説明

溶融塩電池用電極及びそれを用いた溶融塩電池

【課題】金属多孔体からなる集電体を用いながら、活物質の利用率を向上させることができる溶融塩電池用電極及びそれを用いた溶融塩電池を提供する。
【解決手段】溶融塩電池1の正極2は、金属多孔体からなる正極集電体21aに正極活物質21bを充填することにより形成され、表面から前記正極集電体21aが部分的に露出している電極層21を備えている。前記電極層21の表面には、正極集電体21aの露出部分21a1を埋没させる厚みtを有するトップコート層22が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩電池用電極及びそれを用いた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、ハイブリッド車両や電気自動車用等の電動車両の駆動用電源としてのニーズが高まっている。この目的に対応した二次電池として、高エネルギー密度で大容量の溶融塩電池が着目されている。この溶融塩電池に用いられる電極には、他の二次電池と同様に、金属多孔体からなる集電体に活物質を充填したものが多用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3は、従来の溶融塩電池を示す概略構成図である。この溶融塩電池は、その電極である正極101及び負極102と、これら両極101,102間に介在するセパレータ103とを備えている。前記正極101は、金属多孔体からなる集電体104に活物質105を充填することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−231983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の溶融塩電池にあっては、正極101を製作する際に、図3に示すように、集電体104が部分的に外部に露出する場合がある。この場合には、図3の矢印Aで示すように、集電体104の露出部分104aに電流が集中するため、活物質105の表面側は充電されるが、活物質105の内部側はほとんど充電されない状態となる。その結果、活物質105の利用率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、金属多孔体からなる集電体を用いながら、活物質の利用率を向上させることができる溶融塩電池用電極及びそれを用いた溶融塩電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の溶融塩電池用電極は、金属多孔体からなる集電体に活物質を充填することにより形成され、表面から前記集電体が部分的に露出している電極層と、前記電極層の表面に形成され、前記集電体の露出部分を埋没させる厚みを有するトップコート層と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、電極層の表面から露出する集電体の露出部分をトップコート層により埋没させているため、前記露出部分に電流が集中するのを防止することができる。これにより、電極層の活物質は層全体に亘って均一に充電されるため、活物質の利用率を向上させることができる。
【0009】
(2)前記溶融塩電池用電極は、前記トップコート層が、前記活物質を含有しているのが好ましい。この場合、活物質量が増加するため、溶融塩電池の容量を大きくすることができる。
【0010】
(3)本発明の溶融塩電池は、上記溶融塩電池用電極を用いていることを特徴とする。
本発明によれば、電極層の表面から露出する集電体の露出部分をトップコート層により埋没させているため、前記露出部分に電流が集中するのを防止することができる。これにより、電極層の活物質は層全体に亘って均一に充電されるため、活物質の利用率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極層の活物質は層全体に亘って均一に充電されるため、活物質の利用率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る溶融塩電池の概略構成図である。
【図2】トップコート層無しの溶融塩電池用電極とトップコート層有りの溶融塩電池用電極とを比較した表である。
【図3】従来の溶融塩電池の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る溶融塩電池の概略構成図である。図1において、溶融塩電池1は、電池容器(図示省略)の内部に溶融塩電池用電極である正極2と、負極3と、これら正極2と負極3との間に介在するセパレータ4とを収容して構成されている。また、前記電池容器の内部には溶融塩(図示省略)が充填されており、溶融塩電池1を図示しないヒータ等により加熱することにより、溶融塩が融解して充電及び放電が可能となる。
【0014】
負極3は、図示しない負極集電体と負極活物質とを有しており、負極活物質としては例えばSn−Na合金が用いられている。セパレータ4は、溶融塩電池1が動作する温度で溶融塩に対する耐性を有する多孔質膜として、例えばガラスペーパーにより構成されている。
【0015】
正極2は、電極層21と、この電極層21の表面に形成されたトップコート層22とを備えている。電極層21は、金属多孔体からなる正極集電体21aに正極活物質21bと図示しない結着剤(バインダー)を含有するスラリーを充填した後、プレスにより調厚することによって形成される。
【0016】
正極集電体21aは、金属多孔体として、例えばアルミニウム合金からなる住友電気工業株式会社製のセルメット(商標登録)により構成されている。本実施の形態のセルメットは、平均孔径が564μm、厚みが1mmに設定されており、電極層21の上下両表面からそれぞれ部分的に露出する露出部分21a1を有している。なお、セルメットに形成される無数の孔は、それぞれ大きさが異なる不規則な形状をしているが、図1では説明の便宜上、同一の大きさで菱形状に形成している。
正極活物質21bとしては、例えば亜クロム酸ナトリウム(NaCrO)が用いられている。
【0017】
トップコート層22は、電極層21の図1の上下両表面に形成されている。具体的には、トップコート層22は、正極活物質21bを含有する前記スラリーを、電極層21の上下両表面のそれぞれに50μmの厚みで上塗りした後、プレスにより正極2全体の厚みTを0.85mmに調厚することによって形成されている。
【0018】
また、トップコート層22は、正極集電体21aの露出部分21a1を埋没させる厚みtを有している。この厚みtは、薄すぎると正極集電体21aがトップコート層22の表面から露出する可能性があり、厚すぎるとトップコート層22の表面から正極集電体21aまでの距離が長くなるため、抵抗が大きくなり高出力化を阻害することになる。このため、電極層21の上下両表面のそれぞれにおけるトップコート層22の上塗り時の厚みを、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μmに設定するのが望ましい。
【0019】
図2は、トップコート層無しの溶融塩電池用電極と、トップコート層有りの溶融塩電池用電極との評価試験を行った結果を示す表である。この評価試験では、トップコート層無しの溶融塩電池は、本実施の形態のセルメットに前記スラリーを充填した後、プレスにより0.75mmに調厚された正極と、本実施の形態と同一の負極及びセパレータを使用している。また、トップコート層有りの溶融塩電池は、本実施の形態と同一の正極、負極及びセパレータを使用している。評価試験の評価方法は、前記各溶融塩電池のそれぞれの電極について、0.1Cにより2.5〜3.5Vの範囲で充放電評価をすることにより行った。
【0020】
図2において、トップコート層無しの溶融塩電池とトップコート層有りの溶融塩電池とを比較すると、正極活物質量は、トップコート層有りの溶融塩電池のほうがトップコート層無しの溶融塩電池よりも増加していることが分かる。そして、これに伴って、設計容量及び実測容量は、トップコート層有りの溶融塩電池のほうがトップコート層無しの溶融塩電池よりも増加していることが分かる。さらに、利用率は、トップコート層有りの溶融塩電池のほうがトップコート層無しの溶融塩電池よりも高いことが分かる。
【0021】
以上、本実施の形態の溶融塩電池用電極及び溶融塩電池によれば、電極層21の表面から露出する正極集電体21aの露出部分21a1をトップコート層22により埋没させているため、前記露出部分21a1に電流が集中するのを防止することができる。これにより、電極層21の正極活物質21bは層全体に亘って均一に充電されるため、正極活物質21bの利用率を向上させることができる。
【0022】
また、トップコート層22は正極活物質21bを含有しているため、正極2全体の正極活物質21bの量を増加させることができる。これにより、溶融塩電池1の容量を大きくすることができる。
【0023】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0024】
例えば、上記実施の形態における正極集電体は、金属多孔体としてセルメットを用いているが、アルミニウム合金等の金属製の不織布を用いることも可能である。
また、上記実施の形態におけるトップコート層は、正極集電体に正極活物質を充填して電極層を形成した後に、当該電極層の表面に上塗りすることによって形成されているが、電極層とともに1工程で形成するようにしてもよい。
さらに、上記実施の形態では、溶融塩電池用電極を正極に適用した場合について説明したが、負極に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 溶融塩電池
2 正極(溶融塩電池用電極)
21 電極層
21a 正極集電体(集電体)
21a1 露出部分
21b 正極活物質(活物質)
22 トップコート層
t 厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔体からなる集電体に活物質を充填することにより形成され、表面から前記集電体が部分的に露出している電極層と、
前記電極層の表面に形成され、前記集電体の露出部分を埋没させる厚みを有するトップコート層と、を備えていることを特徴とする溶融塩電池用電極。
【請求項2】
前記トップコート層が、前記活物質を含有している請求項1に記載の溶融塩電池用電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶融塩電池用電極を用いていることを特徴とする溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−234719(P2012−234719A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102831(P2011−102831)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】