説明

溶融スラグを用いたコンクリート二次製品

【課題】 凍結融解抵抗性が高く、かつ一般的なコンクリートと大きく異なることがない配合で、安価に製造することができ、品質面でも問題のないコンクリート二次製品を提供する。
【解決手段】 コンクリート二次製品を製造する場合のコンクリートの配合において、砂などの細骨材の一部として、溶融スラグ細骨材を配合し、蒸気養生または水中養生することで、凍結融解抵抗性を高める。溶融スラグ細骨材の細骨材全体に対する体積置換率は、10〜45%が好ましい。条件によっては、AE剤を配合しないことも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥の再資源化などにより得られる溶融スラグを用いたコンクリート二次製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寒冷地などにおいて、冬場に用いられるコンクリートは、凍結融解の問題があり、初期凍害を受けたコンクリートは、その後適切な養生を行っても強度を回復することはなく、耐久性、水密性等が著しく劣るとされている。
【0003】
そのため、気温が4℃以下になることが予想されるときは、寒中コンクリートとしての配合や施工管理が必要とされている。また、配合においてはAE剤の使用が原則となっている。
【0004】
一方、近年、下水道普及率の増加に伴い、下水汚泥排出量が増加しており、今後、更に増加傾向にあると考えられる。このような背景から、下水汚泥の処理が問題となり、下水汚泥の再資源化技術として溶融スラグ化が注目されている。
【0005】
この技術は、脱水汚泥を焼却した灰(焼却灰)をおよそ1300℃〜1500℃の高温で溶融し、冷却・固化させるものである。溶融スラグは大別して水砕スラグ、空冷スラグ、結晶化スラグの3種類に分けられる。このうち、水砕スラグは工程が比較的簡単で、現在稼動しているほとんどの溶融施設で採用されている。
【0006】
また近年、環境保全の観点から骨材資源の採取が制限され、それに伴うコンクリート用骨材の枯渇が問題となっており、再生骨材やスラグ骨材などの代替骨材の適用研究・開発が盛んに行われている。
【0007】
例えば、レディーミクストコンクリート用骨材としてJIS化されているスラグ骨材には、高炉スラグ、フェロニッケルスラグおよび銅スラグがある。しかし、これらを副産する工場は少なく、偏在しているため、運搬費などのコスト上の問題から使用は工場周辺に限定されており、全国的な普及は困難な状況である。
【0008】
これに対し、溶融スラグは、粒度が小さいため、砂の代替品としてコンクリート用細骨材に使用することができ、溶融施設は全国に普及している。したがって、溶融スラグをコンクリート用骨材として有効利用できれば、最終処分場問題および資源の有効活用の観点から非常に有意義であると言える。
【0009】
先行技術として、特許文献1には、連行空気を保持させなくても、耐凍結融解性に優れるモルタル・コンクリート硬化体の提供することを目的として、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造された水硬性組成物を使用してなる耐凍結融解性モルタル・コンクリート硬化体が記載されている。
【0010】
特許文献2には、セメントあるは高炉スラグ微粉末を無使用もしくは必要最低限の使用に抑えることで凍結融解に対する耐久性を確保でき、かつ安価な製鋼スラグを用いたコンクリート状固化体を提供することを目的として、製鋼スラグと高炉水砕スラグに、セメントと高炉スラグ微粉末とフライアッシュのうち1種又は2種以上を混合し、水を添加して混練した後、即時脱型成型して製造することを特徴とする製鋼スラグを用いたコンクリート状固化体の製造方法が記載されている。
【0011】
特許文献3には、耐凍結融解抵抗性に優れた高強度軽量コンクリートとして、粗骨材の周面においてスラリー状シリカフュームによる被覆層が形成されたものであって、細骨材とセメント系その他の凝結性混練物が配合されて混合成形された高強度軽量コンクリートが記載されている。
【0012】
また、特許文献4には、連行空気量を得るためのAE剤使用量の抑制、凍結融解抵抗性、硬化体に充分な強度を与えることなどを目的として、未燃カーボンを高濃度で含有するフライアッシュを用いたコンクリートの調製方法が記載されている。
【0013】
【特許文献1】特開2000−007393号公報
【特許文献2】特開2003−002726号公報
【特許文献3】特開2004−002124号公報
【特許文献4】特開2008−007382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
コンクリート二次製品を寒冷地で用いる場合、上述のような凍結融解の問題があり、製品として十分な耐久性を得にくいという問題がある。
【0015】
また、このようなコンクリートにおいて、蒸気養生を行う場合、その管理が難しく、一般的に、蒸気養生が行われたコンクリートはマイクロクラックが発生し、細孔構造が粗大化するなどの原因により、凍結融解抵抗性は低くなる場合がある。
【0016】
また、このような問題を解決するために、多量の混和剤や特殊な混合材を配合することが行われているが、コストが高く付く他、配合によっては品質面において、様々な欠陥を生ずる場合がある。
【0017】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、発明者等はその研究の過程において、細骨材の一部を比較的大量の溶融スラグに置き換え、蒸気養生などの適切な養生を行うことで、一般的なコンクリートと大きく異ならない配合で凍結融解抵抗性が向上することを見い出したものである。
【0018】
すなわち、本発明は、凍結融解抵抗性が高く、かつ一般的なコンクリートと大きく異なることがない配合で、安価に製造することができ、品質面でも問題のないコンクリート二次製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願の請求項1に係るコンクリート二次製品は、コンクリートの配合において、細骨材の一部として、溶融スラグ細骨材を配合し、蒸気養生または水中養生することで、凍結融解抵抗性を高めたことを特徴とするものである。
【0020】
配合は、一般的なコンクリートの配合を基本とし、砂などの細骨材の一部を溶融スラグの細骨材に置き換えることで、凍結融解抵抗性を高める。
【0021】
また、養生条件として、蒸気養生または水中養生を行うこととする。
【0022】
コンクリート二次製品の種類は、特に限定されないが、蒸気養生または水中養生が可能なものとし、例えば、縁石ブロック、笠ブロック、側溝の蓋、U字溝など、単価の安いコンクリート二次製品においては、特に、コストの上昇を抑えつつ、凍結融解抵抗性が改善でき、強度、その他の品質の低下を抑えることができるため、経済的効果が大きい。
【0023】
請求項2は、請求項1に係るコンクリート二次製品において、前記溶融スラグ細骨材を細骨材全体に対して、10〜45%体積置換してなることを特徴とするものである。
【0024】
溶融スラグ細骨材はできるだけ多く使用すれば、廃棄物の再資源化という面でのメリットがあり、配合の調整により60%体積置換程度までは、品質上、特に問題ないと考えられるが、一般的なコンクリートの配合で安価に製造する条件のもとでは、体積置換率で10〜45%が好ましい。10%未満では、凍結融解抵抗性の改善効果が不十分であり、45%を超えると、配合の工夫が必要となり、コスト増の可能性がある。
【0025】
請求項3は、請求項1または2に係るコンクリート二次製品において、AE剤を配合しないことを特徴とするものである。
【0026】
一般的に寒冷地に用いるコンクリートにおいては、AE剤の使用が基本となっており、本願の発明においても、AE剤を配合しないことは必須ではないが、溶融スラグ細骨材と蒸気養生または水中養生の併用により、AE剤を使用しなくても凍結融解抵抗性を改善することができ、AE剤を配合しないことで、AE剤の使用によるデメリット部分を考慮する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明では、溶融スラグ細骨材と蒸気養生または水中養生の併用により、一般的なコンクリートの配合で、凍結融解抵抗性を改善することができ、条件によってはAE剤の配合も不要とすることができる。
【0028】
特に、製造単価の安いコンクリート二次製品に適用した場合には、コストの上昇を抑えつつ、凍結融解抵抗性が改善でき、強度、その他の品質の低下を抑えることができるため、経済的効果が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の最良の実施形態を、その試験方法および試験結果とともに説明する。
【0030】
(1) 試験概要
予備的な試験から、良好な性状が確認された置換率30%までの範囲で溶融スラグを段階的に置換し、溶融スラグがコンクリートの耐凍害性に与える影響を把握することを目的として試験を行った。
【0031】
ここでは、溶融スラグがコンクリートの耐凍害性に与える影響をより顕著に把握するため、AE剤を添加せずに、溶融スラグを細骨材として用いたコンクリートを作製し、凍結融解試験を行った。
【0032】
(2) 使用材料
使用材料を表1に示す。使用した溶融スラグは、環境省告示第46号「土壌の汚染に係る環境基準について」(1991年)に準拠し、溶出試験を行った結果、全項目でJIS A 5031に記載された基準を満足していることが確認されたものである。
【0033】
また、モルタルバ−法(JIS A 1146)によるアルカリシリカ反応性試験においても無害と判定されている。
【0034】
ただし、JIS A 5031に定められている粒度の規定のみ満足していない。本試験で用いた溶融スラグと川砂の粒度分布を図1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
(3) 配合条件
配合表を表2に示す。溶融スラグ置換率0%を基本配合とし、その配合条件は、単位水量を169kg/m3、細骨材率を47.7%、水セメント比を46.9%とし、設計強度は30N/mm2とした。また、溶融スラグを細骨材に対して体積比で内割置換し、置換率を0、10、20、30%の4水準とした。
【0037】
本試験で用いた合成粒度分布を図1に示す。目標スランプはSL=8±2cmとし、高性能減水剤添加量の調整を適宜行った。
【0038】
【表2】

【0039】
(4) 養生条件
蒸気養生と水中養生の2種類の養生を行った。蒸気養生の条件は、前置き1.5時間、温度上昇20℃/h、最高温度65℃、最高温度保持時間3時間である。以後自然放冷し、蒸気養生終了後、脱型実施材齢14日まで気中養生した。水中養生の条件は、20℃で行い蒸気養生と同材齢で比較するため14日を材齢とした。
【0040】
(5) 試験項目
ここでは、下記に示した5項目について試験を行った。試験方法を以下に示す。
(5)−1 空気量試験:JIS A 1128に準拠
(5)−2 圧縮強度試験:JIS A 1108に準拠
(5)−3 凍結融解試験:JIS A 1148に準拠
(5)−4 気泡間隔係数:ASTM C 457に準拠
(5)−5 走査型電子顕微鏡による観察
【0041】
(6) 試験結果
(6)−1 空気量試験結果
空気量試験結果を表3に示す。溶融スラグを混和することで、空気量が増加する傾向が確認された。
【0042】
【表3】

【0043】
(6)−2 圧縮強度試験結果
圧縮強度試験結果を図2に示す。いずれの配合においても、溶融スラグ置換率に関わらずほぼ同等の圧縮強度を示した。
【0044】
(6)−3 凍結融解試験結果
蒸気養生におけるコンクリートの相対動弾性係数の変化を図3、耐久性指数と溶融スラグ置換率の関係を図4に、水中養生におけるコンクリートの相対動弾性係数の変化を図5に示す。なお、水中養生における凍結融解試験は、150サイクルまでの途中経過を記載した。
【0045】
一般的に、蒸気養生が行われたコンクリートはマイクロクラックが発生し、細孔構造が粗大化するなどの原因により、凍結融解抵抗性は低くなる場合がある。 図3より、溶融スラグ無置換の配合は、60サイクルで相対動弾性係数が60%を下回っているため、凍結融解抵抗性の非常に低いコンクリートであることが分かる。
【0046】
図4より、低いレベルではあるが、溶融スラグ無置換のものと比べると溶融スラグ置換率の増加により、耐久指数が改善されていることが確認された。
【0047】
また、図5より水中養生において溶融スラグ無置換の配合では、150サイクルで相対動弾性係数が60%を下回ったが、溶融スラグを混和したものは150サイクルで60%を下回っていない。
【0048】
さらに、溶融スラグを置換に伴い、相対動弾性係数が高い傾向を示している。よって、水中養生においても凍結融解抵抗性が向上したことが確認された。以上より、蒸気養生および水中養生を行う場合、溶融スラグ置換率の増加により、耐凍害性が改善される傾向があることが確認された。
【0049】
(6)−4 気泡間隔係数
気泡間隔係数と溶融スラグ置換率の関係を図6に、気泡間隔係数と耐久性指数の関係を図7に、気泡径分布図を図8に示す。
【0050】
一般的に、AE剤を用いない場合、コンクリートの内部の空気はエントラップドエアだけとなるため、気泡間隔係数は400〜700μm程度となると考えられる。
【0051】
図6より溶融スラグ無置換では500〜600μm程度の大きい気泡間隔係数となったが、溶融スラグ置換率の増加に伴い、気泡間隔係数が小さくなる傾向が確認された。
【0052】
また、図7より気泡間隔係数が小さくなるにつれて耐久性指数が向上することが確認された。
【0053】
また、図8より気泡径の分布を調べた結果、溶融スラグ置換率の増加に伴い耐凍害性に有効である気泡弦長200μm以下が多く混入される傾向が確認された。
【0054】
この要因として、溶融スラグの粒形は角張っており針状であるため、練り混ぜの際に川砂よりも微細なエントラップドエアを巻き込むことが考えられる。
【0055】
(6)−5 走査型電子顕微鏡による観察
溶融スラグの混和による耐凍害性の改善の要因として、溶融スラグの界面が活性化され付着性状が改善されることが考えられるため、走査型電子顕微鏡を用いて細骨材及び溶融スラグのペースト部との界面付近を観察した。溶融スラグとペースト部の界面写真を図9に示す。
【0056】
図9より、本試験では溶融スラグとペースト部の界面においては特に反応しておらず、界面においてマイクロクラックが多数発生していることが確認された。
【0057】
(7) 考察
本試験より溶融スラグの混和により耐凍害性が改善される傾向が確認された。
【0058】
その要因として溶融スラグの吸水率が考えられる。一般的に、吸水率が低い骨材を使用することで凍結融解抵抗性が向上することが知られており、今回用いた溶融スラグの吸水率は0.18%と非常に低いため耐久性がやや向上したものと思われる。
【0059】
また、溶融スラグの混和により空気量が増大する傾向があり、これも要因の1つと考えられる。溶融スラグの角張った粒形により、微細なエントラップドエアが増大し気泡間隔係数が小さくなることが推定される。
【0060】
(8) まとめ
上記試験より、以下のような知見が得られた。
【0061】
1) 溶融スラグを混和することにより、溶融スラグ無混和と比較し、気泡径200μm以下の割合が多くなり、それに伴い気泡間隔係数が小さくなる。
【0062】
2) 溶融スラグを混和することにより、溶融スラグ無混和と比較し、耐凍害性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】試験で用いた溶融スラグと川砂の粒度分布のグラフである。
【図2】圧縮強度試験結果を示すグラフである。
【図3】蒸気養生におけるコンクリートの相対動弾性係数の変化を示すグラフである。
【図4】耐久性指数と溶融スラグ置換率の関係を示すグラフである。
【図5】水中養生におけるコンクリートの相対動弾性係数の変化を示すグラフである。
【図6】気泡間隔係数と溶融スラグ置換率の関係をを示すグラフである。
【図7】気泡間隔係数と耐久性指数の関係を示すグラフである。
【図8】気泡径分布図である。
【図9】走査型電子顕微鏡を用いて観察した細骨材及び溶融スラグのペースト部の界面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの配合において、細骨材の一部として、溶融スラグ細骨材を配合し、蒸気養生または水中養生することで、凍結融解抵抗性を高めたことを特徴とするコンクリート二次製品。
【請求項2】
前記溶融スラグ細骨材を細骨材全体に対して、10〜45%体積置換してなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート二次製品。
【請求項3】
AE剤を配合しないことを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート二次製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−59003(P2010−59003A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224562(P2008−224562)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)社団法人日本コンクリート工学協会 関東支部 栃木地区 研究発表会 講演概要集 発行日:平成20年3月3日、(2)第35回土木学会関東支部 技術研究発表会講演概要集(CD−ROM)頒布日:平成20年3月10日,平成20年3月11日
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(599080199)栃木県コンクリート製品協同組合 (4)
【Fターム(参考)】