説明

溶湯の供給方法及びその装置

【課題】構成を簡単として給湯量を高精度に制御することができる溶湯の供給方法及びその装置を提供する。
【解決手段】先ず、開閉弁12により給湯管8を閉塞する。次いで、給湯空間24を減圧する。次いで、給湯空間24が第1の圧力値に減少したとき、減圧を停止し給湯空間24を減圧状態に保持する。目標給湯量と給湯空間24の容積と第1の圧力値との関係に基づいて、目標給湯量となったときの給湯空間24の圧力である第2の圧力値を算出する。 給湯空間24を減圧状態に保持して開閉弁12を開弁し、減圧状態の射出スリーブ5に保持炉7の溶湯6を装填する。その後、給湯空間24の容積の減少に伴って給湯空間24が第2の圧力値に復帰したとき、開閉弁12を閉弁して射出スリーブ5への溶湯6の装填を停止させる。そして、射出スリーブ5に装填された溶湯6を金型キャビティ4に射出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型キャビティに金属溶湯を供給する溶湯の供給方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空ダイカスト装置において、保持炉に収容された金属溶湯を給湯管から吸引して射出スリーブに装填した後、射出スリーブのプランジャを前進させて金型キャビティに溶湯を射出するものが知られている(特許文献1参照)。金型キャビティは、真空ポンプ等の減圧手段が真空引きすることにより減圧される。これに伴って、金型キャビティに連通する射出スリーブ内も減圧され、このときの吸引力により保持炉内の金属溶湯が給湯管を介して射出スリーブ内に吸引される。
【0003】
射出スリーブ内に吸引される溶湯の量は、減圧手段による吸引時間により制御することが可能であるが、金型キャビティの容積に対応して過不足なく射出スリーブに供給することが望まれる。そこで、保持炉内の溶湯の湯面高さを測定するレベルセンサ、保持炉内の溶湯の重量を測定する重量センサ、及び、保持炉内の溶湯の温度を検出する温度センサを設けて、射出スリーブへの給湯量の精度向上を図っている。
【0004】
即ち、射出スリーブへの溶湯の供給により減少した保持炉内の溶湯の変化量を、レベルセンサや重量センサにより検出し、このとき検出された変化量から射出スリーブへの溶湯の供給量を把握する。また、保持炉内の溶湯の温度から溶湯の粘度を求め、溶湯の粘度を減圧手段の吸引時間に反映させて、射出スリーブへの給湯量を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−79654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、減圧手段の吸引時間により射出スリーブへの給湯量を制御すると、大気圧の影響や減圧手段の吸引力の変動等により、所望する給湯量とならないおそれがある。また、前記レベルセンサや重量センサを設けても、金型キャビティの容積が比較的小さい場合には、給湯に伴う湯面位置や重量の変化量も小さいためにこれらを検出するのが困難となる。更に、前記温度センサを設け、溶湯の温度から粘度を求めて減圧手段の吸引時間の精度を向上させようとしても、保持炉内の溶湯は位置により温度差が生じるだけでなく、溶湯の材料(成分等)により温度と粘度との関係が異なるため、正確な粘度を把握することができないおそれがある。
【0007】
このように、従来のものでは、複数のセンサを設けることにより制御が煩雑となるだけでなく、複数のセンサを用いても十分な精度が得られないために、高精度な給湯量の制御を行うことができない不都合がある。
【0008】
上記の点に鑑み、本発明は、構成を簡単として給湯量を高精度に制御することができる溶湯の供給方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は、金型キャビティに金属溶湯を供給する溶湯の供給方法であって、金型キャビティに連通する射出スリーブに下流端が接続され上流端が溶湯を収容する保持炉の溶湯内に没入された給湯管を、該給湯管の上流端に設けた開閉弁を閉弁することにより該給湯管を閉塞する閉塞工程と、前記給湯管を閉塞した状態で、前記キャビティ及び前記射出スリーブで形成される給湯空間を減圧する減圧工程と、前記減圧工程によって前記給湯空間が予め設定された第1の圧力値に減少したとき、減圧を停止して該給湯空間を減圧状態に保持する減圧停止工程と、予め設定された目標給湯量と前記給湯空間の容積と前記第1の圧力値との関係に基づいて、目標給湯量となったときの前記給湯空間の圧力である第2の圧力値を算出する算出工程と、前記給湯空間を減圧状態に保持して前記給湯管の開閉弁を開弁し、減圧状態の前記射出スリーブ内に前記保持炉の溶湯を装填する溶湯装填工程と、該溶湯装填工程による前記給湯空間の容積の減少に伴って該給湯空間が前記算出工程により算出された第2の圧力値に復帰したとき、前記給湯管の開閉弁を閉弁して前記射出スリーブ内への溶湯の装填を停止させる装填停止工程と、前記射出スリーブに装填された溶湯を金型キャビティに射出する射出工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の方法によれば、前記給湯管の上流端の前記開閉弁を閉弁させ(閉塞工程)、次いで、前記給湯空間を減圧する(減圧工程)。給湯管が閉塞した状態で給湯空間が減圧されるので、射出スリーブへの溶湯の吸引は行われず、射出スリーブ内が負圧となる。そして、給湯空間が第1の圧力値に減少したとき、給湯空間の減圧を停止させる(減圧停止工程)。これにより、射出スリーブの内圧が第1の圧力値に維持される。
【0011】
次いで、給湯管の上流端の開閉弁を開弁させる。このとき、射出スリーブ内が負圧となっていることにより、保持炉内の溶湯が給湯管を介して射出スリーブ内に吸い上げられる(溶湯装填工程)。このときの溶湯の吸引は、例えば真空ポンプ等の減圧手段から発生する吸引力によって直接吸引されているものではない。従って、溶湯を吸い上げるときの射出スリーブ内の圧力には、大気圧や減圧手段の吸引力の変動等による影響はなく、溶湯は安定して射出スリーブ内に吸い上げられる。
【0012】
射出スリーブ内に溶湯が装填されると、射出スリーブを含む給湯空間が次第に狭くなる。即ち、射出スリーブに供給された溶湯の量が増加するのに対し、給湯空間の容積が減少する。そして、給湯空間の容積が減少するに伴い給湯空間の圧力が次第に復帰するので、給湯空間は第1の圧力値よりも増加方向に変化する。
【0013】
その後、給湯空間が第2の圧力値に増加(復帰)したとき、給湯管の開閉弁を閉弁させる。これにより、射出スリーブ内への溶湯の供給が停止され、射出スリーブへの溶湯の装填が完了する(装填停止工程)。
【0014】
第2の圧力値は前記算出工程により算出されたものである。前記算出工程により算出された第2の圧力値は、給湯空間(射出スリーブ内)への目標給湯量に対応している。即ち、内圧が第1の圧力値と等しい給湯空間に、給湯空間の内圧(負圧)によって給湯空間に溶湯が吸引されると、溶湯の量に対応して給湯空間の内圧が増加(復帰)する。これに基づき、目標給湯量となったときの給湯空間における圧力値を第2の圧力値として算出することができる。そして、給湯空間が第2の圧力値に復帰したとき、射出スリーブ内の溶湯が目標給湯量に達したとみなし給湯空間への溶湯の供給を停止させる。こうすることにより、射出スリーブに装填される溶湯の量を、金型キャビティへの目標給湯量に精度良く合致させることができる。
【0015】
以上のように本発明によれば、給湯空間の内圧に基づいて金型キャビティへの精度良く溶湯の供給量を制御することができる。
【0016】
また、本発明の方法においては、前記閉塞工程に先立ち、前記給湯空間を大気開放状態として前記給湯管の開閉弁を開弁することにより給湯管を開放し、保持炉内の溶湯の湯面高さと給湯管内の溶湯の湯面高さとを一致させる給湯管開放工程と、保持炉内の溶湯の湯面高さと給湯管内の溶湯の湯面高さとを一致させた状態で保持炉内の溶湯の湯面高さを測定する湯面測定工程とを設け、前記算出工程においては、前記湯面測定工程により測定された保持炉内の溶湯の湯面高さに基づいて前記給湯空間の容積を補正する補正工程を設けることが好ましい。
【0017】
前記補正工程を設けることにより、給湯管の内部空間を前記給湯空間に加えて前記算出工程で用いる給湯空間の容積を補正することができ、射出スリーブへの溶湯の供給精度を一層向上させることができる。
【0018】
また、本発明は、内部に装填された金属溶湯をプランジャの前進により金型キャビティに射出する射出スリーブと、該射出スリーブに供給する溶湯を収容する保持炉と、該保持炉の溶湯内に上流端が没入され下流端が前記射出スリーブに接続された給湯管と、前記キャビティ及び前記射出スリーブにより形成される給湯空間を減圧する減圧手段とを備える溶湯の供給装置において、前記給湯管の上流端を開閉する開閉弁と、前記給湯空間の圧力を測定する圧力測定手段と、前記開閉弁を閉弁させた状態で前記減圧手段により前記給湯空間を減圧させ、前記圧力測定手段による測定圧力が予め設定された第1の圧力値に減少したとき前記減圧手段による前記給湯空間の減圧を停止させる減圧制御手段と、予め設定された目標給湯量と前記給湯空間の容積と前記第1の圧力値との関係に基づいて目標給湯量となったときの前記給湯空間の圧力である第2の圧力値を算出する算出手段と、前記減圧制御手段により前記給湯空間が第1の圧力値となった状態で減圧が停止された後、前記開閉弁を開弁させ、該第1の圧力値から前記第2の圧力値に復帰したとき前記開閉弁を閉弁させる給湯制御手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の装置は、前記開閉弁を備えることにより給湯管を所望のタイミングで開閉することができるようになっている。更に、本発明の装置は、前記圧力測定手段を備えることにより、給湯空間の圧力変化を正確に把握できるようになっている。
【0020】
そして、本発明の装置においては、先ず、前記減圧制御手段により前記開閉弁と前記減圧手段とを制御して前記給湯空間を第1の圧力値に減少させる。これにより前記給湯空間が負圧とされる。次いで、前記給湯制御手段により前記開閉弁を制御して前記給湯空間が第2の圧力値に復帰するまで溶湯を供給する。このときの溶湯の供給は、前記給湯空間が負圧とされていることによる吸引力により行われる。
【0021】
前記給湯制御手段が用いる第2の圧力値は、予め設定された目標給湯量と前記給湯空間の容積と前記第1の圧力値との関係に基づいて前記算出手段により算出された値である。従って、第2の圧力値は、給湯空間(射出スリーブ内)への目標給湯量に対応しており、第2の圧力値に基づいて給湯制御手段が射出スリーブ内への給湯を制御するので、射出スリーブに装填される溶湯の量を、金型キャビティへの目標給湯量に精度良く合致させることができる。
【0022】
また、本発明の装置においては、前記保持炉の溶湯の湯面高さを測定する湯面測定手段と、該湯面測定手段により測定された保持炉内の溶湯の湯面高さに基づいて前記算出手段が用いる前記給湯空間の容積を補正する補正手段とを備えることが好ましい。
【0023】
前記補正手段を設けることにより、給湯管の内部空間を前記給湯空間に加えて前記算出手段が第2の圧力値を算出する際に用いる給湯空間の容積を補正することができ、射出スリーブに対する給湯精度を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態の概略構成を示す断面説明図。
【図2】本実施形態における溶湯の供給方法を示すフローチャート。
【図3】給湯空間の圧力変化を示す線図。
【図4】本実施形態の溶湯の供給動作を示す説明図。
【図5】金型の要部を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の溶湯の供給装置は、金属製品を鋳造するダイカスト装置の一部として設けられている。
【0026】
図1に示すように、ダイカスト装置は、金型1を構成する固定型2と可動型3とを備えている。可動型3は、固定型2から離反可能に設けられており、図示しない駆動装置により固定型2に圧接される。互いに圧接された状態の可動型3と固定型2との内部には、製品形状に対応する成形面を内壁とするキャビティ4が形成される。キャビティ4は、可動型3が固定型2から離反することにより開放される。キャビティ4の開放は、主に製品を取り外す際に行われる。
【0027】
供給装置は、固定型2に取り付けられた射出スリーブ5と、射出スリーブ5の下方で金属溶湯6を収容する保持炉7と、一端(下流端)が射出スリーブ5に接続され、他端(上流端)が保持炉7の溶湯6に没入する給湯管8と、コントローラ9とを備えている。
【0028】
射出スリーブ5は、その先端がキャビティ4に連通し、長手方向に前後進するプランジャ10を備えている。プランジャ10は図示しない駆動装置により駆動されて前後進動作が行われる。
【0029】
保持炉7には、内部に収容された溶湯6の湯面高さを検出するレベルセンサ11(湯面測定手段)が設けられている。レベルセンサ11は、コントローラ9に電気的に接続され、コントローラ9に対して湯面高さを示す検出信号を出力する。
【0030】
給湯管8には、給湯制御弁12(開閉弁)が設けられている。給湯制御弁12は、給湯管8の上流端に形成された開口13を開閉する弁体14と、弁体14を支持する支持アーム15と、支持アーム15を介して弁体14を移動させることにより開口13を開閉する弁移動手段16とを備えている。弁移動手段16は、コントローラ9に電気的に接続され、コントローラ9からの指示信号に従い弁体14による給湯管8の開閉を行う。
【0031】
一方、キャビティ4には、吸気管17を介して図示しない真空ポンプ(減圧手段)が接続されている。真空ポンプは、キャビティ4を真空引きして減圧する。また、キャビティ4と真空ポンプとの間の吸気管17には電磁式の減圧制御弁18が設けられている。減圧制御弁18は、コントローラ9に電気的に接続され、コントローラ9からの指示信号に従い吸気管17の開閉を行う。減圧制御弁18が開弁しているときキャビティ4が減圧され、減圧制御弁18が閉弁すると、キャビティ4の減圧が停止される。
【0032】
更に、キャビティ4と減圧制御弁18との間には、キャビティ4の内圧を測定する圧力センサ19(圧力測定手段)が設けられている。圧力センサ19は、コントローラ9に電気的に接続され、コントローラ9に対してキャビティ4の内圧を示す検出信号を出力する。
【0033】
コントローラ9は、コンピュータ等の電子回路により構成されており、キャビティ4の減圧を制御する減圧制御手段20と、減圧制御手段が用いる圧力値を算出する算出手段21と、給湯制御弁12の動作により射出スリーブ5内への溶湯6の供給を制御する給湯制御手段22と、算出手段21が用いる容積を補正する補正手段23とを機能的に備えている。
【0034】
次に、コントローラ9の制御による供給装置の給湯動作を説明する。なお、以下の説明においては、キャビティ4が形成する空間、射出スリーブ5の内部の空間、及び給湯管8の内部の空間を合わせた空間を給湯空間24という。
【0035】
図2を参照して、先ず、コントローラ9はSTEP1で供給装置を待機状態とする。この間に、固定型2から可動型3を離間させて前回成形された製品の離型、キャビティ4内面への離型剤の塗布、固定型2への可動型3の圧接等が行われる。このとき、図3に示すように、圧力センサ19により測定される給湯空間24の圧力は大気圧になっている。
【0036】
待機状態で行われる所定の作業が終了すると、図2に示すように、コントローラ9は、その減圧制御手段20により、STEP2に進んで給湯制御弁12を閉弁させ(閉塞工程)、更にSTEP3に進んで給湯空間24の減圧を開始させる(減圧工程)。これにより、図4(a)に示すように、給湯制御弁12の弁移動手段16の駆動により弁体14が給湯管8の開口13を閉塞し、減圧制御弁18が開弁する。このとき、図3に示すように、圧力センサ19により測定される給湯空間24の圧力は次第に低下するが、給湯制御弁12の閉弁によって給湯空間24への溶湯6の流入は生じない。
【0037】
次いで、図2に示すように、コントローラ9はSTEP4に進み、減圧制御手段20を介して、圧力センサ19により測定される給湯空間24の圧力が、予め設定されている第1の圧力値Pになるまで給湯空間24を減圧させる。そして、減圧制御手段20は、圧力センサ19による測定圧力が第1の圧力値PになったところでSTEP5に進み、減圧制御弁18を閉弁させて減圧を停止する(減圧停止工程)。これにより、図3に示すように、給湯空間24は大気圧よりも極度に低い負圧状態とされる。
【0038】
続いて、図2に示すように、コントローラ9はSTEP6に進んで給湯制御手段22を介して給湯制御弁12を開弁させ、更にSTEP7に進んで、圧力センサ19により測定される給湯空間24の圧力が後述する第2の圧力値Pになるまで、給湯制御弁12の開弁を維持する(溶湯装填工程)。
【0039】
図4(b)に示すように、給湯制御弁12が開弁することによって、保持炉7の溶湯6が給湯管8を経て射出スリーブ5内に吸い上げられる。そして、射出スリーブ5内に溶湯6が流入するに伴い、給湯空間24が狭くなると共に、図3に示すように、給湯空間24の内圧が上昇する。
【0040】
その後、コントローラ9の給湯制御手段22は、図2に示すように、STEP7において圧力センサ19による測定圧力が第2の圧力値PになったところでSTEP8に進み、給湯制御弁12を閉弁させて射出スリーブ5内への溶湯6の流入を停止させる(装填停止工程)。これにより、給湯空間24の一部を構成している射出スリーブ5には、第2の圧力値Pに対応するだけの量の溶湯6が装填される。
【0041】
こうして射出スリーブ5に溶湯6が装填されると、コントローラ9は、STEP9に進み、射出スリーブ5のプランジャ10を前進させ、射出スリーブ5内に装填された溶湯6をキャビティ4に射出する。このとき、コントローラ9は、再度減圧制御弁18を開弁させてキャビティ4の真空引きを行い、溶湯6と大気との接触を防止し、溶湯6の酸化やガスの巻き込みを抑制して製品の鋳造を行う。
【0042】
そして、STEP9における射出動作が終了したとき、コントローラ9はSTEP1へ戻り、供給装置を待機させる。この待機状態において、製品の離型作業や射出スリーブ5のプランジャ10の後退等が行われ、次回の鋳造のための準備が行われる。
【0043】
ここで、第2の圧力値Pについて説明する。第2の圧力値Pは、図1に示すように、コントローラ9が備える算出手段21により算出されたものである。算出手段21においては、予め第1の圧力値P及び目標給湯量Vmが設定されている。目標給湯量Vmは、前述の溶湯装填工程において射出スリーブ5に装填すべき溶湯6の量であり、これは即ちキャビティ4の容積に対応する溶湯6の量である。
【0044】
一方、給湯空間24に溶湯6が供給されると、溶湯6が供給前の給湯空間24の容積Vcaviが減少する。容積Vcaviにおいてその内圧が第1の圧力値Pであるとき、目標給湯量Vmの溶湯6が給湯空間24に供給されると、給湯空間24の残り容積はVcavi−Vmとなり、同時に給湯空間24の内圧は、第1の圧力値Pより増加する方向に復帰して第2の圧力値Pとなる。即ち、目標給湯量Vmと第2の圧力値Pとは式(1)に示す関係を満たしている。

【0045】
コントローラ9の算出手段21は、式(1)に基づいて第2の圧力値Pを算出し(算出工程)、第2の圧力値Pを用いて前述した給湯制御手段22による制御を行う。これによれば、圧力センサ19の測定圧力(溶湯6の供給に伴う給湯空間24の復帰圧力)に基づいて目標給湯量Vmに対応する量の溶湯6を射出スリーブ5に対して高精度に装填することができる。しかも、溶湯6の供給に伴う給湯空間24の復帰圧力は給湯空間24の容積の変化に対応しており、この容積の変化は溶湯6の種類(成分)によって異なるものではないので、溶湯6の種類(成分)によらず高精度な給湯制御が行える。
【0046】
なお、本実施形態においては、コントローラ9が補正手段23を備えることにより、算出手段21が第2の圧力値Pを算出する際に用いる給湯空間24の容積を補正することができる。
【0047】
即ち、溶湯装填工程を行った後には、図4(b)に示すように、保持炉7の溶湯6が射出スリーブ5に供給されることにより保持炉7の溶湯6の湯面が低下する。そこで、コントローラ9は、図2におけるSTEP1の待機中に、先ず、レベルセンサ11により湯面高さを測定する。このとき、製品の離型作業等によりキャビティ4が開放されることにより、給湯管8の内部が大気圧となり、保持炉7の溶湯6の湯面と給湯管8の内部の湯面とが同一位置となる。次いで、コントローラ9は、補正手段23により、レベルセンサ11から得た湯面高さ(給湯管8の内部の湯面高さ)に基づき、給湯管8内の溶湯6を除く空間の容積とキャビティ4の容積と射出スリーブ5の容積とを加算して給湯空間24の容積(補正容積)を求める。そして、補正手段23は、算出した補正容積を算出手段21に渡し、算出手段21は補正容積を用いて第2の圧力値Pを算出する。こうすることにより、算出手段21が算出する圧力値に対する保持炉7の溶湯6の湯面変化の影響を排除することができ、一層精度の高い給湯制御を行うことができる。
【0048】
なお、図示しないが、例えば、保持炉7が昇降装置を備えており、溶湯6の湯面低下に応じて昇降装置が保持炉7を上昇させることにより溶湯6の湯面が一定に保たれる場合には、補正手段23を設けなくてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、キャビティ4から吸気管17への溶湯の侵入を防止するため、図5(a)に示すシャットオフバルブ25、或いは、図5(b)に示すチルベント26等の溶湯侵入防止手段を設けておくことが好ましい。溶湯侵入防止手段として図5(a)に示すシャットオフバルブ25を採用した場合には、給湯動作の際に、図2におけるSTEP1の待機中にシャットオフバルブ25を開き、STEP9の射出前にシャットオフバルブ25を閉じることで、吸気管17への溶湯の侵入を確実に防止することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…金型、4…キャビティ、5…射出スリーブ、6…溶湯、7…保持炉、8…給湯管、10…プランジャ、11…レベルセンサ(湯面測定手段)、12…給湯制御弁(開閉弁)、19…圧力センサ(圧力測定手段)、20…減圧制御手段、21…算出手段、22…給湯制御手段、23…補正手段、24…給湯空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型キャビティに金属溶湯を供給する溶湯の供給方法であって、
金型キャビティに連通する射出スリーブに下流端が接続され上流端が溶湯を収容する保持炉の溶湯内に没入された給湯管を、該給湯管の上流端に設けた開閉弁を閉弁することにより該給湯管を閉塞する閉塞工程と、
前記給湯管を閉塞した状態で、前記キャビティ及び前記射出スリーブで形成される給湯空間を減圧する減圧工程と、
前記減圧工程によって前記給湯空間が予め設定された第1の圧力値に減少したとき、減圧を停止して該給湯空間を減圧状態に保持する減圧停止工程と、
予め設定された目標給湯量と前記給湯空間の容積と前記第1の圧力値との関係に基づいて、目標給湯量となったときの前記給湯空間の圧力である第2の圧力値を算出する算出工程と、
前記給湯空間を減圧状態に保持して前記給湯管の開閉弁を開弁し、減圧状態の前記射出スリーブ内に前記保持炉の溶湯を装填する溶湯装填工程と、
該溶湯装填工程による前記給湯空間の容積の減少に伴って該給湯空間が前記算出工程により算出された第2の圧力値に復帰したとき、前記給湯管の開閉弁を閉弁して前記射出スリーブ内への溶湯の装填を停止させる装填停止工程と、
前記射出スリーブに装填された溶湯を金型キャビティに射出する射出工程とを備えることを特徴とする溶湯の供給方法。
【請求項2】
前記閉塞工程に先立ち、前記給湯空間を大気開放状態として前記給湯管の開閉弁を開弁することにより給湯管を開放し、保持炉内の溶湯の湯面高さと給湯管内の溶湯の湯面高さとを一致させる給湯管開放工程と、保持炉内の溶湯の湯面高さと給湯管内の溶湯の湯面高さとを一致させた状態で保持炉内の溶湯の湯面高さを測定する湯面測定工程とを設け、
前記算出工程においては、前記湯面測定工程により測定された保持炉内の溶湯の湯面高さに基づいて前記給湯空間の容積を補正する補正工程を設けたことを特徴とする請求項1記載の溶湯の供給方法。
【請求項3】
内部に装填された金属溶湯をプランジャの前進により金型キャビティに射出する射出スリーブと、該射出スリーブに装填する溶湯を収容する保持炉と、該保持炉の溶湯内に上流端が没入され下流端が前記射出スリーブに接続された給湯管と、前記キャビティ及び前記射出スリーブにより形成される給湯空間を減圧する減圧手段とを備える溶湯の供給装置において、
前記給湯管の上流端を開閉する開閉弁と、
前記給湯空間の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記開閉弁を閉弁させた状態で前記減圧手段により前記給湯空間を減圧させ、前記圧力測定手段による測定圧力が予め設定された第1の圧力値に減少したとき前記減圧手段による前記給湯空間の減圧を停止させる減圧制御手段と、
予め設定された目標給湯量と前記給湯空間の容積と前記第1の圧力値との関係に基づいて目標給湯量となったときの前記給湯空間の圧力である第2の圧力値を算出する算出手段と、
前記減圧制御手段により前記給湯空間が第1の圧力値となった状態で減圧が停止された後、前記開閉弁を開弁させ、該第1の圧力値から前記第2の圧力値に復帰したとき前記開閉弁を閉弁させる給湯制御手段とを備えることを特徴とする溶湯の供給装置。
【請求項4】
前記保持炉の溶湯の湯面高さを測定する湯面測定手段と、
該湯面測定手段により測定された保持炉内の溶湯の湯面高さに基づいて前記算出手段が用いる前記給湯空間の容積を補正する補正手段とを備えることを特徴とする請求項3記載の溶湯の供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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