いたドープの原料および配合量について示す。なお、実施例1以外の実施例において、実施例1と同じ実施条件および方法についての説明は省略する。
【実施例1】
【0110】
[組成]
・セルローストリアセテート:
(置換度;2.84、粘度平均重合度;306、含水率;0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度;315mPa・s、平均粒子径;1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
・ジクロロメタン(第1溶媒) 320質量部
・メタノール(第2溶媒) 83質量部
・1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
・可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
・可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
・UV剤a:
(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール) 0.7質量部
・UV剤b:
(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール) 0.3質量部
・クエン酸エステル混合物:
(クエン酸、クエン酸モノエチルエステル、クエン酸ジエチルエステル、クエン酸トリエチルエステル混合物) 0.006質量部
・微粒子:(二酸化ケイ素;粒径15nm、モース硬度;約7) 0.05質量部
【0111】
[セルローストリアセテート]
本実施例において用いたセルローストリアセテート(以下、TACと称する)は、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が58ppm、Mg含有量が42ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、硫酸イオンが15ppm含むものであった。また、6位アセチル基の置換度は0.91であり、全アセチル中の32.5%であった。このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8質量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移点;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。本TACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたもの(以下、綿原料TACと称する)である。
【0112】
図2に示すドープ製造設備20を用いてドープ21を調製した。ドープを濾過する際には、濾過装置6b,6c,6eを用いた。まず、攪拌羽(図示しない)を有する4000Lのステンレス製のミキシングタンク15において、前記複数の溶媒を混合して調整した混合溶媒と、ポリマーとしてフレーク状粉体の綿原料TACとを、ミキシングタンク15の内部において攪拌混合してドープを調製した。なお、前記溶媒においては、含水率が0.5質量%以下のものを用い、前記綿原料TACは、ミキシングタンク15に投入後、所定の攪拌条件により30分間攪拌混合した。このとき、攪拌開始時における綿原料TACの温度は25℃であり、最終到達温度は48℃であった。さらに、所定の値に設定して100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させた。膨潤終了までには、窒素ガスによりミキシングタンク15の内部を0.12MPaになるように加圧しするとともに、酸素濃度が2vol%未満となるように、防爆上で問題のない状態を保った。膨潤状態における水分量は0.3質量%であった。
【0113】
膨潤させた前記ドープをミキシングタンク15から移送ポンプ2を用いてストックタンク3aへと送り込んだ。このとき、配管の内部においては、前記ドープを50℃まで加熱して、さらに、2MPaの加圧下において90℃まで加熱して、完全に溶媒と綿原料TACとを溶解させた。このときの加熱時間は15分であった。次に、温調機により36℃まで降温させた前記ドープを、定量ポンプ5bを用いて、公称孔径8μmの濾過フィルタを備えた濾過装置6bに送り込み、濾過した(第1濾過)。このとき、濾過装置切り替えバルブ4bを開けて、4aを閉じた。また、濾過装置6bにおける1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとし、濾過フィルタ,ハウジング,および配管は、高温下で用いることを目的として、ハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用するとともに、保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを用いた。
【0114】
第1濾過が終了したドープを、ストックタンク3bに送り込み、次に、定量ポンプ5cを用いて、公称孔径10μmの濾過フィルタを備えた濾過装置6cに送り込み、濾過した(第2濾過)。このとき、濾過装置切り替えバルブ4cを開けて、4dを閉じた。また、濾過装置6cにおける1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.0MPaとし、濾過フィルタ,ハウジング,および配管は、高温下で用いることを目的として、ハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用するとともに、保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを用いた。
【0115】
第2濾過が終了したドープを、ストックタンク3cに送り込み、次に、定量ポンプ5eを用いて、公称孔径10μmの濾過フィルタを備えた濾過装置6eに送り込み、濾過した(第3濾過)。このとき、濾過装置切り替えバルブ4eを開けて、4fを閉じた。また、濾過装置6eにおける1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.0MPaとし、濾過フィルタ,ハウジング,および配管は、高温下で用いることを目的として、ハステロイ合金製で耐食性の優れたものを利用するとともに、保温加熱用の伝熱媒体を流通させるジャケットを備えたものを用いた。
【0116】
第3濾過が終了したドープを、定量ポンプ5hを用いて、スタティックミキサ16に送り込むと同時に、ストックタンク9から定量ポンプ5gを用いて添加剤をスタティックミキサ16に送り込み、ドープに添加剤を投入して添加剤投入ドープを調製した。調製した前記添加剤投入ドープは、流延停止バルブ7aを開けて流延ダイ50へ送り、流延ダイ50から支持体の上に流延した。
【0117】
前記ドープは、80℃で常圧とされたフラッシュ装置(図示しない)の内部においてフラッシュ蒸発させて、蒸発した溶媒を凝縮器で凝縮して回収した。なお、凝縮された溶媒はドープ調製用溶媒として再利用すべく回収装置(図示しない)により回収された後に再生装置(図示しない)で再生され、ミキシングタンク15に送液した。回収装置,再生装置ではともに、蒸留や脱水などが行われるものとする。フラッシュ装置のフラッシュタンクには、攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機を設け、この攪拌機により、フラッシュされた前記ドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンクの内部における前記ドープの温度は25℃であり、平均滞留時間は50分であった。また、前記ドープを採取して25℃において測定した剪断粘度は、剪断速度が10(sec-1)で450Pa・sであった。
【0118】
図1に示す溶液製膜設備10を用いてフィルム81を製造した。リザーブタンク30の内部に貯蔵されているドープ21を高精度ギアポンプ43により濾過装置44へ送った。高精度ギアポンプ43は、1次側を増圧する機能を有しており、1次側の圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターにより高精度ギアポンプ43の上流側に対するフィードバック制御を実施しながら送液した。高精度ギアポンプ43は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能である。また、その吐出圧力は1.5MPaであった。次に、濾過装置44により濾過したドープ21を流延ダイ50に送液した。
【0119】
流延ダイ50は、幅が1.8mであり乾燥された後のフィルム81の膜厚が80μmとなるように、ダイ50の吐出口におけるドープ36の流量を調整して流延を行った。この際、ダイ50の吐出口からのドープ36の流延幅を1700mmとした。流延側端部20mmを除いたフィルム81においては、50mm離れた任意の2点における厚みの差が1μm以内であり、幅方向に対する厚みのばらつきが3μm/m以下となるように調整した。また、全体の厚みは±1.5%以下になるように調整した。さらに、流延ダイ50の1次側には、この部分を減圧するための減圧チャンバ60を設け、減圧度が、流延ダイ50から流出されて流延開始位置PSに達するまでの流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差となるように調整した。
【0120】
流延ダイ50の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃-1)以下の2層ステンレス鋼であり、流延ダイ50の接液面の仕上げ精度が表面粗さRyで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整されており、くわえて、流延ダイ50のリップ先端の接液部における角部分については、Rがスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。流延ダイ50の内部での剪断速度は、1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲とし、流延ダイ50のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイド)コーティングをおこない硬化膜を設けた。さらに、流延ダイ50の吐出口には、流出するドープ21が局所的に乾燥固化することを防止することを目的として、ドープ21を可溶化する溶媒を流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、それぞれ0.5ml/分ずつの割合により供給した。前記溶媒を供給するポンプの脈動率は5%以下とした。また、減圧チャンバ60により、ビード背面側の圧力を前面部より150Pa低くなるようにした。減圧チャンバ60の内部温度を所定の温度で一定にするためのジャケット(図示しない)の内部には35℃に調整された伝熱媒体を供給して、温度を保持した。
【0121】
支持体として、幅2.1m,長さ70mのステンレス製(SUS316製)であり、厚みが1.5mm(厚みムラは0.5%以下),表面粗さRyが0.05μm以下になるように研磨した、十分な耐腐食性と強度を有するエンドレスバンド53を用いて、流延バンド53の上に流延ダイ50からドープ36を流延した。流延バンド53は、2個のバックアップローラ51,52により搬送させ、その際の流延バンド53の搬送方向における張力は1.5×105 N/m2 となるように、流延バンド53とバックアップローラ51,52との相対速度差を0.01m/分以下として調整した。また、流延バンド53の速度変動は0.5%以下であった。さらに、バックアップローラ51,52がともに一回転する際の幅方向の蛇行が1.5mm以下に制限されるように流延バンド53の両端位置を検出して制御するとともに、流延ダイ50の直下における流延ダイ50のリップ先端と流延バンド53との上下方向における位置変動は200μm以下にした。なお、流延バンド53は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室(図示しない)の内部に備えた。
【0122】
バックアップローラ51,52としては、流延バンド53の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用い、流延ダイ50側のバックアップローラ51には5℃の伝熱媒体を流し、バックアップローラ52には、乾燥することを目的として40℃の伝熱媒体を流した。ドープ21を流延させる直前の流延バンド53の中央部における表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド53としては、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールがなく、10μm以上30μm以下のピンホールが1m2あたり1個以下であり、10μm未満のピンホールが1m2あたり2個以下であるものを用いた。
【0123】
流延室55の温度は、温調設備57により35℃に保った。流延バンド53の上に流延されたドープ21から形成された流延膜56には、給気ダクト61により乾燥風を送風した。なお、排気ダクト62により、排気を実施するとともに、ガイド板(図示しない)により風の流れを制御した。また、流延バンド53の下部には、65℃となるように送風機(図示しない)により乾燥風送風した。前記いずれの乾燥風の飽和温度は−8℃付近であった。流延バンド53の上において、乾燥雰囲気における酸素濃度を5vol%に保持した。なお、前記酸素濃度を5vol%に保持することを目的として、空気を窒素ガスにより置換した。さらに、流延室55の内部の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度を−10℃に設定した。
【0124】
なお、流延開始点PSから5秒間の流延時間では空気の流れが直接ドープ21および流延膜56に当たらないようにすることを目的として、遮風板(図示しない)を設け、流延ダイ50直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜56中の溶媒比率が乾量基準で50質量%になった時点で流延バンド53から剥取ローラ65で支持しながらフィルム81として剥ぎ取った。なお、前記乾量基準による溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム重量をxとし、サンプリングフィルムを乾燥させた後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で求められる値である。このとき、剥取張力は1×102 N/m2 であり、剥取不良を抑制するために流延バンド53の速度に対する剥取速度(剥取ローラドロー)を100.1%以上110%以下の範囲において適宜調整した。剥ぎ取ったフィルムの表面温度は15℃であった。流延バンド53の上における乾燥速度は、平均60質量%乾量基準溶媒/分であった。乾燥により発生した溶媒ガスは−10℃のコンデンサ58により凝縮液化して回収装置59により回収した。回収された溶媒は、水分量が0.5%以下となるように調整した。溶媒が除去された乾燥風は再度加熱され乾燥風として再利用される。次に、フィルム81を、複数のローラを配する渡り部70を搬送させた後に、テンター80に送り込んだ。この際、フィルム81に対して送風機(図示しない)から40℃の乾燥風を送風した。なお、渡り部70において複数のローラにより搬送している際には、湿潤フィルム66に対して所定の張力を付与した。
【0125】
テンター80に送られたフィルム81は、その両側端部をクリップにより固定してテンター80の乾燥ゾーン内部を搬送して、乾燥風を吹き付けることにより乾燥させた後、テンター80の出口から30秒以内の間にフィルム81の耳切りを耳切装置82により実施した。前記クリップは、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。テンター80におけるクリップの搬送はチェーンを用いて行ない、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下とした。前記乾燥風のガス組成は−10℃における飽和ガス濃度とし、テンター80の内部における平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶媒)/分とした。また、テンター80の出口におけるフィルム81の残留溶媒量が7質量%となるように、乾燥ゾーンの条件を調整した。テンター80の内部においては、フィルム81を搬送しながら幅方向における延伸も行った。なお、延伸前のフィルム81の幅を100%としたとき、延伸後の幅が103%となるようにするとともに、剥取ローラ65からテンター80の入口に至るまでの延伸率(テンター駆動ドロー)は102%とし、さらに、テンター80の入口から出口までの長さに対するクリップ狭持開始位置から狭持解除位置までの長さの割合は90%とした。テンター80の内部で蒸発した溶媒は−10℃の温度で凝縮させた後に回収した。この際、凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。そして凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5質量%以下に調整して再利用した。
【0126】
フィルム81を複数のローラ84を有する乾燥室85の内部において高温乾燥した。乾燥室85は4区画に分割し、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)により送風した。フィルム81に対してローラ84により搬送張力を付与し、最終的に残留溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。ローラ84におけるラップ角(フィルムの巻きかけ中心角)は、90°および180°とした。ローラ84の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製とし、表面にはハードクロムめっきを施したものであり、表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。また、ローラ84の回転によるフィルム位置の振れはいずれも50μm以下とし、所定の値の張力条件下でのローラ撓みが0.5mm以下となるように選定した。
【0127】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着剤を活性炭とする吸着回収装置86により吸着回収除去した。脱着に関しては、乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれることから、これらを冷却器およびプレアドソーバーにより冷却除去して再生循環した後再利用した。ここでは、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)が10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうちで、凝縮法により回収する溶媒量は90質量%とし、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
【0128】
乾燥後、フィルム81を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室85と前記第1調湿室との間には、110℃の乾燥風を送風した。前記第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を送風した。さらに、フィルム81のカールの発生を抑制することを目的として、第2調湿室(図示しない)にフィルム81を搬送した。前記第2調湿室では、フィルム81に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0129】
調湿後のフィルム81は、冷却室で30℃以下に冷却した後に、第2耳切装置(図示しない)により耳切りを実施した。搬送中のフィルム81の帯電圧は、常時−3kV以上+3kV以下の範囲となるように強制除電装置(除電バー)を設けた。さらに、フィルム81の両端にナーリング付与ローラでナーリングを付与した。ナーリングはフィルム81の片面側からエンボス加工により付与し、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフィルム81の平均厚みよりも平均12μm高くなるように前記ナーリング付与ローラの押し圧を設定した。
【0130】
そして、フィルム81を巻取り室90に搬送した。巻取り室90は、装置内温度28℃,湿度70%に保持されている。さらに、巻取り室90の内部にはフィルム81の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。このようにして得られたフィルム81の製品の幅は、1475mmであり、全長は3940mであった。このとき、巻取り室90の巻取りローラの径は169mmとし、巻始めと巻き終わりとの各張力が所定の値となるように制御した。また、巻取りの際の巻きズレの変動幅(オシレート幅と称することもある。)を±5mmとし、その巻き軸に対する巻きズレ周期を400mとした。さらに、巻取り軸に対するプレスローラを押し圧については所定の値となるように設定した。巻取り時のフィルム81の温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。全工程を通しても平均乾燥速度は20質量%(乾量基準溶媒)/分であった。このとき、巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかったとともに、フィルムロールの外観も良好であった。
【0131】
実施例1においては、ドープの流延を一時停止させた後に、流延を再開させる際に、図4および図5の流延停止・再開操作を用いてフィルムを製造した。
【実施例2】
【0132】
実施例1と同様の溶液製膜設備により、同じ実施条件を用いてフィルムを製造した。ただし、実施例2においては、ドープの流延を一時停止させた後に、流延を再開させる際に、図4および図5の流延停止・再開操作を用いずに、流延を停止させた後に再開させる場合には、流延停止バルブ7aの開閉のみを操作した。
【0133】
〔評価と結果〕
実施例1および実施例2においてフィルムを製造した際の、ドープ中における異物の有無、また、フィルム製品における異物の有無をそれぞれ測定し、評価した。実施条件および評価結果について表1に示す。
【0134】
〔ドープ中の異物の有無〕
流延を一時停止させた後に、添加剤投入ドープを所定量採取して、目視により異物の生成を確認した。このとき、異物の存在が確認できたものを○、異物の存在が確認できなかったもの、または、フィルムを製造する際において支障をきたす異物の量ではないものを×として評価した。
【0135】
〔フィルム中の異物の有無〕
実施例1および実施例2において製造したフィルムを、幅×1.5mの大きさに切り出したものをサンプルとして、前記サンプルに角度を変えながら光を当てて、フィルム中の異物の有無を目視にて観察し、異物の存在が確認できたものを○、確認できなかったものを×として評価した。
【0136】
【表1】

【0137】
実施例1においては、溶液製膜設備において流延を一時停止させる際に、ドープへの添加剤の投入を停止させた後、添加剤投入ドープを流し切り、流しきったのを確認した後に、ドープを流延から循環させるようにライン(配管)を切り替える操作を実施した。その結果、流延停止から時間が経過しても、ドープ中での異物の生成をほとんど確認することができなかった(×)。また、前記ドープを用いて製造したフィルムにおいても、同様に異物の存在を確認することはできなかった(×)。一方で、実施例2においては、溶液製膜設備において流延を一時停止させる際に、添加剤の投入を停止させず、また、ドープを流延から循環させるようにライン(配管)を切り替えない操作を実施した。その結果、ドープおよびフィルムの中に、それぞれ異物の存在を確認した(○)。したがって、溶液製膜設備において流延を一時停止させる場合には、まず、ドープへの添加剤の投入を停止させ、添加剤投入ドープを流しきり、流しきったことを確認後に、ドープを流延から循環させるようにライン(配管)を切り替える操作を実施した場合において、ドープ中の異物の生成を抑制することができ、結果として、生産性を低下させることなく、かつ光学特性に優れたフィルムを製造することができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明における溶液製膜設備の概略図である。
【図2】ドープ製造設備の概略図である。
【図3】溶液製膜設備における通常の流延操作の手順である。
【図4】溶液製膜設備における流延停止操作の手順である。
【図5】溶液製膜設備における流延再開操作の手順である。
【符号の説明】
【0139】
10 溶液製膜設備
20 ドープ製造設備
50 流延ダイ
4a〜4f 濾過装置選択バルブ
5a〜5g 定量ポンプ
6a〜6f 濾過装置
8a〜8m ライン切り替えバルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とが混合されたドープを濾過装置により濾過した後に、インラインミキサにより添加剤を添加して、このドープを連続走行する支持体に流延してフィルムを製造する溶液製膜設備において、
前記流延を一時停止するときに、前記インラインミキサによる添加剤の添加を停止し、この添加剤の添加が停止されたドープが流延された後に、前記インラインミキサの出口からのドープを前記濾過装置よりも上流に還流し循環させることを特徴とする溶液製膜設備の流延停止方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−88583(P2006−88583A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278308(P2004−278308)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】