説明

溶融塩電池

【課題】溶融塩電池内での短絡を抑制することができ、しかも溶融塩が含浸されやすい状態の樹脂をセパレータの材料とすることにより、安全性を確保すると共に性能の低下を抑制した溶融塩電池を提供することにある。
【解決手段】溶融塩電池のセパレータ3の材料をフッ化水素に耐性のあるPTFE等の樹脂とすることにより、溶融塩電池内にフッ化水素が発生してもセパレータが腐食することが無い。またセパレータの平均孔径を0.1μm以上5μm以下とし、厚みを10μm以上300μm以下とする。溶融塩電池内での短絡を防止しながら、溶融塩電池としての最低限のサイクル特性が得られ、高速放電時の溶融塩電池の容量の低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質として溶融塩を用いた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電力の効率的な利用のために、高エネルギー密度・高効率の蓄電池が必要とされている。このような蓄電池として、特許文献1に開示されたナトリウム−硫黄電池が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−273297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他の高エネルギー密度・高効率の蓄電池として、溶融塩電池がある。溶融塩電池は、電解質に溶融塩を用いた電池であり、溶融塩が溶融した状態で動作する。溶融塩としては、例えば、ナトリウムイオンをカチオンとしFSA(ビスフルオロスルフォニルアミド;(FSO22- )をアニオンとしたNaFSA(ナトリウムビスフルオロスルフォニルアミド)が用いられる。溶融塩電池の内部には、正極、負極及びセパレータが備えられている。セパレータは、正極と負極とを隔てるシート状の部材であり、イオンを含む溶融塩を内部に保持している。従来の溶融塩電池では、ガラスクロス等を用いたガラス製のセパレータが利用されていることがある。
【0005】
通常、Na等のアルカリ金属を負極の活物質成分とし、有機電解液を電解質とする電池では、両者間での副反応に起因して、充放電時におけるアルカリ金属のデンドライト成長が起こる。デンドライト成長が起こった場合は、電池内で正極と負極とが短絡する危険がある。この問題に対して、NaFSA等の無機分子を主成分とする溶融塩を電解質とする溶融塩電池では、電解質と活物質との副反応が抑制され、デンドライト成長が起こり難いことが発見されている。他方、Li金属を負極としたリチウム電池では、動作温度を上げることにより、Li金属のデンドライト成長が比較的減少する傾向にあるとの見解も示されている。溶融塩電池は、室温より高い80℃〜100℃程度の温度で動作するものであるが、動作温度を高温にすることにより、同様に、アルカリ金属のデンドライト成長が一層抑制されることが見出されている。
【0006】
以上のように、溶融塩電池はデンドライト成長が起こりにくく安全性の高い電池であり、また通常の動作条件では、極めて安定した充放電サイクル特性を示す優れた特徴を有している。しかし、溶融塩電池でも、車載用途等で急速な充電が必要となる場合では、電極端部等の特に電流が集中しやすい部分にデンドライト成長が起きる場合もあることが、研究開発が進展するに従って顕在化してきた。
【0007】
また、溶融塩電池は、動作中に、正極と負極との一部が短絡する等の原因により、内部温度が異常に上昇することがある。溶融塩電池の内部温度が異常に上昇した場合は、内部の溶融塩の一部が熱分解することがある。例えば、NaFSA等の溶融塩にはフッ素原子が含まれており、溶融塩が熱分解した場合は、溶融塩電池内に不純物として含まれている水と溶融塩中のフッ素原子とが反応してフッ化水素が発生することがある。フッ化水素は二酸化ケイ素を腐食させるので、ガラス製のセパレータを用いている場合は、フッ化水素によってセパレータが腐食することになる。セパレータの腐食した部分では、孔径が拡大し、正極と負極とが短絡しやすくなり、短絡が発生した場合は溶融塩電池の内部温度が更に上昇する。このように、ガラス製のセパレータを用いた溶融塩電池には、内部温度が上昇し続ける熱暴走が発生する虞がある。このため、セパレータの材料はフッ化水素に対する耐性のある物質であることが望ましい。
【0008】
フッ化水素に耐性のある物質としてはフッ素樹脂等の樹脂がある。フッ化水素に耐性のある樹脂からなるセパレータを備えた溶融塩電池は、熱暴走の発生を防止できる。しかしながら、フッ素樹脂等の樹脂は、溶融塩が浸透し難いので、樹脂からなるセパレータには溶融塩が含浸されにくい。このため、樹脂からなるセパレータを備えた溶融塩電池では、溶融塩に含まれるイオンがセパレータを通過して正極と負極との間で電荷を伝える効率が悪く、電池としての性能が低いという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、たとえデンドライト成長が起きたとしても溶融塩電池内での短絡を抑制することができ、しかも溶融塩が含浸されやすいように、樹脂製のセパレータの孔径を調整することにより、安全性を確保すると共に性能の低下を抑制した溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶融塩電池は、多孔質でシート状のセパレータを備え、電解質として溶融塩を用いる溶融塩電池であって、前記セパレータは、フッ化水素に対する耐性を有する樹脂を材料としてあり、平均孔径が0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明においては、溶融塩電池のセパレータの材料をフッ化水素に耐性のある樹脂とすることにより、溶融塩電池内にフッ化水素が発生してもセパレータが腐食することが無い。またセパレータの平均孔径を0.1μm以上5μm以下とすることにより、セパレータへの溶融塩の含浸が可能となり、溶融塩電池としての最低限のサイクル特性が得られる。ここで、耐性とは、フッ化水素を含有する溶融塩への浸漬試験後に、強度又は重量等の物性に変化が無いことを言い、特に、多孔質であるセパレータの平均孔径に変化がないことを言う。
【0012】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、厚みが10μm以上300μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、溶融塩電池のセパレータの厚みを10μm以上300μm以下とすることにより、短絡を防止しながら、高速放電時の溶融塩電池の容量の低下が抑制される。
【0014】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、平均孔径が0.5μm以上2μm以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明においては、溶融塩電池のセパレータの平均孔径を0.5μm以上2μm以下とすることにより、セパレータへの溶融塩の含浸がより容易となり、溶融塩電池にはより実用的なサイクル特性が得られる。
【0016】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、厚みが30μm以上100μm以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明においては、溶融塩電池のセパレータの厚みを30μm以上100μm以下とすることにより、高速放電時の溶融塩電池の容量の低下がより抑制される。
【0018】
本発明に係る溶融塩電池は、前記樹脂はポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、及びポリカーボネートからなる群から選択されたいずれか1種の樹脂、又は前記群から選択された複数種類の樹脂の混合物であることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、セパレータの材料となる樹脂として、フッ化水素に対して耐性を有すると共に、溶融塩の融点以上の温度で溶融塩に耐性のあるPTFEを用いている。
【0020】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータに親水性を付与してあることを特徴とする。
【0021】
本発明においては、溶融塩電池のセパレータに親水性を付与することにより、セパレータの溶融塩に対する濡れ性が向上し、セパレータに溶融塩を含浸させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明にあっては、溶融塩電池の内部でフッ化水素が発生することによって熱暴走が発生することが防止されると共に、溶融塩電池として使用可能なサイクル特性が得られるので、溶融塩電池の安全性を確保すると共に溶融塩電池の性能の低下を抑制することが可能となる等、優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。
【図2】セパレータの厚み及び平均孔径と溶融塩電池の電池特性との関係を調べた実験結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の溶融塩電池の構成例を示す模式的断面図である。図1には、溶融塩電池を縦に切断した模式的断面図を示している。溶融塩電池は、上面が開口した直方体の箱状の電池容器51内に、正極1、セパレータ3及び負極2を並べて配置し、電池容器51に蓋部52を冠着して構成されている。電池容器51及び蓋部52はアルミニウムで形成されている。正極1及び負極2は矩形平板状に形成されており、セパレータ3はシート状に形成されている。セパレータ3は正極1及び負極2の間に介装されており、正極1と負極2とが短絡しないように隔離している。正極1、セパレータ3及び負極2は、重ねられ、電池容器51の底面に対して縦に配置されている。
【0025】
負極2と電池容器51の内側壁との間には、波板状の金属からなるバネ41が配されている。バネ41は、アルミニウム合金からなり非可撓性を有する平板状の押え板42を付勢して負極2をセパレータ3及び正極1側へ押圧させる。正極1は、バネ41の反作用により、バネ41とは逆側の内側壁からセパレータ3及び負極2側へ押圧される。バネ41は、金属製のスプリング等に限定されず、例えばゴム等の弾性体であってもよい。充放電により正極1又は負極2が膨脹又は収縮した場合は、バネ41の伸縮によって正極1又は負極2の体積変化が吸収される。
【0026】
正極1は、アルミニウムからなる矩形板状の正極集電体11上に、NaCrO2 等の正極活物質とバインダとを含む正極材12を塗布して形成してある。なお、正極活物質はNaCrO2 に限定されない。負極2は、アルミニウムからなる矩形板状の負極集電体21上に、錫等の負極活物質を含む負極材22をメッキによって形成してある。負極集電体21上に負極材22をメッキする際には、ジンケート処理として下地に亜鉛をメッキした後に錫メッキを施すようにしてある。負極活物質は錫に限定されず、例えば、錫を金属ナトリウム、炭素、珪素又はインジウムに置き換えてもよい。負極材22は、例えば負極活物質の粉末に結着剤を含ませて負極集電体21上に塗布することによって形成してもよい。セパレータ3の詳細については後述する。
【0027】
電池容器51内では、正極1の正極材12と負極2の負極材22とを向かい合わせにし、正極1と負極2との間にセパレータ3を介装してある。正極1、負極2及びセパレータ3には、溶融塩からなる電解質を含浸させてある。電池容器51の内面は、正極1と負極2との短絡を防止するために、絶縁性の樹脂で被覆する等の方法により絶縁性の構造となっている。蓋部52の外側には、外部に接続するための正極端子53及び負極端子54が設けられている。正極端子53と負極端子54との間は絶縁されており、また蓋部52の電池容器51内に対向する部分も絶縁皮膜等によって絶縁されている。正極集電体11の一端部は、正極端子53にリード線55で接続され、負極集電体21の一端部は、負極端子54にリード線56で接続される。リード線55及びリード線56は、蓋部52から絶縁してある。蓋部52は、溶接によって電池容器51に冠着されている。
【0028】
溶融塩電池の電解質は、溶融状態で導電性液体となる溶融塩である。溶融塩の融点以上の温度で、溶融塩は溶融して電解液となり、溶融塩電池は二次電池として動作する。融点を低下させるために、電解質は、複数種類の溶融塩が混合していることが望ましい。例えば、電解質として、ナトリウムイオンをカチオンとしFSAをアニオンとしたNaFSAと、カリウムイオンをカチオンとしFSAをアニオンとしたKFSAとの混合塩が用いられる。以下、この混合塩をNaFSA−KFSAと言う。NaFSA−KFSAの組成は、例えば、NaFSAが45mol%で、KFSAが55mol%である。この組成のときNaFSA−KFSAの融点は約57℃となる。なお、この溶融塩に代えて、FSAのF元素をフルオロアルキル基とした溶融塩を電解質として用いることもできる。例えば、溶融塩として、FSAのF元素を全てCF3 に置換した塩であるTFSA(ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド)、又は、FSAのF元素の一部をCF3 に置換した塩が挙げられる。更に、FSAのF元素の全部又は一部を、その他のフルオロアルキル基に置換したものの群から選択される複数のアニオンを含む溶融塩を電解質として用いてもよい。
【0029】
また、電解質として用いる溶融塩は、Na又はKをカチオンとする溶融塩に限定されない。アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群から選択される1種又は複数種をカチオンとする溶融塩を電解質として用いることもできる。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb及びCsから選択することができる。また、アルカリ土類金属としては、Mg、Ca、Sr及びBaから選択することができる。例えば、FSAをアニオンとする溶融塩の単塩としては、LiFSA、NaFSA、KFSA、RbFSA、CsFSA、Mg(FSA)2 、Ca(FSA)2 、Sr(FSA)2 及びBa(FSA)2 が挙げられる。また、TFSAをアニオンとする溶融塩の単塩としては、LiTFSA、NaTFSA、KTFSA、RbTFSA、CsTFSA、Mg(TFSA)2 、Ca(TFSA)2 、Sr(TFSA)2 およびBa(TFSA)2 が挙げられる。これらの溶融塩を電解質として用いることができる。また、これらの単塩が混合した混合塩を電解質として用いることができる。また溶融塩は、有機イオン等の他のカチオンを含んでいてもよい。
【0030】
また、図1に示した溶融塩電池の構成は模式的な構成であり、溶融塩電池内には、内部を加熱するヒータ、又は温度センサ等、図示しないその他の構成物が含まれていてもよい。また、図1には正極1及び負極2を一対備える形態を示したが、本発明の溶融塩電池は、セパレータ3を間に介して複数の正極1及び負極2を交互に重ねてある形態であってもよい。
【0031】
次に、セパレータ3の詳細を説明する。セパレータ3は、フッ化水素に対する耐性のある樹脂を材料として、多孔質のシート状に形成されている。ここで、フッ化水素に対する耐性とは、フッ化水素を含有する溶融塩への浸漬試験後に、強度又は重量等の物性に変化が無いことを言い、特に、多孔質のセパレータ3の平均孔径に変化がないことを言う。フッ化水素に対する耐性のある樹脂としては、ポリオレフィン、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、フッ素樹脂、及びこれらの複合物が使用可能である。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリブタジエン(BR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、及びポリカーボネート(PC)からなる群から選択された樹脂が、セパレータ3の材料として使用することが可能である。また、この群から選択された複数種類の樹脂の混合物も、セパレータ3の材料として使用することが可能である。
【0032】
前述の樹脂は、溶融塩電池の動作温度である溶融塩の融点以上の温度でも熱分解を起こさず、また溶融塩の融点以上の温度で溶融塩に対する耐性を有する。また前述の樹脂は、フッ化水素に対する耐性を有する。このため、溶融塩電池の内部温度が異常に上昇した場合でも、発生したフッ化水素によってセパレータ3が腐食されることは無く、セパレータ3の腐食を原因として正極1と負極2とが短絡して更に内部温度が上昇することも無い。従って、溶融塩電池における熱暴走の発生が防止される。前述の樹脂の内、PTFEは、フッ化水素に対する耐性及び耐熱性において性能が最も優れる。またポリエチレン及びポリプロピレン等では、架橋重合させることによって、溶融塩電池の通常の動作温度を超える温度となる110℃程度の耐熱性を有することが可能である。
【0033】
通常、PTFE等のフッ化水素に対する耐性のある樹脂は親水性が低く、溶融塩に対する濡れ性が悪い。そこで、セパレータ3には、親水性を付与するための処理を施してある。具体的には、PTFE等の樹脂からなるシートに対してUV(紫外線)照射又はプラズマ処理を行い、UV照射又はプラズマ処理後のシートからセパレータ3を製造してある。プラズマ処理は、例えば、窒素ガス及び水素ガスの混合ガスに高周波電圧を印加することにより発生したプラズマ中にPTFE製のシートを暴露することにより行う。例えば、UV照射又はプラズマ処理後のPTFE製のシートでは、フッ素の一部がヒドロキシル基に置換されており、ヒドロキシル基の作用によって親水性が増している。親水性が増した等の樹脂からなるシートからセパレータ3を製造することにより、セパレータ3は親水性を付与されている。セパレータ3は、親水性を付与されていることにより、親水性を付与するための処理を施していないPTFE等の樹脂に比べて溶融塩に対する濡れ性が向上しており、溶融塩の含浸が比較的容易となっている。
【0034】
またセパレータ3は、内部に溶融塩を含浸させ、正極1と負極2との間で電荷キャリアを移動させるために、多孔質の構造となっている。セパレータ3の孔径が過小である場合は、内部への溶融塩の含浸が困難であり、セパレータ3を通過する電荷キャリアの移動が困難になることにより、溶融塩電池のサイクル特性が悪化する。即ち、充電及び放電のサイクルを繰り返した後に溶融塩電池の容量が減少する。セパレータ3への溶融塩の含浸が可能となり、溶融塩電池が最低限のサイクル特性を得るためには、セパレータ3の平均孔径は0.1μm以上であることが必要である。またセパレータ3への溶融塩の含浸がより容易となり、溶融塩電池が適度なサイクル特性を得るためには、セパレータ3の平均孔径は0.5μm以上であることが望ましい。セパレータ3の孔径が過大である場合は、正極1又は負極2に発生したデンドライトがセパレータ3を貫通し易くなり、短絡が発生する危険性が高まる。短絡を防止するためには、セパレータ3の平均孔径は少なくとも5μm以下であることが必要である。また短絡発生の頻度を実用的な範囲にまで低下させるためには、セパレータ3の平均孔径は2μm以下であることが望ましい。
【0035】
セパレータ3の厚みは、孔径と同様に短絡が発生する危険性に関係する。セパレータ3の厚みが過小である場合は、デンドライトがセパレータ3を貫通して短絡が発生する危険性が高まる。短絡を防止するためには、セパレータ3の厚みは少なくとも10μm以上であることが必要である。短絡発生の頻度を実用的な範囲にまで低下させるためには、セパレータ3の厚みは30μm以上であることが望ましい。また、セパレータ3の厚みが大きいほど、溶融塩電池の内部抵抗が上昇する。セパレータ3の厚みが過大である場合は、内部抵抗の上昇のため、高速放電時に溶融塩電池の容量が低下する。溶融塩電池が動作できる程度に内部抵抗を低下させるためには、セパレータ3の厚みは300μm以下であることが必要である。また高速放電時の溶融塩電池の容量の低下を実用的な範囲に抑制するためには、セパレータ3の厚みは100μm以下であることが望ましい。
【0036】
図2は、セパレータ3の厚み及び平均孔径と溶融塩電池の電池特性との関係を調べた実験結果を示す図表である。夫々に仕様が異なるセパレータ3を用いた溶融塩電池を作成し、電池特性を調べた。図2には、厚み、気孔率及び平均孔径が互いに異なる六種類のセパレータ3を用いた溶融塩電池の夫々について、電池特性として100サイクル後容量保持率と1C/0.2C放電容量比とを調べた結果を示す。100サイクル後容量保持率は、充放電を100サイクル繰り返した後の溶融塩電池の容量を、使用前の溶融塩電池の容量で除した比率を百分率で表したものである。通常、100サイクル後の容量は使用前の容量より減少しており、100サイクル後容量保持率は100%より小さい。1C/0.2C放電容量比は、1Cの放電レートで溶融塩電池を放電したときの容量を、0.2Cの放電レートで溶融塩電池を放電したときの容量で除した比率を百分率で表したものである。1Cは0.2Cよりも高放電レートであり、1C/0.2C放電容量比は、放電を高速化することによって減少した容量の、低速放電時の容量に対する割合を示す。
【0037】
No.1のサンプルでは、セパレータ3の厚みが30μm、気孔率が63%、平均孔径が0.565μmとなっており、溶融塩電池の100サイクル後容量保持率は75%、1C/0.2C放電容量比は93%である。No.2のサンプルでは、セパレータ3の厚みは30μmでNo.1と同一であり、気効率は59%でNo.1とほぼ同じである。一方、No.2での平均孔径は0.149μmであってNo.1よりも小さい。No.2でのセパレータ3の厚みがNo.1と同一であるので、No.2での1C/0.2C放電容量比は92%であってNo.1とほぼ同じである。しかし、No.2での平均孔径が小さいので、100サイクル後容量保持率は55%であって、No.1よりも大幅に小さい。No.2のサンプルのように、セパレータ3の平均孔径が0.1μm以上であれば、溶融塩電池が最低限のサイクル特性を得ることができ、実用的なサイクル特性を得るためには、No.1のサンプルのように、セパレータ3の平均孔径が0.5μm以上であることが望ましいことが明らかである。
【0038】
No.3のサンプルでは、セパレータ3の厚みがNo.1の半分の15μmであり、溶融塩電池の1C/0.2C放電容量比は96%となっており、高速放電が可能となっている。しかし、セパレータ3の平均孔径が0.088μmと非常に小さくなっており、溶融塩電池の100サイクル後容量保持率は、20%と非常に低い。このように、セパレータ3の平均孔径が0.1μm未満である場合は、溶融塩電池のサイクル特性が非常に悪化し、蓄電池としての使用が困難であることが明らかである。
【0039】
No.4のサンプルでは、セパレータ3の平均孔径が0.175μmでありNo.2より若干大きく、溶融塩電池の100サイクル後容量保持率は61%でありNo.2より若干大きい。またセパレータ3の厚みが50μmでありNo.2より大きく、溶融塩電池の1C/0.2C放電容量比は85%でありNo.2より小さい。No.5のサンプルでは、セパレータ3の平均孔径が0.162μmでありNo.2より若干大きく、溶融塩電池の100サイクル後容量保持率は68%でありNo.2より若干大きい。またセパレータ3の厚みが75μmでありNo.2の二倍以上大きく、溶融塩電池の1C/0.2C放電容量比は72%でありNo.2より小さい。セパレータ3の平均孔径が大きくなると溶融塩電池のサイクル特性が向上し、セパレータ3の厚みが大きくなると高速放電時の溶融塩電池の容量が低下することが明らかである。
【0040】
No.6のサンプルでは、セパレータ3の平均孔径がNo.1とほぼ同等の0.473μmであり、気効率がNo.1よりも大きい88%である。溶融塩電池の100サイクル後容量保持率は80%であり、No.1とほぼ同等のサイクル特性となっている。またNo.6のサンプルでは、セパレータ3の厚みは100μmであり、No.1よりも大幅に大きい。溶融塩電池の1C/0.2C放電容量比は、63%であり、No.1よりも大幅に低下している。セパレータ3の厚みをより大きくした場合は、高速放電時の溶融塩電池の容量はより低下することが予想され、実用的ではなくなる。このように、高速放電時の溶融塩電池の容量の低下を実用的な範囲に抑制するためには、セパレータ3の厚みは100μm以下であることが望ましいことが明らかである。
【0041】
以上詳述したように、本実施の形態に係る溶融塩電池は、セパレータ3の材料をフッ化水素に耐性のある樹脂としたので、溶融塩電池の内部でフッ化水素が発生することによって熱暴走が発生することが防止される。また本実施の形態においては、セパレータ3の平均孔径を適切な値とすることによって、溶融塩電池のサイクル特性が実用的な状態になる。またセパレータ3の厚みを適切な値とすることによって、高速放電時の溶融塩電池の容量の低下を抑制することができる。従って、本発明の溶融塩電池は、熱暴走の発生を防止しながらも性能の低下を抑制することが可能となる。
【0042】
なお、本発明の溶融塩電池が備えるセパレータ3は、多層構造であってもよい。例えば、セパレータ3は、孔径又は気孔率等が互いに異なる複数のシートを重ねた構成であってもよい。また例えば、セパレータ3は、フッ化水素に対する耐性のある樹脂からなるシートの表面にポリビニルアルコールの層を形成してあることによって、親水性を付与してある構成であってもよい。また前述したように、セパレータ3の材料はフッ化水素に対する耐性及び耐熱性の点からPTFEが好ましいが、フッ化水素に耐性のある樹脂であれば、セパレータ3の材料はPTFE以外の樹脂であってもよい。PTFE以外の樹脂をセパレータ3の材料として用いた場合は、溶融塩電池の動作温度はセパレータ3の材料が熱分解しない程度の温度である必要がある。
【0043】
また、本実施の形態においては、正極集電体11及び負極集電体21はアルミニウム製であるとしたが、他の導電体製であってもよい。また、溶融塩電池の形状は直方体の形状に限るものではなく、その他の形状であってもよい。例えば、溶融塩電池の形状を円柱状であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 正極
11 正極集電体
12 正極材
2 負極
21 負極集電体
22 負極材
3 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質でシート状のセパレータを備え、電解質として溶融塩を用いる溶融塩電池であって、
前記セパレータは、
フッ化水素に対する耐性を有する樹脂を材料としてあり、
平均孔径が0.1μm以上5μm以下であること
を特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記セパレータは、厚みが10μm以上300μm以下であること
を特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記セパレータは、平均孔径が0.5μm以上2μm以下であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩電池。
【請求項4】
前記セパレータは、厚みが30μm以上100μm以下であること
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の溶融塩電池。
【請求項5】
前記樹脂はポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、及びポリカーボネートからなる群から選択されたいずれか1種の樹脂、又は前記群から選択された複数種類の樹脂の混合物であること
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の溶融塩電池。
【請求項6】
前記セパレータに親水性を付与してあること
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−195105(P2012−195105A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57002(P2011−57002)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】