説明

漆喰施工方法及び艶消し剤添加漆喰原料並びに漆喰艶消し添加剤

【課題】容易な手順で確実に艶消しされた漆喰を施工できる漆喰施工方法を提供する。また、これに用いることができる艶消し剤添加漆喰原料、漆喰艶消し添加剤を提供する。
【解決手段】消石灰を主成分とする漆喰原料と、水と、この水100重量部に対し無水リン酸塩換算のリン酸塩0.1〜100重量部とを加えて混練し、所定の時間養生後に壁面塗布し、その乾燥によって艶消しされた漆喰壁面を得ることを特徴とする漆喰施工方法。前記漆喰原料に予め前記リン酸塩の粉末を加えて成ることを特徴とする艶消し剤添加漆喰原料。前記リン酸塩は粉末又は水溶液として、前記漆喰原料の艶消し添加剤とされることを特徴とする漆喰艶消し添加剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装用及び外装用漆喰壁材又は漆喰プラスター壁材用として用いることができる漆喰の施工方法、及びこの実施に用いることができる艶消し剤添加漆喰原料、並びに漆喰艶消し添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅、業務用事務所などの建築物の内装は、安価で施工の容易なビニールクロスが大部分を占めるに至っている。クロスは吸放湿性に乏しく、カビが生えやすいため衛生上問題がある。また、接着剤に含まれているホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC)による、シックハウス症候群が社会問題化している。これらのことから健康志向の消費者を中心として、漆喰壁が見直されている。
【0003】
漆喰壁には、独特の艶(光沢)があるが、人の好みの問題で、艶消し処理を要求されることが多い。特開平10−259322号公報(マルチ塗装型漆喰調仕上塗料)では、漆喰仕上げが良好であることに基いて、合成樹脂エマルジョンを用いながら仕上り表面が漆喰調となる仕上塗材が提案されている。また、特開平6−57167号公報(重質炭酸カルシウムの表面処理方法)では、重質炭酸カルシウムに1〜10%濃度のリン酸を添加し、混合反応、急冷処理して白色度及び光沢度を向上させる表面処理方法が提案されている。
【0004】
漆喰表面の白色度及び光沢度に関しては、人の好みの問題ではあるが、一般には艶消しされていることの要求が多い。しかし、漆喰の艶消し技術に関しては前例がない。
【0005】
塗料の分野では、例えば特開2002−338896号公報(塗料用艶消し剤及びそれを含有してなる塗料組成物)に示されるように、炭酸カルシウムとリン酸塩を反応させてリン酸カルシウム系化合物を合成させるなど、粒度分布を厳しく制限して、これを塗料に加える方法が紹介されている。また、特開2003−147275号公報(つや消し塗料組成物およびつや消し塗膜形成方法)では、バインダー成分およびリン酸系処理炭酸カルシウムを含ませてつや消し塗料組成物が示されている。この他、シリカやヒドロゲルなどを用いたつや消し剤が考案されている。しかし、これらはいずれも艶消し剤を添加することにより、物理的に塗料表面に微細な凹凸を生じさせ、乱反射を引き起こすことにより艶消し効果を得ようとしたものばかりであり、もともと凸凹があり、厚みもある漆喰壁には適用できないという難点がある。
【特許文献1】特開平10−259322号公報、第1頁、図1
【特許文献2】特開平6−57167号公報、第1頁
【特許文献3】特開2002−338896号公報、第1頁
【特許文献4】特開2003−147275号公報、第1頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて、もともと凹凸があり、かつ厚みもある漆喰でありながら、艶消し剤を後で塗布するというのではなく、通常漆喰塗工を行うのみで艶消しされた漆喰壁面とすることができる漆喰施工方法を提供することを目的とする。
【0007】
また、内装用、外装用等としての現場施工の多様性に伴って最も施工し易い形態とすべく、艶消し剤添加漆喰原料を提供することを目的とする。さらに、同じ現場施工の多様性に伴って最も施工し易い形態にすべく、漆喰艶消し添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の漆喰施工方法は、消石灰を主成分とする漆喰原料と、水と、この水100重量部に対し無水リン酸塩換算のリン酸塩0.1〜100重量部とを加えて混練し、所定の時間養生後に壁面塗布し、その乾燥によって艶消しされた漆喰壁面を得ることを特徴とする。
【0009】
前記リン酸塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムから選ばれる1つ以上から成ることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記漆喰施工方法を実施するのに用いる艶消し剤添加漆喰原料であって、前記漆喰原料に予め前記リン酸塩の粉末を加えて成ることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は、上記漆喰施工方法を実施するのに用いる漆喰艶消し添加剤であって、前記リン酸塩は粉末又は水溶液として、前記漆喰原料の艶消し添加剤とされることを特徴とする。
【0012】
本発明では、漆喰中の水酸化カルシウム(消石灰)が水分と空気中の二酸化炭素(炭酸ガス)と反応し、炭酸カルシウム分(方解石)に変化する反応に着目した。そこで、これにリン酸塩を添加することにより、リン酸塩がリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウムとなる中和反応と、カルシウムの水酸化物イオンがリン酸類イオン(リン酸イオンPO3−、リン酸水素イオンHPO2−、リン酸二水素イオンHPO)に置き換わる置換反応が平行して起こる複雑な反応を発生させ、結晶化を生ぜしめたのである。従って、単に従来の塗料用の艶消し剤を漆喰に添加する場合より、漆喰表面上で不規則な結晶配列を生じ、劇的な艶消し効果を得られるものである。リン酸塩は、過剰に加えると白華現象を生じるため、漆喰、発泡ガラスおよび寒水石の合計100重量部に対し5重量部(好ましくは2.5重量部)に止めるべきである。水100重量部に対する比率では、リン酸塩0.1〜100重量部とすることができる。
【0013】
前記の複雑な反応について、詳細を示すと、消石灰にリン酸塩NaHPO(NaHPO、NaPO)を加えると次表1中の(1)〜(4)の反応が生じる。
【表1】

【0014】
また、漆喰溶液中には、カルシウムイオンCa2+や水酸イオンOHの他に、H、HCO、CO2−、Na、HPO、HPO2−、PO3−があり、アルカリ性が強いため、HはほとんどHOに、他は元々漆喰中にあるCa(OH)以外にCa(HCO、CaCO、Ca(HPO、CaHPO、Ca(PO、NaOH、NaHCO、NaCOを生じ、最終的には、CaCOとNaCO、Ca(POに収斂されて多様な結晶を生じるのである。
【0015】
従って、本発明の漆喰施工方法によれば、混練後所定の時間、例えば20分以上養生して上記の結晶化の反応を開始させ、収斂させながら壁面塗布することにより、表面に結晶を露呈させることができ、艶消しされた漆喰とすることができる。収斂は、壁面塗布後にも行わせることができるので、養生時間は20分〜1日と幅を持たせることができる。好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上である。1日以上養生して完全収斂させてからの塗布も可能である。
【0016】
本発明の艶消し剤添加漆喰原料では、漆喰原料中に予め前記リン酸塩の粉末を混入しているので、これに水を混練することで艶消し効果のある漆喰を得ることができる。
【0017】
本発明の漆喰艶消し添加剤は、粉末又は水溶液として漆喰原料に加えることができるので、これを混練前に適量加えることにより、水の添加の前後に添加し混練することにより、艶消し効果のある漆喰を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の漆喰施工方法によれば、消石灰を主成分とする漆喰原料と、水と、この水100重量部に対し無水リン酸塩換算のリン酸塩0.1〜100重量部とを加えて混練し、所定の時間養生後に壁面塗布し、漆喰材料全体を結晶化させるので、その乾燥によって艶消しされた漆喰壁面を得ることができる。
【0019】
本発明の艶消し剤添加漆喰原料によれば、前記漆喰原料中に予め前記リン酸塩の粉末を加えて成るので、通常漆喰の施工同様に水を加えるのみで、艶消し効果のある漆喰とすることができる。
【0020】
本発明の漆喰艶消し添加剤によれば、前記リン酸塩を粉末又は水溶液として、前記漆喰原料の艶消し添加剤とされるので、通常漆喰に添加剤を添加するのみで艶消し効果のある漆喰とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例を挙げ、本発明を実施するための最良の形態を説明する。まず、次記配合を行った。表2中、漆喰原料としては、消石灰を主成分とする市販の漆喰を用いた。発泡ガラス、寒水石、顔料は、実際利用を模擬してのものであり、本発明の要件ではない。リン酸塩としては、リン酸二水素ナトリウムを用いた。リン酸二水素ナトリウムの配合量は、水(水道水)100重量部に対し3.75重量%で規定した。この値は、漆喰原料および発泡ガラス並びに寒水石の合計重量100重量部に対し、定めることもできるが、配合内容に関わらず汎用できる値として水100重量部に対して規定した。
【表2】

【0022】
実施例1は顔料を加えないもの、実施例2は顔料を9.6g加えたもの、実施例3は顔料を4.1g加えたものである。比較例1〜3は、リン酸二水素ナトリウムを加えないもので、比較例1は顔料を加えず、比較例2は顔料を9.6gとし、比較例3は顔料を4.1gとしたものである。
【0023】
上記実施例1〜3及び比較例1〜3の配合を行って混練し、30分の養生時間を置いた後テストピースとして板上に塗布し、硬化させたものの結果を表3に示す。測定は愛媛県工業技術センターにて、日本電色工業(株)製のデジタル変角光沢計VGS−1Dを用いて行った。
【表3】

【0024】
図1、図2は、表3の結果を図示したもので、図1は60度鏡面光沢度を示し、図2は85度鏡面光沢度を表している。図において、光沢度が低いのは、即ち艶消しされていることを示す。
【0025】
図3は、実施例1の電子顕微鏡写真(2000倍)を示している。図4は、比較例1の電子顕微鏡写真(2000倍)を示している。
【0026】
図3、図4の電子顕微鏡写真を見れば明らかな通り、本発明の漆喰施工方法に係る漆喰は、結晶の大きさが平均10μm程度で、これが表面に表れ、凹凸を生じている。光の可視光波長は380〜800nmであるので、結晶表面で丁度良く可視光線を反射しているものと考えられる。漆喰表面上で不規則な結晶配列によって、これが劇的な艶消し効果を具現しているのである。
【0027】
養生時間は20分以上で、30分以上が好ましい。丸1日養生した後塗布するのも構わない。一般に、左官コテにより塗布されるが、コテの仕上げが滑らかであっても、乾燥によって結晶が露呈されるので、塗り方によって大きく左右されることはない。
【0028】
以上示した本発明の漆喰施工方法を実施するに際しては、漆喰原料中に予めリン酸塩の粉末を加えておき、これに水、発泡ガラス、寒水石、ゼオライト等その他の配合を行い混練して使用することができる。このようにすれば、漆喰利用者は従来品同様の取扱いによって艶消し効果のある漆喰を施工できるので、特別の技術教科を与えずとも、通常施工にして便利に利用できる。
【0029】
また、リン酸塩を粉末又は水溶液としてその配合比率を示して、上記実施例で示した従来よりの漆喰原料の艶消し添加剤として提供することも可能である。この場合、現場混合となるので、その配合を容易とするため、漆喰原料に対する比率、又は配合水に対する比率を正確に定めて呈示する必要がある。
【0030】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することができ、各種態様で実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例の60度鏡面光沢度を比較例と共に示すグラフである。
【図2】実施例の85度鏡面光沢度を比較例と共に示すグラフである。
【図3】本発明の漆喰施工方法により施工された漆喰の表面を示す顕微鏡写真(2000倍)である。
【図4】比較例として示す従来の漆喰の表面を示す電子顕微鏡写真(2000倍)である。
【符号の説明】
【0032】
S1、S2、S3 実施例
C1、C2、C3 比較例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰を主成分とする漆喰原料と、水と、この水100重量部に対し無水リン酸塩換算のリン酸塩0.1〜100重量部とを加えて混練し、所定の時間養生後に壁面塗布し、その乾燥によって艶消しされた漆喰壁面を得ることを特徴とする漆喰施工方法。
【請求項2】
前記リン酸塩がリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウムから選ばれる1つ以上から成ることを特徴とする請求項1に記載の漆喰施工方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の漆喰施工方法を実施するのに用いる艶消し剤添加漆喰原料であって、前記漆喰原料に予め前記リン酸塩の粉末を加えて成ることを特徴とする艶消し剤添加漆喰原料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の漆喰施工方法を実施するのに用いる漆喰艶消し添加剤であって、前記リン酸塩は粉末又は水溶液として、前記漆喰原料の艶消し添加剤とされることを特徴とする漆喰艶消し添加剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−246291(P2007−246291A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67759(P2006−67759)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(303053976)株式会社RSTプロジェクト (3)
【Fターム(参考)】