説明

溶融めっき処理ねじの仕上げ具

【課題】溶融めっき処理したナットのめっき金属を所望の形状に切削するようにした仕上げ具を提供する。
【解決手段】軸部(10)には先端側から後端側に向けて位置決め部(11)、切刃のないガイド部(12)及び切刃のある切削刃部(13)を形成する。切削刃部には少なくとも1条の完全ねじ山形状の部分(13B)を設け、完全ねじ山形状の部分にはねじ山形状の切刃(13E)を形成する。ガイド部は完全ねじ山形状の部分のねじ山頂部を切除した断面台形状とし、ナットの雌ねじのねじ山フランクと接して切削刃部を案内させる。位置決め部はナットの雌ねじのねじ山頂部と摺接する外径の円柱形状となし、軸部(10)の中心軸線(a)をナットの中心軸線(b)と一致させた状態に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具に関し、特にナットのねじ溝に溶融金属をめっきした後、めっき金属を正規の形状に研削するようにした仕上げ具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ボルトやナットでは防食を目的としてねじに溶融亜鉛めっきを施す場合がある。この溶融めっき処理を行う場合、例えば溶融亜鉛にボルトやナットをどぶ漬け(浸漬)した後、ねじ山に付着した余分な溶融亜鉛を遠心力を与えて分離することが行われている。
【0003】
しかし、ボルトの場合はねじが外側にある為、遠心分離によって余分なめっき金属はほとんど取れるが、ナットの場合はねじが内側にある為、ナットの方向によっては遠心分離によっても余分なめっき金属が残ってしまい、そのままめっき金属が凝固すると雌ねじの谷底のめっき層が厚くなってしまい、雄ねじとの円滑な螺合性能を確保し難い。
【0004】
他方、軸部に雄ねじを形成するとともに、複数の凹溝を雄ねじを横断して軸線方向に延びて形成し、各ねじ山に切刃を設ける一方、雄ねじの前半部分を先端になるほど低くなるテーパー状に形成して食付き部とし、下穴に雌ねじを刻設するようにしたタップが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
かかる雌ねじ加工用のタップを用いて溶融めっき処理したねじ溝を加工することが考えられるが、食付き部には切刃があるので、食付き部がねじ山フランクに付着した亜鉛を切削してしまい、めっき金属が設計通りに仕上げられない。
【0006】
他方、本件出願人らは軸部の先端側部分にガイド部を、それに続いて切削刃部を形成し、切削刃部はナットのねじ溝と螺合するねじ山形状を有するとともにねじ山に切刃を形成し、ガイドは切刃を設けず、ねじ山の頂部を削除した断面台形状をなし、ナットのねじ溝と螺合して切削刃を案内し、ねじ溝の谷底に溜まっためっき金属を除去するようにした溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具を開発し、出願するに至った(特許文献3)。
【0007】
【特許文献1】実公平04−17303号公報
【特許文献2】特公昭52−1153号公報
【特許文献3】実公平05−20887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3記載の仕上げ具ではガイド部をねじ溝に螺合させて切削刃部とねじ溝とを位置決めしているものの、めっき金属が軟質であるので、ガイド部によって位置決めされた仕上げ具の中心軸線が何らかの原因でナットの中心軸線に対して傾斜してしまい、ねじ山フランクのめっき金属も切削してしまうおそれがあった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み、ねじ溝のめっき金属を誤切削することのないようにした溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明に係る溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具は、ナットの雌ねじのねじ溝に被覆されためっき金属のうち、ねじの谷底に残った余分な金属を切削するようにした溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具において、軸部には先端側から後端側に向けて位置決め部、切刃のないガイド部及び切刃のある切削刃部が形成され、上記切削刃部はナットの雌ねじのねじ溝と嵌まり合う少なくとも1条の完全ねじ山形状の部分を有し、該完全ねじ山形状の部分には上記軸部の回転によって上記ねじ溝に被覆されためっき金属の余分な部分を切削するねじ山形状の切刃が形成され、上記ガイド部は上記完全ねじ山形状の部分のねじ山頂部を切除した断面台形状をなし、ナットの雌ねじのねじ溝と嵌まり合い、ねじ山フランクと摺接することによって上記切削刃部を案内し、上記位置決め部はナットの雌ねじのねじ山頂部と摺接する外径の円柱形状をなし、上記軸部の中心軸線をナットの中心軸線と一致させるように上記軸部を位置決めするようになっていることを特徴とする。
【0011】
本発明の特徴の1つはガイド部の前方にナットの雌ねじのねじ山頂部と摺接する位置決め部を形成するようにした点にある。これにより、軸部の中心軸線がナットの中心軸線に対して傾斜するような荷重が作用しても、位置決め部が軸部の中心軸線をナットの中心軸線に一致させた状態を維持するので、ねじ山フランクのめっき金属が切削されることはなく、ねじ溝に被覆されためっき金属のうち、ねじの谷底に残った余分なめっき金属だけが切刃によって切削され、めっき金属を設計通りの形状に仕上げることができる。
【0012】
位置決め部はねじ山1条の長さであってもよいが、軸部の中心軸線とナットの中心軸線とを一致させた状態を確実に維持する上で、軸線方向に少なくともねじ山2条以上の長さを有するのが好ましい。
【0013】
切削刃部の完全ねじ山形状の部分は少なくとも1条あればよいが、ねじ溝に被覆されためっき金属を設計通りの形状に仕上げる上で、複数条設けるのが好ましい。また、ねじ溝に被覆されためっき金属を最初から設計通りの形状に切削するよりも徐々に設計通りの形状に近づくように切削するのがよい。
【0014】
そこで、切削刃部には完全ねじ山形状の部分の前方に完全ねじ山形状の部分のねじ山頂部を切除した少なくとも1条の断面台形状の部分を設け、断面台形状の部分には断面台形状の切刃を形成するようにするのが好ましい。
【0015】
また、切削刃部の断面台形状の部分はガイド部の断面台形状の部分と等しい高さに形成してもよいが、ガイド部の断面台形状の部分から切削刃部の完全ねじ山形状の部分に向けて高さが漸増するような高さに構成するのがよい。
【0016】
切刃で切削しためっき金属が多い場合、切削しためっき金属を逃がす工夫が必要である。そこで、切削刃部には切刃の回転方向の手前に切削しためっき金属を受ける凹部を形成するのがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を添付図面に示す具体例に基づき、詳細に説明する。図1ないし図5は本発明に係る溶融めっき処理ねじの仕上げ具の好ましい実施形態を示す。図において、軸部10には先端から後端に向けて位置決め部11、ガイド部12、切削刃部13及び取付けねじ部14が設けられている。
【0018】
位置決め部11はナットの雌ねじ20のねじ山頂部と摺接する外径の円柱形状をなし、軸部10の軸線方向には例えばねじ山6条以上に相当する長さとなっている。
【0019】
ガイド部12は完全ねじ山形状の頂部を切除した例えば3条の断面台形状の部分が螺旋状に連続されており、ガイド部12には切刃は形成されていない。
【0020】
切削刃部13は完全ねじ山形状の頂部を切除した例えば5条の断面台形状の部分13Aとこれに続いて例えば8条の完全ねじ山形状の部分13Bが設けられている。切削刃部13には軸線方向に延びる凹溝(凹部)13Cが例えば120°の角度毎に形成され、これによって切削刃部13の断面台形状の部分13Aには断面台形状の切刃13Dが、完全ねじ山形状の部分13Bにはねじ山形状の切刃13Eが形成されている。
【0021】
また、ガイド部12の断面台形状の部分、切削刃部13の断面台形状の部分13A及び完全ねじ山形状の部分13Bの高さは位置決め部11からガイド部12の断面台形状の部分及び切削刃部13の断面台形状の部分13Aを経て切削刃部13の完全ねじ山形状の部分13Bに向けて漸増するように設定されている。
【0022】
溶融めっき処理されたナットの雌ねじ20を本例の仕上げ具を用いて仕上げる場合、仕上げ具の位置決め部11をナットの雌ねじ20のねじ穴に差し込む。すると、位置決め部11の外径は位置決め部11の外面が雌ねじ20のねじ山頂部と摺接するような寸法に設定されているので、位置決め部11がねじ穴に差し込まれ、複数条のねじ山頂部と摺接すると、図4に示されるように、仕上げ具の軸部10の中心軸線aはナットの雌ねじ20の中心軸線bとぴったりと一致され、その一致した状態が維持される。
【0023】
仕上げ具のガイド部12の断面台形状の部分が雌ねじ20のねじ溝に嵌まり合う位置まで達すると、軸部10を回転させる。すると、図4に示されるように、ガイド部12の断面台形状の部分が雌ねじ20のねじ山フランクに接し、仕上げ具をナットの中心軸線の方向に螺進させることができる。このとき、ガイド部12には切刃がないので、ねじ溝に被覆されためっき金属21が切削されるということはない。
【0024】
こうして仕上げ具が螺進されると、次に切削刃部13の断面台形状の部分13Aが雌ねじ20のねじ溝に嵌まり合うようになり、断面台形状の部分13Aの切刃13Dがねじ溝の谷底に溜まっている余分なめっき金属21を少し切削する。仕上げ具がさらに螺進されると、図5に示されるように、ねじ溝の谷底に溜まっている余分なめっき金属21が切削刃部13の切刃13D、13Eの形状にしたがって徐々に切削される。
【0025】
このとき、何らかの原因で仕上げ具の軸部10を傾ける力が加わっても、仕上げ具の中心軸線aはナットの中心軸線bと一致した状態を維持されているので、ねじ溝のめっき金属21は設計通りの形状に正確に仕上げられる。
【0026】
切削されためっき金属21は仕上げ具の凹溝13Cで受けられるので、ねじ溝の切削に悪影響を与えることはない。
【0027】
なお、上記の例では位置決め部11をねじ山6条以上の長さとしたが、1条以上の長さがあればよく、位置決めを確実に行う上で2条以上の長さとするのがよい。また、ガイド部12の断面台形状の部分はねじ山1条の形態としてもよく、又はねじ山複数条の形態としてもよい。
【0028】
また、切削刃部13の断面台形状の部分13Aはねじ山3条以下の形態でよく、又ねじ山3条以上の形態としてもよく、さらには必ず設ける必要があるというものではない。また、完全ねじ山形状部分13Bはねじ山1条あれば、ねじ溝のめっき金属21の切削を行うことができるので、少なくともねじ山1条設けられていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具の好ましい実施形態を示す斜視図である。
【図2】上記実施形態を示す一部断面構成図である。
【図3】上記実施形態における位置決め部11、ガイド部12及び切削刃部13の形状を示す図である。
【図4】上記実施形態における作用を説明するための図である。
【図5】上記実施形態における作用を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
10 軸部
11 位置決め部
12 ガイド部
13 切削刃部
13A 断面台形状の部分
13B 完全ねじ山形状の部分
13C 凹溝(凹部)
13D、13E 切刃
20 雌ねじ
21 めっき金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットの雌ねじのねじ溝に被覆されためっき金属のうち、ねじの谷底に残った余分な金属を切削するようにした溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具において、
軸部には先端側から後端側に向けて位置決め部、切刃のないガイド部及び切刃のある切削刃部が形成され、
上記切削刃部はナットの雌ねじのねじ溝と嵌まり合う少なくとも1条の完全ねじ山形状の部分を有し、該完全ねじ山形状の部分には上記軸部の回転によって上記ねじ溝に被覆されためっき金属の余分な部分を切削するねじ山形状の切刃が形成され、
上記ガイド部は上記完全ねじ山形状の部分のねじ山頂部を切除した断面台形状をなし、ナットの雌ねじのねじ溝と嵌まり合い、ねじ山フランクと摺接することによって上記切削刃部を案内し、
上記位置決め部はナットの雌ねじのねじ山頂部と摺接する外径の円柱形状をなし、上記軸部の中心軸線をナットの中心軸線と一致させるように上記軸部を位置決めするようになっていることを特徴とする溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具。
【請求項2】
上記位置決め部は軸線方向に少なくともねじ山2条以上の長さを有する請求項1記載の溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具。
【請求項3】
上記切削刃部は上記完全ねじ山形状の部分の前方に上記完全ねじ山形状の部分のねじ山頂部を切除した少なくとも1条の断面台形状の部分を有し、該断面台形状の部分には断面台形状の切刃が形成されている請求項1記載の溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具。
【請求項4】
上記切削刃部の断面台形状の部分は上記ガイド部の断面台形状の部分から上記切削刃部の完全ねじ山形状の部分に向けて高さが漸増するような高さとなっている請求項3記載の溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具。
【請求項5】
上記切削刃部には切刃の回転方向の手前に切削しためっき金属を受ける凹部が形成されている請求項1記載の溶融めっき処理ねじ溝の仕上げ具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−105804(P2007−105804A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−296173(P2005−296173)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【出願人】(591209246)濱中ナット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】