説明

溶融Zn−Al系合金めっき鋼板およびその製造方法

【課題】 加工性、塗装後外観、耐黒変性、スポット溶接性、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性に優れた溶融Zn−Al系合金めっき鋼板をおよびその製造方法を提案する。
【解決手段】 鋼板表面に接して、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有する第一のめっき層と、第一のめっき層の上層として、組成の異なる、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有する第二のめっき層を形成する。第一のめっき層にはさらに、Sr、Cr、Tiのうちの1種または2種以上を含有してもよい。また第二のめっき層には、さらに、Y、La、Ce、Ndのうちの1種または2種以上、および/またはMg、Siのうちの1種または2種を含有してもよい。めっき層間の密着性向上のためには、第一のめっき層が凝固を完了したのち、予熱を行なうか、あるいは第1のめっき層が凝固を完了する前に第二のめっき層を形成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、建築、土木、家電等の分野で用いて好適な、溶融Zn−Al系合金めっき鋼板に係り、とくに溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の耐切断端面さび性、スポット溶接性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車、建築、土木、家電等の分野では、溶融Zn−Al系合金めっき鋼板が広く利用されている。なかでも、55%Al−Zn合金めっき鋼板(以下、ガルバリウム鋼板ともいう)で代表される溶融Zn−Al系合金めっき鋼板は、通常の溶融亜鉛めっき鋼板に比べて、耐食性が優れていることから、とくに建材、土木等の一部でその用途が拡大している。
しかし、このガルバリウム鋼板では、一般に、
(1)高温多湿の環境下、あるいは塩化物が多い腐蝕環境下では、めっき層中のAlに起因して、腐蝕初期にめっき表面が灰黒色に変色する黒変現象が生じやすく耐黒変性が低下する、
(2)めっき層表面に6〜8角形のスパングルが形成されるため、塗装を施した場合に、塗装面にスパングルが浮き上がり塗装後の外観が低下する、
(3)めっき層が硬質であるため、成形加工時にめっき層にクラックが生じやすく、厳しい加工が施される部位ではめっき剥離が生じる場合もある、
(4)めっき層中のAl含有量が高く、溶融亜鉛めっき鋼板に比べてZn含有量が低いため、腐蝕環境によっては、切断端面部に赤錆が発生しやすく、また塗装した場合にエッジクリープと称する端面の塗膜ふくれがはやく発生し、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性が低下する場合がある、
(5)めっき層のAl含有量が高いことに起因し、一般の冷延鋼板に比べて、スポット溶接時の適正溶接電流範囲が狭く、スポット溶接性が劣る、
等の問題が指摘されていた。
【0003】
このような問題に対し、例えば特許文献1には、Al:40〜70wt%、Si:0.5〜2.0wt%、残部Znからなる平均めっき皮膜組成を有し、めっき−鋼板界面に存在する合金層を除いた領域のめっき皮膜のSi濃度が1%以下で、平均めっき皮膜組成のSi濃度より低く、平均スパングル径が0.7mm以下である微小スパングルを有する溶融Zn−Al系合金めっき鋼板が開示されている。特許文献1に記載された溶融Zn−Al系合金めっき鋼板は、Si含有量を調整したAl−Zn合金溶融浴中で溶融亜鉛めっき処理を行うことによりスパングルが微細化した溶融Zn−Al系合金めっき層が得られ、塗装後の外観むらが減少するとしている。
【0004】
また、特許文献2には、Al:25〜70重量%、Si:0.5×Al重量%、残部Znからなる被覆オーバーレイを有する金属被覆鉄基材製品に、93℃〜427℃の温度で所定時間保持する熱処理を施し、Al−Zn合金被覆オーバーレイの硬さを115HV以下とする金属被覆鉄基材製品の製造方法が提案されている。これにより、Al−Zn合金被覆オーバーレイが高度に延性を有するものになるとしている。
【0005】
また、特許文献3、特許文献4には、めっき条件を変化し、めっき皮膜中のAl濃度が最も低い部分とデンドライト部とのAl濃度との比を0.2〜1.0の範囲に、あるいは0.2未満に、調整した溶融Zn−Al系合金めっき鋼板が開示されている。特許文献3、特許文献4に記載された技術によれば、溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の加工性と耐食性、とくに耐白錆性が向上するとしている。
【0006】
また、特許文献5には、めっき皮膜が2層以上の互いに異なる層によって構成され、鋼板と接する下層はAl:20〜95重量%、Si:1.0〜2.0重量%含有する溶融亜鉛めっき層とし、その上層は1層または2層以上のAl、Mg、Ti、Si等から選ばれた金属またはその酸化物の組成の異なる層で構成され、上層のうち下層と直接接する層は下層の溶融亜鉛めっき層よりも高い融点を有する耐食性に優れためっき鋼板が提案されている。特許文献5に記載された技術によれば、耐食性が向上し、さらに加えて、加工後の外観、加工後の耐食性が向上するとしている。
【0007】
また、特許文献6には、Alを0.2wt%以上含有し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる溶融亜鉛をスプレーめっきして第一めっき層を形成したのち、Al含有量を0.08wt%以下に制限し、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる溶融亜鉛をスプレーめっきして第二めっき層を形成する溶融亜鉛の2回連続スプレーによる溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が提案されている。特許文献6に記載された技術によれば、良好な外観を有し、良好なめっき密着性を有する溶融亜鉛めっき鋼板が得られるとしている。
【0008】
また、特許文献7には、帯状鋼板表面に、非酸化性雰囲気中で、第一めっき層をAl:25〜70wt%、残部:Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al合金を、帯状鋼板の温度を550〜650℃としてスプレーめっきして形成し、第二めっき層をAl:0.08wt%以下、残部:Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn合金を、帯状鋼板の温度を420℃以上としてスプレーめっきして形成する、高耐食性Zn−Al合金めっき鋼板の製造方法が提案されている。特許文献7に記載された技術によれば、良好な外観・密着性を有し、かつ良好な耐食性を有する溶融Zn−Al合金めっき鋼板が得られるとしている。
【特許文献1】特開平11−36057号公報
【特許文献2】特公昭61−28748号公報
【特許文献3】特開平11−302814号公報
【特許文献4】特開平11−343553号公報
【特許文献5】特開2000−345368号公報
【特許文献6】特開平7−305157号公報
【特許文献7】特開平8−218160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜7に記載された技術によっても、依然として所望の塗装後外観が得られず、スポット溶接性が劣る。また耐食性については、特にめっき面の黒変が発生しやすく、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性にもばらつきが大きく、十分な特性を有しているとは言えない。すなわち、ガルバリウム鋼板の問題点である、耐黒変性、塗装後外観、加工性、耐切断端面さび性、耐エッジクリープ性、スポット溶接性等、全てについて十分な改善が得られていないのが現状である。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、加工性に優れ、かつ塗装後外観、耐黒変性、スポット溶接性、耐切断端面さび性、耐エッジクリープ性に優れた溶融Zn−Al系合金めっき鋼板をおよびその製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の塗装後外観、加工性、耐黒変性、スポット溶接性、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性に及ぼす鋼板表面のめっき層構造の影響について、鋭意考究した。その結果、めっき層を2層構造とし、鋼板と接する第一のめっき層を、ガルバリウム鋼板のめっき層組成を有するめっき層とし、第一のめっき層の上層として、第一のめっき層より低いAl含有量に調整したZnリッチの溶融Zn−Al系合金めっき層を形成することにより、耐黒変性、スポット溶接性、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性がともに向上し、さらには加工性、塗装後外観が更に向上した溶融Zn−Al系合金めっき鋼板となることを新たに見出した。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1) 鋼板表面に、2層の互いに組成の異なる溶融Zn−Al系合金めっき層を形成してなる溶融Zn−Al系合金めっき鋼板であって、前記鋼板に接する第一のめっき層が、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層であり、該第一のめっき層の上層である第二のめっき層が、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層であることを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
(2)(1)において、 前記第一のめっき層が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Sr:0.01〜2%、Cr:0.01〜2%、Ti:0.01〜2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記第二のめっき層が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Y:0.01〜0.5%、La:0.01〜0.5%、Ce:0.01〜0.5%、Nd:0.01〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記第二のめっき層が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Mg:0.1〜10%、Si:0.1〜10%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成を有することを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
(5)鋼板の表面に、第一のめっき工程を施し第一のめっき層を形成したのち、該第一のめっき層の上層として、さらに第二のめっき工程を施し、前記第一のめっき層と異なる組成の第二のめっき層を形成する溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法において、前記第一のめっき工程を、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成のめっき層が形成できるように溶融Zn−Al合金組成を調整して溶融Zn−Al系合金めっき処理を行うめっき工程とし、前記第二のめっき工程を、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成できるように溶融Zn−Al合金組成を調整して溶融Zn−Al系合金めっき処理を行うめっき工程とし、前記第一のめっき工程後、該第一のめっき工程により形成された前記第一のめっき層の凝固が完了する前または凝固が完了した後に、前記第二のめっき工程を施すことを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
(6)(5)において、前記第一のめっき層の凝固が完了した後で、前記第二のめっき工程前に、前記第一のめっき層の予熱を行うことを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記第一のめっき工程における溶融Zn−Al合金組成が、前記溶融Zn−Al合金組成に加えてさらに、mass%で、Sr:0.01〜2%、Cr:0.01〜2%、Ti:0.01〜2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記第二のめっき工程における溶融Zn−Al合金組成が、前記溶融Zn−Al合金組成に加えてさらに、mass%で、Y:0.01〜0.5%、La:0.01〜0.5%、Ce:0.01〜0.5%、Nd:0.01〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
(9)(5)ないし(8)のいずれかにおいて、前記第二のめっき工程における溶融Zn−Al合金組成が、前記溶融Zn−Al合金組成に加えてさらに、mass%で、Mg:0.1〜10%、Si:0.1〜10%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成を有することを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来に比べ、耐黒変性、スポット溶接性、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性がともに向上し、さらには加工性、塗装後外観が更に向上した溶融Zn−Al系合金めっき鋼板が安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板は、鋼板表面に、2層の互いに組成の異なる溶融Zn−Al系合金めっき層形成してなる、すなわち第一の溶融Zn−Al系合金めっき層(以下、単に第一のめっき層ともいう)とその上層である第二の溶融Zn−Al系合金めっき層(以下、単に第二のめっき層ともいう)を形成してなるめっき鋼板である。
本発明では、鋼板と接する第一のめっき層は、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有する溶融Zn−Al系合金めっき層とする。第一のめっき層のAl含有量が、25mass%未満では、Znがリッチとなり過ぎ、めっき層の表面(平面部)耐食性が低下する。一方、Alを75mass%を超えて含有すると、耐切断端面さび性、耐エッジクリープ性が低下するとともにめっき層が硬質化して加工性が低下する。このため、第一のめっき層では、Alを25〜75mass%の範囲に限定した。
【0015】
また、第一のめっき層のSi含有量が、0.1mass%未満では、めっき層と鋼板との界面に形成する合金層が厚く形成され、めっき層の加工性が低下する。一方、5mass%を超えて含有すると、Si結晶がインターデンドライト中で粗大化し加工性が低下するとともに耐エッジクリープ性が劣化する。このため、第一のめっき層では、Siを0.1〜5mass%の範囲に限定した。
【0016】
第一のめっき層では、上記したAl、Siに加えて、mass%で、Sr:0.01〜2%、Cr:0.01〜2%、Ti:0.01〜2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。
Sr、Cr、Tiは、いずれもインターデンドライトへのSiの濃化を抑制する作用を有し、Sr、Cr、Tiの含有により更なる加工性の向上が期待できる。インターデンドライトへのSiの濃化は、加工時のクラック発生を促進する。このため、Sr、Cr、Tiは、必要に応じ、とくに加工性向上が強く要求されるような使途の場合に選択して含有することが好ましい。また、Sr、Cr、Tiは、いずれも加工部の耐食性向上にも寄与する。Sr、Cr、Tiの含有量がそれぞれ0.01mass%未満では、上記した効果が認められず、一方、それぞれ2mass%を超える含有は、これら元素のデンドライト、インターデンドライトへの濃化が顕著となり、逆に加工性が低下する。このようなことから、Sr、Cr、Tiは、いずれも0.01〜2mass%の範囲に限定することが好ましい。
【0017】
なお、第一のめっき層では、上記した成分以外の残部は、Znおよび不可避的不純物である。また、第一のめっき層の厚さは、5〜25μmとすることが好ましい。めっき厚さが5μm未満では、耐食性、とくに耐切断端面さび性が不足しやすくなる。一方、25μmを超えて厚くなると、めっき剥離が生じやすくなる。
また、第一のめっき層の上層である第二のめっき層は、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有する、Znリッチな組成を有する溶融Zn−Al系合金めっき層とする。第二のめっき層を、Alを0.10〜10mass%含有するZnリッチな組成の溶融Zn−Al系合金めっき層とすることにより、溶融Zn−Al系合金めっき鋼板(ガルバリウム鋼板)特有の6角状スパングルの発生がなくなり、金属光沢のあるノースパングルないしは亀の子状スパングルが形成されためっき外観を呈するようになる。これにより、塗装なしから、塗装用までの広範な使途に適用可能なめっき外観を有する溶融Zn−Al系合金めっき鋼板とすることができる。第二のめっき層をAl量を低減したZnリッチな組成の溶融Zn−Al系合金めっき層、好ましくは5%Al−Zn合金めっき層とすることにより、加工性に劣る第一のめっき層で形成されたクラックの伝播を抑制し、めっき層最表面にクラックが開口しないようにすることができる。
【0018】
また、第二のめっき層を上記したAl量を減少したZnリッチな組成の溶融Zn−Al系合金めっき層とすることにより、めっき層が軟質化するとともに、スポット溶接時にAl酸化物の形成量が減少し、スポット溶接用電極の損耗速度が低下して、結果的にスポット溶接性が向上する。また、Al含有量の高い第一のめっき層の上層として、上記したAl含有量を減少したZnリッチな第二のめっき層を形成して、更なる犠牲防食能を付与することにより、Znの下地鋼板への犠牲防食作用と第一のめっき層のAlを主成分とするAl−Znの安定な腐食生成物が下地鋼板の腐食進行を抑制する保護作用とが相乗して、結果的に切断端面の腐蝕進行が抑制され、さらに塗装後のエッジクリープ(端面ふくれ)が顕著に抑制され、耐切断端面さび性および耐エッジクリープ性が向上する。
【0019】
第二のめっき層のAl含有量が0.10mass%未満では、下地鋼板へのZnの犠牲防食作用のみが働き、めっき層全体の消耗が著しく結果的に耐食性が劣化する。一方、Al含有量が10mass%を超えて高くなると、β−Znを含むα−Alの析出量が増加し、スポット溶接時に電極へのAl酸化物の付着が起こりやすく、スポット溶接性が低下する。このため、Al含有量を0.10〜10mass%の範囲に限定した。Al含有量を0.10〜10mass%の範囲に限定することにより、Alを含有したβ−Zn、またはZn−Alの共晶、またはβ−Znを含むα−Alを析出させて、Znの犠牲防食作用をある程度コントロールするとともに、Alを含む亜鉛めっき層全体の耐食性を向上させることができると考えられる。
【0020】
なお、めっき層全体の耐食性向上の観点から、Al含有量は0.2mass%以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0〜10mass%である。
このように、第二のめっき層は、Al含有量が少ないZnリッチな組成の溶融Zn−Al系合金めっき層を形成することが重要である。
また、第二のめっき層に、上記した組成に加えてさらに、mass%で、Y:0.01〜0.5%、La:0.01〜0.5%、Ce:0.01〜0.5%、Nd:0.01〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を選択して含有できる。これにより、更なるめっき外観の向上が期待できる。
【0021】
希土類元素であるY、La、Ce、Ndはいずれも、溶融Zn−Al系合金めっき層の表面を高光沢化し、さらにはめっき表面を平滑化する作用を有する。なお、Y、La、Ce、Ndは、第一のめっき層中に含まれるSi、Sr、Cr、Tiとの共存により、耐黒変性をも向上させる。このような効果は、Y、La、Ce、Ndをそれぞれ0.01mass%以上含有することにより顕著となる。一方、0.5mass%を超える含有は、めっき層表面の光沢度が低下するとともに、耐黒変性も低下する。このため、第二のめっき層では、Y、La、Ce、Ndをそれぞれ0.01〜0.5mass%の範囲に限定することが好ましい。
【0022】
また、本発明では、第二のめっき層に、上記した組成に加えてさらに、mass%で、Mg:0.1〜10%、Si:0.1〜10%のうちから選ばれた1種または2種を含有することができる。これにより、更なるスポット溶接性の向上が期待できる。
Mg、Siはいずれも、溶融Zn−Al系合金めっき層の融点を高め、スポット溶接時の電極の損耗を抑制する効果を有する。Mg、Si含有量がいずれも0.1mass%未満では、上記した効果が期待できない。一方、10mass%を超えて含有するとめっき層硬さが増加し、加工時にめっき層にクラックが発生しやすくなり、加工性が低下する。このため、Mg:0.1〜10%、Si:0.1〜10%の範囲に限定することが好ましい。
【0023】
なお、第二のめっき層では、上記した成分以外の残部は、Znおよび不可避的不純物である。また、第二のめっき層の厚さは、特に限定する必要はないが、5μm以上とすることが好ましい。めっき厚さが5μm未満では、耐切断端面さび性が不足しやすくなる。一方、30μmを超えて厚くなると、スポット溶接性が低下しやすくなるため、30μm以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、本発明の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の下地鋼板として使用する鋼板は、用途に応じ公知の鋼板から適宜選定すればよく、本発明ではとくに限定する必要はないが、例えば低炭素アルミキルド鋼板、極低炭素鋼板を用いることがめっき作業性の観点から好ましい。
ついで、本発明の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。
【0025】
本発明では、通常の方法で製造された鋼板を下地鋼板とし、該鋼板の表面に、好ましくは連続式溶融めっき製造設備を利用して、第一のめっき工程を施し第一の溶融Zn−Al系合金めっき層を形成したのち、さらに、好ましくは連続式溶融めっき製造設備を利用して、第二のめっき工程を施し、該第一のめっき層の上層として、前記第一のめっき層と異なる組成の第二のめっき層を形成して、二層のめっき層からなる溶融Zn−Al系合金めっき鋼板とする。
【0026】
本発明では、第一のめっき工程では、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成のめっき層が形成できるように溶融Zn−Al合金組成を調整して溶融Zn−Al系合金めっき処理を行うことが好ましい。溶融Zn−Al系合金めっき処理は、素材である鋼板を上記したように調整された溶融Zn−Al合金組成のめっき浴中に浸漬してめっきする方法、あるいは素材である鋼板に上記したように調整された組成の溶融Zn−Al合金をスプレーめっきする方法、あるいは素材である鋼板に上記したように調整された組成の溶融Zn−Al合金をロールコーターを用いてめっき(塗布)する方法を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、第一のめっき層を形成するために使用する溶融Zn−Al合金の組成は、実質的にめっき層組成とほぼ同一となるように調整することが好ましい。また、第一のめっき層を形成するために使用する溶融Zn−Al合金は、550〜630℃の範囲内の温度(浸漬する場合は浴温度)に調整することが好ましい。
【0027】
第一のめっき工程を施したのち、第二のめっき工程を施し第一のめっき層の上層として第二のめっき層を形成する。第二のめっき層の形成は、第一のめっき層の凝固が完了した後でも、凝固が完了する前でもどちらでもよい。第一のめっき層の凝固が完了した後に、第二のめっき層を形成する場合には、第一のめっき層を予熱しておくことが好ましく、200℃以上、550℃以下に予熱しておくことがとくに好ましい。これによりめっき層間の密着性が向上する。
【0028】
第二のめっき工程では、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成できるように溶融Zn−Al合金組成を調整して溶融Zn−Al系合金めっき処理を行うことが好ましい。なお、第二のめっき層を形成するために使用する溶融Zn−Al合金の組成は、第一のめっき工程と同様に、実質的にめっき層組成とほぼ同一となるように調整することが好ましい。また、第二のめっき層を形成するために使用する溶融Zn−Al合金の温度は、450〜550℃の範囲内の温度(浸漬する場合には浴温度)に調整することが好ましい。溶融Zn−Al系合金めっき処理は、第一のめっき工程と同様に、めっき浴中に浸漬してめっきする方法、あるいはスプレーめっきする方法、あるいはロールコーターを用いてめっきする方法を用いることができる。
【0029】
なお、第二のめっき工程において、第二のめっき層厚さ、第二のめっき層中のAl含有量、第二のめっき処理後の冷却速度をそれぞれ調整することにより、めっき外観を金属光沢のあるノースパングルのめっき外観〜亀の子状スパングルを持つめっき外観まで所望のめっき外観に調整することができる。
【実施例】
【0030】
冷延鋼板(板厚:0.8mm)を下地鋼板として、第一のめっき工程および第二のめっき工程を施し、鋼板表面に表1に示すめっき層組成およびめっき層厚さを有する、第一のめっき層およびその上層として第二のめっき層を形成し、溶融Zn−Al系合金めっき鋼板とした。第一のめっき工程および第二のめっき工程は、表2に示す条件のめっき処理とした。なお、第二のめっき工程の開始は、第一のめっき層が凝固を完了したのち、あるいは凝固が完了する前(未完了)とした。また、第一および第二のめっき工程でめっき層の形成に使用した溶融Zn−Al合金の組成は、表1に示す、第一および第二のめっき層組成とほぼ同じ組成に調整した。
【0031】
得られた溶融Zn−Al系合金めっき鋼板について、塗装外観、加工性、耐黒変性、耐切断端面さび性、耐エッジクリープ性、スポット溶接性を評価した。評価方法はつぎのとおりとした。
(1)塗装外観
溶融Zn−Al系合金めっき鋼板に、エポキシ系プライマーを乾燥塗膜厚が5μmとなるように塗布したのち、220℃で30s間焼き付け、さらにポリエステル系樹脂を乾燥膜厚が約20μmになるように塗布し、200℃で30s間焼き付けて、塗装鋼板とした。得られた塗装鋼板の表面を肉眼で観察し、スパングル(以下、SPと記す)むら、SP筋の有無、およびその程度を5段階で評価した。評価:5はSPむら、SP筋無し、評価:4はSPむら、SP筋ほとんど無し、評価:3はSP筋やや有り、評価:2はSP筋有り、評価:1はSP筋多い、場合とした。
(2)加工性
各溶融Zn−Al系合金めっき鋼板から試験片(大きさ:板厚0.8×幅50×長さ50mm)を採取し、試験片に対し180°(0T)曲げ加工を施したのち、曲げ部について反射電子像を10倍で撮影し、その部分をスキャンして画像解析によりその領域に現れる亀裂部の面積を測定し、曲げ加工部全面積に対する亀裂面積率を算出して、加工性を5段階で評価した。評価:5は亀裂面積率が5%以下、評価:4は亀裂面積率が5%超え10%以下、評価:3は亀裂面積率が10%超え30%以下、評価:2は亀裂面積率が35%以上、評価:1は剥離発生、の場合とした。
(3)耐黒変性
各溶融Zn−Al系合金めっき鋼板から試験片(大きさ:板厚0.8×幅50×長さ70mm)を採取し、各試験片同士をそれぞれ積層して、湿潤雰囲気(相対湿度:95%以上、温度:49℃)下に10日間放置する試験(黒変試験)を行ったのち、JIS Z 8722の規定に準拠して色差計で試験片表面のL値(明度)を測定し、黒変試験前後の試験片表面のL値(明度)の変化ΔL(=(黒変試験前のL値)−(黒変試験後のL値))を求め、耐黒変性を5段階で評価した。評価:5はΔLが0、評価:4はΔLが1〜3、評価:3はΔLが4〜8、評価:2はΔLが9〜12、評価:1はΔLが13以上、の場合とした。
(4)耐切断端面さび性
各溶融Zn−Al系合金めっき鋼板から試験片(大きさ:板厚0.8×50×50mm)を切断により採取し、下バリの状態で、切断端面部を重ねて固定し、切断端面部を上にしてJIS K 5621の規定に準拠した複合促進試験(JIS CCT)を実施した。JIS CCTの試験条件は、塩水(5%NaCl)噴霧0.5h→湿潤(温度:30℃、相対湿度RH:95%)1.5h→乾燥(温度:50℃、相対湿度RH:20%)2h→乾燥(湿度:30℃、相対湿度RH:20%)2hを1サイクルとして、このサイクルを2000サイクルまで行った。
【0032】
試験後、切断端面部の面積(0.8×50mm)に対する赤さび発生面積率を目視観察して測定し、耐切断端面さび性を5段階で評価した。評価:5は赤さび発生面積率が5%以下、評価:4は赤さび発生面積率が6〜15%、評価:3は赤さび発生面積率が16〜30%、評価:2は赤さび発生面積率が31〜50%、評価:1は赤さび発生面積率が51%以上、の場合とした。
(5)耐エッジクリープ性
各溶融Zn−Al系合金めっき鋼板に、(1)の場合と同様に、エポキシ系プライマーを乾燥塗膜厚が5μmとなるように塗布したのち、220℃で30s間焼き付け、さらにポリエステル系樹脂を乾燥膜厚が約20μmになるように塗布し、200℃で30s間焼き付けて、塗装鋼板とした。これら塗装鋼板から、切断機で、四面を切断して試験片(大きさ:板厚0.8×幅70×長さ150mm)を採取し、下バリの状態でJIS K 5621の規定に準拠した複合促進試験(JIS CCT)を実施した。なお試験片の四端面のうち、幅方向端面はシールし、長さ方向端面にはシールを施すことなく、試験した。
【0033】
複合促進試験の条件は、塩水(5%NaCl)噴霧0.5h→湿潤(温度:30℃、相対湿度RH:95%)1.5h→乾燥(温度:50℃、相対湿度RH:20%)2h→乾燥(温度:30℃、相対湿度RH:20%)2hを1サイクルとして、このサイクルを2000サイクルまで行った。
試験後、試験片のシールなし端面におけるエッジクリープ幅(端面からのふくれ幅)を測定し、耐エッジクリープ性を5段階で評価した。評価:5はふくれ幅が0、評価:4はふくれ幅が1mm以下、評価:3はふくれ幅が1mm超え5mm以下、評価:2はふくれ幅が5mm超え10mm以下、評価:1はふくれ幅が10mm超え、の場合とした。
(6)スポット溶接性
各溶融Zn−Al系合金めっき鋼板から、試験片(大きさ:板厚0.8×幅40×長さ100mm)を採取し、下記スポット溶接条件で連続打点して、スポット溶接継手を作製した。
【0034】
溶接条件は次のとおりとした。
・初期加圧時間:45サイクル、通電時間:45サイクル、保持時間:45サイクル
・溶接電流:7.5 kA、加圧力:140kgf(1.38kN)
・電極:JIS C 9304(1999)に規定されるDR(Dome Radius)型電極チップ(先端曲率半径:18mm、先端径:8mm)
得られた各スポット溶接継手について、JIS Z 3136の規定に準拠して引張剪断試験を実施し、引張剪断荷重を求め、引張剪断荷重がJIS Z 3140に規定するJIS A級(使用した板厚から6.2kN)以下となる連続打点数からスポット溶接性を5段階で評価した。評価:5は連続打点数が1000打点以上、評価:4は連続打点数が1000打点未満800打点以上、評価:3は連続打点数が800打点未満600打点以上、評価:2は連続打点数が600打点未満400打点以上、評価:1は連続打点数が400打点未満、の場合とした。
【0035】
得られた結果を表3に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
本発明例はいずれも、各特性の評価が評価4以上であり、塗装外観、加工性、耐黒変性、耐切断端面さび性、スポット溶接性のいずれも優れている溶融亜鉛系合金めっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、いずれかの特性が評価3以下であり、塗装外観、加工性、耐黒変性、耐切断端面さび性、耐エッジクリープ性、スポット溶接性のうちのいずれかの特性又は全てが低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に、2層の互いに組成の異なる溶融Zn−Al系合金めっき層を形成してなる溶融Zn−Al系合金めっき鋼板であって、前記鋼板に接する第一のめっき層が、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層であり、該第一のめっき層の上層である第二のめっき層が、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層であることを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
【請求項2】
前記第一のめっき層が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Sr:0.01〜2%、Cr:0.01〜2%、Ti:0.01〜2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項1に記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記第二のめっき層が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Y:0.01〜0.5%、La:0.01〜0.5%、Ce:0.01〜0.5%、Nd:0.01〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
【請求項4】
前記第二のめっき層が、前記組成に加えてさらに、mass%で、Mg:0.1〜10%、Si:0.1〜10%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板。
【請求項5】
鋼板の表面に、第一のめっき工程を施し第一のめっき層を形成したのち、該第一のめっき層の上層として、さらに第二のめっき工程を施し、前記第一のめっき層と異なる組成の第二のめっき層を形成する溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法において、
前記第一のめっき工程を、mass%で、Al:25〜75%、Si:0.1〜5%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成のめっき層が形成できるように溶融Zn−Al系合金組成を調整して溶融Zn−Al系合金めっき処理を行うめっき工程とし、
前記第二のめっき工程を、mass%で、Al:0.10〜10%を含み、残部Znおよび不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成できるように溶融Zn−Al合金組成を調整して溶融Zn−Al系合金めっき処理を行うめっき工程とし、
前記第一のめっき工程後、該第一のめっき工程により形成された前記第一のめっき層の凝固が完了する前または凝固が完了した後に、前記第二のめっき工程を施すことを特徴とする溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記第一のめっき層の凝固が完了した後で、前記第二のめっき工程前に、前記第一のめっき層の予熱を行うことを特徴とする請求項5に記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記第一のめっき工程における溶融Zn−Al系合金組成が、前記溶融Zn−Al系合金組成に加えてさらに、mass%で、Sr:0.01〜2%、Cr:0.01〜2%、Ti:0.01〜2%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項5または6に記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記第二のめっき工程における溶融Zn−Al系合金組成が、前記溶融Zn−Al系合金組成に加えてさらに、mass%で、Y:0.01〜0.5%、La:0.01〜0.5%、Ce:0.01〜0.5%、Nd:0.01〜0.5%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成を有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記第二のめっき工程における溶融Zn−Al系合金組成が、前記溶融Zn−Al合金組成に加えてさらに、mass%で、Mg:0.1〜10%、Si:0.1〜10%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成を有することを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−219716(P2006−219716A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33266(P2005−33266)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】