説明

潜在性硬化剤粒子の製造方法、接着剤の製造方法、及び接着フィルムの製造方法

【課題】保存性が高く、かつ硬化性が高い潜在性硬化剤粒子を提供する。
【解決手段】本発明は樹脂粒子に主硬化剤を含浸させることで、潜在性硬化剤粒子の主硬化剤含有量が多くなっており、接着剤が低温で硬化する。主硬化剤が樹脂粒子の製造工程で分解されるようなものであっても、樹脂粒子の製造後に更に主硬化剤が含浸されることで、分解されていない主硬化剤を有する潜在性硬化剤粒子が得られる。含浸液に補助硬化剤を含有させれば、補助硬化剤と主硬化剤の両方を含有する潜在性硬化剤粒子が得られる。そのような潜在性硬化剤粒子は接着剤のバインダー中に補助硬化剤を添加しなくても、接着剤を硬化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤の製造方法と、該接着剤に用いられる潜在性硬化剤粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、接着剤には熱硬化性樹脂を硬化させる硬化剤が添加されており、接着剤の保存性を高めるために、従来より硬化剤をカプセル化した潜在性硬化剤粒子が用いられている。
潜在性硬化剤粒子としては、例えばポリウレア樹脂粒子内にアルミニウムキレートのような硬化剤が保持されたものが公知である(例えば、特許文献3を参照)。
【0003】
しかし、ポリウレア樹脂粒子は接着剤中の有機溶剤や、低分子の熱硬化性樹脂が粒子内に浸透しやすいため、上記潜在性硬化剤粒子を用いる場合には、有機溶剤の種類や添加量、熱硬化性樹脂の種類に制限があった。
また、ポリウレア樹脂粒子は熱応答性が大きいため、接着剤を熱硬化させる際に効率が良い反面、多量の硬化剤を保持させることができないという問題もあった。
【特許文献1】特開平6−238158号公報
【特許文献2】特開平8−131816号公報
【特許文献3】国際公開第2005/033173号パンフレット
【特許文献4】特開2004−246231号公報
【特許文献5】特開2005−114325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は接着剤を硬化させる時の反応性が高く、かつ保存性に優れた潜在性硬化剤粒子と接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、接着剤に分散されるべき潜在性硬化剤粒子であって、補助硬化剤との反応生成物が前記接着剤を硬化させる主硬化剤を含有する潜在性硬化剤粒子を製造する潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、重合反応可能な反応性樹脂と、前記主硬化剤とを有する原料液を製造する原料液製造工程と、前記原料液を加熱して前記反応性樹脂を重合させ、前記主硬化剤を含有する樹脂粒子を製造する樹脂粒子製造工程と、前記樹脂粒子を、前記主硬化剤が添加された含浸液に接触させて、前記主硬化剤を前記樹脂粒子に含浸させ、前記樹脂粒子中の前記主硬化剤の含有量を増加させる含浸工程とを有する潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は、潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記補助硬化剤は前記反応性樹脂の重合を阻害する物質であり、前記含浸液は前記補助硬化剤を含有する潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記原料液製造工程は、前記反応性樹脂と前記主硬化剤を、前記主硬化剤を分解する主溶媒に分散させる分散工程を有する潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記反応性樹脂として、前記主溶媒と反応して重合可能な反応性モノマーと、前記主溶媒中で液滴を形成する熱重合性モノマーを用い、前記主硬化剤と共に前記主溶媒に分散させる潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記補助硬化剤は前記反応性モノマーの重合反応を阻害する潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記主溶媒として水を主成分とするものを用いる潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記反応性モノマーはイソシアネートである潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記熱重合性モノマーは、ビニルモノマーとアクリルモノマーのいずれか一方又は両方である潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記主硬化剤は金属キレートであり、前記補助硬化剤はシラン化合物である潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記潜在性硬化剤粒子を、前記主硬化剤を溶解し、かつ、前記樹脂粒子内に浸透しない洗浄液に浸漬させる洗浄工程が、前記含浸工程の後に設けられた潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記反応性モノマーの重合物は極性樹脂であり、前記洗浄液は非極性溶剤である潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、前記反応性モノマーの重合物はポリウレア樹脂であり、前記洗浄液には、シクロヘキサンと、ヘキサンと、トルエンとからなる群より選択される1種類以上の極性溶剤を含有させる潜在性硬化剤粒子の製造方法である。
本発明は接着剤の製造方法であって、前記潜在性硬化剤粒子を、樹脂と、有機溶剤とを含有するバインダーに分散させる接着剤の製造方法である。
本発明は接着剤の製造方法であって、前記バインダーに前記補助硬化剤を含有させる接着剤の製造方法である。
本発明は接着剤フィルムの製造方法であって、前記接着剤の塗布層を形成した後、前記塗布層から前記有機溶剤を除去し、前記塗布層をフィルム化する接着フィルムの製造方法である。
【0006】
尚、本発明で潜在性の低下とは、加熱や物理的衝撃により潜在性硬化剤粒子が溶解、膨潤、又は破壊されることで、潜在性硬化剤粒子中に含まれる硬化成分が、接着剤に含有される成分と接触可能となり、接着剤の硬化反応が開始されることである。
【0007】
潜在性粒子中の硬化成分とは、潜在性硬化剤粒子中に主硬化剤だけが含有される場合は主硬化剤であり、潜在性硬化剤粒子中に主硬化剤と補助硬化剤の両方が含有される場合は、主硬化剤と、補助硬化剤と、主硬化剤と補助硬化剤の反応生成物である。
【0008】
本発明は上記のように構成されており、反応性樹脂(モノマー)と、主硬化剤の混合物、又は反応性樹脂と主硬化剤を別々に主溶媒に入れて、反応性樹脂と主硬化剤とを有する原料液の液滴が、主溶媒に分散された液滴を形成する。加熱によって該液滴中の反応性樹脂を重合させると、液滴が硬化して主硬化剤を含有する樹脂粒子が製造される。
【0009】
主硬化剤が金属キレートのように加水分解性物質の場合には、主硬化剤単独、又は主硬化剤を水を含まない溶剤に溶解した含浸液を作成し、該含浸液を樹脂粒子に含浸させて潜在性硬化剤粒子を作成すれば、主硬化剤は加水分解されずに樹脂粒子内部に含浸される。
【0010】
また、樹脂粒子の製造工程で油相液を水相液に分散させる時に、油相液中の主硬化剤の一部は水相液の水と反応して加水分解されてしまうが、本発明では樹脂粒子の製造工程の後に樹脂粒子に主硬化剤を含浸させるので、潜在性硬化剤粒子は加水分解されていない主硬化剤を含有する。
【0011】
主硬化剤は樹脂粒子の内部に保持されているため、潜在性硬化剤粒子を接着剤に添加したときに、主硬化剤は接着剤中の樹脂(例えば熱硬化性樹脂)や、水分と接触しないため、接着剤が硬化しないだけではなく、主硬化剤は加水分解されずに残る。
従って、本発明により製造された潜在性硬化剤粒子は、貯蔵中の接着剤を硬化させず、使用の際に加熱されると加水分解されていない主硬化剤の潜在性が低下する。
【0012】
主硬化剤と補助硬化剤との反応生成物が樹脂を重合させる場合、主硬化剤が加水分解されていると反応生成物が生成されないが、接着剤中の樹脂粒子内部の主硬化剤は加水分解されていないので、補助硬化剤との反応生成物が生成され、樹脂の重合反応が進行する。
【0013】
主硬化剤を含有しない樹脂粒子に含浸液を含浸させると、樹脂粒子内部に主硬化剤が保持された潜在性硬化剤粒子が得られる。しかし、含浸液を含浸させるだけでは樹脂粒子内部に多量の主硬化剤を含有させることが困難なので、主硬化剤の含有量を多くするためには、樹脂粒子を製造する工程で樹脂粒子に主硬化剤を含有させることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により製造された潜在性硬化剤粒子は、主硬化剤の含有量が多いので、接着剤を硬化させるときの効果速度が速い。補助硬化剤を含有する含浸液を用いて作成された潜在性硬化剤粒子は、その内部に補助硬化剤を有し、そのような潜在性硬化剤粒子を用いれば、接着剤に補助硬化剤を添加する必要が無いので、接着剤の組成を自由に設計して、粘着性等の特性を制御することができる。含浸液を含浸させた後の潜在性硬化剤粒子を洗浄すれば、表面から主硬化剤が除去されるので、接着剤に用いた時の接着剤保存性が高くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の製造方法により、異方導電性フィルムを製造する工程について説明する。
異方導電性フィルムを製造する場合には、樹脂が有機溶剤に溶解され、導電性粒子が分散された液状のバインダーに、後述するように樹脂を重合させる潜在性硬化剤粒子を分散させて液状接着剤を作成する。
【0016】
潜在性硬化剤粒子は樹脂粒子の内部に主硬化剤を含有しており、その主硬化剤と反応して樹脂を重合させる補助硬化剤がバインダーに添加されていたとしても、室温では潜在性硬化剤粒子内の主硬化剤の潜在性は低下しないので、液状接着剤は硬化しない。
液状接着剤を剥離フィルム表面に塗布して塗布層を形成後、乾燥して有機溶剤を蒸発除去させると塗布層がフィルム化し、異方導電性フィルムが得られる。
【0017】
塗布層がフィルム化するときには潜在性硬化剤粒子の濃度が高くなるが、上述したように室温では潜在性硬化剤粒子内の主硬化剤の潜在性は低下しないので、異方導電性フィルムも室温では硬化しない。
使用の際に、この異方導電性フィルムを加熱すると、潜在性硬化剤粒子内の主硬化剤の潜在性が低下し、主硬化剤と補助硬化剤とが反応して反応生成物が生成され、該反応生成物によってバインダー中の樹脂が重合する。
【0018】
次に、上記潜在性硬化剤粒子を形成する工程について説明する。
上述した主硬化剤と、水と接触して分解する水反応性モノマー(反応性モノマー)と、加熱により重合する親油性モノマー(熱重合性モノマー)、水難溶性の有機溶剤とを混合して油相液(原料液)を作成する。
水に、分散剤と、界面活性剤とが添加された水相液(主溶媒)を作成し、上記油相液を、該油相液よりも多量の水相液に添加し、攪拌する。
【0019】
主硬化剤は加水分解性物質であり、主硬化剤が油相液に多量に添加された場合には、主硬化剤の発熱分解によって油相液がゲル化してしまうが、主硬化剤は油相液中の親油性モノマー及び有機溶剤により加水分解が抑制され、油相液はゲル化せずに液滴となって水相液中に均一に分散する。
【0020】
液滴の表面では水反応性モノマーが水と接触しているため、水反応性モノマーの加水分解して中間生成物が生成され、該中間生成物が加水分解前の水反応性モノマーと反応し、液滴表面に水反応性モノマーの重合物が生成される(界面重合)。
【0021】
縣濁液を加熱すると液滴の内部で親油性モノマーが重合すると共に、水反応性モノマーの重合が促進され、内部に主硬化剤を保持したまま液滴が硬化する。
このとき、縣濁液の加熱温度を油相液に添加した有機溶剤の沸点以上に設定すると(例えば酢酸エチルの沸点77℃に対し、加熱温度が80℃)、液滴中から有機溶剤が蒸発除去され、表面に生成された水反応性モノマーの重合物と、内部に生成された親油性モノマーの重合物とからなり、内部に主硬化剤が保持された樹脂粒子が得られる。
【0022】
縣濁液中の液滴を硬化させて樹脂粒子を形成する界面重合法では、油相液の分散性が悪いと液滴の粒径を小さくすることができず、その結果樹脂粒子の粒径も大きくなる。上述したように、本願では油相液は水相液に均一に分散されるので、樹脂粒子の粒径を数μm単位と小さくすることができる。
その樹脂粒子に蒸留水を加水し、洗浄、ろ別して蒸留水から分離し、表面に付着した水相液を除去する(前洗浄工程)。
【0023】
主硬化剤を溶解可能な極性溶剤に主硬化剤を溶解して含浸液を作成し、水相液を除去した後の樹脂粒子を該含浸液に浸漬し、樹脂粒子が溶解しない温度で加熱しながら攪拌する。
本発明では、水反応性モノマーとして重合物が極性樹脂になるものが選択されている。例えば、水反応性モノマーがイソシアネートの場合、その重合物はポリウレアであり、ポリウレアは極性樹脂である。
【0024】
上述したように水反応性モノマーは樹脂粒子の表面部分にあるから、樹脂粒子が含浸液に浸漬すると、主硬化剤が極性溶剤と一緒に樹脂粒子の表面を通過して内部に侵入し、樹脂粒子が含浸液で膨潤した状態になる。
従って、含浸液から樹脂粒子をろ別すると、樹脂粒子の内部に、含浸液に浸漬する前よりも多量な主硬化剤が保持された潜在性硬化剤粒子が得られる。含浸液からろ別した状態では、潜在硬化剤の樹脂粒子表面には含浸液が付着している。
【0025】
含浸液中の主硬化剤の濃度が高く、潜在性硬化剤粒子をそのまま接着剤に添加するとバインダー中の樹脂が加熱しなくても重合する恐れがある場合は、接着剤に添加する前に、潜在性硬化剤粒子を主硬化剤を溶解可能な溶剤で洗浄しておく。
具体的には、主硬化剤を溶解可能な非極性溶剤を洗浄液として用意し、潜在性硬化剤粒子を該洗浄液に浸漬すると、潜在性硬化剤粒子の樹脂粒子表面に付着する主硬化剤は洗浄液に溶解し、除去される。
【0026】
上述したように樹脂粒子の表面には極性樹脂があり、極性樹脂は非極性溶剤を浸透しないので、樹脂粒子の内部に洗浄液が浸透しない。従って、樹脂粒子内部の主硬化剤は洗浄液に溶出されずに残る。
潜在性硬化剤粒子を洗浄液からろ別し、乾燥すると、樹脂粒子の表面に付着する洗浄液と、樹脂粒子の内部に含浸された含浸液の極性溶剤が蒸発除去される。
【0027】
洗浄後の潜在性硬化剤粒子は上述したように樹脂粒子表面から含浸液が除去されているから、樹脂粒子の表面には主硬化剤が残留しておらず、主硬化剤は樹脂粒子の内部だけに含有されている。
従って、洗浄後の潜在性硬化剤粒子を接着剤に添加した時には、加熱しない限り主硬化剤が補助硬化剤や樹脂と接触しないので、接着剤の保存性がより向上する。
【0028】
以上は、主硬化剤と極性溶剤とからなる含浸液を樹脂粒子に含浸させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、補助硬化剤が液状であって、化学構造中に極性基を有する極性化合物の場合には、補助硬化剤を極性溶媒の代わり、又は極性溶媒と一緒に含浸液に含有させる。この含浸液に樹脂粒子を浸漬すると、補助硬化剤が樹脂粒子の内部に入り込み、主硬化剤と補助硬化剤を含有する潜在性硬化剤粒子が得られる。
【0029】
この潜在性硬化剤粒子はそのまま接着剤に添加することもできるが、主硬化剤と補助硬化剤とを溶解可能な非極性溶剤を洗浄液とし、該洗浄液に潜在性硬化剤粒子を浸漬して洗浄すれば、樹脂粒子の表面に付着する主硬化剤と補助硬化剤は除去されるので、接着剤の保存性が向上する。上述したように非極性溶剤は樹脂粒子の内部に入り込まないので、樹脂粒子内部の主硬化剤と補助硬化剤は除去されずに残る。
尚、補助硬化剤を潜在性硬化剤粒子に高濃度で含有させたい場合には、含浸液に有機溶剤を添加せずに、含浸液を主硬化剤と補助硬化剤とだけで構成すればよい。
【0030】
主硬化剤と補助硬化剤の両方を含有する潜在性硬化剤粒子は、接着剤中に補助硬化剤が添加されていなくても接着剤を硬化可能である。例えば、主硬化剤が金属キレート又は金属アルコラート、補助硬化剤がシランカップリング剤等のシラン化合物の場合、シラン化合物をバインダーに多量に含有させると、接着剤の粘着性が減少し取り扱いが困難になるという問題があったが、潜在性硬化剤粒子にシラン化合物を添加すれば、バインダーにシラン化合物を添加する必要が無いので、接着剤の組成を自由に設計して、粘着性等の特性を制御することができる。
【0031】
シラン化合物は金属キレートや金属アルコラートと反応してエポキシ樹脂のような樹脂を重合させるだけでなく、無機物(例えばガラス基板)に対して高い親和性を有するので、シラン化合物を潜在性硬化剤粒子に含有させることで接着剤の接着性も向上する。
【0032】
補助硬化剤を予め油相液に含有させておき、上述した方法で縣濁液を作成し、液滴を硬化させても、樹脂粒子の内部に補助硬化剤と主硬化剤とを含有する潜在性硬化剤粒子が得られる。
【0033】
しかし、補助硬化剤に加水分解性があり、加水分解の生成物が水反応性モノマーや親油性モノマーの重合を阻害する場合は、油相液に補助硬化剤を添加すると樹脂粒子の機械強度が弱くなる。具体的には、補助硬化剤がシラン化合物であり、水反応性モノマーがイソシアネートの場合、加水分解の生成物として水酸基を放出し、該水酸基によってイソシアネートの重合が阻害される。
本発明では、樹脂粒子を製造後に補助硬化剤を含浸させるので、樹脂粒子の機械強度が弱くならず、補助硬化剤も劣化しない。
【0034】
以上は、主硬化剤を含有する樹脂粒子に含浸液を含浸させる場合について説明したが本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、主硬化剤を含有せず、水反応性モノマーの重合物、又は水反応性モノマーの重合物と親油性モノマーの重合物からなる樹脂粒子を、主硬化剤と補助硬化剤とを含有する含浸液に浸漬して、樹脂粒子に主硬化剤と補助硬化剤の両方が保持された潜在性硬化剤粒子を製造することもできる。
【0035】
尚、樹脂粒子に含浸液を含浸させる方法は、樹脂粒子を含浸液に浸漬する方法に限定されず、樹脂粒子に含浸液を吹き付けてもよい。
この場合も、含浸液から分離した潜在性硬化剤粒子は、樹脂粒子表面に主硬化剤と補助硬化剤が付着しているので、含浸液から分離した後、上述した洗浄液に浸漬して洗浄すれば、樹脂粒子表面から主硬化剤と補助硬化剤が除去されるので、接着剤に添加した時に、接着剤の保存性が向上する。
洗浄液に用いる極性溶剤は特に限定されないが、例えば、シクロヘキサンと、ヘキサンと、トルエンを単独又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0036】
含浸液に主硬化剤を分解しない溶剤を用いるか、主硬化剤が液状の場合は溶剤を全く含有させずに含浸液を作成すれば、含浸液を樹脂粒子に含浸させる工程で、含浸液中の主硬化剤も、樹脂粒子中の主硬化剤も分解されない。
含浸液に用いる極性溶剤も特に限定されないが、例えば、エタノールと、イソプロピルアルコールと、酢酸エチルと、メチルエチルケトンを単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0037】
本発明に用いる親油性モノマーは水反応性モノマーと反応性が無く、加熱によって単独又は重合開始剤の存在下で重合するものであれば特に限定されない。具体的には、水反応性モノマーがイソシアネートの場合は、イソシアネートと反応性がなく(例えば化学構造中にヒドロキシル基等を持つ)、2官能以上で親油性があるモノマーを広く用いることができる。
【0038】
このような親油性モノマーの例としては、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、ビニルエステル、酢酸ビニルのようなビニルモノマーや、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エステルアクリレート等のアクリルモノマーがある。親油性モノマーとしてビニルモノマーやアクリルモノマーを用いる場合には、加熱によって該モノマーをラジカル重合させるラジカル重合開始剤を油相液に添加することが望ましい。
【0039】
潜在性硬化剤粒子の樹脂粒子を界面重合法で製造すれば、その形状は球状になる。樹脂粒子の粒子径は硬化性及び分散性の点から、好ましくは0.5μm以上100μm以下である。
潜在性硬化剤粒子は、その界面重合時に使用する有機溶剤を実質的に含有していないこと、具体的には、該有機溶剤の残留量が1ppm以下であることが、硬化安定性の点で好ましい。
【0040】
本発明に用いる主硬化剤は特に限定されない。例えば、補助硬化剤としてシラン化合物を用いる場合には、主硬化剤としては金属キレート又は金属アルコラートを用いる。
金属キレートと金属アルコラートの中心金属は特に限定されず、中心金属がアルミニウム、ジルコニウム、チタニウム等種々のものを用いることができるが、これらのなかでも特に反応性の高いアルミニウムキレートを用いることが好ましい。
主硬化剤に用いるアルミニウムキレート剤としては、下記一般式(1)に表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。
【0041】
【化1】

【0042】
ここで、R1、R2及びR3は、それぞれ独立的にアルキル基又はアルコキシル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。アルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基が挙げられる。
【0043】
化学式(1)で表されるアルミニウムキレート剤の具体例としては、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビスオレイルアセトアセテート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0044】
樹脂粒子に予め含有させる主硬化剤と、含浸液に含有させる主硬化剤は同じ種類であってもいいし、異なる種類であってもよい。また、樹脂粒子と、含浸液には主硬化剤を1種類ずつ含有させてもよいし、2種類以上含有させてもよい。
【0045】
水反応性モノマーは水と反応して液滴表面で界面重合するものであれば特に限定されないが、具体的にはイソシアネート化合物が用いられる。イソシアネート化合物は液滴表面で水と反応して中間生成物であるアミンを生成し、該アミンがイソシアネートと反応して重合し、ポリウレアが生成される。従って、油相液にイソシアネートを用いた場合には、樹脂粒子表面にはポリウレアが生成される。
イソシアネート化合物の中でも、特に、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0046】
3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン(TMP)1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記化学式(1)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた化学式(2)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した化学式(3)のビュウレット体が挙げられる。
【0047】
【化2】

【0048】
【化3】

【0049】
【化4】

【0050】
上記化学式(1)〜(3)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネートが挙げられる。
【0051】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られる樹脂は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するポリウレア樹脂である。
【0052】
水反応性モノマーの重合物と親油性モノマーの重合物からなる樹脂粒子は内部は均一な相を形成しており、このような樹脂粒子と、その相に保持された主硬化剤とからなる潜在性硬化剤粒子は、硬化のために加熱されると、明確な理由は不明であるが、保持されている主硬化剤の潜在性が低下し、補助硬化剤と反応して樹脂の重合反応を進行させることができる。
【0053】
尚、本発明により製造された潜在性硬化剤粒子は、その構造上最表面にも主硬化剤が存在することになると思われるが、最表面に存在する主硬化剤は界面重合の際に系内に存在する水により活性が弱くなっていると考えられる。従って、洗浄前の潜在性硬化剤粒子もある程度は潜在性を有すると考えられるが、接着剤の保存性をより高めるためには、上述したように潜在性硬化剤粒子を接着剤に添加する前に洗浄液で洗浄することが好ましい。
【0054】
油相液には必要に応じて有機溶剤を添加することができる。有機溶剤は沸点が低い揮発性有機溶剤が好ましい。ここで、揮発性有機溶剤を使用する理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネート−水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。
【0055】
そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、接着剤に配合した場合に、高沸点溶剤が接着剤の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、この製造方法においては、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0056】
このような揮発性有機溶剤としては、主硬化剤と水反応性モノマーと親油性モノマーにとって良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0057】
揮発性有機溶剤の使用量は特に限定されないが、多すぎると作業環境に悪影響を与えるだけでなく、最終的に粒子内主硬化剤量が小さくなるので、揮発性有機溶剤の配合量は水反応性モノマーの倍量以下(重量部)とすることが望ましい。
このような揮発性有機溶剤の他にも、界面活性剤や老化防止剤等の添加剤を油相液に添加することもできる。
【0058】
水相液に用いる分散剤はポリビニルアルコール以外にも、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等の通常の界面重合法において使用されるものを使用することができる。分散剤の使用量は、通常、水相の0.1質量%以上10.0質量%以下である。
【0059】
縣濁液を作成する乳化条件はとしては、例えば、油相の大きさが好ましくは0.5μm以上100μm以下となるような撹拌条件(撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度8000rpm以上)で、通常、大気圧下、温度30℃以上80℃以下、撹拌時間2時間以上12時間以下、加熱撹拌する条件を挙げることができる。
【0060】
本発明により製造された潜在性硬化剤粒子は、従来のイミダゾール系潜在性硬化剤粒子と同様の用途に使用することができ、上述したように、補助硬化剤であるシラン化合物と、主硬化剤と補助硬化剤との反応生成物によって重合する樹脂と併用することにより、低温速硬化性の接着剤を与えることができる。
【0061】
補助硬化剤であるシラン化合物は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して樹脂(例えば、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。
【0062】
このようなシラン化合物としては、分子中に1つ以上3つ以下の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中にバインダー中の樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。
【0063】
なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、上記潜在性硬化剤粒子がカチオン型主硬化剤であるため、そのアミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0064】
このようなシラン化合物の具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0065】
接着剤のバインダーに用いる樹脂としては、熱硬化性樹脂、特に熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型尿素樹脂、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型フェノール樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は全て反応生成物であるカチオンによってカチオン重合する。中でも、硬化後の接着強度が良好な点を考慮すると、熱硬化型エポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0066】
このような熱硬化型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100以上4000以下であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。また、これらの化合物にはモノマーやオリゴマーが含まれる。
【0067】
接着剤には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。また、接着剤には、数μmオーダーの粒径の導電性粒子、例えば、金属粒子、樹脂コア表面を金属メッキ層で被覆したもの、それらの表面を絶縁薄膜で更に被覆したもの等を、全体の1質量%以上10質量%以下の配合量で配合することが好ましい。これにより、本発明の製造方法で製造された接着剤を異方導電性接着ペースト、異方導電性フィルムとして使用することが可能となる。
また、導電性粒子を含有しない接着剤や接着フィルムに本発明により製造された潜在性硬化剤粒子を添加することもできる。
【実施例】
【0068】
<親油性モノマーの配合量>
後述する表5に示したように親油性モノマーの配合量を変えて3種類の油相液を作成し、各油相液を水相液にそれぞれ分散させた3種類の縣濁液を80℃に加熱しながら攪拌し、3種類の樹脂粒子を得た。尚、樹脂粒子の粒径は5μm以下(モード径2.3μm程度)になるようにした。油相液と水相液の組成をそれぞれ下記表1、2に記載する。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
樹脂粒子を水相液から分離した後、下記表3に示す組成の含浸液に3種類の樹脂粒子をそれぞれ浸漬し、30℃で6時間加熱攪拌し、含浸液を樹脂粒子に含浸させて実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を得た。
【0072】
【表3】

【0073】
潜在性硬化剤粒子を含浸液から分離し、非極性溶剤であるシクロヘキサンに浸漬して洗浄した後、潜在性硬化剤粒子を非極性溶剤から分離し、乾燥して有機溶剤を除去した。乾燥後の実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いて下記表4の配合比率で3種類の接着剤を作成した。
【0074】
【表4】

【0075】
次に、実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を含浸液に含浸させる前の3種類の樹脂粒子をそれぞれ比較例1〜3の潜在性硬化剤粒子とし、比較例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用い、上記表4の組成のうち、補助硬化剤配合量のみを12重量部として3種類の接着剤を作成した。
これら6種類の接着剤について、昇温速度5℃/分の条件でDSC分析(Differential scanning calorimetry、示差走査熱分析)を行った。
【0076】
比較例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いた接着剤のDSCチャートを図1に、実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いた接着剤のDSCチャートを図2にそれぞれ占めず。尚、図1中の符号符号C1、C2、C3はそれぞれ比較例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いた場合のDSCチャートであり、図2の符号E1、E2、E3はそれぞれ実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いた場合のDSCチャートである。
【0077】
DSCチャートの立ち上がりは樹脂の重合反応が開始したことを示し、DSCチャートのピークは該重合反応がピークに達したことを示している。
DSCチャートが立ち上がる温度(硬化開始温度)と、チャートがピークに達する温度(発熱ピーク温度)と、DSCチャートの最大強度(発熱ピーク強度)をDVB置換率と共に下記表5に記載する。
【0078】
【表5】

【0079】
DVB置換率とはDVB(ジビニルベンゼン)の配合量(重量)を、DVBの配合量とイソシアネートの配合量との合計で除した値に100を乗じた値であり、DVB置換率は実施例1、比較例1が0%、実施例2、比較例2が30%、実施例3、比較例3が40%である。
【0080】
上記図1、2から明らかなように、比較例1〜3に比べて実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いた場合には、DSCチャートがシャープで発熱ピーク強度が高くなっている。DSCチャートの発熱ピーク強度が高くなる程接着剤の硬化速度が速いことを示すので、樹脂粒子に主硬化剤を含浸させることで、接着剤の硬化速度が速くなることが分かる。
【0081】
含浸液に含浸させる前の樹脂粒子は、ジビニルベンゼン含有量が多い程、硬化開始温度、発熱ピーク温度が高くなる傾向があったが、含浸液に含浸させることで硬化開始温度、発熱ピーク温度のばらつきがなくなった。これは、予め主硬化剤を含有する樹脂粒子に、更に主硬化剤を含浸させることで、樹脂粒子の中心部分と表面部分で均一な主硬化剤の分布が形成されたのではないかと考えられる。
【0082】
また、実施例1〜3の硬化開始温度を見ると、硬化開始温度はそれぞれ室温よりは高いが比較的低温領域にあり、室温では保存性を有するが、加熱したときには比較的低温で硬化することがわかる。
【0083】
本発明により製造された潜在性硬化剤粒子は加水分解していない主硬化剤を樹脂粒子内部に含有するので、接着剤に添加する補助硬化剤の量が少なくても樹脂を重合させることができる。
例えば、上述したように、上記実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子2重量部に対し1重量部の補助硬化剤で接着剤は低温硬化したが、含浸処理しない樹脂粒子を低温硬化させるには、該樹脂粒子2重量部に対し12重量部の補助硬化剤を必要とした。
【0084】
<主硬化剤濃度>
含浸液中のアルミニウムキレート濃度を30重量%から20重量%と40重量%に変えた以外は、上記実施例2(DVB置換率30%)と同じ条件で実施例4、5の潜在性硬化剤粒子を作成した。
【0085】
実施例4、5の潜在性硬化剤粒子を用いて上記表4の組成で2種類の接着剤を作成し、これら接着剤について上記実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を用いた場合と同じ条件でDSC分析を行った。DSCチャートを図3に、「硬化開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を、実施例2の測定結果と共に下記表6に記載する。
【0086】
【表6】

【0087】
図3と上記表6から明らかなように、主硬化剤の濃度を増やすことで硬化開始温度と発熱ピーク温度が低下し、接着剤の低温硬化性が進んでいる。これらのことから、含浸液中の主硬化剤濃度を変えることで、接着剤の硬化温度を制御可能なことがわかる。
【0088】
<補助硬化剤含有潜在性硬化剤粒子>
下記表7に記載する組成の含浸液の、補助硬化剤の含有量を変えて4種類の含浸液を作成し、含浸液をこれら4種類の含浸液にそれぞれ変えた以外は実施例2と同じ条件で実施例6〜9の潜在性硬化剤粒子を作成した。
【0089】
【表7】

【0090】
実施例6〜9と上記実施例2の潜在性硬化剤粒子を用いて、上記表4に記載した組成と、下記表8に記載した組成で計10種類の接着剤を作成した。
【0091】
【表8】

【0092】
これら10種類の接着剤を用いてDSC分析を行った。バインダーに補助硬化剤を添加した接着剤(表4の組成)のDSCチャートを図4に、バインダーに補助硬化剤を添加しない接着剤(表8の組成)のDSCチャートを図5にそれぞれ示し、各接着剤の「硬化開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を含浸液中の補助硬化剤の含有量と共に下記表9に記載する。
【0093】
【表9】

【0094】
尚、上記表9中の「硬化開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」の欄の、括弧外の数値はバインダーに補助硬化剤を添加した接着剤の数値であり、括弧内の数値はバインダーに補助硬化剤を添加しなかった接着剤の数値である。
【0095】
上記表9と図4、5から分かるように、含浸液中の補助硬化剤の含有量が多くなる程、硬化開始温度、発熱ピーク温度共に低温化しており、その低温化の効果は図5に示すようにバインダーに補助硬化剤を含有させない場合顕著であった。
【0096】
表7に示した希釈溶剤を含浸液に添加せず、主硬化剤と、主硬化剤製品に元々添加されている希釈溶剤と、補助硬化剤とからなる含浸液を用いた実施例9の潜在性硬化剤粒子は、補助硬化剤を含有しないバインダーにおいても硬化開始温度61℃という低温化を実現することができた。
【0097】
逆に、含浸液に補助硬化剤を添加しなかった実施例2は、バインダーに補助硬化剤を添加しない場合に接着剤が硬化しなかった。この結果から、含浸液に補助硬化剤を添加することで、バインダーに補助硬化剤を添加しなくても接着剤の硬化反応が起こることが確認された。
また、上記実施例9の潜在性硬化剤粒子の電子顕微鏡写真には、樹脂粒子の異形化や凝集が見られず、含浸液浸漬処理後の粒子状態は良好であることが確認された。
【0098】
<補助硬化剤の種類>
上記表7に記載した含浸液の補助硬化剤の種類を変えて4種類の含浸液を作成し、これら4種類の含浸液を用いた以外は実施例9と同じ条件で実施例10〜13の潜在性硬化剤粒子を作成した。補助硬化剤(シラン化合物)の製品名と官能基の種類を下記表10に記載する。
【0099】
【表10】

【0100】
上記表10に記載した各シラン化合物は、それぞれ信越化学工業(株)社の製品である。
【0101】
実施例10〜13と、上記実施例9の潜在性硬化剤粒子を用いて、上記表4、8の組成で計10種類の接着剤を作成し、各接着剤についてDSC分析を行った。
これら10種類の接着剤を用いてDSC分析を行った。バインダーに補助硬化剤を添加した接着剤(表4の組成)のDSCチャートを図6に、バインダーに補助硬化剤を添加しない接着剤(表8の組成)のDSCチャートを図7にそれぞれ示し、各接着剤の「硬化開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」を含浸液中の補助硬化剤の種類と共に上記表10に記載した。
【0102】
尚、上記表10中の「硬化開始温度」と「発熱ピーク温度」と「発熱ピーク強度」の欄の、括弧外の数値はバインダーに補助硬化剤を添加した接着剤の数値であり、括弧内の数値はバインダーに補助硬化剤を添加しなかった接着剤の数値である。
【0103】
図7に示すように、グリシジル基を持つシラン化合物を用いた実施例11の場合、硬化開始温度53℃、発熱ピーク温度86℃の低温硬化性を達成することができた。これについては、反応性のエポキシ基を有するシラン化合物を主硬化剤であるアルミニウムキレートと同時に潜在化したことにより、エポキシの重合効率が上がったためと考えている。
【0104】
同様に、脂環式エポキシ基であるシクロヘキセンオキシド基を持つシラン化合物を用いた実施例13も低温硬化の傾向があった。シクロヘキセンオキシド基とグリシジル基は共にエポキシ基であり、これらエポキシ基を有するシラン化合物を含浸させた潜在性硬化剤粒子は非常に活性が高いため、バインダーに少量のシラン化合物を配合した接着剤では、図6に示すように、硬化開始温度は40℃台まで低下した。
【0105】
また、ビニルタイプのシラン化合物を用いた場合に、発熱ピークがダブルピークとなったのは、シラン化合物によるアルミキレート剤の配位子置換量の差が影響しているのではないかと考えている。即ち、立体障害の小さいビニル型のシラン化合物では、配位子置換が生じやすく、アルミニウムキレートとの反応によって、反応性の異なる2タイプのカチオン種が生成される可能性が考えられる。
【0106】
<参考試験1>
アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24%イソプロパノール溶液(川研ファインケミカル(株)社製の商品名「アルミニウムキレートD」)11重量部と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(三井武田ケミカル(株)社製の商品名「D−109」)を11重量部とを、有機溶剤である酢酸エチル30重量部に溶解して油相液とした。
【0107】
この油相液と、上記表1に記載した水相液と混合して、ホモジナイザー(11000rpm/10分)で乳化混合後、60℃で1晩界面重合させた。反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、界面重合粒子をろ過によりろ別し、自然乾燥することにより粒径10μm程度の球状の樹脂粒子を得た。
【0108】
この樹脂粒子を、上記表3に記載した含浸液に含浸させて実施例14の潜在性硬化剤粒子を作成した。
また、比較対照として、油相液にアルミニウムキレートを含有させなかった以外は、上記実施例14と同じ条件で比較例4の潜在性硬化剤粒子を作成した。
【0109】
実施例14と比較例4の潜在性硬化剤粒子を用いて表4の組成で接着剤を作成し、その接着剤について、昇温速度5℃/分、測定量10mgの条件でDSC分析を行った。DSC分析の結果、得られたDSCチャートを図8に示し、DSCチャートから読み取った硬化開始温度と発熱ピーク温度と発熱ピーク強度の値を下記表11に示す。
【0110】
【表11】

【0111】
図8の符号E14は実施例14の潜在性硬化剤粒子を用いた場合のDSCチャートを、同図の符号C4は比較例4の潜在性硬化剤粒子を用いた場合のDSCチャートをそれぞれ示している。
【0112】
上記表11と、図8のチャートを見れば明らかなように、比較例4は実施例14に比べて発熱開始温度も熱硬化温度も高く、接着剤の低温硬化性に劣る。これは、アルミニウムキレートを含有しない樹脂粒子を、後からアルミニウムキレートを含浸させても、アルミニウムキレートが含浸される量に限界があり、実施例14に比べて比較例4の潜在性硬化剤粒子のアルミニウムキレート含有量が小さくなったためと推測される。
【0113】
<参考試験2>
上記表7に記載した組成で、シランカップリング剤の配合量を変えて5種類の含浸液を作成した。シランカップリング剤の配合量を下記表12に示す。
【0114】
【表12】

【0115】
上記5種類の含浸液に、実施例14と同じ条件で製造した樹脂粒子を浸漬して、実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子を製造した。
尚、実施例14で用いた油相液には親油性モノマーが添加されておらず、実施例14の潜在性硬化剤粒子はDVB置換率がゼロであるから、実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子のDVB置換率もゼロになる。
【0116】
実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子を用いて、上記表4の組成で接着剤を製造し、その接着剤のDSC分析を行った。DSC分析の結果、得られたDSCチャートを図9に示し、DSCチャートから読み取った硬化開始温度と発熱ピーク温度と発熱ピーク強度の値を上記表12に記載した。
【0117】
図9の符号E15〜E19は、それぞれ実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子を用いた場合のDSCチャートを示している。
図9と表12から分かるように、シランカップリング剤の配合量が20重量部までは、シランカップリング剤の配合量が増える程、硬化開始温度と発熱ピーク温度は低温化したが、配合量が20重量部を超えると、硬化開始温度と発熱ピーク温度は高温側にシフトした。
【0118】
これに対し、親油性モノマーを油相液に含有させた場合(実施例2〜6、表9、図4)は、シランカップリング剤の配合量が20重量部を超えても硬化開始温度と発熱ピーク温度は低温化している。
【0119】
これは、油相液に親油性モノマーを含有させずに樹脂粒子を製造すると、親油性モノマーを含有させた場合と比べて、ポリウレア−ウレタン結合の架橋密度が高くなりすぎ、シランカップリング剤が樹脂粒子に含浸可能な量が小さくなるためと推測される。
【0120】
<参考試験3>
上記実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子と、シランカップリング剤を含有しないバインダーとを、上記表8の組成で配合して5種類の接着剤を製造した。
これらの接着剤を用いてDSC分析を行った。DSC分析の結果、得られたDSCチャートを図10に示し、図10のDSCチャートから読み取った硬化開始温度と、発熱ピーク温度と、発熱ピーク強度を、含浸液中のシランカップリング剤配合量と共に、下記表13に記載する。
【0121】
【表13】

【0122】
尚、図10の符号E15〜E19はそれぞれ実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子を用いた接着剤のDSCチャートを示している。
【0123】
上記表13と図10から分かるように、含浸液中のシランカップリング剤の配合量が多くなるほど、硬化開始温度と、発熱ピーク温度が低くなっている。また、実施例15の潜在性硬化剤粒子はシランカップリング剤を含有しないため、バインダー中にもシランカップリング剤が添加されていない接着剤では、硬化反応が起こらなかった。
【0124】
また、樹脂粒子を製造する工程で油相液に親油性モノマーを添加しなかった場合の測定結果(表12、13)と、樹脂粒子を製造する工程で油相液に親油性モノマーを添加した場合の結果(表9)とを比べると、含浸液中のシランカップリング剤の配合量が同じ場合であっても、親油性モノマーを油相液に添加した方が、添加しない場合に比べて発熱ピーク強度が高い傾向があった。
【0125】
発熱ピーク強度が高い程、接着剤の硬化速度が早いことになるので、樹脂粒子を製造する工程で、油相液に親油性モノマーを添加した方が、接着剤の硬化速度が速いことがわかる。
【0126】
シランカップリング剤の含有量が多い程、硬化速度が速くなるから、樹脂粒子を製造する工程で、油相液に親油性モノマーを添加した方が、シランカップリング剤を浸透、保持する能力が高い樹脂粒子が得られることが分かる。
【0127】
以上のことから、低温短時間硬化可能な接着剤を製造するためには、親油性モノマーを油相液に添加する方が好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】比較例1〜3の潜在性硬化剤粒子を接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図2】実施例1〜3の潜在性硬化剤粒子を接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図3】実施例2、4、5の潜在性硬化剤粒子を接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図4】実施例2、6〜9の潜在性硬化剤粒子を補助硬化剤を含有する接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図5】実施例2、6〜9の潜在性硬化剤粒子を補助硬化剤を含有しない接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図6】実施例9〜13の潜在性硬化剤粒子を補助硬化剤を含有する接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図7】実施例9〜13の潜在性硬化剤粒子を補助硬化剤を含有しない接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図8】実施例14、比較例4の潜在性硬化剤を接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図9】実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子を補助硬化剤を含有する接着剤に添加した場合のDSCチャート
【図10】実施例15〜19の潜在性硬化剤粒子を補助硬化剤を含有しない接着剤に添加した場合のDSCチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤に分散されるべき潜在性硬化剤粒子であって、補助硬化剤との反応生成物が前記接着剤を硬化させる主硬化剤を含有する潜在性硬化剤粒子を製造する潜在性硬化剤粒子の製造方法であって、
重合反応可能な反応性樹脂と、前記主硬化剤とを有する原料液を製造する原料液製造工程と、
前記原料液を加熱して前記反応性樹脂を重合させ、前記主硬化剤を含有する樹脂粒子を製造する樹脂粒子製造工程と、
前記樹脂粒子を、前記主硬化剤が添加された含浸液に接触させて、前記主硬化剤を前記樹脂粒子に含浸させ、前記樹脂粒子中の前記主硬化剤の含有量を増加させる含浸工程とを有する潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項2】
前記補助硬化剤は前記反応性樹脂の重合を阻害する物質であって、
前記含浸液は前記補助硬化剤を含有する請求項1記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項3】
前記原料液製造工程は、前記反応性樹脂と前記主硬化剤を、前記主硬化剤を分解する主溶媒に分散させる分散工程を有する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項4】
前記反応性樹脂として、前記主溶媒と反応して重合可能な反応性モノマーと、前記主溶媒中で液滴を形成する熱重合性モノマーを用い、前記主硬化剤と共に前記主溶媒に分散させる請求項3記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項5】
前記補助硬化剤は前記反応性モノマーの重合反応を阻害する請求項4記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項6】
前記主溶媒として水を主成分とするものを用いる請求項3乃至請求項5のいずれか1項記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項7】
前記反応性モノマーはイソシアネートである請求項6記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項8】
前記熱重合性モノマーは、ビニルモノマーとアクリルモノマーのいずれか一方又は両方である請求項4又は請求項5のいずれか1項記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項9】
前記主硬化剤は金属キレートであり、
前記補助硬化剤はシラン化合物である請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項10】
前記潜在性硬化剤粒子を、前記主硬化剤を溶解し、かつ、前記樹脂粒子内に浸透しない洗浄液に浸漬させる洗浄工程が、前記含浸工程の後に設けられた請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項11】
前記反応性モノマーの重合物は極性樹脂であり、前記洗浄液は非極性溶剤である請求項10記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項12】
前記反応性モノマーの重合物はポリウレア樹脂であり、
前記洗浄液には、シクロヘキサンと、ヘキサンと、トルエンとからなる群より選択される1種類以上の極性溶剤を含有させる請求項11記載の潜在性硬化剤粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の製造方法で製造された前記潜在性硬化剤粒子を、樹脂と、有機溶剤とを含有するバインダーに分散させる接着剤の製造方法。
【請求項14】
前記バインダーに前記補助硬化剤を含有させる請求項13記載の接着剤の製造方法。
【請求項15】
請求項13又は請求項14のいずれか1項記載の製造方法で製造された前記接着剤の塗布層を形成した後、前記塗布層から前記有機溶剤を除去し、前記塗布層をフィルム化する接着フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−156570(P2008−156570A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349933(P2006−349933)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】