説明

滴下用のノズル孔構造、このノズル孔構造を有する滴下ノズル

【課題】 気泡の混入を抑制・阻止して、滴下させる液滴の容積を確実に一定のものに維持・保証し得るノズル孔構造及び滴下ノズルを提供する。
【解決手段】 外部に臨んで開口し倒立状態にしたときに液滴が形成される出口部312からノズル孔下端の入口部311まで筒壁32を外壁34の下端近傍位置まで延ばす。ノズル孔31として出口部から内径急変部位313までの間を出口部の開口径Dでほぼ一定とし、内径急変部位において入口部311の極小の開口径dまで滑らかではあるが急激に内径を絞り、スクイズ戻りによる吸引外気に基づく気泡を分割・細径化しかつ入口部から飛び出る流速を増速させる。入口部の外周面321を所定挟角以下の尖った円錐状にし気泡を離脱し易くして付着を阻止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば薬液を眼球に対し滴下投与する際に用いられる点眼ノズルの如く液体を滴下するために用いられるノズル孔構造、及び、かかるノズル孔構造を有する滴下ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
滴下用のノズル孔構造としては、例えば上記の如き点眼ノズルに形成されたものが従来より知られている。かかる点眼ノズルは薬液が装填された容器本体の口部に装着されて点眼容器として構成されている。そして、滴下時には滴下する患者本人が点眼容器を持って眼球の上に倒立状態で保持し、容器本体を押圧(スクイズ)操作することにより点眼ノズルの出口開口に液滴を形成しこれを眼球に滴下投与する、という用い方がなされている。
【0003】
このような点眼ノズルとしては、ノズル孔下端(入口)において容器本体側に開口する第1室と、ノズル孔上端(出口)において外部側に開口する第2室と、これら第1室及び第2室を互いに連通する小径の絞り室とでノズル孔を構成したもの(特許文献1)、容器本体内側のノズル孔下端(入口)から外部側のノズル孔上端(出口)まで末広がり状に形成しノズル孔上端の開口の方を大径に設定したもの(特許文献2)、が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−275322号公報
【特許文献2】特開2000−25778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の如き点眼容器においては、病症を確実に治癒させるためにその薬液は薬剤設計に従い確実に規定量を投与しなければならず、よって点眼ノズルの先端に形成される液滴の大きさは、その点眼容器の使用状況に関わらず一定サイズに形成され確実に一定量の薬液量が投与される必要がある。そして、上記液滴の大きさは投与すべき薬液の量から選択・決定され、決定された液滴の大きさからノズル孔先端の形状(主として先端の出口部の開口径)が決定されることになる。
【0006】
しかしながら、液滴はその滴内部が薬液のみで満たされることにより初めて安定した容積を維持し得るものであり、仮に滴内部に気泡が含まれることになると、その一つの液滴分の薬液量は規定量よりも少なくなる上に、眼球上で気泡がはじけてしまう結果、薬液の投与量が不安定にばらつくことになってしまう。又さらに、含まれる気泡の分だけスクイズ操作量も増大してしまうことになる。
【0007】
滴内部を薬液で満たすためには薬液中に気泡を発生させないような粘度に薬液をコントロールすることが必要になるが、薬液中に気泡がたとえ存在しなくても、ノズル孔基端の開口付近に気泡が付着していると、その気泡が容器本体内からノズル孔先端側へ向かう薬液の流れに乗って、つまり薬液に巻き込まれてノズル孔先端まで押し出され、ノズル孔先端に形成される液滴内部に混入してしまうことになる。
【0008】
ここで、点眼容器を倒立状態にして眼球へ滴下操作をして容器本体に対するスクイズ操作を解除すると、そのスクイズ戻り(容器本体の弾性復元)によって、吐出された液滴の薬液量と少なくとも同一容積の外気がノズル孔内を先端から基端へと通過して容器内部へ必ず吸引されることになる。このとき、容器本体は倒立状態にあってノズル孔基端の開口は薬液中に浸漬された状態にあるため、吸引されて流入する外気は気泡の状態になって気泡が必ず形成されてしまうことになる。そして、外気流入で生じた気泡がノズル孔基端の開口の外周部に付着した場合、引き続き再スクイズして滴下操作をすると、上記の如く液滴に気泡が混入してしまうこととなる。
【0009】
また、一旦点眼操作を中断し容器を正立状態に直し、この正立状態で保管や携帯等したような場合であっても、振動等の影響により薬液の液面が泡立ち、その気泡がノズル孔基端の開口付近に付着・存在することになってしまい、この結果、次に滴下のために倒立状態にすると、上記と同様に液滴に気泡が混入してしまうことになる。更に、滴下操作のために倒立状態にした際に、容器本体を保持する手の温もりによって内部が膨張してしまい、上記の如きスクイズ操作をしなくても薬液が気泡を巻き込んで液滴に気泡が混入してしまうことも起こり得る。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、気泡の混入を確実に抑制・阻止することにより、滴下させる液滴の容積を確実に一定のものに維持・保証し得る滴下用のノズル孔構造及びこのノズル孔構造を有する滴下ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、滴下用のノズル孔構造に係る発明では、液体が装填される容器本体の口部が締め切られて容器本体の内部と外部とがノズル孔のみによって連通され、外部側に開口するノズル孔の出口部に液滴が形成されるように構成された滴下用のノズル孔構造を対象として次の特定事項を備えるようにした。すなわち、上記ノズル孔を、その入口部が上記容器本体の内部空間に臨んで開口するように上記口部内に下方に延ばし、上記ノズル孔の内径を上記入口部において急激に細径化されて入口部の開口径が最小になるように設定し、上記入口部を構成する筒壁の外周面を、上記入口部の開口及びその開口縁により形成される開口面を尖端とし容器本体内側に向けて鋭角に尖る円錐状に形成することとした(請求項1)。
【0012】
このノズル孔構造に係る発明の場合、容器本体を正立状態から天地逆転させて倒立状態にしてスクイズさせると、ノズル孔の入口部からノズル孔内に流入した液体によって出口部に液滴が形成され、これが滴下される。滴下の後、倒立状態のままスクイズを解除するとスクイズ戻りにより出口部から液滴と同量の外気がノズル孔内に吸引されるが、入口部の内径が最小径に急激に絞られているため、その最小径に対応した極めて小さい気泡に分断される上に、通過する逆流液体の流速の急増により入口部の開口を上記の小気泡が高速で通過する結果、入口部の周囲への気泡の付着が阻止されることになる。つまり、入口部の周辺や入口部の内面への気泡の接触による付着のおそれを、上記の如く気泡サイズを強制的に最小径に相当するサイズまで分断して小さくすることにより付き難くし、又、入口部の通過流速を高速に増速することにより付き難くし、という作用により阻止するようにしている。さらに、入口部を構成する筒壁の外周面が円錐状に形成されているため、逆流液体と共に入口部から出た気泡が入口部の開口や開口縁付近との接触を維持し難くなってその接触を切れ易くし得ることになる。これによっても入口部に対する気泡の付着をさらに抑制・阻止し得る。そして、このような入口部がノズル孔の延長により容器本体の内部空間に臨んで開口するように位置付けられるため、倒立状態にある入口部からの気泡を停滞させることなく容器本体内の液体の液面まで即座に飛び出させることが可能になる。以上により、スクイズ戻りによる外気吸引に伴う気泡の付着を確実に阻止・抑制し、次の滴下操作により形成される液滴に気泡が混入することを回避することが可能になる結果、滴下させる液滴の容積を確実に一定のものに維持・保証し得ることになる。従って、点眼のための点眼容器に適用すれば、患者の眼球に滴下投与される薬液量を確実に一定量に維持させ得ることになる。
【0013】
上記のノズル孔構造において、次のような特定事項を付加又は具体化することにより、さらなる作用が得られる。すなわち、第1としては、上記入口部における内径の急変部位の内面を、出口部側から入口部の開口に至るまで滑らかに変化するように形成する(請求項2)。このようにすることにより、滴下操作時の通過液体の乱流発生を抑制し得る一方、スクイズ戻りに伴う外気吸引の際には内断面の急減による外気の圧縮度合いを少しでも低減させることが可能になって入口部を出た際の断面急拡による膨張度合いを弱くして気泡サイズ(気泡径)を小さく維持し得るようになる。
【0014】
第2としては、上記入口部の開口径を出口部の開口径よりも十分に小さく設定する(請求項3)。これにより、スクイズ戻りによる外気吸引の際に、出口部から吸引される外気がその出口部よりも十分に小さい開口径の入口部から飛び出すため、入口部から出る気泡サイズを十分に小さいものに分断させて、気泡付着の阻止をより確実にし得る。この場合において、上記入口部の開口径としては0.1mm〜0.5mmの範囲内に設定することが好ましい(請求項4)。開口径としては気泡サイズの最小化の観点及び通過流速の増速化の観点という機能上からは小さいほど好ましい。ここで、「0.1mm」は例えば合成樹脂成形による場合の製造上の下限値であり、製造上は「0.2mm」がより好ましい。「0.5mm」という上限値は気泡サイズの細径化及び通過流速の増速化により気泡を付き難くさせるという観点から選択される値であり、製造上の観点と機能上の観点との双方からは「0.3mm〜0.4mm」又は「0.3mm〜0.5mm」が最も好ましい。さらに、これらの場合において、上記ノズル孔の内径を、入口部を除き出口部の開口径と同等に設定するようにすることもできる(請求項5)。このようにすることにより、入口部だけ最小径の開口径にして出口部まで延びる他のノズル孔内の容積を十分なものに確保し得ることになる。このため、倒立状態にしてスクイズ操作しないのに容器本体を持つ手の温もりによって内部の液体等が膨張して液滴が形成されて滴下されてしまうというおそれを回避・抑制し得ることになる。すなわち、上記の膨張分がノズル孔内の十分なる容積によって吸収され、膨張に伴う液滴形成等を阻止する側に作用するからである。
【0015】
第3としては、上記開口面(入口部の開口及びその開口縁により形成されて尖端となる部位)が入口部の開口径に対し0.0〜0.4mmを加えた値の範囲の直径になるように制限されている(請求項6)。「0.0mm」の場合、つまり開口縁が鋭角に尖り幅のない状態が気泡を付き難くさせる上で好ましい。そして、例えば合成樹脂成形の場合にかかる鋭角に尖らせることも可能ではあるが、微小幅の平坦部が開口縁として存在する方が製造上も確実性が増大する上に、ある一定の微小幅までならば気泡の付き難さを維持させ得るものと考えられる。この上限値が「0.4mm」である。
【0016】
又、第4としては、上記入口部を構成する筒壁の外周面を、挟角が60度〜90度の範囲の円錐状に形成する(請求項7)。入口部の周囲外面に気泡を付き難くさせて付着防止を図る観点からは「90度」が上限値として選択され、鋭角であればあるほど、つまり挟角の値が小さいほど好ましい。その一方で、あまりに鋭角であると、例えば合成樹脂成形による製造時に樹脂材料が回り込まず成形不良を招くという問題があり、かかる製造上の問題を生じさせない下限値として「60度」が選択される。さらに、このような円錐状の外周面を入口部から筒壁の長手方向に少なくとも0.3mmは存在させるようにすることが好ましい。入口部の開口径による気泡サイズの細径化とも関係し、細径化された気泡が接触する可能性のある範囲は円錐状の外周面にして付着を防止する趣旨で上記の細径化された気泡のサイズに基づいて「0.3mm以上」が採択されている。
【0017】
一方、滴下ノズルに係る発明では、液体が装填される容器本体の口部に内装される滴下ノズルを対象として、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の滴下用のノズル孔構造を有するノズル孔を備えるようにした(請求項8)。このような滴下ノズルの場合、以上説明したような種々の作用が得られる。
【0018】
そして、かかる滴下ノズルに対し、上記容器本体の口部の内面に対し挿入される筒状の外壁と、この外壁の内側においてノズル孔を形成する筒壁とを備え、上記筒壁を上記外壁の下端から突出しない範囲でその外壁の下端近傍位置まで延ばすようにしてもよい(請求項9)。筒壁下端の外壁下端位置との許容変位を具体的には0.0mm〜2.0mmの範囲に設定することが好ましい。「0.0mm」の場合、つまり筒壁の下端を外壁の下端位置と合致する位置まで延ばすことが倒立状態においても完全倒立ではなくて傾斜状態においても気泡を入口部周辺や筒壁と外壁との間等に付着させずに液面に放逐させる上で最も好ましいものの、用途として点眼用を考慮した場合、組み付け製造ライン上で多数の滴下ノズルをまとめて収容保持させる際などに多数の滴下ノズル同士や他の部品との干渉によって外壁下端の開口に位置する入口部が損傷するおそれも考えられる。このため、筒壁下端を外壁下端よりも若干量だけ奥まって位置させることが製造上は好ましい。その反面、筒壁下端(つまり入口部の開口)を外壁下端から余りに離してしまうと、外壁内面との間の隙間に気泡が付着してしまい易くなると考えられる。これら製造上と機能上との双方を満足させる上限値として「2.0mm」が採択され、中でも1.0mm〜1.5mmの範囲が最も好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上、説明したように、請求項1〜請求項7のいずれかの滴下用のノズル孔構造によれば、倒立状態にしてスクイズさせることにより液滴の滴下操作等を行った後にスクイズ戻りによる外気吸引が生じたとしても、入口部の開口や周囲に対する気泡の付着を確実に阻止・抑制することができ、次の滴下操作により形成される液滴に気泡が混入する事態の発生を確実に回避することができる。この結果、滴下させる液滴の容積を確実に一定のものに維持・保証することができ、例えば薬液点眼のためのノズル孔に適用すれば、患者の眼球に滴下投与される薬液量を確実に一定量に維持させることができるようになる。
【0020】
特に、請求項2によれば、滴下操作時の通過液体の乱流発生を抑制することができる一方、スクイズ戻りに伴う外気吸引の際には内断面の急減・急拡による外気の圧縮・膨張度合いを少しでも低減させて気泡付着の阻止をより確実に図ることができる。
【0021】
請求項3によれば、スクイズ戻りによる外気吸引の際に、出口部から吸引されて入口部から出る気泡サイズを十分に小さいものに分断させることができ、気泡付着の阻止をより確実に図ることができる。この場合において、請求項4によれば、入口部の開口径を具体的に特定することができ、請求項5によれば、倒立状態にしてスクイズ操作しないのに容器本体を持つ手の温もりによって内部の液体等が膨張して液滴が形成されて滴下されてしまうというおそれを回避・抑制することができる。
【0022】
又、請求項8又は請求項9の滴下ノズルによれば、以上説明した種々の効果を滴下ノズルにおいて得ることができ、特に請求項9によれば、倒立状態において気泡を入口部のある筒壁の下端に付着させずに液面に放逐する上で最も好ましい上に、近傍位置ということにして筒壁下端を外壁下端よりも若干量だけ奥まって位置させることにより大量組み付けに係る製造上も好ましいものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1は、本発明のノズル孔構造を有する滴下ノズルとして薬液を眼球に滴下(点眼)させるための点眼ノズル3を示し、かかる点眼ノズル3を容器本体2に組み付けて点眼容器(滴下容器)を構成したものである。
【0025】
上記点眼容器は、点眼用の薬液Yが所定量(例えば5mL:ミリリットル)装填された容器本体2と、この容器本体2の口部21に対し圧入により組み付けられた点眼ノズル3と、上記口部21にねじ込まれて上記点眼ノズル3を保護する保護キャップ22とからなる。
【0026】
上記容器本体2は、所定の合成樹脂成形によりその胴部がスクイズ操作可能なように柔軟性を有するボトル状に形成されたものであり、口部21の外周面に螺ねじ部が形成されている。保護キャップ22も合成樹脂成形により形成され、口部21の外周面の螺ねじ部に対するねじ込みにより着脱可能な螺ねじ部を内周面に有し、上部内面には点眼ノズル3の後述の出口部312の先端開口に嵌り込んで密閉し得る球状凸部221が形成されている。そして、この保護キャップ22は、口部21に対しねじ込まれた閉栓状態(図1に示す状態)では上記出口部312を凸部221で閉止しかつ鍔部33の上面及び上記螺ねじ部等のいずれか一以上と密着して容器本体2内を密封し得るようになっている。
【0027】
上記点眼ノズル3は、詳細を図2に示すように、ノズル孔31が内部に形成された筒壁32と、この筒壁32の上下方向中間位置から外周側に突出する鍔部33と、上記筒壁32の下半部を囲み上記鍔部33から下方に突出する略円筒状の外壁(いわゆる「足部」又は「中足部」と言われる)34とを一体に備えている。このような点眼ノズル3は例えば低密度ポリエチレン等を用いた合成樹脂成形により一体に形成される。上記筒壁32は、鍔部33を境にして上半部32aが略円錐状又はドーム状に形成されて口部21の上方外部に配置され、下半部32bが筒状に形成されて上記外壁34の内側位置で外壁34の下端近傍位置まで突出して口部21内に配置されるようになっている。そして、筒壁32内をノズル孔31が上下に延びて貫通している。又、鍔部33は、口部21の上面に対応する形状に形成され、組み付け状態では口部21の上面に当接するようになっている。さらに、上記外壁34は、その外周面が口部21の内周面に対し気密に圧入されて口部21を締め切った状態で組み付けられるようになっている。以上のノズル孔31、筒壁32、鍔部33及び外壁34は、本実施形態においては同軸配置で形成されている。
【0028】
上記ノズル孔31は、筒壁32下端位置において容器本体2の内部空間に臨んで入口部311が開口し、筒壁32上端位置において外部に臨んで出口部312が開口している。上記入口部311が開口する筒壁32の下端、つまり下半部32bの下端は外壁34の下端と同じ位置又は僅かに上側位置まで延ばされている。入口部311を容器本体2の内部空間に対しより近接して臨む位置に配置するのが好ましいものの、外壁34下端から突出物の存在をなくして組み付け製造時の取扱性を向上させたり不用意な損傷を防止したりする目的で上記入口部311を外壁34下端より僅かに奥まった位置に配置することが許容される。この場合の外壁34下端との許容変位Hとしては0.0〜2.0mmの範囲であり、好ましくは0.0〜1.5mmあるいは0.0〜1.0mmの範囲に抑える。中でも、上記の入口部311を容器本体2の内部空間に対しより近接して臨む位置に配置させる、つまり入口部311下端を外壁34下端と同じレベル位置まで延ばす又はなるべくそのレベル位置まで近接させて気泡を付着させないようにするという機能上の要求と、上記の組み付け製造時の取扱性向上及び不用意な損傷防止を図るという製造上の要求との双方を満足させる許容範囲Hとして、1.0mm〜1.5mmの範囲が最も好ましい。
【0029】
上記出口部312の開口径Dは点眼すべき薬液の量に応じて所定の容積の液滴が形成されるように設定される。例えば液滴の容積が35μL(マイクロリットル)であると、開口径Dとして2.3mmが設定される。そして、ノズル孔31は上記出口部312から入口部311直近の内径急変部位313までが上記出口部312の開口径Dとほぼ同じに維持されるか、あるいは、出口部312の開口径Dから上記内径急変部位313まで内径がごく僅かずつ徐々に減少するように形成されている。内径を徐々に減少させているのは合成樹脂成形時の型抜きを容易にするためであり、出口部312の開口径Dと同一に設定するのが容積確保の上で好ましい。
【0030】
上記内径急変部位313は上記の出口部312の開口径Dから入口部311の極小の開口径dまで急激に細径化させるために設けられたものであり、その内面は滑らかに湾曲するように形成されている。すなわち、上記内径急変部位313は、図2に例示するように、まずノズル孔31内側に中心を有する凹アール部c1と、ノズル孔31外に中心が位置する凸アール部c2と、下向きに漏斗状のテーパ部c3と、開口314の開口径dで均一内径の円孔部c4とが滑らかに連続されて形成されている。具体例としては、凹アール部c1として0.5mm以上のアール、凸アール部c2として同様に0.5mm以上のアール、テーパ部c3として鉛直方向に対し3度のテーパがそれぞれ挙げられる。入口部311の開口径dとしては0.1mm〜0.5mmの範囲内から選択すればよく、気泡の細径化を満たしつつも合成樹脂成形の製造容易性を優先すればd=0.4mmが好ましく、次いでd=0.3mm、0.2mmとなる。
【0031】
一方、入口部311の外面側としては、筒壁下半部32bの下端の外周面321が下向きに所定挟角α以下に尖る円錐状に形成されている。尖端は上記開口径dの開口314と、この開口314を囲む開口縁315とからなる開口面316により構成される。開口面316としては上記開口径dに等しくなる、つまり開口縁315が幅のない鋭角に尖ったものになることが、気泡の付着を防止して接触しても直ぐに離脱させるようにする上で望ましい。このような観点から許容し得る開口縁315の幅として0.2mm程度であり、開口面316の直径bとして開口314の開口径dとの関係では、d以上で(d+0.4mm)以下の範囲に制限されることになる。そして、上記外周面321としては挟角αが60度〜90度の範囲(鉛直方向に対し30度〜45度の傾き範囲)の円錐状斜面に形成され、その上側の壁面322との境界も0.5mmアール以上の凸アール部c5を介して滑らかに接続されている。
【0032】
以上の点眼容器を用いて点眼するには、図3に示すように倒立状態にして眼球上に配置した後、容器本体2をスクイズ操作し(図3の一点鎖線参照)、ノズル孔31の出口部312に形成された液滴yを眼球に滴下投与する。このスクイズ操作を解除するとスクイズ戻りにより出口部312からノズル孔31内に外気が吸引され、これが気泡Sとなって薬液と共に入口部311側に移動する。そして、その気泡Sが内径急変部位313に至れば急速に流速が増す一方、気泡Sが分断されて気泡サイズが開口314の開口径dに対応して細径化される。このため、細径化して複数個に分断された気泡Sd,Sd,…が開口314から勢いよく飛び出して薬液Yの液面まで上昇して開放される。すなわち、流速の増速化と、気泡の分断・細径化とによって、入口部311の周辺に気泡が付着して残留することを確実に阻止することができるようになる。又、この滴下操作が倒立状態ではなくてかなり斜めの状態(例えば斜め45度)で行われたとしても、筒壁32下端が外壁34下端の近傍位置まで延ばされて口部21の下端近傍に入口部311が位置付けられているため、入口部311から上記の増速化と分断・細径化とによって飛び出る気泡は外壁34の内面等に接触したり付着したりすることなく液面まで上昇して開放されることになる。
【0033】
一方、携帯時等の振動により泡立って気泡が入口部311に接触又は付着しそうになったとしても、入口部311の開口面316は尖端とされこれに続く外周面321が円錐状に形成されているため、接触が持続せずに直ぐにその接触が切り離されて気泡は離脱することになり、入口部311への気泡の付着を防止することができる。又、円錐状の外周面321の端が凸アール部c5により滑らかに形成されているため、接触・付着した気泡の切り離し離脱が促進されて付着防止が図られる。
【0034】
以上の気泡付着発生の阻止が図られて液滴への気泡混入が回避される結果、形成される液滴の薬液量を確実に一定に維持・保証することができるようになる。
【0035】
<他の実施形態>
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の実施形態を包含するものである。すなわち、実施形態では容器本体2の口部21が比較的狭い首部状になったものに適用する標準的な点眼ノズル3を示したが、図4には口部が大径の場合に適用される点眼ノズル(滴下ノズル)3aを、図5には口部が極めて狭小な径の場合に適用される点眼ノズル(滴下ノズル)3bをそれぞれ示している。図4の大径の口部用には外壁34の外径を変更設定し、図5の小径の口部用には外壁と筒壁とを略一体にして外径を変更設定すればよい。なお、図5には入口部311を除きノズル孔31の内径を出口部312の開口径と同等にした例を示している。
【0036】
又、上記実施形態では、滴下ノズル(点眼ノズル)と容器本体とを互いに別体にしたものを示したが、これに限らず、両者を一体に合成樹脂成形するようにしてもよい。この場合には、内部の薬液の充填と、合成樹脂による一体成形とを同時に行うようにすればよい。かかる場合も本発明のノズル孔構造を備えることにより入口部周辺への気泡の付着の防止、これによる液滴への気泡混入防止、この結果として液滴の容積を確実に一定に維持・保証し得るという本発明の作用・効果を得ることができる。
【実施例】
【0037】
450μN/cmの表面張力を有する薬液を用い、上記実施形態(図1及び図2参照)の構造の点眼ノズルを有する点眼容器(後述の3種類の実施例)を用いて、滴下性能試験を行うことにより本発明の作用・効果の確認を行った。滴下性能試験は上記点眼容器を正立状態から倒立状態にして液滴を20回滴下させ、各液滴の滴下量を測定する一方、スクイズ戻りによる外気吸引に基づく気泡の状況観察及び1つの液滴に相当する1回の外気吸引により入口部311から飛び出る気泡が分断・分割される数(気泡数)を測定した。又、倒立状態(水平面に対し90度)の他に水平面に対し45度及び60度に傾斜させた場合に上記スクイズ戻りによる外気吸引によって入口部311周辺に付着する気泡付着数を測定した。この滴下性能試験の結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
用いた試験体は実施例1、実施例2及び実施例3の3種類であり、これらの各諸元(出口部312の開口径D,入口部311の開口径d,外壁34下端からの変位H,外周面321の挟角α)を表2に示す。なお、表2には表れない諸元としては、3種類の実施例共に、内径急変部位313の凹アール部c1を0.8mmアール、凸アール部c2を0.5mmアールとし、外周面側の凸アール部c5を1.0mmとしている。ちなみに表2中の一例として実施例1について説明すると、実施例1では、上記の表面張力を有する薬液を用いて液滴の大きさが35μLとなるように出口部312の開口径Dとして2.3mmを選定し、入口部311の開口径dとして0.3mmを選定し、外壁34下端との変位Hを1.0mmとし、入口部311の外周面321の挟角αとして90度とした。
【0040】
【表2】

【0041】
表1の試験結果によれば、目標とする滴下量は実施例1〜3のいずれでも測定値の平均値では合致し、ほぼ確実に一定量の液滴の形成及び滴下が行われたものと考えられる。そして、スクイズ戻りの外気吸引時においても入口部311から飛び出た気泡は、1つの液滴に相当する容積の外気吸引が3つ以上に分割されて常に3つ以上の気泡となり、容積が1/3以下の細径化された気泡にすることができた。又、45度に傾斜させた状態での滴下及びスクイズ戻りによる外気吸引を経ても入口部311や外周面321に付着した気泡付着数はゼロであり気泡が付着することはなかった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態を適用した点眼容器の断面説明図である。
【図2】図1の点眼ノズルの拡大説明図である。
【図3】図1の点眼容器を倒立状態にした場合の断面説明図である。
【図4】図2とは異なる形態の点眼ノズルの断面説明図である。
【図5】図2及び図4とは異なる形態の点眼ノズルの断面説明図である。
【符号の説明】
【0043】
2 容器本体
3,3a,3b 点眼ノズル(滴下ノズル)
21 口部
31 ノズル孔
32 筒壁
34 外壁
311 入口部
312 出口部
313 内径急変部位
314 開口
315 開口縁
316 開口面
321 入口部の外周面
Y 薬液(液体)
y 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が装填される容器本体の口部が締め切られて容器本体の内部と外部とがノズル孔のみによって連通され、外部側に開口するノズル孔の出口部に液滴が形成されるように構成された滴下用のノズル孔構造において、
上記ノズル孔は、その入口部が上記容器本体の内部空間に臨んで開口するように上記口部内を下方に延ばされ、
上記ノズル孔の内径が上記入口部において急激に細径化されて入口部の開口径が最小になるように設定され、
上記入口部を構成する筒壁の外周面が上記入口部の開口及びその開口縁により形成される開口面を尖端とし容器本体内側に向けて鋭角に尖る円錐状に形成されている、
ことを特徴とする滴下用のノズル孔構造。
【請求項2】
請求項1に記載の滴下用のノズル孔構造であって、
上記入口部における内径の急変部位の内面が、出口部側から入口部の開口に至るまで滑らかに変化するように形成されている、滴下用のノズル孔構造。
【請求項3】
請求項1に記載の滴下用のノズル孔構造であって、
上記入口部の開口径が出口部の開口径よりも十分に小さく設定されている、滴下用のノズル孔構造。
【請求項4】
請求項3に記載の滴下用のノズル孔構造であって、
上記入口部の開口径が0.1mm〜0.5mmの範囲内に設定されている、滴下用のノズル孔構造。
【請求項5】
請求項3に記載の滴下用のノズル孔構造であって、
上記ノズル孔の内径が、入口部を除き出口部の開口径と同等に設定されている、滴下用のノズル孔構造。
【請求項6】
請求項1に記載の滴下用のノズル孔構造であって、
上記開口面が入口部の開口径に対し0.0〜0.4mmを加えた値の範囲の直径になるように制限されている、滴下用ノズル孔構造。
【請求項7】
請求項1に記載の滴下用のノズル孔構造であって、
上記入口部を構成する筒壁の外周面は挟角が60度〜90度の範囲の円錐状に形成されている、滴下用のノズル孔構造。
【請求項8】
液体が装填される容器本体の口部に内装される滴下ノズルであって、
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の滴下用のノズル孔構造を有するノズル孔を備えている、
ことを特徴とする滴下ノズル。
【請求項9】
請求項8に記載の滴下ノズルであって、
上記容器本体の口部の内面に対し挿入される筒状の外壁と、この外壁の内側においてノズル孔を形成する筒壁とを備え、
上記筒壁は上記外壁の下端から突出しない範囲でその外壁の下端近傍位置まで延ばされている、滴下ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−213350(P2006−213350A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27268(P2005−27268)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000206185)大成化工株式会社 (83)
【Fターム(参考)】