説明

溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガ

【課題】清浄鋼の精錬に対応可能であると共に、熱衝撃に起因する亀裂の発生を抑制しうる溶鋼取鍋のスラグライン部の内張り用MgO−C質レンガを提供することを目的とする。
【解決手段】溶鋼取鍋1のスラグライン部Sに内張りされる内張り用MgO−C質レンガ4bは、Alを含有せず、内張り用MgO−C質レンガ4b全体を100重量部としたときに、MgOを75〜90重量部、Cを10〜20重量部、Si、SiC及びBCから選ばれる一種あるいは二種以上の金属を1〜18重量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の精錬に利用される溶鋼取鍋の内張り用MgO−C質レンガに関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように鋼の精錬に利用される溶鋼取鍋50(溶融金属容器)は、有底筒状の鉄皮51の内側面に内張りされる裏張りレンガ52と、この裏張りレンガ52の内側に内張りされる内張りレンガ53と、鉄皮51の内底面に内張りされる裏張りレンガ54と、この裏張りレンガ54の内側に内張りされる裏張りレンガ55とを備えている。また、溶鋼取鍋50内の溶鋼57の撹拌、温度調整、非金属成分の除去等のために、溶鋼取鍋50底部のポーラスプラグ56から溶鋼57に向けてアルゴンなどのガスが吹き込まれる。
【0003】
溶鋼57上には製鋼過程における副産物であるスラグ58が浮遊している。溶鋼取鍋50の内側面は、上から順に、溶鋼57やスラグ58に接触しないフリーボード部F、スラグ58が頻繁に接触するスラグライン部S、及び主として溶鋼57が接触するメタルライン部Mに区分されている。そして、スラグライン部Sの内張りレンガ53は、他の部分の内張りレンガ53に比べて溶損が激しい。
【0004】
内張りレンガとして、従来ジルコン系やロー石系、アルミナ系などのレンガが使用されてきたが、近年操業が過酷化するのに伴って、内張りレンガにより高い耐蝕性・耐スポーリング性が要求されるようになった。
【0005】
これらの要求に応えるため、マグネシア−カーボン質、アルミナ−マグネシア−カーボン質、アルミナ−炭化けい素−カーボン質などのカーボン含有レンガが広く使用されるようになった。そして、上述した、フリーボード部F、スラグライン部S、及びメタルライン部Mのそれぞれの熱条件等に応じて最適な特性を持つ耐火レンガを選定して、内張りレンガとして使用している。
【0006】
例えば、スラグライン部Sの内張りレンガ53としては、マグネシア−カーボン質レンガ(MgO−C質レンガ)が使用されている。MgO−C質レンガは、マグネシア質レンガ(MgO質レンガ)に、炭素(C)を配合することによって、レンガの熱伝導度を向上させ、レンガの熱と接触する表面とその内部との温度差を狭めて、耐スポーリング性を向上させたレンガである。また、スラグの浸透が抑制されることによって、耐構造スポーリング性が向上するなどの優れた特性がレンガに付与されることから、スラグライン部Sの内張りレンガ53として好適に利用されている。MgO−C質レンガには、Cの気相酸化による消失を抑制するために、酸化防止剤として、Al、Si、SiC、BCなどの金属が添加される場合がある。
【0007】
例えば、特許文献1には、MgOを主要構成成分として、重量%でCを15%、Alを3%含有するMgO−C質レンガを溶鋼取鍋の内張りレンガとして使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−255411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
優れた疲労寿命や静粛性が求められる機械部品(例えば、ベアリング)などの元となる鋼材は、Alに代表されるような非金属介在物の低減を極力行った清浄度の高い鋼(清浄鋼)であることが重要である。
【0010】
ところが、特許文献1に記載の内張り用MgO−C質レンガは、酸化防止剤として酸化防止効果に優れるAlを多く含有しているため、MgO−C質レンガ中のAl又はAlの酸化物であるAl(酸化アルミニウム)が溶鋼中に漏出することによって、清浄鋼の精錬に支障をきたすという問題があった。
【0011】
また、MgO−C質レンガ中のAlが酸化することによって生成されるAlによって、MgO−C質レンガが膨張し、これにより、MgO−C質レンガの高弾性率化を招いて、MgO−C質レンガの耐スポーリング性が損なわれるという問題があった。
【0012】
MgO−C質レンガの耐スポーリング性が損なわれることによって、MgO−C質レンガに熱衝撃に起因する亀裂が発生し、MgO−C質レンガに欠け、脱落などが発生する。また、多くの亀裂が発生すれば、その分、MgO−C質レンガに含まれているAlの漏出も激しくなり、溶鋼取鍋内の清浄鋼の品質低下につながるという問題があった。
【0013】
同様に、MgO−C質レンガに多くの亀裂が発生すれば、その分、MgO−C質レンガに含まれているCの気相酸化も激しくなり、CO又はCOの発生が、溶鋼取鍋内の極低炭素鋼の品質低下につながるという問題があった。
【0014】
本発明は、上記した問題に鑑みてなされたものであり、清浄鋼の精錬に対応可能であると共に、熱衝撃に起因する亀裂の発生を抑制しうる溶鋼取鍋のスラグライン部の内張り用MgO−C質レンガを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明者は溶鋼取鍋のスラグライン部の内張り用MgO−C質レンガについて検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0016】
本発明に係る溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガは、溶鋼取鍋のスラグライン部に内張りされる内張り用MgO−C質レンガであって、前記内張り用MgO−C質レンガは、Alを含有せず、該内張り用MgO−C質レンガ全体を100重量部としたときに、MgOを75〜90重量部、Cを10〜20重量部、Si、SiC及びBCから選ばれる一種あるいは二種以上の金属を1〜18重量部含有することを特徴とする。
【0017】
上記本発明の溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガにおいて、好ましくは、前記内張り用MgO−C質レンガは、該内張り用MgO−C質レンガ全体を100重量部としたときに、Siを0.5〜5重量部、SiCを0.5〜8重量部、BCを0〜5重量部含有することを特徴とする。
【0018】
上記本発明の溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガにおいて、好ましくは、前記内張り用MgO−C質レンガの圧縮強さは、熱処理を行う前の状態において25MPa以上であり、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において20MPa以上であることを特徴とする。
【0019】
上記本発明の溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガにおいて、好ましくは、前記内張り用MgO−C質レンガの曲げ強さは、熱処理を行う前の状態において10MPa以上であり、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において5MPa以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成によれば、溶鋼取鍋のスラグライン部の内張りレンガがMgO−C質レンガよりなり、この内張り用MgO−C質レンガは、Alを含有していない。本発明においては、従来、MgO−C質レンガの酸化防止剤、及び強度発現剤として添加されていた金属Alを添加することなく、Alの代替として、Si、SiC及びBCから選ばれる一種あるいは二種以上の金属を添加している。
【0021】
このように、内張り用MgO−C質レンガがAlを含有していないことによって、溶鋼取鍋内の溶鋼にAl又はAlの酸化物であるAlが介在するおそれがなく、清浄鋼の精錬に対応することが可能である。
【0022】
また、内張り用MgO−C質レンガがAlを含有していないことによって、前述のような、Alの生成による、MgO−C質レンガの高弾性率化を防ぐことが可能となり、MgO−C質レンガは、溶鋼取鍋のスラグライン部の熱条件等に適した、高耐スポーリング性を有するものとなる。これにより、内張り用MgO−C質レンガの熱衝撃に起因する亀裂の発生を抑制し、内張りレンガの寿命を向上させることができる。
【0023】
好ましくは、本発明の内張り用MgO−C質レンガの圧縮強さが、熱処理を行う前の状態において25MPa以上、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において20MPa以上である。さらに好ましくは、本発明の内張り用MgO−C質レンガの曲げ強さが、熱処理を行う前の状態において10MPa以上、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において5MPa以上である。
【0024】
このように、内張り用MgO−C質レンガの強度特性(圧縮強さ、曲げ強さ)が、上記の条件を満足していれば、スラグによるMgO−C質レンガ表面の損耗や、付着物(スラグ及び地金)を除去する際のMgO−C質レンガ表面の損耗に対して、十分な耐久性を有するものとなる。
【0025】
さらに、上述のように、内張り用MgO−C質レンガの亀裂の発生が抑制されるため、その分、MgO−C質レンガに含まれているCが気相酸化されにくくなり、極低炭素鋼の精錬に対応することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の内張り用MgO−C質レンガが内張りされている溶鋼取鍋の断面図であって、(a)は溶鋼取鍋の縦断面図、(b)は(a)におけるA−A線で切断した断面図を示している。
【図2】実施例及び比較例の耐スポーリング性試験結果を示すグラフである。
【図3】従来の溶鋼取鍋の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳しく説明する。本実施形態の内張り用MgO−C質レンガが内張りされている溶鋼取鍋の断面図を図1に示す。図1(a)は、溶鋼取鍋の縦断面図、図1(b)は、図1(a)におけるA−A線で切断した断面図を示している。
【0028】
図1(a)に示すように、溶鋼取鍋1は、有底筒状の鉄皮2の内側面に内張りされる裏張りレンガ3と、この裏張りレンガ3の内側に内張りされる内張りレンガ4と、鉄皮2の内底面に内張りされる裏張りレンガ5と、この裏張りレンガ5の内側に内張りされる裏張りレンガ6とを備えている。また、図1(b)に示すように、溶鋼取鍋1の底部には、アルゴン等のガス吹き込み用のポーラスプラグ7と、出鋼口が設けられたマスレンガ8とを備えている。
【0029】
溶鋼取鍋1の内側面は、上から順に、溶鋼やスラグに接触しないフリーボード部F、スラグが頻繁に接触するスラグライン部S、及び主として溶鋼が接触するメタルライン部Mに区分されている。
【0030】
鉄皮2は、有底筒状を呈し、側壁の厚さは32mm、底部の厚さは80mmである。鉄皮2の外径Wは約4m、高さHは約4mである。
【0031】
裏張りレンガ3は、断熱性に優れるハイアルミナ系レンガである。MgO−Cr質レンガを用いることもできる。裏張りレンガ3を鉄皮2の内側面に二層構造で積み上げて張り付けることにより、半永久的に鉄皮2に固定されるパーマネントライニングが形成されている。鉄皮2に直接張り付けられる外側の裏張りレンガ3の厚さは30mm、内側の裏張りレンガ3の厚さは200mmである。
【0032】
内張りレンガ4は、フリーボード部F、スラグライン部S、及びメタルライン部Mの区分毎に異なる材質からなる。フリーボード部Fの内張りレンガ4aは、従来から用いられているMgO−C質レンガである。スラグライン部Sの内張りレンガ4bは、本発明のMgO−C質レンガである。メタルライン部Mの内張りレンガ4cは、Al−MgO−C質レンガである。内張りレンガ4を裏張りレンガ3の内側に一層構造で積み上げて張り付けることにより、レンガの損耗に応じて定期的に交換されるウェアライニングが形成されている。内張りレンガ4a、4b及び4cの厚さはいずれも230mmである。
【0033】
裏張りレンガ5は、裏張りレンガ3と同様に、断熱性に優れるハイアルミナ系レンガである。MgO−Cr質レンガを用いることもできる。裏張りレンガ5を鉄皮2の内底面に二層構造で水平方向に並べて張り付けることにより、半永久的に鉄皮2に固定されるパーマネントライニングが形成されている。鉄皮2に直接張り付けられる外側(下側)の裏張りレンガ5、及び内側(上側)の裏張りレンガ5の厚さはいずれも65mmである。
【0034】
内張りレンガ6は、メタルライン部Mの内張りレンガ4cと同様に、Al−MgO−C質レンガである。内張りレンガ6を裏張りレンガ5の内側(上側)に一層構造で水平方向に並べて張り付けることにより、レンガの損耗に応じて定期的に交換されるウェアライニングが形成されている。内張りレンガ6の厚さは230mmである。内張りレンガ6と内張りレンガ4cとの間の隙間には不定形耐火物6aが充填されている。この不定形耐火物6aとして、例えば、ハイアルミナ−マグネシア系の流し込み(キャスタブル)材を用いることができる。
【0035】
これら裏張りレンガ3、5、及び内張りレンガ4、6は、各レンガ間の縦目地および横目地が溶鋼取鍋1の内外方向に重ならないように、レンガの半幅分ずつ又は半高分ずつずらして積み重ねられており、鉄皮2を1600℃前後の高温の溶鋼の熱から保護するとともに、溶鋼取鍋1内の溶鋼の温度を低下させないための保温材として働いている。
【0036】
裏張りレンガ3、5、及び内張りレンガ4、6間の各目地の間隔は2〜3mmであり、各目地には、MgO質あるいはMgO−Cr質のモルタルが接合材として充填されている。また、このモルタルの充填を施さずに空目地施工とすることもできる。例えば、内張りレンガ4の縦目地を空目地施工とすることができる。
【0037】
続いて、本発明のMgO−C質レンガであるスラグライン部Sの内張りレンガ4bについて詳しく説明する。
【0038】
内張りレンガ4bは、低膨張率、低残存膨張率、及び高耐スポーリング性のMgO−C質レンガからなり、この内張りレンガ4bの配合は、Alを含有せず、内張りレンガ4b全体を100重量部としたときに、MgOを75〜90重量部、Cを10〜20重量部、Si、SiC及びBCから選ばれる一種あるいは二種以上の金属を1〜18重量部含有する。好ましくは、Siを0.5〜5重量部、SiCを0.5〜8重量部、BCを0〜5重量部含有する。
【0039】
上記の配合において、Cを14〜18重量部(最適値は16重量部)、Siを0.5〜2重量部、SiCを3〜6重量部、BCを含有させないことがさらに好ましい。また、炭素Cとして、例えば、粒径が1〜3mmの粗粒分と、粒径が100〜200メッシュ(150〜75μm)の中粒分と、粒径が200メッシュ以下(75μm以下)の細粒分とを、4:3:3の割合で混合した黒鉛を用いることが可能である。
【0040】
また、内張りレンガ4bの圧縮強さは、熱処理を行う前の状態において25MPa以上、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において20MPa以上である。内張りレンガ4bの曲げ強さは、熱処理を行う前の状態において10MPa以上、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において5MPa以上である。
【0041】
本実施形態の構成によれば、他の部分の内張りレンガと比べて溶損が激しいスラグライン部Sの内張りレンガ4bがMgO−C質レンガよりなり、この内張りレンガ4bは、Alを含有していない。そして、従来、MgO−C質レンガの酸化防止剤、及び強度発現剤として添加されていた金属Alを添加することなく、Alの代替として、Si、SiC及びBCから選ばれる一種あるいは二種以上の金属を添加している。
【0042】
このように、スラグライン部Sの内張りレンガ4bがAlを含有していないことによって、溶鋼取鍋1内の溶鋼にAl又はAlの酸化物であるAlが介在するおそれがなく、清浄鋼の精錬に対応することが可能である。
【0043】
また、スラグライン部Sの内張りレンガ4bがAlを含有していないことによって、Alの生成による、内張りレンガ4bの高弾性率化を防ぐことが可能となり、内張りレンガ4bは、溶鋼取鍋1のスラグライン部Sの熱条件等に適した、高耐スポーリング性を有するものとなる。これにより、内張りレンガ4bの熱衝撃に起因する亀裂の発生を抑制し、内張りレンガ4bの寿命を向上させることができる。
【0044】
また、内張りレンガ4bの強度特性(圧縮強さ、曲げ強さ)は、スラグによる内張りレンガ4b表面の損耗や、付着物(スラグ及び地金)を除去する際の内張りレンガ4b表面の損耗に対して、十分な耐久性を有するものとなっている。
【0045】
さらに、上述のように、内張りレンガ4bの亀裂の発生が抑制されるため、その分、内張りレンガ4bに含まれているCが気相酸化されにくくなり、極低炭素鋼の精錬に対応することも可能である。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。
【実施例】
【0047】
実施例として、本発明の組成よりなる試験体を試作し、その特性を評価した。実施例及び比較例のMgO−C質レンガの配合割合は表1に示すとおりである。表1に示す成分に対して結合剤としてフェノール樹脂を加えて混練し、その混練物を型枠に充填した後、成形体を型枠から取り出して、所定の加熱処理を行うことによって各試験体を作成した。また、評価項目は表2に示すとおりである。なお、本発明におけるMgO−C質レンガの配合割合は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
比較例1は、内張り用MgO−C質レンガとして使用されている従来材料であり、スラグライン部の使用環境(熱条件等)に適した、物理的及び力学的な材料特性を有している。すなわち、比較例1は、清浄鋼の精錬に悪影響を及ぼすAlを含有しているという点を除けば、スラグライン部の内張りレンガとして何等問題のない材料である。
【0051】
表2に示す各種試験を実施した結果、物理特性、熱間膨張率、残存膨張率、耐蝕性及び耐酸化性については、実施例1〜9と比較例1とは同程度の材料特性を有していることがわかった。強度特性及び耐スポーリング性については、実施例1〜9と比較例1とに有意な差異が認められたことから、これらの試験結果について説明する。
(強度特性の評価)
実施例1〜9及び比較例1について、圧縮強さ(JISR2206−1)と曲げ強さ(JISR2213)を測定した。各強度試験は、熱処理を行う前の試験体と、1400℃の還元雰囲気下で3時間の熱処理を行った後の試験体について実施した。ここで、試験体をコークスブリーズに埋設することにより還元雰囲気とした。圧縮強さ及び曲げ強さは表3に示すとおりである。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示すとおり、実施例1〜9及び比較例1の圧縮強さ及び曲げ強さには、部分的に有意な差異が認められるものの、実施例1〜9の全てにおいて、スラグライン部の内張りレンガに要求される強度特性(圧縮強さ、曲げ強さ)を備えている。
【0054】
一般には、圧縮強さが、熱処理前に25MPa以上、熱処理後に20MPa以上であると共に、曲げ強さが、熱処理前に10MPa以上、熱処理後に5MPa以上であれば、スラグライン部の使用環境に対して、十分な耐久性を有していると考えられる。したがって、実施例4〜7は、特に好ましい強度特性を有しているといえる。この中でも、実施例6の強度特性が最も優れている。
(耐スポーリング性の評価)
実施例1〜9及び比較例1の耐スポーリング性を比較するために、加熱・冷却の繰り返しに対する動的弾性率の変化を測定した。試験方法は次のとおりである。40×40×160mmの試験体を、温度1500℃の溶銑ディップに1分間浸漬した後、15秒間水冷し、その後、曲げ共振法(JISR1605)により試験体の共振周波数を測定した。この行程を1サイクルとして、このサイクルを10サイクル繰り返し行った。
【0055】
共振周波数と動的弾性率とは相関があるため、共振周波数から動的弾性率を算出することができる。加熱・冷却の繰り返し後に試験体の共振周波数を複数回測定して、試験体の共振周波数がほぼ一定値に収まる場合には、試験体は健全な弾性を維持していると判定して、共振周波数から動的弾性率を算出した。また、試験体の共振周波数が一定値に収まらなくなりバラツキが大きくなった場合には、試験体の弾性が損なわれたと判定して、動的弾性率をゼロとした。動的弾性率がゼロになるまでの加熱・冷却の繰り返し回数が多いほど耐スポーリング性に優れていると評価できる。
【0056】
図2に耐スポーリング性試験結果を示す。グラフの縦軸は動的弾性率、横軸は加熱・冷却の繰り返し回数である。図2に示すとおり、比較例1では、加熱・冷却の繰り返しにともない動的弾性率が急速に低下し、加熱・冷却の繰り返し回数8回で動的弾性率がゼロとなった。
【0057】
一方、実施例1及び4〜9では、比較例1よりも多くの加熱・冷却の繰り返し回数まで動的弾性率の測定が可能であった。すなわち、実施例1及び4〜9は、比較例1に対して、耐スポーリング性の向上が認められた。なお、実施例2及び3は、比較例1よりも耐スポーリング性が低下しているものの、スラグライン部の内張りレンガとしての使用に際しては何等問題のない耐スポーリング性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
溶鋼取鍋内の溶鋼にAl又はAlの酸化物であるAlが介在するおそれがないため、清浄鋼の精錬に対応することが可能である。また、内張り用MgO−C質レンガの熱衝撃に起因する亀裂の発生が抑制されるため、内張り用MgO−C質レンガの寿命が向上し、経済的である。さらに、内張り用MgO−C質レンガの亀裂の発生が抑制されるため、その分、MgO−C質レンガに含まれているCが気相酸化されにくくなり、極低炭素鋼の精錬に対応することも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1:溶鋼取鍋 2:鉄皮 3:裏張りレンガ 4:内張りレンガ 4a:フリーボード部の内張りレンガ 4b:スラグライン部の内張りレンガ(内張り用MgO−C質レンガ) 4c:メタルライン部の内張りレンガ 5:裏張りレンガ 6:内張りレンガ 6a:不定形耐火物 7:ポーラスプラグ 8:マスレンガ F:フリーボード部 S:スラグライン部 M:メタルライン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼取鍋のスラグライン部に内張りされる内張り用MgO−C質レンガであって、
前記内張り用MgO−C質レンガは、Alを含有せず、該内張り用MgO−C質レンガ全体を100重量部としたときに、MgOを75〜90重量部、Cを10〜20重量部、Si、SiC及びBCから選ばれる一種あるいは二種以上の金属を1〜18重量部含有することを特徴とする溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガ。
【請求項2】
前記内張り用MgO−C質レンガは、該内張り用MgO−C質レンガ全体を100重量部としたときに、Siを0.5〜5重量部、SiCを0.5〜8重量部、BCを0〜5重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガ。
【請求項3】
前記内張り用MgO−C質レンガの圧縮強さは、熱処理を行う前の状態において25MPa以上であり、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において20MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガ。
【請求項4】
前記内張り用MgO−C質レンガの曲げ強さは、熱処理を行う前の状態において10MPa以上であり、還元雰囲気下1400℃で3時間の熱処理を行った後の状態において5MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一つに記載の溶鋼取鍋内張り用MgO−C質レンガ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184217(P2011−184217A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48934(P2010−48934)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【特許番号】特許第4773569号(P4773569)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】