説明

溶融メタル出湯時の安全対策システム

【課題】 溶融メタルの出湯時にメタル水砕水ポンプの故障や停電、油圧ユニットの故障等の緊急事態が発生した場合にタップホール4を閉塞する。
【解決手段】 タップホール4を開孔機5で開孔して炉内の溶融メタルMを出湯して冷却水槽19内で水砕し、溶融メタルMの出湯後にタップホール4をマッドガン6で閉塞するようにした溶融炉に用いる溶融メタル出湯時の安全対策システムであって、安全対策システムは、冷却水槽19へメタル水砕水Wを供給するメタル水砕水供給ライン23に介設したメタル水砕水流量計25及びメタル水砕水温度計26と、メタル水砕水供給ライン23に接続した緊急水供給ライン27と、緊急水供給ライン27に接続した緊急水貯留タンク28と、緊急水供給ライン27に介設した緊急水弁29と、開孔機5及びマッドガン6への油圧送りライン11に接続したアキュムレータ30と、タップホール4を開閉する緊急ゲート31とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に都市ごみや産業廃棄物等のごみ焼却炉から排出された焼却灰や飛灰を溶融処理して比重差により溶融スラグと溶融メタルに分離し、炉内の上方位置にある溶融スラグを炉壁に設けた溶融スラグ出滓口からオーバーフローさせて連続的に排出すると共に、炉底に溜まった溶融メタルを炉壁に設けたタップホールから出湯して水砕処理するようにした溶融炉に用いられるものであり、タップホールの開孔作業時や溶融メタルの出湯作業時にメタル水砕水量が低下したり、メタル水砕水ポンプに異常を来たしたり、メタル水砕水の温度が上昇したり、落雷等により停電したり、或いはタップホールを開孔する開孔機やタップホールを閉塞するマッドガンの油圧ユニットが故障したりしても、タップホールを閉塞して溶融メタルの出湯時に於ける安全性を確保できるようにした溶融メタル出湯時の安全対策システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、都市ごみや産業廃棄物等のごみ焼却炉から排出された焼却灰や飛灰の減容化及び無害化を図るため、焼却灰や飛灰の溶融固化処理が注目され、現実に実用に供されている。この溶融固化処理には、プラズマ溶融炉やアーク溶融炉、電気抵抗炉等の電気式溶融炉を使用し、電気エネルギーによって焼却灰や飛灰を溶融処理した後、これを水冷処理又は空冷処理により固化する方法が広く採用されている。
【0003】
而して、電気式溶融炉へ供給された焼却灰や飛灰は、電気エネルギーにより溶融点を越える温度にまで加熱され、高温液体状(約1400℃)の溶融物となる。この溶融物は、焼却灰中に鉄を始めとする金属類やシリカを始めとするスラグ成分が多く含まれているため、比重差によって上方に位置する溶融スラグと溶融スラグの下方に位置して炉底に溜まる溶融メタルとに分離される。
【0004】
前記溶融スラグは、炉壁に設けた溶融スラグ出滓口から連続的にオーバーフローし、冷却水を満たしたスラグ冷却水槽内へ落下して水砕スラグとなった後、水封式コンベヤにより排出される。
一方、溶融メタルは、電気式溶融炉の運転時間の経過と共に順次炉底に残留・堆積し、その厚みが増加してレベル(溶融メタルと溶融スラグの境界面)が上昇することになる。この溶融メタルのレベルが上昇すると、様々な問題を生じることになる。例えば、溶融スラグと溶融メタルが混合した状態で溶融スラグ出滓口から排出されてスラグの品質が低下したり、アークが不安定になったり、或いは短絡事故を引き起こすと云う問題がある。
【0005】
そのため、電気式溶融炉に於いては、炉壁の下部に設けたタップホール(通常は粘土等のマッド材を充填して閉塞している)を間欠的に開孔し、ここから溶融メタルを出湯して溶融メタル層の厚さが所定の厚さを越えないようにしている。
この溶融メタルの出湯には、例えば、開孔機及びマッドガンを備えた装置(特許文献1参照)やスライディングゲートを備えた装置(特許文献2参照)、誘導加熱方式を採用した装置(特許文献3参照)等が用いられている。
【0006】
ところで、タップホールから出湯した溶融メタルは、メタル出湯樋内を流下してここから冷却水槽内に落下し、冷却水槽内のメタル水砕ノズルから噴射されるメタル水砕水(冷却水)により水砕して粒状の固化物として回収したり、或いは出湯した溶融メタルをモールドコンベヤ等へ積載し、空冷することによりインゴット状の塊として回収される。
【0007】
ところが、タップホールから溶融メタルを出湯する場合、タップホールの劣化やメタル出湯時の溶融メタルのレベル、出湯時のメタル温度の変化等により、溶融メタルの出湯量は一定ではない。そのため、出湯した溶融メタルを水砕処理する場合、多量の溶融メタルが少量の水に接触すると、水蒸気爆発を引き起こす危険性がある。
又、開孔機及びマッドガンを使用して溶融メタルを出湯する場合、運転員は開孔作業及び閉塞作業の間、溶融メタルの出湯場所付近で作業を行うことになり、常に危険性を伴う作業となる。
従って、タップホールの開孔作業やタップホールの閉塞作業に於いては、メタル水砕水の温度、メタル水砕水量、油圧ポンプ等の各種機器の運転に必要な各種情報が得られるように開孔機及びマッドガン等を操作する操作盤付近に前記情報を表示するメーター類や計器類等が設けられており、警報や得られた各数値により、運転員が異常であると判断した場合、マッドガン等によりタップホールを閉塞するようにしている。
【0008】
しかし、異常の警報は発報されるものの、対応については運転員の判断となり、判断ミスや操作が遅れることがあり、この場合には事故につながると云う問題がある。特に、運転員が熟練の運転者でない場合には、判断ミスや操作が遅れることが多くなる。
又、異常時に於けるタップホールの閉塞作業は、運転員により行われるため、運転員が直ぐに避難することができず、安全性に劣ると云う問題がある。
これらの問題は、運転員が豊富な経験を積んだ熟練者であれば、ある程度防げる問題である。
【0009】
ところが、溶融メタルの出湯時に、メタル水砕水を供給するメタル水砕水ポンプの故障やマッドガンの駆動装置である油圧ユニットの故障、落雷等による停電等の緊急事態が発生した場合には、冷却水槽内へメタル水砕水を供給することができなかったり、或いは溶融メタルが塊の状態で冷却水槽内へ落下したりするため、運転員が熟練者であっても、緊急に対処することができず、水蒸気爆発を引き起こす危険性が極めて高くなると云う問題があった。
【特許文献1】特開2002−295980号公報
【特許文献2】特開平6−307769号公報
【特許文献3】特開2005−30605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的はタップホールの開孔作業時や溶融メタルの出湯作業時等にメタル水砕水量の低下、メタル水砕水ポンプの故障、メタル水砕水温度の上昇、落雷等による停電、開孔機やマッドガンの駆動源である油圧ユニットの故障等による緊急事態が発生した場合でも、タップホールを閉塞して溶融メタルの出湯時に於ける安全性を確保できるようにした溶融メタル出湯時の安全対策システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、炉壁に設けたタップホールを油圧駆動方式の開孔機により開孔し、炉底に溜まった溶融メタルを開孔したタップホールから出湯して冷却水槽内で水砕処理すると共に、溶融メタルの出湯後に油圧駆動方式のマッドガンによりタップホールにマッド材を充填してタップホールを閉塞するようにした溶融炉に用いる溶融メタル出湯時の安全対策システムであって、前記安全対策システムは、冷却水槽へメタル水砕水を供給するメタル水砕水供給ラインに介設されたメタル水砕水流量計及びメタル水砕水温度計と、メタル水砕水供給ラインに接続された緊急水供給ラインと、緊急水供給ラインに接続されて緊急水を貯留する緊急水貯留タンクと、緊急水供給ラインに介設された緊急水弁と、開孔機及びマッドガンと油圧ユニットとを接続する油圧送りラインに接続されて開孔機及びマッドガンへ圧油を供給し得るアキュムレータと、タップホールの出口側に配設されてタップホールを閉塞する緊急ゲートとから構成されており、溶融メタルの出湯時に於けるメタル水砕水量の低下時、メタル水砕水ポンプの異常時、メタル水砕水温度の上昇時、停電時又は油圧ユニットの故障時に、少なくともマッドガンによるタップホールの閉塞又は緊急ゲートによるタップホールの閉塞を行えるようにしたことに特徴がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶融メタル出湯時の安全対策システムは、冷却水槽へメタル水砕水を供給するメタル水砕水供給ラインに介設されたメタル水砕水流量計及びメタル水砕水温度計と、メタル水砕水供給ラインに接続された緊急水供給ラインと、緊急水供給ラインに接続されて緊急水を貯留する緊急水貯留タンクと、緊急水供給ラインに介設された緊急水弁と、開孔機及びマッドガンと油圧ユニットとを接続する油圧送りラインに接続されて開孔機及びマッドガンへ圧油を供給し得るアキュムレータと、タップホールのメタル出湯側に配設されてタップホールの出口側を閉塞する緊急ゲートとから構成しているため、溶融メタルの出湯時に於けるメタル水砕水量の低下時やメタル水砕水ポンプの異常時には、緊急水弁を開放して緊急水貯留タンク内の緊急水をメタル水砕水供給ラインへ供給することができると共に、溶融炉への通電を停止し、その間にマッドガンによるタップホールの閉塞又は緊急ゲートによるタップホールの閉塞を行うことができ、又、メタル水砕水温度の上昇時には、溶融炉への通電を停止してマッドガンによるタップホールの閉塞又は緊急ゲートによるタップホールの閉塞を行うことができ、更に、落雷等の停電時には、緊急水弁の開放による緊急水の供給、マッドガンによるタップホールの閉塞又は緊急ゲートによるタップホールの閉塞を行うことができ、そして、油圧ユニットの故障時には、アキュムレータを用いて開孔機及びマッドガンを作動させ、マッドガンによるタップホールの閉塞又は緊急ゲートによるタップホールの閉塞を行うことができる。
このように、本発明の溶融メタル出湯時の安全対策システムは、溶融メタルの出湯時等にメタル水砕水量の低下、メタル水砕水ポンプの故障、メタル水砕水温度の上昇、落雷等による停電、油圧ユニットの故障等により溶融メタルの出湯時の安全が損なわれるような緊急事態が発生した場合でも、緊急水の供給、マッドガンによるタップホールの閉塞、緊急ゲートによるタップホールの閉塞等を行えるため、溶融メタルの出湯時に於ける安全性を確保することができる。
又、本発明の溶融メタル出湯時の安全対策システムを用いれば、機器のトラブルや停電等の緊急時の対応が可能になるため、ハンドリング性等に優れた溶融メタルの水砕処理をタップホールを備えた溶融炉に採用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る溶融メタル出湯時の安全対策システムを用いた電気式溶融炉1の概略系統図を示し、当該電気式溶融炉1は、都市ごみや産業廃棄物等のごみ焼却炉から排出された焼却灰や飛灰を溶融処理して比重差により溶融スラグSと溶融メタルMに分離し、炉内の上方位置にある溶融スラグSを炉壁に設けた溶融スラグ出滓口(図示省略)からオーバーフローさせて連続的に排出すると共に、炉底に溜まった溶融メタルMを炉壁に設けたタップホール4から出湯して水砕処理するようにしたものであり、炉壁に焼却灰等の被溶融物供給口(図示省略)、溶融スラグ出滓口(図示省略)及びタップホール4を夫々形成した溶融炉本体2と、溶融炉本体2の天井壁に昇降自在に設けた主電極3等から構成されている。
【0014】
前記電気式溶融炉1は、溶融メタルMのレベルL(溶融メタルMと溶融スラグSの境界面)が設定値に達したときや炉の運転を停止するときには、油圧駆動方式の開孔機5によりタップホール4に充填した粘土等のマッド材を掘削除去してタップホール4を開孔し、炉底に溜まっている溶融メタルMをタップホール4から出湯して冷却水槽19内で水砕処理し、又、溶融メタルMの出湯後には、油圧駆動方式のマッドガン6により開孔しているタップホール4に粘土等のマッド材を充填してタップホール4を閉塞するようにしている。
【0015】
前記開孔機5は、図2及び図3に示す如く、先端にビッドを設けたロッド5aと、ロッド5aに打撃力及び回転力を与えるドリフター5bと、ロッド5a及びドリフター5bを前後方向へ移動自在に支持するガイドセル5cと、ロッド5a及びドリフター5bを前後方向へ移動させる油圧モータ及びチェーン伝動機構から成る駆動装置5d等から構成されており、油圧タンク、油圧ポンプ、電動モータ、フィルタ及びバルブ等から成る油圧ユニット10に油圧送りライン11及び油圧戻りライン12を介して接続され、油圧送りライン11から開孔機5の油圧モータ等の油圧機器へ圧油を供給することにより駆動されるようになっている。
又、マッドガン6は、図2及び図3に示す如く、マッド材充填室を形成したマッドガン本体6aと、マッド材充填室に充填されたマッド材を前方へ押し出してタップホール4へ圧入する油圧シリンダ(図示省略)と、マッドガン本体6a及び油圧シリンダを前後方向へ移動自在に支持する支持フレーム6bと、マッドガン本体6a及び油圧シリンダを前後方向へ移動させる油圧シリンダ6cとから構成されており、開孔機5と同様に油圧ユニット10に油圧送りライン11及び油圧戻りライン12を介して接続され、油圧送りライン11からマッドガン6の油圧シリンダ等の油圧機器へ圧油を供給することにより駆動されるようになっている。
【0016】
前記開孔機5及びマッドガン6は、建物の天井のフレーム15に油圧駆動方式の上下装置16及び移動装置17を介して昇降自在且つ横方向へ水平移動自在に支持されており、上下装置16及び移動装置17も油圧ユニット10に油圧送りライン11及び油圧戻りライン12を介して接続され、油圧送りライン11から供給される圧油により駆動されるようになっている。
【0017】
即ち、上下装置16は、天井のフレーム15に固定されたベース16aと、ベース16aの下面側にリンク機構(図示省略)を介して昇降自在に支持された昇降フレーム16bと、ベース16aと昇降フレーム16bとの間に介設した油圧シリンダ(図示省略)とから成り、油圧ユニット10から圧油を油圧シリンダへ供給し、油圧シリンダを伸縮動作させることによって、リンク機構を介して昇降フレーム16bが昇降するように構成されている。
又、移動装置17は、昇降フレーム16bの下面側に設けたレール17aと、レール17aに横方向へ水平移動自在に支持された移動フレーム17bと、レール17a側と移動フレーム17bとの間に介設した油圧シリンダ17cとから成り、油圧ユニット10から作動油を油圧シリンダへ供給し、油圧シリンダ17cを伸縮動作させることによって、移動フレーム17bが横方向へ水平移動するように構成されている。この移動装置17の移動フレーム17bの下面側に開孔機5及びマッドガン6が並列状に取り付けられている。
【0018】
従って、開孔機5及びマッドガン6は、上下装置16及び移動装置17を駆動させることによって、開孔機5のロッド5aとマッドガン6のマッドガン6本体とが電気式溶融炉1のタップホール4と非対向状態になる待避位置と、開孔機5のロッド7のみがタップホール4と対向状態になる開孔位置と、マッドガン6のマッドガン6本体のみがタップホール4と対向状態になる閉塞位置とに亘って上下動及び水平移動するようになっている。
【0019】
そして、前記電気式溶融炉1のタップホール4の下方位置には、タップホール4から出湯された溶融メタルMを下方へ流下させるための下り傾斜状のメタル出湯樋18と、メタル出湯樋18内を流下してメタル出湯樋18から落下した溶融メタルMを水砕処理する水を貯留した冷却水槽19とが夫々設けられている。
又、冷却水槽19には、メタル出湯樋18から冷却水槽19内に落下する溶融メタルMへメタル水砕水Wを噴射して溶融メタルMを水砕・冷却するメタル水砕ノズル20と、水砕・冷却されて固化したメタルを排出する水封式コンベヤ21とが夫々設けられている。
更に、メタル水砕ノズル20には、メタル水砕水ポンプ22及び予備メタル水砕水ポンプ22′を並列状に介設したメタル水砕水供給ライン23と、溶融メタルMを水砕するのに必要な水砕水量を確保したメタル水砕水槽24とが順次接続されており、メタル水砕水槽24内のメタル水砕水Wをメタル水砕ノズル20へ循環供給できるようになっている。
【0020】
本発明の実施の形態に係る溶融メタル出湯時の安全対策システムは、メタル水砕水供給ライン23に介設されてメタル水砕ノズル20へ供給されるメタル水砕水Wの水量を検出するメタル水砕水流量計25と、メタル水砕水供給ライン23に介設されてメタル水砕ノズル20へ供給されるメタル水砕水Wの温度を検出するメタル水砕水温度計26と、メタル水砕水供給ライン23に分岐状に接続されてメタル水砕水供給ライン23へ緊急水W′を供給する緊急水供給ライン27と、緊急水供給ライン27に接続されて緊急水W′を貯留する緊急水貯留タンク28と、緊急水供給ライン27に介設された緊急水弁29と、開孔機5及びマッドガン6と油圧ユニット10とを接続する油圧送りライン11に分岐状に接続されて開孔機5及びマッドガン6へ圧油を供給し得るアキュムレータ30と、タップホール4の出口側に配設されてタップホール4の出口側を閉塞する緊急ゲート31と、停電時に稼動する非常用発電機(図示省略)等から構成されており、タップホール4の開孔作業時や溶融メタルMの出湯作業時にメタル水砕水Wの水量が低下したり、メタル水砕水ポンプ22に異常を来たしたり、メタル水砕水Wの温度が上昇したり、落雷等により停電したり、或いは開孔機5やマッドガン6の油圧ユニット10が故障したりしても、タップホール4を閉塞して溶融メタルMの出湯時に於ける安全性を確保できるようにしたものである。
【0021】
前記緊急水貯留タンク28は、冷却水槽19よりも高い位置に設置されており、緊急水弁29を開放すると、緊急水貯留タンク28内の緊急水W′が自然落下により緊急水供給ライン27を通ってメタル水砕水供給ライン23へ供給されるようになっている。この緊急水貯留タンク28に貯留されている緊急水W′の量は、メタル水砕水供給ライン23へメタル出湯量の30倍の緊急水W′を60秒間供給できるように設定されている。
【0022】
又、アキュムレータ30は、油圧ユニット10からの作動油が流れる油圧送りライン11に分岐状に接続されており、油圧ユニット10からの作動油を蓄積すると共に、油圧送りライン11を通して開孔機5及びマッドガン6の各油圧シリンダや油圧モータ等の油圧機器に作動油を供給できるようになっている。このアキュムレータ30は、複数基用いられており、各アキュムレータ30は並列状に接続されている。
【0023】
更に、緊急ゲート31は、マッドガン6によるタップホール4の閉塞を一定時間内に行えないときに作動し、タップホール4の出口側を閉塞して溶融メタルMの出湯を強制的に停止させるものであり、タップホール4の出口側に昇降自在に支持された耐火物製のゲート31aと、ゲート31aを昇降させるエアシリンダ31bとから構成されている。この緊急ゲート31は、マッドガン6の駆動源と異なる駆動源を有しており、これによりタップホール4の閉塞装置を二重化している。
【0024】
而して、上述した安全対策システムを設けた電気式溶融炉1によれば、炉内へ供給された焼却灰や飛灰は、電気エネルギーにより溶融点を越える温度にまで加熱され、高温液体状の溶融物(約1400℃の溶融物)となる。この溶融物は、焼却灰中に鉄を始めとする金属類やシリカを始めとするスラグ成分が多く含まれているため、比重差によって上方に位置する溶融スラグSと炉底に溜まる溶融メタルMとに分離される。
【0025】
分離された溶融スラグSは、炉壁に設けた溶融スラグ出滓口から連続的にオーバーフローし、冷却水を満たしたスラグ冷却水槽(図示省略)内へ落下して水砕スラグとなった後、水封式コンベヤにより排出される。
一方、溶融メタルMは、電気式溶融炉1の運転時間の経過と共に順次炉底に残留・堆積し、その厚みが増加してレベルL(溶融メタルMと溶融スラグSの境界面)が上昇することになる。この溶融メタルMのレベルLが上昇すると、溶融スラグSと溶融メタルMが混合した状態で溶融スラグ出滓口から排出されてスラグの品質が低下したり、アークが不安定になったり、或いは短絡事故を引き起こしたりするため、タップホール4を開孔してここから溶融メタルMを抜き出して水砕処理する。
【0026】
尚、溶融メタルMのレベルLは、溶融炉本体2に設けた従来公知のレベル検出器(図示省略)により常時検出されている。
又、溶融メタルMを水砕処理する場合、溶融メタルMが水蒸気爆発を引き起こす可能性のある物質であるため、メタル水砕ノズル20から噴射されるメタル水砕水Wの量及びメタル水砕水Wの温度を基準以上に保つようにする(メタル水砕水Wの量はメタル出湯量の30倍、メタル水砕水Wの温度は55℃以下が好ましい)。これらの値はメタル水砕水供給ライン23に設けたメタル水砕水流量計25及びメタル水砕水温度計26により常時検出されている。
【0027】
電気式溶融炉1の炉底に溜まった溶融メタルMを抜き出すには、上下装置16及び移動装置17により開孔機5を開孔位置に移動させ、開孔機5を駆動させて先端にビットを備えたロッド7によりタップホール4に充填しているマッド材を掘削除去して行き、ロッド7の先端が溶融メタルM層内に到達すると、ロッド7を迅速に後退させる。これにより、開孔されたタップホール4から炉底に溜まった溶融メタルMが順次出湯される。
【0028】
タップホール4から出湯された溶融メタルMは、メタル出湯樋18内を流下してメタル出湯樋18から冷却水槽19内に落下し、メタル水砕ノズル20から噴射されているメタル水砕水Wにより分散されて粒状に冷却された後、冷却水槽19内で完全に冷却されてから水封式コンベヤ21により排出される。
尚、溶融メタルMの出湯から所定の時間が経過すると、移動装置17によりマッドガン6が閉塞位置へ移動してその位置で待機する。
【0029】
そして、タップホール4から溶融メタルMの出湯が行われ、溶融メタルMが溶融スラグSに変化すると、輝度等により出湯されている溶融メタルMが溶融スラグSに変わったことが判るため、マッドガン6が作動してマッドガン6本体のマッド材充填室内に充填しているマッド材をタップホール4内へ圧入し、タップホール4内に残っている溶融スラグSをマッド材により炉内へ押し戻してタップホール4を閉塞する。
【0030】
ところで、安全対策システムを設けた電気式溶融炉1に於いては、タップホール4の開孔作業時や溶融メタルMの出湯作業時に、メタル水砕水Wの量が低下したり、メタル水砕水ポンプ22に異常を来たしたり、メタル水砕水Wの温度が上昇したり、落雷等により停電したり、或いは開孔機5やマッドガン6の油圧ユニット10が故障したりしても、タップホール4を閉塞して溶融メタルMの出湯時に於ける安全性を確保できるようになっている。
【0031】
即ち、メタル水砕水Wの水量低下時(メタル水砕水Wの量が550m3 /h以下の時)、或いはモータの過負荷や地絡によるメタル水砕水ポンプ22の異常時(停止時)には、緊急水弁29を自動又は手動で開放し、緊急水貯留タンク28内の緊急水W′を自然落下させてメタル水砕水供給ライン23へ必要量(650〜700m3 /h)の緊急水W′を供給すると共に、電気式溶融炉1の主電極3への通電を停止して溶融スラグS、溶融メタルMの昇温を止め、出湯している溶融メタルMに対してマッドガン6を駆動させてタップホール4の閉塞を行い、溶融メタルMの出湯を停止する。
このとき、緊急水貯留タンク28の緊急水W′は60秒間使用することが可能であり、この間に例え開孔機5によりタップホール4を開孔中であっても、マッドガン6によるタップホール4の閉塞を行える。
しかし、開孔機5及びマッドガン6のトラブル等から万が一60秒を経過してもマッドガン6によりタップホール4を閉塞できない場合には、緊急ゲート31が作動してタップホール4を閉塞する。この緊急ゲート31は、開孔機5が開孔開始位置より後に位置すると共に、マッドガン6が前進限の位置になく、且つマッドガン6による閉塞開始後60秒経過した後に作動するようになっている。但し、60秒以内にメタル水砕水ポンプ22が稼動し、所定量のメタル水砕水Wの量を確保することができれば、緊急ゲート31は作動しない。
又、メタル水砕水ポンプ22の停止時には、予備メタル水砕水ポンプ22′を稼動させてメタル水砕ノズル20へメタル水砕水Wを供給し、メタル水砕水Wの量が所定の流量を超えていれば、緊急水弁29を閉鎖するようにしても良い。
【0032】
尚、タップホール4をマッドガン6を使用せずに最初から緊急ゲート31で閉塞すると、タップホール4内が溶融メタルMの固化物で閉塞されるため、そのままでの運転の継続が困難になり、酸素ランス等でタップホール4を再度開孔し、開孔したタップホール4にマッド材を再度充填する必要があるので好ましくない。そのため、極力マッドガン6を使用してタップホール4を閉塞する。
【0033】
又、メタル水砕水Wの温度の上昇時(メタル水砕水Wの温度が55℃以上の時)には、メタル水砕ノズル20から噴射されるメタル水砕水Wの量が所定水量を満たしていても、メタル水砕水Wの温度が上限値以上になると、水蒸気爆発を発生させる危険が高くなるため、電気式溶融炉1の主電極3への通電を停止すると共に、マッドガン6を駆動させてタップホール4を閉塞する。この場合でも、一定時間内にマッドガン6によるタップホール4の閉塞を行えない場合には、緊急ゲート31が作動してタップホール4を閉塞する。
【0034】
更に、落雷等による停電時には、全ての機器が一旦停止するが、溶融メタルMの出湯時には非常にリスクの高い状態が発生する。そのため、緊急水弁29を開放して緊急水W′をメタル水砕水供給ライン23へ供給すると共に、アキュムレータ30に蓄圧した作動油を油圧送りライン11に供給してマッドガン6を駆動させ、タップホール4の閉塞を行う。又、一定時間内にマッドガン6によるタップホール4の閉塞を行えない場合には、緊急ゲート31によりタップホール4の閉塞を行う。更に、停電後40秒以内には非常用発電機が稼動してメタル水砕水ポンプ22を運転する。このメタル水砕水ポンプ22は復電後に再稼動する。又、メタル水砕水ポンプ22の運転によりメタル水砕水Wの量が所定の流量を確保できていれば、緊急水弁29を閉鎖する。
【0035】
そして、開孔機5及びマッドガン6へ作動油を供給する油圧ユニット10の故障時、例えば過負荷による停止時、冷却水温度の上昇時、油レベルの低下時、フィルタの目詰まり時には、メタル水砕水Wの量は確保できているために緊急水弁29の開放は行わないが、油圧ユニット10の停止と同時にアキュムレータ30の作動油を油圧送りライン11に供給してマッドガン6を駆動させ、タップホール4の閉塞を行う。又、一定時間内にマッドガン6によるタップホール4の閉塞を行えない場合には、緊急ゲート31によりタップホール4の閉塞を行う。
【0036】
このように、安全対策システムを用いた電気式溶融炉1に於いては、溶融メタルMの出湯時等にメタル水砕水Wの水量低下、メタル水砕水ポンプ22の故障、メタル水砕水Wの温度上昇、落雷等による停電、油圧ユニット10の故障等により溶融メタルMの出湯時の安全が損なわれるような自体が発生した場合でも、緊急水W′の供給、マッドガン6によるタップホール4の閉塞、緊急ゲート31によるタップホール4の閉塞等を行えるため、溶融メタルMの出湯時に於ける安全性を確保することができる。
【0037】
尚、上記の実施の形態に於いては、本発明の安全対策システムを焼却灰や飛灰を溶融処理する電気式溶融炉1に用いるようにしたが、本発明の安全対策システムは、溶融メタル出湯用のタップホール4を備えていれば、如何なる形式の溶融炉に用いるようにしても良い。例えば、本発明の安全対策システムを製鉄炉等に用いるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶融メタル出湯時の安全対策システムを用いた電気式溶融炉の概略系統図である。
【図2】開孔機及びマッドガンの側面図である。
【図3】開孔機及びマッドガンの正面図である。
【図4】油圧ユニットとアキュムレータの関係を示す油圧の概略系統図である。
【図5】溶融メタル出湯時の安全対策フロー図である。
【符号の説明】
【0039】
1は電気式溶融炉、4はタップホール、5は開孔機、6はマッドガン、10は油圧ユニット、11は油圧送りライン、19は冷却水槽、22はメタル水砕水ポンプ、23はメタル水砕水供給ライン、25はメタル水砕水流量計、26はメタル水砕水温度計、27は緊急水供給ライン、28は緊急水貯留タンク、29は緊急水弁、30はアキュムレータ、31は緊急ゲート、Mは溶融メタル、Wはメタル水砕水、W′は緊急水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁に設けたタップホールを油圧駆動方式の開孔機により開孔し、炉底に溜まった溶融メタルを開孔したタップホールから出湯して冷却水槽内で水砕処理すると共に、溶融メタルの出湯後に油圧駆動方式のマッドガンによりタップホールにマッド材を充填してタップホールを閉塞するようにした溶融炉に用いる溶融メタル出湯時の安全対策システムであって、前記安全対策システムは、冷却水槽へメタル水砕水を供給するメタル水砕水供給ラインに介設されたメタル水砕水流量計及びメタル水砕水温度計と、メタル水砕水供給ラインに接続された緊急水供給ラインと、緊急水供給ラインに接続されて緊急水を貯留する緊急水貯留タンクと、緊急水供給ラインに介設された緊急水弁と、開孔機及びマッドガンと油圧ユニットとを接続する油圧送りラインに接続されて開孔機及びマッドガンへ圧油を供給し得るアキュムレータと、タップホール側に配設されてタップホールを閉塞する緊急ゲートとから構成されており、溶融メタルの出湯時に於けるメタル水砕水量の低下時、メタル水砕水ポンプの異常時、メタル水砕水温度の上昇時、停電時又は油圧ユニットの故障時に、少なくともマッドガンによるタップホールの閉塞又は緊急ゲートによるタップホールの閉塞を行えるようにしたことを特徴とする溶融メタル出湯時の安全対策システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−317111(P2006−317111A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142112(P2005−142112)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】