説明

溶融亜鉛めっき用合金化炉

【課題】溶融亜鉛めっき用合金化炉において、保温帯への外気の流入を防ぐことにより保温帯の温度分布の安定性の向上を図る。
【解決手段】溶融亜鉛めっき浴18の上方に加熱帯20、保温帯21及び冷却帯22が順に配置されている。保温帯21の出側に鋼帯1を挟んで静圧パッド2が配置され、これらの静圧パッド2に供給されるガス量は、ダンパ26により調整される。保温帯21の内部の圧力を検出するため、保温帯21の中央近傍に圧力計が配置される。この圧力計の出力に基づいて、保温帯の内部の圧力が予め設定された目標値以下に維持されるようにダンパ26の開度が制御される。好ましくは、静圧パッド2は、鋼帯の一方の側に少なくとも1個、他方の側に少なくとも2個、千鳥状に配置される。あるいは、静圧パッド2は、鋼帯を挟んで2対以上対向させて配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっきラインで用いられる合金化炉に係り、特に、その雰囲気の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼帯の連続溶融亜鉛めっき設備においては、表面洗浄が終わった鋼帯を連続的に焼鈍し、次いで、所定温度まで冷却した後、溶融亜鉛めっき浴に浸漬して亜鉛めっきを施している。通常、この焼鈍冷却工程は還元雰囲気下で行われる。このため、鋼帯をめっき浴に浸漬するまでの間、還元雰囲気が常時確保されるように、焼鈍及び冷却を行う炉設備とめっき槽との間に、スナウトと呼ばれる矩形断面の装置を設け、炉内を大気から遮断している。
【0003】
めっき槽内にはシンクロールが設置されており、このシンクロールで鋼帯の走行方向を転換させ、鋼帯を鉛直方向に引き上げる。鋼帯をめっき浴から引き出した後、そのめっき厚をガス・ワイピングノズルで所定の値に調整する。その後、鋼帯を合金化炉に導入し、そこで鋼帯を所定温度まで加熱し、それを一定時間保持することにより下地の鉄を亜鉛めっき層の中に拡散させ、その後、冷却することにより所望のFe−Zn合金層を成長させている。
【0004】
ここで、合金化炉の内部は、加熱帯、保温帯及び冷却帯に区分けされ、それらは、めっき浴の上方に順に配置される。加熱帯でガス加熱方式が用いられている場合には、炉内の高温ガスのドラフト効果により上昇流が形成され、多量の外気が加熱帯の下部から保温帯に浸入し、保温帯内の温度が低下し、Fe−Zn合金層の成長が阻害される。一方、加熱帯で誘導加熱方式が用いられている場合には、ドラフト効果による上昇気流が弱く、冷却帯からその下側の保温帯へ冷風が流入し、保温帯の温度が低下する。
【0005】
溶融亜鉛めっき鋼帯に合金化処理を施す際に、保温帯への外気の流入を防止するための方法が従来から多数提案されている。
【0006】
特開平4−048059号公報には、合金化炉上端部の鋼板排出口に静圧パッドを配置し、この静圧パッドの圧力を調整することにより、炉内への外気の浸入を防止するとともに、合金化炉出側の鋼板温度を所定の値に保持することが記載されている。しかしながら、この方法では、静圧パッドの制御が、均熱帯出側の鋼板温度を所定の値に保持するように行われるため、これを実行した場合、目標とする鋼板温度によっては、均熱帯上部並びに下部の圧力が無制御状態となり、均熱帯へ外気が流入するおそれがある。また、均熱帯出側の鋼板放射率は、鋼種、操業条件により大幅に変わるので、この部分での温度測定は、事実上非常に困難である。
【0007】
特開平6−212387号公報には、合金化炉出側の排気ダクトに設けられたダンパの開度を変化させることにより、合金化炉上部の圧力をコントロールするとともに、合金化炉の直火加熱帯と均熱帯の境界部分に鋼帯に対向させて静圧パッドを配置し、これら静圧パッドと鋼帯との距離を変化させることにより、合金化炉入口部の圧力をコントロールすることが記載されている。この方法では、合金化炉入口部及び出口部の圧力を独立に制御することが可能であるが、加熱帯直後に静圧パッドを配置すると、加熱帯で昇温された鋼板に、静圧パッドからの噴射ガスが衝突することにより、鋼板が冷却される問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−048059号公報
【特許文献2】特開平6−212387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の溶融亜鉛めっき用合金化炉における炉内への空気侵入防止方法に関する問題点に鑑み成されたものであり、本発明の目的は、合金化炉の保温帯への外気の流入を防ぎ、それによって、保温帯の温度分布の安定性の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶融亜鉛めっき用合金化炉は、
溶融亜鉛めっき浴の上方に加熱帯及び保温帯が順に配置された溶融亜鉛めっき用合金化炉において、
保温帯の出側に、鋼帯を挟んで配置された静圧パッドと、
これらの静圧パッドに供給されるガス量を調整する流量調整装置と、
保温帯の内部に配置され、保温帯の内部のガス流速を検出するガス流速計と、
このガス流速計の出力に基づいて、保温帯の内部のガス流速が予め設定された目標値以下に維持されるように前記流量調整装置を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記静圧パッドは、鋼帯の一方の側に少なくとも1個、他方の側に少なくとも2個、千鳥状に配置される。あるいは、好ましくは、前記静圧パッドは、鋼帯を挟んで2対以上対向させて配置される。
【0012】
なお、上記のように全ての静圧パッドについてそのガス量を制御する代わりに、静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドのガス量のみを制御してもよい。
【0013】
その場合、前記静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドに対して流量調整装置を設け、これらの静圧パッドに供給されるガス量をこの流量調整装置で調整する。また、この流量調整装置を、前記ガス流速計の出力に基づいて、保温帯の内部のガス流速が予め設定された目標値以下に維持されるように制御装置で制御する。
【0014】
本発明の溶融亜鉛めっき用合金化炉によれば、保温帯の出側に静圧パッドを配置し、それらに供給されるガス量を上記のように制御することにより、鋼帯と静圧パッドの間に静圧を発生させて、その前後のガスの流れをせき止めることができる。なお、静圧パッドは、単なるスリットノズルと比べてガスの流量が少ないので、静圧パッドから保温帯に侵入するガスの量も少ない。これにより、保温帯の温度を安定させることができる。更に、静圧パッドの間に鋼帯が拘束されることによって、鋼帯の振動及びC反りを防止することもできる。
【0015】
なお、上記の構成(第一の態様と呼ぶ)の一部を変形し、保温帯の内部のガス流速を監視する代わりに保温帯の内部の圧力を測定し、その測定値に基づいて静圧パッドのガス量を制御しても良い。
【0016】
即ち、本発明の第二の態様によれば、溶融亜鉛めっき用合金化炉は、前記ガス流速計及び前記制御装置の代わりに、
保温帯の内部に配置され、保温帯の内部の圧力を測定する圧力計と、
この圧力計の出力に基づいて、保温帯の内部の圧力が予め設定された値で維持されるように前記流量調整装置を制御する制御装置とを備える。
【0017】
なお、これらの第二の態様の場合にも、第一の態様の場合と同様に、全ての静圧パッドのガス量を制御する代わりに、静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドに供給されるガス量のみを制御しても良い。
【0018】
更に、本発明の第三の態様として、各静圧パッドに供給されるガス量を、鋼帯の温度、鋼帯速度、鋼帯サイズ、及び保持帯の長さに基づき制御することもできる。その場合、各静圧パッドに供給されるガス量(Q)は、次式により与えられる:
【数1】

【0019】
但し、
A=1−Pr+(1/3)Pr
B=1/(60Pr)−1/(15Pr)+1/(12Pr
C=β・g・(Ts−T
M:形状係数
z:鋼帯表面からの距離[m]
y:保温帯入側からの高さ[m]
wall:鋼帯表面から保温帯壁までの距離[m]
Pr:雰囲気ガスのプラントル数[−]
g:重力加速度[m/s
Ts:鋼帯の温度[K]
:境界層外の雰囲気ガスの温度[K]
T:境界層内の雰囲気ガスの温度[K]
ρ:境界層外の雰囲気ガスの密度[kg/m
LS:ラインスピード[m/s]
W:鋼帯の幅[m]
ρ:境界層内の雰囲気ガスの密度[kg/m
なお、上記数式中の形状係数“M”は、静圧パッドの形状、設置位置、保温帯の形状により決まる係数であり、事前に各条件下で測定することによって求められる。
【0020】
上記数式により与えられるガス量“Q”の値は、走行する鋼帯による雰囲気ガスの随伴流及び自然対流が保温帯内に流入するのを防止するためのガス流量にほぼ相当している。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、保温帯の内部の状態を監視し、そのデータに基づいて静圧パッドに供給されるガス量を制御することによって、保温帯の温度分布を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の溶融亜鉛めっき用合金化炉で使用される静圧パッドの概略的な断面図、及び静圧パッドと鋼帯で挟まれる部分の圧力分布を示す図。
【図2】本発明の溶融亜鉛めっき用合金化炉を含む溶融めっきラインの概略図。
【図3】本発明の溶融亜鉛めっき用合金化炉の主要部を示す図。
【図4】保温帯の出側における静圧パッドの周囲のガスの流れについて説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(静圧パッドについて)
先ず、本発明の技術的背景について説明する。
【0024】
溶融亜鉛めっき用合金化炉の保温帯の温度分布は、保温帯に流入する外気の影響を大きく受ける。本願発明者らが調査したところによれば、ガス加熱方式による加熱帯の場合、炉内の高温ガスのドラフト効果に起因する上昇流により、多量の外気が保温帯に浸入し、保温帯内の温度が降下する。一方、誘導加熱方式による加熱帯の場合、上昇気流が弱く、冷却帯からその下側の保護帯へ冷風が流入し、保温帯の温度が降下する。従って、保温帯への外気の流入を防ぐことにより、保温帯の温度分布を安定させることができる。本願発明者らが見出したところによると、保温帯の出側に静圧パッドを設置し、この静圧パッドの流量を加熱帯からの上昇流と同程度の流量となるように調整することが、保温帯の温度分布を安定させるために有効である。
【0025】
ここで静圧パッドとは、鋼帯の走行方向に距離を開けて配置した2箇所のスリットノズルから、空気または窒素などのガスを噴出させて、そのガス流れでスリットノズル間に静圧の高い部分を作り出すものである。その特長として以下の点が挙げられる。
【0026】
(1)静圧パッド〜鋼帯間に形成された高い静圧部分により、制振効果及びC反り矯正効果を有する。
【0027】
(2)従来のスリットノズルと比較して少ない流量でC反り矯正及び制振が可能なため、ガス噴射部の上下方向への流れに対する影響が少ない。
【0028】
(3)高い静圧部分により、静圧パッドの上下からの流れを遮断する効果を有する。
【0029】
図1に、静圧パッドの概略的な断面図、及び静圧パッドと鋼帯で挟まれる部分の鋼帯の走行方向の圧力分布を示す。静圧パッド2には、鋼帯1に対向する側の上下(走行方向)2箇所にスリットノズル3a、3bが設けられている。配管5から静圧パッドのチャンバ4に送られた加圧空気は、スリットノズル3a、3bから噴射される。右側の圧力分布図に示すように、スリットノズル3a、3b間の鋼帯1と静圧パッド2のパッド部6で挟まれる部分に圧力の高い領域(エアクッション部分7)が形成される。スリットノズル3a、3bから噴射された空気が鋼帯1に衝突する部分が、特に高圧になる。
【0030】
静圧パッド2が、上記のように圧力の高い領域を形成する原理は、コアンダー効果と呼ばれる付着噴流により、スリットノズル3a、3bのスリット部分からノズルスリット〜スリット間の本体部分6に付着した流れが、外向きの流れ(静圧パッドから離れる流れ)に方向転換することによる運動量で、エアクッション7の部分の空気を封じ込めることによる。鋼帯1を静圧パッド2で挟み、鋼帯1が保温帯内へ持ち込む随伴流及び自然対流と同じ流量を静圧パッド2から噴射するように、静圧パッドのダンパ開度を調整することにより、冷たい随伴流及び自然対流の保温帯への流入を防ぐとともに、保温帯からの高温ガスの流出を防ぐことができる。更に、保温帯内部への冷却帯噴射ガスの流入もシャットアウトすることができ、保温帯の温度分布を安定させることできる。
【0031】
なお、保温帯の出側において、鋼帯の表裏に走行方向に沿って静圧パッドを千鳥状に配置すると、鋼帯の走行方向に若干の曲げ変形が付与され、張力変動による鋼帯の板面方向の変位が減少するため、鋼帯の走行を安定させることが可能になる。また、いわゆる耳波、中延びと呼ばれるような板形状不良があっても、曲率の小さな曲げ変形を繰り返して弾性変形を鋼帯に付加することになるため、鋼帯の位置を安定させることが可能になる。
【0032】
これに対して、保温帯の出側に、互いに対向する静圧パッドを一対のみ設置した場合には、保温帯への外気の流入を遮断するために静圧パッドのダンパ開度調整を行う必要があるので、それにより、鋼帯のC反り矯正及び制振効果が低下するおそれがある。そこで、保温帯の出側に、互いに対向する静圧パッドを二対以上設置し、保温帯の出側に最も近い一対の静圧パッドからの流量を調整することにより、保温帯内への外気の流入を防止すると同時に、それ以外の静圧パッドによって、鋼帯のC反り矯正及び制振効果を維持することが可能になる。更に、静圧パッドは、保温帯を出た後の鋼帯を冷却する効果も備えているため、冷却帯での鋼帯冷却の補助としても使用することができる。
【0033】
ガス加熱方式の加熱帯の場合、静圧パッドのダンパ開度を調整することにより、保温帯の出側からの高温ガスの流出を防ぎ、炉圧を保つことで、炉内の高温ガスのドラフト効果に起因する多量の外気の上昇流が保温帯内に流入するのを防止する。
【0034】
他方、誘導加熱方式の加熱帯の場合、静圧パッドの設置により冷却帯からの冷風の流入を遮断することができる。しかも、静圧パッドのダンパ開度を調整することにより、保温帯の出側からの高温ガスの流出を防ぎ、炉圧を保つことで、鋼帯が持ち込む随伴流及び自然対流の上昇流が保温帯内に流入するのを防止する。
【0035】
(本発明の第一の態様)
本発明の第一の態様によれば、保温帯の内部のガス流速を測定し、その値が予め設定された目標値以下に維持されるように、コントローラから静圧パッドのダンパに指令信号を送り、ダンパの開度を調整する。
【0036】
ここで、保温帯の内部でのガス流速計の設置位置(Z:Y)は、次式の条件を満たす範囲で設定される:
δ<Z<b,且つ,0<Y<L
但し、
δ=C・Z1/4
=[ν/(A・B・C)・(16/(189B))+8/3]1/4
A=1−Pr+(1/3)Pr
B=1/(60Pr)−1/(15Pr)+1/(12Pr
C=β・g・(Ts−T
β=(−1/ρ)・(ρ−ρ)/(T−T)
Z:鋼帯の表面からガス流速計までの距離[m]
Y:鋼帯の走行方向のガス流速計の設置位置[m]
b:鋼帯から保温帯の壁までの距離[m]
L:保温帯の長さ[m]
ν:雰囲気ガスの動粘性係数[m/sc]
Pr:雰囲気ガスのプラントル数[−]
g:重力加速度[m/s
Ts:鋼帯の温度[K]
:境界層外の雰囲気ガスの温度[K]
T:境界層内の雰囲気ガスの温度[K]
ρ:境界層外の雰囲気ガスの密度[kg/m
ρ:境界層内の雰囲気ガスの密度[kg/m
なお、上記の式により与えられる“Z”の値は、ガス流速計を鋼帯の表面から速度境界層の外側に相当する距離以上離して設置することを意味している。これによって、保温帯内の雰囲気ガス流速を安定的に測定することができる。また、鋼帯の走行方向の位置(Y)に関しては、好ましくは、ガス流速計を保温帯の中間付近に設置する。
【0037】
(本発明の第二の態様)
本発明の第二の態様によれば、保温帯の内部の圧力を測定し、その値が予め設定された目標値以下で維持されるように、静圧パッドに供給されるガス量を制御する。
【0038】
保温帯の圧力がゲージ圧で正の値をとっている場合、外気の流入など保温帯内に流れが生じているため、圧力の測定値が最小値となるように、静圧パッドへ供給されるガス量を制御する。
【0039】
ここで、保温帯の内部での圧力計の設置位置(Z:Y)は、先のガス流速計と同様に次式の条件を満たす範囲で定められる:
δ<Z<b,且つ,0<Y<L
なお、δ、b及びL等は、先にガス流速計について示したものと同一である。また、鋼帯の走行方向の位置(Y)に関しては、好ましくは、ガス流速計を保温帯の中間付近に設置する。
【0040】
(本発明の第三の態様)
本発明の第三の態様によれば、各静圧パッドに供給されるガス量(Q)を、次式で算出される値となるように制御する:
【数2】

【0041】
但し、M(形状係数)は、静圧パッドの形状、設置位置、保持帯の形状により決まる係数であり、本発明による設備を設置するラインにより、事前に測定し算出する必要がある。
【0042】
また、z、y、ywall、g、Ts、T∞、T、ρ、ρ、A、B、C、等は、先に定義したものと同じである。
【0043】
なお、上記のガス量(Q)は、全ての静圧パッドにそれぞれ供給されるか、あるいは、静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドにそれぞれ供給される。
【0044】
(溶融亜鉛めっき用合金化炉の全体構成)
次に、本発明に基づく溶融亜鉛めっき用合金化炉の全体構成について説明する。
【0045】
図2に、鋼帯の溶融亜鉛めっきラインの全体構成の一例を示す。図中、18は溶融亜鉛メッキ浴、20は加熱帯、21は保温帯、22a、22bは冷却帯を表わす。なお、溶融亜鉛めっきライン(18〜24)は連続焼鈍ライン(9〜17)の後段に連続的に設けられる。
【0046】
鋼帯1は、ペイオフリール9a(または9b)から引き出され、溶接機10、アルカリ洗浄装置11、及びルーパ12を経て、連続焼鈍炉(13〜17)に連続的に送られるようになっている。連続焼鈍炉は、上流側から順に、予熱炉13、直火加熱炉(DFF)14、ラジアントチューブ加熱炉(RTF)15、ガスジェット冷却帯16、及び調整冷却帯17を配置することにより構成されている。ガスジェット冷却帯16は、ガス噴射クーリングチューブ方式を用いており、鋼帯1を所定の温度に急冷することができるようになっている。調整冷却帯17は、連続焼鈍炉の最後の1パスに位置しており、循環冷却ファンにより鋼帯1を弱冷却し、最終的な表面温度調整を行うことができるようになっている。
【0047】
連続焼鈍炉(13〜17)の後段側に溶融亜鉛メッキ浴18が設けられている。溶融亜鉛メッキ浴18は、溶融状態の亜鉛で満たされており、その出側に気体絞り装置19が設けられている。気体絞り装置19は、溶融亜鉛メッキ浴から引き上げられた鋼帯1に気体を吹き付けて、亜鉛の付着量を適正量に調整する。
【0048】
気体絞り装置19の直上に合金化炉の加熱帯20が設けられている。加熱帯20には誘導加熱装置が設けられている。加熱帯20の上方に保温帯21が続き、更にその上方に冷却帯22aが設けられている。冷却帯22a(及び22b)では鋼帯1にエアを吹き付けて冷却する。トップエリア23を挟み、冷却帯22bにおいて鋼帯1の搬送方向が上昇から下降に変わり、鋼帯1は水冷部24を経てスキンパスミル(図示せず)に送られるようになっている。
【0049】
図3に、溶融亜鉛めっき用合金化炉の加熱帯20から冷却帯22までの部分拡大図を示す。図中、20は加熱帯、21は保温帯、22は冷却帯、2は静圧パッド、25はブロワ、26はダンパ(流量調整装置)、27はガス流速計、28はコントローラ(制御装置)を表わす。
【0050】
図に示すように、静圧パッド2のノズルへのガス導入経路は、配管及びダンパ26を介して、ブロワ25のエア吹き出し口に接続されている。ガス流速計27の検出端が保温帯の出口近傍に設けられている。このガス流速計27の出力はコントローラ28の入力部に接続されている。コントローラ28の出力部は、ダンパ26の開閉スイッチに接続されている。コントローラ28は、ガス流速計27によって検出される保温帯の出口近傍の流速が最小値の近くで維持されるように、ダンパ26に指令信号を送る。
【0051】
図4に示すように、この例では、静圧パッド2が、鋼帯の一方の側に1個、他方の側に2個、千鳥状に配置されている。パッド部(6:図1)から鋼帯1まで距離(h)は、可能な限り小さくすることが好ましいが、ノズル先端を鋼帯1のパスラインに接近させ過ぎると、鋼帯1がこれに衝突して表面疵となるので、30mm以上とすることが好ましく、通常は50mm程度とすることが望ましい。
【0052】
(合金化処理のプロセス)
次に、図2〜図4に示した溶融亜鉛めっき用合金化炉を用いて、めっき浴浸漬後の鋼帯に合金化処理を施すプロセスの一例について説明する。
【0053】
鋼帯1をペイオフリール9a(または9b)から毎分約120mの速度で引き出し、焼鈍炉(13〜17)に送る。鋼帯1を予熱炉13で所定の温度に予熱した後に、直火加熱炉14に導入する。直火加熱炉14内で鋼帯1の両面にバーナ火炎を吹き付け、鋼帯1を加熱する。直火加熱炉14の燃焼生成ガスは、廃熱回収装置の集合チャンバに集められ、ここで未燃ガス成分を二次燃焼させ、予熱炉の熱源の一部とする。鋼帯1を、直火加熱炉14で、最高720℃まで表面酸化を生じさせることなく、急速加熱する。垂直パスの直火加熱炉14内で再結晶温度以上の温度まで鋼帯1が加熱されるため、下部のロール室においては鋼帯1の形状が良好となり、鋼帯1の高速走行性が確保される。
【0054】
ラジアントチューブ加熱炉15では、鋼帯1に高温の還元性ガスを吹き付け、還元性雰囲気下で鋼帯を所定の温度に加熱し次いで均熱する。ガスジェット冷却帯16及び調整冷却帯17で鋼帯1の温度を所定の値に調整した後、鋼帯1を溶融亜鉛メッキ浴18に浸漬する。溶融亜鉛メッキ浴18から引き上げられた直後に、気体絞り装置19から鋼帯1の両面にガスを吹き付けて、付着した亜鉛の余剰分を除去する。
【0055】
加熱帯20で誘導加熱装置を用いて鋼帯1を所定の温度に加熱した後、保温帯21に送る。鋼帯1は数秒間で保温帯21を通過する。この間に、鋼帯1の表面に所定の厚さのFe−Zn合金層が形成される。
【0056】
なお、操業中は、ブロワ25を常時稼働状態にしておき、ダンパ26の開度を調節することにより静圧パッド2からの流量を調整する。ガス流速計27により保温帯21の出口近傍のガス流速を検出し、ガス流速が最小値の近くで維持されるようにコントローラ28からダンパ26に指令信号を送り、エアの吹き付け量を調節する。なお、保温帯21の温度分布を安定させるには、好ましくは、上記のガス流速を2m/s以下となるよう制御する。
【0057】
(比較試験の結果)
本発明に基づく溶融亜鉛めっき用合金化炉による効果を確認するため、静圧パッドに供給されるガス量を上記各方式に基づいてそれぞれ制御した場合の、保温帯内のガス流速、保温帯通過前後の鋼帯の温度差ΔT、及びC反り量を比較した。更に、静圧パッドの代わりに従来のスリットノズルを使用した場合 についても、同様の比較を行った。表1に、その結果を示す。
【表1】

【0058】
ここで、C反り量[mm]は、基準面から鋼帯の両エッジ部の2点及び中央部の1点までの距離をそれぞれ測定し、下式により求めた:
C反り量=中央部の距離−(片側エッジ部の距離+他方エッジ部の距離)/2
また、風向の“↑”は保温帯内が上昇流であることを意味し、“↓”は保温帯内が下降流であることを意味している。
【0059】
この表の中で、例1は、保温帯の内部のガス流速を測定し、その値が予め設定された目標値以下で維持されるように、静圧パッドに供給されるガス量を制御した場合のデータである。なお、ガス量の制御は、静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドのみについて行った。
【0060】
例2は、保温帯の内部の圧力を測定し、その値が予め設定された目標値以下で維持されるように、静圧パッドに供給されるガス量を制御した場合のデータである。この例では、圧力計を、保温帯の鋼帯走行方向についての中間位置に設置した。圧力(ゲージ圧)の値は、9.3Pa前後の値で維持された。なお、この場合も、ガス量の制御は、静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドのみについて行った。
【0061】
例3は、各静圧パッドに供給されるガス量(Q)を、先に示した式により設定した場合のデータである。形状係数Mは、予め測定し、この例においては0.73であった。なお、この場合も、ガス量の制御は、静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドのみについて行った。
【0062】
表1から分かるように、従来のスリットノズルを使用した場合には、保温帯の温度分布の均一性とC反り矯正能力がトレードオフ関係にある。一方、本発明に基づく溶融亜鉛めっき用合金化炉によれば、保温帯内のガス流速が低下し、鋼帯温度ΔTが小さくなり、保温帯の温度分布の安定性が改善されると同時に、C反り矯正能力も高まる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・鋼帯、2・・・静圧パッド、3a、3b・・・スリットノズル、4・・・チャンバ、5・・・配管、6・・・パッド本体部、7・・・静圧の高い領域、8・・・保熱帯の壁、9・・・ペイオフリール、10・・・溶接機、11・・・アルカリ洗浄装置、12・・・ルーパ、13・・・予熱炉、14・・・直火加熱炉、15・・・ラジアントチューブ加熱炉、16・・・ガスジェット冷却帯、17・・・調整冷却帯、18・・・溶融亜鉛メッキ浴、19・・・気体絞り装置、20・・・加熱帯、21・・・保温帯、22、22a、22b・・・冷却帯、23・・・トップエリア、24・・・水冷部、25・・・ブロワ、26・・・ダンパ(流量調整装置)、27・・・ガス流速計、28・・・コントローラ(制御装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき浴の上方に加熱帯及び保温帯が順に配置された溶融亜鉛めっき用合金化炉において、
保温帯の出側に、鋼帯の一方の側に少なくとも1個、他方の側に少なくとも2個、千鳥状に配置され、または、鋼帯を挟んで2対以上対向させて配置された静圧パッドと、
これらの静圧パッドに供給されるガス量を調整する流量調整装置と、
保温帯の内部に配置され、保温帯の内部の圧力を測定する圧力計と、
この圧力計の出力に基づいて、保温帯の内部の圧力が予め設定された目標値以下で維持されるように前記流量調整装置を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする溶融亜鉛めっき用合金化炉。
【請求項2】
溶融亜鉛めっき浴の上方に加熱帯及び保温帯が順に配置された溶融亜鉛めっき用合金化炉において、
保温帯の出側に、鋼帯の一方の側に少なくとも1個、他方の側に少なくとも2個、千鳥状に配置され、または、鋼帯を挟んで2対以上対向させて配置された静圧パッドと、
前記静圧パッドの内、鋼帯の一方の側及び他方の側でそれぞれ保温帯に最も近い位置に配置された静圧パッドに対して設けられ、これらの静圧パッドに供給されるガス量を調整する流量調整装置と、
保温帯の内部に配置され、保温帯の内部の圧力を測定する圧力計と、
この圧力計の出力に基づいて、保温帯内の圧力が予め設定された目標値以下で維持されるように前記流量調整装置を制御する制御装置と、
を備えたことを特徴とする溶融亜鉛めっき用合金化炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−149992(P2009−149992A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−19138(P2009−19138)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【分割の表示】特願2004−2898(P2004−2898)の分割
【原出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】