説明

溶融物の固化状態検出方法

【課題】汎用のオシロスコープを用いて、溶融状態と固化状態とで音響インピーダンス差が小さい材料でもその固化状態を正確に検出できる溶融物の固化状態検出方法を提供すること。
【解決手段】超音波を用いた溶融樹脂の固化状態検出方法であり、互いに向かい合う二つの面110,120を有する樹脂1の一方の面110に対して超音波を斜めに入射させて、他方の面120側で樹脂1内を透過した透過波が受信される受信位置Pを検出し、検出された位置に基づいて樹脂1の固化状態を検出することを特徴とする溶融物の固化状態検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融物の固化状態検出方法に関する。詳しくは、振動波を用いた溶融物の固化状態検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形、ダイカスト鋳造、溶接、溶着等の成形技術には、加熱して溶融状態となった材料を冷却することにより、溶融物の冷却固化が進行する工程がある。溶融物の冷却固化の進行度合は、材料の種類、操業条件、製品形状等により大きく変化し、生産タクトや、強度、剛性、密度、表面外観、寸法精度等の製品品質に直接影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
例えば射出成形やダイカスト鋳造では、射出成形機で加熱溶融された材料は、金型内に射出された直後から、金型に熱を奪われて冷却固化が進行する。ところが、金型の冷却配管及びゲートの数や位置が不適切であると、溶融物の冷却固化の進行が遅くなり、生産タクトが延びてしまう。また、射出速度、印加圧力、型開きタイミング等の操業条件が不適切であると、不均一な冷却固化や冷却不足が生じ、上述のような製品品質が悪化してしまう。このため、生産性の向上及び製品品質の向上の観点から、溶融物の固化状態を検出し、その検出結果に基づいて最適な操業条件を設定したり、その検出結果を金型設計にフィードバックして最適な金型設計を行うことが望まれる。
【0004】
また、例えば溶接や溶着では、2以上の部材を接触させ、その接触部を局所的に加熱溶融させて接合した後に、溶融物の冷却固化が進行する。このため、溶融物の固化状態を検出してその固化完了時間を把握することは、生産タクトの短縮に繋がる。
また、溶接や溶着では、目標の接合強度が得られているか否かの確認が重要であるが、接合強度は溶融物の冷却固化の進行度合により大きく影響を受ける。このため、溶融物の固化状態を正確にリアルタイムで検出し、その検出結果に基づいて十分な接合強度が得られるように工程管理を行うことが望まれる。
現状、接合強度の確認は接合部を破壊して行われているが、接合強度は、材料の種類や製品形状に依存する他、操業条件にも大きく依存する。また、同じ操業条件を設定して溶接や溶着を行った場合でも外部環境の変化や設備の老朽化等によって実際の操業が設定通りとならないおそれがあることから、その度に接合部を破壊して接合強度の確認を行うことは非効率である。従って、このような観点からも、溶融物の固化状態を正確にリアルタイムで検出し、その検出結果に基づいて十分な接合強度が得られるように工程管理を行うことが望まれる。
【0005】
ところが、射出成形、ダイカスト鋳造、溶接、溶着等の成形技術において、溶融物の固化状態を正確にリアルタイムで検出する方法は未だ確立されていないのが現状である。そこで、溶融物の固化状態を検出する手段として、超音波を用いた方法が種々検討されている。
【0006】
例えば、対象物に対して垂直に超音波を入射させ、溶融層と固化層との境界面で反射される反射波を利用する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は、音響インピーダンスに差がある物質の境界面に超音波を入射させ、その境界面で反射される反射波の音波特性を利用するものである。この方法では、対象物の一方の面側に配置した超音波送受信機により超音波を入射し、溶融層と固化層の境界面で反射される反射波を連続的に検出することで、固化層の厚さを算出する。
【0007】
また、対象物に対して垂直に超音波を入射させ、対向する金型表面で反射される反射波又は透過波を利用する方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、射出成形やダイカスト鋳造において、反射波を利用する場合には金型の一方の側に超音波送受信機を配置し、透過波を利用する場合には他方の側にも超音波受信機を配置する。そして、キャビティ内に充填された溶融物に対して垂直に超音波を連続的に入射し、音波の到達時間の変化量から、溶融物の固化の完了を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−158506号公報
【特許文献2】特許第4096844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら特許文献1の方法では、溶融層と固化層との境界面で反射される反射波の強度が微弱であるため、波形処理を行う際に反射波とノイズを分離するのが困難である。特に材料が樹脂の場合には、溶融層と固化層の音響インピーダンス差が小さいため、反射波の強度が著しく弱くなり、反射波とノイズを分離するのが特に困難である。
また、溶融層と固化層の境界面以外から強い反射波が生じ、これが溶融層と固化層の境界面からの微弱な反射波と重なることで、波形処理がより一層困難となる。
【0010】
また特許文献2の方法では、厚みが薄い製品の場合にはキャビティ幅が小さく、溶融層と固化層の厚みも薄いため、音波の到達時間の変化量がごく僅かとなり、高い検出精度が得られない。特に材料が樹脂の場合には、溶融層と固化層の音速差が小さいため、さらに検出精度が低くなる。このため、受信のサンプリング間隔は数ナノ〜数十ナノ秒オーダーが必要となる一方で、射出成形やダイカスト鋳造の成形サイクルは数十秒〜数分であるため、1回の測定でサンプリングするデータ数が膨大で大きなデータ保存能力が必要となり、汎用のオシロスコープでは対応できない。
また、キャビティ内の溶融層と固化層の間には著しい温度差が生じており、この温度差によって超音波の速度が変化するため、高い検出精度が得られない。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、汎用のオシロスコープを用いて、溶融状態と固化状態とで音響インピーダンス差が小さい材料でもその固化状態を正確に検出できる溶融物の固化状態検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため本発明に係る溶融物(例えば、後述の固化層11,12及び溶融層13を有する樹脂1)の固化状態検出方法は、互いに向かい合う二つの面(例えば、後述の平面110,120)を有する溶融物の一方の面(例えば、後述の平面110)に対して振動波(例えば、後述の超音波)を斜めに入射させて、他方の面(例えば、後述の平面120)側で前記溶融物内を透過した透過波が受信される位置(例えば、後述の受信位置P)を検出し、当該検出された位置に基づいて前記溶融物の固化状態を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、汎用のオシロスコープを用いて、溶融状態と固化状態とで音響インピーダンス差が小さい材料でもその固化状態を正確に検出できる溶融物の固化状態検出方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溶融層と固化層を有する射出成形金型キャビティ内の樹脂に対して、本発明の一実施形態に係る溶融物の固化状態検出方法を適用した図である。
【図2】固化層のみからなる射出成形金型キャビティ内の樹脂に対して、本発明の一実施形態に係る溶融物の固化状態検出方法を適用した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態に係る溶融物の固化状態検出方法は、振動波として直進性に優れた超音波を用い、溶融物としての溶融樹脂の固化状態を検出するものである。より具体的には、射出成形金型キャビティ内の溶融樹脂の固化状態を検出するものである。
【0016】
図1は、溶融層13と固化層11,12を有する射出成形金型のキャビティ23内の樹脂1に対して、本発明の一実施形態に係る溶融物の固化状態検出方法を適用した図である。図1は、図示しない射出成形機で加熱溶融された樹脂が射出成形金型のキャビティ23内に充填された後、冷却された一対の第1金型21及び第2金型22に熱を奪われ、冷却固化が進行している状態を示している。
【0017】
図1に示すように、射出成形用の一対の第1金型21及び第2金型22は、互いに平行な金型面210,220を有する。このため、金型面210,220に囲まれて形成されるキャビティ23内に充填された樹脂1は、互いに平行な二つの平面110,120を有する。
【0018】
図1に示す樹脂1は、中央に溶融層13を有し、その両側に固化層11,12を有する。固化層11の第1金型21側の面が平面110を構成し、固化層12の第2金型22側の面が平面120を構成する。これら固化層11,12と溶融層13は、音響インピーダンス差が小さい特性を有する。ここで、「音響インピーダンス」とは、音圧(大気圧の圧力変動)を音速で除した値を意味する。
【0019】
第1金型21の外側には、超音波発信機3が配置される。超音波発信機3は、樹脂1の平面110に対して、超音波が斜めに入射するように配置される。入射角度(入射面の法線とのなす角度)は限定されず、樹脂1の平面110に対して斜めであればよい。本実施形態では、樹脂1の平面110に対して、超音波発信機3内の振動子31を斜めに配置したものを用いたが、樹脂1の平面110に対して超音波発信機自体を斜めに配置してもよい。
【0020】
本実施形態で用いる超音波は、縦波と横波のいずれでも構わない。超音波が後述する超音波受信機4に到達すればよく、その周波数も制限されない。ただし、検出対象樹脂の固化層の厚みや溶融層の厚みを考慮して、周波数を選定するのが好ましい。
【0021】
第2金型22の外側には、超音波受信機4が配置される。本実施形態の超音波受信機4では、複数の位置において透過波を受信できるように、複数の受信機を面方向に並んで配置したが、代わりにアレイ型の超音波受信機を配置してもよい。特に、マイクロアレイ型の超音波受信機を配置した場合には、透過波の受信位置の変化を細かく安定したタイミングで検出できるため好ましい。
【0022】
また、超音波受信機4には、図示しない汎用のオシロスコープが配置される。具体的には、超音波受信機4を構成する複数の受信機ごとに、別々の汎用オシロスコープが配置される。これにより、射出成形の成形サイクルが数十秒〜数分の長時間に亘った場合でも、複数のオシロスコープの測定タイミングをずらすことで、オシロスコープ1台当りのデータ保存数が低減され、データ保存能力内で対応できる。
【0023】
以下、本実施形態に係る溶融物の固化状態検出方法の原理について、詳しく説明する。
先ず本実施形態では、超音波発信機3から、樹脂1の平面110に対して超音波を斜めに入射させる。通常、物体に振動波を入射すると、その物体が格子振動して新たな振動波が生じ、元の入射波と干渉して回折や反射等の現象が起こる。ところが、超音波のように入射波の周波数が高い(波長が短い)場合には、物体の格子振動が追いつかずに干渉が起き難い結果、物体内を透過した透過波を検出できる。
【0024】
また超音波は、音速の異なる媒質の境界に斜めに入射すると、屈折してその進行方向を変化させる特性がある。具体的には、第1金型21及び第2金型22の音速をV1、固化層11の音速をV2、溶融層13の音速をV3とし、超音波発信機3から第1金型21への超音波の入射角をθ1、第1金型21から固化層11への透過波の入射角をθ2、固化層11から溶融層13への透過波の入射角をθ3とした場合、下記式(1)で表される関係が成立する。この式(1)で表される関係は、スネルの法則(屈折の法則)として知られる。なお、このとき、溶融層13から固化層12への透過波の入射角はθ2であり、固化層12から第2金型22への透過波の入射角はθ1となる。
【0025】

sinθ1/V1=sinθ2/V2=sinθ3/V3 ・・・(1)

【0026】
ここで、「音速」とは、媒質中を伝わる音の速さを意味する。音は媒質自体が振動することによって伝わるため、音速は各媒質に固有の物性値である。即ち音速は媒質の種類に応じて決定され、媒質が固体であるときの音速は、媒質が液体であるときの音速よりも大きく、媒質が金属であるときの音速は、媒質が樹脂であるときの音速よりも大きいことが知られている。
このため、上記の音速V1、V2及びV3には、V1>V2>V3の関係が成立し、この関係と上記式(1)の関係とから、上記の入射角θ1、θ2及びθ3には、θ1>θ2>θ3の関係が成立する。
【0027】
ところで、固化層11,12は、一対の金型21,22と接している平面110,120側から中央に向かって成長し、時間の経過(冷却固化の進行)とともにその厚みが増大する一方、溶融層13の厚みは減少する。即ち、固化層11から溶融層13へ透過波が入射する際の屈折位置P1は、時間の経過(冷却固化の進行)とともに、超音波の入射位置から面方向に離れる側に変位する。同様に、固化層12から第2金型22へ透過波が入射する際の屈折位置P2は、時間の経過(冷却固化の進行)とともに、超音波の入射位置から面方向に離れる側に変位する。そして、これら屈折位置P1及びP2が変位すると、超音波受信機4側へ到達する透過波の受信位置Pも、超音波の入射位置から面方向に離れる側に変位する。
【0028】
図2は、固化層53のみからなる射出成形金型キャビティ23内の樹脂5に対して、本発明の一実施形態に係る溶融物の固化状態検出方法を適用した図である。図2は、図1に示す樹脂1の冷却固化がさらに進行して固化が完了し、固化層53のみとなった状態を示している。
この図2と図1を比較すれば明らかであるように、溶融樹脂の冷却固化が進行するに従い、透過波は白矢印で示すように超音波入射波の仮想延長線(図1及び図2の破線)に近付き、透過波の受信位置Pは、超音波の入射位置から面方向により離れた位置となることが分かる。
【0029】
このように、透過波の受信位置Pは、固化層11,12の厚み及び溶融層13の厚み、即ち樹脂1の固化状態と相関関係にあると言える。従って、本実施形態では、この相関関係を利用して透過波の受信位置Pを検出することで、固化層11,12の厚みと溶融層13の厚み、即ち樹脂1の固化状態を検出できる。
また、透過波の受信位置Pは、固化層11,12と溶融層13の各界面の位置と、その位置における屈折率(固化温度のみに依存)によって決定され、固化層11,12内及び溶融層13内の温度差に起因する音速変化は無視できる。
従って、第1金型21、第2金型22、固化層11,12及び溶融層13に固有の屈折率データに基づいて、透過波の受信位置Pと溶融樹脂の固化状態との関係を予め求めておき、図示しない制御装置に格納しておくことで、溶融樹脂の固化状態を正確にリアルタイムで検出できる。
なお、透過波の受信位置Pの移動(変位)速度を算出することにより、透過波の受信位置Pの移動が止まって移動速度がゼロとなった(または、移動速度が所定の閾値以下となった)時点で、溶融層13が無くなり固化層のみになったと判断できる。従って、これを利用して受信位置Pの移動速度を算出し、移動速度から固化状態を求めるようにしてもよい。
【0030】
また本実施形態によれば、溶融樹脂の固化状態を正確に検出できるので、その検出結果に基づいて、射出成形機の型開き開始動作を最適なタイミングに制御できる。これにより、型開きのタイミングが早いことによる寸法不良や外観不良を防止でき、また型開きのタイミングが遅いことによる生産タクトの悪化を防止できる。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば上記実施形態では、本発明に係る溶融物の固化状態検出方法を射出成形技術に適用したがこれに限定されず、ダイカスト鋳造、溶接、溶着等の成形技術にも適用できる。
また上記実施形態では、互いに平行な二つの平面を有する溶融物を用いたがこれに限定されず、互いに向かい合う二つの面を有する溶融物であればよい。
【符号の説明】
【0032】
1…樹脂(溶融物)
110,120…平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動波を用いた溶融物の固化状態検出方法において、
互いに向かい合う二つの面を有する溶融物の一方の面に対して振動波を斜めに入射させて、他方の面側で前記溶融物内を透過した透過波が受信される位置を検出し、当該検出された位置に基づいて前記溶融物の固化状態を検出することを特徴とする溶融物の固化状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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