説明

漂白方法

【課題】 塩素ガスの発生が極めて少なく、しかもコーキングやパッキンに発生したカビ汚れに対して高い漂白効果を有する漂白手段を提供する。
【解決手段】 (A)カルボキシアルキルセルロースを構成材料とするシートに、(B)アルカリ金属水酸化物を含有する特定の塩素系液体漂白剤組成物を、(B)中のアルカリ金属水酸化物のモル数に対して、(A)中に存在する前記カルボキシアルキル基の全モル数が0.5〜3倍になる比率で含浸させた漂白用部材を、漂白対象物に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カビ汚れ、特に硬表面におけるカビ汚れなどの強固な汚れに対する漂白技術に関する。具体的には、本発明は、特定の漂白方法、該漂白方法に供される漂白キット及び該漂白方法に供される液体保持性を有するシートに関する。
【背景技術】
【0002】
住居の硬質表面の汚れは、対象とする洗浄面によって異なり多種多様である。一般に、台所のレンジ廻りには変性油とホコリなどが複合化した汚れが付着しやすく、トイレや浴室については、無機質並びに有機質が不溶性の塩を形成しそのまま汚れとなる場合や、それらを基質として細菌やカビが繁殖し汚れとなる場合がある。硬質表面の汚れの中でも、これら細菌やカビに由来する黒ずみ汚れは、界面活性剤や研磨剤を主成分とする洗浄剤では十分に除去することが難しいため、次亜塩素酸塩を配合した塩素系の液体漂白洗浄剤が用いられている。これら液体漂白洗浄剤は、カビ汚れが発生した部分に直接塗布する方法以外に、手動式噴霧装置を用いてカビ汚れに吹きつける方法で主に使用される。特許文献1〜3には塩素系カビ取り剤の遊離アルカリを低減させ、貯蔵安定性及び漂白効果の両者を満足する技術が開示されている。
【0003】
一方、特許文献4には、洗浄を要する箇所に水溶性紙を接着し、洗浄剤を吸着させて所要時間経過後水溶性紙と洗浄剤を共に水洗する洗浄方法が開示されており、水溶性紙としてカルボキシメチルセルロースを含有する木材パルプが、また洗浄成分として塩素系漂白剤が例示されている。
【0004】
また、洗浄成分や漂白成分を含む薬剤をシートに担持させて、漂白対象部位に張り付けて使用する清掃用シートやカビ取りシートが知られている(特許文献5〜6)。
【特許文献1】特開2002−212594号
【特許文献2】特開2002−212595号
【特許文献3】特開2002−212596号
【特許文献4】特開平2−164328号
【特許文献5】特開2000−41935号
【特許文献6】特開2001−151609号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の塩素系の漂白洗浄剤はタイルや目地、その他黒ずみ汚れに対して十分な効果を示したが、最近では、タイルや目地以外に、壁と浴槽等のつなぎ目に使用されているシリコーン樹脂系のコーキングや軟質ポリ塩化ビニル樹脂系のパッキンなどの樹脂部にカビが発生する例が増加してきており、タイルや目地に対して十分な効果を発揮していた従来の漂白洗浄剤であっても、これら樹脂部に発生したカビ汚れに対しては漂白・分解除去が必ずしも十分ではなかった。
【0006】
特許文献1〜3は遊離アルカリ剤の含有量を低減化させることにより、漂白効果を向上させた技術であるが、上記コーキングやパッキンに発生したカビ汚れに対しては、更なる効果の向上が望まれる。また、特許文献4の方法では、カルボキシメチルセルロースは紙に水溶性を付与する目的で用いられており、漂白効果を向上させる点については何ら示唆されておらず、しかも、具体的に示される塩素系漂白剤を含浸させた水溶性紙をコーキングやパッキンに発生したカビに湿布しても、未だ満足できる効果を得ることができない。
【0007】
一方、特許文献5は水溶性シートと支持シートを含む構造とする必要があり、また、粉末成分を担持させるために、漂白効果の発現に時間がかかることがある。加えて、かびとり成分を均一にシートに担持させるため製造が難しく、また、かびとり成分が空気中の水分を吸収して分解するのを抑制するための封止手段(シール部)が必要であった。特許文献6は、シートの製造過程で塩素系の漂白成分を水に溶解させるため、製造効率が低下し、また、実質的にシートに漂白成分が固体状態で担持されるため、漂白効果の発現には時間がかかる。更に、特許文献5同様、かびとり成分の均一な担持が難しく、また、封止手段(シール部)を必要とするものであった。
【0008】
本発明の課題は、塩素ガスの発生が極めて少なく、しかもコーキングやパッキンに発生したカビ汚れに対して高い漂白効果を有する漂白手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記(A)の構成材料中に存在するカルボキシアルキル基の全モル数が、下記(B)中のアルカリ金属水酸化物のモル数に対して0.5〜3倍になる比率で、下記(A)に下記(B)を含浸させた漂白用部材を、漂白対象物に接触させる漂白方法に関する。
(A)カルボキシアルキルセルロースを構成材料中50〜100質量%含有する、液体保持性を有するシート。
(B)次亜ハロゲン酸塩1〜5質量%、アルカリ金属水酸化物0.2〜1質量%、及び水を含有する液体漂白剤組成物。
【0010】
また本発明は、(A)カルボキシアルキルセルロース〔以下、(a)成分という〕を構成材料中50〜100質量%含有する、液体保持性を有するシート〔以下、シート(A)という〕、並びに(B)次亜ハロゲン酸塩〔以下、(b)成分という〕1〜5質量%、アルカリ金属水酸化物〔以下、(c)成分という〕0.2〜1質量%、及び水を含有する液体漂白剤組成物〔以下、組成物(B)という〕を構成要素とする、上記本発明の漂白方法に供される漂白キットに関する。
【0011】
また、本発明は、カルボキシアルキルセルロースを構成材料中50〜100質量%含有する、上記本発明の漂白方法に供される液体保持性を有するシートに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、漂白対象物に深く入りこんだカビ汚れに対して、簡便で、且つ高い漂白効果が得られる漂白手段が提供される。本発明の漂白方法や漂白キットでは、漂白を行う際の刺激臭の発生も抑制されることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<シート(A)>
シート(A)は、(a)成分であるカルボキシアルキルセルロース、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜3のカルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキルセルロース、より好ましくはカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースを、シートの構成材料中50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは60〜90質量%含有する。カルボキシアルキルセルロースの、カルボキシアルキル基の置換度は、好ましくは0.2〜2.0、より好ましくは0.2〜1.5、特に好ましくは0.2〜1.0である。この置換度は、カルボキシアルキルセルロースの構成単位であるグルコース1分子あたりの水酸基の水素原子がカルボキシアルキル基で置換されている個数の平均値であり、理論上の最大値は3である。
【0014】
本発明の(A)のシート材は、フィルム、紙、不織布の形態を採用することができ、本発明では漂白後、剥離できるものでも良いが、水により洗い流せるなどの使い勝手の点から、紙又は不織布の形態が好ましい。
【0015】
紙又は不織布の場合には、シートの坪量は、好ましくは20〜120g/m2、より好ましくは20〜80g/m2、特に好ましくは20〜60g/m2が湿布時のシートの付着性の点から好適である。このような坪量に調整するためには(a)成分と共に本発明の効果を損なわない程度に水溶性又は水分散性の繊維(以下(a’)成分という)を併用することが好適である。(a’)成分としては、木材パルプ繊維、非木材系植物繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、生分解性を有するポリ乳酸からなる繊維、ポリビニールアルコール繊維、ポリオレフィン系繊維等を挙げることができ、特に洗い流す目的の紙の形態においては、木材パルプ繊維、非木材系植物繊維、再生セルロース繊維(レーヨン)、生分解を有するポリ乳酸繊維を用いることが好ましい。(a’)成分の含有量は、シート(A)の構成材料中、好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜40質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。
【0016】
シート(A)の製法は特に限定されず、例えば紙の形態を採用する場合には、従来から知られている湿式法、又は乾式法を用いれば良い。例えば、(a)成分単体分散液もしくは、(a)成分と(a’)成分の混合物の分散液を、抄紙、乾燥することによって得られる。不織布の場合にはスパンレース、サーマルボンド不織布などを用いることが可能である。
【0017】
シート(A)は、液体保持性を有するが、シート(A)の質量に対して1〜20倍、更に5〜15倍の下記組成物(B)を保持できることが好ましい。そして、組成物(B)は、シート(A)が保持できる組成物(B)の量に対して70〜100質量%、更に80〜100質量%、特には100質量%(すなわち飽和量で)保持させて用いることが、後述する理由から好ましい。
【0018】
<組成物(B)>
(b)成分である次亜ハロゲン酸塩としては、具体的には次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等が挙げられ、これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。次亜塩素酸ナトリウムには、製造上次亜塩素酸ナトリウムと当モルの塩化ナトリウムが混在するが、塩化ナトリウムが多量に存在する次亜塩素酸ナトリウムは貯蔵安定性を損なう場合があるため、予め塩化ナトリウムを低減化したものを用いることが好ましい。具体的には塩化ナトリウムを次亜塩素酸ナトリウムに対して10〜60モル%、好ましくは10〜40モル%のものが好適である。このような塩化ナトリウムを低減化した次亜塩素酸ナトリウムは、中食次亜塩素酸ナトリウム、低食次亜塩素酸ナトリウムとして市販されている。組成物(B)中の(b)成分の含有量は、漂白効果の観点から、1〜5質量%、好ましくは1.5〜3質量%、さらに好ましくは2.0〜3質量%である。
【0019】
(c)成分のアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、この中でも水酸化ナトリウムが好ましい。組成物(B)中の(c)成分の含有量は、漂白効果と貯蔵安定性の観点から、0.2〜1質量%、好ましくは0.2〜0.8質量%、特に好ましくは0.3〜0.6質量%である。
【0020】
組成物(B)には、目的とする性能を損なわない範囲で、通常の漂白剤や洗浄剤に配合されている成分、例えば界面活性剤、ハイドロトロープ剤、各種着色料、無機塩、アミノホスホン酸−N−オキサイド等のキレート剤、香料などの成分を配合することができる。
【0021】
界面活性剤〔以下、(d)成分という〕としては、炭素数6〜22、好ましくは6〜18、特に好ましくは8〜12のアルキル基を有する脂肪酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸塩から選ばれる陰イオン界面活性剤(アミノ酸誘導体等の含窒素系陰イオン界面活性剤は除く)、炭素数6〜18、好ましくは8〜16、特に好ましくは10〜14のアルキル基を1つ又は2つ有するアミンオキサイド、スルホベタインなどの両性界面活性剤、炭素数6〜18、好ましくは6〜14、特に好ましくは8〜10のアルキル基を1つ又は2つ有する第4級アンモニウム型カチオン界面活性剤の1種以上を挙げることができる。これら界面活性剤のなかでも、起泡力の点で炭素数8〜12の脂肪酸塩、炭素数8〜16のアルカンスルホン酸塩、炭素数8〜12のアルキル硫酸エステル塩、アルキル基の炭素数が8〜12でありオキシエチレン基の平均付加モル数が2〜5のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、炭素数8〜16のアルキルジメチルアミンオキサイドが好ましく、樹脂部のカビ汚れへの浸透性に対しては、炭素数8〜12のアルキル基を1つ又は2つと残りが炭素数1〜3のアルキル基もしくはヒドロキシアルキル基又はベンジル基である第4級アンモニウム型カチオン界面活性剤を併用することが好ましい。
【0022】
なお、陰イオン界面活性剤の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩が好ましく、第4級アンモニウム型カチオン界面活性剤の対イオンとしては塩素イオン、硫酸イオンが好適である。
【0023】
本発明では、アミンオキサイド、脂肪酸及び第4級アンモニウム型カチオン界面活性剤が特に好ましく、アミンオキサイド、脂肪酸及び第4級アンモニウム型カチオン界面活性剤を全て配合することが最も好ましい。これら3者を使用する場合には、脂肪酸/第4級アンモニウム型カチオン界面活性剤の質量比は、好ましくは0.5〜6、特に好ましくは0.6〜4が起泡性と漂白効果の点から好適である。
【0024】
本発明の組成物(B)中の(d)成分の含有量は、0.01〜3.5質量%、更に0.05〜2.0質量%、特に0.05〜1.0質量%であることが、貯蔵安定性の点から望ましい。
【0025】
本発明の組成物(B)は、さらに(e)成分として、1〜3個、好ましくは1個の炭素数1〜3のアルキル基で置換されたベンゼンスルホン酸アルカリ金属塩を含有することにより、高温下における保存安定性を向上させることができる。また同時にスプレイヤーにて噴霧する時における起泡力を更に向上でき、使用時の硬質表面への付着性を改善することができる。(e)成分のうち、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩が好ましい。(e)成分としては、クメンスルホン酸ナトリウム、キシレンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。中でも、m−キシレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0026】
本発明の組成物(B)中の(e)成分の含有量は0.1〜3.0質量%、更に0.1〜2.0質量%が好ましい。この範囲において高温下での次亜塩素酸ナトリウムの保存安定性を高めるとともに、噴霧時の起泡力を更に向上させることができる。
【0027】
本発明の組成物(B)には、その他の任意成分として、香料成分を配合することができる。次亜塩素酸塩系に配合可能な香料成分の例としては、特開昭50−74581号公報及び特開昭62−205200号公報を参考にすることができ、単体香料及びそれらを組合せた配合香料であってもよい。香料は通常、組成物(B)中に0.001〜0.5質量%含有されるが、安定性を損なう恐れがあるので、配合成分と配合量の決定には注意を要する。
【0028】
本発明の組成物(B)の残部は水であり、貯蔵安定性の上で、微量に存在する金属イオンなどを除去したイオン交換水や蒸留水が好ましい。水の含有量は貯蔵安定性の点から、組成物(B)中80〜98質量%、更に90〜98質量%が好ましい。また、組成物(B)の20℃におけるpHを12.5〜13.5に調整することが、貯蔵安定性及び漂白効果の点から好ましい。
【0029】
また、本発明の組成物(B)は、シート(A)やカビ汚れ等への浸透性の点から粘度が低い方が良好であり、オストワルド粘度計を用いたときの20℃における動粘度が1〜10mm2/s、特に1〜6mm2/sであることが良好である。
【0030】
<漂白方法>
本発明の漂白方法は、シート(A)に含浸させた組成物(B)中の(c)成分のモル数(M1)に対して、シート(A)の構成材料中に存在するカルボキシアルキル基の全モル数(M2)が0.5〜3倍(すなわち、M2/M1=0.5〜3である。)になる比率で、下記(A)に下記(B)を含浸させた漂白用部材を、漂白対象物に接触させる。
【0031】
漂白用部材の接触方法としては、例えばシート(A)を貼り付けた後、組成物(B)を滴下、もしくはトリガー等の噴霧器(スプレーヤー)を用いてスプレーする方法や、漂白対象物に組成物(B)を好ましくは泡状でスプレーしておき、スプレーされた部分にシート(A)を接触させる方法等が挙げられるが、これらに限定されない。また、漂白対象物への密着性の向上や充分な量の組成物(B)を供給するために、シート(A)が保持できる組成物(B)の量に対して飽和量の組成物(B)を担持させて用いることが好ましい。ここで飽和量とは、シート(A)が保持し得る組成物(B)の最大含浸量のことをいい、シート(A)の構成材料、構造や、組成物(B)の組成などにより変動し得る値である。
【0032】
本発明の漂白方法において、カルボキシアルキル基のモル数と、組成物(B)中のアルカリ金属水酸化物のモル数の比率は、シート(A)に組成物(B)を飽和するまで含浸させた状態を基準に算出されるものと定義される。すなわち、対象となるシート(A)について、組成物(B)の飽和含浸量を求め、下記の式により組成物(B)中のアルカリ金属水酸化物のモル数M1とシート(A)の構成材料中に存在するカルボキシアルキル基の全モル数M2とを求め、M2/M1により当該モル数の比率を算出する。
【0033】
【数1】

【0034】
【数2】

【0035】
なお、シート(A)中のカルボキシアルキル基のモル数M2を実験的に算出する方法としては、シート(A)を、既知の規定度の一定量の水酸化ナトリウム水溶液で溶解した後、過剰の水酸化ナトリウムを規定度が既知の硫酸等の酸で逆滴定する方法を挙げることができる。本発明では、このようにして算出した値をモル数M2として採用してもよい。
【0036】
カルボキシアルキル基置換率の異なるカルボキシアルキルセルロースを用いたり、カルボキシアルキルセルロース以外の水分散性繊維との混合比率を変える、また、貯蔵安定性に支障のない範囲で水性漂白剤組成物中のアルカリ金属水酸化物の濃度を調整することで、所望のモル比を達成することができる。
【0037】
カルボキシアルキル基のモル数(M2)が、(c)成分のモル数(M1)に対して0.5〜3倍、すなわちM2/M1=0.5〜3になる比率で使用することで安全で高い漂白効果が得られる。好ましくは0.5〜2.3倍、さらに好ましくは1.0〜2.0倍である。このモル比は、シート(A)に含まれるカルボキシアルキル基の量と組成物(B)中の(c)成分の濃度により適宜調整される。本発明では、シートが(c)成分に対して所定モル比のカルボキシアルキル基を有することで、組成物(B)のpHが速やかに低下する。その結果、シート(A)に組成物(B)を含浸させた漂白用部材では、漂白活性種が効率的に発生し、例えば市販の塩素系カビ取り剤をティッシュペーパー等に含浸させて漂白対象物に接触させる方法よりも高い漂白効果が得られる。
【0038】
本発明では、シート(A)に組成物(B)を含浸してから10分後の含浸液のpHが20℃において9〜12となることが、漂白効果の速やかな発現という観点から好ましく、pHは10〜12が最も好ましい。本発明においては、組成物(B)のpHを低減して漂白対象物に接触させることが重要であり、そのためには、シート(A)に組成物(B)が含浸されやすく、更には含浸した組成物(B)中の(c)成分が十分に消費されることが好ましい。そのため、シート(A)に組成物(B)を含浸させた漂白用部材が保持する液体成分の経時的なpHが上記の範囲となることが漂白効果の点で好ましい。
【0039】
本発明によれば、このような本発明の漂白方法に好適に使用されるシート(A)と組成物(B)とを構成要素とする漂白キットが提供される。該漂白キットにおいては、組成物(B)の20℃におけるpHが12.5〜13.2であることが好ましく、このようなpHを有する組成物(B)をシート(A)に含浸させてから10分経過後に、シート(A)がpH9〜12の液体成分を保持することが好ましい。
【0040】
このように、本発明はシート(A)と組成物(B)とをセットで使用することが重要であり、上記シート(A)と類似組成のシートを、市販の塩素系カビとり剤と併用するだけでは得られない、安全性を考慮した高い漂白性能を得ることができる。
【実施例】
【0041】
実施例1〜5及び比較例1〜5
<シート>
表1にシート例を示す。これらのシートの作成方法を以下に示す。まず、繊維状カルボキシメチルセルロース(ニチリン化学製HC−M)およびパルプ(Mackenzie製NBKP)を合計で3質量%程度の濃度で離解機にてパルプが分散するまで撹拌混合する。これに更に水を加え0.015質量%程度のスラリーとし、角型手抄き抄紙機にて手抄きシートを作成する。これを120℃の熱風乾燥機にて乾燥させ、シートサンプルを作成した。
【0042】
<漂白剤組成物>
表2に液体漂白剤組成物を示す。なお、表中の質量%は組成物中の各成分の濃度である。何れの組成物もpH(20℃)は12.5〜13.5、動粘度(20℃)は1〜10mm2/sの範囲であった。
【0043】
<評価>
表1のシート及び表2の液体漂白剤組成物を表3の組み合わせで用いて、漂白性能(樹脂部に発生したカビ汚れの漂白除去効果の評価)を下記の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0044】
(1)漂白性能
一般家庭の浴室ドアに使用している軟質ポリ塩化ビニル樹脂パッキンに実使用条件にてカビを発生させ、その試験片を採取し約1cm程度に切断し評価サンプルとした。測色色差計(日本電色工業(株)製、ND−300A)を用いて評価サンプルの明度(L値)を測定した。L値の差が±2以内の試験片のみを用いて評価を行った。
【0045】
シャーレ上に上記カビパッキン試験片を置き、3cm×3cmに切断したシートサンプルを上に乗せ、漂白剤組成物を0.7ml滴下後、シャーレを傾け、余剰の漂白剤組成物をシートより除去し飽和含浸状態として10分間放置した。その後水洗、風乾し、目視にて観察し下記の基準に従って評価した。
○:全く黒いくすみがない。
○△:殆ど黒いくすみがなくなっている。
△:やや黒いくすみが残っている。
×:黒いくすみがはっきり残っている。
【0046】
(2)塩素ガス発生の評価
200mlトールビーカーの底部に、3cm×3cmに裁断したシートを置き、漂白剤組成物を0.7ml滴下し、プラスチックフィルムにて密封し5分後に北川式ガス検知管塩素ガス0.1−10.0ppm(光明理化学工業株式会社)を用いて測定した。検知管の読み値により下記の基準に従って評価した。なお、シートを入れず、漂白剤組成物のみを0.7ml滴下して測定を行った場合は検出限界以下であった。
○:検知管の読み値が5ppm未満
△:検知管の読み値が5ppm以上10ppm未満
×:検知管の読み値が10ppm以上
【0047】
(3)pHの経時変化
シャーレ上に3cm×3cmに裁断したシートを置き、漂白剤組成物を0.7ml滴下し10分間室温(20℃)にて放置する。その後シートに含浸した液を絞り、株式会社堀場製作所製フラット型複合電極6261−10CにてpH(周囲温度は20℃)を測定した。
【0048】
【表1】

【0049】
(注)
・カルボキシメチルセルロース:HC−M、ニチリン化学工業(株)製カルボキシメチルセルロース(置換度0.45)
・NBKP:パルプ(Mackenzie)
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
表3中、CM基/NaOHモル比は、3cm×3cmのシート中の全カルボキシメチル基(CM基)のモル数と、該シートに飽和になるまで含浸させた漂白剤組成物中の水酸化ナトリウム(NaOH)のモル数の比である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)の構成材料中に存在するカルボキシアルキル基の全モル数が、下記(B)中のアルカリ金属水酸化物のモル数に対して0.5〜3倍になる比率で、下記(A)に下記(B)を含浸させた漂白用部材を、漂白対象物に接触させる漂白方法。
(A)カルボキシアルキルセルロースを構成材料中50〜100質量%含有する、液体保持性を有するシート。
(B)次亜ハロゲン酸塩1〜5質量%、アルカリ金属水酸化物0.2〜1質量%、及び水を含有する液体漂白剤組成物。
【請求項2】
(A)カルボキシアルキルセルロースを構成材料中50〜100質量%含有する、液体保持性を有するシート、並びに(B)次亜ハロゲン酸塩1〜5質量%、アルカリ金属水酸化物0.2〜1質量%、及び水を含有する液体漂白剤組成物を構成要素とする、請求項1の漂白方法に供される漂白キット。
【請求項3】
(B)の20℃におけるpHが12.5〜13.2であり、該(B)を(A)に含浸させてから10分経過後に、(A)がpH9〜12の液体成分を保持する請求項2記載の漂白キット。
【請求項4】
カルボキシアルキルセルロースを構成材料中50〜100質量%含有する、請求項1の漂白方法に供される液体保持性を有するシート。

【公開番号】特開2006−16435(P2006−16435A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193226(P2004−193226)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】