説明

溶融紡糸方法および溶融紡糸装置

【課題】例えば単繊維繊度が0.3〜1.5dtexである細繊度フィラメント糸を、口金中心部から円周方向に強制冷却する円柱型冷却装置を用い溶融紡糸する際、フィラメント長手方向の繊度ムラがなくまた糸切れや融着による操業性悪化がない溶融紡糸方法と装置を提供する。
【解決手段】口金の下方に、下記(a)と(b)を満足しかつ口金中心位置から口金外周方向に冷却風を吹き出して強制冷却するように設けた円柱型冷却装置を用いて吐出熱可塑性ポリマーを冷却し、更に円柱型冷却装置と口金の間から口金面に対し口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出し口金直下をシールして紡糸する。
(a)口金表面から円柱型冷却装置上端までの距離が5〜40mm
(b)円柱型冷却装置の鉛直方向の長さが10〜50cm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリマーを溶融紡糸する方法と溶融紡糸装置に関し、さらに詳しくは、たとえば単繊維繊度が0.3〜1.5dtexというような細繊度のフィラメント糸を紡糸する際に、糸の走行安定性不良や糸切れなどの操業問題がなく、長手方向の繊度ムラの問題がないフィラメントを紡糸でき、高品質な織編物向けとして最適なフィラメント糸を溶融紡糸する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、機械的特性をはじめ、さまざまな優れた特性から一般衣料用分野をはじめ各種分野に広く利用されており、フィラメント製糸時の糸切れ改善に向けた提案が多数提案されている。
【0003】
例えば、ナイロン6、ナイロン66糸においては紡糸した糸条から揮発性の低分子物が発生し、雰囲気中の酸素と反応し酸化分解することにより吐出孔まわりの汚れの成長が早く、そのため、口金外周方向から不活性ガスを吹き出して口金表面をシールすることによりポリマー吐出孔周辺の汚れの成長を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
さらに、近年、フィラメントを織編物に使用した際のソフト性を向上させるために、単繊維繊度が1dtex以下のフィラメントを紡糸・製造して供給するために冷却開始距離を短尺化した外吹き型冷却装置を用いた紡糸方法・製造方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
しかしながら、いずれも3日以上の紡糸において口金汚れの堆積により糸切れや吐出されたポリマーの融着などにより安定した操業性を得ることができず、工業生産には不向きであった。
【特許文献1】特開平10−317226号公報
【特許文献2】特公昭53−9291号公報
【特許文献3】特開平11−350238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述したような点に鑑み、熱可塑性ポリマーを用いて、例えば単繊維繊度が0.3〜1.5dtexであるような細繊度であるフィラメントからなる糸(マルチフィラメント糸)を、口金中心部から円周方向に強制冷却する円柱型冷却装置を用いて溶融紡糸をする際に、フィラメント長手方向の繊度ムラの問題がなく、また紡糸時の糸切れや融着による操業性悪化の問題がない溶融紡糸方法と溶融紡糸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶融紡糸方法は、上述した目的を達成するため、以下の(1)の構成を有する。
(1)熱可塑性ポリマーを口金から吐出して溶融紡糸をするに際して、前記口金の下方に、下記(a)および(b)を満足し、かつ口金中心位置から口金外周方向に冷却風を吹き出して強制冷却をするように設けた円柱型冷却装置を用いて吐出熱可塑性ポリマーを冷却し、さらに、該円柱型冷却装置と前記口金の間から口金面に対し口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出して口金直下をシールして紡糸することを特徴とする溶融紡糸方法。
(a)口金表面から円柱型冷却装置上端までの距離が5〜40mm
(b)円柱型冷却装置の鉛直方向の長さが10〜50cm
【0008】
また、かかる本発明の溶融紡糸方法において、より具体的に好ましくは、以下の(2)〜(4)のいずれかの構成からなる。
(2)前記不活性ガスが、ガス温度240℃〜320℃のものであることを特徴とする上記(1)記載の溶融紡糸方法。
(3)前記不活性ガスが、スチームであることを特徴とする上記(1)または(2)記載の溶融紡糸方法。
(4)前記口金から吐出されて溶融紡糸される繊維の単繊維繊度が0.3〜1.5dtexであることを特徴とする上記(1)、(2)または(3)記載の溶融紡糸方法。
【0009】
また、本発明の溶融紡糸装置は、上述した目的を達成するため、以下の(5)の構成を有する。
(5)熱可塑性ポリマーを口金から吐出して溶融紡糸をするに溶融紡糸装置であって、前記口金の下方に、下記(a)および(b)を満足しかつ口金中心位置から口金外周方向に冷却風を吹き出して強制冷却をする円柱型冷却装置を有し、かつ該円柱型冷却装置と前記口金の間から口金面に対し口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出して口金直下をシールする構成としたことを特徴とする溶融紡糸装置。
(a)口金表面から円柱型冷却装置上端までの距離が5〜40mm
(b)円柱型冷却装置の鉛直方向の長さが10〜50cm
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融紡糸方法、溶融紡糸装置を採用することにより、従来の口金中心部から円周方向に強制冷却をする円柱型冷却装置を用いて溶融紡糸を揺る場合に比べて、特に、単繊維繊度が0.3〜1.5dtexなどである細繊度のフィラメントを長手方向の繊度ムラや、紡糸時の糸切れや融着による操業性悪化などの問題もなく製糸することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の溶融紡糸方法は、熱可塑性ポリマーを口金の下方に円柱型冷却装置(以下、冷却装置という)を有した溶融紡糸機を使用して紡糸する際に、口金表面から上記円柱型冷却装置上端までの距離が5〜40mm、好ましくは5〜20mmとして、口金中心に対応する位置から口金外周方向に向けて、放射状に冷却風を送出し強制冷却する冷却装置を設置する。ここで、口金中心に対応する位置とは、口金中心線上にある位置のことをいうが、その口金中心線上の位置のみならず、該位置を中心とする円柱形状で、かつ溶融紡糸されたフィラメント群の内側の周辺の領域を含んだ領域をいうものである。口金表面から円柱型冷却装置上端までの距離が5mm未満であるときは、紡糸された糸が急冷すぎることにより強伸度物性が劣化し、紡糸時の糸切れの問題が発生する。40mmより長い場合は長手方向の糸の繊度ムラが起こり、フィラメントを織編物へ供した際に染めムラ等の課題が発生することがある。
【0012】
円柱型冷却装置の鉛直方向の長さは10〜50cmとすることが重要で、好ましくは15〜30cmであり、10cm未満では紡糸された糸が冷却不足となり、長手方向の繊度ムラが発生する。50cmより長い場合には、糸かけ時の作業性に支障が出やすいため好ましくない。
【0013】
また、円柱型冷却装置と口金の間から口金面に対し、口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出することにより、吐出孔まわりの汚れ発生を抑制するとともに、不活性ガスの放出方向が冷却装置から吹き出される冷却風と同一方向であるため、乱流を発生させることなく、糸の走行安定性に優れ糸切れや長手方向の太さムラの発生を抑制できる。不活性ガスの放出方法の一例としては、円柱型冷却装置内に保温材を巻いた管を通じ、冷却装置の上端から放出することが好ましい。
【0014】
本発明の溶融紡糸方法について図面を用いて説明すると、図1は本発明の溶融紡糸方法を説明する概略図であり、図2は図1に概略を示した冷却装置と不活性ガス管の構造の1例を示す断面概略図である。
【0015】
1はパックハウジング、2は紡糸口金であり、口金3から溶融吐出されたフィラメント3は、円柱型冷却装置4からその周囲に放射状に吹き出される冷却風5により冷却される。円柱型冷却装置4と口金2の間からは口金面に対し、口金中心位置から口金外周方向に不活性ガス6が吹き出される。7は給油ガイドであり、この給油ガイドでフィラメント群は集束される。図2において、8は不活性ガス供給管、9は冷却風供給管である。
【0016】
すなわち、本発明の溶融紡糸装置は、口金2の下方に、下記(a)および(b)を満足しかつ口金2の中心位置から口金外周方向に冷却風を吹き出して強制冷却をする円柱型冷却装置4を有し、かつ円柱型冷却装置4と口金2の間から口金面に対し口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出して口金直下をシールする構成としているものである。
(a)口金2の表面から円柱型冷却装置4の上端までの距離が5〜40mm
(b)円柱型冷却装置4の鉛直方向の長さが10〜50cm
【0017】
不活性ガスを供給する吹き出し孔の口径、形状や数および吹き出し向きは特に規定されるものではないが、口径が0.5〜2.0mm程度の丸孔であれば異物つまりが発生する可能性もなく安定して吹き出すことができ、孔の数も特に限定されるものではないが、6〜20個程度であることが口金面をムラなくシールできることから好ましい。
【0018】
本発明において、不活性ガスの温度は240℃〜320℃であることが好ましく、更に好ましくは250〜310℃である。240℃未満であると口金表面が冷えて糸の強伸度劣化が起こり始める。320℃を越える温度では、口金直下で温度上昇が起こり、冷却装置から吹き出される冷却風温度も上昇し、その結果、糸の冷却ムラが発生してフィラメント長手方向の繊度ムラを生ずることがあるので好ましくない。不活性ガスとしては、繊維に対し酸化反応を起こさないガスを用いることができ、具体的には、スチーム、ヘリウム、窒素あるいは二酸化炭素などが知られているが、スチーム、特に、水蒸気が最も安価で工業的に好ましい。
【0019】
したがって、工業的により好ましい不活性ガスは、温度240℃〜320℃の水蒸気である。不活性ガスの圧力は0.0020〜0.0030kPaとするのがよく、この範囲内であれば糸の走行安定性を乱すことがない。
【0020】
また、本発明の溶融紡糸方法においては、紡糸されるフィラメントは単繊維繊度0.3〜1.5dtexであることがより効果的であるので好ましく、更に好ましくは0.4〜1.0dtexである。0.3dtex未満であると紡糸時の糸切れの課題があり、1.5dtexよりも大きい場合には冷却不足となりがちであり長手方向の繊度ムラが発生する場合があるので好ましくない。
【0021】
なお、ここでいう単繊維繊度は、溶融紡糸して巻き取った際の未延伸糸状態のときに測定した単繊維繊度をいうものである。
【0022】
冷却装置の冷却風吹き出し部の部材は、紙、金属あるいはフェノール樹脂などの多孔質部材等を用いることができ、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1
ナイロン66を口金温度285℃、紡速4500m/分で紡糸し、その際に、スチーム配管を冷却装置の内部に通し305℃のスチームを冷却装置の上端開口部から口金面に向け0.0025kPaの圧力で口径1.0mmの丸孔を16個有する装置を用い口金外周方向に放出した。
【0024】
口金から冷却装置上端までの距離は10mm、冷却装置の鉛直方向の長さを25cmとした。冷却風吹き出し部はフェノール樹脂の多孔質部材とし、20℃の冷却風を走行糸に垂直に当てて冷却を実施した。
【0025】
冷却後、冷却装置直下に給油ガイドを設置し給油を行い、60dtex−100フィラメントの未延伸糸を巻き取った。
【0026】
糸の長手方向の繊度ムラの評価としては、ZELLWEGER USTER社のウスタームラ試験装置(USTER TESTER UT−4)を使用して糸速50m/分、撚り数8000rpm(Z撚り)で3分間、1/2inertで測定し、単位長さ当たりの平均質量を静電容量方式で測定したときに、長手方向の質量バラツキが1.0%未満を合格とした。
【0027】
その他の評価として走行安定性、糸切れ、糸かけ作業性に関しては、以下の基準に従い評価を実施した。
【0028】
走行安定性:目視判定で糸条の糸揺れを確認し、糸揺れがない状態を合格、それ以外は不合格とした。
【0029】
糸切れ:3日間の紡糸評価において、1回/トン以下を合格とした。
【0030】
糸かけ作業性:良好を◎、やや劣るが糸かけ可能を○、非常に問題があり糸かけしにくいを×とし、◎と○を合格とした。
【0031】
各項目の評価結果において、全項目が合格である水準を総合評価として合格とし、一つでも不合格であれば不合格とした。評価結果を表1に示す。
【0032】
実施例2
不活性ガスの温度を320℃とした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表1に示す。
【0033】
実施例3
ナイロン6を使用し口金温度250℃、不活性ガスの温度を255℃とした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表1に示す。
【0034】
実施例4
口金から冷却装置までの距離を5mm、冷却装置の鉛直方向の長さを10cmとし、50dtex−150フィラメントとした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表1に示す。
【0035】
実施例5
口金から冷却装置までの距離を40mm、冷却装置の鉛直方向の長さを50cmとし、150dtex−100フィラメントとした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表1に示す。
【0036】
実施例6
不活性ガスを窒素とした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表1に示す。
【0037】
比較例1
不活性ガスを放出しないこと以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表2に示す。
【0038】
比較例2
不活性ガスの放出方向を円周方向から口金中心方向とした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表2に示す。
【0039】
比較例3
口金から冷却装置までの距離を50mmとした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表2に示す。
【0040】
比較例4
口金から冷却装置までの距離を3mmとした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表2に示す。
【0041】
比較例5
冷却装置の鉛直方向の長さを60mmとした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表2に示す。
【0042】
比較例6
口金から冷却装置までの距離を8mmとした以外は実施例1と同様の方法で紡糸した。結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の溶融紡糸方法と溶融紡糸装置を説明する要部概略図である。
【図2】図1に示した円柱型冷却装置および不活性ガス管の一例を示した断面概略図である。
【符号の説明】
【0046】
1:パックハウジング
2:紡糸口金
3:フィラメント
4:円柱型冷却装置
5:冷却風
6:不活性ガス
7:給油ガイド
8:不活性ガス供給管
9:冷却風供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーを口金から吐出して溶融紡糸をするに際して、前記口金の下方に、下記(a)および(b)を満足し、かつ口金中心位置から口金外周方向に冷却風を吹き出して強制冷却をするように設けた円柱型冷却装置を用いて吐出熱可塑性ポリマーを冷却し、さらに、該円柱型冷却装置と前記口金の間から口金面に対し口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出して口金直下をシールして紡糸することを特徴とする溶融紡糸方法。
(a)口金表面から円柱型冷却装置上端までの距離が5〜40mm
(b)円柱型冷却装置の鉛直方向の長さが10〜50cm
【請求項2】
前記不活性ガスが、ガス温度240℃〜320℃のものであることを特徴とする請求項1記載の溶融紡糸方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが、スチームであることを特徴とする請求項1または2記載の溶融紡糸方法。
【請求項4】
前記口金から吐出されて溶融紡糸される繊維の単繊維繊度が0.3〜1.5dtexであることを特徴とする請求項1、2または3記載の溶融紡糸方法。
【請求項5】
熱可塑性ポリマーを口金から吐出して溶融紡糸をするに溶融紡糸装置であって、前記口金の下方に、下記(a)および(b)を満足しかつ口金中心位置から口金外周方向に冷却風を吹き出して強制冷却をする円柱型冷却装置を有し、かつ該円柱型冷却装置と前記口金の間から口金面に対し口金中心位置から口金外周方向に不活性ガスを放出して口金直下をシールする構成としたことを特徴とする溶融紡糸装置。
(a)口金表面から円柱型冷却装置上端までの距離が5〜40mm
(b)円柱型冷却装置の鉛直方向の長さが10〜50cm

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate