溶融金属容器の敷れんがのライニング構造
【課題】製鋼用転炉やAOD炉、取鍋などの溶融金属容器の敷れんがの浮上を抑制する効果的な手段を提供する。
【解決手段】稼動面と底面とが長方形で少なくとも1つの側面が稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ六面体形状の敷れんが3を、傾斜面どうしが接ししかも炉底1中心側に倒れるように平面状に半網代積みした。
【解決手段】稼動面と底面とが長方形で少なくとも1つの側面が稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ六面体形状の敷れんが3を、傾斜面どうしが接ししかも炉底1中心側に倒れるように平面状に半網代積みした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、例えば製鋼工程における転炉やAOD炉、取鍋などの炉底に施工される敷れんがのライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属容器において、敷れんがは、溶融金属より低密度である場合がほとんどであるために浮力を受け、使用を重ねてくると、目地の損傷などにより、浮力によって抜けて浮上しやすくなる問題がある。
【0003】
通常、敷れんがは直方体であり、溶融金属容器の炉底のパーマれんがの上に平面状に並べて施工される。敷れんが同士の間には通常、モルタルが施工され、このモルタルの接着力によってれんがの抜けを防止している。通常、溶融金属容器は数百回使用されるが、繰返し使用されると、敷れんがは溶損して寸法が短くなり、しかもモルタルやれんがに亀裂が入ったりしてくる。この亀裂の程度がひどくなると、れんがが浮上によって抜け出てしまうのである。
【0004】
このれんが浮上の問題を解決するための手段として、製鋼用転炉においては「球面積み」という敷れんが構造が採用されることが多い。これは、炉底を球面状にすることで、敷れんがの鉄皮側の面の面積を広げ、これによってれんがの側面が傾斜面となり、この傾斜面で隣接するれんがの荷重の一部を受けることによって敷れんがの浮上を防止する構造である。言い換えればれんが積みそのものに「迫り」の機能を与え、浮上しにくくした構造である。
【0005】
ところが、球面積みにも様々な問題が内在している。球面積みには一般的に「真円積み」と「平行積み」の2方法が採用されているが、真円積みの場合、各リングでれんが形状が異なり、従来の平面積みに比べてれんが形状数が著しく増大する。また、リング間の目地を一定厚みとするためにはリングの内外面を曲面(円錐面)とする必要があるが、通常の金型成形ではれんが表面を円錐面とすることは困難で、多くの場合れんが製造後に表面をグラインダなどで研磨することになる。この2点はれんがの生産性を著しく阻害し、結果として高価なれんがを使用することになるため、経済性の面で不利である。
【0006】
一方、平行積みの場合、截頭四角錐という比較的単純な1形状のれんがで築炉される。このれんが形状は炉底の球面の大円に沿って築炉されるように設計されているが、炉底の中心を通る列以外は実際には大円を外れるため、各所に不揃いな形状の目地開きが生じる。また、これを避けるためには築炉現場での煩雑な加工が必要である。
【0007】
さらに球面積みの場合、炉底と側壁れんがとの境界部の構造が複雑であり、複雑な専用形状のれんがを使用したり、不定形耐火物で境界部を充填したりするが、後者の場合は境界部の先行溶損などのトラブルが発生しやすい。
【0008】
平面積みでれんが浮上を抑制する方法は過去にも検討されている。例えば、特許文献1では、RH下部槽底部の環流管羽口間の「中ノ島」部(槽底のうち両環流管にはさまれた領域)に逆ジャックアーチ構造を適用する方法が提案されている。確かにRH下部槽の場合、槽底の中でも「中ノ島」中央部は最も損耗が大きく、特にれんがの浮上が発生しやすいため、この方法の適用によって「中ノ島」中央部のれんが浮上を抑制する効果は確認される。しかしながら、RHの「中ノ島」部が環流管によって拘束を受けるため、それと直交する1方向に逆ジャックアーチ構造を設ければ十分な浮上防止効果を得られるのに対し、AOD炉や取鍋などでは、炉底中央部のれんがは特定の方向に拘束を受けていないので、1方向からの逆ジャックアーチ構造による浮上抑制の効果は不十分である。
【特許文献1】実開平3−9249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、溶融金属容器、例えば製鋼工程における転炉やAOD炉、取鍋などの敷れんがの浮上を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶融金属容器の敷れんがのライニング構造は、稼動面と底面とが長方形で少なくとも1つの側面が稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ六面体形状の敷れんがを、傾斜面どうしが接ししかも炉底中心側に倒れるように、炉底に平面状に半網代積みしてなるものである。
【0011】
敷れんがとしては、稼動面と底面とが長方形で、長辺側の側面は稼動面に対して直角で短辺側の2つの側面が稼動面に対して同じ方向に傾斜した側面を持つ2面傾斜タイプと、長辺側の側面と短辺側の1つの側面は稼動面に対して直角で短辺側の1つの側面に稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ1面傾斜タイプとの2タイプを使用することができる。また、敷れんがの傾斜面を段差状とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の敷れんがのライニング構造によれば、炉底中心部付近のれんがの拘束力が一方向からの拘束の場合よりも強くなり、敷れんがの浮上をより抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施例によって、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1〜図5に、AOD炉の炉底のライニング構造とそれに使用した敷れんがを示す。図1はAOD炉の炉底の平面図、図2は1面傾斜タイプの敷れんがの正面図、図3は2面傾斜タイプの敷れんがの正面図、図4は図1のA−A断面図、及び図5は図1のB−B断面図である。本実施例のAOD炉は80トンで炉底の大きさは直径約2500mm。敷れんがの厚みは400mm、稼働面及び底面の大きさは150×75mmの長方形、目地はマグネシア質モルタル施工で厚みは1.5mmとした。
【0015】
図1において、炉底1は図示しない鉄皮の内側に沿って側壁用パーマれんが2が円筒状にライニングされ、その内側に敷れんが3が半網代積みでライニング配置されている。それぞれの敷れんがの間にはモルタルを使用している。
【0016】
ここで、「半網代積み」とは、図1に示すように、炉底を敷れんがの稼動面で形成される平面上で直交する2本の直線(X、Y)で4つの領域に分け、領域間の境界で接するれんがは直角に接するように、しかも各領域内のれんがどうしは平行になるように配置する方法である。図1の場合には、2本の直線(X、Y)の交点は炉底の中心に位置している。
【0017】
1面傾斜タイプの敷れんが3aは、図2に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、1つの側面33が稼動面31に対して傾斜し、その傾斜角度αは75度である。そして、他の側面34は稼動面31に対して直角である。また長辺側の側面35は台形をしている。
【0018】
2面傾斜タイプの敷れんが3bは、図3に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、短辺側の2つの側面33,34は稼動面31に対して同じ方向に傾斜し、その傾斜角度αは同じ角度で75度である。また、長辺側の側面35は稼動面31に対して直角で、平行四辺形をしている。
【0019】
図4において、炉底中心部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの外側に2面傾斜タイプの敷れんが3bが、傾斜面どうしが接し、しかも炉底中心側(内側)に倒れるように連続して左右にライニングされている。また、中央部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの両側の1面傾斜タイプの敷れんが3aは、その傾斜面と対向する側面が、中央部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの長辺側側面に接するようにライニングされている(図1参照)。また、中央部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの後方(図4において紙面に対して後側)にも2面傾斜タイプの敷れんがが、連続してライニングされている。つまり、これは図1において矢印Dで示す敷れんがの列であって、この列においても敷れんがの傾斜面どうしが接ししかも炉底中心側に倒れるようにライニングされている。
【0020】
尚、一番外側の敷れんがは、そのれんがの外側部分をパーマれんがとの隙間に合わせて任意の大きさで切断して使用している。
【0021】
このようなライニング構造により、図4において左右から中心方向に向かって内側の敷れんがに荷重の一部がかかり、しかも中央部の敷れんがにおいては紙面に対して後側からも荷重の一部がかかることになる。
【0022】
図5は、図4よりも外側にライニングされた敷れんがを示し、範囲Pをはさむ敷れんがは、左右方向に一列に配置されている(図1参照)。この範囲Pをはさむ敷れんがのうち一番内側は、1面傾斜タイプの敷れんが3aで、残りは2面傾斜タイプの敷れんが3bである。
【0023】
この範囲Pの敷れんがは、図5においては紙面に対して後側から前側に向って、図1においては上から下に向って平行にライニングされている。そして、この範囲Pの外側の敷れんがの側面に対しては直角に接するように1面傾斜タイプの敷れんが3aがそれぞれ配置され、その外側に2面傾斜タイプの敷れんが3bが配置されている。
【0024】
このようなライニング構造により、範囲Pの敷れんがには、図5において紙面の後側から前側へ後側の敷れんがの荷重の一部がかかり、しかも左右方向からそれぞれ内側に外側の敷れんがの荷重の一部がかかることになる。つまり、範囲Pの敷れんがは、3方向から荷重を受けるためにより抜けにくくなる。
【0025】
このように、本発明のライニング構造によれば、炉底の中心付近程、4方向から炉底の中心側に向う荷重が強くなる。このため使用時に炉底の中心付近が広範囲に損傷しても、敷れんがの浮上抑制効果が十分得られる。
【実施例2】
【0026】
次に傾斜角度の異なる2面傾斜タイプの敷れんがを使用したライニング構造の実施例を示す。尚、ライニング構造の平面図は図1と共通である。
【0027】
図6はこの実施例に使用した2面傾斜タイプの敷れんがの正面図、図7は図1におけるA−A断面図、図8は図1におけるB−B断面図である。
【0028】
この実施例に使用した2面傾斜タイプの敷れんが3d〜3jは、図6に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、短辺側の2つの側面33,34は稼動面31に対して同じ方向に傾斜し、その傾斜角度はそれぞれ異なる角度αとβである。また、長辺側の側面35は稼動面31に対して直角で、平行四辺形に近い形状をしている。れんがの厚みは400mm、稼働面及び底面は150×75mmの長方形である。尚、1面傾斜タイプの敷れんが3cとしては、図6における傾斜した側面の一つが稼働面と直角になったものを使用した。
【0029】
図7は、実施例1の図4に相当するものあり、7種類の傾斜角度が異なる2面傾斜タイプの敷れんが3d〜3jが使用されている点のみが実施例1と異なっている。
【0030】
したがって、左右から中心方向に向かって内側の敷れんがに荷重の一部がかかり、しかも中央部においては紙面に対して後側からも荷重の一部がかかるため敷れんがが抜けにくくなるという作用効果は実施例1と同様である。ただし、実施例2のライニング構造においては、図7に示すように敷れんが間の目地を上方に延長した直線が1点(稼動面から2000mmの高さ)で交わるように設計されている(逆ジャックアーチ構造という)。
【0031】
この逆ジャックアーチ構造とするため、中心部の1面傾斜タイプの敷れんが3cの外側には、上述のとおり、傾斜角度が異なる2面傾斜タイプの敷れんが3d〜3jが順に配置されている。この逆ジャックアーチ構造によれば、敷れんがの稼働面より底面がより大きくなるため、敷れんががより抜けがたい構造となる。
【0032】
図8の断面においても、傾斜角度がそれぞれ異なる2面傾斜タイプの敷れんがを使用して逆ジャックアーチ構造でライニングされている。また範囲Pのれんがにおいては、図1において上から下に向かうそれぞれの平行な列において逆ジャックアーチ構造でライニングされている。
【実施例3】
【0033】
次に傾斜面が段差状になっている敷れんがを使用したライニング構造の実施例を示す。尚、ライニング構造の平面図は図1と共通である。
【0034】
図9はこの実施例に使用した敷れんがの正面図、図10は図1におけるA−A断面図である。
【0035】
この実施例に使用した敷れんが3kは、図9に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、短辺側の2つの側面33,34には底面32側に段差状の傾斜面を有している。その傾斜角度αとβはそれぞれ70度である。れんがの厚みは400mm、稼働面31及び底面32の大きさは150×75mmの長方形である。また、段差部は底面32から高さ方向に70〜100mmの範囲とした。
【0036】
図10は、実施例1の図4に相当するものある。図4に使用した敷れんがは側面全面が傾斜面になっているが、図10で使用した敷れんがは側面の底面側に傾斜面が形成されている点が異なる。このライニング構造においても、実施例1の場合と同じように、左右から中心方向に向かって内側の敷れんがに荷重の一部がかかり、しかも中央部の敷れんがにおいては紙面に対して後側からも荷重の一部がかかるため敷れんがが抜けにくくなる。加えて、本実施例では、敷れんがの傾斜面が段差状になっており、凹部と凸部で嵌合しあっているので、敷れんががより抜けにくい構造になっている。
【0037】
以上の実施例1〜3のライニング構造のAOD炉を実際に使用し試験を行った。
【0038】
さらに比較例1として、実施例2と同じ敷れんがを平行積みにして試験した。この比較例1のAOD炉の炉底平面図を図11に示し、図11のB−B断面図を図12に示す。この比較例1では逆ジャックアーチ構造が一つの方向(図11の左右方向)にのみ形成される。また比較例2として、400×150×75mmの直方体れんがを網代積みにして試験した。
【0039】
各試験では毎チャージ終了後、レーザー光を利用した測距装置によって敷れんがの厚みを測定した。
【0040】
試験の結果、比較例2では敷れんがの厚みが75mm、比較例1では同じく55mmで敷れんがの浮上が確認されたが、実施例1〜3ではいずれも30mmでも敷れんがは浮上せず、敷れんが浮上抑制効果の高さが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明をAOD炉の炉底に適用した場合の平面図を示す。
【図2】実施例1に使用する1面傾斜タイプの敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図3】実施例1に使用する2面傾斜タイプの敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図4】実施例1の場合の図1のA−A断面図である。
【図5】実施例1の場合の図1のB−B断面図である。
【図6】実施例2に使用する2面傾斜タイプの敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図7】実施例2の場合の図1のA−A断面図である。
【図8】実施例2の場合の図1のB−B断面図である。
【図9】実施例3に使用する敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図10】実施例3の場合の図1のA−A断面図である。
【図11】比較例1のAOD炉の炉底平面図を示す。
【図12】比較例1の場合の図11のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 炉底
2 パーマれんが
3,3a〜3k 敷れんが
31 敷れんがの稼働面
32 敷れんがの底面
33,34 敷れんがの短辺側の側面
35 敷れんがの長辺側の側面
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、例えば製鋼工程における転炉やAOD炉、取鍋などの炉底に施工される敷れんがのライニング構造に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属容器において、敷れんがは、溶融金属より低密度である場合がほとんどであるために浮力を受け、使用を重ねてくると、目地の損傷などにより、浮力によって抜けて浮上しやすくなる問題がある。
【0003】
通常、敷れんがは直方体であり、溶融金属容器の炉底のパーマれんがの上に平面状に並べて施工される。敷れんが同士の間には通常、モルタルが施工され、このモルタルの接着力によってれんがの抜けを防止している。通常、溶融金属容器は数百回使用されるが、繰返し使用されると、敷れんがは溶損して寸法が短くなり、しかもモルタルやれんがに亀裂が入ったりしてくる。この亀裂の程度がひどくなると、れんがが浮上によって抜け出てしまうのである。
【0004】
このれんが浮上の問題を解決するための手段として、製鋼用転炉においては「球面積み」という敷れんが構造が採用されることが多い。これは、炉底を球面状にすることで、敷れんがの鉄皮側の面の面積を広げ、これによってれんがの側面が傾斜面となり、この傾斜面で隣接するれんがの荷重の一部を受けることによって敷れんがの浮上を防止する構造である。言い換えればれんが積みそのものに「迫り」の機能を与え、浮上しにくくした構造である。
【0005】
ところが、球面積みにも様々な問題が内在している。球面積みには一般的に「真円積み」と「平行積み」の2方法が採用されているが、真円積みの場合、各リングでれんが形状が異なり、従来の平面積みに比べてれんが形状数が著しく増大する。また、リング間の目地を一定厚みとするためにはリングの内外面を曲面(円錐面)とする必要があるが、通常の金型成形ではれんが表面を円錐面とすることは困難で、多くの場合れんが製造後に表面をグラインダなどで研磨することになる。この2点はれんがの生産性を著しく阻害し、結果として高価なれんがを使用することになるため、経済性の面で不利である。
【0006】
一方、平行積みの場合、截頭四角錐という比較的単純な1形状のれんがで築炉される。このれんが形状は炉底の球面の大円に沿って築炉されるように設計されているが、炉底の中心を通る列以外は実際には大円を外れるため、各所に不揃いな形状の目地開きが生じる。また、これを避けるためには築炉現場での煩雑な加工が必要である。
【0007】
さらに球面積みの場合、炉底と側壁れんがとの境界部の構造が複雑であり、複雑な専用形状のれんがを使用したり、不定形耐火物で境界部を充填したりするが、後者の場合は境界部の先行溶損などのトラブルが発生しやすい。
【0008】
平面積みでれんが浮上を抑制する方法は過去にも検討されている。例えば、特許文献1では、RH下部槽底部の環流管羽口間の「中ノ島」部(槽底のうち両環流管にはさまれた領域)に逆ジャックアーチ構造を適用する方法が提案されている。確かにRH下部槽の場合、槽底の中でも「中ノ島」中央部は最も損耗が大きく、特にれんがの浮上が発生しやすいため、この方法の適用によって「中ノ島」中央部のれんが浮上を抑制する効果は確認される。しかしながら、RHの「中ノ島」部が環流管によって拘束を受けるため、それと直交する1方向に逆ジャックアーチ構造を設ければ十分な浮上防止効果を得られるのに対し、AOD炉や取鍋などでは、炉底中央部のれんがは特定の方向に拘束を受けていないので、1方向からの逆ジャックアーチ構造による浮上抑制の効果は不十分である。
【特許文献1】実開平3−9249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、溶融金属容器、例えば製鋼工程における転炉やAOD炉、取鍋などの敷れんがの浮上を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶融金属容器の敷れんがのライニング構造は、稼動面と底面とが長方形で少なくとも1つの側面が稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ六面体形状の敷れんがを、傾斜面どうしが接ししかも炉底中心側に倒れるように、炉底に平面状に半網代積みしてなるものである。
【0011】
敷れんがとしては、稼動面と底面とが長方形で、長辺側の側面は稼動面に対して直角で短辺側の2つの側面が稼動面に対して同じ方向に傾斜した側面を持つ2面傾斜タイプと、長辺側の側面と短辺側の1つの側面は稼動面に対して直角で短辺側の1つの側面に稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ1面傾斜タイプとの2タイプを使用することができる。また、敷れんがの傾斜面を段差状とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の敷れんがのライニング構造によれば、炉底中心部付近のれんがの拘束力が一方向からの拘束の場合よりも強くなり、敷れんがの浮上をより抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、実施例によって、本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1〜図5に、AOD炉の炉底のライニング構造とそれに使用した敷れんがを示す。図1はAOD炉の炉底の平面図、図2は1面傾斜タイプの敷れんがの正面図、図3は2面傾斜タイプの敷れんがの正面図、図4は図1のA−A断面図、及び図5は図1のB−B断面図である。本実施例のAOD炉は80トンで炉底の大きさは直径約2500mm。敷れんがの厚みは400mm、稼働面及び底面の大きさは150×75mmの長方形、目地はマグネシア質モルタル施工で厚みは1.5mmとした。
【0015】
図1において、炉底1は図示しない鉄皮の内側に沿って側壁用パーマれんが2が円筒状にライニングされ、その内側に敷れんが3が半網代積みでライニング配置されている。それぞれの敷れんがの間にはモルタルを使用している。
【0016】
ここで、「半網代積み」とは、図1に示すように、炉底を敷れんがの稼動面で形成される平面上で直交する2本の直線(X、Y)で4つの領域に分け、領域間の境界で接するれんがは直角に接するように、しかも各領域内のれんがどうしは平行になるように配置する方法である。図1の場合には、2本の直線(X、Y)の交点は炉底の中心に位置している。
【0017】
1面傾斜タイプの敷れんが3aは、図2に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、1つの側面33が稼動面31に対して傾斜し、その傾斜角度αは75度である。そして、他の側面34は稼動面31に対して直角である。また長辺側の側面35は台形をしている。
【0018】
2面傾斜タイプの敷れんが3bは、図3に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、短辺側の2つの側面33,34は稼動面31に対して同じ方向に傾斜し、その傾斜角度αは同じ角度で75度である。また、長辺側の側面35は稼動面31に対して直角で、平行四辺形をしている。
【0019】
図4において、炉底中心部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの外側に2面傾斜タイプの敷れんが3bが、傾斜面どうしが接し、しかも炉底中心側(内側)に倒れるように連続して左右にライニングされている。また、中央部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの両側の1面傾斜タイプの敷れんが3aは、その傾斜面と対向する側面が、中央部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの長辺側側面に接するようにライニングされている(図1参照)。また、中央部の1面傾斜タイプの敷れんが3aの後方(図4において紙面に対して後側)にも2面傾斜タイプの敷れんがが、連続してライニングされている。つまり、これは図1において矢印Dで示す敷れんがの列であって、この列においても敷れんがの傾斜面どうしが接ししかも炉底中心側に倒れるようにライニングされている。
【0020】
尚、一番外側の敷れんがは、そのれんがの外側部分をパーマれんがとの隙間に合わせて任意の大きさで切断して使用している。
【0021】
このようなライニング構造により、図4において左右から中心方向に向かって内側の敷れんがに荷重の一部がかかり、しかも中央部の敷れんがにおいては紙面に対して後側からも荷重の一部がかかることになる。
【0022】
図5は、図4よりも外側にライニングされた敷れんがを示し、範囲Pをはさむ敷れんがは、左右方向に一列に配置されている(図1参照)。この範囲Pをはさむ敷れんがのうち一番内側は、1面傾斜タイプの敷れんが3aで、残りは2面傾斜タイプの敷れんが3bである。
【0023】
この範囲Pの敷れんがは、図5においては紙面に対して後側から前側に向って、図1においては上から下に向って平行にライニングされている。そして、この範囲Pの外側の敷れんがの側面に対しては直角に接するように1面傾斜タイプの敷れんが3aがそれぞれ配置され、その外側に2面傾斜タイプの敷れんが3bが配置されている。
【0024】
このようなライニング構造により、範囲Pの敷れんがには、図5において紙面の後側から前側へ後側の敷れんがの荷重の一部がかかり、しかも左右方向からそれぞれ内側に外側の敷れんがの荷重の一部がかかることになる。つまり、範囲Pの敷れんがは、3方向から荷重を受けるためにより抜けにくくなる。
【0025】
このように、本発明のライニング構造によれば、炉底の中心付近程、4方向から炉底の中心側に向う荷重が強くなる。このため使用時に炉底の中心付近が広範囲に損傷しても、敷れんがの浮上抑制効果が十分得られる。
【実施例2】
【0026】
次に傾斜角度の異なる2面傾斜タイプの敷れんがを使用したライニング構造の実施例を示す。尚、ライニング構造の平面図は図1と共通である。
【0027】
図6はこの実施例に使用した2面傾斜タイプの敷れんがの正面図、図7は図1におけるA−A断面図、図8は図1におけるB−B断面図である。
【0028】
この実施例に使用した2面傾斜タイプの敷れんが3d〜3jは、図6に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、短辺側の2つの側面33,34は稼動面31に対して同じ方向に傾斜し、その傾斜角度はそれぞれ異なる角度αとβである。また、長辺側の側面35は稼動面31に対して直角で、平行四辺形に近い形状をしている。れんがの厚みは400mm、稼働面及び底面は150×75mmの長方形である。尚、1面傾斜タイプの敷れんが3cとしては、図6における傾斜した側面の一つが稼働面と直角になったものを使用した。
【0029】
図7は、実施例1の図4に相当するものあり、7種類の傾斜角度が異なる2面傾斜タイプの敷れんが3d〜3jが使用されている点のみが実施例1と異なっている。
【0030】
したがって、左右から中心方向に向かって内側の敷れんがに荷重の一部がかかり、しかも中央部においては紙面に対して後側からも荷重の一部がかかるため敷れんがが抜けにくくなるという作用効果は実施例1と同様である。ただし、実施例2のライニング構造においては、図7に示すように敷れんが間の目地を上方に延長した直線が1点(稼動面から2000mmの高さ)で交わるように設計されている(逆ジャックアーチ構造という)。
【0031】
この逆ジャックアーチ構造とするため、中心部の1面傾斜タイプの敷れんが3cの外側には、上述のとおり、傾斜角度が異なる2面傾斜タイプの敷れんが3d〜3jが順に配置されている。この逆ジャックアーチ構造によれば、敷れんがの稼働面より底面がより大きくなるため、敷れんががより抜けがたい構造となる。
【0032】
図8の断面においても、傾斜角度がそれぞれ異なる2面傾斜タイプの敷れんがを使用して逆ジャックアーチ構造でライニングされている。また範囲Pのれんがにおいては、図1において上から下に向かうそれぞれの平行な列において逆ジャックアーチ構造でライニングされている。
【実施例3】
【0033】
次に傾斜面が段差状になっている敷れんがを使用したライニング構造の実施例を示す。尚、ライニング構造の平面図は図1と共通である。
【0034】
図9はこの実施例に使用した敷れんがの正面図、図10は図1におけるA−A断面図である。
【0035】
この実施例に使用した敷れんが3kは、図9に示すように、稼動面31と底面32が長方形である六面体形状をし、短辺側の2つの側面33,34には底面32側に段差状の傾斜面を有している。その傾斜角度αとβはそれぞれ70度である。れんがの厚みは400mm、稼働面31及び底面32の大きさは150×75mmの長方形である。また、段差部は底面32から高さ方向に70〜100mmの範囲とした。
【0036】
図10は、実施例1の図4に相当するものある。図4に使用した敷れんがは側面全面が傾斜面になっているが、図10で使用した敷れんがは側面の底面側に傾斜面が形成されている点が異なる。このライニング構造においても、実施例1の場合と同じように、左右から中心方向に向かって内側の敷れんがに荷重の一部がかかり、しかも中央部の敷れんがにおいては紙面に対して後側からも荷重の一部がかかるため敷れんがが抜けにくくなる。加えて、本実施例では、敷れんがの傾斜面が段差状になっており、凹部と凸部で嵌合しあっているので、敷れんががより抜けにくい構造になっている。
【0037】
以上の実施例1〜3のライニング構造のAOD炉を実際に使用し試験を行った。
【0038】
さらに比較例1として、実施例2と同じ敷れんがを平行積みにして試験した。この比較例1のAOD炉の炉底平面図を図11に示し、図11のB−B断面図を図12に示す。この比較例1では逆ジャックアーチ構造が一つの方向(図11の左右方向)にのみ形成される。また比較例2として、400×150×75mmの直方体れんがを網代積みにして試験した。
【0039】
各試験では毎チャージ終了後、レーザー光を利用した測距装置によって敷れんがの厚みを測定した。
【0040】
試験の結果、比較例2では敷れんがの厚みが75mm、比較例1では同じく55mmで敷れんがの浮上が確認されたが、実施例1〜3ではいずれも30mmでも敷れんがは浮上せず、敷れんが浮上抑制効果の高さが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明をAOD炉の炉底に適用した場合の平面図を示す。
【図2】実施例1に使用する1面傾斜タイプの敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図3】実施例1に使用する2面傾斜タイプの敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図4】実施例1の場合の図1のA−A断面図である。
【図5】実施例1の場合の図1のB−B断面図である。
【図6】実施例2に使用する2面傾斜タイプの敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図7】実施例2の場合の図1のA−A断面図である。
【図8】実施例2の場合の図1のB−B断面図である。
【図9】実施例3に使用する敷れんがの例をその正面図によって示す。
【図10】実施例3の場合の図1のA−A断面図である。
【図11】比較例1のAOD炉の炉底平面図を示す。
【図12】比較例1の場合の図11のB−B断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 炉底
2 パーマれんが
3,3a〜3k 敷れんが
31 敷れんがの稼働面
32 敷れんがの底面
33,34 敷れんがの短辺側の側面
35 敷れんがの長辺側の側面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼動面と底面とが長方形で少なくとも1つの側面が稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ六面体形状の敷れんがを、傾斜面どうしが接ししかも炉底中心側に倒れるように、炉底に平面状に半網代積みしてなる溶融金属容器の敷れんがのライニング構造。
【請求項2】
敷れんがは、稼動面と底面とが長方形で、長辺側の側面は稼動面に対して直角で短辺側の2つの側面が稼動面に対して同じ方向に傾斜した側面を持つ2面傾斜タイプと、長辺側の2つの側面と短辺側の1つの側面は稼動面に対して直角で短辺側の他の1つの側面に稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ1面傾斜タイプとの2タイプからなる請求項1に記載の溶融金属容器の敷れんがのライニング構造。
【請求項3】
敷れんがの傾斜面が段差状になっている請求項1または請求項2に記載の溶融金属容器の敷れんがのライニング構造。
【請求項1】
稼動面と底面とが長方形で少なくとも1つの側面が稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ六面体形状の敷れんがを、傾斜面どうしが接ししかも炉底中心側に倒れるように、炉底に平面状に半網代積みしてなる溶融金属容器の敷れんがのライニング構造。
【請求項2】
敷れんがは、稼動面と底面とが長方形で、長辺側の側面は稼動面に対して直角で短辺側の2つの側面が稼動面に対して同じ方向に傾斜した側面を持つ2面傾斜タイプと、長辺側の2つの側面と短辺側の1つの側面は稼動面に対して直角で短辺側の他の1つの側面に稼動面に対して傾斜している傾斜面を持つ1面傾斜タイプとの2タイプからなる請求項1に記載の溶融金属容器の敷れんがのライニング構造。
【請求項3】
敷れんがの傾斜面が段差状になっている請求項1または請求項2に記載の溶融金属容器の敷れんがのライニング構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−93101(P2007−93101A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−282650(P2005−282650)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】
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