説明

溶解炉のガス処理装置、及び溶解炉のガス処理方法

【課題】溶解炉における金属の処理工程において発生するガスの炉外への漏洩を抑制可能な溶解炉のガス処理装置および方法を提供する。
【解決手段】溶解炉のガス処理装置1は、金属の溶解、精錬、還元処理中に天井部に設けられた炉口を開口可能な炉本体2と、前記炉本体2内において発生したガスを前記炉本体2の側面から引き込むガス通路3とを備え、前記ガス通路3は、水平方向またはおよそその水平方向に前記ガスを引き込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の溶解、精錬、または還元の処理に利用される溶解炉のガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の溶解、精錬または還元等のために用いられる溶解炉では、金属の処理工程においてガスが発生する。このような溶解炉の炉口を密閉式フードで覆い、炉内のガスを吸引することにより、溶解炉において発生するガスをガス処理設備へ導くことができる。このような密閉式フードを備えた溶融金属炉を改良したものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−229023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、溶解炉における金属の溶解等の処理工程中に、炉内への原料の投入などを行うために、溶解炉の炉口を開口しなければならない場合がある。上記の密閉式フードを備えた溶解金属炉では、フードが炉口を覆う構成であるため、炉口を開口する場合、ガスの吸引を行えない。このため、炉内に封入されていたガスが炉口の開口にともない、炉外へ漏洩する。金属の溶解等の処理工程で発生するガスには金属蒸気のヒュームが含まれるため、炉口を開口することにより、ヒュームが溶解炉の外部へ飛散してしまう。さらに、取り扱う金属によっては、ヒューム中に有害なものが含まれる場合があり、炉外への飛散は周囲の環境を悪化させる場合が考えられる。
【0005】
このように、上記の密閉式フードを備えた溶解炉では、フードを外さなければ原料の投入ができないため、金属の処理工程中に炉内に原料を投入する場合には、ヒュームを含むガスの漏洩を防ぐことができない。また、溶融金属を取り出す際に炉体を傾動する溶解炉の場合では、フードを外さなければ溶解炉を傾けることができない。このため、炉の傾転動作中において、ヒュームを含むガスの漏洩を防ぐことができない。
【0006】
そこで、本発明は上記の課題に鑑み、溶解炉における金属の処理工程において発生するガスの炉外への漏洩を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決する本発明の溶解炉のガス処理装置は、金属の溶融処理中に天井部に設けられた炉口を開口可能な炉本体と、前記炉本体内において発生したガスを前記炉本体の側面から引き込むガス通路と、を備えたことを特徴とする。この構成により、炉口開口時であっても炉内のガスを吸引し、ガスの炉外への漏洩を抑制することができる。
【0008】
上記の溶解炉のガス処理装置において、前記ガス通路は、水平方向またはおよその水平方向に前記ガスを引き込む構成とすることができる。この構成により、炉の天井部にスペースを設けることができる。
【0009】
上記の溶解炉のガス処理装置において、前記ガス通路の一端は、前記炉本体上部の側面に開口した構成とすることができる。特に、炉本体内において処理中の金属の湯面よりも上側にガス通路が開口した構成とすることができる。
【0010】
上記の溶解炉のガス処理装置において、前記炉本体は、回転軸を中心に傾転可能に形成され、前記ガス通路は、前記炉本体の傾転状態に関わらず、前記炉本体内において発生したガスを引き込む構成とすることができる。これにより、炉本体が傾転した状態でも、ガスの炉外への漏洩を抑制できる。
【0011】
上記の溶解炉のガス処理装置において、前記ガス通路は、前記回転軸の回転方向に前記炉本体とともに可動する可動部と、前記炉本体の傾転動作と独立した固定部と、を有し、前記可動部が前記固定部に対し、相対回転可能に接続された構成とすることができる。この構成により、炉本体が傾転しても、ガスの流路が維持できる。このため、傾転動作する炉本体の状態に関わらず、ガスの吸引を実現できる。また、上記の溶解炉のガス処理装置において、前記固定部が前記炉本体、及び回転軸から分離して設けられた構成とすることができる。
【0012】
また、上記の溶解炉のガス処理装置において、前記ガス通路が、前記回転軸の両端側のそれぞれに設けられた構成とすることができる。
【0013】
上記の溶解炉のガス処理装置において、前記可動部と前記固定部との接続部に漏洩防止手段を設けた構成とすることができる。この構成により、可動部と固定部とに生じる隙間を塞ぎ、ガスの漏洩を防ぐことができる。
【0014】
また、上記の溶解炉のガス処理装置において、前記炉本体内の温度が1000℃以下とすることとしてもよい。
【0015】
また、本発明の溶解炉のガス処理方法は、回転軸を中心に傾転する炉本体の炉口開口時に、前記炉本体からガスを吸引することを特徴とする。また、この溶解炉のガス処理方法は、回転軸を中心に傾転する炉本体の傾転時に、前記炉本体からガスを吸引することとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、溶解炉における金属の処理工程において発生するガスの炉外への漏洩を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態にかかる溶解炉のガス処理装置の概略構成を示した模式図である。
【図2】ガス処理装置の平面図である。
【図3】ガス処理装置の側面図である。
【図4】可動部の一部と固定部とを示した模式図である。
【図5】可動部と固定部の断面図である。
【図6】その他の実施形態にかかる溶解炉のガス処理装置の概略構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための一形態を図面と共に詳細に説明する。図1は本実施形態にかかる溶解炉のガス処理装置1の概略構成を示した模式図である。図2はガス処理装置1の平面図であり、図3はガス処理装置1の側面図である。図3(a)は炉本体2の直立時を示し、図3(b)は炉本体2の傾転時を示している。なお、図2、図3では作業床8と安全柵9を省略している。
【0019】
ガス処理装置1は、炉本体2とガス配管3とを備えている。炉本体2は、2つの結合部4により回転軸5と結合されている。回転軸5は2つの支柱6により支持されている。回転軸5は回転駆動機構7により特定の角度範囲の回転動作を行うように構成されている。これにより、炉本体2は回転軸5を中心に傾転可能に構成されている。回転駆動機構7は、電動モータ、圧縮ポンプ、またはその他機械的動力により回転軸5を特定の角度範囲において、回転させる。
【0020】
炉本体2は天井部に炉口21が設けられた中空構造のつぼ型の溶解炉である。炉本体2は、例えば、転炉とすることができる。炉本体2は内部の温度が1000℃以下で操業することを想定した炉である。炉本体2の内部では、金属の溶解、精錬、還元等の処理が行われる。炉本体2の天井部に設けられた炉口21は、原料の投入や炉本体2の内部の状態の視認を可能としている。通常、炉本体2において、金属の溶解等の処理が行われている場合には、炉口21を蓋で覆う。ただし、金属の溶解等の処理の途中でも、必要に応じて蓋を開き、炉口21を開口することができる。さらに、炉本体2の天井部には、炉口21から原料を投入する場合などのために、炉本体2の上に作業員が上れるように作業床8が設けられ、安全のために安全柵9が設けられている。また、炉本体2には、炉本体2が傾転する側に、内部の金属を取り出すための取出口22が設けられている。
【0021】
ガス配管3は、炉本体2の内部において発生するガスを引き込み、バグフィルタ(図示しない)へ導くガスの通路である。ガス配管3の一端は炉本体2上部の側面に開口している。炉本体2の直立姿勢時に、ガス配管3は、ほぼ水平方向に延びており、ガス配管3が炉本体2の側面から水平方向またはおよその水平方向へガスを引き込む構成となっている。ここでのおよその水平方向とは、水平方向に対して多少の傾きを許容するものであって、例えば、水平方向に対して−15〜15°程度の傾きがあってもよいものとする。また、このガス配管3の炉本体2側の端部は、炉本体2内において金属が処理される際に金属の湯面よりも上側に開口するように形成されている。一方、ガス配管3の他端はバグフィルタに接続している。ガス配管3の下流側にはガスを引き込むための吸引装置(図示しない)が組みつけられており、吸引装置が稼働することにより、炉本体2の内部のガスがガス配管3へ引き込まれる。
【0022】
ガス配管3は、可動部31と固定部32とを備えている。図4は可動部31の一部と固定部32とを示した模式図である。図4(a)は炉本体2の直立姿勢時の様子を示し、図4(b)は炉本体2の傾転した時の様子を示している。図5は、可動部31と固定部32の断面図である。図5の断面は、炉本体2の直立時の回転軸5を通る鉛直方向に切断した面である。
【0023】
可動部31は、回転軸5の回転方向に、炉本体2とともに可動するように構成されている。一方、回転軸5の延長線上に配置されている。この固定部32は、炉本体2、及び回転軸5とは分離して設けられており、炉本体2の傾転動作と独立している。さらに、可動部31は固定部32に対し、相対回転可能に接続されている。ここで、可動部31、固定部32について、より詳細に説明する。可動部31を構成する配管は矩形管であり、固定部32を構成する配管は円管である。可動部31を構成する配管は、炉本体2から回転軸5の延長線上まで延びている。さらに、可動部31には、回転軸5の回転中心軸Aを中心とし、回転中心軸Aに直交する円形の穴31aが設けられている。この円形の穴31aの直径は、固定部32を構成する円管の直径よりも僅かに大きく形成されている。なお、ここで説明した直交とは製造上の誤差を含んだものをいい、完全な直交でなくともよい。
【0024】
可動部31の穴31aには固定部32の円管が差し込まれ、可動部31と固定部32とがガスの漏洩を防ぐように接続されている。本実施形態では、可動部31と固定部32との接続部33に環状のシール部材34を組付けることにより、ガス配管3を通るガスの漏洩を防止する。このシール部材34は漏洩防止手段に相当する。シール部材34は一般的なものであり、可動部31と固定部32の接続部33に生じる隙間を埋めて、ガスの漏洩を防止するものであればその構成、材質は問わない。
【0025】
上記で説明した構成により、本実施形態において、ガス処理装置1は、炉本体2の傾動状態に関わらず、いつでもガスを吸引できる。特に、ガス処理装置1は、ガス配管3の一端が炉本体2の上部側面に設けられたことにより、炉口21を覆うフードにガスを吸引するガス配管が設けられた従来の装置に比べて、以下の有利な点がある。ガス配管3の一端が炉本体2の上部側面に設けられ、水平方向またはおよその水平方向へガスを引き込む構成としたことにより、炉本体2の上側に作業スペースを確保できるため、炉口21を開口して行う作業を容易にする。また、炉口21を開口した状態でも、ガスの吸引ができるため、炉口21を開口した作業時に炉内で発生したガスの漏洩を防止する。
【0026】
さらに、可動部31は固定部32に対し、相対回転可能に接続されているため、可動部31が炉本体2の傾転時に炉本体2とともに回転しても、固定部32が常時固定されている。この構成により、炉本体2が傾転した場合であっても、ガスを引き込む流路が維持されるため、炉内で発生したガスを吸引することができる。このように、ガス配管3は、炉本体2の傾転状態に関わらず、炉本体2内において発生したガスを引き込むことができる。さらに、可動部31と固定部32の接続部33にシール部材34を組み込んだことにより、可動部31と固定部32との隙間が塞がれ、ガスの漏洩が防止される。
【0027】
また、本発明のその他の実施の形態について説明する。図6はその他の実施の形態にかかる溶解炉のガス処理装置100の概略構成を示した模式図である。図6(a)はガス処理装置100の平面図であり、図6(b)はガス処理装置100の側面図である。ガス処理装置100は、回転軸5の反対側の端部にもガス配管3を設けた点で、上記のガス処理装置1と相違する。ガス処理装置100では、回転軸5の両端側にガス配管3をそれぞれ設けている。すなわち、回転軸5の両端側のそれぞれに固定部32が設けられ、それぞれの固定部32に可動部31が相対回転可能に接続して構成されている。ガス処理装置100では、ガス配管3を2つ備えることにより、ガス処理装置1と比べてガス吸引能力を向上している。なお、ガス配管3を2つ備えた以外では、ガス処理装置100の構成はガス処理装置100と同様である。
【実施例】
【0028】
本実施形態で説明した炉本体2は、主に、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウムの溶解或は精錬に用いることができる。これらの金属を対象にするため、炉本体2は炉内温度が500℃から800℃の温度帯で利用される。
【0029】
本実施例において、ガス処理装置1を用いて防食アルミニウムの鋳造のためにアルミニウム合金の溶解を行ったところ、以下のことが確認された。まず、完成した直後に炉内に何もいれない状態で炉本体2を傾転させ、ガス配管3が維持されていることを確認した。次に、炉本体2にアルミニウム合金を投入し、溶解した。アルミニウム合金の溶解中に天井部の炉口21を開口した状態で、吸引装置を稼働しガス吸引を行い、炉本体2からおよその水平方向へヒュームを漏れなく吸引できることを確認した。さらに、溶解したアルミニウム合金を鋳造するために、取出口22を開口して炉本体2を傾転させた際にもガス吸引を実施し、ガスを漏れなく吸引できることを確認した。
【0030】
防食アルミニウムの鋳造に用いるアルミニウム合金の溶解時には、ヒュームにインジウム、フラック材が含まれるが、上記の通り、炉内で発生したガスを吸引できるので、炉外へのインジウム、フラック材の漏洩を抑制する。これにより、炉周囲の作業環境の悪化を防止し、ひいては、環境保全、環境美化を実現する。
【0031】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、さらに本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。また炉周辺の作業環境測定の結果、大気中のインジウム濃度は0.001mg/m未満となり、室内への漏洩が防がれるようになった。
【符号の説明】
【0032】
1、100 ガス処理装置
2 炉本体
21 炉口
3 ガス配管(ガス通路)
31 可動部
32 固定部
33 接続部
34 シール部材(漏洩防止手段)
5 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の溶解、精錬、還元処理中に天井部に設けられた炉口を開口可能な炉本体と、
前記炉本体内において発生したガスを前記炉本体の側面から引き込むガス通路と、
を備えたことを特徴とする溶解炉のガス処理装置。
【請求項2】
前記ガス通路は、水平方向またはおよその水平方向に前記ガスを引き込むことを特徴とした請求項1記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項3】
前記ガス通路の一端は、前記炉本体上部の側面に開口していることを特徴とする請求項1または2記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項4】
前記炉本体は、回転軸を中心に傾転可能に形成され、
前記ガス通路は、前記炉本体の傾転状態に関わらず、前記炉本体内において発生したガスを引き込むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項5】
前記ガス通路は、
前記回転軸の回転方向に前記炉本体とともに可動する可動部と、
前記炉本体の傾転動作と独立した固定部と、を有し、
前記可動部が前記固定部に対し、相対回転可能に接続されていることを特徴とする請求項4記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項6】
前記固定部が前記炉本体、及び回転軸から分離して設けられたことを特徴とする請求項5記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項7】
前記ガス通路が、前記回転軸の両端側のそれぞれに設けられたことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項8】
前記可動部と前記固定部との接続部に漏洩防止手段が設けられていること特徴とする請求項5もしくは6、または、請求項5もしくは6を引用する請求項7のいずれか一項記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項9】
前記炉本体内の温度が1000℃以下である請求項1乃至8のいずれか一項記載の溶解炉のガス処理装置。
【請求項10】
回転軸を中心に傾転する炉本体の炉口開口時に、前記炉本体からガスを吸引することを特徴とする溶解炉のガス処理方法。
【請求項11】
回転軸を中心に傾転する炉本体の傾転時に、前記炉本体からガスを吸引することを特徴とする請求項10記載の溶解炉のガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−202671(P2012−202671A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70593(P2011−70593)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】