説明

漂白された加工澱粉の製造方法

【課題】化学的加工処理が施された加工澱粉において、澱粉の性質を変化させずに十分な漂白効果を得ることが可能な加工澱粉の製造方法の提供。
【解決手段】澱粉を次亜塩素酸またはその塩と反応させた後、食品用加工澱粉を得るための加工処理を行う、漂白された食品用加工澱粉の製造方法であって、食品用加工澱粉を得るための加工処理が、ヒドロキシプロピル化処理、リン酸架橋処理、および酢酸ビニルモノマーを用いたアセチル化処理からなる群から選択される1種または2種以上の加工処理である、製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は漂白された加工澱粉の製造方法に関し、より詳細には、次亜塩素酸により漂白された食品用加工澱粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉は、コーン、馬鈴薯、キャッサバなどの原料を水溶液中で粗砕きする磨砕工程、外皮などの繊維を除く篩工程、澱粉と蛋白質が含有する懸濁液を両者の比重差によって分離する工程、加工澱粉ならば化学的加工処理の工程、洗浄・脱水する工程、乾燥工程により製造される。この方法により澱粉の純度は99%程度まで高めることが可能となる。しかし、得られた澱粉には微量なタンパク質が残存している。例えば、コーンスターチの場合、0.3%程度のタンパク質が残存しており、上記の方法ではそれ以上の澱粉の精製は困難である。これまでに、澱粉懸濁液中に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、タンパク質を酸化、分離する方法が知られており、そのような方法により得られた澱粉は漂白澱粉と呼ばれる。
【0003】
ところで、加工澱粉は澱粉の構造や性質を変化させるような加工が施された澱粉であり、食品産業や他の様々な産業で利用されている。最も代表的な加工澱粉の一つとして、次亜塩素酸ナトリウムを用いて加工された酸化澱粉がある。酸化澱粉は、次亜塩素酸により澱粉を処理し、澱粉を漂白するとともに、カルボキシル基を導入することにより澱粉の性質を変化させたものである(厚労省食安発第1001001号(平成20年10月1日))。酸化澱粉は粘度が低く、主として製紙工業で用いられている。
【0004】
一方、澱粉の構造を変化させずに酸化剤を用いて漂白された澱粉は漂白澱粉と呼ばれ、食品として利用されている。すなわち、漂白澱粉は、澱粉を酸化剤で処理することにより、基本的には、化学的修飾を行うことなく、他の色素成分を酸化等することにより、澱粉の色調を調整したものである(厚労省食安発第1001001号(平成20年10月1日))。澱粉懸濁液中に次亜塩素酸ナトリウムを添加し、タンパク質を酸化、分離して得られた前述の漂白澱粉はその一例である。
【0005】
ここで、厚労省食安発第1001001号(平成20年10月1日)によれば、次亜塩素酸ナトリウムを用いて漂白処理を行った澱粉のうち、酸化澱粉の純度試験でカルボキシル基が0.1%を超えるものおよびカルボキシル基が0.1%以下のものであっても、酸化澱粉のカルボキシル基の確認試験の結果が陽性または擬陽性で、かつ、粘度等の澱粉の性質に生じた変化が酸化によるものではないことを合理的に説明できないものについては、澱粉の性質を変化させるほどの化学処理が行われているものと判断し、「漂白澱粉」として取り扱わず、「酸化澱粉」として取り扱うこととされている。また、厚労省食安発第1001001号(平成20年10月1日)によれば、食品用加工澱粉において、酸化との併用が認められている他の化学修飾は、無水酢酸を用いたアセチル化のみである。
【0006】
このことから、次亜塩素酸を用いて澱粉を十分に漂白処理すると澱粉の性質が変化する処理が行われたと判断され、更に、化学的な加工処理を施すと二度の加工処理がなされたと判断され、食品用加工澱粉として使用できなくなる。すなわち、所望の化学的な加工処理が施された食品用加工澱粉を提供する場合には次亜塩素酸による十分な漂白処理ができなくなる。従って、化学的な加工処理を施した食品用加工澱粉では、澱粉の性質を変化させずに十分な漂白効果を達成することが必要になる。
【0007】
特許文献1および特許文献2には、特定条件下で少量の次亜塩素酸ナトリウムを澱粉に添加して、高粘性の澱粉を製造する方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、澱粉に多量の次亜塩素酸ナトリウムを添加して酸化処理を行った後にアルカリ処理を行い、その後少量の次亜塩素酸ナトリウムを添加して澱粉を漂白することにより、優れた粘度安定性を有する澱粉を製造する方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、澱粉懸濁液のpHを調整した上で次亜塩素酸ナトリウムを添加して反応を行い、残留塩素臭が少なく、かつ増粘効果が高い澱粉を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−53601号公報
【特許文献2】特公昭43−15400号公報
【特許文献3】特表2002−521530号公報
【特許文献4】特開2009−73869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、いずれの文献にも、満足な漂白効果が得られ、かつ、化学的な加工処理が施された加工澱粉は開示されていない。
【0012】
本発明は、食品用加工澱粉を得るための加工処理が施された加工澱粉の製造方法において、澱粉の性質を変化させずに十分な漂白効果を得ることが可能な加工澱粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、澱粉を次亜塩素酸またはその塩と反応させた後、食品用加工澱粉を得るための加工処理を行う、漂白された食品用加工澱粉の製造方法が提供される。この製造方法では、食品用加工澱粉を得るための加工処理は、ヒドロキシプロピル化処理、リン酸架橋処理、および酢酸ビニルモノマーを用いたアセチル化処理からなる群から選択される1種または2種以上の加工処理とされる。
【0014】
本発明による製造方法により得られた食品用加工澱粉は、従来にない高い白度を有する。従って、本発明による製造方法は、高い白度が求められる食品の製造に用いることができるとともに、漂白処理に用いる薬剤の使用量を低減できる点および有効塩素濃度に由来する塩素臭を低減する点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明による製造方法で出発原料として用いる澱粉は食品用途の澱粉であればいずれも使用できる。食品用途の澱粉としては、例えば、コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、サゴ澱粉、緑豆澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉が挙げられ、好ましくは、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉である。
【0016】
本発明による製造方法では、未処理の澱粉を次亜塩素酸またはその塩で処理する。次亜塩素酸の塩としては次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムが挙げられる。
【0017】
澱粉と次亜塩素酸またはその塩との反応は、澱粉の加工処理と判断されないように澱粉の構造や性質を変化させない程度で実施する。具体的には、次亜塩素酸またはその塩と反応させて得られた澱粉中のカルボキシル基含量が0.1質量%未満であり、かつ、該澱粉がカルボキシル基の確認試験で陰性を示すように澱粉と次亜塩素酸塩またはその塩を反応させることができる。
【0018】
次亜塩素酸またはその塩による処理によって澱粉中に導入されたカルボキシル基の含有量は常法に従って定量することができ、例えば、厚生労働省告示第485号に記載されたアセチル化酸化デンプンのカルボキシル基の純度試験の方法に従って実施することができる。
【0019】
また、澱粉中に導入されたカルボキシル基の確認試験は、例えば、厚生労働省告示第485号に記載されたアセチル化酸化デンプンのカルボキシル基の確認試験の方法に従って実施することができる。
【0020】
本発明による製造方法では、水に澱粉を懸濁して得られた澱粉懸濁液を反応系に用いることができ、澱粉懸濁液の澱粉濃度は澱粉乾燥質量で20〜45質量%、好ましくは、36〜43質量%とすることができる。また、澱粉乾燥質量に対する有効塩素濃度が200〜5500ppm、好ましくは、500〜3000ppmとなるように次亜塩素酸またはその塩を澱粉懸濁液に添加することができる。この場合、澱粉と次亜塩素酸との反応時間および反応温度は、反応効率の観点から、それぞれ、5〜90分(好ましくは、10〜60分)、20〜55℃(好ましくは、28〜35℃)とすることができる。また、澱粉懸濁液のpHは、反応効率の観点から、3.0〜11.5(好ましくは4.0〜10.5)とすることができる。
【0021】
本発明による製造方法では、次亜塩素酸またはその塩による処理の後、残存塩素除去処理を実施してもよい。ここで、残存塩素除去処理とは、次亜塩素酸ナトリウムによる反応を終了させる為に、反応中の澱粉懸濁液に亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムなどの還元剤を添加することを意味する。還元剤は固体または溶液のいずれであってもよい。また、還元剤の添加量は、次亜塩素酸の添加量や残留している残存塩素量に応じて適宜調整することができる。
【0022】
残存塩素量はKIチェック法により確認することができる。KIチェック法は以下のように実施できる。すなわち、濾紙に1N硫酸を数滴添加し、その上に澱粉懸濁液を数滴添加して馴染ませる。その上に10%ヨウ化カリウム溶液を数滴添加し、変色が認められた場合は塩素が残留していることを意味する。変色が認められなかった場合は塩素が残留しておらず、残存塩素除去処理が完全に行なわれたことを意味する。
【0023】
本発明による製造方法では、澱粉を次亜塩素酸またはその塩で処理した後、食品用加工澱粉を得るための加工処理を行う。次亜塩素酸またはその塩で処理した澱粉は、そのまま加工処理に供してもよいし、あるいは、一旦乾燥させた後に水に再懸濁したものを加工処理に供してもよい。
【0024】
食品用加工澱粉を得るための加工処理としては、一般的には様々なものが知られているが、典型的には澱粉の物性や性質を改変する化学的加工処理が挙げられる。本発明に用いられる加工処理は、pH9.5〜11.5で高い反応率を示す化学的加工処理であり、具体的にはヒドロキシプロピル化処理、リン酸架橋処理、および酢酸ビニルモノマーを用いたアセチル化処理からなる群から選択される。これらの加工処理はそれぞれ単独で行ってもよいし、2種以上の加工処理を組み合わせて行ってもよい。これらの加工処理は、必要な試薬、すなわち、ヒドロキシプロピル化剤、リン酸架橋剤、または酢酸ビニルモノマーを用いて行われる。また、これらの加工処理は、pH9.5〜11.5の条件下で行なうことが好ましい。その他の具体的な条件は、当業者であれば適宜設定することができる。
【0025】
本発明では、化学的加工処理を実施した場合には、必要に応じて物理的加工処理を追加して実施してもよい。物理的加工処理としては、α化、湿熱処理、油脂加工、酵素処理、酸処理、アルカリ処理、温水処理、ボールミル処理、高圧処理が挙げられる。
【0026】
本発明による製造方法により得られた食品用加工澱粉は、和洋菓子類、タレ、ソース、ドレッシング、フィリング、水産・畜産練り食品、麺類など、幅広く食品に用いることができる。また、本発明による製造方法により得られた食品用加工澱粉は、医薬品の製剤用添加剤としても用いることができる。すなわち、本発明において「食品用加工澱粉」とは食品のみならず医薬品における使用態様も含む意味で用いられるものとする。
【0027】
本発明による製造方法により得られた食品用加工澱粉は、高い白度を有する。従って、本発明による製造方法は、パン類、コロッケ、メンチカツ、ハンバーグなどの各種惣菜類、食肉加工品、スナック菓子、スープ、飲料、和菓子、洋菓子、タレ・ソース類、麺類、水産・畜産練製品、錠剤、タブレットなどの高い白度が求められる食品や医薬品の製造に用いることができるとともに、漂白処理に用いる薬剤の使用量を低減し、製造コストを低減できる点、有効塩素濃度に由来する塩素臭を低減する点で有利である。
【実施例】
【0028】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1−1
未処理のタピオカ澱粉(白度80.2)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いでアルカリ剤を添加してpH10に調整した後、酢酸ビニルモノマーを16.5g添加して30分間アセチル化反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでアセチル化反応を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0030】
次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素は以下の方法によって定量される。約10gの次亜塩素酸ナトリウム試料を精秤し、200mlのメスフラスコに移した後、蒸留水を加えて200mlの試料溶液とする。この試料溶液10mlを200ml共栓付き三角フラスコに採り、10%ヨウ化カリウム溶液20mlと30%硫酸20mlを加え、混合する。これを暗所にて5分間静置した後、0.05Nチオ硫酸ナトリウムで無色化するまで滴定する。空試験では、試料溶液に蒸留水10mlを用いて同様の操作を行う。有効塩素は以下の計算式を用いて算出する。
【0031】
【数1】

【0032】
また、KIチェックは以下の方法によって行われる有効塩素の簡易検出方法である。濾紙に1N硫酸を数滴添加し、その上に澱粉懸濁液を数滴添加して馴染ませる。その上に10%ヨウ化カリウム溶液を数滴添加し、変色が認められた場合は有効塩素が残留していると判定する。一方、変色が認められなかった場合は有効塩素が残留していないと判定する。
【0033】
実施例1−2
次亜塩素酸ナトリウムの添加量を5.54g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として2400ppm)とし、その他の操作を実施例1−1と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0034】
実施例1−3
原料澱粉を未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)とし、その他の操作を実施例1−1と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0035】
実施例1−4
未処理のタピオカ澱粉(白度80.2)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いでpH緩衝剤1.5gとアルカリ剤を添加してpH11に調整した後、トリメタリン酸ナトリウムを0.36g添加して60分間リン酸架橋反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでリン酸架橋反応を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0036】
実施例1−5
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いでpH緩衝剤6.0gとアルカリ剤を添加してpH11に調整した後、酸化プロピレンを21.0g添加して18時間ヒドロキシプロピル化反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでヒドロキシプロピル化反応を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0037】
比較例1−1
次亜塩素酸ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムの添加及び反応を行わず、その他の操作を実施例1−1と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0038】
比較例1−2
次亜塩素酸ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムの添加及び反応を行わず、その他の操作を実施例1−3と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0039】
比較例1−3
次亜塩素酸ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムの添加及び反応を行わず、その他の操作を実施例1−4と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0040】
比較例1−4
次亜塩素酸ナトリウムとピロ亜硫酸ナトリウムの添加及び反応を行わず、その他の操作を実施例1−5と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0041】
比較例2−1
未処理のタピオカ澱粉(白度80.2)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いでアルカリ剤を添加してpH10に調整した後、酢酸ビニルモノマーを16.5g添加して30分間アセチル化反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでアセチル化反応を終了した。次いで次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0042】
比較例2−2
次亜塩素酸ナトリウムの添加量を5.54g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として2400ppm)とし、その他の操作を比較例2−1と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0043】
比較例2−3
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)とし、その他の操作を比較例2−1と同様に操作して澱粉試料を得た。
【0044】
比較例2−4
未処理のタピオカ澱粉(白度80.2)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いでpH緩衝剤1.5gとアルカリ剤を添加してpH11に調整した後、トリメタリン酸ナトリウムを0.36g添加して60分間リン酸架橋反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでリン酸架橋反応を終了した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0045】
比較例2−5
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いでpH緩衝剤6.0gとアルカリ剤を添加してpH11に調整した後、酸化プロピレンを21.0g添加して18時間ヒドロキシプロピル化反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでヒドロキシプロピル化反応を終了した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0046】
比較例3−1
未処理のタピオカ澱粉(白度80.2)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いでアルカリ剤を添加してpH8.5に調整した後、無水酢酸24gを180分間かけて添加し、その間にも適宜アルカリ剤を添加してpH8.5を維持してアセチル化反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでアセチル化反応を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0047】
比較例3−2
未処理のタピオカ澱粉(白度80.2)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いでアルカリ剤を添加してpH8.5に調整した後、無水酢酸24gを180分間かけて添加し、その間にも適宜アルカリ剤を添加してpH8.5を維持してアセチル化反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでアセチル化反応を終了した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0048】
比較例4−1
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いでアルカリ剤を添加してpH8.5に調整した後、無水酢酸15gにアジピン酸0.36gを完全に溶解した溶液を120分間かけて添加し、その間にも適宜アルカリ剤を添加してpH8.5を維持してアセチル化アジピン酸架橋反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでアセチル化アジピン酸架橋反応を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0049】
比較例4−2
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いでアルカリ剤を添加してpH8.5に調整した後、無水酢酸15gにアジピン酸0.36gを完全に溶解した溶液を120分間かけて添加し、その間にも適宜アルカリ剤を添加してpH8.5を維持してアセチル化アジピン酸架橋反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでアセチル化アジピン酸架橋反応を終了した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0050】
比較例5−1
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いでアルカリ剤を添加してpH9.0に調整した後、無水オクテニルコハク酸6gを60分間かけて添加し、その間にも適宜アルカリ剤を添加してpH9.0を維持してオクテニルコハク酸反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでオクテニルコハク酸反応を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0051】
比較例5−2
未処理のワキシーコーンスターチ(白度82.0)300gに水を加え、固形分40(w/w)%の澱粉懸濁液を調製した。次いでアルカリ剤を添加してpH9.0に調整した後、無水オクテニルコハク酸6gを60分間かけて添加し、その間にも適宜アルカリ剤を添加してpH9.0を維持してオクテニルコハク酸反応を行った。その後、塩酸を添加してpHを酸性に調整することでオクテニルコハク酸反応を終了した。次いで、次亜塩素酸ナトリウムを2.77g(澱粉乾物質量に対する有効塩素として1200ppm)添加して30分間漂白処理を行った。その後、KIチェックにおいて澱粉懸濁液から有効塩素が検出されなくなるまでピロ亜硫酸ナトリウムを添加することで漂白処理を終了した。次いで、この澱粉懸濁液を5倍量の水で2回洗浄し、生じた澱粉ケーキを40℃で7時間乾燥して水分15%以下に調整した。これをミキサーで粉砕し、50メッシュを通したものを澱粉試料とした。
【0052】
試験例1:白度の測定
測定には色差計SE2000型(日本電色工業株式会社製)を用いる。測定方法を反射に設定し、標準白板SE−15723(X:95.29、Y:93.42、Z:112.80)にて標準合わせを行なう。次いで、澱粉試料が隙間なく充填された直径30mmのガラスセルの色差を5回測定し、5回の測定で得られたWBの平均値を白度とする。
【0053】
試験例2:カルボキシル基含量の測定
カルボキシル基含量は、以下の方法によって定量される。乾燥物質量5.0gの澱粉試料に0.1N塩酸50mlを加え、30分間攪拌した後、孔径10〜16μmのガラスフィルターを用いて吸引濾過し、濾液が塩化物の反応を呈さなくなるまで蒸留水で洗浄を続ける。塩化物の反応は、濾液に0.1N硝酸銀溶液を添加することで確認することができ、濾液が白濁すれば塩化物反応が起こっていることとなる。残留物を水300mlに懸濁し、攪拌しながら水浴上で加熱してゲル化させ、さらに15分間加熱した後、フェノールフタレイン指示薬を3滴加え、直ちに0.1N水酸化ナトリウム溶液で呈色するまですばやく滴定する。空試験では、乾燥物質量5.0gの澱粉試料に蒸留水50mlを加え、30分間攪拌した後、孔径10〜16μmのガラスフィルターを用いて吸引濾過し、蒸留水200mlで洗う。残留物を蒸留水300mlに懸濁し、攪拌しながら水浴上で加熱してゲル化させ、さらに15分間加熱した後、フェノールフタレイン指示薬を3滴加え、直ちに0.1N水酸化ナトリウム溶液で呈色するまですばやく滴定する。カルボキシル基含量は以下の計算式を用いて算出する。
【0054】
【数2】

【0055】
試験例3:カルボキシル基の確認試験
澱粉試料0.5gを1%メチレンブルー溶液25mlに懸濁し、5〜10分間時々攪拌後、上澄液を傾斜して除き、沈澱を水で十分に洗う。得られた沈殿物の一部を採取し、顕微鏡で観察する。顕微鏡観察において、澱粉粒に暗青色の着色が観察される場合を陽性とし、暗青色の着色が観察されない場合を陰性とする。また、陽性と陰性の区別が困難であると判断した場合は擬陽性とする。
【0056】
試験例4:アミログラム測定
無水物換算で6%に調製した澱粉スラリーの糊化特性を、アミログラフを用いて測定した(測定条件:30℃で測定を開始した後、1.5℃/分で95℃まで昇温させ、その後95℃を30分間維持した)。アミログラム測定結果から、95℃・0分時の粘度を読み取り、これをアミロ粘度とした。アミロ粘度が低いほどリン酸架橋の架橋度が高い傾向があるため、架橋度の指標とした(アミロ粘度が低いほど架橋度が高い)。
【0057】
試験例1〜4の結果を示すと下記表の通りであった。
【0058】
【表1】

【0059】
上記結果から明らかなように、次亜塩素酸による処理を加工処理の前に実施した場合の白度(実施例1−1〜1−5)は、次亜塩素酸による処理を行わなかった場合の白度(比較例1−1〜1−4)、および次亜塩素酸による処理を加工処理の後に実施した場合の白度(比較例2−1〜2−5)よりも顕著に高かった。また、加工処理として、pH10におけるVAMによるアセチル化、pH11におけるリン酸架橋およびpH11におけるヒドロキシプロピル化を実施した場合の白度(実施例1−1〜1−5)は、pH8.5におけるAAによるアセチル化(比較例3−1および3−2)、pH8.5におけるアセチル化アジピン酸架橋(比較例4−1および4−2)、pH9.0におけるオクテニルコハク酸反応(比較例5−1および5−2)を実施した場合の白度よりも顕著に高かった。さらに、次亜塩素酸による処理の後にリン酸架橋を実施した場合のアミロ粘度(実施例1−4)は、次亜塩素酸による処理を行わずにリン酸架橋を実施した場合のアミロ粘度(比較例1−3)、および次亜塩素酸による処理の前にリン酸架橋を実施した場合のアミロ粘度(比較例2−4)よりも顕著に低かった。よって、リン酸架橋処理の前に次亜塩素酸による処理を実施すると、澱粉粒の膨潤が抑制され、リン酸架橋の反応率(架橋度)が向上することが示された。
【0060】
澱粉に化学的加工処理を施す場合、加工試薬の反応性を高めるために反応系をアルカリ性に調整することが行われることがあるが、アルカリ性に調整することで澱粉が褐色に変化して白度が大きく低下し、その後中和しても澱粉の白度は元に戻らず、白度は低い値を示すことになる。しかしながら、澱粉に高い白度が求められる食品や医薬品においてはこのように白度が低下した澱粉は望ましくなく、好ましくは、白度が90以上、より好ましくは白度が92以上の澱粉を安定的に供給する必要がある。本発明による方法により製造された加工澱粉はこのような高い白度を満たすものであり、本発明による製造方法は、高い白度が求められる食品や医薬品に用いられる加工澱粉の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を次亜塩素酸またはその塩と反応させた後、食品用加工澱粉を得るための加工処理を行う、漂白された食品用加工澱粉の製造方法であって、食品用加工澱粉を得るための加工処理が、ヒドロキシプロピル化処理、リン酸架橋処理、および酢酸ビニルモノマーを用いたアセチル化処理からなる群から選択される1種または2種以上の加工処理である、製造方法。
【請求項2】
食品用加工澱粉を得るための加工処理が、pH9.5〜11.5の条件下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
次亜塩素酸またはその塩と反応させて得られた澱粉中のカルボキシル基含量が0.1質量%未満であり、かつ、該澱粉がカルボキシル基の確認試験で陰性を示す、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
澱粉乾燥質量に対する有効塩素濃度が200〜5500ppmとなるように次亜塩素酸またはその塩を澱粉に添加する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
澱粉が、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、またはタピオカ澱粉である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法により製造された、食品用加工澱粉。

【公開番号】特開2011−256273(P2011−256273A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131976(P2010−131976)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【特許番号】特許第4772912号(P4772912)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】