説明

溶融温度以下で製造した、耐摩耗性高架橋ポリエチレン

本発明は、フリーラジカル含有量を少なくした、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に含まない、照射した、架橋ポリエチレンを提供する。照射の際に増感性環境と接触させながら、または接触させずに、照射したポリエチレンを機械的に変形させ、その照射後のポリエチレンを、その融点より高い温度でアニーリングすることにより、フリーラジカル含有量を下げた、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に含まない、耐摩耗性の架橋ポリエチレンを製造する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本願は、2005年8月22日提出の米国仮出願第60/709,799号(該出願は引用されることにより本願の開示の一部とされる。)を基礎として優先権を主張したものである。
【0002】
本発明は、フリーラジカル含有量を減少させた、好ましくは残留フリーラジカルをほとんど、または実質的に含まない、照射した、架橋ポリエチレン(PE)組成物、および架橋ポリエチレンの製造方法に関する。本発明は、照射の際に増感性環境と接触させながら、または接触させずに、照射したPEを機械的に変形させ、その照射後のポリエチレンを、融点より高い温度でアニーリングすることにより、フリーラジカル含有量を低減した、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に含まない、耐摩耗性の架橋ポリエチレンを製造する方法に関する。
【発明分野の説明】
【0003】
ポリエチレンにおける架橋密度の増加は、材料の耐摩耗性を大きく増加させるため、関節形成術のための支持表面用途に望ましい。好ましい架橋方法は、ポリエチレンをイオン化放射線で露出することである。放射線架橋は、UHMWPEの耐摩耗性を増加させる(Muratogluら, J. Arth, 2001. 16(2): p. 149-160、Karlholmら, Hip Society, 2003参照)。しかし、イオン化放射線により、架橋に加えて、酸化により誘発される脆化の前駆物質である残留フリーラジカルも発生する。これは、生体内装置の性能に悪影響を及ぼすことが分かっている。照射後の融解は、UHMWPEの機械的を低下させる。架橋と安定化を交互に行う方法が開発されている。ポリエチレンの結晶化度が大きく低下するのを回避するために、残留フリーラジカル濃度を下げ、モジュラスをあまり低下させない、実質的に維持する、または増加させることが望ましい。しかしながら、高度に架橋したUHMWPEの機械的特性を、第一世代の架橋UHMWPEよりも改良することは、先行技術の実施では不可能であった。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ポリエチレンを、所望により増感性環境と接触させながら、ポリエチレンの融点より低い温度で照射し、所望により機械的変形により、フリーラジカル含有量を、好ましくは検出できないレベルに下げることを含んでなる方法により製造された、改良された、照射された、フリーラジカル濃度を低減させた架橋ポリエチレンに関する。
【0005】
本発明の一態様においては、照射された、架橋したポリエチレン組成物を製造する方法であって、a)該ポリエチレンを、固体状態または溶融状態で機械的に変形させる工程、b)該ポリエチレンを、該変形させた状態で、ポリエチレンの融点より低い温度で結晶化させる工程、c)該ポリエチレンの融点より低い温度にある該ポリエチレンを照射する工程、およびd)該照射されたポリエチレンを、該融点より高い温度に加熱し、残留フリーラジカル濃度を下げ、形状を回復させる工程を含んでなる、方法を提供する。
【0006】
別の態様で、本発明は、照射された、架橋したポリエチレン組成物であって、a)ポリエチレンを、固体状態または溶融状態で機械的に変形させること、b)前記ポリエチレンを、変形させた状態で、ポリエチレンの融点より低い温度で結晶化させること、c)ポリエチレンの融点より低い温度にある前記ポリエチレンに照射すること、およびd) 前記照射されたポリエチレンを、その融点より高い温度に加熱し、残留フリーラジカル濃度を下げて、形状を回復させること、を含んでなる方法により製造された、組成物を提供する。
【0007】
本発明の一態様において、ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%以上である、照射された、架橋ポリエチレンを提供する。
【0008】
本発明の別の態様においては、ポリエチレンの弾性率が、照射されていない出発ポリエチレンまたは照射して融解したポリエチレンの弾性率よりも高いか、またはごく僅かに低い、すなわちほとんど等しい、照射された架橋ポリエチレンを提供する。
【0009】
本発明においては、ポリエチレンは、ポリオレフィンであり、好ましくは低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0010】
本発明の一態様においては、ポリエチレンを、照射前に増感性環境と接触させる。増感性環境は、例えばアセチレン、クロロ−トリフルオロエチレン(CTFE)、トリクロロフルオロエチレン、エチレン、等、またはそれらの、好ましくは窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、およびこの分野で公知の全ての不活性ガスからなる群から選択された希ガスを含む、混合物からなる群から選択することができる。ガスは、アセチレンと窒素の、アセチレン約5体積%および窒素約95体積%を含んでなる混合物でよい。
【0011】
本発明の一態様においては、ポリエチレンの出発材料は、固化した原料の形態でも、完成した製品の形態でもよい。
【0012】
本発明の別の態様においては、ポリエチレン(例えばUHMWPE)の出発材料は、酸化防止剤および/またはその誘導体、例えばα−トコフェロールまたはトコフェロールアセテートを含んでいてもよい。
【0013】
本発明の別の態様においては、フリーラジカル濃度を低減した、好ましくは、検出可能な残留フリーラジカルを含まない(すなわち、フリーラジカル含有量が、現在の検出限界である1014スピン/グラムより低い)架橋ポリエチレンであり、かつ、弾性率が、未照射の出発ポリエチレンまたは照射して融解したポリエチレンの弾性率とほぼ等しいか、またはほんの僅かに高いことを特徴とする、照射された架橋ポリエチレンを提供する。本発明のさらに別の態様においては、未照射の出発ポリエチレンまたは照射して融解したポリエチレンのクリープ耐性と比較して、クリープ耐性が改善されていることを特徴とする、残留フリーラジカル含有量が低減した架橋ポリエチレンを提供する。
【0014】
本発明の一態様において、架橋したポリエチレンを製造する方法であって、ポリエチレンを増感性環境と接触させながら、前記ポリエチレンに、ポリエチレンの融点より低い温度で照射し、フリーラジカル含有量を、好ましくは検出できないレベルに、低減することを含んでなる、方法を提供する。
【0015】
本発明の別の態様においては、架橋したポリエチレンの処理方法であって、前記ポリエチレンの結晶化度が、未照射の出発ポリエチレンの結晶化度とほぼ等しく、前記ポリエチレンの結晶化度が、少なくとも約51%以上であり、前記ポリエチレンの弾性率が、未照射の出発ポリエチレンまたは照射して融解したポリエチレンの弾性率とほぼ等しいか、またはそれより高い、方法を提供する。
【0016】
本発明により、増感性環境の存在下で照射後にアニーリングすることにより達成される、イオン化放射線を照射した、フリーラジカル濃度が低減した、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に含まない、ポリエチレンも提供する。
【0017】
本発明の一態様においては、ポリエチレンを、照射前に増感性環境と接触させる、架橋したポリエチレンの製造方法を提供する。
【0018】
本発明の別の態様においては、増感性環境が、アセチレン、クロロ−トリフルオロエチレン(CTFE)、トリクロロフルオロエチレン、エチレンガス、またはそれらの混合物であり、前記ガスが、アセチレン約5体積%および窒素約95体積%を含んでなるアセチレンと窒素との混合物である、架橋したポリエチレンの製造方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに別の態様においては、増感性環境が、炭素数が異なったジエン、またはそれらの液体および/またはガスの混合物である、架橋したポリエチレンの製造方法を提供する。
【0020】
本発明の一態様においては、照射をガンマ線または電子線放射により行い、照射を融解温度よりは低い、高温で行い、放射線量レベルが約1〜約10,000kGyである、架橋したポリエチレンの製造方法を提供する。
【0021】
一態様においては、増感性環境の存在下におけるアニーリングを、少なくとも約1.0気圧(atm)の、周囲の大気圧より上で行い、増感性分子の、ポリエチレン中への拡散速度を増加する、架橋したポリエチレンの製造方法を提供する。
【0022】
別の態様においては、増感性環境の存在下におけるアニーリングを高周波音波処理(sonication)により行い、増感性分子の、ポリエチレン中への拡散速度を増加する方法を提供する。
【0023】
本発明のさらに別の態様においては、照射された架橋ポリエチレンを処理する方法であって、ポリエチレンを増感性環境と接触させること、前記ポリエチレンの融点より高い温度、少なくとも約135℃、で、増感性環境の存在下でアニーリングし、残留フリーラジカル濃度を、好ましくは検出不可能なレベルに低減することを含んでなる、方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の態様においては、照射されて、フリーラジカル濃度が低減した、改良された架橋ポリエチレン組成物であって、所望により増感性環境中で、ポリエチレンの融点より低い温度で照射すること、前記ポリエチレンを機械的に変形させ、残留フリーラジカル濃度を低減すること、および所望により前記ポリエチレンの融点より低い温度で、好ましくは約135℃で、アニーリングし、熱的応力を減少させることを含んでなる方法により製造された、組成物を提供する。
【0025】
本発明の一態様においては、ポリエチレンの機械的変形を、増感性環境の存在下で、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で行い、前記ポリエチレンのフリーラジカル含有量を低減し、好ましくは電子スピン共鳴により検出可能な残留フリーラジカルを含まない。
【0026】
本発明の別の態様においては、照射を、空気中、または窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、およびこの分野で公知のすべての不活性ガスからなる群から選択された不活性環境中で行う。
【0027】
本発明のさらに別の態様においては、機械的変形が、単軸、チャネルフロー、単軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、伸張、単軸伸張、二軸伸張、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮(チャネルダイ)またはそれらのいずれかの組合せであり、ポリエチレンの融点より低い温度で、増感性ガスの存在下または非存在下で行われる。
【0028】
本発明のさらに別の態様においては、ポリエチレンの機械的変形を、ポリエチレンの融点より低く、室温より高い温度で、好ましくは約100℃〜約137℃、より好ましくは約120℃〜約137℃、さらに好ましくは約130℃〜約137℃、最も好ましくは約135℃で行う。
【0029】
一態様において、照射された架橋ポリエチレンのアニーリング温度は、ポリエチレンの融点より低く、好ましくは約145℃未満、より好ましくは約140℃未満、さらに好ましくは約137℃未満である。
【0030】
さらに別の態様においては、ポリエチレンの弾性率が、未照射の出発ポリエチレンの弾性率とほぼ等しいか、またはそれより高い、照射された架橋ポリエチレンを提供する。
【0031】
本発明により、照射された架橋ポリエチレンの製造方法であって、ポリエチレンの融点より低い温度で、所望により増感性環境中で、ポリエチレンに照射すること、前記ポリエチレンを機械的に変形させ、残留フリーラジカル濃度を低減し、所望により前記ポリエチレンの融点より低い温度で、好ましくは約135℃でアニーリングし、熱的応力を減少させること、を含んでなる、方法を提供する。
【0032】
本発明の一態様において、ポリエチレンを、所望により増感性環境の存在下で、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で、好ましくは約135℃で、機械的に変形させる方法であって、前記ポリエチレンのフリーラジカル含有量を低減し、好ましくは電子スピン共鳴により検出可能な残留フリーラジカルを含まない、方法を提供する。
【0033】
本発明の別の態様においては、ポリエチレンの変形方法であって、ポリエチレンの融点より低く、室温より高い温度、好ましくは約100℃〜約137℃、より好ましくは約120℃〜約137℃、さらに好ましくは約130℃〜約137℃、最も好ましくは約135℃である、方法を提供する。
【0034】
本発明のさらに別の態様においては、照射された架橋ポリエチレン組成物を処理し、残留フリーラジカルを減少させる方法であって、前記ポリエチレンを機械的に変形させること、および前記ポリエチレンの融点より低い温度でアニーリングし、熱的応力を減少させることを含んでなり、前記機械的変形を、所望により増感性環境の存在下で行う(好ましくは約135℃で)、方法を提供する。
【0035】
本発明のさらに別の態様においては、照射された架橋ポリエチレン組成物であって、ポリエチレンの融点より低い温度でポリエチレンに照射すること、前記照射されたポリエチレンの融点より低い温度で前記ポリエチレンを機械的に変形させ、残留フリーラジカル濃度を低減させること、前記融点より高い温度でアニーリングすること、および室温に冷却すること、を含んでなる方法により製造される、組成物を提供する。
【0036】
別の態様において、本発明は、照射された架橋ポリエチレン組成物の製造方法であって、ポリエチレンを、固体または溶融状態で機械的に変形させること、前記ポリエチレンを、変形した状態で結晶化/固化させること、ポリエチレンの融点より低い温度で前記ポリエチレンに照射すること、および前記照射されたポリエチレンを、その融点より高いまたは低い温度で、照射し、残留フリーラジカル濃度を低減させて、本来の形状を回復するか、または形状記憶を保存することを含んでなる、方法を提供する。
【0037】
本発明のこれらの態様および他の態様は、下記の説明から当業者には明らかである。
【発明の詳細な説明】
【0038】
本発明は、照射されたポリエチレン中の残留フリーラジカル濃度を、好ましくは検出不可能なレベルに下げることができる方法を開示する。この方法では、照射されたポリエチレンを増感性環境と接触させ、ポリエチレンを、フリーラジカルを増感性環境と反応させることができる臨界温度より高い温度に加熱する。本発明は、照射の際に増感性環境と接触させて、または接触させずに、照射したPEを機械的に変形させ、照射後のPEを、PEの融点より高い温度でアニーリングすることにより、架橋した、耐摩耗性の、フリーラジカル含有量を低減した、好ましくは残留フリーラジカルを実質的に含まない、ポリエチレンを製造する方法も記載する。
【0039】
本発明により得られる材料は、結晶化度およびモジュラスを大きく損なわずに、残留フリーラジカルを減少させた、好ましくは検出可能なフリーラジカルを含まない、架橋したポリエチレンである。
【0040】
本発明により、ポリエチレンに照射して高分子鎖を架橋させる。一般的に、ガンマ線照射は、浸透深度が高いが、より長い時間を要し、ある程度の酸化を引き起こす可能性がある。一般的に、電子線照射は、浸透深度はより低いが、所要時間がより短く、従って、酸化の可能性が低い。照射線量を変え、最終的なポリエチレン製品における架橋程度および結晶化度を制御することができる。好ましくは、約1kGyを超える線量を使用し、より好ましくは約20kGyを超える線量を使用する。電子線照射を使用する場合、電子のエネルギーを変化させ、電子の浸透深度を変え、それによって、最終的な製品における架橋の浸透深度を制御することができる。好ましくは、エネルギーは、約0.5MeV〜約10MeV、より好ましくは約5MeV〜約10MeVである。そのような可変性は、照射される物体が、厚さまたは深度が変化する製品、例えば医療用補欠物用の関節カップ、である場合に、特に有用である。
【0041】
本発明は、照射され、フリーラジカル濃度が低減し、好ましくは検出可能なフリーラジカルを実質的に含まない、改良された架橋ポリエチレンであって、前記照射されたポリエチレンを増感性環境と接触させること、ポリエチレンの融点より高い温度で、増感性環境の存在下でアニーリングし、残留フリーラジカル濃度を、好ましくは検出不可能なレベルに低減させることを含んでなる方法により製造された、ポリエチレンを提供する。
【0042】
本発明により、ポリエチレンを変形させて永久的変形を与えること、前記変形したポリエチレンに照射すること、および前記照射されたポリエチレンを加熱することにより、ポリエチレンの耐摩耗性を下げることができる。変形したポリエチレンの加熱は、本発明の一態様により、溶融状態より高い温度で行う。本発明のポリエチレンは、第一世代の溶融状態で照射されたポリエチレンよりも、優れた機械的特性を有する。
【0043】
本発明の一実施態様においては、ポリエチレンをシリンダー、基底部が正方形である長方形プリズム、または変形前に長円形基底部を有するシリンダーに成形する。
【0044】
本発明の別の実施態様においては、短軸圧縮、チャネルダイ変形、引張変形、ねじり変形等の一つ以上を使用してポリエチレンを変形させる。
【0045】
一実施態様においては、ポリエチレンを、室温で、または室温より高い温度で変形させる。別の実施態様においては、ポリエチレンを、その融点より低い温度、または融点より高い温度で、変形させる。
【0046】
別の実施態様においては、ポリエチレンを、短軸圧縮またはチャネルダイ変形で、少なくとも1.1、2、2.5または2.5を超える圧縮比に変形する。
【0047】
別の実施態様においては、変形させたポリエチレンを、少なくとも10kGy、25kGy、40kGy、50kGy、65kGy、75kGy、または100kGy、もしくは100kGyを超える線量レベルに照射する。
【0048】
別の実施態様においては、変形させ、照射したポリエチレンを、溶融状態より低いか、または高い温度に加熱する。
【0049】
別の実施態様においては、変形させ、照射し、加熱したポリエチレンを機械加工し、製品、例えば医療用装置、を製造する。
【0050】
別の実施態様においては、医療用装置を包装し、ガスプラズマ、エチレンオキシド、ガンマ線照射、または電子線照射のような方法を使用して滅菌する。
【0051】
別の実施態様においては、ポリエチレンを、変形、照射、および加熱工程を通す連続サイクルを2回以上実施し、所望の累積放射線量レベルを達成する。
【0052】
別の実施態様では、出発ポリエチレン材料(例えばUHMWPE)が、酸化防止剤および/またはその誘導体、例えばα−トコフェロールもしくはトコフェロールアセテートを含む。
【0053】
別の実施態様においては、α−トコフェロールを含むポリエチレン材料(例えばUHMWPE)を機械的に変形させ、照射する。続いて、前記ポリエチレン材料(例えばUHMWPE)を、その融点より低いか、または高い温度に加熱し、その本来の形状を少なくとも部分的に回復させるか、または照射前の機械的変形に続く形状記憶を保存する。
【0054】
別の実施態様においては、本明細書に記載する実施態様における機械的変形工程を、重合体、例えばポリエチレン材料(例えばUHMWPE)、の融解温度より低いか、または高い温度で行う。
【0055】
別の実施態様においては、本明細書に記載する実施態様で、その本来の形状を少なくとも部分的に、場合により完全に回復させるか、または照射前の機械的変形に続く形状記憶を保存するために使用する、照射後の加熱工程を、重合体、例えばポリエチレン材料(例えばUHMWPE)、の融解温度より低いまたは高い、いずれかの温度で行う。
【0056】
本発明は、ポリエチレンの処理方法であって、ポリエチレンの結晶化度が、未照射の出発ポリエチレンまたは照射された、融解したポリエチレンの結晶化度より高く、前記ポリエチレンの結晶化度が少なくとも約51%であり、前記ポリエチレンの弾性率が、未照射の出発ポリエチレンの弾性率とほぼ等しいか、またはそれより高い、方法を提供する。
【0057】
本発明により、変形を、大きな等級(例えばチャネルダイ中で圧縮比2)で行うことができる。結晶相中に捕獲されている残留フリーラジカルを移動させるのに十分な塑性変形を与えることができる。また、変形により、重合体中に配向を誘発することができ、この配向により、異方性機械的特性を与えることができ、充填材の加工には有用な場合がある。望ましくない場合、重合体の配向は、融点より低いか、または高い高温でさらにアニーリングすることにより、除去することができる。
【0058】
本発明の別の態様においては、照射した部品に高ひずみ変形を与えることができる。この様式で、結晶性領域中に捕獲されているフリーラジカルが、変形により誘発される流動の際に結晶面同士が互いにすれ違うので、隣接する結晶面中にあるフリーラジカルと反応すると思われる。高周波振動、例えば超音波振動を使用して結晶格子中に運動を引き起こすことができる。この変形は、ポリエチレンの融点より高いまたは低い、高温で、増感性環境の存在下または非存在下で、行うことができる。超音波により誘発されるエネルギーにより、全体的な温度が増加せずに、結晶塑性が得られる。
【0059】
本発明は、フリーラジカル除去に続いて、融点より低い温度でさらにアニーリングする方法を提供する。溶融状態より低い温度におけるフリーラジカルの除去は、増感性ガス方法および/または機械的変形方法により達成される。検出可能な残留フリーラジカルが減少した、または含まれない、架橋したポリエチレンのさらなるアニーリングは、様々な理由から行う。
【0060】
例えば、
1.機械的変形は、大きな等級(例えばチャネルダイ変形の際の圧縮比2)で行う場合、分子配向を引き起こすが、これは、ある種の用途(例えば寛骨臼ライナー)には好ましくない場合がある。従って、機械的変形には、
a)配向の量を減少させ、高温における機械的変形および冷却に続いて存続することがある熱的応力も減少させるために、融点より低い温度(例えば約137℃未満)におけるアニーリングを使用する。アニーリングに続いて、熱的応力を最少に抑えるために、十分に遅い冷却速度(例えば約10℃/分)で、ポリエチレンを冷却する。特定の状況下で、融点未満におけるアニーリングが、配向の低減および/または熱的応力の除去を達成するのに十分ではない場合、ポリエチレンをその融点より高い温度に加熱することができる。
b)照射の前、最中、および/または後に、増感性環境と接触させることにより、照射およびそれに続く融解の後に起こる恐れがある結晶性低下と比較して、結晶性が大きく低下していないポリエチレンが得られる。増感性環境と接触したポリエチレンの結晶化度および放射線処理したポリエチレンの結晶化度は、重合体をその融点より高い温度(例えば約137℃を超える)でアニーリングすることにより低下する。次いで、室温への冷却を、熱的応力を抑えるのに十分に遅い冷却速度(例えば約10℃/分)で行う。
【0061】
本明細書に記載するように、機械的変形により、放射線架橋したUHMWPE中の残留フリーラジカルを排除することができる。本発明により、先ずUHMWPEを、固体または溶融状態で、例えば圧縮により、新しい形状に変形させることができる。本発明の方法により、UHMWPEの機械的変形を溶融状態で行った場合、重合体が負荷の下で結晶化し、その新しい形状を維持する。変形工程に続いて、その変形したUHMWPE試料を融点より低い温度で照射して架橋させるが、これによって残留フリーラジカルが発生する。これらのフリーラジカルを排除するために、照射した重合体試料を、その変形させ、照射したポリエチレンの融点より高い温度(例えば約137℃)に加熱する。上記の方法は、「逆IBMA」と呼ばれる。逆IBMA(溶融状態より低い温度で逆照射および機械的アニーリング)技術は、UHMWPEを基材とする医療用装置の大規模製造に適用するのに好適である。
【0062】
本発明のこれらの、および他の態様は、下記の説明から当業者には明らかである。
【0063】
「増感性環境」とは、残留フリーラジカルと反応し、残留フリーラジカルの再結合を促進することができる、増感性のガスおよび/または液体(室温で)成分を含む気体および/または液体の混合物を意味する。ガスは、アセチレン、クロロ−トリフルオロエチレン(CTFE)、エチレン等でよい。ガスまたはガスの混合物は、希ガス、例えば窒素、アルゴン、ネオン等を含むことができる。他のガス、例えば二酸化炭素または一酸化炭素も、この混合物中に存在することができる。装置を製造する際に、処理された材料の表面を機械加工して取り除く用途では、ガスブレンドは、酸化性ガス、例えば酸素を含むこともできる。増感性環境は、炭素数が異なったジエン、またはそれらの液体および/またはガスの混合物でよい。増感性液体成分の例は、他の増感性液体および/または非増感液体、例えばヘキサンまたはヘプタンと混合し得る、オクタジエンまたは他のジエンである。増感性環境は、増感性ガス、例えばアセチレン、エチレン、または類似のガスまたはガス混合物、もしくは増感性液体、例えばジエンを包含することができる。この環境を室温〜材料の融点より高いまたは低い温度に加熱する。
【0064】
「残留フリーラジカル」は、重合体をイオン化放射線、例えばガンマ線またはe線照射、を暴露した時に発生するフリーラジカルを意味する。フリーラジカルの中には、互いに再結合して架橋を形成するものもあれば、結晶性領域中に捕獲されるものもある。捕獲されたフリーラジカルは、残留フリーラジカルと呼ばれる。
【0065】
「検出可能な残留フリーラジカルが実質的に無い」の句は、電子スピン共鳴(ESR)により測定して、検出可能なフリーラジカルが存在しない、または検出可能な残留フリーラジカルを実質的に含まないことを意味する。現状技術水準の計器で検出可能なフリーラジカルの最も低いレベルは、約1014スピン/グラムであり、従って、用語「検出可能な」とは、ESRによる1014スピン/グラムの検出限界を意味する。
【0066】
数値および範囲における用語「約」または「およそ」は、本発明を意図した通りに実行できるように、例えば本明細書に含まれる開示から当業者には明らかなように、所望の程度の架橋を有する、および/またはフリーラジカルが所望の程度に少なくなるように、記載する値または範囲に近似するか、または近い値または範囲を意味する。これは、少なくとも部分的に、重合体組成物の特性が様々であることに起因する。従って、これらの用語は、系統的な誤差から生じる値を超える値を包含する。
【0067】
用語「アルファ転移」は、転移温度を意味し、通常は約90〜95℃であるが、ポリエチレン中に溶解する増感性環境の存在下では、アルファ転移を下げることができる。アルファ転移は、結晶相中に運動を誘発すると考えられ(「アルファ転移温度」の説明は、N.G. McCrum, B.E. Read and G. Williamsによる、重合体状固体における非弾性および誘電性効果(Anelastic and Dielectric Effects in Polymeric Solids)、141-143頁、J. Wiley and Sons, N.Y., N.Y., 1967出版、に記載されている)、この運動により、この相中への増感性環境の拡散が増加する、および/または捕獲されたフリーラジカルが解放されると仮定されている。
【0068】
用語「臨界温度」は、ポリエチレンのアルファ転移に対応する。
【0069】
用語「融点より低い」または用語「溶融状態より低い」は、ポリエチレン、例えばUHMWPE、の融点より低い温度を意味する。用語「融点より低い」または用語「溶融状態より低い」は、145℃より低い温度を意味し、これはポリエチレンの融点によって異なり、例えば145℃、140℃または135℃でよく、やはり処理しているポリエチレンの特性、例えば分子量の平均および範囲、バッチ変動等によって異なる。融解温度は、典型的には示差走査熱量測定(DSC)を使用し、毎分10℃の加熱速度で測定される。こうして測定されたピーク融解温度を融点と呼び、例えばある等級のUHMWPEには約137℃にある。融解試験は、出発ポリエチレン材料に対して行い、融解温度を測定し、照射およびアニーリング温度を決定するのが望ましい。
【0070】
用語「圧力」は、増感性環境におけるアニーリングには、常圧より高い、少なくとも約1気圧の大気圧を意味する。
【0071】
用語「アニーリング」は、重合体をそのピーク融点より低い温度に加熱することを意味する。アニーリング時間は、少なくとも1分間〜数週間まで長くてよい。一態様では、アニーリング時間は約4時間〜約48時間、好ましくは24〜48時間、より好ましくは約24時間である。機械的変形に続いて所望のレベルに回復させるのに必要なアニーリング時間は、通常、アニーリング温度が低い程、長くなる。「アニーリング時間」は、本発明によるアニーリングのための熱的条件を指す。
【0072】
用語「接触した」とは、増感剤がその意図する機能を果たせるような、物理的な近傍または接触を包含する。好ましくは、ポリエチレン組成物またはプリフォームを、増感剤中に浸漬されるように、十分に接触させ、これによって十分な接触を確保する。浸漬は、試料を特殊な環境中に十分な時間、適切な温度で、配置することとして定義される。環境は、増感性ガス、例えばアセチレン、エチレン、または類似のガス混合物、もしくは増感性液体、例えばジエンを包含する。この環境を、室温〜材料の融点より低い温度に加熱する。接触時間は、少なくとも約1分間〜数週間であり、この持続時間は、環境の温度によって異なる。一実施態様では、室温における接触時間は、約24時間〜約48時間、好ましくは約24時間である。
【0073】
「機械的変形」とは、材料の融点より低い温度で起こる変形を意味し、実質的に材料の「冷間加工」である。変形様式としては、単軸、チャネルフロー、単軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、伸張、単軸伸張、二軸伸張、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮(チャネルダイ)またはそれらのいずれかの組合せがある。変形は、静止でも動的でもよい。動的変形は、小または大振幅振動様式における変形モードの組合せでよい。超音波振動を使用できる。変形はすべて増感性ガスの存在下および/または高温で行うことができる。機械的変形工程は、ポリエチレン材料の融解温度より低いまたは高い、すべての温度で行うことができる。
【0074】
用語「変形した状態」とは、ポリエチレン材料の、固体または溶融状態における変形工程、例えば本明細書で記載するような機械的変形に続く状態を意味する。変形工程に続いて、固体状態または溶融状態における変形したポリエチレンを、変形した形状または新たに獲得した変形状態を維持している間に、固化/結晶化させる。
【0075】
「IBMA」とは、溶融状態より低い温度での照射および機械的アニーリングを意味する。「IBMA」は、「CIMA」(冷間照射および機械的アニーリング)とも呼ばれる。
【0076】
振動数範囲10〜100kHzにおける超音波処理(sonication)または超音波を振幅1〜50ミクロンのオーダーで使用できる。超音波処理の時間は、超音波処理の振動数および温度によって異なる。一実施態様において、超音波処理は、約1秒間〜約1週間、好ましくは約1時間〜約48時間、より好ましくは約5時間〜約24時間、さらに好ましくは約12時間である。
【0077】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)とは、分子量が約500,000 g/molを超える、好ましくは約1,000,000 g/molを超える、より好ましくは約2,000,000 g/molを超えるエチレン鎖を意味する。分子量は、約8,000,000 g/mol以上にも達する場合が多い。初期平均分子量とは、あらゆる照射前の、UHMWPE出発材料の平均分子量を意味する。UHMWPEの特性に関しては、米国特許第5,879,400号、1999年7月16日提出のPCT/US99/16070号(WO/20015337)、および1997年2月11日提出のPCT/US97/02220号(WO/9729793)を参照。
【0078】
「結晶化度」とは、重合体の、結晶性である画分を意味する。結晶化度は、試料の重量(グラムで表示した重量)、融解中に試料によって吸収された熱(E、J/gで表示)、およびポリエチレン結晶の融解熱(ΔH=291 J/g)を知ることにより、下記の式により計算される。
結晶化度%=E/w・ΔH
【0079】
引張「弾性率」は、標準的な試験ASTM 638 M III、等またはそれらの後継版を使用して求められる、公称応力と対応するひずみの比を意味する。
【0080】
用語「従来のUHMWPE」とは、市販の、分子量が約500,000を超えるポリエチレンを意味する。好ましくは、UHMWPE出発材料は、平均分子量が約2百万を超える。
【0081】
「初期平均分子量」とは、あらゆる照射前の、UHMWPE出発材料の平均分子量を意味する。
【0082】
本発明における用語「界面」は、充填材が、ポリエチレンが別の断片(例えば金属または重合体状成分)と機能的関係にある配置にある時に形成される、医療用装置中のニッシェとして定義され、これが重合体と金属または別の重合体状材料との間の界面を形成する。例えば、重合体−重合体または重合体−金属の界面は、医療用補欠物、例えば整形外科学的関節および骨置換部品、例えば股、膝、肘または踝置換物、中にある。工場で組み立てた、ポリエチレンと緊密に接触している断片を含む医療用充填材は、界面を形成する。多くの場合、界面は、ガス滅菌工程の際に、エチレンオキシド(EtO)ガスまたはガスプラズマ(GP)が到達できない。
【0083】
重合体状材料と界面を形成する断片は、金属製でよい。本発明により、ポリエチレンと機能的関係にある金属断片は、例えばコバルトクロム合金、ステンレス鋼、チタン、チタン合金またはニッケルコバルト合金から製造することができる。
【0084】
本発明の製品および方法は、様々な種類の重合体状材料、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、UHMWPE、およびポリプロピレンにも適用される。
【0085】
本発明を下記の例によりさらに説明するが、これらの例は、本発明をいかなる様式においても制限するものではない。
【実施例】
【0086】
A.材料
圧縮成形した未処理GUR 1050 UHMWPE(Perplas Ltd., Lancashire, UK)をシリンダー(152.4×76.2 mm)に機械加工した。これらのシリンダーを、対流式加熱炉中、130℃で1時間予備加熱し、次いで圧縮比(CR)2.1または2.7に圧縮した。続いて、試料を100 kGyに照射した(Sterigenics, Charlotte, NC)。幾つかの試料を対流式加熱炉中で溶融状態より低い温度でアニーリングし(C-CI-SA)、幾つかを、真空中、溶融状態より高い温度160℃でアニーリングした(C-CI-SM)。圧縮工程後に処理しなかった試料は、CC試料と呼ぶ。未処理GUR 1050を100 kGyに照射し、続いて真空中で融解させたパック(CISM)は、第一世代の高度に架橋したUHMWPEを代表する比較試料として使用した。
【0087】
B.方法
引張機械的特性は、ASTM D-638に従い、二方向、すなわち単軸圧縮(CD)方向、および壁方向と呼ばれる、圧縮面でCDに対して直角の方向で測定した。これは、機械的特性における異方性の程度を調べるためである。この研究で、極限引張強度(UTS)、降伏強度(YS)、破壊するまでの仕事量(work-to-failure)(W)および破断点伸び(E)を報告する。
【0088】
供試試料の結晶化度(χ)およびピーク融解温度(T)は、Q1000 DSC (TA Instruments, Newark, DE)を使用して測定した。加熱および冷却速度は、10℃/分であった。結晶化度は、エンタルピーピークを20℃から160℃まで積分し、それを結晶化度100%ポリエチレンの融解エンタルピー(291 J/g)で規格化することにより、求めた。
【0089】
試験片を試料の材料から切り取り、University of Memphisで、Bruker EMX EPR装置(Bruker BioSpin Corporation, Billerica, MA)により、フリーラジカル濃度に関して分析した。
【0090】
二方向ピン−オン−ディスク(POD)摩耗試験を、ピンの関節表面がCD-WD平面に入るように機械加工した、直径13 mm、高さ9 mmの円筒形ピンで行った。
【0091】
架橋密度は、他に記載されている(Muratogluら, Biomaterials, 1999. 20:p.1463-1470参照)ようにして、測定した。
【0092】
C.結果および考察
UHMWPEの、圧縮および照射後のアニーリングおよび融解により、図1に示すように、本来の寸法がほぼ完全に回復した。
【0093】
照射した試料は、フリーラジカルの存在を示した(図2)。圧縮および照射した試料のアニーリングまたは融解により、フリーラジカル濃度が、検出不可能なレベルに減少した。
【0094】
照射前の変形は、材料における異方性への可能性である。照射された試料のアニーリングは、両方の圧縮比に対して異方性を引き起こしたが、融解は、低い方の圧縮比で等方性材料をもたらした(表1参照)。従って、等方性に関して、変形させ(CR=2.1)、照射し、融解させた試料は、第一世代の高度に架橋したUHMWPE(CISM)と同等であった。
【0095】
図3は、130℃で2.1に圧縮したC-CI-SM試料の熱的特性に対する、各処理工程の影響を示す。この試料の結晶化度は、CISM試料の結晶化度と類似していた(表1参照)。ピーク融点は、前者の方が低かった。
【0096】
C-CI-SMおよび比較用CISM試料の両方に対する架橋密度値は、165±2mol/mであった。同じ圧縮し、照射し、融解させた試料に対するE値は、比較用CISM試料のそれよりも著しく高かった(250%)。従って、130℃でCR2.1に圧縮したC-CI-SM試料は、比較用CISMと比較して、延性が遙かに高いUHMWPEを代表する。破壊するまでの仕事量(W)も、比較用CISM試料の1130±35 KJ/mから、同じ圧縮し、融解させた試料のWDおよびCD方向における1612±250および1489±229 KJ/mへの大きな改良を示した。
【0097】
【表1】

【0098】
驚くべきことに、圧縮し、照射し、融解させたUHMWPEは、比較用のCISM試料と同じ結晶化度および同じ架橋密度を有するにも関わらず、改良された機械的特性を示した。POD摩耗試験は、比較用のCISM試料に対して摩耗速度1.76±0.5 mg/MCを示した。これに対して、圧縮し、照射し、融解させた試料の摩耗速度は1.04±0.04 mg/MCであった。
【0099】
結論として、130℃で横方向にCR 2.1に圧縮し、100 kGyに照射し、続いて融解させたGUR 1050 UHMWPE円筒形バーは、第一世代の高度に架橋したUHMWPEに匹敵する結晶化度および摩耗特性を示し、一方、より優れた延性および靱性を示した。
【0100】
D.試料調製におけるチャネルダイの構成
図4に関して、試験試料「A」を先ずチャネルダイBと共に所望の温度に加熱する。次いで、チャネルダイ「B」を圧縮成形装置中に配置し、加熱した試料Aをチャネルの中央に合わせる。好ましくはやはり同じ温度に加熱したプランジャー「C」をチャネル中に配置する。次いで、プランジャー「C」を所望の圧縮比に押し付けることにより、試料「A」を圧縮する。プランジャーに対する負荷を取り除いた後、試料は弾性的に回復する。弾性回復に続くチャネルダイ変形の後、試験試料の圧縮比(最終高さ/初期高さ)を測定する。流動方向(FD)、壁方向(WD)、および圧縮方向(CD)は図4に示した通りである。
【0101】
E.照射したポリエチレンのチャネルダイ変形
超高分子量ポリエチレンの試験試料を、e−線またはガンマ線を使用して室温で照射する。次いで、試料をチャネルダイ中に120℃で配置し、単軸圧縮変形でファクター2だけ変形させる。残留フリーラジカル濃度を、電子スピン共鳴で測定して、120℃に同じ時間保持した試料と比較する。
【0102】
F.増感性環境と接触させて照射したポリエチレンのチャネルダイ変形
超高分子量ポリエチレンの試験試料を、e−線またはガンマ線を使用して室温で照射する。これらの試料を増感性ガス、例えばアセチレン、と飽和するまで接触させる。次いで、試料をチャネルダイ中に120℃で配置し、単軸圧縮変形でファクター2だけ変形させる。残留フリーラジカル濃度を、電子スピン共鳴で測定して、120℃に同じ時間保持した試料と比較する。
【0103】
G.示差走査熱量測定(DSC)法による結晶化度の測定
示差走査熱量測定(DSC)技術を使用し、ポリエチレン試験試料の結晶化度を測定する。DSC試料は、他に指示が無い限り、ポリエチレン試験試料の本体中央部から調製する。
【0104】
DSC試料を、AND GR202天秤で分解能0.01ミリグラムに秤量し、アルミニウム試料パン中に入れた。このパンにアルミニウムカバーを取り付け、TA instruments Q-1000示差走査熱量計中に入れた。試料を先ず0℃に冷却し、0℃に5分間保持し、熱的平衡に到達させる。次いで、試料を、加熱速度10℃/分で200℃に加熱する。
【0105】
次いで、ジュール/グラムに換算して測定した融解エンタルピーを、20℃から160℃のDSC曲線を積分することにより、計算する。結晶化度は、この融解エンタルピーを100%結晶性ポリエチレンの理論的エンタルピー(291 ジュール/グラム)で正規化することにより、決定する。本発明の開示により、当業者には明らかなように、他の好適な積分手法も使用できる。
【0106】
ポリエチレン試験試料の本体中央部の近くから得た試料三点の平均結晶化度を、標準偏差と共に記録する。
【0107】
Q1000 TA Instruments DSCは、温度およびエンタルピー測定用のインジウム標準で毎日校正する。
【0108】
無論、本説明、具体例およびデータは、代表的な実施態様を示しているが、説明のために記載するのであって、本発明を制限するものではない。本明細書に含まれる考察、開示およびそこに含まれるデータから、様々な変形および修正が当業者には明らかであり、従って、本発明の一部と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1a】アニーリングの前に室温でCR 2.7に圧縮したC-CI-SA試料を示す。
【図1b】アニーリングの後に室温でCR 2.7に圧縮したC-CI-SA試料を示す。
【図2】室温および130℃で処理したCC試料におけるフリーラジカルの存在に関するESR信号を示す。
【図3】圧縮、照射、アニーリングおよび融解の後、130℃でCR 2.1に圧縮した試料に対するDSCサーモグラムを示す。
【図4】本明細書に記載する例で説明する試料の幾つかを調製するのに使用したチャネルダイ配置を図式的に示す。試験試料Aを先ずチャネルダイBと共に所望の温度に加熱する。次いで、チャネルダイBを圧縮成形装置中に配置し、加熱した試料Aをチャネルの中央に合わせる。好ましくはやはり同じ温度に加熱したプランジャーCをチャネル中に配置する。次いで、プランジャーCを所望の圧縮比に押し付けることにより、試料Aを圧縮する。流動方向(FD)、壁方向(WD)、および圧縮方向(CD)は図に示した通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された、架橋ポリエチレン組成物を製造する方法であって、
a)ポリエチレンを、固体状態または溶融状態で機械的に変形させること、
b)前記ポリエチレンを、前記変形させた状態で、ポリエチレンの融点より低い温度で結晶化させること、
c)ポリエチレンの融点より低い温度にある前記ポリエチレンを照射すること、および
d)前記照射されたポリエチレンを、前記融点より高い温度に加熱し、残留フリーラジカル濃度を減少させて、形状を回復させること
を含んでなる、方法。
【請求項2】
照射された、架橋ポリエチレン組成物であって、
a)ポリエチレンを、固体状態または溶融状態で機械的に変形させること、
b)前記ポリエチレンを、前記変形させた状態で、ポリエチレンの融点より低い温度で結晶化させること、
c)ポリエチレンの融点より低い温度にある前記ポリエチレンを照射すること、および
d)前記照射されたポリエチレンを、前記融点より高い温度に加熱し、残留フリーラジカル濃度を減少させて、形状を回復させること
を含んでなる方法により製造された、組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレンの結晶化度が約51%以上である、請求項1または2に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項4】
前記ポリエチレンに含まれるフリーラジカルが実質的に少ないか、または前記ポリエチレンが、検出可能な残留フリーラジカルを含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項5】
前記変形したポリエチレンが、前記変形した状態で結晶化される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項6】
前記ポリエチレンが、結晶化に続いて、前記融点より低いまたは高い温度でアニーリングされる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項7】
前記ポリエチレンが、電子スピン共鳴により検出可能な、捕獲された残留フリーラジカルを実質的に含まない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項8】
前記ポリエチレンの結晶化度が、前記照射されていない出発ポリエチレンの結晶化度と略等しいか、または前記結晶化度より高い、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項9】
前記ポリエチレンの結晶化度が、前記照射されて、融解した出発ポリエチレンの結晶化度と略等しいか、または前記結晶化度より高い、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項10】
前記ポリエチレンの弾性率が、前記照射されていない出発ポリエチレンの弾性率と略等しいか、または前記弾性率より高い、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項11】
前記ポリエチレンの弾性率が、前記照射されて、融解した出発ポリエチレンの弾性率と略等しいか、または前記弾性率より高い、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項12】
出発ポリエチレン材料が、固化した原料の形態にある、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項13】
出発ポリエチレン材料が、完成した製品である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項14】
前記完成した製品が医療用補欠物である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項15】
前記ポリエチレンがポリオレフィンである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項16】
前記ポリオレフィンが、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項17】
前記ポリエチレンが、金属片と緊密に接触している、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項18】
前記金属片が、コバルトクロム合金、ステンレス鋼、チタン、チタン合金またはニッケルコバルト合金である、請求項17に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項19】
前記ポリエチレンが、別のポリエチレンまたは金属片と機能的関係にあり、それによって、界面を形成する、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項20】
前記界面に、エチレンオキシドガスまたはガスプラズマが到達できない、請求項19に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項21】
前記機械的変形が、単軸、チャネルフロー、単軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、伸張、単軸伸張、二軸伸張、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮(チャネルダイ)またはそれらの組合せである、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項22】
前記機械的変形が、超音波振動により、前記照射されたポリエチレンの融点より低い、高温で行われる、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項23】
前記機械的変形が、超音波振動により、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で、増感性ガスの存在下で行われる、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項24】
前記変形温度が約140℃未満である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項25】
前記ポリエチレンが、照射の前に、増感性環境と接触する、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項26】
前記増感性環境が、アセチレン、クロロ−トリフルオロエチレン(CTFE)、トリクロロフルオロエチレン、エチレンガス、またはそれらの、希ガスを含む混合物である、請求項25に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項27】
前記希ガスが、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、およびこの分野で公知の全ての不活性ガスからなる群から選択される、請求項26に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項28】
前記ガスが、アセチレンと窒素との混合物である、請求項27に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項29】
前記混合物が、アセチレン約5体積%および窒素約95体積%を含んでなる、請求項28に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項30】
前記増感性環境が、炭素数が異なるジエン、または前記ジエンの液体混合物である、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項31】
アニーリング温度が、前記ポリエチレンの融点より低い、請求項1〜30のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項32】
前記アニーリング温度が約145℃未満である、請求項1〜31のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項33】
前記照射が、ガンマ線または電子線放射を使用して行われる、請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項34】
前記照射が、前記融解温度より低い、高温で行われる、請求項1〜33のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項35】
放射線量レベルが約1〜約10,000 kGyである、請求項1〜34のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項36】
機械的変形が、増感性環境の存在下で行われる、請求項1〜35のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項37】
機械的変形が、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で行われる、請求項1〜36のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項38】
機械的変形が、増感性ガスの存在下で、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で行われる、請求項1〜37のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項39】
前記機械的変形が、単軸、チャネルフロー、単軸圧縮、二軸圧縮、振動圧縮、伸張、単軸伸張、二軸伸張、超音波振動、曲げ、平面応力圧縮(チャネルダイ)またはそれらの組合せである、請求項1〜39のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項40】
前記機械的変形が、超音波振動により、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で行われる、請求項1〜39のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項41】
前記機械的変形が、超音波振動により、前記ポリエチレンの融点より低い、高温で、増感性ガスの存在下で行われる、請求項1〜40のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項42】
前記機械的変形が約135℃未満で行われる、請求項1〜41のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項43】
前記照射が、空気または不活性環境中で行われる、請求項1〜42のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項44】
前記増感性環境の存在下でのアニーリングが、周囲の大気圧より上で行われる、請求項1〜43のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項45】
前記増感性環境の存在下でのアニーリングが、少なくとも約1.0気圧の、周囲の大気圧より上で行われる、請求項1〜43のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。
【請求項46】
前記増感性環境の存在下でのアニーリングが、高周波超音波処理により行われる、請求項1〜45のいずれか一項に記載の方法またはポリエチレン組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−504898(P2009−504898A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528013(P2008−528013)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/032323
【国際公開番号】WO2007/024686
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(593030244)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション ディー ビー エイ マサチューセッツ ジェネラル ホスピタル (8)
【Fターム(参考)】