説明

溶融塩電池及び溶融塩電池の製造方法

【課題】ナトリウムを活物質とした電極を大型化した溶融塩電池、及び溶融塩電池の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の溶融塩電池は、金属製の基材11上にナトリウム膜12を形成するか、又は基材11上に溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い下地膜13を形成して下地膜13上にナトリウム膜12を形成した負極1を備えている。負極1は、基材11又は下地膜13を形成した基材11を溶融金属ナトリウムに浸漬することにより製造する。負極1は、金属ナトリウムで形成した電極に比べて、強度が高くなり、また電極の製造に必要な設備がより簡単になるので、負極1の大型化が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の活物質にナトリウムを用いた溶融塩電池、及び溶融塩電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーの利用が進められている。自然エネルギーを利用して発電を行った場合は、天候等の自然条件の変化に起因して発電量が変動し易く、また電力需要に応じて発電量を調整することが難しい。従って、自然エネルギーを利用して発電した電力を供給するには、蓄電池を用いた充電・放電により、供給電力を平準化することが必要となる。このため、自然エネルギーの利用を更に促進させるためには、高エネルギー密度・高効率の蓄電池が不可欠である。このような蓄電池として、特許文献1に開示されたナトリウム−硫黄電池がある。ナトリウム−硫黄電池は、活物質として溶融状態のナトリウムを用いた電池であり、内部の温度はナトリウムの融点(約98℃)を超過した高温となっている。ナトリウム−硫黄電池は、金属ナトリウムを容器内に封入することによって製造され、その後内部の温度を上昇させて金属ナトリウムを溶解させた上で電池として動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−040866号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Addison, Iberson and Manning, "Liquid Metals. Part V. The Role of Oxide Films in the Wetting of Iron, Cobalt, and Nickel by Liquid Sodium, and by Solutions of Barium and Calcium in Liquid Sodium.", J. Chem. Soc., 1962, 2699.
【非特許文献2】Addison and Iberson, "Liquid Metals. Part XI. The Wetting of Chromium, Molybdenum, and Tungsten by Liquid Sodium.", J. Chem. Soc., 1965, 1437.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナトリウム−硫黄電池は、ナトリウムの融点を超過した高温で動作させる必要があるので、使用する際には内部の温度を上昇させるのに時間がかかると言う問題がある。また溶融状態のナトリウムは反応性が高いので、ナトリウム−硫黄電池は安全性が低いという問題がある。これに対し、ナトリウムの融点よりも低い温度で溶融する溶融塩を電解液として利用し、溶融していないナトリウムを活物質とした溶融塩電池が着目されている。このような溶融塩電池では、ナトリウム−硫黄電池よりも動作温度が低いので、温度上昇に必要な時間が短くなり、また安全性が向上する。
【0006】
溶融塩電池では、電極の一方を金属ナトリウムとすると、容量密度を最大にすることができる。しかしながら、金属ナトリウムは柔らかいので、金属ナトリウムを加工して作成した電極は大型化するほど壊れ易くなる。また、金属ナトリウムは反応性が高く、大気中で金属ナトリウムを加工することは危険であるので、金属ナトリウムを加工する作業は、雰囲気を調整したグローブボックス内で行うことが必要となる。グローブボックス内では、小型のナトリウム電極を手作業で作成することは可能であるものの、ロールプレス等の設備を必要とする機械加工で大型のナトリウム電極を製造することは困難である。これらの理由のため、実用的な溶融塩電池に用いることができる大型のナトリウム電極を製造することは困難であるという問題がある。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ナトリウム膜によって電極を形成することにより、ナトリウムを活物質とした電極を大型化した溶融塩電池、及び溶融塩電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶融塩電池は、電極の活物質にナトリウムを用いた溶融塩電池において、前記電極は、金属製の基材をナトリウム膜で被覆してなることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る溶融塩電池は、前記基材上に、該基材よりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属で、前記ナトリウム膜の下地となる下地膜を形成してあり、該下地膜上に前記ナトリウム膜を形成してあることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る溶融塩電池は、前記下地膜の材料は、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンであることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る溶融塩電池は、前記下地膜の材料は、ニッケル又はコバルトであることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る溶融塩電池は、前記基材の主材料はニッケルであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る溶融塩電池は、前記基材の主材料はアルミニウムであることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る溶融塩電池の製造方法は、電極の活物質にナトリウムを用いた溶融塩電池を製造する方法において、溶融した金属ナトリウムに金属製の基材を浸漬することにより、前記基材をナトリウム膜で被覆し、ナトリウム膜で被覆した前記基材を一方の電極として、溶融塩電池を製造することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る溶融塩電池の製造方法は、前記基材を溶融した金属ナトリウムに浸漬する前に、前記基材上に、該基材よりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属で、前記ナトリウム膜の下地となる下地膜を形成し、溶融した金属ナトリウムの温度を、前記下地膜の成分とナトリウムとが反応する温度以上に調整することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る溶融塩電池の製造方法は、前記基材を平板状に形成しておき、溶融した金属ナトリウム内に温度勾配を発生させ、厚さ方向に温度が変化する向きで前記基材を溶融した金属ナトリウムに浸漬することを特徴とする。
【0016】
本発明においては、溶融塩電池は、金属製の基材を溶融金属ナトリウムに浸漬することによって基材をナトリウム膜で被覆した電極を備える。金属ナトリウムで電極を形成することに比べて、電極の強度が高くなり、電極の製造に必要な設備がより簡単になる。
【0017】
また本発明においては、基材よりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属で下地膜を基材上に形成し、下地膜上にナトリウム膜を形成することにより、溶融塩電池の電極を製造する。基材にナトリウム膜を直接形成することに比べて、低温度又は短時間でナトリウム膜が形成される。
【0018】
また本発明においては、下地膜の材料を鉄、タングステン、クロム又はモリブデンとすることにより、低温度又は短時間でナトリウム膜が形成される。
【0019】
また本発明においては、下地膜の材料をニッケル又はコバルトとすることにより、ナトリウムに対する反応性が低い基材を用いた場合でもナトリウム膜を形成することができる。
【0020】
また本発明においては、電極の基材の材料をニッケルとすることにより、電極の電解質に対する耐性が高くなる。
【0021】
また本発明においては、電極の基材の材料をアルミニウムとすることにより、電極が軽量化される。
【0022】
また本発明においては、温度勾配を有する溶融金属ナトリウムに平板状の基材を浸漬することにより、基材の片面にナトリウム膜を形成する。
【発明の効果】
【0023】
本発明にあっては、溶融塩電池の電極は、金属ナトリウムで形成した電極に比べて、強度が高くなり、大型化が可能である。また電極の製造に必要な設備がより簡単になり、電極を大型化することがより容易となる。従って、電極の活物質にナトリウムを用いた電極を大型化した実用的な溶融塩電池が実現可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1に係る溶融塩電池の構成例を示す模式的分解断面図である。
【図2】実施の形態1に係る溶融塩電池の負極の模式的断面図である。
【図3】ナトリウム膜を形成する方法を示す模式的断面図である。
【図4】溶融金属ナトリウムの温度とナトリウム膜が形成されるまでの基材の浸漬時間との関係を示す特性図である。
【図5】実施の形態2に係る溶融塩電池の負極の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る溶融塩電池の構成例を示す模式的分解断面図である。溶融塩電池は、上面が開口した箱状の電池容器41内に、正極2、セパレータ3及び負極1を積層して配置し、電池容器41に蓋部42を冠着して構成されている。正極2及び負極1は矩形平板状に形成されており、セパレータ3はシート状に形成されている。セパレータ3は正極2及び負極1の間に介装されており、正極2、セパレータ3及び負極1は正極2が電池容器41の底側に位置するように配置されている。
【0026】
正極2は、アルミニウムからなる矩形板状の正極集電体21上に、NaCrO2 等の正極活物質とバインダとを含む正極材22を塗布して形成してある。なお、正極活物質はNaCrO2 に限定されるものではなく、その他の金属又は金属化合物であってもよく、硫黄等の非金属物質であってもよい。正極集電体21は、アルミニウムに限定されず、例えばステンレス鋼であってもよい。セパレータ3は、ガラスクロス等の絶縁性の材料で内部に電解質を保持できるように形成されている。セパレータ3には、電解質である溶融塩を含浸させてある。本実施の形態では、電解質としてFSI(ビスフルオロスルフォニルイミド)又はTFSI(ビストリフルオロメチルスルフォニルイミド)系アニオンと、ナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなる溶融塩を用いる。この溶融塩は、ナトリウムの融点よりも低い温度の80℃以上で溶融する溶融塩である。
【0027】
図2は、実施の形態1に係る溶融塩電池の負極1の模式的断面図である。負極1は、矩形板状に形成された金属製の基材11をナトリウム膜12で被覆した構成となっている。ナトリウム膜12は、負極活物質であるナトリウムを主成分として形成されている。ナトリウム膜12は金属ナトリウムで形成されており、ナトリウムと他の物質との化合物を含んでいてもよい。ナトリウム膜12の厚みは、20μm〜100μmである。ナトリウム膜12の厚みは溶融塩電池の容量に関係する。溶融塩電池で最低限度の容量を確保するためには、ナトリウム膜12の厚みは20μm以上にすることが必要である。
【0028】
基材11は、負極集電体の役割を果たす。基材11の材料は、ニッケル、コバルト、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンである。これらの金属は、溶融した金属ナトリウムの濡れ性を有する金属である。これらの金属の内、ニッケルは、電解質である溶融塩に対して最も耐性があり、溶融塩電池の充放電時に溶融塩に対して溶出し難い。このため、ニッケルを基材11の材料とした場合は、溶融塩電池が充放電を繰り返したときに負極1が劣化し難く、溶融塩電池の寿命が最も長くなる。従って、溶融塩電池の寿命の観点からは、基材11の材料をニッケルとすることが望ましい。なお、基材11は、単体の金属で形成されている必要はなく、ニッケル、コバルト、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンの合金で形成されていてもよく、他の物質との化合物を含んでいてもよい。
【0029】
ナトリウム膜12は、基材11を溶融した金属ナトリウムの中に浸漬することにより形成される。図3は、ナトリウム膜12を形成する方法を示す模式的断面図である。ホットプレート等の平板状のヒータ53上に、耐熱ガラス等の耐熱性の材料で形成された反応容器52を載置し、反応容器52内に金属ナトリウムを投入する。ヒータ53で反応容器5内の金属ナトリウムを加熱することにより、98℃以上で金属ナトリウムは溶融し、溶融金属ナトリウム51となる。ヒータ53には、図示しない温度制御部が接続されており、ヒータ53は反応容器52内の溶融金属ナトリウム51の温度を調整する。反応容器52を載置させたヒータ53で溶融金属ナトリウム51を加熱することにより、溶融金属ナトリウム51内には、下側が高温で上側が低温となる温度勾配が生ずる。矩形板状の基材11は、温度勾配により温度が変化する方向が厚さ方向になるような向きで、溶融金属ナトリウム51内に浸漬される。基材11は、図示しない把持具で把持された上で浸漬されるか、又は、側面視でL字状に屈曲させた部材の矩形平板状の一部分を基材11として浸漬される等の方法で、溶融金属ナトリウム51内に浸漬される。以上の作業は、雰囲気を調整したグローブボックス内で行われる。
【0030】
ニッケル、コバルト及び鉄のナトリウムに対する反応性は、非特許文献1に記載されており、タングステン、クロム及びモリブデンのナトリウムに対する反応性は、非特許文献2に記載されている。これらの金属は、各金属に特有の濡れ温度以上の温度で、ナトリウムと反応し、溶融金属ナトリウム51の濡れ性が向上する。即ち、基材11の材料に応じた特定の温度以上で、基材11と溶融金属ナトリウム51との界面に化合物が形成され、基材11と溶融金属ナトリウム51との間の濡れ性が向上し、溶融金属ナトリウム51が基材11に付着してナトリウム膜12が形成される。例えば、基材11の材料がタングステンである場合は、160℃以上で基材11と溶融金属ナトリウム51との界面にNa2 WO4 が生成し、更にナトリウム膜12が形成される。溶融金属ナトリウム51の温度が高いほど、ナトリウム膜12が形成される速度は大きくなる。溶融金属ナトリウム51内には、基材11の厚さ方向の温度勾配が生じているので、基材11の温度が高い方の面にナトリウム膜12が形成される。図3に示す例では、基材11の下側の面にナトリウム膜12が形成される。また溶融金属ナトリウム51の温度が高いほど、厚さ20μm以上のナトリウム膜12が形成されるまで基材11を溶融金属ナトリウム51に浸漬している時間である浸漬時間は、短くなる。
【0031】
図4は、溶融金属ナトリウム51の温度とナトリウム膜12が形成されるまでの基材11の浸漬時間との関係を示す特性図である。図4中には、基材11の材料がニッケル、タングステン又はモリブデンである場合の実験結果を示す。材料がタングステン又はモリブデンである基材11には、160℃未満の温度ではナトリウム膜12は形成されない。基材11の材料がタングステンである場合、厚さ20μm以上のナトリウム膜12が形成されるまでの浸漬時間は、160℃で100分、180℃で60分、200℃で30分、220℃で15分であった。また、基材11の材料がモリブデンである場合、厚さ20μm以上のナトリウム膜12が形成されるまでの浸漬時間は、160℃で90分、180℃で45分、200℃で25分、220℃で15分であった。基材11の材料がクロムである場合でも、タングステン又はモリブデンとほぼ同様の温度及び時間でナトリウム膜12が形成される。また、材料がニッケルである基材11には、195℃未満の温度ではナトリウム膜12は形成されない。基材11の材料がニッケルである場合、厚さ20μm以上のナトリウム膜12が形成されるまでの浸漬時間は、200℃で60分、220℃で20分、240℃で8分、260℃で3分であった。基材11の材料がコバルトである場合でも、ニッケルとほぼ同様の温度及び時間でナトリウム膜12が形成される。
【0032】
基材11の材料に応じた濡れ温度以上の温度で溶融金属ナトリウム51に基材11を浸漬時間以上の時間浸漬した後、基材11を溶融金属ナトリウム51から引き上げることにより、基材11をナトリウム膜12で被覆してなる負極1を製造する。タングステン、クロム又はモリブデンを材料とした基材11は、ニッケルを材料とした基板11よりも、低い温度でナトリウム膜12を形成することができ、また同温度ではより短時間でナトリウム膜12を形成することができる。従って、負極1を製造する工程の省エネルギー及び効率向上の観点からは、基材11の材料をタングステン、クロム又はモリブデンとすることが望ましい。
【0033】
負極1を製造した後は、正極2の正極材22と負極1のナトリウム膜12とを向かい合わせにし、正極2と負極1との間にセパレータ3を介装して正極2、セパレータ3、負極1を電池容器41内に配置する。電池容器41の内側は、正極2と負極1との短絡を防止するために、絶縁性の樹脂で被覆する等の方法により絶縁性の構造となっている。蓋部42は、絶縁性の接着剤を用いて電池容器41に接着する等の方法により、電池容器41から絶縁した状態で電池容器41に冠着される。更に、正極2の正極集電体21は、直接に又はリード線等の導電性部材を介して、電池容器41に電気的に接続され、負極1の基材11は、同様に蓋部42に電気的に接続される。以上のようにして、本実施の形態に係る溶融塩電池は製造される。
【0034】
溶融塩電池は、ナトリウムの融点以下でしかも溶融塩が溶融する温度範囲で、電池容器41を正極端子とし、蓋部42を負極端子とした二次電池として機能する。本実施の形態においては、溶融塩は、80℃以上の温度で溶融し、電解液となる。即ち、本実施の形態に係る溶融塩電池は、80℃〜98℃の温度で、溶融塩がナトリウムイオンを含んだ電解液となり、二次電池として動作する。なお、図1に示した溶融塩電池の構成は模式的な構成であり、溶融塩電池内には、内部を加熱するヒータ、充放電に伴う正極2又は負極1の変形を吸収する弾性部材、又は温度センサ等、図示しないその他の構成物が含まれていてもよい。
【0035】
以上詳述した如く、本実施の形態に係る溶融塩電池では、金属製の基材11をナトリウム膜12で被覆することによって負極1を製造する。金属製の基材11は金属ナトリウムよりも強度が高いので、本発明における負極1は、金属ナトリウムで形成した電極に比べて、強度が高くなり、大型化が可能である。また本発明における負極1は、金属ナトリウムの機械加工を必要とすることなく、溶融金属ナトリウム51に基材11を浸漬することで製造するので、製造に必要な設備がより簡単になり、負極1を大型化することがより容易となる。従って、負極活物質にナトリウムを用いた負極1を大型化した実用的な溶融塩電池が実現可能となる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、矩形板状の基材11の片面をナトリウム膜12で被覆する形態を示したが、本発明の溶融塩電池は、基材11の両面をナトリウム膜12で被覆してなる負極1を備えた形態であってもよい。この形態の場合は、温度勾配のない溶融金属ナトリウム51に基材11を浸漬することによって、基材11の両面にナトリウム膜12を形成する。この形態の溶融塩電池は、2個の正極2及びセパレータ3を備え、負極1の両面の夫々に対向する位置にセパレータ3及び正極2を配置して構成される。基材11の両面にナトリウム膜12を形成し、2個の正極2を備えることにより、溶融塩電池は容量を増大させることができる。また、溶融塩電池の形状は直方体の形状に限るものではなく、その他の形状であってもよい。例えば、基材11の形状を円柱状にし、基材11の表面をナトリウム膜12で被覆した負極1を備え、負極1の周囲に円筒状のセパレータ3及び正極2を備えることにより、溶融塩電池の形状を円柱状にしてもよい。
【0037】
また、本実施の形態においては、電解質としてFSI又はTFSI系アニオンとナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなる溶融塩を用い、80℃以上の温度で動作する溶融塩電池の例を示したが、本発明の溶融塩電池は、ナトリウムの融点以下の温度で溶融する溶融塩であれば、電解質としてその他の溶融塩を用いた形態であってもよい。電解質としてその他の溶融塩を用いた溶融塩電池は、溶融塩が溶融する温度以上で動作する。
【0038】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、負極の基材の材料にナトリウムとの反応性が低い材料を用いた形態を示す。実施の形態2に係る溶融塩電池の構成は、実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0039】
図5は、実施の形態2に係る溶融塩電池の負極1の模式的断面図である。負極1は三層構造となっている。溶融金属ナトリウム51の濡れ性が無い金属で矩形板状に形成された基材11上に、溶融金属ナトリウム51の濡れ性を有する金属で、ナトリウム膜12の下地になる下地膜13が形成されており、更に下地膜13上に、ナトリウム膜12が形成されている。例えば、基材11の主材料はアルミニウムであり、基材11は金属アルミニウム又はアルミニウム合金を主成分とする金属で形成されている。下地膜13の厚みは、50nm以上であり、ナトリウム膜12の厚みは、実施の形態1と同様に、20μm〜100μmである。下地膜13の材料は、溶融金属ナトリウム51の濡れ性を有するニッケル、コバルト、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンである。
【0040】
下地膜13は、基材11の表面に金属めっきを施すことにより形成される。例えば、基材11の表面にストライクめっきを行うことにより、下地膜13を形成する。また例えば、ジンケート処理として基材11の表面に亜鉛をめっきした後に下地膜13の材料金属をめっきすることにより、下地膜13を形成する。また、物理蒸着又は気相めっきにより下地膜13を形成してもよい。下地膜13は、単体の金属で形成されている必要はなく、ニッケル、コバルト、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンの合金で形成されていてもよく、他の物質との化合物を含んでいてもよい。
【0041】
ナトリウム膜12は、表面に下地膜13を形成した基材11を溶融金属ナトリウム51の中に浸漬することにより形成される。下地膜13の材料に応じた濡れ温度以上の温度で、下地膜13と溶融金属ナトリウム51との界面に化合物が形成され、下地膜13と溶融金属ナトリウム51との間の濡れ性が向上し、溶融金属ナトリウム51が下地膜13に付着してナトリウム膜12が形成される。下地膜13の材料をタングステン、クロム又はモリブデンとした場合は、ナトリウム膜12は160℃以上の温度で形成される。下地膜13の材料を鉄とした場合は、ナトリウム膜12は140℃以上の温度で形成される。また下地膜13の材料をニッケル又はコバルトとした場合は、ナトリウム膜12は195℃以上の温度で形成される。ニッケルは、溶融塩に対して最も耐性があるので、溶融塩電池の寿命の観点からは、下地膜13の材料をニッケルとすることが望ましい。また、負極1を製造する工程の省エネルギー及び効率向上の観点からは、下地膜13の材料を鉄、タングステン、クロム又はモリブデンとすることが望ましい。
【0042】
下地膜13の材料に応じた濡れ温度以上の温度の溶融金属ナトリウム51に、厚さ20μm以上のナトリウム膜12が形成される時間以上の時間基材11を浸漬した後、基材11を溶融金属ナトリウム51から引き上げることにより、負極1を製造する。負極1を製造した後は、実施の形態1と同様に、製造した負極1を用いて溶融塩電池を製造する。本実施の形態においても、金属ナトリウムで電極を形成することに比べて、負極1を大型化することがより容易となり、負極活物質にナトリウムを用いた負極1を大型化した実用的な溶融塩電池が実現可能となる。
【0043】
アルミニウムは軽量であるので、基材11の材料をアルミニウムとすることができれば、負極1の軽量化を図ることができる。しかし、アルミニウムは溶融金属ナトリウム51の濡れ性を有さないので、アルミニウム製の基材11に直接にナトリウム膜12を形成させることは難しい。本実施の形態では、基材11上に溶融金属ナトリウム51の濡れ性を有する金属で下地膜13を形成し、下地膜13上にナトリウム膜12を形成することにより、溶融金属ナトリウム51の濡れ性を有さない基材11を用いた負極1の製造を可能にした。このため、負極活物質にナトリウムを用いた負極1の基材11の主材料をアルミニウムとすることにより、溶融塩電池を軽量化することが可能となる。
【0044】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る溶融塩電池の構成は、実施の形態2と同様であり、負極1の基材11及び下地膜13の材料が実施の形態2と異なる。本実施の形態においては、基材11の主材料はニッケルである。基材11は、金属ニッケル又はニッケル合金を主成分とする金属で形成されている。下地膜13の材料は、鉄、タングステン、クロム又はモリブデン等、ニッケルよりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属である。下地膜13は、単体の金属で形成されている必要はなく、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンの合金で形成されていてもよく、他の物質との化合物を含んでいてもよい。負極1の製造方法、及び溶融塩電池の製造方法は、実施の形態2と同様である。本実施の形態においても、金属ナトリウムで電極を形成することに比べて、負極1を大型化することがより容易となり、負極活物質にナトリウムを用いた負極1を大型化した実用的な溶融塩電池が実現可能となる。
【0045】
本実施の形態においては、基材11の主材料をニッケルとすることにより、溶融塩電池の電解質である溶融塩に対する負極1の耐性が高くなり、溶融塩電池の寿命が長くなる。また鉄、タングステン、クロム又はモリブデン等のニッケルよりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属で形成した下地膜13上にナトリウム膜12を形成することにより、基材11にナトリウム膜12を直接形成するよりも低温度又は短時間でナトリウム膜12を形成することができる。従って、本実施の形態においては、溶融塩電池の長寿命化と、負極1を製造する工程の省エネルギー及び効率向上とを、両立させることが可能となる。
【0046】
なお、以上の実施の形態1〜3においては、金属製の基材をナトリウム膜で被覆してなる電極を負極として用いる形態を示したが、本発明の溶融塩電池は、これに限るものではなく、基材をナトリウム膜で被覆した電極を正極として用いる形態であってもよい。例えば、もう一方の電極の材料によっては、基材をナトリウム膜で被覆した電極を正極として用いることができる。また、基材をナトリウム膜で被覆した電極を放電後の正極として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 負極
11 基材
12 ナトリウム膜
13 下地膜
2 正極
3 セパレータ
41 電池容器
42 蓋部
51 溶融金属ナトリウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の活物質にナトリウムを用いた溶融塩電池において、
前記電極は、金属製の基材をナトリウム膜で被覆してなることを特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記基材上に、該基材よりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属で、前記ナトリウム膜の下地となる下地膜を形成してあり、該下地膜上に前記ナトリウム膜を形成してあること
を特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記下地膜の材料は、鉄、タングステン、クロム又はモリブデンであることを特徴とする請求項2に記載の溶融塩電池。
【請求項4】
前記下地膜の材料は、ニッケル又はコバルトであることを特徴とする請求項2に記載の溶融塩電池。
【請求項5】
前記基材の主材料はニッケルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の溶融塩電池。
【請求項6】
前記基材の主材料はアルミニウムであることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一つに記載の溶融塩電池。
【請求項7】
電極の活物質にナトリウムを用いた溶融塩電池を製造する方法において、
溶融した金属ナトリウムに金属製の基材を浸漬することにより、前記基材をナトリウム膜で被覆し、
ナトリウム膜で被覆した前記基材を一方の電極として、溶融塩電池を製造すること
を特徴とする溶融塩電池の製造方法。
【請求項8】
前記基材を溶融した金属ナトリウムに浸漬する前に、前記基材上に、該基材よりも溶融金属ナトリウムの濡れ性が良い金属で、前記ナトリウム膜の下地となる下地膜を形成し、
溶融した金属ナトリウムの温度を、前記下地膜の成分とナトリウムとが反応する温度以上に調整すること
を特徴とする請求項7に記載の溶融塩電池の製造方法。
【請求項9】
前記基材を平板状に形成しておき、
溶融した金属ナトリウム内に温度勾配を発生させ、
厚さ方向に温度が変化する向きで前記基材を溶融した金属ナトリウムに浸漬すること
を特徴とする請求項7又は8に記載の溶融塩電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−228211(P2011−228211A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99040(P2010−99040)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】