溶融Mg−Zn系合金めっき鋼材
【課題】本発明は、溶融金属系合金めっき鋼材において、Mgを高濃度に含有しながらも、密着性、耐食性を両立する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材を提供することを目的とする。
【解決手段】Znを15原子%以上45原子%未満含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材である。
【解決手段】Znを15原子%以上45原子%未満含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっき鋼材に関し、詳しくは高Mg組成の合金めっき鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっき鋼材として溶融Zn系めっき鋼材は、自動車、建材、家電等幅広い分野で使用されており、長期間の防錆効果を確保する目的からは、一般に、高付着量のめっきが有効である。それは、Znめっきが、そのめっき層自体腐食速度が地鉄鋼材に対して遅いことに加えて、地鉄が露出した場所でも、腐食電位の低いZnが鋼材に対して犠牲防食能を有し、これらによる耐食効果はZnの消費によって得られるために、単位面積当たりのZn量が多い程、長い間効果を保持できるからである。一方、Zn付着量が多くなると、加工性、溶接性等の本来の鋼材必要特性においては劣化する傾向にあり、可能であれば、より低付着量で高耐食性を発揮することが求められる。また、近年、Znの資源枯渇が問題とされており、Znの使用量を減らすためにも、低付着量で高耐食性を有するめっきが求められている。
【0003】
低付着量のめっきで十分な耐食性を与えるために、Znめっきに合金元素を添加することで耐食性を高めることがこれまでにも多く試みられ、実際に、Zn-Ni系合金めっき、Zn-Fe系合金めっき等は、自動車用鋼板を中心に広く使用されているし、Zn-Al系合金めっきも建材を中心に広く使われている。特に、Zn-Al系合金めっきにおいては、さらなる耐食性の向上のためにMgやSiを添加した鋼材も開発されている。例えば、金属被覆を有する耐食性に優れる鋼が、特許文献1に開示されている。特許文献1において開示される合金めっき層は、質量%でAlを1〜50%、Mgを0.1〜20%含有している。また、特許文献2に開示されているZn-Mg系合金めっきにおいては、合金めっき層は質量%で0.05〜3%のMgが含有されることで、耐食性が得られるとされている。これら従来技術における、めっき層のMgの含有量は、質量%で多くても20%程度であった。
【0004】
Mgの含有量が低く抑えられている原因は、主に3つある。その第一は、高濃度にMgを添加すると、めっき浴の融点を上昇させる可能性が高く、かつ、めっき後も加工性を劣化させる金属間化合物が形成し易くなることである。Zn浴にMgを添加する時、質量%で3%程度までは比較的容易に溶解することが可能である。これは、添加されたMgによりMgZn2という金属間化合物が形成し、このMgZn2がさらにZnと共晶をつくり、融点を下降させるためである。しかし、3%を超えてさらにMgを添加すると、MgZn2の生成量が多くなり、共晶組成から離れるため、めっき浴の融点が急激に上昇し、めっき浴の粘性が高くなる。さらに、Mg添加量が20%に近くなると、添加したMgは不溶となって、ドロスの発生量が増大する。浴表面のドロス中にはMgが高濃度となって、雰囲気によっては浴表面で発火して、めっき製造が難しくなる。
【0005】
また、Mgを10%以上の高濃度に添加すると、金属間化合物や合金層が凝固後の合金めっき層に多く生成する。合金めっき層中に存在する金属間化合物や、鋼板界面に形成する合金層は、塑性変形能が乏しい。このため、高濃度にMgを添加した組成では、加工性に乏しく、割れや、鋼板との剥離の問題も顕著になる。こうした、めっきの製造可能な条件や加工性の問題から、これまでMgの添加量は、質量%で、20%前後が限度と考えられていた。
【0006】
Mgの含有量が低く抑えられている第二の原因として、MgがFeと反応性に乏しいことが挙げられる。例えば、非特許文献1に示されるように、MgはFeと金属間化合物を形成せず、Feを全く固溶しない。また、Mgは酸化し易いため、Mgの酸化皮膜がFeとの濡れ性を悪化させ、密着性が劣化する。Zn-Mg、Zn-Mg-Al系合金めっきであっても、添加されたMgによって、ZnやAlの活量が小さくなり、合金めっき層とFeの密着性に寄与するZn-Fe、Al-Fe合金層の形成が抑制される。この結果、Zn-Mg系合金めっきは、Mgの濃度が高いほど、密着性確保が難しくなり、加工時に容易に剥離する等、材料特性の劣化した合金めっき鋼材しか作製できなかった。
【0007】
Mgの含有量が低く抑えられている第三の原因として、高濃度にMgを添加した組成では、耐食性が悪くなる可能性が考えられていたことが挙げられる。Mgは、実用金属の中で最も酸化し易いため、Mg濃度が質量%で50%以上の合金めっきができたとしても、耐食性は悪く、実用性に欠けると考えられていた。
【0008】
これらの理由により、Mgを高濃度に含有する溶融Znめっき鋼材は、製造、性能の点において不安があり、今までに存在しなかった。
【0009】
尤も、35mass%以上のMgを含有するZn-Mg合金めっき鋼板を電気めっきで製造する方法が、特許文献3に開示されている。このように、過去にMgを高濃度に含有するZn-Mgめっき鋼材は、いずれも溶融塩や非水溶媒を用いた電気めっき法で作製された非効率的な製造方法であり、未だ効率性に優れた溶融めっき法による作製法は提示されていない。
【0010】
また、Mgの低融点と高蒸気圧を利用して、蒸着めっき法を用いてZn-Mgめっき鋼板を作製する方法が、非特許文献2に示されている。この作製手法においては、Mgを高濃度に含有するめっき鋼板を作製することも可能と考えられるが、Zn→Mg→Znの順に蒸着する必要があり、溶融めっき法と比較すると、非効率的な製造方法である。また、この手法で作製されたZn-Mgめっき鋼板のMg濃度は、11〜13質量%であり、やはり、Mgを高濃度に含有するMg-Zn合金めっき鋼板については検討されておらず、その性能については、何ら開示されていない。
【0011】
これまで見出された溶融めっき鋼材のMgの含有量は、せいぜい質量%で20%止まりであり、この分野の研究の殆どが、この成分範囲に限られていた。Mgを高濃度に含有した溶融めっき鋼材は研究の対象とさえ、されなかったため、その特性も明らかでなかったのである。
【0012】
【特許文献1】特開2002-60978号公報
【特許文献2】特開2005-82834号公報
【特許文献3】特開平8-13186号公報
【非特許文献1】日本金属学会誌 第59巻 第3号 (1995) 284-289
【非特許文献2】日新製鋼技報 No.78 (1998) 18-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、溶融金属系合金めっき鋼材において、Mgを高濃度に含有しながらも、密着性、耐食性を両立する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、溶融Znめっきにおいて、高耐食性を得る手段としてMgの高濃度添加を検討し、Mgを高濃度に含有したMg-Znめっき浴においても、ある特定の組成範囲においては、溶融めっき浴の融点をMgの発火点以下にすることができ、かつ、めっき浴の粘性、ドロス発生量が共に低下するため、溶融めっき鋼材を作製できることを見出した。このMg-Zn合金めっきの物性及び断面構造を調査した結果、低Mg合金めっきにおいてめっき密着性に寄与するZn-Fe合金層等の形成は抑制されていた。一方、Mgを高濃度に含有しても、Znがある程度合金めっき層中に存在していれば、母材より、Feが合金めっき層中に拡散し、密着性を確保できることを見出した。
【0015】
さらに、Mg-Zn合金めっきの密着性は、あらかじめNi、Cu、Sn等の金属皮膜を鋼板にプレめっきすれば、鋼板との密着性をさらに向上させることができることを見出した。
【0016】
また、本発明の一部の組成範囲では、実用的な冷却速度で、アモルファス相を形成させることができ、アモルファス相が体積分率で5%以上になると、合金めっき層の剥がれ、割れの起点となる欠陥、金属間化合物の悪影響を抑制できることも見出した。また、本発明で開示されるめっきの耐食性は、この組成範囲において溶融Znめっきと比較して良好であるが、アモルファス化によって、同じ組成の結晶相のみの合金めっきよりも、さらに高耐食性を持つことを見出した。
【0017】
本発明の一部の組成範囲では、実用的な冷却速度で、高温安定相をそのまま凍結でき、この高温安定相を含有するめっき鋼板は極めて優れた耐食性、犠牲防食能を有する従来には存在しない、高耐食、高犠牲防食能めっきとして利用できることを見出した。
【0018】
アモルファス相、高温安定相等の非平衡相を含有するめっき鋼板の製造の難しさは、溶融めっき後、大きな冷速与えなければならないところにある。本発明者らは、この非平衡相を含有する、溶融Mg-Zn系合金めっきの易製造化を目指し、溶融めっきプロセスと、冷却プロセスの分離を検討した。その結果、めっきした後、自然放冷した溶融Mg-Zn系合金めっき鋼板を再加熱し、急冷却する(以下、再加熱急冷と略す。)一連の熱プロセスの可能性に思い至った。
【0019】
通常、Alや、Znを含有する溶融めっき鋼材を、めっき後、再加熱すると、鋼材から供給されるFeとめっき成分中のAlや、Znが金属間化合物(合金)層を形成(以下、合金化と略す。)してしまう。
【0020】
しかし、本発明の溶融Mg-Zn系めっきにおいては、ある特定の組成範囲において、特定の温度制御で再加熱冷却を行うことにより、FeとAl、FeとZnとの合金化が抑制されることを本発明者らは見出した。すなわち、この特定の組成範囲では、合金化を抑制しつつ、めっき層を再溶融させることが可能なため、これを利用すれば、通常の超急冷冷却設備がないめっきラインで、まず、緩冷却で平衡相溶融Mg-Znめっき鋼材を作製し、オフライン、あるいはオンラインで、この鋼材を再加熱急冷することで非平衡相溶融めっき鋼板を作製することが可能となる。つまり非平衡相を得るのに必要な急冷プロセスを溶融めっき部分から分離させることが可能で、アモルファス相や、高温安定相を含有する、非平衡相溶融Mg-Zn系合金めっきを容易に製造することが可能となるのである。
【0021】
本発明は、こうした知見に基づいてなされたもので、その要旨とするところは以下のとおりである。
【0022】
(1) 15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0023】
(2) 15原子%以上45原子%未満の Zn、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、元素群Aより選択される元素を1種又は2種以上の合計が0.03〜5原子%を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0024】
(3) 15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0025】
(4) 15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、Mgが55原子%超の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、Mgが55原子%以下の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で2〜15%原子以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0026】
(5) 元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、さらに、元素群Aの元素の1種又は2種以上の合計を0.03〜5原子%含有する(3)又は(4)に記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0027】
(6) 15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0028】
(7) 15原子%以上44.97原子%未満の Znを含有し、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAg、元素群B’をCa、Y又はLaとした時、元素群A、B’の和集合となる元素群より1種又は2種以上の元素を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有し、該合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材であって、前記元素群Aの元素を含有する時には元素群Aの元素の合計が0.03〜5原子%、前記元素群B’の元素を含有する時には元素群B’の元素の合計が0.03〜15原子%である(但し、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%未満の場合には、Mgを55原子%超とし、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%以上の場合には、Znを40原子%未満とする。)ことを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0029】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有され、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角38.7°は除く)総和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角38.7°は除く)が占める割合)で10%以上であることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0030】
(9)20原子%以上の Zn、50原子%以上、75原子%以下のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜12%原子以下含有し(ただし、Ca、Y、Laの合計が1原子%以上の場合には、Alが1原子%以上含有しなければならない。)、溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有されることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0031】
(10) (1)〜(5)のいずれかに記載される溶融Mg-Zn系めっき鋼材を、めっき合金の融点乃至めっき合金の融点+100℃の範囲内に加熱、1分以内保持し、その後、冷却設備にて急冷を行うことによって得られる、非平衡相を含有することを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0032】
(11)前記非平衡相がアモルファス相或いは金属間化合物Zn3Mg7いずれか或いは両方であることを特徴とする(10)記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0033】
(12)前記急冷が水冷又はミスト水冷であることを特徴とする(10)記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0034】
(13)めっき層と鋼材界面に、Ni、Cu、Sn、Cr、Co又はAgから選ばれる1種又は2種以上のプレめっき層を有することを特徴とする請求項1〜12いずれかに記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【発明の効果】
【0035】
本発明の合金めっき鋼材は、通常の溶融めっきプロセスで製造可能であるため、汎用性、経済性に優れる。Znの濃度を抑えながらも、耐食性に関しては、従来の溶融Zn系めっきよりも優れているため、Zn資源の節約利用につながる。また、合金めっきでありながら、耐食性だけでなく、加工性も良好であるため、自動車、建材、家電分野において広く利用することが可能であり、これら部材の高寿命化、メンテナンス労力の低減等をもって産業の発達に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
発明者らは、MgにZnがある程度含有されることで、鋼板との密着性に優れた合金めっき(以降、説明の中で特に記載がない場合は、合金めっきは結晶相の合金めっきを意味する。) 鋼材が製造できることを見出した。
【0038】
溶融Mg-Zn系合金めっきにおいて、鋼材との密着性を確保するためには、Feを合金めっき層中に拡散させる必要がある。このためにZnを溶融めっき浴中に含有させる。必要なZnの濃度は、原子%(以下、説明の中で特に記載がない場合は、組成表示における%は原子%を意味する。)で15%以上である。15%未満では、めっき浴中でのZnの活量が不十分であり、十分なFeの拡散が起こらず、合金めっきと鋼材の間で十分な密着性が得られない。拡散によって、めっき層中全体で3%程度までFeが含有されることがある。ただし、めっき層、鋼板界面ではFeの拡散濃度が高く、付着するめっき層の厚みが薄い場合も、高くなる。ここで3%というのはめっき厚みが10μm程度のときをいう。めっき層の密着には、わずかなFeの拡散が必要な程度で、10μmのめっき層全体で0.1%もあれば十分である。
【0039】
MgにZnが15%以上45%未満含有されることで、Mgの融点が著しく低下し、520℃以下となる。これはMgが70%、Znが30%の組成が、2元共晶(Mg-MgZn2共晶)組成であることに起因する。この組成の融点は、Mgの発火点である約520℃より低いため、大気中でめっき製造を行っても発火が起きない。このため、めっきの製造条件としても適した組成である。Znが45%以上では、2元共晶組成から大きく離れてしまい、MgZn2の形成が多くなって、融点が上昇し、粘性も大きくなり、また、融点が発火点を超える虞があるため、Znは45%未満でなければならない。
【0040】
本発明における組成範囲の溶融Mg-Zn系合金めっきの耐食性は、溶融Znめっき鋼板よりも優れている。腐食電位は、-1.0V〜-1.5V(0.5%NaCl水溶液中、vs. Ag/AgCl)の範囲であり、鋼材に対する犠牲防食能も有している。
【0041】
溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材に、さらなる耐食性を付与する目的で、Fe、Cr、Cu、Ag、Ni、Ti、Zr、Mo、Si又はNbから選ばれる1種以上(元素群A)の添加は効果がある。これらの元素は、合計で0.03%以上の添加で、電気化学測定における分極曲線の腐食電位付近の腐食電流密度が小さくなり始める。5%を超えると、めっき浴の融点が高くなり、めっき製造が難しくなるため、5%以下であることが好ましい。
【0042】
Al、Ca、Y又はLa(元素群B)から選ばれる1種又は2種以上の元素は、その合計の添加量で10%までは、融点、粘性を下げながら、めっき浴中に添加可能な耐食性に効果のある元素である。これらの元素は合計で、0.03%以上の添加で、電気化学測定における分極曲線の腐食電位付近の腐食電流密度が小さくなり始め、添加量の増加に伴い耐食性は向上するが、その合計添加量が15%を超えるとめっき浴の融点が高くなるため、15%以下であることが好ましい。
【0043】
また、Al、Ca、Y又はLaの添加により、Mg-Zn系合金の融点、粘性が低下するため、Znが45%以上であっても、融点がMgの発火点である520℃以下となり、大気中でめっき製造可能となる組成が存在する。また、Al、Ca、Y又はLaの添加により、Mg-Zn系合金の発火点は、約580℃まで上昇する。
【0044】
図1に、Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が580℃以下となる組成領域を示す。Znが15%以上であって、Mgが35%超であり、Al、Ca、Y又はLaの添加量の合計が0.03〜15%であれば、粘性が低く、融点が580℃以下となる。
【0045】
図1の組成領域をさらに制限することで、融点を520℃以下にすることが可能となる。図2に、Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が520℃以下となる組成領域を示す。Znが15%以上45%未満であって、Mgが35%超であり、Al、Ca、Y又はLaの添加量の合計が0.03〜15%であれば、粘性が低く、融点が520℃以下となる。Znが45%以上であっても、Mgが35%超であり、Al、Ca、Y又はLaの添加量の合計が2〜15%であれば、粘性が低く、融点が520℃以下となる。
【0046】
これら元素群Bの元素の添加範囲が、0.03〜15%となるのは、これらの元素濃度が7.5%となる組成近傍に、これらの元素と、Mg、MgZn2との3元共晶線が存在し、この組成近傍では、液体状態が安定するためと推定している。このため、Znが45%以上であって、2元共晶組成から大きく離れたとしても、元素群Bの元素の添加により、3元共晶線に近づくことができるため、液体状態が安定する。しかし、これら元素群Bの元素は合計で15%を超えて添加すると、3元共晶線から大きく離れてしまって、融点が上昇し、めっき製造が難しくなるため、これらの添加量の上限を15%とすることが好ましい。
【0047】
また、Mgが35%以下になると、もはや共晶線は存在しておらず、元素群Bの添加量を工夫しても、MgZn2、CaZn5等の形成が多くなって、めっき浴の融点が520℃以上となり、めっき製造が難しくなるため、Mgは35%超とする。
【0048】
Mg-Zn系の合金は、15%以上45%未満のZnを含有し、残部がMgである組成範囲において、冷却速度を上げることで、アモルファス相を得ることができる。
【0049】
アモルファス相をめっき層の体積分率で5%以上含有することによって、めっきの耐食性が向上し、同じ組成の結晶相のみの合金めっき鋼材よりも耐食性に優れる。例えば、アモルファス相がめっき層中に存在する方が、腐食電位は、同じ組成の結晶相のみの合金めっきと比較して、貴となる。アモルファス相を5%以上含有することで、同じ組成の結晶相のみの合金めっき鋼材よりも腐食電位が0.01V以上上昇する。また、腐食電位における腐食電流密度も小さくなる。実環境の耐食性は、複合サイクル腐食試験によって評価でき、アモルファス相を5体積%以上含むめっき鋼板は、同じ組成の結晶相のみの合金めっきよりも腐食減量が少ない。
【0050】
アモルファス相をめっき層の体積分率で5%未満含有する場合は、同じ組成の結晶相の合金めっき(めっき後、窒素ガスで冷却しためっき鋼板)と比較しても、同等レベルの耐食性である。腐食電位の上昇値も0.01V未満であり、腐食電流密度においてもほぼ同等で、はっきりとした特性変化はない。複合サイクル腐食試験による耐食性評価でも同等レベルであった。
【0051】
アモルファス相が混在することで耐食性が向上する理由は、詳しくは判明していないが、元素の偏析した結晶粒界や金属間化合物が存在しない均質構造であること、母相に耐食性元素を液体固溶限まで溶かすことができること、アモルファス状態が非平衡状態であるため表面が活性化し、緻密な酸化皮膜が急速に形成すること等が考えられる。
【0052】
さらに、アモルファス相のめっきを作製する際には、Ca、Y、又はLa(元素群B’)の添加は、アモルファス形成能を高めるため、好ましい。アモルファス形成能を高める成分を添加することで、さらに容易にアモルファス溶融めっきの製造が可能となる。
【0053】
Alの添加は、耐食性向上には効果があるが、アモルファス形成能を高めることはできない。これは、AlのZnとの液体生成エンタルピーが正であり、Znとの液体生成エンタルピーが負であるCa、Y、又はLaとは異なることが原因と考えられる。
【0054】
アモルファス相が得られる組成は限定されている。図3に、アモルファス相が得られる組成領域を示す。アモルファス相が得られる組成が限定されるのは、融点とガラス遷移温度の差に関係がある。成分の変化によって、ガラス遷移温度はそれほど変化しないため、アモルファス相を得る場合は、通常、融点が低い方が、アモルファス相は得られ易い。したがって、アモルファス形成能は共晶組成と密接に関係する。共晶組成は、融点が低いため、ガラス遷移温度まで最も液体状態を保持し易い組成である。Mg、Zn、と元素群B’から選ばれる元素からなる系においては、Mg-MgZn2共晶線と3元共晶線が交差する点が最も融点が低く、この組成近傍でアモルファス形成能が非常に高い。
【0055】
元素群B’の合計で5%未満含有する合金めっき層では、Mgが55%以下になると、共晶組成から離れて、融点が高くなり、アモルファス形成能が小さくなる。水冷を用いためっきプロセスでは、もはや、めっき層中にアモルファス相を形成することは難しくなるため、Mgは55%超とする。同様に、元素群B’が合計で5%以上含有する合金めっき層では、Znが40%以上になると、共晶組成から離れて、融点が高くなり、アモルファス形成能が小さくなる。水冷を用いためっきプロセスでは、もはや、めっき層中にアモルファス相を形成することは難しくなるため、Znは40%未満とする。
【0056】
この組成範囲では、融点が450℃以下と特に低くなり、アモルファス相を得るのに都合がよい組成であると考えられる。
【0057】
また、元素群Aを含有する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼板であっても、アモルファス相を含有させることにより、耐食性がさらに向上する。このため、耐食性元素の添加と、アモルファス相の形成による耐食性効果を利用して、極めて耐食性に優れる溶融Mg-Zn系合金めっき鋼板を作製することも可能である。
【0058】
本発明で開示される合金めっき及びアモルファス溶融めっきは、加工性、密着性に優れる。Mg-Zn系合金は、非常に結晶化、粒成長が遅い。このため、合金めっきでは、僅かに冷却速度を上げることで容易に結晶粒が微細化し、塑性変形能の乏しい金属間化合物による加工性、密着性への悪影響が減少させることが可能である。液体状態の原子構造を持つアモルファス相を得れば、金属間化合物が消滅し、加工性、密着性をさらに向上させることも可能である。
【0059】
溶融Mg-Zn系合金めっきにおいて、アモルファス相の形成以外においても、Zn3Mg7という金属間化合物相をめっき層中に存在させることで飛躍的に耐食性を向上させることが可能である。Zn3Mg7(Zn3Mg7は、論文によってはMg51Zn20と表記されることもあるが、本明細書中では、両金属間化合物を同質物質として扱い、全てZn3Mg7として表記する。)は、図4に示されるように、高温安定相である。このため、通常の溶融めっきプロセスのように、緩冷却をすると溶融状態にあったMg、ZnはMg相とMgZnもしくは、Mg4Zn7等に分離して常温においては、Zn3Mg7を残存させることができない。しかし、アモルファス相を形成させるのと同じように、溶融めっき直後に急冷(例えば、水冷やミスト冷却)をすることで、Zn3Mg7を残存させることが可能である。Zn3Mg7は、アモルファス形成能が小さい組成、すなわち、Mg-Zn二元系や、Mg-Zn-Al系においても形成させることが可能である。Mg-Zn-Al-Ca系において、Ca濃度が高い組成においては、溶融めっき後、水冷することにより、アモルファス相とZn3Mg7が混合することがある。図5に、溶融めっき後、水冷することにより、Zn3Mg7が得られる組成範囲を示す。図5の組成範囲は、めっき鋼板表面のX線回折より、XRDピークとして、Zn3Mg7が容易に検出される範囲を示した。すなわち、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角38.7°は除く)総和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角38.7°は除く)が占める割合)で10%以上であることを意味する。回折角34.8°はMgとZn3Mg7の回折ピークが非常に近接するため、除外するのが好ましい。Zn3Mg7の回折ピークは、回折データチャート(JCPDSカード番号:08-0269)を参照する。
【0060】
Zn3Mg7を形成するためには、Znが20%以上、Mgが50%以上75%以下、元素群BをAl、Ca、Y又はLaより選ばれる元素が0.03〜12%の範囲で添加される必要がある。Caもしくは、Y、La濃度が高く、アモルファス形成能が高い組成範囲では、アモルファス相の形成が起き、Zn3Mg7が得られない場合があるため、Ca、Y、Laの濃度が合計で1%を超える範囲では、Alを1%以上添加し、アモルファス形成能を上げすぎないように注意する必要がある。
【0061】
より好ましくは、Al濃度が、Ca濃度よりも多く含有されると、アモルファス相よりも、Zn3Mg7の方が形成しやすい。Alはアモルファス相よりも、Zn3Mg7の形成を促進する元素であるためである。Ca、Y、Laの濃度が合計で1%以下の場合は、少量のアモルファス相とZn3Mg7の形成が同時に起こる。
【0062】
Zn3Mg7がめっき層中に含まれると、めっき層の腐食電位が0.5%NaCl水溶液中で-1.2V(vs. Ag/AgCl)程度となる。この値は、Zn3Mg7を含まない同成分のめっき層(めっき後、空冷で作製する。)の腐食電位、-1.5〜-1.4Vと比較すると高い値となる。めっき層中の、Zn3Mg7の形成量が多くなるほど、-1.2Vに近づき、分極曲線の腐食電位付近の腐食電流密度が小さくなり始める。
【0063】
X線回折でZn3Mg7が検出されるめっき鋼板の中でも、めっき層中にAl、Caが添加されている方が、腐食電流密度が小さくなる。Al濃度が0〜6%程度の間では、濃度が増すごとに、腐食電流密度が小さくなる。Ca濃度は、0.3〜5%の添加で腐食電流密度が小さくなる。アモルファス相よりも、優先的にZn3Mg7を析出させたい場合は、Al濃度がCa濃度よりも多く添加された方が好ましい。
【0064】
Zn3Mg7は耐食性に極めて優れるが、加工性においては、割れが発生しやすい。一方、アモルファス相は、Zn3Mg7ほどの耐食性は有しないが、均質であるため、加工性に優れる、表面平滑性に優れるなどの長所が多い。アモルファスめっき鋼板に耐食性を特に付与したい場合は、Zn3Mg7との混合のめっき鋼板を作製すればよい。
【0065】
Zn3Mg7を含有するめっき鋼板は、55%Al-Znめっき、Al-10%Siめっき等よりも、鋼板に対して優れた犠牲防食能を有している。
【0066】
犠牲防食能を測定するには、溶融めっき鋼板を曲げ、加工部の耐食性を塩水噴霧試験や複合サイクル腐食試験に供すればよい。合金めっき鋼板であれば、加工部のめっき層は割れるため、鋼板の一部が剥き出し状態となる。犠牲防食能が低い55%Al-Znめっき鋼板、Al-10%Siめっき鋼板などは、試験開始直後、加工部には直ぐに赤錆が発生するが、Mg-Znめっき鋼板においては、加工部の鋼板剥き出し部は、Mg系酸化物で直ぐに覆われ、赤錆発生時間が遅れる。
【0067】
Mg-Znアモルファスめっき鋼材、Mg-Znアモルファス含有めっき鋼材、Zn3Mg7含有めっき鋼材は、いずれも非平衡相を持つ溶融めっき鋼材であるため、製造には、少なくとも水冷、又は、高圧ミスト冷却等の冷却効果の比較的大きい冷却法を行うことが不可欠である。とりわけ、耐食性に優れる非平衡相の相量を大きくするためには、大きな冷却速度が必要である。
【0068】
ここで、実際に非平衡相Mg-Zn系溶融めっき鋼材を製造するには、少なくとも2つの課題がある。1つは、冷却効果の大きい冷却設備をめっきプロセスに導入する場合、高温溶融めっき金属を扱う溶融めっき直後に、冷却能の高い冷却設備を設置することが、コスト高に繋がる点である。
【0069】
本発明者らは、平衡相溶融Mg-Znめっきを出発点として、めっき層中に含まれる非平衡相の相量向上を目的とする、再加熱し、急冷却する(以下、再加熱急冷と略。)一連の熱プロセスの検討を行い、Mg、Zn、Caが、ある特定組成範囲にあり、特定条件での再加熱冷却したとき、めっき層中のZnと、鋼材から供給されるFeの合金化が抑制されることを見出した。
【0070】
通常Znを含有するめっき層を、400℃以上に保持すると、めっき層中のZnと、鋼材から供給されるFeが反応して、Γ相、δ相などの金属間化合物相を形成する(合金化)。自動車分野で広く使用される合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)は、この性質を積極的に利用して、溶接性、塗装後耐食性を向上させたZn-Feめっき鋼板である。
【0071】
しかしながら、Mg、CaはFeとの反応性に乏しく、FeとZnの活性を低下させる元素であるため、めっき金属中に一定の濃度以上に、これらの元素が含有されると、溶融めっき中や、めっき後再溶融しても、ZnがFeと金属間化合物を形成しにくくなる。
【0072】
この合金化を抑制できる組成範囲は図1の範囲内にあればよい。すなわち、Znを15原子%以上、Mgが35%以上、Caが15%以下含有するMg-Zn系溶融めっき層であれば、合金化を抑制できる。
【0073】
尤も、図1の範囲内ではあるが、図3、図5の範囲外で非平衡相がほとんど得られない領域であっても、DSCにより、非平衡相起因の発熱ピーク量が上昇していることを確認することで、非平衡相量がわずかながら上昇していることも確認できる。
【0074】
合金化を抑制できるというのは、めっきされた鋼材を融点付近の温度(図1の組成範囲中の融点は580℃以下)、すなわち、融点から融点+100℃以内に加熱して、短時間(1分程度)保持した場合の事であり、長時間融点付近の温度で保持した場合、もしくは、融点よりも著しく高温にした場合は、図1中の組成範囲であってもZnとFeの合金化は起こりうる。めっき層を厚くした場合にも、界面付近に若干のFe-Zn金属間化合物が形成することもあるが、これらが昇温中に成長し、合金化が進展することはまずない。めっきの密着性確保で必要なFeは、0.1%程度の微量であり、また、めっき層全体で含有されうる濃度はおおよそ3%程度であるが、これらのFeが合金化につながることは、ほとんどない。
【0075】
合金化が著しく進展するのは、めっき層中に10%程度のFeが含有される場合であり、融点から融点+100℃以内に加熱して、短時間(1分程度)保持する適切な熱処理では、Mg中でのFeの活量が低下して、おこらない。
【0076】
合金化の確認は、X線回折、走査型電子顕微鏡、及びエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)等を使用して、めっき層断面の金属間化合物を検出する。通常、Zn-Fe合金層は界面から成長するため、光学顕微鏡でめっき層-鋼板界面を観察すれば、合金層の存在は容易に確認できる。
【0077】
合金化抑制を確認するためには、再加熱前後で、めっき層中の成分を調べることも有効である。通常、めっき層に含まれるFeが0.5%未満であれば、Zn-Fe金属間化合物が観察されることはほとんどない。0.5%以上となると、界面付近に若干のFe-Zn金属間化合物が形成することもあるが、適切な温度で再加熱が行われれば、これらが昇温中に成長し、合金化が進展することはまずない。めっき層成分は、インヒビターを添加した10%塩酸等でめっき層溶解液を50ml程度作製して、めっき層のみを酸洗し、この溶解液を、ICP発光分光分析装置で測定すればよい。
【0078】
再加熱急冷の利点は、急冷プロセスの独立の他に、非平衡相の相量を大きくすることにある。非平衡相を含有するMg-Zn系溶融めっき鋼材を作製する場合、めっき後、ガスワイピングをし、目的とするめっき厚にした後、急冷する必要がある。めっき後の、ガスワイピング時のめっき層の温度低下幅が大きいと、本来の急冷却過程前に、めっき層が結晶化して急冷後もアモルファス相などの非平衡相の形成が起こらず、平衡条件で作製しためっき鋼材と同じめっき層になってしまう。アモルファス相や、その他の非平衡相を得るためには、融点直上の温度より、十分に大きい冷却速度をめっき層に与えることが重要である。
【0079】
めっき浴温度は鋼材との密着性向上、浴を安定的に保持するなどの目的で、融点よりも10〜100℃高い温度に設定されることが多い。しかしながら上記目的で、浴温度をさらに高温にすることは、コスト面で好ましくなく、また、ドロスの発生量の増大、Mgの発火というMg-Znめっき特有の問題点もある。さらに、浴温が高くなると、鋼材温度が上がり、冷却の際の冷速が低下する。特に水冷を用いる場合は、鋼材の熱容量によって、水蒸気の発生が多くなり、さらに冷速が低下して、非平衡相の相量が小さくなる。
【0080】
しかし、本願発明のMg-Znめっき鋼材は非平衡相が相量の小さくても再加熱で、融点直上で一度、めっき層を再溶融して、結晶相、平衡相を消滅させ、急冷でアモルファス相やその他の非平衡相を形成させ、非平衡相の相量を上昇させることができる。つまり、本発明の組成範囲のめっきであれば、ZnとFeの合金化を抑制できるため、めっきを合金化せずに再加熱急冷が可能である。再加熱急冷は、融点直上温度から急冷するため、ガラス遷移温度まで、短時間で冷却しなければならないアモルファス溶融めっき鋼材を得るのに好適な冷却パターンでもある。
【0081】
尚、再加熱時の条件は、Zn-Feの合金化進展を左右する。再加熱温度が高すぎる場合、あるいは融点直上の温度でも保持時間が長い場合は、本発明の成分範囲のめっき成分でも、合金化することがある。再加熱条件を本発明者らが検討した結果、融点より10〜100℃高い温度が保持温度として適しており、保持時間は1分以内であることが好ましいことが判明した。また、合金化を抑制するために、より好ましくは、500℃以下に保持されることが好ましい。この条件に該当しない場合は、すなわち、過昇温はFeの拡散を不必要に活発にし、合金化が起こりやすくなる。再加熱時の昇温速度には、特に制限はないが、めっき層全体の温度を一定にするため、急速昇温によるオーバーヒートを防止するため、昇温速度が小さいほうが好ましい。
【0082】
溶融Mg-Zn系合金めっきは、MgとFeの反応性の乏しさから、鋼板との密着性の確保が難しい。特に、Mg濃度が高い場合は、不めっきが発生しやすくなり、鋼板との密着性の確保も、より難しくなるが、プレめっき法を使用することで、不めっきを抑制し、密着性の確保も容易にできる。
【0083】
ただし、プレめっき層はめっき合金との濡れ性を有している必要がある。めっきの鋼板との密着性を確保し、また、本発明のめっき合金との濡れ性を、様々な合金元素について検討した結果、Cr、Co、Ni、Cu、Ag、Snが適切で、これらの中から2種以上を組み合わせた合金でもよい。
【0084】
これらのプレめっき層は電気めっき、もしくは無電解めっきで形成するのが好ましい。厚みとしては0.1〜1μm(付着量1〜10g/m2程度)範囲であればよい。通常のMg-Zn系溶融めっき条件(浴温350〜600℃)でめっきした後、プレめっき層が残存することもある。厚みが薄すぎると、不めっき抑制、密着性確保の効果が期待できない。めっき後、プレめっき層を構成する元素がめっき中に拡散し、めっき成分で1%程度まで含有されることがある。これらプレめっき層から拡散した元素は微量で、めっき層中で置換型固溶体を形成する。
【0085】
不めっきの確認は、目視によって判断するのが、容易である。めっき鋼板の中心から一定の範囲に存在する、目視で確認できる不めっきの数で、単位面積あたりの個数で判断を行う。なお、鋼板の不めっきの数は、めっき浴への鋼板を浸漬する速度によって変化するため、プレめっきの効果を確かめたい場合は、めっき浴への鋼板の浸漬速度を一定にすることが好ましい。
【0086】
本発明鋼材の基材としての鋼材の材質には、特に限定はなく、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、Ni、Cr含有鋼等が使用可能である。製鋼方法や、鋼の強度、熱間圧延方法、酸洗方法、冷延方法等の鋼材の前処理加工についても特に制限がない。
【0087】
めっきの製造方法に関しては、ゼンジミア法、プレめっき法、2段めっき法、フラックス法等が適用可能である。本発明のMg-Zn系めっきをする前のプレめっきの種類としては、Niめっき、Sn-Znめっき等が使用可能である。
【0088】
本発明のMg-Zn系めっき鋼材は真空又は不活性ガス雰囲気で製造した方が好ましい。本発明のMg-Zn系めっきをする前のプレめっきや2段めっき法における1段目のめっきの種類としては、Niめっき、ZnめっきやSn-Znめっき等が使用可能である。
【0089】
めっき浴に使用する合金は、予め不活性ガス雰囲気等で置換されたるつぼ内で所定比に混合されたMgとZnを溶解すれば、Mgの発火点を気にすることなく製造することが可能である。
【0090】
市販の難燃性Mgを利用する方法もある。この場合は所定量の難燃性MgとZnを混合して、600℃近傍で溶融すればよい。ただし、難燃性MgにAlやCaが添加されている場合があるので、この場合はめっき浴にAl、Caが含まれることになる。
【0091】
めっき浴にMgが高濃度に含有されることで、Zn-Fe合金層の形成が抑制される。このため、Zn-Fe合金層の形成を抑制する目的で、Alをめっき浴に添加する必要はない。塑性変形能の乏しい合金層の形成は、パウダリング、フレーキング等、めっき後の加工の剥離原因ともなるため、Mgを高濃度に含有する本発明はこの点で有利である。
【0092】
Fe、Cr、Cu、Ag、Ni、Ti、Zr、Mo、Si又はNbの添加においては、合計で0.1%前後までの少量添加であれば、金属粉末をめっき浴に添加し、不活性雰囲気で600℃前後に長時間保持することで、めっき浴中に含有させることができる。高濃度に添加するときは、雰囲気炉等で添加金属とZn又はMgの合金を作製しておき、これを添加する方法がある。この添加合金作製においても、Znは沸点が低いため、溶解においては900℃以下で行われるのが好ましい。
【0093】
Al、Ca、Y又はLaの添加においては、合計で5%前後までの添加であれば、金属粉末をめっき浴に添加し、不活性雰囲気で600℃前後に長時間保持することで、めっき浴中に含有させることができるが、これより多くの添加になる場合は、雰囲気炉等で添加金属とZn又はMgの合金を作製し、添加する方法が好ましい。
【0094】
Mg-Zn系合金めっきにおいて、Ca、Y、La等が添加されたアモルファス形成能を高めた成分系であれば、例えば、溶融めっき後、めっき表層で約10〜1000℃/秒程度の冷却速度が得られる、至近距離からのミスト冷却等で冷却することにより、容易に単一相のアモルファス相を得ることが可能である。Ca、Y、Laの添加されていない、その他のMg-Zn系でアモルファス形成能が小さい成分系においては、水冷、又は、溶融めっき直後に水没することにより、めっき表層で約1000〜5000℃/秒の冷却速度が得られ、微細結晶とアモルファス相との混合相からなるアモルファス溶融めっき鋼板の作製が可能となる。また、さらに冷却速度を高めるためには、基材や、付着させるめっきを薄くする、冷媒として氷点下のアルコール系冷媒を使用する等の方法もある。
【0095】
アモルファス相の体積分率は、めっき組成のアモルファス形成能に依存する。本発明のめっき組成であれば、めっき層の温度を融点とほぼ同一にして0℃の水に水没することで、アモルファス相が5%以上含まれるめっき層が作製できる。Ca、Y、La等が添加されていないアモルファス形成能が小さい系において、アモルファス相を得るためには、めっき目付け量を十分に小さくし(例えば、めっき厚みで6μm以下とする。)、水没直前のめっき層の温度を融点とほぼ同一にして、0℃の水に水没し、めっき層の冷却速度を十分に大きくすることでアモルファス相が5%以上含まれるめっき層が作製できる。逆に、Ca、Y、La等が添加された系等は、アモルファス形成能が高いため、水没直前の温度が、融点より若干高い温度であっても、常温の水に水没するだけで、単一のアモルファス相からなるめっき層を得ることができる。意図的にアモルファス相の体積分率を小さくしたい場合は、ミスト冷却の使用や、水没直前の温度を上昇させることによって、アモルファス相の体積分率を小さくすることが可能である。
【0096】
アモルファス相の形成の確認は、めっき層のX線回折像でハローパターンが得られることで確認できる。単一のアモルファス相であれば、ハローパターンのみ(場合によって、鋼材のFe回折ピークが検出される場合もある)得られる。アモルファス相と結晶相が混在する場合で、アモルファス体積分率が低い場合は、示差熱分析装置を使用して、昇温中、アモルファス相から結晶化する際の発熱ピークを検出することによって、アモルファス相がめっき層に存在することを確認できる。
【0097】
アモルファス体積分率を求めるためには、めっき鋼材の断面を切断し、研磨、エッチングして、表面のめっき層を光学顕微鏡(以下、光顕)で観察する。アモルファスになった部分は、エッチングによっても何の組織も観察されないが、結晶相の残った部分は、結晶粒界や、亜粒界、析出物等に起因する組織が観察される。これにより、アモルファス部分と結晶部分の領域は、明確に区別されるので、線分法や画像解析により体積率に換算することが可能である。組織が微細過ぎて光顕での測定が困難な場合は、めっき層断面より薄片を作製し、透過電子顕微鏡により観察することで、同様に測定が行える。透過電子顕微鏡の場合は、組織の観察されない領域において、電子線回折像のハローパターンにより、アモルファス構造を確認することも可能である。光顕観察において、全面に組織の観察されない場合や、一部に組織の観察されない部分があっても、粗大で歪みの無い結晶粒である疑いのある場合は、さらに電子顕微鏡用薄片を採取して、電子線回折像に回折スポットが無く、ハローパターンが観察されることにより、アモルファス相であることを確認することが望ましい。光顕も電子顕微鏡も、10か所以上の異なる視野についてコンピューターによる画像処理で面積率を求め、それらを平均して体積率とするのが望ましい。
【0098】
めっき層中のZn3Mg7の検出には一般的なX線回折法が有効である。例えば、CuのKα線を使用したX線回折装置により、回折図形を測定し、Zn3Mg7回折ピークの有無により判定する場合、X線回折像によるZn3Mg7の同定は、2θ=10〜30°の回折ピークを用いるのが好ましい。30°以上では、Mg回折ピークの最強線と重なるためである。また、Zn3Mg7の相量が少ない場合にはTEM-EDXによる判別も有効で、特定の結晶相から得られた特性X線スペクトルよりZn3Mg7を同定すればよい。
【実施例1】
【0099】
表1〜6に示す、めっき組成の浴に、板厚0.8mmの冷延鋼板、肉厚10mmで辺の長さが10cmの等辺山形鋼及び板厚10mmの熱延鋼板を基材として、表面処理鋼材を作製した。
【0100】
Mg、Zn及びその他必要な成分元素を所定の組成に調整した後、高周波誘導炉を使用してAr雰囲気で溶解し、Mg-Zn系合金を得た。作製した合金より、切粉を採取して酸溶解した溶液をICP(誘導結合プラズマ発光)分光分析により定量し、作製した合金が、表1〜6に示す組成に、一致することを確認した。この合金をめっき浴として使用した。
【0101】
冷延鋼板(板厚0.8mm)は、10cm×10cmに切断した後に、レスカ社のバッチ式の溶融めっき試験装置でめっきした。めっき浴の浴温は500℃とした。エアワイピングで目付け量を調節し、その後、窒素ガスで常温まで冷却した。アモルファス相を体積分率で5%以上含有するアモルファス溶融めっき鋼板の作製に関しては、溶融めっき後、0℃の水に水没した。アモルファス相を体積分率で5%未満含有するアモルファス溶融めっき鋼板の作成に関しては、至近距離からの高圧ミストをめっき鋼板に吹きかけた。
【0102】
等辺山形鋼は、長手方向に10cm、熱延鋼板は10cm×10cmの正方形に切断し、まず、るつぼ炉を用いて、フラックス法を使用したZn浴で、目付け量が約100g/m2になるように、どぶ漬けめっきを施した後、本発明組成のZn-Mg合金浴に浸漬して、必要に応じて、0℃の水に水没冷却を実施した。
【0103】
めっき密着性は、冷延鋼板に関しては、めっき試験片のめっき層を外側にして180°曲げて8T折り曲げ試験を実施後、曲げ部のめっき層を粘着テープで剥離し、曲げ部断面を埋め込んで、光学顕微鏡により、曲げ部断面外周部におけるめっき層の付着率を求めた。試験後のめっき層の残存率が50〜100%のものを「○」のものを「×」、めっき層が付着しなかったものは「−」とした。
【0104】
熱延鋼板、等辺山形鋼については、断面を埋め込んで光学顕微鏡により断面外周部におけるめっき層の付着率を求めた。めっき層の付着率が50〜100%のものを「○」、50%未満のものを「×」、めっき層が付着しなかったものは「−」とした。
【0105】
めっき層表層のアモルファス形成は、CuのKα線を使用したX線回折装置により、回折図形を測定し、ハローパターンの有無により判定した。
【0106】
アモルファス相と結晶相が混在する場合で、アモルファス体積分率が低い場合は、示差熱分析装置を使用して、昇温中、アモルファス相から結晶化する際の発熱ピークを検出することによって、アモルファス相の有無を確認した。
【0107】
アモルファス相を有すると判定されためっき鋼板に関しては、アモルファス相の体積分率を定量的に求めるために、めっき鋼材の断面を切断し、研磨、エッチングして、表面のめっき層を光顕(×1000倍)で観察し、10か所以上の異なる視野についてコンピューターによる画像処理でアモルファス相の面積率を求め、それらを平均して体積率とした。
【0108】
めっき鋼板の耐食性は、自動車規格(JASO M 609-91、8時間/サイクル、濡れ/乾燥時間比 50%)に準拠した方法を21サイクル実施して評価した。但し、塩水には0.5%塩水を使用した。試験後の腐食減量と密度から換算した腐食減厚で耐食性を評価した。腐食減厚が0.5μm未満を「◎」、0.5〜1μmを「○」、1〜2μmを「◇」、2〜3μmを「△」3μm以上を「×」とした。表1〜6中で、めっき密着性評価が「×」のものについては、耐食性評価を行わなかったので、「-」で示した。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
表1〜6に示すように、本発明の溶融Mg-Zn系めっき鋼材は、めっき密着性においては十分な性能を保持している。本発明鋼の耐食性は、いずれも溶融Znめっき鋼板(No.6-1)よりも優れている。Si、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo、Ag、Al、Ca、Y、Laを含有しためっき鋼材は、さらに耐食性に優れ、その中でも、これらの元素を含有し、アモルファス相を有するめっき鋼材は、特に耐食性に優れる。
【0116】
表7、8に、アモルファス溶融めっき鋼板と結晶相のみのめっき鋼板とを比較した、耐食性評価結果を示す。表7、8から明らかのように、同成分の場合、アモルファス相を有するめっき鋼板の方が耐食性の点で優れている。
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【0119】
図6に、作製しためっき鋼板No.2-7(目付け量20g/m2)の断面写真を示した。図6から判別できるように、鋼板とめっき層の界面に亀裂、剥離が観察される場所は存在しない。鋼板とめっき層は良好な密着性が得られており、Mgが高濃度に含有されていても、鋼板にめっきすることが可能である。
【0120】
図7に、水没冷却しためっき鋼板No.4-5(目付け量20g/m2)の断面写真を示した。図8に、このめっき層のX線回折像を示す。X線回折像にハローパターンが検出されていることより、図7中のめっき層はアモルファス相であることが分かる。図9に、界面付近のFE-TEM像(明視野像)を示す。図10に、図9のFE-TEM像中の十字点のEDXによる元素分析結果を示す。Feがめっき層内部に拡散していることが分かる。図11に、図9のFE-TEM像中の十字点の電子線回折像を示す。ハローパターンが検出されており、図9で観察されるめっき層が界面近傍でもアモルファス相であり、このめっき層が単一のアモルファス相であることが確認できる。
【実施例2】
【0121】
表9に示す、めっき組成の浴に、板厚0.8mmの冷延鋼板を基材として、表面処理鋼材を作製した。基材のプレめっきの前処理として、アルカリ脱脂と酸洗を行った。
【0122】
Niプレめっき層の作製には、硫酸ニッケルを125g/l、クエン酸アンモニウム135g/l、次亜リン酸ナトリウム110g/l、水酸化ナトリウムによりpH10とした30℃の水溶液で浸漬した。
【0123】
Coプレめっき層の作製には、硫酸コバルトを15g/l、次亜リン酸ナトリウムを21g/l、クエン酸ナトリウムを60g/l、硫酸アンモニウムを65g/l、アンモニウム水によりpH10とした、90℃の水溶液で浸漬した。
【0124】
Cuプレめっき層の作製には、硫酸銅を2g/l、硫酸を30g/l、25℃の水溶液で浸漬した。
【0125】
Cu-Snプレめっき層の作製には塩化銅を3.2g/l、塩化すずを5.0g/l、塩酸を8g/l、25℃の水溶液で浸漬した。
【0126】
Agプレめっき層の作製には、シアン化銀を2g/l、シアン化カリウムを80g/l、温度30℃、電流密度2A/dm2で電気めっきを行った。
【0127】
Crプレめっき層の作製には、無水クロム酸を250g/l、硫酸を2.5g/l、温度50℃、電流密度20A/dm2で電気めっきを行った。
【0128】
これらのめっき浴を用い、浸漬時間を調整し、付着量を1〜5g/m2とした。プレめっきの付着量は、硝酸等で溶解した液をICP(誘導結合プラズマ発光)分光分析により定量分析し、溶解元素量より付着量に換算した。
【0129】
Mg、Zn及びその他必要な成分元素を所定の組成に調整した後、高周波誘導炉を使用してAr雰囲気で溶解し、Mg-Zn系合金を得た。作製した合金より、切粉を採取して酸溶解した溶液をICP(誘導結合プラズマ発光)分光分析により定量し、作製した合金が、表9に示す組成に、一致することを確認した。この合金をめっき浴として使用した。
【0130】
冷延鋼板(板厚0.8mm)は、10cm×20cmに切断した後に、レスカ社のバッチ式の溶融めっき試験装置でめっきした。冷延鋼板は、プレめっき法を行ったものと、原板ままのものを使用し、いずれも水素還元法による、溶融めっきを行った。
【0131】
めっき浴の浴温は400〜600℃とした。エアワイピングで目付け量を調節した。
【0132】
めっき浴への鋼板浸漬速度を500mm/secとし、3秒間浸漬して、エアワイピングで目付け量を調整した直後、水冷、空冷、もしくは後述する手法で再加熱水冷を行った。
【0133】
浸漬後めっき鋼板の中心部(5cm×10cm)の不めっき(目視で確認できる1mm以上の不めっき)の数を数え、50平方センチメートル辺りの不めっき数に換算した。各サンプル、n数を10として、平均値を求めた。不めっきの数、1個以下を「◎」、1〜3個を「○」、5〜10個以上を「△」、10個以上を「×」とした。
【0134】
作製しためっき鋼板の中心部(20mm×20mm)の表面形成相の回折図形を、CuのKα線を使用したX線回折装置により測定した。
【0135】
X線回折により表面の形成相を同定し、ハローパターンが検出されたものを「○」、得られなかったもの、もしくは、結晶相混在で判別が難しいものを「△」とした。また、高温安定相Zn3Mg7の回折ピークが検出されたものを「●」とした。ピークが検出されたとは、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角34.8°は除く)和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角34.8°は除く)が占める割合が10%以上である。また、ハローパターン、「○」Zn3Mg7の回折ピークの両方が観察されたものを「○●」とした。図12は、表9中、No.16のX線回折像を表し、ハローパターンと、Zn3Mg7が両方観察された例である。
【0136】
再加熱水冷は、めっき後、エアワイピングで目付け量を調整した後、常温まで放冷する。常温放置後、溶融めっき浴温度まで再加熱昇温し、この温度で10秒間保持し、その後、水冷を行った。
【0137】
めっき鋼板の耐食性は、自動車規格(JASO M 609-91、8時間/サイクル、濡れ/乾燥時間比 50%)に準拠した方法を21サイクル実施して評価した。但し、塩水には0.5%塩水を使用した。試験後の腐食減量と密度から換算した腐食減厚で耐食性を評価した。腐食減厚が0.5μm未満を「◎」、0.5〜1μmを「○」、1〜2μmを「◇」、2〜3μmを「△」3μm以上を「×」とした。
【0138】
図13は、表9中、No.3のMg-27%Zn-1%Ca-6%AlのX線回折像を示している。X線回折像からは、Zn3Mg7の回折線のみ得られていた。Ca、Alは置換型固溶体を形成して、存在していると推定している。
【0139】
図14は、表9中、No.3、No.6〜No.8のめっき鋼板表面形成相のX線回折像を示したものである。図から、No.3では、めっき層が、Zn3Mg7単相であったが、Al濃度が高くなるにつれて、Zn3Mg7の相量が少なくなり、No.8では、Zn3Mg7がほとんどなくなった。
【0140】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が580℃以下となる組成領域。
【図2】Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が520℃以下となる組成領域。
【図3】アモルファス相が得られる組成。
【図4】Mg-Zn2元系状態図。
【図5】Zn3Mg7が得られる組成領域。
【図6】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(結晶相)の断面写真。
【図7】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)の断面写真。
【図8】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)のX線回折像。
【図9】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)の界面付近のFE-TEM像(明視野像) 。
【図10】図9のFE-TEM像中の十字点のEDXによる元素分析結果。
【図11】図9のFE-TEM像中の十字点の電子線回折像。
【図12】実施例、表9中 No.16、Mg-25%Zn-5%Ca-4%Alめっき層(アモルファス相、Zn3Mg7)のX線回折像。
【図13】実施例、表9中 No.3、Mg-27%Zn-1%Ca-6%Alめっき層(Zn3Mg7)のX線回折像。
【図14】実施例、表9中 No.3、Mg-27%Zn-1%Ca-6%Alめっき層のX線回折像、No.6、Mg-27%Zn-1%Ca-8%Alめっき層のX線回折像、No.7、Mg-27%Zn-1%Ca-10%Alめっき層のX線回折像、No.8、Mg-27%Zn-1%Ca-13%Alめっき層のX線回折像。
【符号の説明】
【0142】
1 2元共晶(Mg-MgZn2共晶)線
2 3元共晶線
3 共晶線交差点
4 Mg-25%Zn-5%Caめっき層(結晶相)
5 鋼板
6 Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)
7 鋼板
8 Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)
9 鋼板
10 Mg-27%Zn-1%Ca-6%Alめっき層のX線回折像
11 Mg-27%Zn-1%Ca-8%Alめっき層のX線回折像
12 Mg-27%Zn-1%Ca-10%Alめっき層のX線回折像
13 Mg-27%Zn-1%Ca-13%Alめっき層のX線回折像
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっき鋼材に関し、詳しくは高Mg組成の合金めっき鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属めっき鋼材として溶融Zn系めっき鋼材は、自動車、建材、家電等幅広い分野で使用されており、長期間の防錆効果を確保する目的からは、一般に、高付着量のめっきが有効である。それは、Znめっきが、そのめっき層自体腐食速度が地鉄鋼材に対して遅いことに加えて、地鉄が露出した場所でも、腐食電位の低いZnが鋼材に対して犠牲防食能を有し、これらによる耐食効果はZnの消費によって得られるために、単位面積当たりのZn量が多い程、長い間効果を保持できるからである。一方、Zn付着量が多くなると、加工性、溶接性等の本来の鋼材必要特性においては劣化する傾向にあり、可能であれば、より低付着量で高耐食性を発揮することが求められる。また、近年、Znの資源枯渇が問題とされており、Znの使用量を減らすためにも、低付着量で高耐食性を有するめっきが求められている。
【0003】
低付着量のめっきで十分な耐食性を与えるために、Znめっきに合金元素を添加することで耐食性を高めることがこれまでにも多く試みられ、実際に、Zn-Ni系合金めっき、Zn-Fe系合金めっき等は、自動車用鋼板を中心に広く使用されているし、Zn-Al系合金めっきも建材を中心に広く使われている。特に、Zn-Al系合金めっきにおいては、さらなる耐食性の向上のためにMgやSiを添加した鋼材も開発されている。例えば、金属被覆を有する耐食性に優れる鋼が、特許文献1に開示されている。特許文献1において開示される合金めっき層は、質量%でAlを1〜50%、Mgを0.1〜20%含有している。また、特許文献2に開示されているZn-Mg系合金めっきにおいては、合金めっき層は質量%で0.05〜3%のMgが含有されることで、耐食性が得られるとされている。これら従来技術における、めっき層のMgの含有量は、質量%で多くても20%程度であった。
【0004】
Mgの含有量が低く抑えられている原因は、主に3つある。その第一は、高濃度にMgを添加すると、めっき浴の融点を上昇させる可能性が高く、かつ、めっき後も加工性を劣化させる金属間化合物が形成し易くなることである。Zn浴にMgを添加する時、質量%で3%程度までは比較的容易に溶解することが可能である。これは、添加されたMgによりMgZn2という金属間化合物が形成し、このMgZn2がさらにZnと共晶をつくり、融点を下降させるためである。しかし、3%を超えてさらにMgを添加すると、MgZn2の生成量が多くなり、共晶組成から離れるため、めっき浴の融点が急激に上昇し、めっき浴の粘性が高くなる。さらに、Mg添加量が20%に近くなると、添加したMgは不溶となって、ドロスの発生量が増大する。浴表面のドロス中にはMgが高濃度となって、雰囲気によっては浴表面で発火して、めっき製造が難しくなる。
【0005】
また、Mgを10%以上の高濃度に添加すると、金属間化合物や合金層が凝固後の合金めっき層に多く生成する。合金めっき層中に存在する金属間化合物や、鋼板界面に形成する合金層は、塑性変形能が乏しい。このため、高濃度にMgを添加した組成では、加工性に乏しく、割れや、鋼板との剥離の問題も顕著になる。こうした、めっきの製造可能な条件や加工性の問題から、これまでMgの添加量は、質量%で、20%前後が限度と考えられていた。
【0006】
Mgの含有量が低く抑えられている第二の原因として、MgがFeと反応性に乏しいことが挙げられる。例えば、非特許文献1に示されるように、MgはFeと金属間化合物を形成せず、Feを全く固溶しない。また、Mgは酸化し易いため、Mgの酸化皮膜がFeとの濡れ性を悪化させ、密着性が劣化する。Zn-Mg、Zn-Mg-Al系合金めっきであっても、添加されたMgによって、ZnやAlの活量が小さくなり、合金めっき層とFeの密着性に寄与するZn-Fe、Al-Fe合金層の形成が抑制される。この結果、Zn-Mg系合金めっきは、Mgの濃度が高いほど、密着性確保が難しくなり、加工時に容易に剥離する等、材料特性の劣化した合金めっき鋼材しか作製できなかった。
【0007】
Mgの含有量が低く抑えられている第三の原因として、高濃度にMgを添加した組成では、耐食性が悪くなる可能性が考えられていたことが挙げられる。Mgは、実用金属の中で最も酸化し易いため、Mg濃度が質量%で50%以上の合金めっきができたとしても、耐食性は悪く、実用性に欠けると考えられていた。
【0008】
これらの理由により、Mgを高濃度に含有する溶融Znめっき鋼材は、製造、性能の点において不安があり、今までに存在しなかった。
【0009】
尤も、35mass%以上のMgを含有するZn-Mg合金めっき鋼板を電気めっきで製造する方法が、特許文献3に開示されている。このように、過去にMgを高濃度に含有するZn-Mgめっき鋼材は、いずれも溶融塩や非水溶媒を用いた電気めっき法で作製された非効率的な製造方法であり、未だ効率性に優れた溶融めっき法による作製法は提示されていない。
【0010】
また、Mgの低融点と高蒸気圧を利用して、蒸着めっき法を用いてZn-Mgめっき鋼板を作製する方法が、非特許文献2に示されている。この作製手法においては、Mgを高濃度に含有するめっき鋼板を作製することも可能と考えられるが、Zn→Mg→Znの順に蒸着する必要があり、溶融めっき法と比較すると、非効率的な製造方法である。また、この手法で作製されたZn-Mgめっき鋼板のMg濃度は、11〜13質量%であり、やはり、Mgを高濃度に含有するMg-Zn合金めっき鋼板については検討されておらず、その性能については、何ら開示されていない。
【0011】
これまで見出された溶融めっき鋼材のMgの含有量は、せいぜい質量%で20%止まりであり、この分野の研究の殆どが、この成分範囲に限られていた。Mgを高濃度に含有した溶融めっき鋼材は研究の対象とさえ、されなかったため、その特性も明らかでなかったのである。
【0012】
【特許文献1】特開2002-60978号公報
【特許文献2】特開2005-82834号公報
【特許文献3】特開平8-13186号公報
【非特許文献1】日本金属学会誌 第59巻 第3号 (1995) 284-289
【非特許文献2】日新製鋼技報 No.78 (1998) 18-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、溶融金属系合金めっき鋼材において、Mgを高濃度に含有しながらも、密着性、耐食性を両立する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、溶融Znめっきにおいて、高耐食性を得る手段としてMgの高濃度添加を検討し、Mgを高濃度に含有したMg-Znめっき浴においても、ある特定の組成範囲においては、溶融めっき浴の融点をMgの発火点以下にすることができ、かつ、めっき浴の粘性、ドロス発生量が共に低下するため、溶融めっき鋼材を作製できることを見出した。このMg-Zn合金めっきの物性及び断面構造を調査した結果、低Mg合金めっきにおいてめっき密着性に寄与するZn-Fe合金層等の形成は抑制されていた。一方、Mgを高濃度に含有しても、Znがある程度合金めっき層中に存在していれば、母材より、Feが合金めっき層中に拡散し、密着性を確保できることを見出した。
【0015】
さらに、Mg-Zn合金めっきの密着性は、あらかじめNi、Cu、Sn等の金属皮膜を鋼板にプレめっきすれば、鋼板との密着性をさらに向上させることができることを見出した。
【0016】
また、本発明の一部の組成範囲では、実用的な冷却速度で、アモルファス相を形成させることができ、アモルファス相が体積分率で5%以上になると、合金めっき層の剥がれ、割れの起点となる欠陥、金属間化合物の悪影響を抑制できることも見出した。また、本発明で開示されるめっきの耐食性は、この組成範囲において溶融Znめっきと比較して良好であるが、アモルファス化によって、同じ組成の結晶相のみの合金めっきよりも、さらに高耐食性を持つことを見出した。
【0017】
本発明の一部の組成範囲では、実用的な冷却速度で、高温安定相をそのまま凍結でき、この高温安定相を含有するめっき鋼板は極めて優れた耐食性、犠牲防食能を有する従来には存在しない、高耐食、高犠牲防食能めっきとして利用できることを見出した。
【0018】
アモルファス相、高温安定相等の非平衡相を含有するめっき鋼板の製造の難しさは、溶融めっき後、大きな冷速与えなければならないところにある。本発明者らは、この非平衡相を含有する、溶融Mg-Zn系合金めっきの易製造化を目指し、溶融めっきプロセスと、冷却プロセスの分離を検討した。その結果、めっきした後、自然放冷した溶融Mg-Zn系合金めっき鋼板を再加熱し、急冷却する(以下、再加熱急冷と略す。)一連の熱プロセスの可能性に思い至った。
【0019】
通常、Alや、Znを含有する溶融めっき鋼材を、めっき後、再加熱すると、鋼材から供給されるFeとめっき成分中のAlや、Znが金属間化合物(合金)層を形成(以下、合金化と略す。)してしまう。
【0020】
しかし、本発明の溶融Mg-Zn系めっきにおいては、ある特定の組成範囲において、特定の温度制御で再加熱冷却を行うことにより、FeとAl、FeとZnとの合金化が抑制されることを本発明者らは見出した。すなわち、この特定の組成範囲では、合金化を抑制しつつ、めっき層を再溶融させることが可能なため、これを利用すれば、通常の超急冷冷却設備がないめっきラインで、まず、緩冷却で平衡相溶融Mg-Znめっき鋼材を作製し、オフライン、あるいはオンラインで、この鋼材を再加熱急冷することで非平衡相溶融めっき鋼板を作製することが可能となる。つまり非平衡相を得るのに必要な急冷プロセスを溶融めっき部分から分離させることが可能で、アモルファス相や、高温安定相を含有する、非平衡相溶融Mg-Zn系合金めっきを容易に製造することが可能となるのである。
【0021】
本発明は、こうした知見に基づいてなされたもので、その要旨とするところは以下のとおりである。
【0022】
(1) 15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0023】
(2) 15原子%以上45原子%未満の Zn、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、元素群Aより選択される元素を1種又は2種以上の合計が0.03〜5原子%を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0024】
(3) 15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0025】
(4) 15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、Mgが55原子%超の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、Mgが55原子%以下の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で2〜15%原子以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0026】
(5) 元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、さらに、元素群Aの元素の1種又は2種以上の合計を0.03〜5原子%含有する(3)又は(4)に記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0027】
(6) 15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0028】
(7) 15原子%以上44.97原子%未満の Znを含有し、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAg、元素群B’をCa、Y又はLaとした時、元素群A、B’の和集合となる元素群より1種又は2種以上の元素を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有し、該合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材であって、前記元素群Aの元素を含有する時には元素群Aの元素の合計が0.03〜5原子%、前記元素群B’の元素を含有する時には元素群B’の元素の合計が0.03〜15原子%である(但し、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%未満の場合には、Mgを55原子%超とし、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%以上の場合には、Znを40原子%未満とする。)ことを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【0029】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有され、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角38.7°は除く)総和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角38.7°は除く)が占める割合)で10%以上であることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0030】
(9)20原子%以上の Zn、50原子%以上、75原子%以下のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜12%原子以下含有し(ただし、Ca、Y、Laの合計が1原子%以上の場合には、Alが1原子%以上含有しなければならない。)、溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有されることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0031】
(10) (1)〜(5)のいずれかに記載される溶融Mg-Zn系めっき鋼材を、めっき合金の融点乃至めっき合金の融点+100℃の範囲内に加熱、1分以内保持し、その後、冷却設備にて急冷を行うことによって得られる、非平衡相を含有することを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0032】
(11)前記非平衡相がアモルファス相或いは金属間化合物Zn3Mg7いずれか或いは両方であることを特徴とする(10)記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0033】
(12)前記急冷が水冷又はミスト水冷であることを特徴とする(10)記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【0034】
(13)めっき層と鋼材界面に、Ni、Cu、Sn、Cr、Co又はAgから選ばれる1種又は2種以上のプレめっき層を有することを特徴とする請求項1〜12いずれかに記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【発明の効果】
【0035】
本発明の合金めっき鋼材は、通常の溶融めっきプロセスで製造可能であるため、汎用性、経済性に優れる。Znの濃度を抑えながらも、耐食性に関しては、従来の溶融Zn系めっきよりも優れているため、Zn資源の節約利用につながる。また、合金めっきでありながら、耐食性だけでなく、加工性も良好であるため、自動車、建材、家電分野において広く利用することが可能であり、これら部材の高寿命化、メンテナンス労力の低減等をもって産業の発達に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
発明者らは、MgにZnがある程度含有されることで、鋼板との密着性に優れた合金めっき(以降、説明の中で特に記載がない場合は、合金めっきは結晶相の合金めっきを意味する。) 鋼材が製造できることを見出した。
【0038】
溶融Mg-Zn系合金めっきにおいて、鋼材との密着性を確保するためには、Feを合金めっき層中に拡散させる必要がある。このためにZnを溶融めっき浴中に含有させる。必要なZnの濃度は、原子%(以下、説明の中で特に記載がない場合は、組成表示における%は原子%を意味する。)で15%以上である。15%未満では、めっき浴中でのZnの活量が不十分であり、十分なFeの拡散が起こらず、合金めっきと鋼材の間で十分な密着性が得られない。拡散によって、めっき層中全体で3%程度までFeが含有されることがある。ただし、めっき層、鋼板界面ではFeの拡散濃度が高く、付着するめっき層の厚みが薄い場合も、高くなる。ここで3%というのはめっき厚みが10μm程度のときをいう。めっき層の密着には、わずかなFeの拡散が必要な程度で、10μmのめっき層全体で0.1%もあれば十分である。
【0039】
MgにZnが15%以上45%未満含有されることで、Mgの融点が著しく低下し、520℃以下となる。これはMgが70%、Znが30%の組成が、2元共晶(Mg-MgZn2共晶)組成であることに起因する。この組成の融点は、Mgの発火点である約520℃より低いため、大気中でめっき製造を行っても発火が起きない。このため、めっきの製造条件としても適した組成である。Znが45%以上では、2元共晶組成から大きく離れてしまい、MgZn2の形成が多くなって、融点が上昇し、粘性も大きくなり、また、融点が発火点を超える虞があるため、Znは45%未満でなければならない。
【0040】
本発明における組成範囲の溶融Mg-Zn系合金めっきの耐食性は、溶融Znめっき鋼板よりも優れている。腐食電位は、-1.0V〜-1.5V(0.5%NaCl水溶液中、vs. Ag/AgCl)の範囲であり、鋼材に対する犠牲防食能も有している。
【0041】
溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材に、さらなる耐食性を付与する目的で、Fe、Cr、Cu、Ag、Ni、Ti、Zr、Mo、Si又はNbから選ばれる1種以上(元素群A)の添加は効果がある。これらの元素は、合計で0.03%以上の添加で、電気化学測定における分極曲線の腐食電位付近の腐食電流密度が小さくなり始める。5%を超えると、めっき浴の融点が高くなり、めっき製造が難しくなるため、5%以下であることが好ましい。
【0042】
Al、Ca、Y又はLa(元素群B)から選ばれる1種又は2種以上の元素は、その合計の添加量で10%までは、融点、粘性を下げながら、めっき浴中に添加可能な耐食性に効果のある元素である。これらの元素は合計で、0.03%以上の添加で、電気化学測定における分極曲線の腐食電位付近の腐食電流密度が小さくなり始め、添加量の増加に伴い耐食性は向上するが、その合計添加量が15%を超えるとめっき浴の融点が高くなるため、15%以下であることが好ましい。
【0043】
また、Al、Ca、Y又はLaの添加により、Mg-Zn系合金の融点、粘性が低下するため、Znが45%以上であっても、融点がMgの発火点である520℃以下となり、大気中でめっき製造可能となる組成が存在する。また、Al、Ca、Y又はLaの添加により、Mg-Zn系合金の発火点は、約580℃まで上昇する。
【0044】
図1に、Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が580℃以下となる組成領域を示す。Znが15%以上であって、Mgが35%超であり、Al、Ca、Y又はLaの添加量の合計が0.03〜15%であれば、粘性が低く、融点が580℃以下となる。
【0045】
図1の組成領域をさらに制限することで、融点を520℃以下にすることが可能となる。図2に、Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が520℃以下となる組成領域を示す。Znが15%以上45%未満であって、Mgが35%超であり、Al、Ca、Y又はLaの添加量の合計が0.03〜15%であれば、粘性が低く、融点が520℃以下となる。Znが45%以上であっても、Mgが35%超であり、Al、Ca、Y又はLaの添加量の合計が2〜15%であれば、粘性が低く、融点が520℃以下となる。
【0046】
これら元素群Bの元素の添加範囲が、0.03〜15%となるのは、これらの元素濃度が7.5%となる組成近傍に、これらの元素と、Mg、MgZn2との3元共晶線が存在し、この組成近傍では、液体状態が安定するためと推定している。このため、Znが45%以上であって、2元共晶組成から大きく離れたとしても、元素群Bの元素の添加により、3元共晶線に近づくことができるため、液体状態が安定する。しかし、これら元素群Bの元素は合計で15%を超えて添加すると、3元共晶線から大きく離れてしまって、融点が上昇し、めっき製造が難しくなるため、これらの添加量の上限を15%とすることが好ましい。
【0047】
また、Mgが35%以下になると、もはや共晶線は存在しておらず、元素群Bの添加量を工夫しても、MgZn2、CaZn5等の形成が多くなって、めっき浴の融点が520℃以上となり、めっき製造が難しくなるため、Mgは35%超とする。
【0048】
Mg-Zn系の合金は、15%以上45%未満のZnを含有し、残部がMgである組成範囲において、冷却速度を上げることで、アモルファス相を得ることができる。
【0049】
アモルファス相をめっき層の体積分率で5%以上含有することによって、めっきの耐食性が向上し、同じ組成の結晶相のみの合金めっき鋼材よりも耐食性に優れる。例えば、アモルファス相がめっき層中に存在する方が、腐食電位は、同じ組成の結晶相のみの合金めっきと比較して、貴となる。アモルファス相を5%以上含有することで、同じ組成の結晶相のみの合金めっき鋼材よりも腐食電位が0.01V以上上昇する。また、腐食電位における腐食電流密度も小さくなる。実環境の耐食性は、複合サイクル腐食試験によって評価でき、アモルファス相を5体積%以上含むめっき鋼板は、同じ組成の結晶相のみの合金めっきよりも腐食減量が少ない。
【0050】
アモルファス相をめっき層の体積分率で5%未満含有する場合は、同じ組成の結晶相の合金めっき(めっき後、窒素ガスで冷却しためっき鋼板)と比較しても、同等レベルの耐食性である。腐食電位の上昇値も0.01V未満であり、腐食電流密度においてもほぼ同等で、はっきりとした特性変化はない。複合サイクル腐食試験による耐食性評価でも同等レベルであった。
【0051】
アモルファス相が混在することで耐食性が向上する理由は、詳しくは判明していないが、元素の偏析した結晶粒界や金属間化合物が存在しない均質構造であること、母相に耐食性元素を液体固溶限まで溶かすことができること、アモルファス状態が非平衡状態であるため表面が活性化し、緻密な酸化皮膜が急速に形成すること等が考えられる。
【0052】
さらに、アモルファス相のめっきを作製する際には、Ca、Y、又はLa(元素群B’)の添加は、アモルファス形成能を高めるため、好ましい。アモルファス形成能を高める成分を添加することで、さらに容易にアモルファス溶融めっきの製造が可能となる。
【0053】
Alの添加は、耐食性向上には効果があるが、アモルファス形成能を高めることはできない。これは、AlのZnとの液体生成エンタルピーが正であり、Znとの液体生成エンタルピーが負であるCa、Y、又はLaとは異なることが原因と考えられる。
【0054】
アモルファス相が得られる組成は限定されている。図3に、アモルファス相が得られる組成領域を示す。アモルファス相が得られる組成が限定されるのは、融点とガラス遷移温度の差に関係がある。成分の変化によって、ガラス遷移温度はそれほど変化しないため、アモルファス相を得る場合は、通常、融点が低い方が、アモルファス相は得られ易い。したがって、アモルファス形成能は共晶組成と密接に関係する。共晶組成は、融点が低いため、ガラス遷移温度まで最も液体状態を保持し易い組成である。Mg、Zn、と元素群B’から選ばれる元素からなる系においては、Mg-MgZn2共晶線と3元共晶線が交差する点が最も融点が低く、この組成近傍でアモルファス形成能が非常に高い。
【0055】
元素群B’の合計で5%未満含有する合金めっき層では、Mgが55%以下になると、共晶組成から離れて、融点が高くなり、アモルファス形成能が小さくなる。水冷を用いためっきプロセスでは、もはや、めっき層中にアモルファス相を形成することは難しくなるため、Mgは55%超とする。同様に、元素群B’が合計で5%以上含有する合金めっき層では、Znが40%以上になると、共晶組成から離れて、融点が高くなり、アモルファス形成能が小さくなる。水冷を用いためっきプロセスでは、もはや、めっき層中にアモルファス相を形成することは難しくなるため、Znは40%未満とする。
【0056】
この組成範囲では、融点が450℃以下と特に低くなり、アモルファス相を得るのに都合がよい組成であると考えられる。
【0057】
また、元素群Aを含有する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼板であっても、アモルファス相を含有させることにより、耐食性がさらに向上する。このため、耐食性元素の添加と、アモルファス相の形成による耐食性効果を利用して、極めて耐食性に優れる溶融Mg-Zn系合金めっき鋼板を作製することも可能である。
【0058】
本発明で開示される合金めっき及びアモルファス溶融めっきは、加工性、密着性に優れる。Mg-Zn系合金は、非常に結晶化、粒成長が遅い。このため、合金めっきでは、僅かに冷却速度を上げることで容易に結晶粒が微細化し、塑性変形能の乏しい金属間化合物による加工性、密着性への悪影響が減少させることが可能である。液体状態の原子構造を持つアモルファス相を得れば、金属間化合物が消滅し、加工性、密着性をさらに向上させることも可能である。
【0059】
溶融Mg-Zn系合金めっきにおいて、アモルファス相の形成以外においても、Zn3Mg7という金属間化合物相をめっき層中に存在させることで飛躍的に耐食性を向上させることが可能である。Zn3Mg7(Zn3Mg7は、論文によってはMg51Zn20と表記されることもあるが、本明細書中では、両金属間化合物を同質物質として扱い、全てZn3Mg7として表記する。)は、図4に示されるように、高温安定相である。このため、通常の溶融めっきプロセスのように、緩冷却をすると溶融状態にあったMg、ZnはMg相とMgZnもしくは、Mg4Zn7等に分離して常温においては、Zn3Mg7を残存させることができない。しかし、アモルファス相を形成させるのと同じように、溶融めっき直後に急冷(例えば、水冷やミスト冷却)をすることで、Zn3Mg7を残存させることが可能である。Zn3Mg7は、アモルファス形成能が小さい組成、すなわち、Mg-Zn二元系や、Mg-Zn-Al系においても形成させることが可能である。Mg-Zn-Al-Ca系において、Ca濃度が高い組成においては、溶融めっき後、水冷することにより、アモルファス相とZn3Mg7が混合することがある。図5に、溶融めっき後、水冷することにより、Zn3Mg7が得られる組成範囲を示す。図5の組成範囲は、めっき鋼板表面のX線回折より、XRDピークとして、Zn3Mg7が容易に検出される範囲を示した。すなわち、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角38.7°は除く)総和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角38.7°は除く)が占める割合)で10%以上であることを意味する。回折角34.8°はMgとZn3Mg7の回折ピークが非常に近接するため、除外するのが好ましい。Zn3Mg7の回折ピークは、回折データチャート(JCPDSカード番号:08-0269)を参照する。
【0060】
Zn3Mg7を形成するためには、Znが20%以上、Mgが50%以上75%以下、元素群BをAl、Ca、Y又はLaより選ばれる元素が0.03〜12%の範囲で添加される必要がある。Caもしくは、Y、La濃度が高く、アモルファス形成能が高い組成範囲では、アモルファス相の形成が起き、Zn3Mg7が得られない場合があるため、Ca、Y、Laの濃度が合計で1%を超える範囲では、Alを1%以上添加し、アモルファス形成能を上げすぎないように注意する必要がある。
【0061】
より好ましくは、Al濃度が、Ca濃度よりも多く含有されると、アモルファス相よりも、Zn3Mg7の方が形成しやすい。Alはアモルファス相よりも、Zn3Mg7の形成を促進する元素であるためである。Ca、Y、Laの濃度が合計で1%以下の場合は、少量のアモルファス相とZn3Mg7の形成が同時に起こる。
【0062】
Zn3Mg7がめっき層中に含まれると、めっき層の腐食電位が0.5%NaCl水溶液中で-1.2V(vs. Ag/AgCl)程度となる。この値は、Zn3Mg7を含まない同成分のめっき層(めっき後、空冷で作製する。)の腐食電位、-1.5〜-1.4Vと比較すると高い値となる。めっき層中の、Zn3Mg7の形成量が多くなるほど、-1.2Vに近づき、分極曲線の腐食電位付近の腐食電流密度が小さくなり始める。
【0063】
X線回折でZn3Mg7が検出されるめっき鋼板の中でも、めっき層中にAl、Caが添加されている方が、腐食電流密度が小さくなる。Al濃度が0〜6%程度の間では、濃度が増すごとに、腐食電流密度が小さくなる。Ca濃度は、0.3〜5%の添加で腐食電流密度が小さくなる。アモルファス相よりも、優先的にZn3Mg7を析出させたい場合は、Al濃度がCa濃度よりも多く添加された方が好ましい。
【0064】
Zn3Mg7は耐食性に極めて優れるが、加工性においては、割れが発生しやすい。一方、アモルファス相は、Zn3Mg7ほどの耐食性は有しないが、均質であるため、加工性に優れる、表面平滑性に優れるなどの長所が多い。アモルファスめっき鋼板に耐食性を特に付与したい場合は、Zn3Mg7との混合のめっき鋼板を作製すればよい。
【0065】
Zn3Mg7を含有するめっき鋼板は、55%Al-Znめっき、Al-10%Siめっき等よりも、鋼板に対して優れた犠牲防食能を有している。
【0066】
犠牲防食能を測定するには、溶融めっき鋼板を曲げ、加工部の耐食性を塩水噴霧試験や複合サイクル腐食試験に供すればよい。合金めっき鋼板であれば、加工部のめっき層は割れるため、鋼板の一部が剥き出し状態となる。犠牲防食能が低い55%Al-Znめっき鋼板、Al-10%Siめっき鋼板などは、試験開始直後、加工部には直ぐに赤錆が発生するが、Mg-Znめっき鋼板においては、加工部の鋼板剥き出し部は、Mg系酸化物で直ぐに覆われ、赤錆発生時間が遅れる。
【0067】
Mg-Znアモルファスめっき鋼材、Mg-Znアモルファス含有めっき鋼材、Zn3Mg7含有めっき鋼材は、いずれも非平衡相を持つ溶融めっき鋼材であるため、製造には、少なくとも水冷、又は、高圧ミスト冷却等の冷却効果の比較的大きい冷却法を行うことが不可欠である。とりわけ、耐食性に優れる非平衡相の相量を大きくするためには、大きな冷却速度が必要である。
【0068】
ここで、実際に非平衡相Mg-Zn系溶融めっき鋼材を製造するには、少なくとも2つの課題がある。1つは、冷却効果の大きい冷却設備をめっきプロセスに導入する場合、高温溶融めっき金属を扱う溶融めっき直後に、冷却能の高い冷却設備を設置することが、コスト高に繋がる点である。
【0069】
本発明者らは、平衡相溶融Mg-Znめっきを出発点として、めっき層中に含まれる非平衡相の相量向上を目的とする、再加熱し、急冷却する(以下、再加熱急冷と略。)一連の熱プロセスの検討を行い、Mg、Zn、Caが、ある特定組成範囲にあり、特定条件での再加熱冷却したとき、めっき層中のZnと、鋼材から供給されるFeの合金化が抑制されることを見出した。
【0070】
通常Znを含有するめっき層を、400℃以上に保持すると、めっき層中のZnと、鋼材から供給されるFeが反応して、Γ相、δ相などの金属間化合物相を形成する(合金化)。自動車分野で広く使用される合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)は、この性質を積極的に利用して、溶接性、塗装後耐食性を向上させたZn-Feめっき鋼板である。
【0071】
しかしながら、Mg、CaはFeとの反応性に乏しく、FeとZnの活性を低下させる元素であるため、めっき金属中に一定の濃度以上に、これらの元素が含有されると、溶融めっき中や、めっき後再溶融しても、ZnがFeと金属間化合物を形成しにくくなる。
【0072】
この合金化を抑制できる組成範囲は図1の範囲内にあればよい。すなわち、Znを15原子%以上、Mgが35%以上、Caが15%以下含有するMg-Zn系溶融めっき層であれば、合金化を抑制できる。
【0073】
尤も、図1の範囲内ではあるが、図3、図5の範囲外で非平衡相がほとんど得られない領域であっても、DSCにより、非平衡相起因の発熱ピーク量が上昇していることを確認することで、非平衡相量がわずかながら上昇していることも確認できる。
【0074】
合金化を抑制できるというのは、めっきされた鋼材を融点付近の温度(図1の組成範囲中の融点は580℃以下)、すなわち、融点から融点+100℃以内に加熱して、短時間(1分程度)保持した場合の事であり、長時間融点付近の温度で保持した場合、もしくは、融点よりも著しく高温にした場合は、図1中の組成範囲であってもZnとFeの合金化は起こりうる。めっき層を厚くした場合にも、界面付近に若干のFe-Zn金属間化合物が形成することもあるが、これらが昇温中に成長し、合金化が進展することはまずない。めっきの密着性確保で必要なFeは、0.1%程度の微量であり、また、めっき層全体で含有されうる濃度はおおよそ3%程度であるが、これらのFeが合金化につながることは、ほとんどない。
【0075】
合金化が著しく進展するのは、めっき層中に10%程度のFeが含有される場合であり、融点から融点+100℃以内に加熱して、短時間(1分程度)保持する適切な熱処理では、Mg中でのFeの活量が低下して、おこらない。
【0076】
合金化の確認は、X線回折、走査型電子顕微鏡、及びエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)等を使用して、めっき層断面の金属間化合物を検出する。通常、Zn-Fe合金層は界面から成長するため、光学顕微鏡でめっき層-鋼板界面を観察すれば、合金層の存在は容易に確認できる。
【0077】
合金化抑制を確認するためには、再加熱前後で、めっき層中の成分を調べることも有効である。通常、めっき層に含まれるFeが0.5%未満であれば、Zn-Fe金属間化合物が観察されることはほとんどない。0.5%以上となると、界面付近に若干のFe-Zn金属間化合物が形成することもあるが、適切な温度で再加熱が行われれば、これらが昇温中に成長し、合金化が進展することはまずない。めっき層成分は、インヒビターを添加した10%塩酸等でめっき層溶解液を50ml程度作製して、めっき層のみを酸洗し、この溶解液を、ICP発光分光分析装置で測定すればよい。
【0078】
再加熱急冷の利点は、急冷プロセスの独立の他に、非平衡相の相量を大きくすることにある。非平衡相を含有するMg-Zn系溶融めっき鋼材を作製する場合、めっき後、ガスワイピングをし、目的とするめっき厚にした後、急冷する必要がある。めっき後の、ガスワイピング時のめっき層の温度低下幅が大きいと、本来の急冷却過程前に、めっき層が結晶化して急冷後もアモルファス相などの非平衡相の形成が起こらず、平衡条件で作製しためっき鋼材と同じめっき層になってしまう。アモルファス相や、その他の非平衡相を得るためには、融点直上の温度より、十分に大きい冷却速度をめっき層に与えることが重要である。
【0079】
めっき浴温度は鋼材との密着性向上、浴を安定的に保持するなどの目的で、融点よりも10〜100℃高い温度に設定されることが多い。しかしながら上記目的で、浴温度をさらに高温にすることは、コスト面で好ましくなく、また、ドロスの発生量の増大、Mgの発火というMg-Znめっき特有の問題点もある。さらに、浴温が高くなると、鋼材温度が上がり、冷却の際の冷速が低下する。特に水冷を用いる場合は、鋼材の熱容量によって、水蒸気の発生が多くなり、さらに冷速が低下して、非平衡相の相量が小さくなる。
【0080】
しかし、本願発明のMg-Znめっき鋼材は非平衡相が相量の小さくても再加熱で、融点直上で一度、めっき層を再溶融して、結晶相、平衡相を消滅させ、急冷でアモルファス相やその他の非平衡相を形成させ、非平衡相の相量を上昇させることができる。つまり、本発明の組成範囲のめっきであれば、ZnとFeの合金化を抑制できるため、めっきを合金化せずに再加熱急冷が可能である。再加熱急冷は、融点直上温度から急冷するため、ガラス遷移温度まで、短時間で冷却しなければならないアモルファス溶融めっき鋼材を得るのに好適な冷却パターンでもある。
【0081】
尚、再加熱時の条件は、Zn-Feの合金化進展を左右する。再加熱温度が高すぎる場合、あるいは融点直上の温度でも保持時間が長い場合は、本発明の成分範囲のめっき成分でも、合金化することがある。再加熱条件を本発明者らが検討した結果、融点より10〜100℃高い温度が保持温度として適しており、保持時間は1分以内であることが好ましいことが判明した。また、合金化を抑制するために、より好ましくは、500℃以下に保持されることが好ましい。この条件に該当しない場合は、すなわち、過昇温はFeの拡散を不必要に活発にし、合金化が起こりやすくなる。再加熱時の昇温速度には、特に制限はないが、めっき層全体の温度を一定にするため、急速昇温によるオーバーヒートを防止するため、昇温速度が小さいほうが好ましい。
【0082】
溶融Mg-Zn系合金めっきは、MgとFeの反応性の乏しさから、鋼板との密着性の確保が難しい。特に、Mg濃度が高い場合は、不めっきが発生しやすくなり、鋼板との密着性の確保も、より難しくなるが、プレめっき法を使用することで、不めっきを抑制し、密着性の確保も容易にできる。
【0083】
ただし、プレめっき層はめっき合金との濡れ性を有している必要がある。めっきの鋼板との密着性を確保し、また、本発明のめっき合金との濡れ性を、様々な合金元素について検討した結果、Cr、Co、Ni、Cu、Ag、Snが適切で、これらの中から2種以上を組み合わせた合金でもよい。
【0084】
これらのプレめっき層は電気めっき、もしくは無電解めっきで形成するのが好ましい。厚みとしては0.1〜1μm(付着量1〜10g/m2程度)範囲であればよい。通常のMg-Zn系溶融めっき条件(浴温350〜600℃)でめっきした後、プレめっき層が残存することもある。厚みが薄すぎると、不めっき抑制、密着性確保の効果が期待できない。めっき後、プレめっき層を構成する元素がめっき中に拡散し、めっき成分で1%程度まで含有されることがある。これらプレめっき層から拡散した元素は微量で、めっき層中で置換型固溶体を形成する。
【0085】
不めっきの確認は、目視によって判断するのが、容易である。めっき鋼板の中心から一定の範囲に存在する、目視で確認できる不めっきの数で、単位面積あたりの個数で判断を行う。なお、鋼板の不めっきの数は、めっき浴への鋼板を浸漬する速度によって変化するため、プレめっきの効果を確かめたい場合は、めっき浴への鋼板の浸漬速度を一定にすることが好ましい。
【0086】
本発明鋼材の基材としての鋼材の材質には、特に限定はなく、Alキルド鋼、極低炭素鋼、高炭素鋼、各種高張力鋼、Ni、Cr含有鋼等が使用可能である。製鋼方法や、鋼の強度、熱間圧延方法、酸洗方法、冷延方法等の鋼材の前処理加工についても特に制限がない。
【0087】
めっきの製造方法に関しては、ゼンジミア法、プレめっき法、2段めっき法、フラックス法等が適用可能である。本発明のMg-Zn系めっきをする前のプレめっきの種類としては、Niめっき、Sn-Znめっき等が使用可能である。
【0088】
本発明のMg-Zn系めっき鋼材は真空又は不活性ガス雰囲気で製造した方が好ましい。本発明のMg-Zn系めっきをする前のプレめっきや2段めっき法における1段目のめっきの種類としては、Niめっき、ZnめっきやSn-Znめっき等が使用可能である。
【0089】
めっき浴に使用する合金は、予め不活性ガス雰囲気等で置換されたるつぼ内で所定比に混合されたMgとZnを溶解すれば、Mgの発火点を気にすることなく製造することが可能である。
【0090】
市販の難燃性Mgを利用する方法もある。この場合は所定量の難燃性MgとZnを混合して、600℃近傍で溶融すればよい。ただし、難燃性MgにAlやCaが添加されている場合があるので、この場合はめっき浴にAl、Caが含まれることになる。
【0091】
めっき浴にMgが高濃度に含有されることで、Zn-Fe合金層の形成が抑制される。このため、Zn-Fe合金層の形成を抑制する目的で、Alをめっき浴に添加する必要はない。塑性変形能の乏しい合金層の形成は、パウダリング、フレーキング等、めっき後の加工の剥離原因ともなるため、Mgを高濃度に含有する本発明はこの点で有利である。
【0092】
Fe、Cr、Cu、Ag、Ni、Ti、Zr、Mo、Si又はNbの添加においては、合計で0.1%前後までの少量添加であれば、金属粉末をめっき浴に添加し、不活性雰囲気で600℃前後に長時間保持することで、めっき浴中に含有させることができる。高濃度に添加するときは、雰囲気炉等で添加金属とZn又はMgの合金を作製しておき、これを添加する方法がある。この添加合金作製においても、Znは沸点が低いため、溶解においては900℃以下で行われるのが好ましい。
【0093】
Al、Ca、Y又はLaの添加においては、合計で5%前後までの添加であれば、金属粉末をめっき浴に添加し、不活性雰囲気で600℃前後に長時間保持することで、めっき浴中に含有させることができるが、これより多くの添加になる場合は、雰囲気炉等で添加金属とZn又はMgの合金を作製し、添加する方法が好ましい。
【0094】
Mg-Zn系合金めっきにおいて、Ca、Y、La等が添加されたアモルファス形成能を高めた成分系であれば、例えば、溶融めっき後、めっき表層で約10〜1000℃/秒程度の冷却速度が得られる、至近距離からのミスト冷却等で冷却することにより、容易に単一相のアモルファス相を得ることが可能である。Ca、Y、Laの添加されていない、その他のMg-Zn系でアモルファス形成能が小さい成分系においては、水冷、又は、溶融めっき直後に水没することにより、めっき表層で約1000〜5000℃/秒の冷却速度が得られ、微細結晶とアモルファス相との混合相からなるアモルファス溶融めっき鋼板の作製が可能となる。また、さらに冷却速度を高めるためには、基材や、付着させるめっきを薄くする、冷媒として氷点下のアルコール系冷媒を使用する等の方法もある。
【0095】
アモルファス相の体積分率は、めっき組成のアモルファス形成能に依存する。本発明のめっき組成であれば、めっき層の温度を融点とほぼ同一にして0℃の水に水没することで、アモルファス相が5%以上含まれるめっき層が作製できる。Ca、Y、La等が添加されていないアモルファス形成能が小さい系において、アモルファス相を得るためには、めっき目付け量を十分に小さくし(例えば、めっき厚みで6μm以下とする。)、水没直前のめっき層の温度を融点とほぼ同一にして、0℃の水に水没し、めっき層の冷却速度を十分に大きくすることでアモルファス相が5%以上含まれるめっき層が作製できる。逆に、Ca、Y、La等が添加された系等は、アモルファス形成能が高いため、水没直前の温度が、融点より若干高い温度であっても、常温の水に水没するだけで、単一のアモルファス相からなるめっき層を得ることができる。意図的にアモルファス相の体積分率を小さくしたい場合は、ミスト冷却の使用や、水没直前の温度を上昇させることによって、アモルファス相の体積分率を小さくすることが可能である。
【0096】
アモルファス相の形成の確認は、めっき層のX線回折像でハローパターンが得られることで確認できる。単一のアモルファス相であれば、ハローパターンのみ(場合によって、鋼材のFe回折ピークが検出される場合もある)得られる。アモルファス相と結晶相が混在する場合で、アモルファス体積分率が低い場合は、示差熱分析装置を使用して、昇温中、アモルファス相から結晶化する際の発熱ピークを検出することによって、アモルファス相がめっき層に存在することを確認できる。
【0097】
アモルファス体積分率を求めるためには、めっき鋼材の断面を切断し、研磨、エッチングして、表面のめっき層を光学顕微鏡(以下、光顕)で観察する。アモルファスになった部分は、エッチングによっても何の組織も観察されないが、結晶相の残った部分は、結晶粒界や、亜粒界、析出物等に起因する組織が観察される。これにより、アモルファス部分と結晶部分の領域は、明確に区別されるので、線分法や画像解析により体積率に換算することが可能である。組織が微細過ぎて光顕での測定が困難な場合は、めっき層断面より薄片を作製し、透過電子顕微鏡により観察することで、同様に測定が行える。透過電子顕微鏡の場合は、組織の観察されない領域において、電子線回折像のハローパターンにより、アモルファス構造を確認することも可能である。光顕観察において、全面に組織の観察されない場合や、一部に組織の観察されない部分があっても、粗大で歪みの無い結晶粒である疑いのある場合は、さらに電子顕微鏡用薄片を採取して、電子線回折像に回折スポットが無く、ハローパターンが観察されることにより、アモルファス相であることを確認することが望ましい。光顕も電子顕微鏡も、10か所以上の異なる視野についてコンピューターによる画像処理で面積率を求め、それらを平均して体積率とするのが望ましい。
【0098】
めっき層中のZn3Mg7の検出には一般的なX線回折法が有効である。例えば、CuのKα線を使用したX線回折装置により、回折図形を測定し、Zn3Mg7回折ピークの有無により判定する場合、X線回折像によるZn3Mg7の同定は、2θ=10〜30°の回折ピークを用いるのが好ましい。30°以上では、Mg回折ピークの最強線と重なるためである。また、Zn3Mg7の相量が少ない場合にはTEM-EDXによる判別も有効で、特定の結晶相から得られた特性X線スペクトルよりZn3Mg7を同定すればよい。
【実施例1】
【0099】
表1〜6に示す、めっき組成の浴に、板厚0.8mmの冷延鋼板、肉厚10mmで辺の長さが10cmの等辺山形鋼及び板厚10mmの熱延鋼板を基材として、表面処理鋼材を作製した。
【0100】
Mg、Zn及びその他必要な成分元素を所定の組成に調整した後、高周波誘導炉を使用してAr雰囲気で溶解し、Mg-Zn系合金を得た。作製した合金より、切粉を採取して酸溶解した溶液をICP(誘導結合プラズマ発光)分光分析により定量し、作製した合金が、表1〜6に示す組成に、一致することを確認した。この合金をめっき浴として使用した。
【0101】
冷延鋼板(板厚0.8mm)は、10cm×10cmに切断した後に、レスカ社のバッチ式の溶融めっき試験装置でめっきした。めっき浴の浴温は500℃とした。エアワイピングで目付け量を調節し、その後、窒素ガスで常温まで冷却した。アモルファス相を体積分率で5%以上含有するアモルファス溶融めっき鋼板の作製に関しては、溶融めっき後、0℃の水に水没した。アモルファス相を体積分率で5%未満含有するアモルファス溶融めっき鋼板の作成に関しては、至近距離からの高圧ミストをめっき鋼板に吹きかけた。
【0102】
等辺山形鋼は、長手方向に10cm、熱延鋼板は10cm×10cmの正方形に切断し、まず、るつぼ炉を用いて、フラックス法を使用したZn浴で、目付け量が約100g/m2になるように、どぶ漬けめっきを施した後、本発明組成のZn-Mg合金浴に浸漬して、必要に応じて、0℃の水に水没冷却を実施した。
【0103】
めっき密着性は、冷延鋼板に関しては、めっき試験片のめっき層を外側にして180°曲げて8T折り曲げ試験を実施後、曲げ部のめっき層を粘着テープで剥離し、曲げ部断面を埋め込んで、光学顕微鏡により、曲げ部断面外周部におけるめっき層の付着率を求めた。試験後のめっき層の残存率が50〜100%のものを「○」のものを「×」、めっき層が付着しなかったものは「−」とした。
【0104】
熱延鋼板、等辺山形鋼については、断面を埋め込んで光学顕微鏡により断面外周部におけるめっき層の付着率を求めた。めっき層の付着率が50〜100%のものを「○」、50%未満のものを「×」、めっき層が付着しなかったものは「−」とした。
【0105】
めっき層表層のアモルファス形成は、CuのKα線を使用したX線回折装置により、回折図形を測定し、ハローパターンの有無により判定した。
【0106】
アモルファス相と結晶相が混在する場合で、アモルファス体積分率が低い場合は、示差熱分析装置を使用して、昇温中、アモルファス相から結晶化する際の発熱ピークを検出することによって、アモルファス相の有無を確認した。
【0107】
アモルファス相を有すると判定されためっき鋼板に関しては、アモルファス相の体積分率を定量的に求めるために、めっき鋼材の断面を切断し、研磨、エッチングして、表面のめっき層を光顕(×1000倍)で観察し、10か所以上の異なる視野についてコンピューターによる画像処理でアモルファス相の面積率を求め、それらを平均して体積率とした。
【0108】
めっき鋼板の耐食性は、自動車規格(JASO M 609-91、8時間/サイクル、濡れ/乾燥時間比 50%)に準拠した方法を21サイクル実施して評価した。但し、塩水には0.5%塩水を使用した。試験後の腐食減量と密度から換算した腐食減厚で耐食性を評価した。腐食減厚が0.5μm未満を「◎」、0.5〜1μmを「○」、1〜2μmを「◇」、2〜3μmを「△」3μm以上を「×」とした。表1〜6中で、めっき密着性評価が「×」のものについては、耐食性評価を行わなかったので、「-」で示した。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
表1〜6に示すように、本発明の溶融Mg-Zn系めっき鋼材は、めっき密着性においては十分な性能を保持している。本発明鋼の耐食性は、いずれも溶融Znめっき鋼板(No.6-1)よりも優れている。Si、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo、Ag、Al、Ca、Y、Laを含有しためっき鋼材は、さらに耐食性に優れ、その中でも、これらの元素を含有し、アモルファス相を有するめっき鋼材は、特に耐食性に優れる。
【0116】
表7、8に、アモルファス溶融めっき鋼板と結晶相のみのめっき鋼板とを比較した、耐食性評価結果を示す。表7、8から明らかのように、同成分の場合、アモルファス相を有するめっき鋼板の方が耐食性の点で優れている。
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【0119】
図6に、作製しためっき鋼板No.2-7(目付け量20g/m2)の断面写真を示した。図6から判別できるように、鋼板とめっき層の界面に亀裂、剥離が観察される場所は存在しない。鋼板とめっき層は良好な密着性が得られており、Mgが高濃度に含有されていても、鋼板にめっきすることが可能である。
【0120】
図7に、水没冷却しためっき鋼板No.4-5(目付け量20g/m2)の断面写真を示した。図8に、このめっき層のX線回折像を示す。X線回折像にハローパターンが検出されていることより、図7中のめっき層はアモルファス相であることが分かる。図9に、界面付近のFE-TEM像(明視野像)を示す。図10に、図9のFE-TEM像中の十字点のEDXによる元素分析結果を示す。Feがめっき層内部に拡散していることが分かる。図11に、図9のFE-TEM像中の十字点の電子線回折像を示す。ハローパターンが検出されており、図9で観察されるめっき層が界面近傍でもアモルファス相であり、このめっき層が単一のアモルファス相であることが確認できる。
【実施例2】
【0121】
表9に示す、めっき組成の浴に、板厚0.8mmの冷延鋼板を基材として、表面処理鋼材を作製した。基材のプレめっきの前処理として、アルカリ脱脂と酸洗を行った。
【0122】
Niプレめっき層の作製には、硫酸ニッケルを125g/l、クエン酸アンモニウム135g/l、次亜リン酸ナトリウム110g/l、水酸化ナトリウムによりpH10とした30℃の水溶液で浸漬した。
【0123】
Coプレめっき層の作製には、硫酸コバルトを15g/l、次亜リン酸ナトリウムを21g/l、クエン酸ナトリウムを60g/l、硫酸アンモニウムを65g/l、アンモニウム水によりpH10とした、90℃の水溶液で浸漬した。
【0124】
Cuプレめっき層の作製には、硫酸銅を2g/l、硫酸を30g/l、25℃の水溶液で浸漬した。
【0125】
Cu-Snプレめっき層の作製には塩化銅を3.2g/l、塩化すずを5.0g/l、塩酸を8g/l、25℃の水溶液で浸漬した。
【0126】
Agプレめっき層の作製には、シアン化銀を2g/l、シアン化カリウムを80g/l、温度30℃、電流密度2A/dm2で電気めっきを行った。
【0127】
Crプレめっき層の作製には、無水クロム酸を250g/l、硫酸を2.5g/l、温度50℃、電流密度20A/dm2で電気めっきを行った。
【0128】
これらのめっき浴を用い、浸漬時間を調整し、付着量を1〜5g/m2とした。プレめっきの付着量は、硝酸等で溶解した液をICP(誘導結合プラズマ発光)分光分析により定量分析し、溶解元素量より付着量に換算した。
【0129】
Mg、Zn及びその他必要な成分元素を所定の組成に調整した後、高周波誘導炉を使用してAr雰囲気で溶解し、Mg-Zn系合金を得た。作製した合金より、切粉を採取して酸溶解した溶液をICP(誘導結合プラズマ発光)分光分析により定量し、作製した合金が、表9に示す組成に、一致することを確認した。この合金をめっき浴として使用した。
【0130】
冷延鋼板(板厚0.8mm)は、10cm×20cmに切断した後に、レスカ社のバッチ式の溶融めっき試験装置でめっきした。冷延鋼板は、プレめっき法を行ったものと、原板ままのものを使用し、いずれも水素還元法による、溶融めっきを行った。
【0131】
めっき浴の浴温は400〜600℃とした。エアワイピングで目付け量を調節した。
【0132】
めっき浴への鋼板浸漬速度を500mm/secとし、3秒間浸漬して、エアワイピングで目付け量を調整した直後、水冷、空冷、もしくは後述する手法で再加熱水冷を行った。
【0133】
浸漬後めっき鋼板の中心部(5cm×10cm)の不めっき(目視で確認できる1mm以上の不めっき)の数を数え、50平方センチメートル辺りの不めっき数に換算した。各サンプル、n数を10として、平均値を求めた。不めっきの数、1個以下を「◎」、1〜3個を「○」、5〜10個以上を「△」、10個以上を「×」とした。
【0134】
作製しためっき鋼板の中心部(20mm×20mm)の表面形成相の回折図形を、CuのKα線を使用したX線回折装置により測定した。
【0135】
X線回折により表面の形成相を同定し、ハローパターンが検出されたものを「○」、得られなかったもの、もしくは、結晶相混在で判別が難しいものを「△」とした。また、高温安定相Zn3Mg7の回折ピークが検出されたものを「●」とした。ピークが検出されたとは、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角34.8°は除く)和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角34.8°は除く)が占める割合が10%以上である。また、ハローパターン、「○」Zn3Mg7の回折ピークの両方が観察されたものを「○●」とした。図12は、表9中、No.16のX線回折像を表し、ハローパターンと、Zn3Mg7が両方観察された例である。
【0136】
再加熱水冷は、めっき後、エアワイピングで目付け量を調整した後、常温まで放冷する。常温放置後、溶融めっき浴温度まで再加熱昇温し、この温度で10秒間保持し、その後、水冷を行った。
【0137】
めっき鋼板の耐食性は、自動車規格(JASO M 609-91、8時間/サイクル、濡れ/乾燥時間比 50%)に準拠した方法を21サイクル実施して評価した。但し、塩水には0.5%塩水を使用した。試験後の腐食減量と密度から換算した腐食減厚で耐食性を評価した。腐食減厚が0.5μm未満を「◎」、0.5〜1μmを「○」、1〜2μmを「◇」、2〜3μmを「△」3μm以上を「×」とした。
【0138】
図13は、表9中、No.3のMg-27%Zn-1%Ca-6%AlのX線回折像を示している。X線回折像からは、Zn3Mg7の回折線のみ得られていた。Ca、Alは置換型固溶体を形成して、存在していると推定している。
【0139】
図14は、表9中、No.3、No.6〜No.8のめっき鋼板表面形成相のX線回折像を示したものである。図から、No.3では、めっき層が、Zn3Mg7単相であったが、Al濃度が高くなるにつれて、Zn3Mg7の相量が少なくなり、No.8では、Zn3Mg7がほとんどなくなった。
【0140】
【表9】
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が580℃以下となる組成領域。
【図2】Al、Ca、Y又はLaの添加により、融点が520℃以下となる組成領域。
【図3】アモルファス相が得られる組成。
【図4】Mg-Zn2元系状態図。
【図5】Zn3Mg7が得られる組成領域。
【図6】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(結晶相)の断面写真。
【図7】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)の断面写真。
【図8】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)のX線回折像。
【図9】Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)の界面付近のFE-TEM像(明視野像) 。
【図10】図9のFE-TEM像中の十字点のEDXによる元素分析結果。
【図11】図9のFE-TEM像中の十字点の電子線回折像。
【図12】実施例、表9中 No.16、Mg-25%Zn-5%Ca-4%Alめっき層(アモルファス相、Zn3Mg7)のX線回折像。
【図13】実施例、表9中 No.3、Mg-27%Zn-1%Ca-6%Alめっき層(Zn3Mg7)のX線回折像。
【図14】実施例、表9中 No.3、Mg-27%Zn-1%Ca-6%Alめっき層のX線回折像、No.6、Mg-27%Zn-1%Ca-8%Alめっき層のX線回折像、No.7、Mg-27%Zn-1%Ca-10%Alめっき層のX線回折像、No.8、Mg-27%Zn-1%Ca-13%Alめっき層のX線回折像。
【符号の説明】
【0142】
1 2元共晶(Mg-MgZn2共晶)線
2 3元共晶線
3 共晶線交差点
4 Mg-25%Zn-5%Caめっき層(結晶相)
5 鋼板
6 Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)
7 鋼板
8 Mg-25%Zn-5%Caめっき層(アモルファス相)
9 鋼板
10 Mg-27%Zn-1%Ca-6%Alめっき層のX線回折像
11 Mg-27%Zn-1%Ca-8%Alめっき層のX線回折像
12 Mg-27%Zn-1%Ca-10%Alめっき層のX線回折像
13 Mg-27%Zn-1%Ca-13%Alめっき層のX線回折像
【特許請求の範囲】
【請求項1】
15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項2】
15原子%以上45原子%未満の Zn、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、元素群Aより選択される元素を1種又は2種以上の合計が0.03〜5原子%を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項3】
15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項4】
15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、Mgが55原子%超の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、Mgが55原子%以下の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で2〜15%原子以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項5】
元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、さらに、元素群Aの元素の1種又は2種以上の合計を0.03〜5原子%含有する請求項3又は4に記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項6】
15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する請求項1〜5のいずれかに記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項7】
15原子%以上44.97原子%未満の Znを含有し、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAg、元素群B’をCa、Y又はLaとした時、元素群A、B’の和集合となる元素群より1種又は2種以上の元素を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有し、該合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材であって、前記元素群Aの元素を含有する時には元素群Aの元素の合計が0.03〜5原子%、前記元素群B’の元素を含有する時には元素群B’の元素の合計が0.03〜15原子%である(但し、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%未満の場合には、Mgを55原子%超とし、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%以上の場合には、Znを40原子%未満とする。)ことを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有され、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角38.7°は除く)総和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角38.7°は除く)が占める割合)で10%以上であることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項9】
20原子%以上の Zn、50原子%以上、75原子%以下のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜12%原子以下含有し(ただし、Ca、Y、Laの合計が1原子%以上の場合には、Alが1原子%以上含有しなければならない。)、溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有されることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載される溶融Mg-Zn系めっき鋼材を、めっき合金の融点乃至めっき合金の融点+100℃の範囲内に加熱、1分以内保持し、その後、冷却設備にて急冷を行うことによって得られる、非平衡相を含有することを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項11】
前記非平衡相がアモルファス相或いは金属間化合物Zn3Mg7いずれか或いは両方であることを特徴とする請求項10記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項12】
前記急冷が水冷又はミスト水冷であることを特徴とする請求項10記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項13】
めっき層と鋼材界面に、Ni、Cu、Sn、Cr、Co又はAgから選ばれる1種又は2種以上のプレめっき層を有することを特徴とする請求項1〜12いずれかに記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項1】
15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項2】
15原子%以上45原子%未満の Zn、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、元素群Aより選択される元素を1種又は2種以上の合計が0.03〜5原子%を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項3】
15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項4】
15原子%以上の Zn、35原子%超のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、Mgが55原子%超の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜15原子%以下含有し、Mgが55原子%以下の場合には、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で2〜15%原子以下含有し、残部が不可避不純物より構成される合金めっき層を有することを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項5】
元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAgとした時、さらに、元素群Aの元素の1種又は2種以上の合計を0.03〜5原子%含有する請求項3又は4に記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項6】
15原子%以上45原子%未満のZnを含有し、残部がMgと不可避不純物から構成される合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する請求項1〜5のいずれかに記載の溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項7】
15原子%以上44.97原子%未満の Znを含有し、さらに、元素群AをSi、Ti、Cr、Cu、Fe、Ni、Zr、Nb、Mo又はAg、元素群B’をCa、Y又はLaとした時、元素群A、B’の和集合となる元素群より1種又は2種以上の元素を含有し、残部がMgと不可避不純物より構成される合金めっき層を有し、該合金めっき層中に、アモルファス相を体積分率で5%以上含有する溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材であって、前記元素群Aの元素を含有する時には元素群Aの元素の合計が0.03〜5原子%、前記元素群B’の元素を含有する時には元素群B’の元素の合計が0.03〜15原子%である(但し、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%未満の場合には、Mgを55原子%超とし、元素群B’の元素の含有量がその合計で5原子%以上の場合には、Znを40原子%未満とする。)ことを特徴とする溶融Mg-Zn系合金めっき鋼材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有され、X線強度比((X線回折角2θ(0〜90°)に現れる全ての回折ピーク強度(ただし、回折角38.7°は除く)総和中で、Zn3Mg7の回折ピーク強度(ただし回折角38.7°は除く)が占める割合)で10%以上であることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項9】
20原子%以上の Zn、50原子%以上、75原子%以下のMgを含有し、さらに、元素群BをAl、Ca、Y又はLaとした時、元素群Bより選択される元素を1種又は2種以上を合計で0.03〜12%原子以下含有し(ただし、Ca、Y、Laの合計が1原子%以上の場合には、Alが1原子%以上含有しなければならない。)、溶融めっき層中に、金属間化合物Zn3Mg7が含有されることを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載される溶融Mg-Zn系めっき鋼材を、めっき合金の融点乃至めっき合金の融点+100℃の範囲内に加熱、1分以内保持し、その後、冷却設備にて急冷を行うことによって得られる、非平衡相を含有することを特徴とする溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項11】
前記非平衡相がアモルファス相或いは金属間化合物Zn3Mg7いずれか或いは両方であることを特徴とする請求項10記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項12】
前記急冷が水冷又はミスト水冷であることを特徴とする請求項10記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【請求項13】
めっき層と鋼材界面に、Ni、Cu、Sn、Cr、Co又はAgから選ばれる1種又は2種以上のプレめっき層を有することを特徴とする請求項1〜12いずれかに記載の溶融Mg-Zn系めっき鋼材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【公開番号】特開2008−255464(P2008−255464A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−242561(P2007−242561)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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