説明

滑り軸受

【課題】後加工が不要な射出成形の一発仕上げによる製造が可能であり、部品点数が少なく低価格で、回転トルクが安定し、高荷重、腐食雰囲気下でも使用可能な滑り軸受を提供する。
【解決手段】滑り軸受は、内輪と外輪3との組合せからなり、外輪3の内周面3aは、軸方向断面において、軸方向に垂直に2等分割と径方向に2等分割の合計4等分割とし、外輪右端面3c1方向の上側内周面3a1が凹曲面であるとき、外輪左端面3c2方向の上側内周面3a4が凹曲面の底部3dから延びる直線面であり、外輪左端面3c2方向の下側内周面3a3が凹曲面であり、外輪右端面3c1方向の下側内周面3a2が凹曲面の底部3eから延びる直線面であり、外輪3の内周面3aの対向する2箇所に、内輪組み込み溝3bが少なくとも一方の端面3c1に開口して形成され、上記内輪は、内輪組み込み溝3bを介して外輪3に組み込まれたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り軸受に関し、特に内輪と外輪とを個別に製造して組み込んだ滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
外周面に凸曲面を有する内輪と、該外周面に対応する凹曲面を内周面に有する外輪との組合せからなる滑り軸受は、公知である。例えば、軸受孔を有する外方部材と、外方部材との間に環状の軸受隙間を介在させて軸受孔に挿入した内方部材とを有する滑り軸受であって、内方部材が溶融樹脂を硬化させた樹脂組成物からなり、かつ、外方部材と内方部材との間の軸受隙間が、内方部材の硬化時における樹脂収縮によって形成された滑り軸受が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、一対の内輪と外輪とが同軸に組み合わされて成る動圧軸受ユニットにおいて、内輪の外周面と、外輪の内周面とが、微小隙間を持って対抗するとともに軸の方向に対して平行な方向または直交する方向にある一対の面を有するように組み合わされ、内輪の外周面と外輪の内周面との少なくとも一方の動圧溝が形成されている動圧軸受ユニット(特許文献2参照)が知られている。また、合成樹脂製の内輪と、この内輪をその軸心を中心として回転自在となるように支持する合成樹脂製の外輪とを具備し、内輪は、支持する回転軸と共に回転するように当該回転軸を受容する孔と、軸心方向における中央部に配された大径外周面と、この大径外周面の径よりも小径であって当該大径外周面を軸心方向において挟んで配された一対の小径外周面とを有しており、外輪は、その軸心廻りで非回転となるように支持部材に嵌着される外輪本体と、この外輪本体の内周面に一体的に設けられていると共に内輪の一対の小径外周面の夫々を押圧して当該一対の小径外周面の夫々に摺動自在に接触する環状のシール部とを有している滑り軸受(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
その他、球面状の内周面を有する外輪の内側に、該内周面に摺接する球面状の外周面を有する内輪を組み付けてなり、外輪と内輪とを円滑に相対回転可能とした自動調心すべり軸受において、外輪は合成樹脂であり、両端面のうち少なくとも一方の端面に該端面の円周方向に沿って形成された溝と、該溝によって分けられた内周部および外周部とを備え、内周部は、内輪を組み付ける際に内周面を内輪の外周面に押されて溝側に歪み、内輪が組み付けられた状態では、歪みが復元して内輪の外周面を保持する自動調心すべり軸受(特許文献4参照)が知られている。
【0005】
一方、水中や薬品中あるいは高湿度雰囲気等の腐食雰囲気下において使用される耐食性の樹脂製玉軸受として、内輪及び外輪を曲げ弾性率2000〜6000MPaの範囲にあるポリアリーレンスルフィド(PAS)樹脂によって形成したもの(特許文献5参照)が知られている。この樹脂玉軸受は、特定の樹脂材料の選択により例えば#6000系列の深溝玉軸受において、ラジアル荷重2kgf/cm(1.96×10−1MPa)程度の高負荷化が可能となったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−32856号公報
【特許文献2】特開2004−293685号公報
【特許文献3】特開2007−127225号公報
【特許文献4】特開2007−100905号公報
【特許文献5】特開平10−47355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の滑り軸受は、外方部材を所定形状に成形した後、その軸受孔に溶融樹脂を充填し、この溶融樹脂を硬化させて内方部材を成形すると共に、内方部材と外方部材との間に、溶融樹脂の硬化に伴う樹脂収縮によって環状の軸受隙間を形成する方法(インサート成形)で製造されるが、成形後の収縮のバラツキにより、内輪と外輪との隙間が変動し、回転トルクが安定しないという問題がある。また、特許文献2および特許文献3に記載の滑り軸受は、部品点数が多く、組立が煩雑であるという問題がある。
【0008】
また、特許文献4に記載の滑り軸受は、外輪端面に形成された円周方向の溝の存在により高荷重条件で使用できないという問題がある。また、特許文献5に記載の樹脂製玉軸受は、耐荷重性、回転トルク性能は良好であるものの、構造が複雑であり、製造コストも高価であるという問題がある。
【0009】
また、外周面に凸曲面を有する内輪と、該外周面に対応する凹曲面を内周面に有する外輪との組合せからなる滑り軸受は、通常、その形状から外輪を射出成形の一発仕上げにより製造することは困難である。
【0010】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、後加工が不要な射出成形の一発仕上げによる製造が可能であり、部品点数が少なく低価格で、回転トルクが安定し、高荷重、腐食雰囲気下でも使用可能な滑り軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の滑り軸受は、凸曲面の外周面を有する合成樹脂製の内輪と、該外周面に対応する凹曲面の内周面を一部に有する合成樹脂製の外輪との組合せからなる滑り軸受であって、上記外輪の内周面は、上記外輪の軸方向断面において、軸方向に垂直に2等分割と径方向に2等分割の合計4等分割とし、外輪右端面方向の上側内周面が凹曲面であるとき、外輪左端面方向の上側内周面が上記凹曲面の底部から延びる直線面であり、外輪左端面方向の下側内周面が凹曲面であり、外輪右端面方向の下側内周面が上記凹曲面の底部から延びる直線面であり、上記外輪の内周面の対向する2箇所に、内輪組み込み溝が形成されており、上記内輪組み込み溝は、上記外輪の少なくとも一方の端面に開口して形成されており、上記内輪は、上記内輪組み込み溝を介して上記外輪に組み込まれたものであることを特徴とする。
【0012】
上記内輪組み込み溝は、外輪径方向の2等分割線上に形成され、2つの該内輪組み込み溝の底面が、開口する端面側の前記直線面を介して繋がった面であることを特徴とする。
【0013】
上記外輪は、上記合成樹脂の射出成形体であることを特徴とする。
【0014】
上記内輪は、該内輪の軸心と上記外輪の軸心とを直角にずらした状態で上記内輪組み込み溝を介して上記外輪に挿入された後、上記内輪および上記外輪を相対回転させて上記内輪の軸心と上記外輪の軸心とを合せることで、上記外輪に組み込まれたものであることを特徴とする。
【0015】
上記内輪組み込み溝の幅は、上記内輪の幅と同じ寸法であることを特徴とする。また、上記対向する内輪組み込み溝の底面間の距離は、上記内輪の外径と同じ寸法であることを特徴とする。
【0016】
上記凸曲面は、球面であることを特徴とする。また、上記内輪の外周面は、凸曲面の軸方向中央部の全周がフラット形状であることを特徴とする。特に、上記フラット形状は、上記内輪の外周面の軸方向断面において上記凸曲面の頂点位置からフラット面までの距離が0.05〜0.1mmであることを特徴とする。
【0017】
上記内輪の外周面または上記外輪の内周面に潤滑溝が形成されていることを特徴とする。
【0018】
上記内輪は、上記合成樹脂の射出成形体であることを特徴とする。
【0019】
上記合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと記す)樹脂、ポリイミド(以下、PIと記す)樹脂、およびポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと記す)樹脂から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする。
【0020】
上記滑り軸受は、水中、薬品中、高湿度雰囲気などの腐食雰囲気下において使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の滑り軸受は、凸曲面の外周面を有する合成樹脂製の内輪と、該外周面に対応する凹曲面の内周面を一部に有する合成樹脂製の外輪との組合せからなり、上記外輪の内周面は、上記外輪の軸方向断面において、軸方向に垂直に2等分割と径方向に2等分割の合計4等分割とし、外輪右端面方向の上側内周面が凹曲面であるとき、外輪左端面方向の上側内周面が上記凹曲面の底部から延びる直線面であり、外輪左端面方向の下側内周面が凹曲面であり、外輪右端面方向の下側内周面が上記凹曲面の底部から延びる直線面であり、上記外輪の内周面の対向する2箇所に、内輪組み込み溝が形成されており、上記内輪組み込み溝は、上記外輪の少なくとも一方の端面に開口して形成されており、上記内輪は、上記内輪組み込み溝を介して上記外輪に組み込まれたものであるので、内輪と外輪とを個別に射出成形で製造して内輪を外輪に組み込むことが可能であり、部品点数が少なく、樹脂製玉軸受と比べ低価格・短時間で製造できる。また、簡易な構造であり、高荷重条件でも使用可能となる。また、内輪などをインサート成形する必要がなく、内輪と外輪との隙間の管理が可能であり、回転トルクが安定する。
【0022】
上記外輪は上記構造により無理抜きなく射出成形が可能であり、射出成形体とすることで、軽量であり、容易に成形することができ、組み込み隙間によるマッチングが容易となる。
【0023】
また、上記内輪組み込み溝を、外輪径方向の2等分割線上に形成することで、金型をより単純な構造にすることができ、それにより滑り軸受の価格を低く抑えることができる。
【0024】
また、上記滑り軸受は、内輪の外輪への組み込みを、内・外輪の軸心を90°ずらした状態で内輪組み込み溝を介して内輪を外輪に挿入した後、内・外輪を相対回転させて軸心を合せることで行なうので、内・外輪の弾性変形などを介さず組み込みできる。特に、内輪組み込み溝の幅を内輪の幅と同じ寸法とし、対向する内輪組み込み溝の底面間の距離を内輪の外径と同じ寸法とすることで、内輪を外輪に組み込む際に、外輪軸心と内輪軸心とを90°ずらした状態で、内輪の幅の少なくとも一端を、外輪の内輪組み込み溝の少なくとも一端に合わせて、内輪を外輪に容易に組み込みできる。
【0025】
また、上記滑り軸受において、内輪外周面の凸曲面を球面とすることで、揺動運動部への使用も可能となる。
【0026】
また、内輪外周面の凸曲面の軸方向中央部の全周をフラット形状とすることで、このフラット形状の部分にパーティングライン(以下、PLと記す)を設定し、内輪を機械加工することなく射出成形のみで仕上げることができる。また、このフラット形状により形成される、外輪内周面と内輪外周面との間の隙間により、水や薬液などが摺動面全体に循環しやすくなり潤滑性を向上させることができる。また、内輪の外輪への組み込み性も向上させることができる。
【0027】
また、上記滑り軸受において、内輪の外周面または外輪の内周面に潤滑溝を形成することで、水や薬液などが摺動面全体に循環しやすくなり潤滑性を向上させることができる。
【0028】
また、上記内輪を上記合成樹脂の射出成形体とすることで、軽量であり、容易に成形することができ、組み込み隙間によるマッチングが容易となる。
【0029】
また、上記滑り軸受において、上記合成樹脂をPEEK樹脂、PI樹脂、PPS樹脂から選ばれた少なくとも一つとすることで、耐荷重性に優れ、水中、薬品中または高湿度の腐食雰囲気下において使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の滑り軸受の斜視図である。
【図2】図2(a)は本発明の滑り軸受の正面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A線で切断した断面図であり、図2(c)は本発明の滑り軸受の背面図である。
【図3】図3(a)は本発明の滑り軸受の外輪の正面図であり、図3(b)は図3(a)のB−B線で切断した断面図であり、図3(c)は本発明の滑り軸受の外輪の背面図であり、図3(d)は異なる部位に内輪組み込み溝を形成した外輪の正面図である。
【図4】本発明の滑り軸受を軸方向に切断した部分断面図である。
【図5】本発明の滑り軸受の内輪を軸方向に切断した部分断面図である。
【図6】潤滑溝を形成した内輪を軸方向に切断した部分断面図である。
【図7】本発明の滑り軸受の組み込み時の態様を示す斜視図である。
【図8】水中ラジアル試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の滑り軸受の一実施例について図1および図2により説明する。図1は本発明の滑り軸受の斜視図を、図2(a)は本発明の滑り軸受の正面図を、図2(b)は図2(a)のA−A線で切断した断面図を、図2(c)は本発明の滑り軸受の背面図をそれぞれ示す。図1および図2に示すように、本発明の滑り軸受1は、凸曲面の外周面2aを有する内輪2と、該外周面2aに対応する凹曲面を内周面3aに有する外輪3との組合せからなり、外輪3と内輪2とを相対回転可能としている。内輪2に軸受孔4が形成されている。内輪2と外輪3は、それぞれ合成樹脂を成形したものである。内輪2と外輪3とを個別に製造した後に、組み合せることで嵌合隙間を管理できる。
【0032】
本発明の滑り軸受の外輪について図3により説明する。図3(a)は本発明の滑り軸受の外輪の正面図を、図3(b)は図3(a)のB−B線で切断した断面図を、図3(c)は本発明の滑り軸受の外輪の背面図を、図3(d)は図3(a)〜(c)とは異なる部位に内輪組み込み溝を形成した外輪の正面図をそれぞれ示す。外輪3の内周面3aは、外輪3の軸方向断面(図3(b))において、軸方向に垂直に2等分割と径方向に2等分割の合計4等分割とし、(1)外輪右端面3c1方向の上側内周面3a1が凹曲面であるとき、外輪左端面3c2方向の上側内周面3a4が上記凹曲面の底部3dから延びる直線面であり、(2)外輪左端面3c2方向の下側内周面3a3が凹曲面であり、外輪右端面3c1方向の下側内周面3a2が上記凹曲面の底部3eから延びる直線面である。さらに、外輪3の内周面3aの対向する2箇所に、内輪組み込み溝3bが形成されており、内輪組み込み溝3bは、外輪3の少なくとも一方の端面(図3(a)〜(c)では3c1)に開口して形成されている。なお、「直線面」とは、軸方向断面において直線で表される面であり、該直線面は、径方向断面では円弧状の内周面である。
【0033】
図3(d)に示すように、内輪組み込み溝3bの形成位置によっては、一方の溝が完全に直線面の部分に位置する。このような場合は、他方の溝に対向する該直線面の部分を一方の溝として扱う。
【0034】
外輪3を径方向の2等分割線3fで2等分割すると、内輪組み込み溝3bにかかる部分を除いて、一方の内周面3aは上記(1)の構造となり、他方の内周面3aは上記(2)の構造となる。また、上記構造において、外輪3の直線面の部分は、内輪2と接触しないため開放部分となる。該開放部分により、水や薬液などが摺動面全体に循環しやすくなり潤滑性を向上させる効果も得られる。
【0035】
外輪3の内周面3aを上記(1)(2)の構造とすることで、外輪を射出成形する際に無理抜きせずに製造することが可能となる。例えば、外輪右端面3c1方向を固定側型板で製造し、外輪左端面3c2方向を可動側型板で製造する場合、外輪右端面3c1方向の下側内周面3a2と外輪左端面3c2方向の下側内周面3a3を固定側型板で製造し、外輪右端面3c1方向の上側内周面3a1と外輪左端面3c2方向の上側内周面3a4を可動側型板で製造する。このように径方向の2等分割線3fを境に、固定側型板と可動側型板とで外輪3の内周面3aを形成することによって、射出成形での無理抜きが不要となる。このため、外輪3を射出成形により容易に成形することができる。
【0036】
内輪組み込み溝3bは、図3に示すように、外輪3の径方向の2等分割線3f上に形成されていることが好ましい。ここで、2等分割線3f上に形成されるとは、外輪3の径方向断面において、内輪組み込み溝3bの中心軸(対向する2箇所の内輪組み込み溝3bの溝幅中心を結んだ軸)が、2等分割線3fと重なることをいう。この場合、内輪組み込み溝3bは、上記(1)の構造より、径方向の2等分割線3fから内輪幅寸法の1/2寸法だけ、凹曲面である外輪右端面3c1方向の上側内周面3a1が抜かれた形状として形成されている。また、2つの内輪組み込み溝3bの底面3b1、3b2が、開口する端面3c1側の直線面3a2を介して繋がった面となっている。すなわち、底面3b1と、底面3b2と、開口する端面側の直線面3a2とで、一つの直線面が形成されている。内輪組み込み溝3bをこの位置とすることで、金型をより単純な構造にすることができ、それにより滑り軸受の価格を低く抑えることができる。
【0037】
また、内輪組み込み溝3bは、外輪3の少なくとも一方の端面に開口するように内周面3aにおける該端面側において対向する2箇所に形成すればよく、両端面3c1、3c2に開口するように内周面3aにおける両端面側において対向する2箇所にそれぞれ形成してもよい。なお、両端面3c1、3c2に内輪組み込み溝3bを形成する場合は、一方の端面3cにおける内輪組み込み溝3bに対して、他方の端面3cにおける内輪組み込み溝3bを中心軸から角度をずらして形成すると、内輪2を外輪3に組み込む際に、誤って内輪2が他方の内輪組み込み溝3bから落下することを防ぐことができる。内輪組み込み溝3bのずらす角度は45°〜90°が望ましいが、90°ずらすことが最も望ましい。
【0038】
図4は、本発明の滑り軸受を軸方向に切断した部分断面図である。図4に示すように、滑り軸受1は、軸心に対して凸状のR形状(凸曲面)の外周面2aを有する内輪2と、対応する凹状のR形状(凹曲面)の内周面3aを一部に有する外輪3とで構成される。特に、内輪2の外周面2aを球面とすることが好ましく、この場合、外輪3の内周面3aは対応する球面とする。
【0039】
図5は、本発明の滑り軸受の内輪を軸方向に切断した部分断面図である。図5に示すように、滑り軸受において回転する側の内輪2は、外周面2aの凸曲面の軸方向中央部をフラット形状とすることが好ましい。また、該フラット形状は、外周面2aの周方向全周にわたって設けることが好ましい。内輪2を樹脂の射出成形体とする場合、このフラット形状の部分にパーティングライン(PL)を設定することで、PL痕の削除工程を省略することができる。また、このフラット形状により形成される、外輪内周面と内輪外周面2aとの間の隙間により、水や薬液などが摺動面全体に循環しやすくなり潤滑性を向上させることができる。
【0040】
上記フラット形状は、内輪2の外周面2aの軸方向断面において凸曲面の頂点位置からフラット面までの距離dが0.05〜0.1mmである形状とすることが好ましい。フラット面までの距離dが0.05mm未満であると、隙間が小さ過ぎて、PL痕が引っかかることによる回転トルクの上昇等が懸念され、また、水や薬液などがこの隙間に循環しにくくなり潤滑性が向上しない。一方、フラット面までの距離dが0.1mmをこえると、フラット面が広くなりすぎて十分な揺動角が確保できなくなるので好ましくない。
【0041】
本発明の滑り軸受の内輪に形成された潤滑溝の例を図6に示す。図6(a)および図6(b)は、内輪を軸方向に切断した部分断面図である。図6(a)に示す例では、内輪2の外周面2aおよび端面に軸方向の潤滑溝2bが形成されている。なお、軸方向の潤滑溝2bは、少なくとも内輪2の外周面2aに形成されていればよい。この軸方向の潤滑溝2bは、外周面2aに周方向で等間隔に少なくとも10箇所形成されている。軸方向の潤滑溝2bは、幅1〜2mm、深さ0.5mm程度であることが好ましい。潤滑溝2bの幅が2mmをこえると受圧面積が少なくなり好ましくなく、幅が1mm未満では水や薬品が循環しにくくなり好ましくない。
【0042】
図6(b)に示す例では、内輪2の外周面2aおよび端面に形成された軸方向の潤滑溝2bに加えて、周方向の潤滑溝2cが、内輪2の外周面2aの軸方向中央部に形成されている。潤滑溝2cは、幅0.5〜2.5mm、深さ0.5mm程度の全周溝であることが好ましい。潤滑溝2cの幅が2.5mmをこえると受圧面積が少なくなり好ましくなく、幅が0.5mm未満では水や薬品が循環しにくくなり好ましくない。
【0043】
また、上記した軸方向の潤滑溝および周方向の潤滑溝は、外輪の内周面に設けてもよい。この場合、軸方向の潤滑溝は、外輪の内周面に周方向で等間隔に少なくとも10箇所形成され、周方向の潤滑溝は、外輪の内周面の軸方向中央部に形成される。これらの潤滑溝の幅・深さ等については、上記内輪の外周面に形成する場合と同様である。なお、これらの潤滑溝は、内輪の外周面および外輪の内周面の双方に形成してもよい。
【0044】
図7は、本発明の滑り軸受の組み込み時の態様を示す斜視図である。本発明の滑り軸受の組み込み時は、まず、内輪2の軸心と、外輪3の軸心とを90°ずらした状態で(図7(a))、内輪2を外輪3の軸方向に進行させ、内輪2を内輪組み込み溝3bを介して外輪3に挿入する(図7(b))。この際、外輪3の内周面3aが挿入方向からみて軸方向に垂直に2等分割線以降は凹曲面であり小径となるので、それ以上進行できなくなる(図7(c)、図7(c’))。なお、図7(c’)は、図7(c)を背面より見た図である。次に、この状態から、内輪2と外輪3とを相対回転(90°回転)させ(図7(d))、内輪2の軸心と外輪3の軸心とを一致させることで、内輪2を外輪3に挿嵌させた滑り軸受1を得ることができる(図7(e))。
【0045】
内輪組み込み溝3bの幅は、内輪2の幅と同じ寸法とすることが好ましい。また、対向する内輪組み込み溝3bの底面間の距離を内輪2の最大外径と同じ寸法とすることが好ましい。内輪組み込み溝3bの寸法を上記寸法とすることで、内輪2を外輪3に組み込む際に、外輪軸心と内輪軸心とを90°ずらした状態で、内輪2の幅の少なくとも一端を、外輪3の内輪組み込み溝3bの少なくとも一端に合わせて、内輪を外輪に容易に組み込みできる。
【0046】
本発明の滑り軸受において、外輪および内輪は合成樹脂で形成される。合成樹脂の種類は特に限定されないが、少なくとも該軸受の使用条件(耐熱性、機械的強度など)に見合う特性を有する合成樹脂である必要がある。また、射出成形可能な合成樹脂であれば製造が容易であり、寸法精度も均一にできるので嵌合隙間を管理する上でも好ましい。
【0047】
内輪および外輪は潤滑特性および機械強度に優れた合成樹脂を用いることが好ましい。例えば、ポリアセタール(POM)樹脂、ナイロン樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、分子鎖中に芳香族環を有する半芳香族ナイロンなど)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)樹脂などの射出成形可能なフッ素樹脂、射出成形可能なPI樹脂、PPS樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、PEEK樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを挙げることができる。これらの各合成樹脂は単独で使用してもよく、2種類以上混合したポリマーアロイであってもよい。あるいは、上記以外の潤滑特性の低い合成樹脂に上記の合成樹脂を配合したポリマーアロイであってもよい。
【0048】
これらの合成樹脂の中で、耐荷重性に優れるとともに、水中、薬品中または高湿度の腐食雰囲気などにおいて耐腐食性に優れることから、PEEK樹脂、射出成形可能なPI樹脂、PPS樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂を用いることで、本発明の滑り軸受は、腐食性雰囲気下においても好適に使用できる。
【0049】
また、これらの合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、各種鉱物性繊維(ウィスカー)を配合して強度を高めてもよい。さらに、固体潤滑剤等と併用してもよい。また、これらの合成樹脂に、固体潤滑剤や潤滑油を添加することで潤滑特性を高めることが可能である。固体潤滑剤として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、黒鉛、二硫化モリブデンなどを挙げることができる。
【実施例】
【0050】
実施例1
外輪は、特殊充填材入りPEEK材(ベアリーPK5031)を用い、図3のとおり射出成形で製造した。内輪は、PTFE樹脂を30重量%配合したPEEK樹脂からなる摺動性樹脂材を用い、射出成形で製造した。これらの内輪と外輪を組合せて供試軸受(図2参照)を得た。得られた供試軸受を、以下に示す水中ラジアル試験にて一定時間運転後の摩耗量を測定した。結果を表1に併記する。
【0051】
実施例2
実施例1と同じ内輪を製造した後、内輪外周面の周方向および軸方向に潤滑溝を形成した。周方向の潤滑溝は幅方向の中央部全周に、幅2mm、深さ0.5mmで、軸方向の潤滑溝は、幅1.5mm、深さ0.5mmの潤滑溝を周方向で等間隔に10箇所形成した。外輪は実施例1と同じものを用い、これらの内輪(図6(b)参照)と外輪(図2および図3の外輪3参照)を組合せて供試軸受を得た。得られた供試軸受を、以下に示す水中ラジアル試験にて一定時間運転後の摩耗量を測定した。結果を表1に併記する。
【0052】
比較例1
比較のため、供試軸受として内輪内径、外輪外径およびこれらの幅が同寸法のNTN精密樹脂社製:樹脂製転がり軸受(ボールベアリング)を用いた。この樹脂製転がり軸受は、内輪、外輪にベアリーPK5031を用い、射出成形で素材を成形した後、機械加工にて全面仕上げを行ない製造したものである。保持器はPPS樹脂の射出成形品であり、ボール(11個)はアルミナセラミックス製である。結果を表1に併記する。
【0053】
<水中ラジアル試験>
試験は、図8に示す水中ラジアル試験機を用い、水5中にて実施した。ハウジング6に組み付けた供試軸受(滑り軸受)1に、エアーシリンダー7で、荷重をかけた。軸8はカップリング9を介しモータ10にて回転させ、初期回転トルクを測定するとともに50時間での隙間増加量を確認した。試験条件は、相手材にSUS304の旋削加工品(表面粗さRa0.8μm)、荷重は200N、ローラ回転数は800rpm、雰囲気は水中、試験時間は50hr(時間)、で試験を行なった。評価方法は、隙間増加量が0.02mm未満であるものは、液中での耐高荷重性に特に優れるとして、「◎」を、0.02〜0.1mmであるものは、液中での耐高荷重性に優れるとして、「○」を、記録する。
【0054】
【表1】

【0055】
水中ラジアル試験の結果、実施例1および実施例2の滑り軸受は、比較例1の樹脂製転がり軸受と比べ約20%の初期回転トルクアップであり問題のない水準であった。表1の結果からも明らかなように、実施例1および実施例2の滑り軸受は、比較例1の樹脂製転がり軸受と機能的に遜色無く、構成部品や製造工程が少ないことから構造的に遥かに優れており、かつ品質的、コスト的にも有利であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の滑り軸受は、内輪と外輪とを個別に製造して内輪を外輪に組み込むことが可能であり、部品点数が少なく、樹脂製転がり軸受(ボールベアリング)と比べ低価格で製造でき、回転トルクが安定し、高荷重、腐食雰囲気下においても使用可能であるので、特殊環境を含めた種々の用途において、樹脂製転がり軸受に替えて好適に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 滑り軸受
2 内輪
2a 内輪の外周面
2b 軸方向の潤滑溝
2c 周方向の潤滑溝
3 外輪
3a 外輪の内周面
3b 内輪組み込み溝
3c 外輪の端面
3d、3e 底部
3f 外輪径方向の2等分割線
4 軸受孔
5 水
6 ハウジング
7 エアーシリンダー
8 軸
9 カップリング
10 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸曲面の外周面を有する合成樹脂製の内輪と、該外周面に対応する凹曲面の内周面を一部に有する合成樹脂製の外輪との組合せからなる滑り軸受であって、
前記外輪の内周面は、前記外輪の軸方向断面において、軸方向に垂直に2等分割と径方向に2等分割の合計4等分割とし、外輪右端面方向の上側内周面が凹曲面であるとき、外輪左端面方向の上側内周面が前記凹曲面の底部から延びる直線面であり、外輪左端面方向の下側内周面が凹曲面であり、外輪右端面方向の下側内周面が前記凹曲面の底部から延びる直線面であり、
前記外輪の内周面の対向する2箇所に、内輪組み込み溝が形成されており、前記内輪組み込み溝は、前記外輪の少なくとも一方の端面に開口して形成されており、
前記内輪は、前記内輪組み込み溝を介して前記外輪に組み込まれたものであることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
前記内輪組み込み溝は、外輪径方向の2等分割線上に形成され、2つの該内輪組み込み溝の底面が、開口する端面側の前記直線面を介して繋がった面であることを特徴とする請求項1記載の滑り軸受。
【請求項3】
前記外輪は、前記合成樹脂の射出成形体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の滑り軸受。
【請求項4】
前記内輪は、該内輪の軸心と前記外輪の軸心とをずらした状態で前記内輪組み込み溝を介して前記外輪に挿入された後、前記内輪および前記外輪を相対回転させて前記内輪の軸心と前記外輪の軸心とを合せることで、前記外輪に組み込まれたものであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の滑り軸受。
【請求項5】
前記内輪組み込み溝の幅は、前記内輪の幅と同じ寸法であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項6】
前記対向する内輪組み込み溝の底面間の距離は、前記内輪の外径と同じ寸法であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項7】
前記凸曲面は、球面であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項8】
前記内輪の外周面は、前記凸曲面の軸方向中央部の全周がフラット形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項9】
前記フラット形状は、前記内輪の外周面の軸方向断面において前記凸曲面の頂点位置からフラット面までの距離が0.05〜0.1mmであることを特徴とする請求項8記載の滑り軸受。
【請求項10】
前記内輪の外周面または前記外輪の内周面に潤滑溝が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項11】
前記内輪は、前記合成樹脂の射出成形体であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項12】
前記合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載の滑り軸受。
【請求項13】
前記滑り軸受は、腐食雰囲気下において使用されることを特徴とする請求項12記載の滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−72828(P2012−72828A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217578(P2010−217578)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】