説明

滑り軸受

【課題】スラスト方向のメタル摺動面における局所的な接触応力を低減し、耐久性を向上する。
【解決手段】半割滑り軸受12の各スラストメタル部12b,12cのうち、クランクアーム5c側のスラストメタル部12cは通常の平面のフランジ状に形成され、大径部5a側のスラストメタル部12bには、メタル摺動面にクラウニング面12fが形成されている。クラウニング面12fは大径部5aに向かって凸となる曲面状に形成され、このクラウニング面12fにより、大径部5aにたわみ或いは傾斜が生じた場合においても、大径部5aとスラストメタル部12bとの間の接触応力を減少させることが可能となり、スラストメタル部12b周縁部と大径部5aとの片当たりを吸収して焼付・疲労損傷を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタル摺動面でスラスト軸受部を形成した滑り軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、メタル摺動面で軸受を形成する滑り軸受は、様々な産業分野で用いられている。例えば、自動車等の車両においては、エンジンのクランク軸やカム軸等の回転軸に設けられているジャーナルの多くを、滑り軸受によってシリンダブロックやシリンダヘッド等のエンジン本体に支持している。
【0003】
このような滑り軸受では、例えば、クランク軸を支持する滑り軸受けの場合、エンジン運転中のシリンダ内の爆発圧力による軸荷重が曲げ荷重として作用するため、メタル摺動面に局部的な当たりが発生し易く、軸受の損傷や焼付き等を誘発する虞がある。
【0004】
このため、特許文献1には、平軸受の軸受内面の両端部に、軸受端面において内面から一定深さ削り込み、同削り込み部から内面に滑らかに接続される曲面状のクラウニング面を有する逃げ部を形成することで、クランク軸等の回転軸が爆発圧力等の軸荷重によって撓み変形して軸受内において傾斜しても、クラウニング面を有する逃げ部により、軸受内面を回転軸の変形に沿った軸受面として軸受端部における局部的な片当たりの発生を阻止し、軸荷重による軸受荷重を軸受面に均等に分布させて軸受圧力を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−177758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、クランク軸等の回転軸を支持する滑り軸受としては、特許文献1に開示されているような平軸受のみならず、ラジアルメタルとスラストメタルとを一体的に備え、ラジアル荷重を受けつつスラスト方向の移動を規制する滑り軸受がある。このような滑り軸受では、回転軸の撓みによるメタル摺動面の局所的な片当たりがスラスト方向で顕著となり、局所的な接触応力の増大による焼付・疲労損傷を生じ易くなる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、スラスト方向のメタル摺動面における局所的な接触応力を低減し、耐久性を向上することのできる滑り軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による滑り軸受は、回転軸を回動自在に支持するラジアル軸受部と、前記ラジアル軸受部の端部に設けられて前記回転軸の軸方向の移動を規制するスラスト軸受部とを有し、前記スラスト軸受部のメタル摺動面に、少なくとも外周側を曲面形状に形成したクラウニング面を設けるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スラスト軸受部のメタル摺動面に設けたクラウニング面により局所的な接触応力を低減することができ、耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の滑り軸受が適用される車両のパワートレーンを示す概略構成図
【図2】図1のA部拡大断面図
【図3】図2のB−B’線断面図
【図4】半割滑り軸受の斜視図
【図5】スラスト軸受部の要部拡大図
【図6】スラストメタルの磨耗状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は車両のパワートレーンであり、駆動源であるエンジン2と、このエンジン2の出力側に連結されているトルクコンバータ3と、このトルクコンバータ3の出力側に連結されている自動変速機4とを有している。トルクコンバータ3は、コンバータケース3aに固定されるポンプインペラ3bと、このポンプインペラ3bに対向するタービンランナ3cと、ステータ3dとを備えている。
【0012】
また、コンバータケース3aがエンジン2の出力軸2aに連設され、一方、タービンランナ3cが自動変速機4の変速機入力軸4aに連設されている。エンジン2の出力軸2aからの出力を受けてポンプインペラ3bが回転すると、貯留されている作動油(ATF)が循環し、この作動油を介してタービンランナ3cに動力が増幅されて伝達され、この動力が自動変速機4の変速機入力軸4aに伝達される。
【0013】
自動変速機4は、図1においては無段変速機を示している。自動変速機4は、変速機入力軸4aにプライマリプーリ4bが軸装され、変速機出力軸4cにセカンダリプーリ4dが軸装され、両プーリ4b,4dにベルトやチェーン等の巻掛式伝達手段4eが巻回されており、両プーリ4b,4dの溝幅(プーリ幅)を、油圧制御等により相対的に変化させることで所望の変速比が設定される。
【0014】
エンジン2の出力軸2aは、回転軸としてのクランク軸5の後端に一体形成され、エンジン2の後端から後方へ突出されている。図2に示すように、クランク軸5は、出力軸2aの内軸側にフランジ部としての大径部5aが形成され、この大径部5aから先端側が、エンジン2のシリンダブロックに設けられているクランク室6に配設されている。
【0015】
また、このクランク軸5は、大径部5a内軸側にクランクジャーナル5bとクランクピン(図示せず)とがフランジ部としてのクランクアーム5cを介して交互に形成されて、エンジン2の前部方向へ延在されている。尚、エンジン2の前部側に配設されているクランク軸5、及びその周辺構造は従来と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0016】
クランク軸5の大径部5aは、エンジン2の後端外壁に固設されているオイルシールリテーナ7にオイルシール8を介して油密を保持した状態で回動自在に挿通されている。また、この大径部5aに隣接するクランクジャーナル5bが、クランク室6に形成されている、各気筒間を仕切る隔壁6aの下端に形成された軸受ハウジング6bと、この軸受ハウジング6bにボルト締めされる軸受キャップ9とで形成される円環状の軸受孔10に、滑り軸受11を介して摺動自在に支持されている。
【0017】
軸受孔10は、図3に示すように、軸受ハウジング6bと軸受キャップ9とに形成されている断面半円状の軸受面10a,10bが突合わされて形成される。一方、滑り軸受11は、各軸受面10a,10bに装着される同一形状の2つの半割滑り軸受12が突合わされて円環状に形成される。尚、図3では、スラストメタル部12bの一部が破断された状態で示されている。
【0018】
半割滑り軸受12は、鋼板等の裏金に銅合金やアルミニウム合金等の合金をライニングして形成されたものであり、図4に示すように、軸受面10a,10bに装着されるスラスト軸受部としてのラジアルメタル部12aと、その軸方向両側にフランジ状に形成されたスラスト軸受部としてのスラストメタル部12b,12cとを有している。ラジアルメタル部12aの、クランクジャーナル5bが摺接する内周面の幅方向中央には、油溝12dが円周方向に沿って形成され、その途中に油孔12eが穿設されている。尚、隔壁6aには、油孔12eに連通し、この油孔12eを経て油溝12dに潤滑油を供給する潤滑油路6cが形成されている。
【0019】
尚、ラジアルメタル部12aとスラストメタル部12b,12cとは、曲げ加工や溶接等により予め一体的に形成されるものであっても良く、或いは、それぞれ個別に制作されて装着時に取付けられ、一体化されるものであっても良い。
【0020】
半割滑り軸受12の各スラストメタル部12b,12cは、軸受ハウジング6bと軸受キャップ9の軸受面10a,10bの両側に形成されている段部10c,10dに装着される。半割滑り軸受12のラジアルメタル部12aを軸受面10a,10bに装着し、その両側のスラストメタル部12b,12cを段部10c,10dに装着した状態では、図5(及び図2)に示すように、一方のスラストメタル部12bが大径部5aの前端面に対設され、他方のスラストメタル部12bがクランクアーム5cに対設される。
【0021】
本実施の形態においては、クランクアーム5c側のスラストメタル部12cは、通常の平面のフランジ状に形成され、大径部5a側のスラストメタル部12bには、大径部5a側のメタル摺動面にクラウニング面12fが形成されている。本実施の形態においては、図5に示すように、クラウニング面12fは大径部5aに向かって凸となる曲面状に形成されており、このクラウニング面12fにより、大径部5aにモーメントが加わり、大径部5aにたわみ或いは傾斜が生じた場合においても、大径部5aとスラストメタル部12bとの間の接触応力を減少させることが可能となり、スラストメタル部12b周縁部と大径部5aとの片当たりを吸収して焼付・疲労損傷を防止することができる。
【0022】
尚、クラウニング面12fは、少なくともスラストメタル部12cの外周側に設けられていれば良く、スラストメタル部12cの外周側に、軸方向断面がテーパ形状或いは曲線形状のクラウニング面を形成しても良い。
【0023】
以下、本実施の形態におけるパワートレーン1の作動に伴う滑り軸受12の作用について説明する。
【0024】
エンジン2が稼働するとクランク軸5が回転し、その出力が出力軸2aからトルクコンバータ3のコンバータケース3aを介してポンプインペラ3bに伝達されて、このポンプインペラ3bが回転する。このポンプインペラ3bの回転により作動油に流れが生じ、この作動油の流れの慣性力によってタービンランナ3cが回転する。その際、ステータ3dが作動油を整流してポンプインペラ3bに還元させることでトルク増幅作用が発生する。そして、所定にトルク増幅された出力が自動変速機4の変速機入力軸4aに入力され、この自動変速機4で所定に変速された駆動力が、変速機出力軸4cから駆動輪に伝達されて、車両が走行する。
【0025】
一方、クランク軸5のクランクジャーナル5bと、これを回動自在に支持する滑り軸受11との間には、隔壁6aに穿設されている潤滑油路6cから潤滑油が供給される。潤滑油路6cから供給された潤滑油は、滑り軸受11を構成する各半割滑り軸受12の油孔12eを通り、ラジアルメタル部12aの内周に形成されている油溝12dに吐出され、この油溝12dから、ラジアルメタル部12aとクランクジャーナル5bとの間に流入して、両者間を潤滑する。そして、ラジアルメタル部12aとクランクジャーナル5bとの間を潤滑した潤滑油は、ラジアルメタル部12aの両側に形成されている一方のスラストメタル部12bと大径部5aの前端面との間、及び他方のスラストメタル部12cとクランクアーム5cとの間を潤滑してクランク室6に飛散される。
【0026】
ここで、エンジン2は回転し、自動変速機4のギアは噛み合っているが、車両は停止している状態(所謂ストール状態)においては、ポンプインペラ3bはクランク軸5と同じスピードで回転することになる。一方、車両は停止しているため、変速機入力軸4aは回転せず、タービンランナ3cも回転しない状態となり、作動油はポンプインペラ3bから回転方向に沿って遠心力によって流れ出す。
【0027】
このとき、タービンランナ3cの回転は停止しているため、作動油は、タービンランナ3cに形成されている多数のタービンブレードとの間で摩擦熱が発生し、この摩擦熱により、作動油自体が熱膨張するばかりでなく、トルクコンバータ3の構成部品も熱膨張する。その結果、コンバータケース3aを介して、出力軸2aにクランク軸5を先端方向へ押圧するスラスト荷重が作用する。また、エンジン2の前面側からは、図示しないカム軸駆動機構を介して、クランク軸5を後端方向(変速機方向)へ押圧するスラスト荷重が作用する。
【0028】
尚、変速機が手動変速機の場合であっても、同様に、クランク軸5を先端方向へ押圧するスラスト荷重が発生する。すなわち、手動変速機の摩擦クラッチを締結させると、この摩擦クラッチからの押圧力により、クランク軸5を先端方向へ押圧する力が発生し、同様のスラスト荷重が発生する。
【0029】
このように、クランク軸5に対して、前後方向からのスラスト荷重やピストンの上下運動によるモーメントが作用すると、クランク軸5にたわみが生じ、大径部5a側面と半割滑り軸受12の後端側のスラストメタル部12bとの間の隙間が不均一となる。このとき、従来の従来の半割滑り軸受では、スラストメタル部が平面のフランジ状に形成されているため、スラストメタル部12bと大径部5aとの間に片当たりが発生し、局所的な接触応力が増大して焼付・疲労損傷を生じ易くなる。
【0030】
これに対し、本実施の形態における半割滑り軸受12では、後端側のスラストメタル部12cにクラウニング面12fを設けているので、クランク軸にたわみ変形を生じた場合であっても、局所的な接触応力を低減することができる。図6は、所定の試験条件でエンジン2を連続運転したときのスラストメタル部12bの表面磨耗量の計測データを示している。図6(a)に示す径方向L1のメタル表面及び周方向L2のメタル表面において、図6(b),(c)に示す磨耗量δは、何れも図中に破線で示す従来の平面状のスラストメタルにおける磨耗量よりも大幅に低減していることがわかる。
【0031】
このように、スラストメタル部12bにクラウニング面を設けることにより、メタルの摩耗や焼付き等の損傷を防止して耐久性を向上し、摩擦係数が低く、摺動損失が小さいスラスト軸受を実現することができる。しかも、スラストメタルの耐高面圧化を図ることができることから、スラストメタル部12bの小径化と相対的に安価なメタル材料の使用が可能となり、製品コストの低減に寄与することができる。
【符号の説明】
【0032】
5 クランク軸
5a 大径部
5b クランクジャーナル
10 軸受孔
10a,10b 軸受面
11 滑り軸受
12 半割滑り軸受
12a ラジアルメタル部
12b,12c スラストメタル部
12f クラウニング面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回動自在に支持するラジアル軸受部と、前記ラジアル軸受部の端部に設けられて前記回転軸の軸方向の移動を規制するスラスト軸受部とを有し、
前記スラスト軸受部のメタル摺動面に、少なくとも外周側を曲面形状に形成したクラウニング面を設けることを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
前記ラジアル軸受部と前記スラスト軸受部とを断面半円形の半割形の軸受とすることを特徴とする滑り軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19517(P2013−19517A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155112(P2011−155112)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】