説明

演奏アシスト装置

【課題】演奏者の演奏を補助する演奏アシスト装置において、ハウリングの発生を防止することのできる技術を提供する。
【解決手段】演奏者がマウスピース21に息を吹き込みつつ演奏を行うと、マイクロフォン11は、マウスピース21内で発生する音を収音し、その振動波形を表す信号を生成する。また、息圧センサ14は、マウスピース21内の息圧を検出し、息圧を表す息圧信号S3を生成する。制御部16は、信号S1のエンベロープの逆数を算出し、息圧信号S3の値と逆数との積を制御信号Scとして出力する。VCA18は、制御部16から入力される制御信号Scに基づいて信号S1を増幅させて信号S2を出力する。振動アクチュエータ20は信号S2´に応じた励振を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器に対する人間の演奏を補助することができる演奏アシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械によって自動的に楽器を演奏する技術は広く知られており、例えば、自動的に演奏を行う自動オルガンや自動ピアノなどは古くから生産されている。近年においては、鍵盤楽器だけでなく、吹奏楽器を自動的に演奏する機械も開発されており、特許文献1,2には金管楽器を自動的に演奏する装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−177828号公報
【特許文献2】特開2004−258443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の自動オルガン、自動ピアノあるいは特許文献1,2に記載の技術においては、全ての演奏を機械が自動的に行うものであり、利用者は演奏を聞くだけであった。一方、演奏をしてみたいという要求を持つ人も多く、たとえ演奏技術が未熟であっても自分の操作によって楽器を奏でて楽しみたいという要望も多い。
しかしながら、上述した従来の技術においては、このような楽器を演奏したいという要求に対応することができなかった。
【0004】
ところで、金管楽器の吹鳴をエネルギー的に補助するには、演奏音をマイクロフォン等で取り込み、電気的に増幅してスピーカから入力する方法が考えられるが、この場合、マイクロフォンとスピーカの間でハウリングが発生するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した背景に鑑みてなされたものであり、吹鳴によって演奏を行う楽器において、ハウリングの発生を防止しつつ、演奏者の演奏を補助することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、管楽器に取り付けられ、取り付けられた部位を励振する励振手段と、前記管楽器から発せられる音を収音してその振動波形を表す波形信号を生成する波形生成手段と、前記管楽器に吹き込まれる演奏者の息の息圧を検出して、息圧値に対応した息圧信号を生成する息圧センサと、前記波形信号のエンベロープの逆数と前記息圧信号とを掛け合わせた結果に対応する制御信号を生成する制御信号生成手段と、前記波形信号を増幅するとともに、前記制御信号によって増幅率が変化する可変利得増幅器とを具備し、前記可変利得増幅器の出力信号を直接もしくは増幅して前記励振手段に供給することを特徴とする演奏アシスト装置を提供する。
【0007】
本発明の好ましい態様においては、前記波形生成手段と前記息圧センサは、振動を検知して波形信号を生成することができるとともに、静圧としての息圧を検出することができる一つのセンサ手段によって構成されていることを特徴とする。
本発明の別の好ましい態様においては、前記励振手段と前記波形生成手段とは前記管楽器に重ねて取り付けられていることを特徴とする。
また、本発明の好ましい態様においては、前記波形生成手段、前記息圧センサおよび前記励振手段は、前記管楽器のマウスピースの管路に露出して設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吹鳴によって演奏を行う楽器において、ハウリングの発生を防止しつつ、演奏者の演奏を補助することができるので、演奏者の演奏操作が微力であっても、それが増幅されて良好な演奏を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1はこの発明の第1の実施形態である演奏アシスト装置100の構成の一例を概略的に示す図である。演奏アシスト装置100は、一点鎖線で囲まれている部分であり、200はトランペットである。21はトランペット200に装着されて用いられるマウスピースである。なお、トランペット200は、一般的なトランペットであるため、その他の各部構成についての説明は省略する。
【0010】
図において、11は音を収音してその振動波形を表すアナログ信号を生成するマイクロフォンであり、マウスピース21の管路に露出して装着されている。12は、マイクロフォン11に接続されており、マイクロフォン11から出力される信号を増幅して信号S1として出力するアンプである。13は、アンプ12から入力される信号S1をデジタル信号に変換して出力するA/D変換器である。
14は、演奏者の息圧を検出し、その息圧を表すアナログ信号(以下、「息圧信号S3」とする)を生成する息圧センサである。15は、息圧センサ14から入力される息圧信号S3をデジタル信号に変換して出力するA/D変換器である。
【0011】
16は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置や、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの各種メモリを備えた制御部である。制御部16の演算装置は、ROM等のメモリに記憶されているコンピュータプログラムを読み出して実行することにより、各種の処理を実行する。具体的には、制御部16は、A/D変換器13,15から供給される信号S1と息圧信号S3とに基づいて、制御信号Scを生成する。
【0012】
17は、制御部16から供給されるデジタルの制御信号Scをアナログ信号に変換して出力するD/A変換器である。18は、VCA(Voltage Controlled Amplifier)であり、D/A変換器17から供給される制御信号Scによって決定される増幅率で、アンプ12から供給される信号S1を増幅して信号S2を出力する。19は、VCA18から供給される信号S2を増幅して信号S2´として出力するアンプである。20は、マウスピース21の管路に露出して取り付けられ、取り付けられた部位を励振する振動アクチュエータである。振動アクチュエータ20は、アンプ19から供給される信号S2´に応じた励振を行って音波を発生させる。
【0013】
次に、上記構成による本実施形態の動作を説明する。演奏者がマウスピース21に唇をつけて、息を吹き込みつつ演奏を行うと、マイクロフォン11は、マウスピース21内で発生する音を収音し、その振動波形を示す信号を生成する。また、息圧センサ14は、マウスピース21内の息圧を検出し、その息圧を表す息圧信号S3を生成する。
【0014】
マイクロフォン11で生成された信号は、アンプ12で増幅され信号S1としてVCA18に入力される。VCA18は、入力される信号S1を増幅してその出力である信号S2をアンプ19に入力する。アンプ19は、入力される信号S2を増幅して、信号S2´として振動アクチュエータ20に供給する。振動アクチュエータ20は、供給される信号S2´に応じた励振を行う。振動アクチュエータ20が励振することにより、マウスピース21内に音波が発生する。
【0015】
このように、マイクロフォン11に入力された信号は、アンプ12,VCA18およびアンプ19によって増幅されて振動アクチュエータ20によって放音されるから、マウスピース21においては、演奏者による実際の演奏音に加えて、増幅された信号S2´に基づく演奏音が振動アクチュエータ20から放音される。このように振動アクチュエータ20から演奏音が出力され、この音がトランペット200の管路内で響くことにより、演奏者の演奏音を増幅させることができる。
【0016】
次に、制御部16の制御信号Scの生成処理について説明する。アンプ12は、信号S1を、VCA18に入力すると共に、同じ信号S1をA/D変換器13に供給する。A/D変換器13は、アンプ12から入力される信号S1をデジタルに変換して制御部16に供給する。また、息圧センサ14で検出された息圧信号S3は、A/D変換器15に供給され、A/D変換器15は、入力される息圧信号S3をデジタルの息圧信号S3に変換して制御部16に供給する。すなわち、制御部16には、信号S1と息圧信号S3との2つの信号が入力される。
【0017】
信号S1と息圧信号S3とが入力されると、制御部16は、信号S1のエンベロープを検出し、エンベロープ値の逆数を算出する。例えば、検出したエンベロープの値がある時点においてpであるとすると、逆数として 1/p が算出される。次に、入力される息圧信号S3、所定の係数および算出した逆数(1/p)の積を算出し、その算出結果を制御信号Scとする。例えば、所定の係数がaであり、息圧信号S3の値がqであるとすると、
a×q×(1/p)
が制御信号Scとして生成される。
【0018】
制御部16は、生成した制御信号ScをD/A変換器17に入力する。D/A変換器17は、入力されたデジタルの制御信号Scをアナログ信号に変換してVCA18に入力する。VCA18は、D/A変換器17から供給される制御信号Scに基づいて、アンプ12から供給される信号S1を増幅して信号S2を出力する。
【0019】
この場合、VCA18は、信号S1の波形に制御信号Scを乗ずることになる。例えば、上述した例においては、信号S1のエンベロープ値はpであるので、信号S2のエンベロープ値は、
p×(a×q×(1/p))
=a×q
となる。
【0020】
このように、信号S2のエンベロープ値は、息圧信号S3の値qと係数aとの積値となる。すなわち、振動アクチュエータ20に供給される信号S2´のエンベロープ値(a×qにアンプ19の増幅率を掛けた値)は、マイクロフォン11で検出された信号S1のエンベロープ値pに依存せず、息圧信号の値qにのみ依存する値となる。振動アクチュエータ20に供給される信号S2´の値が、マイクロフォン11で検出された信号S1のエンベロープ値に依存しないから、振動アクチュエータ20から発生される音や振動がマイクロフォン11に回り込んでも、この成分が増幅されることはなく、ハウリングを防止することができる。
【0021】
従来では振動アクチュエータ20とマイクロフォン11とを近接して設けるとハウリングが発生するという問題があったが、本実施形態においては、ハウリングを防止することができるので、振動アクチュエータ20とマイクロフォン11とを近接して設置することができ、これにより、マウスピース21に振動アクチュエータ20とマイクロフォン11とを重ねて取り付けることが可能となる。
【0022】
また、VCA18は、息圧信号S3の値に応じて信号S1を増幅する。すなわち、振動アクチュエータ20に供給される信号S2´の値は、息圧信号S3に依存するので、演奏者の息圧に応じた演奏アシストを行うことが可能となる。具体的には、演奏者の息圧が大きいほど、振動アクチュエータ20から放音される音の音量は大きくなり、逆に、演奏者の息圧が小さいほど、振動アクチュエータ20から放音される音の音量は小さくなる。演奏者は、演奏音を大きくしたい場合には息を多く吹き込み、逆に、演奏音を小さくしたい場合には息圧を弱くするから、演奏者の通常の演奏に応じた演奏アシストを行うことができる。
【0023】
演奏者が初心者や中級者の場合は、呼気を高い息圧で送り出すことができず、大音量の吹奏を行うことが困難である場合が多い。しかし、本実施形態においては、演奏者の息圧に対応した息圧信号S3から制御信号Scを生成して、生成した制御信号Scに基づいた音量で振動アクチュエータ20から演奏音を出力するので、実際には少量の呼気しか送り出していなくても、音量を大きくさせることができ、大音量の吹奏を楽に行うことが可能となる。
【0024】
[変形例]
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。以下にその一例を示す。
(1)上述した実施形態においては、マウスピース21にマイクロフォン11を設けて、マイクロフォン11でマウスピース21内の音を収音するようにしたが、マイクロフォンに代えて、マウスピースの管路に、例えば圧電素子で構成された振動センサを設けるようにしてもよい。この場合、振動センサでマウスピース内の振動量を検出し、検出された振動量を、息圧信号S3に基づいて増幅して振動アクチュエータに供給するようにすればよい。
【0025】
(2)上述した実施形態においては、音圧を検出するマイクロフォンと、息圧を計測する息圧センサとをそれぞれ別途設けるようにしたが、これに代えて、振動を検知して波形信号を生成することができるとともに、静圧としての息圧を検出することができる、例えば半導体センサ等の1つのセンサを設けるようにしてもよい。この場合は、センサの検出信号をフィルタを用いて、静圧に対応する直流から音楽の拍に対応する程度の周波数(例えば10Hz程度)と、楽音に対応する周波数であって、ハウリングの発生する可能性のある高い周波数成分に分離することにより、ひとつのセンサで振動と静圧との両方を計測することができるので、演奏アシスト装置の構成をより単純な構成とすることができる。
また、第1の実施形態の息圧信号を上記のような静圧に対応する信号としてもよい。
【0026】
(3)なお、上述した実施形態における係数aの値は任意であり、回路によっては1でもよい。この係数aの値をどのように設定しても、制御信号Scは、エンベロープの逆数と息圧信号との両者の乗算結果に対応する信号となる。
【0027】
(4)なお、上述した実施形態において、VCA18の出力が十分に大きければアンプ19は省略してもよい。また、同様に、マイクロフォン11の出力レベルが充分に大きければ、アンプ12は省略することができる。
【0028】
(5)上述した実施形態においては、トランペットの演奏をアシストする演奏アシスト装置について説明したが、本発明が演奏のアシストを行う対象となる楽器は、トランペットに限らず、例えばトロンボーンやホルン等の他の金管楽器であってもよい。または、例えばサクソフォンやクラリネット等の木管楽器であってもよい。ここで、図2にサクソフォン300の演奏をアシストする演奏アシスト装置の構成を示す。なお、図2において、図1に示した構成要素と同様の構成要素については同じ符号を付与している。図2に示す例においても、上述した実施形態と同様に、マイクロフォン11、息圧センサ14および振動アクチュエータ20は、木管楽器であるサクソフォン300のマウスピースの管路に露出して設けられている。制御部16は、マイクロフォン11で収音された音を表す波形信号のエンベロープ値の逆数と息圧信号S3とを掛け合わせた結果に対応する制御信号Scを生成し、この制御信号Scに基づいて増幅された信号S2に応じて振動アクチュエータ20が駆動されるから、振動アクチュエータ20から発生される音や振動がマイクロフォン11に回り込んでも、この成分が増幅されることはなく、ハウリングを防止しつつ演奏者の通常の演奏に応じた演奏アシストを行うことができる。
なお、木管楽器の場合は、振動アクチュエータ20をマウスピースの管路に露出して設けるようにせず、リードに振動アクチュエータを取り付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態である演奏アシスト装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の変形例に係る演奏アシスト装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
100…演奏アシスト装置、200…トランペット、300…サクソフォン、11…マイクロフォン、12,19…アンプ、13,15…A/D変換器、14…息圧センサ、16…制御部、17…D/A変換器、18…VCA、20…振動アクチュエータ、21…マウスピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管楽器に取り付けられ、取り付けられた部位を励振する励振手段と、
前記管楽器から発せられる音を収音してその振動波形を表す波形信号を生成する波形生成手段と、
前記管楽器に吹き込まれる演奏者の息の息圧を検出して、息圧値に対応した息圧信号を生成する息圧センサと、
前記波形信号のエンベロープの逆数と前記息圧信号とを掛け合わせた結果に対応する制御信号を生成する制御信号生成手段と、
前記波形信号を増幅するとともに、前記制御信号によって増幅率が変化する可変利得増幅器とを具備し、
前記可変利得増幅器の出力信号を直接もしくは増幅して前記励振手段に供給することを特徴とする演奏アシスト装置。
【請求項2】
前記波形生成手段と前記息圧センサは、振動を検知して波形信号を生成することができるとともに、静圧としての息圧を検出することができる一つのセンサ手段によって構成されていることを特徴とする請求項1記載の演奏アシスト装置。
【請求項3】
前記励振手段と前記波形生成手段とは前記管楽器に重ねて取り付けられていることを特徴とする請求項1または2記載の演奏アシスト装置。
【請求項4】
前記波形生成手段、前記息圧センサおよび前記励振手段は、前記管楽器のマウスピースの管路に露出して設けられていることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の演奏アシスト装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−199707(P2007−199707A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351895(P2006−351895)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)