説明

溶融塩電池

【課題】正極を劣化させることなく動作温度を低下させた溶融塩電池を提供する。
【解決手段】溶融塩電池のセパレータ3には電解質である溶融塩が含浸されている。溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン及びスルフォニウムイオンの少なくとも1種を含んでいる。これらのカチオンは正極1に悪影響を及ぼさない。またナトリウムイオンに加えてこれらのカチオンを含む溶融塩は、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が大幅に低下するので、溶融塩電池はナトリウム−硫黄電池よりも低温で動作することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーの利用が進められている。自然エネルギーを利用して発電を行った場合は発電量が変動し易いので、発電した電力を供給するためには、蓄電池を用いた充電・放電により、供給電力を平準化することが必要となる。このため、自然エネルギーの利用を促進させるためには、高エネルギー密度・高効率の蓄電池が不可欠である。このような蓄電池として、特許文献1に開示されたナトリウム−硫黄電池がある。ナトリウム−硫黄電池では、ナトリウムイオンが伝導イオンとなっている。他の高エネルギー密度・高効率の蓄電池として、溶融塩電池がある。
【0003】
溶融塩電池は、電解質に溶融塩を用いた電池であり、溶融塩が溶融した状態で動作する。溶融塩電池には、伝導イオンとしてナトリウムイオンを用いたものがあり、このような溶融塩電池はナトリウムイオンを含む溶融塩を電解質として用いる。ナトリウム−硫黄電池は、280〜360℃の高温で動作させる必要があり、また溶融塩電池も、溶融塩の融点以上の温度で動作させる必要がある。そこで、より低温で動作する溶融塩電池の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−273297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融塩電池の動作温度を下げるためには、電解質として用いる溶融塩の融点を下げる必要がある。一般に、2種類の塩を混合すると融点が下がるので、ナトリウムイオンを伝導イオンとする溶融塩電池では、ナトリウム塩と他のカチオン塩とを混合した混合塩を使用することが検討されている。混合塩としては、例えばナトリウム塩とカリウム塩との混合塩、又はナトリウム塩とセシウム塩との混合塩等が考えられる。しかしながら、ナトリウム塩とカリウム塩との混合塩を使用した場合には、カリウムイオンは、溶融塩電池における正極活物質に侵入し、正極活物質の結晶構造を変化させ、正極を劣化させる原因となる。また、ナトリウム塩とセシウム塩との混合塩を使用した場合には、セシウムイオンも正極の劣化の原因となり、またセシウムはその希少性のために高価であり、溶融塩電池のコストが上昇するという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、正極活物質へ悪影響を及ぼさないカチオンを含む溶融塩を電解質として使用することにより、正極を劣化させることなく動作温度を低下させた溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶融塩電池は、カチオンとしてナトリウムイオンを含む溶融塩を電解質とした溶融塩電池において、前記溶融塩は、アニオンとして、一般的な化学構造式が下記(1)式
【0008】
【化1】

【0009】
で表されるイオン(但し、(1)式中のX1 及びX2 は、夫々同一又は異なり、フルオロ基又はフルオロアルキル基である)を含み、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、化学構造式が下記(2)式
【0010】
【化2】

【0011】
で表される四級アンモニウムイオン(但し、(2)式中のR1 、R2 、R3 及びR4 は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基である)、化学構造式が下記(3)式
【0012】
【化3】

【0013】
で表されるイミダゾリウムイオン(但し、(3)式中のR5 及びR6 は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、化学構造式が下記(4)式
【0014】
【化4】

【0015】
で表されるイミダゾリニウムイオン(但し、(4)式中のR7 及びR8 は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、化学構造式が下記(5)式
【0016】
【化5】

【0017】
で表されるピリジニウムイオン(但し、(5)式中のR9 は、炭素数1〜8のアルキル基である)、化学構造式が下記(6)式
【0018】
【化6】

【0019】
で表されるピロリジニウムイオン(但し、(6)式中のR10及びR11は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、化学構造式が下記(7)式
【0020】
【化7】

【0021】
で表されるピペリジニウムイオン(但し、(7)式中のR12及びR13は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、化学構造式が下記(8)式
【0022】
【化8】

【0023】
で表されるモルホリニウムイオン(但し、(8)式中のR14及びR15は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、化学構造式が下記(9)式
【0024】
【化9】

【0025】
で表されるフォスフォニウムイオン(但し、(9)式中のR16、R17、R18及びR19は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基又はフェニル基である)、化学構造式が下記(10)式
【0026】
【化10】

【0027】
で表されるピペラジニウムイオン(但し、(10)式中のR20、R21、R22及びR23は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、及び、化学構造式が下記(11)式
【0028】
【化11】

【0029】
で表されるスルフォニウムイオン(但し、(11)式中のR24、R25及びR26は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)からなる有機カチオン群に含まれる少なくとも1種の有機カチオンを含むことを特徴とする。
【0030】
本発明に係る溶融塩電池は、前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(2)式中のR1 、R2 、R3 及びR4 が夫々同一又は異なる炭素数1〜6のアルキル基である四級アンモニウムイオンを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明に係る溶融塩電池は、前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(3)式中のR5 及びR6 の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるイミダゾリウムイオンを含むことを特徴とする。
【0032】
本発明に係る溶融塩電池は、前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(6)式中のR10及びR11の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるピロリジニウムイオンを含むことを特徴とする。
【0033】
本発明に係る溶融塩電池は、前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(7)式中のR12及びR13の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるピペリジニウムイオンを含むことを特徴とする。
【0034】
本発明に係る溶融塩電池は、前記溶融塩はカリウムイオンを含まないことを特徴とする。
【0035】
本発明に係る溶融塩電池は、正極活物質をNaCrO2 とした正極と、負極活物質を錫、ナトリウム又はカーボン材料とした負極とを備えることを特徴とする。
【0036】
本発明においては、溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン及びスルフォニウムイオンの内の少なくとも1種を含む。これにより、溶融塩は、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が大幅に低くなる。
【0037】
また本発明においては、溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩は、カリウムイオンを含んでいないので、溶融塩電池の正極がカリウムイオンによって劣化することは無い。
【発明の効果】
【0038】
本発明にあっては、溶融塩電池は、正極が劣化することなく、ナトリウム−硫黄電池よりも著しく低温で動作することができ、高エネルギー密度・高効率で安全性及び利便性の高い蓄電装置を実現させることができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。
【図2】TMHA−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比と、各モル比における混合塩の室温での状態を示す図表である。
【図3】EMI−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比と、各モル比における混合塩の室温での状態を示す図表である。
【図4】P13−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比と、各モル比における混合塩の室温での状態を示す図表である。
【図5】P13−FSAとNaFSAとの混合塩を電解質として使用した溶融塩電池の充放電特性を示す特性図である。
【図6】Na2/3 Fe1/3 Mn2/32 を正極活物質に用いた溶融塩電池で充電を行った実験結果を示す特性図である。
【図7】Na2/3 Fe1/3 Mn2/32 を正極活物質に用いた溶融塩電池で放電を行った実験結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。図1には、溶融塩電池を縦に切断した模式的断面図を示している。溶融塩電池は、上面が開口した直方体の箱状の電池容器51内に、正極1、セパレータ3及び負極2を並べて配置し、電池容器51に蓋部52を冠着して構成されている。正極1及び負極2は矩形平板状に形成されており、セパレータ3はシート状に形成されている。セパレータ3は正極1及び負極2の間に介装されている。正極1、セパレータ3及び負極2は、重ねられ、電池容器51の底面に対して縦に配置されている。
【0041】
負極2と電池容器51の内側壁との間には、波板状の金属からなるバネ41が配されている。バネ41は、アルミニウム合金からなり非可撓性を有する平板状の押え板42を付勢して負極2をセパレータ3及び正極1側へ押圧させる。正極1は、バネ41の反作用により、バネ41とは逆側の内側壁からセパレータ3及び負極2側へ押圧される。バネ41は、金属のスプリング等に限定されず、例えばゴム等の弾性体であってもよい。充放電により正極1又は負極2が膨脹又は収縮した場合は、バネ41の伸縮によって正極1又は負極2の体積変化が吸収される。
【0042】
正極1は、アルミニウムからなる矩形板状の正極集電体11上に、NaCrO2 等の正極活物質とバインダとを含む正極材12を塗布して形成してある。なお、正極活物質はNaCrO2 に限定されない。負極2は、アルミニウムからなる矩形板状の負極集電体21上に、錫等の負極活物質を含む負極材22をメッキによって形成してある。負極集電体21上に負極材22をメッキする際には、ジンケート処理として下地に亜鉛をメッキした後に錫メッキを施すようにしてある。負極活物質は錫に限定されず、例えば、錫を金属ナトリウム、カーボン材料、珪素又はインジウムに置き換えてもよい。負極材22は、例えば負極活物質の粉末に結着剤を含ませて負極集電体21上に塗布することによって形成してもよい。本発明の溶融塩電池では、特に、正極活物質がNaCrO2 であり、負極活物質が錫、金属ナトリウム又はカーボン材料であることが好ましい。カーボン材料は、主成分を炭素とした材料であり、好ましくはハードカーボンである。正極集電体11及び負極集電体21は、アルミニウムに限定されず、例えばステンレス鋼又はニッケルであってもよい。セパレータ3は、ケイ酸ガラス又は樹脂等の絶縁性の材料で、内部に電解質を保持でき、またナトリウムイオンが通過できるような形状に形成されている。セパレータ3は、例えばガラスクロス又は多孔質の形状に形成された樹脂である。
【0043】
電池容器51内では、正極1の正極材12と負極2の負極材22とを向かい合わせにし、正極1と負極2との間にセパレータ3を介装してある。セパレータ3には、電解質である溶融塩を含浸させてある。セパレータ3に含浸されている溶融塩は、正極1の正極材12と負極2の負極材22とに接触している。電池容器51の内面は、正極1と負極2との短絡を防止するために、絶縁性の樹脂で被覆する等の方法により絶縁性の構造となっている。蓋部52の外側には、外部に接続するための正極端子53及び負極端子54が設けられている。正極端子53と負極端子54との間は絶縁されており、また蓋部52の電池容器51内に対向する部分も絶縁皮膜等によって絶縁されている。正極集電体11の一端部は、正極端子53にリード線で接続され、負極集電体21の一端部は、負極端子54にリード線で接続される。リード線は、蓋部52から絶縁してある。蓋部52は、電池容器51に冠着されている。
【0044】
セパレータ3に含浸されている溶融塩は、ナトリウムイオンを含むカチオンとアニオンとからなるイオン性塩である。溶融塩の組成については後述する。溶融塩の融点以上の温度範囲では、溶融塩は、溶融し、ナトリウムイオンが含まれる導電性液体となる。溶融塩電池は、溶融塩が溶融する温度範囲で、ナトリウムイオンを含む溶融塩を電解液とした二次電池として動作することが可能となる。放電時には、ナトリウムイオンが電解液中を負極2から正極1へ移動し、ナトリウムイオンは正極活物質に吸収される。
【0045】
次に、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩の組成について説明する。溶融塩に含まれるアニオンの一般的な化学構造式は、前述の(1)式で表される。(1)式中のX1 及びX2 の夫々はフルオロ基又はフルオロアルキル基である。X1 とX2 とは同一であっても相違していてもよい。本発明で使用する(1)式で表されるアニオンは、X1 及びX2 の夫々がフルオロ基又は炭素数1〜8のフルオロアルキル基であることが好ましい。また、本発明で使用するアニオンは、X1 及びX2 が共にフルオロ基であるアニオン、X1 及びX2 が共にフルオロメチル基であるアニオン、又はX1 及びX2 の一方がフルオロ基であり他方がフルオロメチル基であるアニオンであることがより好ましい。X1 及びX2 が共にフルオロ基である場合は、アニオンはFSA(ビスフルオロスルフォニルアミド)イオンである。FSAイオンの化学構造式は、下記の(12)式で表される。FSAイオンは二つのフルオロ基を有する。
【0046】
【化12】

【0047】
前述の(1)式において、X1 及びX2 が共にトリフルオロメチル基である場合は、アニオンはTFSA(ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド)イオンである。TFSAイオンの化学構造式は、下記の(13)式で表される。TFSAイオンは二つのトリフルオロメチル基を有する。
【0048】
【化13】

【0049】
前述の(1)式において、X1 及びX2 の一方がフルオロ基で他方がトリフルオロメチル基である場合は、アニオンはFTA(フルオロトリフルオロメチルスルフォニルアミド)イオンである。FTAイオンの化学構造式は、下記の(14)式で表される。FTAイオンはフルオロ基とトリフルオロメチル基とを有する。
【0050】
【化14】

【0051】
溶融塩は、例えば、アニオンとして、FSAイオン、TFSAイオン又はFTAイオンを含む。なお、アニオンは、トリフルオロメチル基以外のフルオロアルキル基を有するアニオンであってもよい。
【0052】
また溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンを含み、更に、四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン及びスルフォニウムイオンからなる有機カチオン群に含まれる少なくとも1種の有機カチオンを含む。
【0053】
本発明で使用する四級アンモニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(2)式で表される。(2)式中のR1 、R2 、R3 及びR4 は、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基である。R1 、R2 、R3 及びR4 の夫々は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用する四級アンモニウムイオンは、R1 、R2 、R3 及びR4 の夫々が炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。R1 、R2 、R3 及びR4 の夫々が炭素数1〜6のアルキル基である四級アンモニウムイオンを含む溶融塩は、耐還元性に優れているので、ナトリウム金属と安定に共存できる。この溶融塩は、溶融塩電池の電解質として使用した場合に、優れた耐久性を発現する。具体的な好ましい例は、トリメチル−n−ヘキシルアンモニウムイオン、トリメチル−n−オクチルアンモニウムイオン、エチルジメチルプロピルアンモニウムイオン、及びメチル(2−メトキシエチル)ジエチルアンモニウムイオンである。例えば、TMHA(トリメチル−n−ヘキシルアンモニウム)イオンの化学構造式は、下記の(15)式で表される。TMHAイオンは三つのメチル基と一つのヘキシル基を有する。
【0054】
【化15】

【0055】
本発明でTMHAイオンを使用した場合の溶融塩は、TMHAイオンをカチオンとした塩とナトリウムイオンをカチオンとした塩との混合塩である。例えば、溶融塩は、TMHAイオンをカチオンとしてFSAをアニオンとした塩TMHA−FSAと、ナトリウムイオンをカチオンとしてFSAをアニオンとした塩NaFSAとの混合塩である。なお、本発明で使用する四級アンモニウムイオンは、その他のアルキル基を有するものであってもよい。
【0056】
本発明で使用するイミダゾリウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(3)式で表される。(3)式中のR5 及びR6 は、炭素数1〜8のアルキル基である。R5 及びR6 は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用する(3)式で表されるイミダゾリウムイオンのうちでは、(3)式中のR5 及びR6 の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるイミダゾリウムイオンが好ましい。このようなイミダゾリウムイオンを含む溶融塩は、耐還元性に優れているので、ナトリウム金属と安定に共存でき、溶融塩電池の電解質として使用した場合に優れた耐久性を発現する。また、この溶融塩は、融点が特に低い傾向があるので、低温から溶融塩電池を作動させることが可能となる。具体的な好ましい例は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオン、及び1,3−ジメチルイミダゾリウムイオンである。EMI(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム)イオンの化学構造式は、下記の(16)式で表される。EMIイオンでは、前述の(3)式においてR5 がエチル基であり、R6 がメチル基となっている。
【0057】
【化16】

【0058】
また、BMI(1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム)イオンの化学構造式は、下記の(17)式で表される。BMIイオンでは、前述の(3)式においてR5 がブチル基であり、R6 がメチル基となっている。
【0059】
【化17】

【0060】
本発明でイミダゾリウムイオンを使用した場合の溶融塩は、イミダゾリウムイオンをカチオンとした塩とナトリウムイオンをカチオンとした塩との混合塩である。例えば、溶融塩は、EMIイオンをカチオンとしてFSAをアニオンとした塩EMI−FSAと、NaFSAとの混合塩である。なお、本発明で使用するイミダゾリウムイオンは、その他のアルキル基を有するものであってもよい。
【0061】
本発明で使用するイミダゾリニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(4)式で表される。(4)式中のR7 及びR8 は、炭素数1〜8のアルキル基である。R7 及びR8 は、同一であっても相違していてもよい。
【0062】
本発明で使用するピリジニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(5)式で表される。(5)式中のR9 は、炭素数1〜8のアルキル基である。本発明で使用するピリジニウムイオンとして好ましい例は、1−メチルピリジニウムイオン、1−エチルピリジニウムイオン、1−プロピルピリジニウムイオン及び1−ブチルピリジニウムイオンである。BPy(1−ブチルピリジニウム)イオンの化学構造式は、下記の(18)式で表される。
【0063】
【化18】

【0064】
BPyイオンでは、前述の(5)式においてR9 がブチル基となっている。なお、本発明で使用する(5)式で表されるピリジニウムイオンは、その他のアルキル基を有するものであってもよい。
【0065】
本発明で使用するピロリジニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(6)式で表される。(6)式中のR10及びR11は、炭素数1〜8のアルキル基である。R10及びR11は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用するピロリジニウムイオンは、R10及びR11の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。R10及びR11の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるピロリジニウムイオンを含む溶融塩は、耐還元性に優れているので、ナトリウム金属と安定に共存できる。この溶融塩は、溶融塩電池の電解質として使用した場合に、優れた耐久性を発現する。またこの溶融塩は、融点が特に低い傾向があるので、低温から溶融塩電池を作動させることが可能となる。具体的な好ましい例は、1−メチル−1−エチルピロリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムイオン及び1−メチル−1−ブチルピロリジニウムイオンである。1−メチル−1−ブチルピロリジニウムイオンの化学構造式は、下記の(19)式で表される。
【0066】
【化19】

【0067】
1−メチル−1−ブチルピロリジニウムイオンでは、前述の(6)式においてR10がメチル基であり、R11がブチル基となっている。また、P13(1−メチル−1−プロピルピロリジニウム)イオンでは、前述の(6)式においてR10がメチル基であり、R11がプロピル基となっている。本発明でピロリジニウムイオンを使用した場合の溶融塩は、ピロリジニウムイオンをカチオンとした塩とナトリウムイオンをカチオンとした塩との混合塩である。例えば、溶融塩は、P13イオンをカチオンとしてFSAをアニオンとした塩P13−FSAと、NaFSAとの混合塩である。なお、本発明で使用するピロリジニウムイオンは、その他のアルキル基を有するものであってもよい。
【0068】
本発明で使用するピペリジニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(7)式で表される。(7)式中のR12及びR13は、炭素数1〜8のアルキル基である。R12及びR13は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用するピペリジニウムイオンは、R12及びR13の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。R12及びR13の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるピペリジニウムイオンを含む溶融塩は、耐還元性に優れているので、ナトリウム金属と安定に共存できる。この溶融塩は、溶融塩電池の電解質として使用した場合に、優れた耐久性を発現する。またこの溶融塩は、融点が特に低い傾向があるので、低温から溶融塩電池を作動させることが可能となる。具体的な好ましい例は、1,1−ジメチルピペリジニウムイオン、1−メチル−1−エチルピペリジニウムイオン及び1−メチル−1−プロピルピペリジニウムイオンである。
【0069】
本発明で使用するモルホリニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(8)式で表される。(8)式中のR14及びR15は、炭素数1〜8のアルキル基である。R14及びR15は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用するモルホリニウムイオンとして好ましい例は、1,1−ジメチルモルホリニウムイオン、1−メチル−1−エチルモルホリニウムイオン、1−メチル−1−プロピルモルホリニウムイオン及び1−メチル−1−ブチルモルホリニウムイオンである。
【0070】
本発明で使用するフォスフォニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(9)式で表される。(9)式中のR16、R17、R18及びR19は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基又はフェニル基である。R16、R17、R18及びR19は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用するフォスフォニウムイオンとして好ましい例は、トリエチル(メトキシエチル)フォスフォニウムイオン及びメチルトリフェニルフォスフォニウムイオンである。
【0071】
本発明で使用するピペラジニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(10)式で表される。(10)式中のR20、R21、R22及びR23は、炭素数1〜8のアルキル基である。R20、R21、R22及びR23は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用するピペラジニウムイオンとして好ましい例は、1,1,4,4テトラメチルピペラジニウムイオン及び1,1−ジメチル−4,4−ジエチルピペラジニウムイオンである。
【0072】
本発明で使用するスルフォニウムイオンの一般的な化学構造式は、前述の(11)式で表される。(11)式中のR24、R25及びR26は、炭素数1〜8のアルキル基である。R24、R25及びR26は、同一であっても相違していてもよい。本発明で使用するスルフォニウムイオンとして好ましい例は、トリメチルスルフォニウムイオン、トリエチルスルフォニウムイオン、メチルジエチルスルフォニウムイオン及びメチルジプロピルスルフォニウムイオンである。
【0073】
以上のように、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン及びスルフォニウムイオンからなる有機カチオン群に含まれる少なくとも1種の有機カチオンを含む。即ち、溶融塩は、カチオンをナトリウムイオンとした塩と、カチオンを四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン又はスルフォニウムイオンとした一又は複数種類の塩との混合物である。(1)式に化学構造式を示すアニオンと、四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン又はスルフォニウムイオンであるカチオンとからなる溶融塩は、過去の研究により、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が大幅に低いことが明らかとなっている。また本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩は、複数種類の塩の混合物であるので、単独の塩からなる溶融塩に比べて、融点が低下する。従って、本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩は、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が著しく低下するので、本発明の溶融塩電池は、ナトリウム−硫黄電池よりも著しく低温で動作することができる。
【0074】
また本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩には、カリウムイオンが含まれていない。カリウムイオンは、正極材12内の正極活物質に侵入し、正極活物質の結晶構造を変化させ、正極1を劣化させる原因となる。また本発明の溶融塩電池で電解質として使用する溶融塩には、セシウムイオンが含まれていない。セシウムイオンもカリウムイオンと同様に正極1の劣化の原因となる。本発明においては、溶融塩にカリウムイオン及びセシウムイオンが含まれていないので、溶融塩電池の正極1がカリウムイオン又はセシウムイオンによって劣化することは無い。また四級アンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、イミダゾリニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、モルホリニウムイオン、フォスフォニウムイオン、ピペラジニウムイオン又はスルフォニウムイオンは、正極材12内の正極活物質に侵入することは無く、正極1を劣化させることは無い。従って、本発明においては、溶融塩に正極1を劣化させる成分が含まれていないので、溶融塩電池の容量の低下を防止しながら、溶融塩電池の動作温度をナトリウム−硫黄電池よりも大幅に低下させることができる。更に、溶融塩に高価なセシウムイオンが含まれていないので、溶融塩電池のコストの上昇を防止することができる。
【実施例1】
【0075】
溶融塩としてTMHA−FSAとNaFSAとの混合塩を作成し、混合塩中のTMHA−FSAとNaFSAとのモル比に対する混合塩の室温状態での溶融挙動を調べる実験を行った。TMHA−FSAは、和光純薬工業製のTMHA−Brと三菱マテリアル電子化成製のKFSAとを等モル比で水中で混合させ、生成した沈殿物を濾過し、水洗を数回繰り返した後、80℃で減圧乾燥することにより、作成した。尚、Brは臭素、Kはカリウムである。アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、作成したTMHA−FSAと三菱マテリアル電子化成製のNaFSAとを複数種類のモル比で混合し、室温状態での溶融挙動を調べた。
【0076】
図2は、TMHA−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比と、各モル比における混合塩の室温での状態を示す図表である。図2に示すように、TMHA−FSAとNaFSAとのモル比(TMHA−FSA:NaFSA)が8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7及び2:8となる7種類の混合塩を作成した。何れの混合塩も室温において液体であり、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が低いことが明らかである。
【実施例2】
【0077】
溶融塩としてEMI−FSAとNaFSAとの混合塩を作成し、EMI−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比に対する混合塩の室温状態での溶融挙動を調べる実験を行った。EMI−FSAとしては、東京化成工業から購入したものを使用した。アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、EMI−FSAと三菱マテリアル電子化成製のNaFSAとを複数種類のモル比で混合し、室温状態での溶融挙動を調べた。
【0078】
図3は、EMI−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比と、各モル比における混合塩の室温での状態を示す図表である。EMI−FSAとNaFSAとのモル比(EMI−FSA:NaFSA)が8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7及び2:8となる7種類の混合塩を作成した。モル比が8:2及び7:3の各混合塩は室温において液体であり、また他のモル比の混合塩は室温において液体と固体とが混合した状態であり、何れの混合塩も、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が低いことが明らかである。
【実施例3】
【0079】
溶融塩としてP13−FSAとNaFSAとの混合塩を作成し、P13−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比に対する混合塩の室温状態での溶融挙動を調べる実験を行った。P13−FSAとしては、東京化成工業から購入したものを使用した。アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、P13−FSAと三菱マテリアル電子化成製のNaFSAとを複数種類のモル比で混合し、室温状態での溶融挙動を調べた。
【0080】
図4は、P13−FSAとNaFSAとの混合塩中のモル比と、各モル比における混合塩の室温での状態を示す図表である。P13−FSAとNaFSAとのモル比(P13−FSA:NaFSA)が8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7及び2:8となる7種類の混合塩を作成した。モル比が8:2、7:3、6:4、5:5及び4:6の各混合塩は室温において液体であり、また他のモル比の混合塩は室温において液体と固体とが混合した状態であり、何れの混合塩も、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも融点が低いことが明らかである。
【実施例4】
【0081】
P13−FSAとNaFSAとの混合塩を電解質として使用した溶融塩電池の充放電特性を調べる実験を行った。まず、和光純薬工業製のNaCO3 と和光純薬工業製のCrO2 とをモル比1:1で混合した後にペレット状に形成し、この形成物をアルゴン気流中1223Kの温度で5時間焼成することによって、NaCrO2 を作成した。次に、NaCrO2 、アセチレンブラック及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を量比80:15:5で混練することによって、正極材12を作成した。正極集電体11であるアルミニウムメッシュ上に、作成した正極材12を圧着することにより、正極1を作成した。また、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、P13−FSAとNaFSAとを1:1のモル比で混合することにより、電解質である混合塩を作成し、作成した混合塩中にガラスメッシュを浸漬させることにより、セパレータ3を作成した。また、アルミニウムでなる負極集電体21に負極活物質である錫をメッキすることにより負極2を作成した。次に、ステンレス鋼でなる下皿上に、正極材12を上側にして正極1を配置し、正極1上にセパレータ3を配置し、セパレータ3上に負極2を配置し、負極2上にステンレス鋼でなる上蓋を配置した。ボルト及びナットを用いて上蓋を下皿に固定することにより、実施例4で用いる電池を作製した。
【0082】
図5は、P13−FSAとNaFSAとの混合塩を電解質として使用した溶融塩電池の充放電特性を示す特性図である。図5には、作製した電池について、動作温度室温、充電開始電圧2.5V及び放電開始電圧3Vの条件で、4サイクルの充放電試験を行った結果を示す。充放電レートは0.1Cとした。図5中の横軸は容量を示し、縦軸は溶融塩電池の電圧を示す。図5中に示した右上がりの曲線が充電特性であり、右下がりの曲線が放電特性である。図5中には、2回目の充放電の特性を実線で示し、3回目の充放電の特性を一点鎖線で示し、4回目の充放電の特性を破線で示した。図5に示すように、動作温度が室温であっても、溶融塩電池は充放電を行うことができ、ほぼ同じ特性で充放電を繰り返すことができる。このように、本発明の溶融塩電池は、ナトリウム−硫黄電池が動作する280〜360℃よりも低温で動作することができる。
【実施例5】
【0083】
正極活物質としてNaCrO2 以外の物質を用いた実施例を示す。1−メチル−1−プロピルピロリジニウム−FSAとNaFSAとの混合塩を電解質として使用し、正極活物質にNa2/3 Fe1/3 Mn2/32 を用いた正極1を備えた溶融塩電池で充放電特性を調べる実験を行った。実験に用いた電解質は、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム−FSAとNaFSAとを1:1のモル比で混合した溶融塩とした。実験に用いた電池は、金属ナトリウムを用いて構成した基準電極と、正極活物質としてNa2/3 Fe1/3 Mn2/32 を用いた正極1とを備えたハーフセルである。正極1は、アルミニウムからなる矩形板状の正極集電体11上に、Na2/3 Fe1/3 Mn2/32 とバインダとを含む正極材12を塗布して形成してある。電池の温度を353K(80℃)とし、正極1中の正極活物質の質量単位当たりの電流値を5mA/gとした定電流で充電及び放電を行った。
【0084】
図6は、Na2/3 Fe1/3 Mn2/32 を正極活物質に用いた溶融塩電池で充電を行った実験結果を示す特性図である。図6中の横軸は充電時の電池の容量を示し、縦軸は充電時に正極1と基準電極との間に生じる電圧を示す。容量は、正極1中の正極活物質の質量単位当たりの値で示されている。図6には実験によって得られた充電曲線が示されている。図6に示すように、実験では充電が行われ、充電容量は103mAh/gであった。
【0085】
図7は、Na2/3 Fe1/3 Mn2/32 を正極活物質に用いた溶融塩電池で放電を行った実験結果を示す特性図である。図7中の横軸は放電時の電池の容量を示し、縦軸は放電時に正極1と基準電極との間に生じる電圧を示す。図7には実験によって得られた放電曲線が示されている。図7に示すように、実験では放電が行われ、放電容量は98.7mAh/gであった。従って、実験に用いた電池のクーロン効率は96%であった。図6及び図7に示すように、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム−FSAとNaFSAとの混合塩を電解質として使用し、正極活物質にNa2/3 Fe1/3 Mn2/32 を用いた溶融塩電池でも、ナトリウムイオンが移動し、充放電が可能であることが明らかとなった。
【0086】
以上のように、本発明の溶融塩電池は、容量を低下させることなく、ナトリウム−硫黄電池よりも著しく低温で動作することができる。溶融塩電池が低温で動作するので、溶融塩電池を動作させるために投入するエネルギーが小さくなり、溶融塩電池のエネルギー効率が向上する。また動作温度の低下のため、溶融塩電池の安全性が向上する。また溶融塩電池の温度を動作温度まで上昇させるために必要な時間及び手間を縮小することができるので、溶融塩電池の利便性が向上する。従って、本発明の溶融塩電池を利用することにより、高エネルギー密度・高効率で安全性及び利便性の高い蓄電装置を実現することが可能となる。また本発明の溶融塩電池で用いる溶融塩は、不揮発性でしかも不燃性であるので、安全性に優れた蓄電装置を実現することが可能である。また本発明の溶融塩電池で用いる溶融塩はナトリウムイオン濃度が高いので、溶融塩電池は、充放電の際に活物質近傍のナトリウムイオンが欠乏しにくく、高速充放電が可能である。
【0087】
なお、本発明の溶融塩電池の形状は、直方体の形状に限るものではなく、その他の形状であってもよい。例えば、負極2の形状を円柱状にし、負極2の周囲に円筒状のセパレータ3及び正極1を備えることにより、溶融塩電池の形状を円柱状にしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 正極
12 正極材
2 負極
22 負極材
3 セパレータ
41 バネ
51 電池容器
52 蓋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンとしてナトリウムイオンを含む溶融塩を電解質とした溶融塩電池において、
前記溶融塩は、
アニオンとして、一般的な化学構造式が下記(1)式
【化1】

で表されるイオン(但し、(1)式中のX1 及びX2 は、夫々同一又は異なり、フルオロ基又はフルオロアルキル基である)を含み、
カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、化学構造式が下記(2)式
【化2】

で表される四級アンモニウムイオン(但し、(2)式中のR1 、R2 、R3 及びR4 は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基である)、
化学構造式が下記(3)式
【化3】

で表されるイミダゾリウムイオン(但し、(3)式中のR5 及びR6 は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、
化学構造式が下記(4)式
【化4】

で表されるイミダゾリニウムイオン(但し、(4)式中のR7 及びR8 は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、
化学構造式が下記(5)式
【化5】

で表されるピリジニウムイオン(但し、(5)式中のR9 は、炭素数1〜8のアルキル基である)、
化学構造式が下記(6)式
【化6】

で表されるピロリジニウムイオン(但し、(6)式中のR10及びR11は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、
化学構造式が下記(7)式
【化7】

で表されるピペリジニウムイオン(但し、(7)式中のR12及びR13は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、
化学構造式が下記(8)式
【化8】

で表されるモルホリニウムイオン(但し、(8)式中のR14及びR15は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、
化学構造式が下記(9)式
【化9】

で表されるフォスフォニウムイオン(但し、(9)式中のR16、R17、R18及びR19は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルキルオキシアルキル基又はフェニル基である)、
化学構造式が下記(10)式
【化10】

で表されるピペラジニウムイオン(但し、(10)式中のR20、R21、R22及びR23は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)、
及び、化学構造式が下記(11)式
【化11】

で表されるスルフォニウムイオン(但し、(11)式中のR24、R25及びR26は、夫々同一又は異なり、炭素数1〜8のアルキル基である)からなる有機カチオン群に含まれる少なくとも1種の有機カチオンを含むこと
を特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(2)式中のR1 、R2 、R3 及びR4 が夫々同一又は異なる炭素数1〜6のアルキル基である四級アンモニウムイオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(3)式中のR5 及びR6 の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるイミダゾリウムイオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項4】
前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(6)式中のR10及びR11の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるピロリジニウムイオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項5】
前記溶融塩は、カチオンとして、ナトリウムイオンに加えて、(7)式中のR12及びR13の一方がメチル基であり他方が炭素数1〜6のアルキル基であるピペリジニウムイオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項6】
前記溶融塩はカリウムイオンを含まないことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の溶融塩電池。
【請求項7】
正極活物質をNaCrO2 とした正極と、負極活物質を錫、ナトリウム又はカーボン材料とした負極とを備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−134126(P2012−134126A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192979(P2011−192979)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】