説明

滅菌方法および滅菌装置

【課題】滅菌対象に悪影響を及ぼすことなく、短時間で高い滅菌効果を得ることができる滅菌方法および滅菌装置を実現する。
【解決手段】チャンバー1内の載置台2上に滅菌対象3を置き、水素ラジカル生成部4で発生させた水素ラジカル(H)をチャンバー1内に供給することにより、滅菌対象3の全面を水素ラジカル(H)ガスに曝すことにより、水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌する。水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌するので、滅菌対象を加熱しないで、たとえば室温、あるいは室温の数十℃以下の温度で、数分〜10数分の処理を施すことにより、高い滅菌効果が得られる。水素ラジカルの密度は10cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ラジカルの還元作用を利用した滅菌方法および滅菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療用機器部品、医療用器具、医薬品収納用容器具等の滅菌対象に対しては、不要菌類の発生または外部からの混入を防止するための滅菌操作が不可欠であり、通常は、滅菌作用の認められた液体あるいは気体で滅菌対象を洗浄することにより、不要菌類を除去する手法が採用されている。
【0003】
一例を挙げると、チャンバー内で滅菌対象をエチレンオキサイド ガス(EOG)に曝す滅菌処理法が利用されるが、この場合には、通常、温度約40〜50℃、圧力約7kg/mで、約12時間(またはそれ以上)という処理時間が必要である。また、滅菌対象が包装物の場合には、内部にEOGの残留があると、その排除もまた重要な事柄である。
【0004】
他の例として、39℃未満という低温で過酸化水素プラズマによる滅菌を行う方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、蛋白質、ペプチド、核酸、脂質、細胞物質等にプラズマの悪影響を及ぼさないようにすることができる。
【特許文献1】特開2002−301137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の、例えばエチレンオキサイド ガス(EOG)に曝す滅菌処理法では、長時間の処理を要すこと及びEOGの残存を排除することに難点があり、また、プラズマを使用する場合では、対象製品へのプラズマ耐性に大きな配慮が必要になることがある。
【0006】
本発明の目的は、滅菌対象に悪影響を及ぼすことなく、短時間で高い滅菌効果を得ることができる滅菌方法および滅菌装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の滅菌方法は、チャンバー内の水素ラジカルの密度を所定の範囲の値に維持しつつ、当該チャンバー内にて滅菌対象を水素ラジカルに曝すことにより、水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌処理するものである。
【0008】
本発明の滅菌方法によれば、水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌処理するので、滅菌対象を加熱しないで、たとえば室温、あるいは室温の数十℃以下の温度で、数分〜10数分の処理を施すことにより、高い滅菌効果が得られる。
【0009】
本発明の滅菌方法において、前記チャンバー内の水素ラジカルの密度は10cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されていることが望ましい。更には、前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が1014cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されていることが望ましい。滅菌処理空間の水素ラジカルの密度を上記の範囲に維持することにより、水素ラジカルによる滅菌効果を最大限に高めることができる。本発明の滅菌方法による有効な滅菌対象として、医療用機器部品、医療用器具、医薬品収納用器具等があげられる。
【0010】
本発明の滅菌装置は、チャンバー内の水素ラジカルの密度を所定の範囲の値に維持しつつ、当該チャンバー内にて滅菌対象を水素ラジカルに曝す機能を備え、水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌処理するものである。
【0011】
本発明の滅菌装置によれば、水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌処理するので、滅菌対象を加熱しないで、たとえば室温、あるいは室温の数十℃以下の温度で、数分〜10数分の処理を施すことにより、高い滅菌効果が得られる。
【0012】
本発明の滅菌方法において、前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が10cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されていることが望ましい。更には、前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が1014cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されていることが望ましい。滅菌処理空間の水素ラジカルの密度を上記の範囲に維持することにより、水素ラジカルによる滅菌効果を最大限に高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素ラジカルの還元力で滅菌対象を滅菌処理するので、滅菌対象に悪影響を及ぼすことなく、短時間で高い滅菌効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の滅菌装置の第1形態例を示す概略構成図である。この滅菌装置は、チャンバー(処理室)1内の載置台2上に滅菌対象3を置き、水素ラジカル生成部4で発生させた水素ラジカル(H)をチャンバー1内に供給することにより、滅菌対象3の全面を水素ラジカル(H)ガスに曝すことができるように構成されている。
【0016】
水素ラジカル生成部4によるHの発生は、高圧タンク5とチャンバー1とを連結している管のバルブ6を操作して、分子状の水素(H)ガスを高圧タンク5から水素ラジカル生成部4に導入しつつ、マイクロ波発生器7で発生させたマイクロ波電力を水晶板などのマイクロ波透過窓8を通じて水素ラジカル生成部4に導入することで、Hガスを、水素イオン(H)及び水素ラジカル(H)へと高エネルギー化することによりなされる。このとき制御装置12は、圧力計11によりチャンバー1内の気圧を監視し、チャンバー1内が所定の内圧に維持されるように真空ポンプ9の駆動および真空バルブ10の開度を調整する。
【0017】
チャンバー1と水素ラジカル生成部4との間にはガス透過壁13が設けられている。水素(H)ガスを毎分100〜150ミリリットル(ml/min)注入し、チャンバー1内の水素圧を10Pa(10−3気圧)オーダーに保持してマイクロ波を作用させるとチャンバー1内で水素ラジカル(H)が安定に発生し、滅菌対象3はこの水素ラジカル(H)に全面が曝される。
【0018】
水素ラジカル(H)は、いわゆる原子状の水素として非常に強い還元力を持ち、産業界では例えば半導体やその酸化物、さらには高分子化合物等のエッチングに利用されるが、加えて、水素ラジカル(H)はその還元作用により高い滅菌効果を発揮する。
【0019】
チャンバー1内での水素ラジカル(H)の寿命は水素圧が低い方が延びるが、十分な滅菌効果を得るには水素ラジカル(H)の濃度も関与する。チャンバー1内の水素ラジカル(H)の密度が10cm−3〜1015cm−3の範囲、好ましくは1014cm−3〜1015cm−3の範囲の桁で維持されることで、処理時間を数分〜十数分維持して、滅菌対象体表面で所望の滅菌効果を確認できる。
【0020】
滅菌対象3が、医療用機器部品、医療用器具又は医薬品収納用容器具であるときにも、室温、あるいはその数十℃以下の温度で、数分〜10数分の処理を施すことにより、高い滅菌効果が得られる。
【0021】
滅菌効果を確認する方法としては通常、第14改正日本薬局方59条(同第二追補)で定める「無菌試験法」によって、指標菌(バイオロジカルインジケーター、BI)の残存の有無で判定する方法が用いられる。指標菌には同参考情報第6項に定める「最終滅菌法及び滅菌指標体」で例示されるBacillus Atrophaeus(旧Bacillus Sublitis ATTCC#9372)を用い、上記水素ラジカルによる処理後のテスト用被処理体を無菌試験法に則って処理し、培養菌の有無にて判定する。
【0022】
この滅菌効果判定法によっても、従来のエチレンオキサイド ガス(EOG)に曝す滅菌処理法及びプラズマを使用する場合のいずれにも匹敵する高い滅菌効果が達成され、水素ラジカルによる高い滅菌作用が確認された。
【0023】
図2は、本発明の滅菌装置の第2形態例を示す概略構成図である。この滅菌装置のチャンバー1内には、滅菌対象3を載せる載置台2と、熱触媒となるタングステンワイア14と、気体噴出器15とを備えている。載置台2はその温度をコントロールできるように構成されている。タングステンワイア14には電源21から電力が供給される。チャンバー1には、内部の気体噴出器15につながる気体導入配管16および減圧用排気管17が配備されている。チャンバー1内は、通気性を有するメッシュ体18で上下に仕切られることにより、水素ラジカル生成部19と滅菌処理部20とに二分割されている。
【0024】
この滅菌装置では、チャンバー1内に水素(H)を導入して、このチャンバー1内で高温加熱のタングステンワイア14の触媒作用で発生される水素ラジカル(H)が反応ガスとして働く。チャンバー1内の背圧は5×10−5トール(6.66×10−3Pa)程度に自動圧力制御装置(APC)で調整し、水素流量は気体導入配管16側で約80cm/sec.に制御し、水素圧力は0.5〜1.0トールの範囲で調整する。水素(H)は少量のキャリアガスのヘリウム(He)とともに導入してもよい。熱触媒となるタングステンワイア14の発熱温度を1600℃程度に設定することにより、滅菌処理部20に十分な量の水素ラジカル(H)を供給できる。タングステンワイア14の発熱温度を1800℃に上げても滅菌処理部20内の水素ラジカル(H)の密度は1600度の場合と大差のないことが確認されている。
【0025】
この滅菌装置を用いた場合にも、水素圧力を0.5トールとしてチャンバー1内の水素ラジカル(H)の密度を10cm−3〜1015cm−3の範囲、好ましくは1014cm−3〜1015cm−3のオーダーで維持して、チャンバー1内に滅菌対象3を置き、チャンバー1内の温度を70〜80℃に保って水素ラジカル(H)による暴露処理を60分間実施することにより、第1形態例の場合と同様の高い滅菌効果を確認できた。滅菌効果の確認は第1形態例と同様に、第14改正日本薬局方59条(同第二追補)で定める「無菌試験法」による指標菌の残存の有無で判定を行った。その際の滅菌処理条件を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
「無菌試験法」に定める7日間の培養の結果、表2に示すように、12/13(1)の指標菌で菌が生育し、他の指標菌では菌は生育しなかった。表2中の(+)は菌が生育した(滅菌されていない)ことを、(−)は菌が生育しなかった(滅菌されている)ことを示している。
【0028】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の滅菌装置及び滅菌方法は、水素ラジカル(H)の還元作用により滅菌を行うので、医療用機器部品、医療用器具、医薬品収納用容器具等の滅菌処理に利用できるのみならず、食品管理や各種菌類の培養管理などの分野での滅菌処理にも利用することができる。更には、ウイルス不活化やゲノム不活化のための方法及び装置としても有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の滅菌装置の第1形態例を示す概略構成図
【図2】本発明の滅菌装置の第2形態例を示す概略構成図
【符号の説明】
【0031】
1 チャンバー(処理室)
3 滅菌対象(被処理体)
4 水素ラジカル生成部
19 水素ラジカル生成部
20 滅菌処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内の水素ラジカルの密度を所定の範囲の値に維持しつつ、当該チャンバー内にて滅菌対象を水素ラジカルに曝すことを特徴とする滅菌方法。
【請求項2】
前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が10cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されている請求項1に記載の滅菌方法。
【請求項3】
前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が1014cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されている請求項2に記載の滅菌方法。
【請求項4】
前記滅菌対象が医療用機器部品、医療用器具、又は医薬品収納用器具のいずれかである請求項1又は2に記載の滅菌方法。
【請求項5】
チャンバー内の水素ラジカルの密度を所定の範囲の値に維持しつつ、当該チャンバー内にて滅菌対象を水素ラジカルに曝す機能を備えたことを特徴とする滅菌装置。
【請求項6】
前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が10cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されている請求項5に記載の滅菌装置。
【請求項7】
前記チャンバー内の水素ラジカルの密度が1014cm−3〜1015cm−3のオーダーに維持されている請求項6に記載の滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−23057(P2008−23057A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198683(P2006−198683)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(598018959)株式会社バイオメディア (5)
【出願人】(501341369)
【Fターム(参考)】