説明

潤滑剤組成物、及びその用途

【課題】磁気記録媒体の潤滑層の材料として有用な新規な潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の下記式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤組成物である。Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の水酸基等の極性基を;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数;mは0〜1の実数;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基及びフッ素原子を含む置換基を有する化合物を含有する潤滑剤組成物に関する。さらに詳しくは、大容量記録媒体である磁気ディスク、磁気テープなどの記録媒体用の潤滑剤として有用な潤滑剤組成物に関する。また、本発明は、当該潤滑剤組成物の種々の用途に関し、具体的には、当該潤滑剤組成物を用いて形成される、膜、積層体、磁気記録媒体、ヘッドスライダ、及び磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜型の磁気記録媒体は、強磁性金属又はその合金からなる磁性層を、種々の方法(例えば、スパッタ、蒸着、無電解メッキ法等)によって非磁性基板上に形成して製造される。磁気記録媒体を実際に使用する際は、磁気ヘッドと高速で接触摺動し、摩耗損傷を受けたり、磁気特性の劣化を起こしたりする場合がある。そのため、磁性層上に保護膜や潤滑層を設けて、耐摩耗性を向上させている。従来保護膜層の材料には、炭素質膜、SiO2及びZrO2等の酸化物膜、窒化物膜、ホウ化物膜等が一般的に利用されている。また潤滑層の材料には、フッ素系化合物が一般的に利用されている。
この様に、記録媒体の潤滑層は、動摩擦係数を低減し、ヘッドとの接触摺動によって生ずる摩耗損傷や磁気特性の劣化を軽減する目的においては極めて有効であるが、一方で、特に潤滑層の膜厚が厚い場合は、潤滑層の存在により、ヘッドとディスクとの間に吸着現象が生じ易くなることがある。吸着現象によって、静摩擦係数が増加し、ヘッドがディスクに貼り付いたまま動作しなくなることがある。しかもこのような吸着現象は、媒体基板を平滑にするにつれて発生し易くなる。面記録密度を高めるためには、ヘッドの低浮上化並びにディスク回転の高速化が求められ、そのため、媒体基板の表面はより平滑になる方向にあるので、この吸着現象を抑制することは重要である。一方、潤滑層の膜厚を薄くすると、前記吸着現象は起こり難くなるものの、潤滑層の機能、即ち、高速の接触摺動に起因する摩耗損傷や磁気特性の劣化の抑制、を達成し得ない場合がある。
【0003】
そこで、潤滑層に用いる潤滑剤を精選することにより、上述の問題を解消しようとする試みが種々なされている。例えば、特許文献1及び2に開示されている化合物、並びにAusimont社製潤滑剤「FOMBLIN Z-DOL」は、分子の両末端にCH2OH基を有しているため、これを用いることにより、保護膜層の表面との結合が強く、優れた耐摺動特性を付与することができる。
しかしながら、「FOMBLIN Z-DOL」は、非特許文献1で示されているように、分子中にO−CF2−O単位の結合を有しているため、磁気ヘッドの構成成分である酸化アルミニウム(α−Al23)の存在下では200℃程度の温度で容易に分解する。加えて、CSS(コンタクト スタート ストップ)時には磁気記録媒体と磁気ヘッドの両者間の接触により局所的な瞬間温度は、90〜450℃或いはそれ以上の高温となる。したがって、磁気ヘッドのスライダー部分の構成成分である酸化アルミニウムが触媒となり、「FOMBLIN Z-DOL」が分解する。このように潤滑剤の分解が生ずると、分解した成分が揮発して潤滑層の膜厚が減少することにより、動摩擦係数が増大し、その結果、高速の接触摺動に起因する摩耗損傷や磁気特性の劣化が生じ易いという問題を生じていた。さらに、分解した成分の一部が磁気ヘッドに付着することにより、ヘッドの浮上量が増加して再生出力の低下を引き起こしたり、ヘッドが記録媒体表面に吸着する等の問題をも生じていた。そこで、「FOMBLIN Z-DOL」の利点である高基板吸着性・耐摺動特性を保持したままで磁気ヘッドによる接触分解を抑制させる方法が希求されていた。
【0004】
その方法の一つに、分子の両末端にCH(OH)CH2OH基を有するAusimont社製潤滑剤「FOMBLIN Z-TETRAOL」を用いる手法がある。この潤滑剤は、前記「FOMBLIN Z-DOL」と同様、分子中にO−CF2−O単位の構造を含んでいるにも係わらず、極性官能基の多座配位構造によりヘッドのスライダー部の酸化アルミニウムとの接触反応(分解)が緩和され、化学的に安定である。また、その両末端の極性官能基が炭素系、又は酸化物セラミックス系の保護膜との間に高い親和性を示し、スピンオフ性の向上に寄与するので、安定性に優れている。
しかしながら、両末端に基板との親和性が高い極性官能基が多く存在するため、潤滑層分子の自由度が低下する。その結果潤滑性が不足し、疑似接触型のヘッドのとの組み合わせでは摺動耐久性が劣る。
【0005】
この問題を解決すべく、潤滑層内に自由に動ける潤滑剤成分(基板非吸着成分)を設ける(以下、基板非吸着成分からなる層を、「非吸着層」という。)ことで、潤滑性を向上させ、耐久性を保持するという手法がとられている(例えば、特許文献3)。
しかしながら、潤滑層における基板非吸着成分は揮発しやすく、またディスク接触時に磁気ヘッドに非吸着成分が付着することにより、ヘッドの浮上量が増加して再生出力の低下を引き起こすなどの問題が報告されている。また、今後面記録密度の向上を目的としたヘッドの低浮上化が進められていく上で、潤滑層は更なる薄膜化が期待されており、この潤滑層における非吸着層はそれを妨げるものと想定される。したがって、「FOMBLIN Z-TETRAOL」の利点である高基板吸着性・耐摺動特性・高安定性を保持しつつ、吸着層のみでの構成が可能な潤滑剤の開発が希求されている。
【0006】
一方、ホスファゼン化合物及びそれを含有する潤滑剤組成物、並びに記録媒体用潤滑剤としての利用も提案されている(特許文献4及び5)。しかし、ホスファゼン化合物は、
基板への吸着性等が不足しているため、FOMBLIN Z-TETRAOLなどの潤滑剤との併用を余儀なくされている。
また、メソゲン構造を主鎖又は側鎖に有する重合体を利用した潤滑剤組成物及びグリース組成物が種々提案されているが(例えば、特許文献6、7及び8)、記録媒体の潤滑層に用いられる材料としての有用性については、未だ明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO04/031261 A1
【特許文献2】特開平10−143838号公報
【特許文献3】2001−184622号公報
【特許文献4】WO01/021630 A1
【特許文献5】特開2004−352999号公報
【特許文献6】特開2006−307201号公報
【特許文献7】特開2006−307202号公報
【特許文献8】特開2008−195799号公報
【0008】
【非特許文献1】“Degradation ofperfluoropolyethers catalyzed by aluminum oxide",Paul H.Kasai,Wing T.Tang and Patrick Wheeler,Applied Surface Science,51(1991)201〜211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、磁気記録媒体の潤滑層等に用いられる材料として有用な、新規な潤滑剤組成物、及びそれを用いた磁気記録媒体を提供することを課題とする。
特に、本発明は、薄層化が可能であり、高基板吸着性、耐摺動特性、及び高安定性を、薄層で達成可能な新規な潤滑剤組成物、及びそれを利用した磁気記録媒体を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記潤滑剤組成物の種々の用途を提供することを課題とし、該組成物を用いて製造される、膜、積層体、磁気記録媒体、ヘッドスライダ、及び磁気記録装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するため種々の化合物を合成しその特性を検討した。その結果、環状基を有する分子の環状基近傍に、水酸基等の極性基を含むフッ素系化合物を含有する潤滑剤組成物によれば、上記課題を達成し得ることを見出した。また該化合物を潤滑層に用いた磁気ディスクが、高回転でのディスク装置に適することも見出した。これらの知見に基づき、さらに検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0011】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 少なくとも1種の下記式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤組成物。
【化1】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の極性基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表し、但し、sが2以上の時、複数のn、m及びZはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0012】
[2] 前記1つ以上の極性基が、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH2)、メルカプト基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)、アルコキシカルボニル基(−COOR;但しRはアルキル基)、カルバモイル(−CONH2)、ウレイド基(−NHCONH2)、スルホンアミド基(−SO2NH2)、リン酸基(−P(=O)(OH)3)、フォスフェート基(−OP(=O)(OH)2)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)、アミノカルボニル基(−NHCO−)、ウレイレン基(−NHCONH−)、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基))、及びアミノスルホニル基(−NHSO2−)からなる群から選ばれる極性基である[1]の潤滑剤組成物。
[3] Xが、1つ以上の極性基を含むことを特徴とする[2]の潤滑剤組成物。
[4] Yが、1つ以上の極性基を含むことを特徴とする[2]の潤滑剤組成物。
[5] X及びYがそれぞれ、1つ以上の極性基を含むことを特徴とする[2]の潤滑剤組成物。
[6] 前記1つ以上の極性基が、水酸基である[1]〜[5]のいずれかの潤滑剤組成物。
[7] Zのフッ素原子含有率が、50質量%以上であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれかの潤滑剤組成物。
[8] Zに含まれる前記任意の1種又は2種の原子が、酸素原子(O)、窒素原子(N)、及び硫黄原子(S)からなる群から選択されることを特徴とする[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物。
【0013】
[9] 前記少なくとも一種の式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である[1]〜[8]のいずれかの潤滑剤組成物。
【化2】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基を表し、Yは2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の極性基を含み;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0014】
[10] 1分子当たりのフッ素含有率が、35質量%以上である[1]〜[9]のいずれかの潤滑剤組成物。
[11] Xが、芳香族性環状基、非芳香族性環状基、又は金属に配位している配位子の残基である[1]〜[10]のいずれかの潤滑剤組成物。
[12] Yが、芳香族性環状基及び極性基を少なくとも有する2価以上の連結基であることを特徴とする[1]〜[11]のいずれかの潤滑剤組成物。
[13] Yが、極性基で置換された芳香族性環状基を含有する2価以上の連結基であることを特徴とする[1]〜[12]のいずれかの潤滑剤組成物。
[14] tが、2以上の実数であることを特徴とする[1]〜[13]のいずれかの潤滑剤組成物。
[15] 1分子当たりのフッ素含有率が、40質量%以上であることを特徴とする[1]〜[14]のいずれかの潤滑剤組成物。
[16] Yが、極性基で置換された、ベンゼン、アセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ピセン、テトラフェン、ペリレン、コロネン、アヌレン、ピロール、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、チオフェン、ベンゾチオフェン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピラゾール、インダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾ−ル、イソチアゾール、ベンゾチアゾ−ル、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノキサリン、アクリジン、キナゾリン、シンノリン、及びトリアジンからなる群から選ばれる芳香環の残基を含有する2価以上の連結基であることを特徴とする[1]〜[15]のいずれかの潤滑剤組成物。
[17] Yが、極性基で置換された、ベンゼン環の残基を含有する2価以上の連結基であることを特徴とする[1]〜[16]のいずれかの潤滑剤組成物。
[18] 式(1)中のs個の−Z−Cn2n+1-mmのうち少なくとも1つが、末端に、−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を含む[1]〜[17]のいずれかの潤滑剤組成物。
[19] 式(1)中のs個の−Z−Cn2n+1-mmのうち少なくとも1つが、末端に、−OCH2CF2−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を含む[1]〜[17]のいずれかの潤滑剤組成物。
【0015】
[20] 少なくとも一種の式(1)で表される化合物が、下記式(3)で表されることを特徴とする[1]〜[19]のいずれかの潤滑剤組成物。
【化3】

[式中、X3は、置換されていてもよい環状基を表し;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0016】
[21] X3が、置換されていてもよい、ベンゼン、トリフェニレン、ペリレン、トリアジン、フタロシアニン、ポルフィリン、コロール、及びコロネンからなる群から選択される芳香族環の残基である[20]の潤滑剤組成物。
[22] 少なくとも一種の式(1)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である[1]〜[21]のいずれかの潤滑剤組成物。
【化4】

[式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bが2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3である。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0017】
[23] Wが、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基))、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、カルボニル基(C=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価の連結基である[20]〜[22]のいずれかの潤滑剤組成物。
[24] Vが、単結合、オキシ基、−NH−、−N(アルキル)−、−N(置換アルキル)、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基またはそれらの組合せである[20]〜[23]のいずれかの潤滑剤組成物。
[25] 式中の少なくとも1つのポリフッ化ポリエーテル鎖が、−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)である[20]〜[24]のいずれかの潤滑剤組成物。
[26] 式中の少なくとも1つの、−Wとポリフッ化ポリエーテル鎖とから構成される鎖が、−OCH2CF2−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)である[20]〜[25]のいずれかの潤滑剤組成物。
【0018】
[27] 式(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかで表されるパーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーの少なくとも1種をさらに含有する[1]〜[26]のいずれかの潤滑剤組成物:
A−CF2O(CF2CF2O)r(CF2O)sCF2−B (a)
[A及びBはそれぞれ、OHCH2−又は下式から選ばれる少なくとも1種の基を表し;rは1〜30のいずれかの数であり、sは1〜30のいずれかの数であり;
【化5】

但し、xは1〜5のいずれかの数である。]
X−CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2−Y (b)
[X及びYはそれぞれ、F、HO(CH2CH2O)tCH2−、HOCH2CH(OH)CH2OCH2−、HOOC−及びピペロニル基から選ばれる基を表し;mは1〜60のいずれかの数であり;nは1〜60のいずれかの数であり;tは1〜30のいずれかの数である。]
F[CF(CF3)CF2O]uCF(CF3)−X’ (c)
[X’は、F又は−COOHを表し;uは1〜60のいずれかの数である。]
F[CF2CF2CF2O]vCF2CF2CH2−Z (d)
[Zは、F、HO−及びCOOH−から選ばれる基を表し;vは1〜60のいずれかの数である。]
【0019】
[28] 磁気記録媒体用ディスクの潤滑剤として用いられることを特徴とする[1]〜[27]のいずれかの潤滑剤組成物。
[29] [1]〜[28]のいずれかの潤滑剤組成物からなる膜。
[30] ディプコート法、スピンコート法又は真空蒸着法により形成される[29]の膜。
[31] 少なくとも表面の一部がカーボンを主原料とする基板と、その上に、[29]又は[30]の膜を有する積層体。
[32] 少なくとも、磁性層、及び[29又は30]の膜を有する磁気記録媒体。
[33] 前記磁性層と前記膜との間に、保護層を有する[32]の磁気記録媒体。
[34] 磁気ヘッドを備えたヘッドスライダであって、少なくとも一部の表面に、[29]又は[30]の膜を有するヘッドスライダ。
[35] [32]又は[33]の磁気記録媒体、及び[34]のヘッドスライダの少なくとも一方を有する磁気記録装置。
【0020】
[36]下記式(3)で表される化合物。
【化6】

[式中、X3は、置換されていてもよい環状基を表し;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
[37] X3が置換もしくは無置換のトリアジン環残基、置換もしくは無置換のトリフェニレン残基、又はアザクラウンエーテル環の残基である[36]の化合物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、磁気記録媒体の潤滑層等に用いられる材料として有用な新規な潤滑剤組成物、及びその種々の用途を提供することができる。
特に、本発明は、薄層化が可能であり、高基板吸着性、耐摺動特性、及び高安定性を、薄層で達成可能な新規な潤滑剤組成物、及びそれを利用した磁気記録媒体用ディスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一例の断面模式図である。
【図2】式(1)の例示化合物のLB膜のFT−IR RASスペクトルの測定結果である。
【図3】FOMBLIN Z-TETRAOLのLB膜のFT−IR RASスペクトルの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
1. 潤滑剤組成物
本発明は、少なくとも一種の下記式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤組成物に関する。下記化合物は、式中のX及びYの少なくとも一方に水酸基等の極性基を含む。極性基は、基板(もしくはその上に形成された炭素質膜、SiO2及びZrO2等の酸化物膜、窒化物膜、ホウ化物膜等の保護膜層)に対する結合性基として作用する。例えば、上記した公知の潤滑剤、「FOMBLIN Z-DOL」及び「FOMBLIN Z-TETRAOL」では、パーフルオロポリエーテルの両末端に極性基である水酸基を有する化合物を利用して、基板吸着性を確保している。下記式(1)で表される化合物は上記した通り、環状基を有する分子の環状基の近傍に極性基を有するので、鎖状分子の両末端に水酸基を有する化合物と比較し、基板上での分子自由度が高い。その結果、本発明の潤滑剤組成物は、耐摺動特性に優れ、非吸着層が存在しなくても、耐摺動特性を保持し得る。また、本発明では、下記式(1)の化合物を利用することで、非吸着層の除去が可能であり、更なる薄膜化も実現し得る。
【0024】
【化7】

【0025】
式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の極性基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。但し、sが2以上の時、複数のn、m及びZはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0026】
式(1)中、Xは置換されていてもよい環状基を表す。該環状基の例には、芳香族環の残基(芳香族性環状基)及び非芳香族環の残基(12−アザクラウン−4及び15,18,21,24−アザクラウン等のアザクラウン環、並びにシクロヘキサン環等の非芳香族性環状基)の双方が含まれる。また、金属に配位している配位子の残基であってもよく、中心金属に配位することによってはじめて環状構造を形成する元々は鎖状の基であってもよい。即ち、本明細書では、「環状基」は、元々は鎖状等の非環状基であっても、分子が複数集合して、環状構造型の集合体または超分子または錯体を形成するのであれば、環状基の意味に含まれるものとする。中でも、芳香族性環状基が好ましい。また、前記環状基を構成する原子については特に制限はないが、少なくとも炭素原子を環構成原子として含むのが好ましい。前記環状基は、炭素原子のみを環構成原子とする環状基から選択されてもよいし、並びに炭素原子とともに、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子等のヘテロ原子を環構成原子とする環状基から選択されてもよい。基板吸着性の観点では、ヘテロ原子を環構成原子とする環状基から選択されるのが好ましく、特に、トリアジン環の残基等、窒素原子を含む環状基から選択されるのが好ましい。また、複数のヘテロ環の残基を、環状に連結してなる環状基も好ましい。また、環状多座配位子として公知の、フタロシアニン、ポリフィリン、及びコロール等の残基も好ましい。なお、これらの環状基については、中心金属に配位した状態であってもよい。以下に、Xの例として好ましい、ヘテロ環状基の例を示すが、これらに限定されるものではない。なお、以下では、環状基の置換基や中心金属は取り去り、環状基の骨格のみを示すものとする。また、Yの置換位置はいずれであってもよく、下記の環状基中、置換可能な水素原子のいずれもYに置き換わっていてもよい。
【0027】
【化8】

【0028】
また、炭素原子のみを環構成原子とする芳香族性環状基の例には、ベンゼン環の残基が含まれる。また、複数のベンゼン環が縮環してなる環(例えば、トリフェニレン、ペニレン、コロネン等)の残基、又は複数のベンゼン環が環状に連結してなる環状基も好ましい。以下に、炭素原子のみを環構成原子とする芳香族性環状基の例を示すが、以下の例に限定されるものではない。なお、以下では、置換基は取り去り、環状基の骨格のみを示すものとする。また、Yの置換位置はいずれであってもよく、下記の環状基中、置換可能な水素原子のいずれもYに置き換わっていてもよい。
【0029】
【化9】

【0030】
また、非芳香性脂環状基の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。なお、以下では、置換基は取り去り、環状基の骨格のみを示すものとする。また、Yの置換位置はいずれであってもよく、下記の環状基中、置換可能な水素原子のいずれもYに置き換わっていてもよい。
【0031】
【化10】

【0032】
Xで表される環状基は、1以上の置換基を有していてもよい。当該置換基の例には、水酸基等の極性基を含む種々の置換基が含まれる。環状基の環構成原子に、直接水酸基等の極性基が結合していてもよいし、また連結基を介して水酸基等の極性基が結合していてもよい。連結基の例には、炭素原子数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基、炭素数2〜20のアルキニレン基、炭素数1〜20の芳香族性環状基等が含まれる(但し、連結鎖中の1つの炭素原子、又は隣接していない2以上の炭素原子が、酸素、窒素、硫黄等の原子に置換されていてもよく、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい)。
【0033】
また、Xで表される環状基に置換可能な置換基の例には、水素原子の他、以下の置換基群Tが含まれる。
置換基群T:
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った1価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル基)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った1価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換又は無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った1価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換又は無置換の、芳香族又は非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた1価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5又は6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキル及びアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、アリール及びヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換又は無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0034】
なお、式(1)中、Xの置換基の例としては、水酸基等の極性基を含む置換基(水酸基等の極性基そのものも含む意味である)、並びにフッ素原子を含む置換基が好ましい。Xは、水酸基等の極性基を含む置換基を有するか、無置換であるのが好ましい。
【0035】
式(1)中、Yは単結合又は2価以上の連結基を表す。Yは、水酸基等の極性基を含む連結基であるのが好ましい。Yが表す2価以上の連結基としては、置換もしくは無置換の、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基))、スルフィド基(S)、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素、窒素、硫黄等の原子に置換されていてもよく、水素原子がフッ素原子に置換されていても良い)、炭素原子数2〜20のアルケニレン基、炭素原子数2〜20のアルキニレン基、芳香族性環状基、カルボニル基(C=O)、スルホニル基(S=O)、ホスホリル基(P=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価以上の連結基が好ましい。
中でも、Yは、置換されていてもよい芳香族性環状基、即ち、芳香族環の残基、を含んでいるのが好ましい。該芳香族性環状基には、直接又は連結基を介して、水酸基等の極性基が置換しているのが好ましい。なお、本明細書では、「芳香族性環状基」の用語は、炭化水素芳香族環の残基のみならず、ヘテロ原子を環構成原子として含む芳香族ヘテロ環の残基に対しても用いるものとする。当該連結基の例については、Xと水酸基等の極性基との間に連結基が存在する態様における、当該連結基の例と同様である。前記芳香族性環状基の好ましい例には、ベンゼン、アセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ピセン、テトラフェン、ペリレン、コロネン、アヌレン、ピロール、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、チオフェン、ベンゾチオフェン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピラゾール、インダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾ−ル、イソチアゾール、ベンゾチアゾ−ル、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノキサリン、アクリジン、キナゾリン、シンノリン、及びトリアジンからなる群から選ばれる芳香環の残基が含まれる。中でも、Yは、ベンゼン環の残基(例えば、二価であればフェニレン基)を含んでいるのが好ましく、水酸基等の極性基で直接もしくは連結基を介して置換されたベンゼン環の残基を含んでいるのが特に好ましい。
【0036】
式(1)の化合物は、X及びYの少なくとも一方に、1つ以上の極性基を含む。極性基は末端に位置する1価基であっても、末端以外に位置する2価基であってもよい。基板表面に対する吸着性の観点では、極性基は末端に位置する1価基であるのが好ましい。極性基の例には、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH2)、メルカプト基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)、アルコキシカルボニル基(−COOR;但しRはアルキル基)、カルバモイル(−CONH2)、ウレイド基(−NHCONH2)、スルホンアミド基(−SO2NH2)、リン酸基(−P(=O)(OH)3)、フォスフェート基(−OP(=O)(OH)2)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)、アミノカルボニル基(−NHCO−)、ウレイレン基(−NHCONH−)、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基))、及びアミノスルホニル基(−NHSO2−)が含まれる。YがXやZとの連結部に極性基を有する場合は、当該極性基は、これらのうちの2価基から選択される。
これらの中でも、上記観点から1価の極性基が好ましく、中でも水酸基が好ましい。
【0037】
式(1)の化合物の例には、Xのみが水酸基等の極性基を含む例、Yのみが水酸基等の極性基を含む例、並びにX及びYの双方が水酸基等の極性基を含む例のいずれもが含まれる。本発明では、分子の両末端ではなく、分子の中心に位置する環状基であるX及びそれに結合しているY(好ましくは芳香族性環状基を含むY)のいずれか一方に置換基として、基板結合性のある水酸基等の極性基を位置させることで、より水酸基等の極性基の基板結合性を強化し、耐摺動特性を改善している。
【0038】
式(1)中、Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表す。Z中に含まれるC及びF以外の原子(但し水素原子は考慮しないものとする)の好ましい例には、酸素原子(O)、窒素原子(N)及び硫黄原子(S)が含まれる。中でもOが好ましい。Zの好ましい例には、−[(CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O]q−が含まれる。式中、p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表す。中でも、p1は2〜3であるのが好ましく、p2は0〜2であるのが好ましく、p3は0〜2であるのが好ましい。またqは2〜20であるのが好ましく、3〜10であるのがより好ましい。なお、これらは整数である必要はなく、即ち、式(1)の化合物は、p1、p2、p3及びqのいずれかが異なる基を有する2種以上の化合物の混合物であってもよい。また、qが2以上の場合、複数の基、−[(CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O]−、は同一でも異なっていてもよい。
【0039】
2価以上の連結基Zのフッ素原子含有率は、50質量%以上が好ましく、55〜80質量%がより好ましい。Zのフッ素原子含有率は前記範囲であると、潤滑性の向上などの点で好ましい。また、式(1)で表される化合物全体の、フッ素原子含有率は、35質量%以上であるのが好ましく、45〜65質量%であるのがより好ましく、50〜60質量%であるのがさらに好ましい。分子全体のフッ素原子含有率が前記範囲であると、表面エネルギーの低下などの点で好ましい。
【0040】
式(1)で表される化合物は、側鎖の末端部に基−Cn2n+1-mmを有する。nは1〜10の実数であり、mは0〜1の実数であるである。nは2〜8であるのが好ましい。mは0であるのが好ましい。
【0041】
上記式(1)中、s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。sは好ましくは1〜4であり、より好ましくは1〜3である。またtは、2以上であるのが好ましく、2〜6であるのがより好ましい。tが2以上であると、潤滑性の向上や表面エネルギーの低下などの点で好ましい。
【0042】
前記式(1)の化合物の好ましい例には、式(1)中のs個の−Z−Cn2n+1-mmのうち少なくとも1つが、末端に、−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を含んでいる化合物;及び式(1)中のs個の−Z−Cn2n+1-mmのうち少なくとも1つが、末端に、−OCH2CF2−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を含んでいる化合物;が含まれる。
なお、本発明に係る前記式(1)の化合物は、後述する通り、基板面に対して環状基を向けて、及び側鎖のポリフッ化ポリエーテル(PFPE)鎖を基板面に対して垂直にして配向する性質がある。この性質によれば、PFPE鎖が多く、且つ短いほうが、潤滑層を薄くできるであろう。k+n及びkが前記範囲であると、PFPE鎖のこれらの性質を十分に発揮する化合物を、しかも低コストで製造できるので好ましい。
【0043】
式(1)で表される化合物の好ましい例には、下記式(2)で表される化合物が含まれる。
【0044】
【化11】

【0045】
式中、Xは置換されていてもよい環状基を表し、Yは2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の水酸基等の極性基を含み;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。式(2)中のそれぞれの記号の意義、及び好ましい範囲については、上記式(1)中のそれぞれと同様であり、好ましい範囲も同様である。また、p1、p2、p3及びqについても、好ましい範囲は、上記した通りである。
但し、式(2)の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−中、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとする。式(2)の化合物は、環状基Xに、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した側鎖をs本有する連結鎖Yをt本配する化合物である。qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0046】
式(1)で表される化合物の好ましい例には、下記式(3)で表される化合物が含まれる。
【0047】
【化12】

【0048】
式中、X3は、置換されていてもよい環状基を表し;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。式(3)中のそれぞれの記号の意義、及び好ましい範囲については、上記式(1)中のそれぞれと同様であり、好ましい範囲も同様である。また、p1、p2、p3及びqについても、好ましい範囲は、上記した通りである。なお、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0049】
式(3)中、X3は、置換されていてもよい環状基を表す。X3が表す環状基の好ましい例については、式(1)中のXが表す環状基の好ましい例と同様である。また置換基の例も、Xが有する置換基の例と同様である。X3は、芳香族性環状基であっても、非芳香族性環状基であってもよい。芳香族性環状基の好ましい例には、置換もしくは無置換のトリアジン環残基、置換もしくは無置換のトリフェニレン残基、及び置換もしくは無置換のベンゼン環残基が含まれるが、これらに限定されるものではなく;また、非芳香族性環状基の好ましい例には、アザクラウンエーテル環の残基が含まれるが、これらに限定されるものではない。
式(3)中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上(好ましくは2価又は3価)の連結基を表す。V及びWがそれぞれ表す2価以上の連結基は、鎖状であるのが好ましい。その例には、置換もしくは無置換の、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基)、スルフィド基(S)、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、炭素原子数2〜20のアルケニレン基、炭素原子数2〜20のアルキニレン基、カルボニル基(C=O)、スルホニル基(S=O)、ホスホリル基(P=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価以上の連結基が含まれる。
【0050】
式(3)中、Vとしては、単結合、置換もしくは無置換のイミノ基、オキシ基、又は炭素原子数2〜20のアルキニレン基が好ましい。置換イミノ基の置換基Rは、炭素原子数1〜20のアルキル基(但し、1つの炭素原子又は隣接していない2以上の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい)が好ましい。中でも、Vは、単結合、オキシ基、−NH−、−N(アルキル)−、−N(置換アルキル)、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基またはそれらの組合せが好ましい。特に、X3が置換もしくは無置換のトリアジン環残基である場合は、Vは、単結合、オキシ基(−O−)、−NH−、−N(アルキル基)−、又は−N(置換アルキル基)−であるのが好ましく、合成の簡便さ、及び性能の観点では、−N(アルキル)−、−N(メチル)−又は−N(エチル)−が好ましい。
式(3)中、Wとしては、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基)、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、カルボニル基(C=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価の連結基が好ましい。
【0051】
式(3)中、a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。
【0052】
式(1)で表される化合物の好ましい例には、下記式(4)で表される化合物が含まれる。
【0053】
【化13】

【0054】
式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bが2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3である。なお、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
式(4)中の記号は、式(3)中の記号それぞれと同義であり、好ましい範囲は同様である。
【0055】
式(4)中、置換基Rの例としては、式(1)中の環状基Xが有する置換基の例と同様であり、好ましい範囲も同様である。即ち、Rは、水酸基等の極性基を含む置換基(水酸基等の極性基そのものも含む意味である、並びにフッ素原子を含む置換基が好ましい。式(4)中のトリアジン環は、水酸基等の極性基を含む置換基を有するか、無置換であるのが好ましい。
【0056】
以下に式(1)で表される化合物の具体例を示すが、これらの具体例に限定されるものではない。なお例示化合物番号に付記されたカッコ内の数値は、フッ素原子含有率を意味する。
【0057】
【化14】

【0058】
【化15】

【0059】
【化16】

【0060】
【化17】

【0061】
【化18】

【0062】
【化19】

【0063】
【化20】

【0064】
【化21】

【0065】
【化22】

【0066】
【化23】

【0067】
前記式(1)で表される化合物は、種々の方法を組合せて合成することができる。例えば、式(4)の化合物は、下記の方法により製造することができる。即ち、前記式(1)の化合物は、基本的な構成要素は、中心の環状基、末端のパーフルオロアルキレンオキシ基、それらをつなぐ連結基、及び中心環状基又は連結基に存在する吸着性基である。極性基は、環状基を中心として、放射状に複数配されているのが、多点吸着の意味では好ましく、よって、吸着基は、環状基を末端のパーフルオロアルキレンオキシ基へとつなぐ、連結部に、所定の反応により、導入するのが好ましい。
末端のパーフルオロアルキレンオキシ基鎖(以下、単に「フッ素鎖」という場合がある)は、化合物の極性を大きく変化させるので、好ましくは化合物合成の最終段階に近いところで、導入するのが好ましい。上記吸着性基の例示のうち、二価の吸着性基については、極性基は環状基とフッ素鎖を有する残基の連結基として、合成反応を行うのがよい。例えば、吸着性基としてウレイレン基を有する化合物を合成する場合は、環状基に複数のアミノ基が結合した原料を準備し、フッ素鎖を有する残基をイソシアネートとして、当該原料に反応させれば、容易に合成できる。
【0068】
フッ素鎖と連結部の結合形式が、エーテル結合(エーテル結合は加水分解しないので好ましい結合形式である)の化合物を合成する場合は、水酸基を有する芳香族化合物とフッ素鎖のトリフラートとを反応させることがしばしばである。この方法では、例えば、吸着性基が、芳香族化合物の水酸基と競争的に反応できる一価もしくは二価の極性基である場合は、これらの基を保護しておくか、又は後から導入するのが好ましい。
例えば、式(4)で表される、中心核がトリアジン環である化合物を合成する場合は、側鎖を単結合で芳香環にするか、塩化シアヌルに、芳香族または脂肪族アミンまたはアルコールを反応させるのが一般的である。この反応は、上記吸着性基として例示した極性基と競争的になる場合があるので、この反応時には、該極性基を保護したり、又は後から導入するのが好ましい。また、末端フッ素鎖についても、先に導入しても、又は後に導入してもよく、後に導入するほうが一般的には容易である。
【0069】
また、式(4)中、トリアジン環を他の環状基(例えば、12−アザクラウン−4等のアザクラウンエーテルの残基)に置き換えた化合物も、基本的に上記芳香族環状化合物と同様である。アザクラウンは二価のイミノ基にイソシアナートや酸塩化物を反応させて連結部を形成させることで上記と同様に合成可能である。
【0070】
本発明の潤滑剤組成物は、式(1)で表される化合物とともに、本発明の効果を損なわない範囲で、用途に応じて他の化合物を含有していてもよい。例えば、本発明の潤滑剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、下記の化合物(a)〜(d)を含有してもよい。下記化合物(a)〜(d)から選択される2種類以上を含有していてもよい。下記化合物(a)〜(d)の添加により、本発明の潤滑剤組成物の粘度が低減され、その結果、摩擦(例えば、磁気記録媒体の場合はヘッド/メディア間の摩擦低減)のさらなる低減が図られる。
【0071】
A−CF2O(CF2CF2O)r(CF2O)sCF2−B (a)
[A及びBはそれぞれ、OHCH2−又は下式から選ばれる少なくとも1種の基を表し;rは1〜30のいずれかの数であり、sは1〜30のいずれかの数であり;
【化24】

但し、xは1〜5のいずれかの数である。]
【0072】
X−CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2−Y (b)
[X及びYはそれぞれ、F、HO(CH2CH2O)tCH2−、HOCH2CH(OH)CH2OCH2−、HOOC−及びピペロニル基から選ばれる基を表し;mは1〜60のいずれかの数であり;nは1〜60のいずれかの数であり;tは1〜30のいずれかの数である。]
F[CF(CF3)CF2O]uCF(CF3)−X’ (c)
[X’は、F又は−COOHを表し;uは1〜60のいずれかの数である。]
F[CF2CF2CF2O]vCF2CF2CH2−Z (d)
[Zは、F、HO−及びCOOH−から選ばれる基を表し;vは1〜60のいずれかの数である。]
【0073】
前記式(a)の化合物の例としては、“Fomblin Z−dol”(Solvay Solexis社)、及び“MORESCO PHOSFAROL A20H”(松村石油研究所)等がある。前記式(b)の化合物の例としては、“Fomblin Z−03”、“Z−dol TX”、“Z−tetraol”、“Z−DIAC”、“AM2001”、“AM3001”(いずれもSolvay Solexis社)等がある。式(c)の化合物の例としては、“KRYTOX 143”、及び“157FS”(デュポン社)等がある。式(d)の化合物の例としては、“DemnumSA”、及び“DemnumSH”(いずれもダイキン工業社)等がある。
【0074】
本発明の潤滑剤組成物は、溶媒を含む塗布液として調製されてもよい。磁気記録媒体等の潤滑層用材料として利用する態様では、塗布液として調製し、該塗布液を、基板等の表面に塗布して薄層(約5〜20Å程度)を形成するのが好ましい。塗布液の調製に用いられる溶媒については特に制限はない。例えば、“Vertrel XF−UP“(三井・デュポンフロロケミカル社製)、“HFE−7100DL”(住友スリーエム社製)、“HFE−7200”(住友スリーエム社製)、“AK−225”(旭硝子製)、アセトン、2−ブタノンなどの市販品を使用することができる。塗布液中の式(1)の化合物の濃度は、形成する層の厚み、塗布量、等に応じて決定することができるが、一般的には0.001〜0.5質量%程度である。
【0075】
2.膜及び積層体
本発明は、本発明の潤滑剤組成物からなる膜にも関する。本発明の膜は、例えば、本発明の潤滑剤組成物を塗布液として調製し、基板の表面に、塗布することで形成することができる。塗布方法については特に制限はなく、従来公知の方法にて膜を形成することができる。具体的には、ディプコート法、スピンコート法、ディップスピン法、LB法等の種々の塗布法を利用することができる。また、真空蒸着法により形成することもできる。本発明の膜を、磁気記録ディスク等の磁気記録媒体の潤滑膜として、又は、磁気記録ヘッドの潤滑膜として利用する態様では、塗布面状が良好な膜を薄膜(例えば厚み約5〜20Å程度)として形成することが要求される。かかる用途には、ディップコート法、スピンコート法及び真空蒸着法を利用するのが好ましく、特にディップコート法が好ましい。
なお、塗布液の調製に用いられる溶媒については特に制限はないが、ディップコート法の場合は、上記例示した溶媒の中でも、“Vertrel XF−UP”(三井・デュポンフロロケミカル社製)、“HFE−7100DL”(住友スリーエム社製)、“HFE−7200”(住友スリーエム社製)などのフッ素系溶剤を用いて調製することが好ましい。
【0076】
本発明の膜を形成する基板について特に制限はなく、用途に応じて選択することができる。基板の一例としては、少なくとも表面の一部が、ダイヤモンドライクカーボン等のカーボン主原料とする基板が挙げられる。本発明の潤滑剤組成物を、ダイヤモンドライクカーボン等のカーボンを主原料とする基板の表面に塗布すると、前記式(1)の化合物は、その中心核である環状基Xを基板面に水平にして、及びその側鎖であるポリフッ化ポリエーテル(PFPE)鎖を垂直になるように配向すると推測される。その結果、特に高い潤滑性能を発現することが期待される。例えば、フッ素系溶媒を用いて本発明の潤滑剤組成物(式(1)の化合物として、末端に−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を有する化合物を含有する)を塗布液として調製し、ダイヤモンドライクカーボンからなる基板表面にディップコート法により膜を形成すると、当該膜のFT−IR RASスペクトルは、1260cm-1近傍(具体的には、±5cm-1の範囲)にCF3基に帰属されるピークの強い強度が生じる。一方、同一の化合物をLB単層膜として形成し、同様にFT−IR RASスペクトルを測定すると、1260cm-1近傍(具体的には、±5cm-1の範囲)にCF3基に帰属される強い強度のピークが生じる。即ち、これらの結果から、カーボンからなる表面上に形成された膜中の式(1)の化合物の分子の状態は、LB単層膜中の状態と同等であると言うことができる。LB単層膜では、分子中の親水性あるいは極性部分は水面に向けられ、ポリフッ化ポリエーテル(PFPE)鎖の疎水性部分は空気界面側に集めて密集して膜が形成されていると考えられる。従って、カーボンからなる表面上に形成された膜中の式(1)の化合物の分子も、基板面に対してPFPE鎖が垂直に配向し、密集して膜を形成していると推測される。LB単層膜中の分子状態との同一性は、1260cm-1近傍におけるCF3基に帰属されるピークの強度が、LB単層膜の同ピークの強度の50%以上であることで確認できる。ピーク強度が等しい場合もあり得、即ち100%も可能である。
【0077】
従来のPFPE鎖を有する磁気記録媒体用の潤滑剤用化合物は、いずれも、長鎖のPFPE鎖が基板面に対して水平配向性であり、その性質が、従来の潤滑剤の性能に限界があった一因であると、本発明者は考えている。上記した通り、本発明の潤滑剤組成物は、PFPE鎖が垂直配向性となり、PFPE鎖の末端に位置する、例えばCF3基が、磁気ヘッドと接する潤滑層最上面に存在することになる。一方、基板面に対してPFPE鎖が水平配向性の従来の化合物では、潤滑層最上面に存在するのは、CF2CF2O基等のフッ化アルキレンオキシ基であり、この状態に対して、潤滑層最上面が、CF3基になっている状態のほうが、確率的に低表面エネルギー性が期待できる。
【0078】
また、上記した通り、従来、磁気ヘッドの構成成分である酸化アルミニウム(α−Al23)の存在下では、−OCF2O−が分解されてしまうという問題があった。PFPE鎖が垂直配向性ならば、−OCF2O−を磁気ヘッドから遠ざけて配することが可能である。さらに、Ausimont社製潤滑剤「FOMBLIN Z−TETRAOL」のように鎖状PFPE鎖の両末端に極性吸着性基がある場合、その極性吸着基が隣接するPFPE鎖末端の吸着基同士と相互作用すればよいが、同一分子の両末端の吸着基同士が相互作用する場合は、それらが基板面に吸着するとその膜厚は最大で鎖状PFPE鎖の半分、平均分子量を2000とすると−(CF2CF2O)10基程度の厚みとなり、草原に大木が林立したような潤滑層を生じる懸念を拭い去ることはできないし、−OCF2O−の分解やヘッドへの移着を助長することは容易に想像される。従って鎖状PFPE鎖の水平配向を前提とする、従来の潤滑技術は、一層の薄膜化の要請に対しては限界のある技術といえる。
【0079】
さらに、吸着効率の点からも鎖状PFPE鎖は最大二か所だが、PFPE鎖を三本以上分子の中心から放射状に配し、且つ中心核もしくはPFPE鎖の中心核との接合部分に吸着性基を配する構造の分子であれば、三点以上の吸着性基を持たせることは容易であり、鎖状PFPE鎖より好ましい吸着効果を期待できる。この場合、PFPE鎖を側鎖複数本に分割することで、その長さを短くできる。これは直接的に潤滑層の薄膜化に繋がることが期待される。特に、中心核を平面的な環状構造とすることにより、基板面自体が異方性場であり、平面的な環状構造すなわち円盤状構造も異方性、平面性であるため、極性基である吸着性基を円盤面近傍に有する場合、基板面に沿って水平配向するほうがエンタルピー的に安定である。一方、円盤面から放射状に伸びるPFPE鎖も撥水、撥油性であり、極性面から遠ざかる方向、即ち、基板面に垂直に伸長する傾向があることは、特に疎水性側鎖を有する円盤状分子のLB単層膜で確認されている(Kawata, K., The Chemical Record, Vol.2, pp59-80 (2002)参照)。
【0080】
以上説明した通り、前記式(1)の化合物の分子は、ダイヤモンドライクトカーボン等のカーボン材料の表面で、PFPE鎖を垂直に配向させて、密集して膜を形成することが可能である。その結果、従来の水平配向側のPFPE鎖を有する潤滑剤用化合物と比較して、潤滑性、吸着性、及び耐久性のいずれの観点でも改善されることが期待される。
【0081】
少なくとも表面の一部がカーボンを主原料とする基板上に潤滑膜を有する積層体の用途としては、後述の磁気記録媒体、及びヘッドスライダ等がある。
【0082】
以下に、一例として、磁気記録媒体の保護層上に、本発明の潤滑剤組成物からなる潤滑膜を形成する方法について説明する。
磁気記録媒体の保護層上に、潤滑膜を形成する方法の一例は、前処理工程、塗布工程、及び後処理工程の3工程を含む。
前処理工程は保護層表面の洗浄、活性化を目的としており、方法としては、特に制限はなく、例えばUV照射、プラズマ処理などが挙げられる。保護層表面が十分に清浄、活性であれば、この前処理工程は省略することも可能である。
【0083】
塗布工程は、潤滑剤組成物を前記前処理された磁気記録媒体の保護層表面に被覆して、潤滑層を形成する工程である。塗布方法としては、上記膜の形成方法の例と同様である。磁気記録媒体の潤滑膜には、塗布面状が良好な膜を薄膜(例えば厚み約5〜20Å程度)として形成することが要求される。この要求に応えるためには、ディップコート法、スピンコート法及び真空蒸着法を利用して膜を形成するのが好ましい。特に、ディップコート法によれば、潤滑剤組成物の塗布液中に基板を浸漬している間に、保護層表面に前記式(1)の化合物が吸着、且つ配向するため、特にディップコート法が望ましい。
塗布液の調製に用いられる溶媒についても、上記と同様である。塗布液中には、本発明の効果を損なわない範囲で、用途に応じて他の化合物(例えば、他のフッ素系潤滑剤など)を添加してもよい。
【0084】
後処理工程は、潤滑剤組成物の保護層表面への吸着を促進することを目的としている。方法としては、特に制限はないが、アニール、UV照射などが好ましい。アニール条件としては、50℃〜150℃が好ましく、UV照射の場合は波長185nm、254nmの光を含むUVランプを使用するのが好ましい。
【0085】
3.磁気記録媒体
本発明の潤滑剤組成物は、磁気記録媒体用の潤滑剤組成物として有用である。
以下、本発明の潤滑剤組成物を利用した、本発明の磁気記録媒体について説明する。
本発明の潤滑剤組成物は、磁気記録ディスク及び磁気テープ等の、磁性記録媒体の潤滑層の材料として適している。なお、本明細書において、「磁気記録媒体」とは、情報の記録、読み取りに磁気のみを使用するハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープ等の他、磁気と光を併用するMO等の光磁気記録媒体、及び磁気と熱を併用する熱アシスト型の記録媒体のいずれも含むものである。
図1に本発明の磁気記録媒体の一態様である、磁気記録ディスクの一例の断面模式図を示す。なお、各層の厚みの相対的関係は、実際の磁気記録ディスクの関係と一致していない場合もある。図1に示す磁気記録ディスクは、アルミニウム合金等からなる基板1と、その上に硬質下地層として、Ni−P等のメッキ膜2が被膜されている。さらに、その上に、スパッタリング法等により形成された、Cr等の金属膜である下地膜層3、及びCo−Cr−Ta合金等の金属合金からなる磁気記録層4、及びダイヤモンドライクカーボン等のカーボンを堆積することで形成される保護膜層5を有する。保護膜層5の上には、本発明の潤滑剤組成物からなる潤滑層が形成されている。保護膜層5及び潤滑層6は、例えば、磁気ヘッドとディスクとが高速で接触摺動する際の、ディスク及びヘッドの磨耗損傷を軽減している。さらに、潤滑層6は、本発明の潤滑剤組成物からなるので、保護層への吸着性及び表面平滑性が良好であり、さらに潤滑性にも優れる。よって、ヘッド汚れが軽減されるとともに、ヘッドとの接触摺動時の磨耗損傷も軽減され、信頼性が高い磁気記録ディスクになり得る。
【0086】
また、本発明の潤滑剤組成物は、DTM(Discrete track media)及び、BPM(Bit patterned media)の潤滑膜の形成にも有用である。本発明の潤滑剤組成物は、高粘度及び低蒸気圧性の特徴があるので、特に表面凹凸形状を埋め戻さないプロセスにおいて、凹部に余剰にたまった非吸着潤滑剤のヘッドへの移着、データ部表面への移動を低減することができる。
さらに、本発明の潤滑剤組成物はエネルギーをアシストする熱アシスト記録、マイクロ波アシスト記録の潤滑膜としても有用である。特に、本発明の潤滑剤組成物は熱耐久性に優れているため、熱アシスト磁気記録用の潤滑膜として有用である。
【0087】
4.ヘッドスライダ
本発明は、磁気ヘッドを備えたヘッドスライダであって、少なくとも一部の表面に、本発明の潤滑剤組成物からなる潤滑膜を有するヘッドスライダにも関する。磁気ヘッドの表面に潤滑膜を形成すると、ヘッドとディスクが接触した際の摩擦力を低減することができる。また、本発明の潤滑剤組成物が含有する式(1)の化合物は、基材の表面に対して、高密度に被覆できる性質を有するので、ヘッドへの汚れ付着の低減が期待される。
なお、ヘッドスライダの表面に、本発明の潤滑剤組成物からなる潤滑膜を形成する方法については、上述の、磁気記録媒体の保護層上に形成する潤滑膜を形成する方法を利用することができ、好ましい態様についても同様である。また、膜厚についても、磁気記録媒体上に形成する潤滑膜の膜厚と同程度である。
【0088】
ヘッドスライダの表面と本発明の潤滑剤組成物からなる潤滑膜との間には、保護層が形成されていてもよい。保護層は上記磁気記録媒体の保護層と同様、ダイヤモンドライクカーボン等のカーボンを堆積することで形成される保護層であるのが好ましい。本発明の潤滑剤組成物が含有する式(1)の化合物の分子は、かかる材料からなる表面に対する吸着性が高く、さらに、上記した通り、PFPE鎖が垂直に配向し、密集して膜を形成することができるので、好ましい。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
【0090】
1. 式(1)の化合物の合成
[例示化合物1の合成例]
エステル還元:
3Lの三ツ口フラスコに、水素化ホウ素ナトリウム(アルドリッチ)70g、テトラヒドロフラン1L、蒸留水0.5Lを入れ、メチルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノエート(Exfluor社)400gを氷冷下にて加えた。続いて室温にて2時間攪拌後、氷冷下、4mol/Lの塩酸水を0.5L加えた後、有機層を抽出し、減圧下溶媒を留去することで1H、1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノール340gを得た。
【0091】
トリフリル化:
5Lの三ツ口フラスコに、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノール320g、塩化メチレン3L、トリエチルアミン160mLを入れ、無水トリフルオロメタンスルホン酸(東京化成)150mLを、低温下にて加えた。続いて同温度にて10分間攪拌後、1mol/Lの塩酸水1Lを加えた後、有機層を抽出し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣を減圧蒸留にて精製することで1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカニルトリフルオロメタンスルホナート360gを得た。
【0092】
アルキル化:
500mLの三ツ口フラスコに、1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカニルトリフルオロメタンスルホナート340g、2−ヒドロキシベンゾオキサゾール80g、N,N−ジメチルアセトアミド100mLを入れ、炭酸カリウム120gを室温下にて加えた。続いて120℃にて1時間攪拌後、ろ過により炭酸カリウムを除去し、1mol/Lの塩酸水100mLにて洗浄・抽出し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣にヘキサンを加えて抽出し、減圧下溶媒を留去することで2−(1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノキシ)ベンゾオキサゾール300gを得た。
【0093】
酸加水分解:
2Lの三ツ口フラスコに、2−(1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノキシ)ベンゾオキサゾール300gを入れ、エタノール300mL、濃塩酸300mLを室温下にて加えた。続いて100℃にて2時間攪拌後、酢酸ナトリウム300gと水1Lを加え、有機溶媒にて抽出後、減圧下溶媒を留去することで2−ヒドロキシ−4−(1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノキシ)アニリン260gを得た。
【0094】
トリアリルメラミン化:
2Lの三ツ口フラスコに、2−ヒドロキシ−4−(1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノキシ)アニリン260g、N,N−ジメチルアセトアミド700mL、塩化シアヌル(東京化成)28gを入れ、氷冷下酢酸ナトリウム70gと水140mLを加えた。続いて50℃にて10時間攪拌後、1mol/Lの塩酸水にて洗浄・抽出し、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣を塩化メチレンにより洗浄することで、例示化合物1を140g得た。
【0095】
[例示化合物2の合成例]
エステル加水分解:
3Lの三ツ口フラスコに、メチルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノエート(Exfluor社)400g、メタノール600mLを入れ、水酸化カリウム50gと水300mLを氷冷下にて加えた。続いて室温にて1時間攪拌後、氷冷下に、1mol/Lの塩酸水を0.6L加えた後、有機溶媒で抽出し、減圧下溶媒を留去することでパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノイックアシッド400gを得た。
【0096】
脱水縮合:
5Lの三ツ口フラスコに、パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノイックアシッド330g、アセトン3L、2−アミノベンゾオキサゾール108gを入れ、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(東京化成)と4−ジメチルアミノピリジン10gを氷冷下にて加えた。続いて室温下にて30分間攪拌後、1mol/Lの塩酸水1Lを加え、有機溶媒にて抽出後、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル(Wakogel−C200)3kg、酢酸エチル/ヘキサン=1/4)にて精製することで、ベンゾオキサゾリルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカナミド360gを得た。
【0097】
酸加水分解とトリアリルメラミン化:
例示化合物1の合成方法において、2−(1H,1H−パーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノキシ)ベンゾオキサゾールを、ベンゾオキサゾリルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカナミドとした以外は、同様の手法で例示化合物2を合成した。
【0098】
[例示化合物3の合成例]
例示化合物1の合成例において、メチルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノエートをメチルパーフルオロ−3,6−ジオキサデカノエート(Exfluor社)とした以外は同様の手法で合成した。
【0099】
[例示化合物4の合成例]
例示化合物2の合成例において、メチルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノエートをメチルパーフルオロ−3,6−ジオキサデカノエート(Exfluor社)とした以外は同様の手法で合成した。
【0100】
[例示化合物17の合成例]
例示化合物1の合成例において、メチルパーフルオロ−3,6,9−トリオキサウンデカノエートをメチルパーフルオロ−3,6,9,12,15,18−ヘキサオキサエイコサノエート(Exfluor社)とした以外は同様の手法で合成した。
【0101】
2. 試験用磁気ディスクの作製
[実施例1]
図1と同様の構成のハードディスクを作製した。具体的には、以下の通りである。
アルミニウム合金基板1上に硬質下地層としてNi−Pメッキ膜2が被膜され、次にスパッタリング法により下地膜層3としてCr、磁気記録層4としてCo−Cr−Ta合金、更に保護膜層5としてカーボンを堆積した。この保護膜層5の表面上に、下記の方法で調製した塗布液を、下記の方法で塗布して、潤滑層6を形成した。
【0102】
塗布用組成物の調製:
下記構造の例示化合物1をフッ素系溶剤(Vertrel、三井・デュポンフロロケミカル(株)製、もしくはHFE-7100DL 住友3M(株)製 )、又はアセトン中に、濃度0.2質量%で溶解して、塗布液を調製した。
【0103】
【化25】

【0104】
潤滑層6の形成:
保護層5の表面に、調製した塗布液をディップコーター(Intevac San Jose Technology製 Mini Luber)を用い、浸漬速度:5mm/sec、浸漬時間:60sec、及び引き上げ速度:1mm/secの条件で塗布し、続いてオーブン(TABAI製 Clean Oven PVC−210)を用いて温度120℃で1時間アニール処理することで、潤滑層6を形成して試験用磁気ディスクを得た。
【0105】
[実施例2]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を、下記の構造の例示化合物2に代えた以外は、同様にして実施例2の試験用磁気ディスクを得た。
【0106】
【化26】

【0107】
[実施例3]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物3とした以外は同様にして実施例3の試験用磁気ディスクを得た。
【0108】
【化27】

【0109】
[実施例4]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物4とした以外は同様にして実施例4の試験用磁気ディスクを得た。
【0110】
【化28】

【0111】
[実施例5]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物17とした以外は同様にして実施例5の試験用磁気ディスクを得た。
【0112】
【化29】

【0113】
[実施例6]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を、下記構造の実施例6化合物とした以外は同様にして実施例6の試験用磁気ディスクを得た。
【0114】
【化30】

[実施例7]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の実施例7化合物とした以外は同様にして実施例7の試験用磁気ディスクを得た。
【0115】
【化31】

【0116】
[実施例8]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の実施例8化合物とした以外は同様にして実施例8の試験用磁気ディスクを得た。
【0117】
【化32】

【0118】
[実施例9]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を実施例9化合物とした以外は同様にして実施例9の試験用磁気ディスクを得た。
【0119】
【化33】

【0120】
[実施例10]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を実施例10化合物とした以外は同様にして実施例10の試験用磁気ディスクを得た。
【0121】
【化34】

【0122】
[実施例11]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物5とした以外は同様にして実施例11の試験用磁気ディスクを得た。
【0123】
【化35】

【0124】
[実施例12]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物8とした以外は同様にして実施例12の試験用磁気ディスクを得た。
【0125】
【化36】

【0126】
[実施例13]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を例示化合物57とした以外は同様にして実施例13の試験用磁気ディスクを得た。
【0127】
【化37】

【0128】
[実施例14]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物58とした以外は同様にして実施例14の試験用磁気ディスクを得た。
【0129】
【化38】

【0130】
[実施例15]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の例示化合物60とした以外は同様にして実施例15の試験用磁気ディスクを得た。
【0131】
【化39】

【0132】
[比較例1]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の式(5)で表される化合物(Fonbrin Z−tetraol、Solvay Solexis社製)とした以外は同様にして比較例1の試験用磁気ディスクを得た。
【0133】
【化40】

【0134】
[比較例2]
実施例1の作製方法において、例示化合物1を下記構造の式(6)で表される化合物とした以外は同様にして比較例2の試験用磁気ディスクを得た。
【0135】
【化41】

【0136】
[比較例3]
実施例1の作成方法において、例示化合物1を下記の構造の式(7)で表される化合物とした以外は同様にして比較例3の試験用磁気ディスクを得た。
【0137】
【化42】

【0138】
[比較例4]
実施例1の作成方法において、例示化合物1を下記構造の式(8)で表される化合物とした以外は同様にして比較例4の試験用磁気ディスクを得た。
【0139】
【化43】

【0140】
[比較例5]
実施例1の作成方法において、例示化合物1を下記の構造の式(9)で表される化合物とした以外は同様にして比較例5の試験用磁気ディスクを得た。
【0141】
【化44】

【0142】
3. 評価
3.−1 洗浄処理
各試験用磁気ディスクについて、以下の洗浄処理の前後において、表面エネルギーの測定、ならびに膜厚、塗布面状、及び潤滑性をそれぞれ評価した。
上記実施例1〜15、比較例1〜5の各試験用磁気ディスクに対し、後述する特性の測定及び評価を行った後、フッ素系溶剤(Vertrel、三井・デュポンフロロケミカル(株)製 もしくは HFE-7100DL 住友3M(株)製 )もしくはアセトン溶剤にディップコーター(Intevac San Jose Technology製 Mini Luber)を用い、浸漬速度:5mm/sec、浸漬時間:60sec、及び引き上げ速度:1mm/secの条件にて浸漬・洗浄した。
その後、さらに同様にして、後述する特性の測定及び評価を行った。
【0143】
3.−2 表面エネルギーの測定(潤滑層−保護層間の吸着性の評価)
ヘッドへの付着や不均化を防ぐ観点から、潤滑層と保護層とはより強固に付着しているものが良いとされる。洗浄処理前後で表面エネルギーが大きく上昇しているものは、吸着性が不足していると言える。具体的には以下の方法で表面エネルギーを測定した。
各試験用磁気ディスクの潤滑剤塗布面に対し、接触角計(協和界面科学(株)製 Drop Master 500、使用液体:水、ジヨードメタン)を用いて表面エネルギー値を算出した。表面エネルギー値が低いほど、磁気ディスク用潤滑剤として適していると言える。なお、潤滑層を形成していない磁気ディスクの値は約50〜70[mJ/m2]である。
【0144】
3.−3 平均膜厚の評価
平均膜厚はヘッド/ディスク間のスペーシング低減の観点から薄膜であるほど良いとされるが、1Å以下のものは潤滑層の被覆が十分でないと判断できる。各試験用磁気ディスクの潤滑剤塗布面に対し潤滑膜の平均膜厚をHDI製SRAによって測定し、下記基準により四段階で官能評価した。
◎:超薄膜(1〜10Å)
○:薄膜(10〜20Å)
△:厚膜(20Å以上)
×:膜無し(1Å以下)
【0145】
3.−4 塗布面状の評価
誤認識やヘッド衝突等を低減すべく、磁気ディスクの表面は平滑であるほど良いとされている。各試験用磁気ディスクの潤滑剤塗布面に対し、視認、レーザー表面検査装置(HDI Insutrumentation Inc.製 SRA−10,000)、AFM(Veeco製 Demension 3100 AFM)によって表面粗さを観測し、下記基準により三段階で官能評価した。但し、膜厚が1Å以下のものは評価しなかった。
◎:レーザー検査、AFMで表面ムラ無し。
○:視認でムラ無し。レーザー検査、AFMで小さな凹凸あり。
△:視認でムラ有り。
【0146】
3.−5 潤滑性の評価
ヘッド衝突時のディスク磨耗を防ぐべく、潤滑性が高いほど良いとされている。まず各試験用磁気ディスクをスピンスタンドで回転させ、読取ヘッドを浮上させる。続いてディスク固定半径でヘッドディスクコンタクトが生じるまで外気圧を減圧し、一定時間強制的に摺動させた。続いてテスト後のディスクを表面観察し、下記基準により三段階で官能評価した。使用した評価装置はクボタコンプス製HDF testerである。
◎:10min摺動でスクラッチ無し。
○:5〜10min摺動でスクラッチ発生。
△:5min摺動以下でスクラッチ発生。
【0147】
上記測定結果及び評価結果を、下記表にまとめる。
【0148】
【表1】

【0149】
これらの磁気ディスクのそれぞれについて、日本分光(株)製の全真空FT−IR分光器
「FT−IR6400」の試料室にRAS装置を設置し、IRスペクトルを測定した。
その結果、実施例の試験用磁気ディスクはいずれも、1255cm-1〜1265cm-1にCF3伸縮振動に帰属される鋭いピークを示すことが確認された。この結果は、上記例示化合物が、保護層面上でPFPE鎖が、層面に対して垂直に配向していることを示唆している。
【0150】
4. 配向性の評価
式(1)の化合物例である、下記に示すトリアニリノ置換1,3,5−トリアジン環にPFPE鎖を有する円盤状化合物、及びトリフェニレン環にPFPE鎖を有する円盤状化合物;並びに鎖状PFPE鎖を有する「FOMBLIN Z-DOL」及び「FOMBLIN Z-TETRAOL」;のそれぞれについて、そのLB単層膜をダイヤモンドライクカーボン上にすくい取った試料をFT−IR RASスペクトルを測定した。前記二者については1260cm-1にCF3伸縮振動の鋭いピークを確認し;後二者については、1298cm-1に少しブロードなCF2伸縮振動を確認した。RASスペクトルはIRの偏光スペクトルを用いるため、基板面に垂直方向の結合の振動のみを検出するため、この結果から同時に、前二者のPFPE鎖は基板面に垂直に配向し、後二者のPFPE鎖は基板面に平行に配向していることが確認された。図2及び図3に、下記のトリアニリノ置換1,3,5−トリアジン環にPFPE鎖を有する円盤状化合物のLB膜のFT−IR RASスペクトルを測定結果を、図3に、「FOMBLIN Z-TETRAOL」のLB膜のFT−IR RASスペクトルを測定結果をそれぞれ示す。
【0151】
【化45】

【0152】
5.スピンコート法による作製例と評価
上記実施例1〜15の作製方法において、潤滑膜の形成をディップコート法で行ったのに代えて、スピンコート法で潤滑膜を形成した以外は、実施例1〜15と同様にして、試験用磁気ディスクを作製した。これらの試験用磁気ディクスについて、実施例1〜15と同様に、膜厚、塗布面状、及び潤滑性を評価したところ、いずれも同等に良好であった。
比較例1の作製方法において、潤滑膜の形成をディップコート法で行ったのに代えて、スピンコート法で潤滑膜を形成した以外は、比較例1と同様にして、試験用磁気ディスクを作製した。この試験用磁気ディクスについて、上記と同様に、膜厚、塗布面状、及び潤滑性を評価したところ、比較例1と比較して塗布面状が悪化していた。
これらの結果から、本発明の潤滑剤組成物は、塗布方法によらずに、面状が良好な膜を形成し得ることが理解できる。
【0153】
6.ヘッドスライダの作製と評価
6.−1 ヘッドスライダの作製
下記の式(1)の例示化合物を、フッ素系溶剤(Vertrel、三井・デュポンフロロケミカル(株)製)中に、濃度0.05質量%で溶解して、塗布液を調製した。
【0154】
【化46】

【0155】
この塗布液を、負圧ピコスライダーにディップコート法により塗布した。具体的には、前記塗布液に1分間浸漬し、引き上げ速度1mm/secで塗布した。その後、アニール処理を、120℃で1時間行った。その後、フッ素系溶剤の「HFE−7100DL」(住友スリーエム社製)に1分間浸漬して洗浄した。この様にして、潤滑膜を有するヘッドスライダを作製した。これを実施例16とした。
【0156】
上記塗布液の調製において、式(1)の例示化合物を、Solvay Solexis社製の「Z−Tetraol」に代え、濃度を0.2質量%とした以外は、同様にして塗布液を調製した。この塗布液を用いた以外は、上記と同様にして、ヘッドスライダの表面に、潤滑膜を形成した。これを比較例6とした。
また、比較例7として、潤滑膜形成処理を行っていないヘッドスライダも準備した。
【0157】
6.−2 評価
減圧スピンスタンドに、「Z−Tetraol」を塗布して潤滑膜を形成した、2.5 inchの磁気メディアを、5400PRMで回転させ、実施例16、比較例6及び7のそれぞれのスライダーを、ランプロードさせて、半径位置22mmにシークさせた。安定浮上したところから、チャンバーを減圧しフライングハイトが減少しメディアとコンタクトする瞬間を、AEセンサーで検知したところで、大気圧に戻していきフライハイトを上昇させた。
接触をAEが検知した圧力をTDP(touch down pressure)、圧力を戻してAEが安定した圧力をTOP(take off pressure)と呼び、これらの圧力が小さいほどヘッドディスククリアランスが大きいことを意味する。接触時の摩擦力をヘッドピボット部に設置されたFriction gaugeによって測定した。この作業を3回繰り返し、平均値を算出した。
接触後のヘッドを、顕微鏡により観察し、ヘッド上への潤滑剤付着を観察した。
結果を下記表に示す。
【0158】
【表2】

ヘッド汚れ ○:汚れなし △:1〜2箇所汚れあり ×:3箇所以上汚れあり
【0159】
上記表に示す結果から、式(1)の化合物を用いて形成した潤滑膜を有するヘッドスライダは、低摩擦性であり、且つヘッド汚れが少ないことが確認できた。
【符号の説明】
【0160】
1 基板
2 硬質下地層
3 下地膜層
4 磁気記録層
5 保護膜層
6 潤滑層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の下記式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤組成物。
【化1】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基、Yは単結合又は2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の極性基を含み;Zは炭素原子(C)、フッ素原子(F)、及び任意の1種又は2種の原子(但し、水素原子は考慮しないものとする)から構成される、2価以上の連結基を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表し、但し、sが2以上の時、複数のn、m及びZはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記1つ以上の極性基が、水酸基(−OH)、アミノ基(−NH2)、メルカプト基(−SH)、カルボキシル基(−COOH)、アルコキシカルボニル基(−COOR;但しRはアルキル基)、カルバモイル(−CONH2)、ウレイド基(−NHCONH2)、スルホンアミド基(−SO2NH2)、リン酸基(−P(=O)(OH)3)、フォスフェート基(−OP(=O)(OH)2)、スルフィド基(−S−)、ジスルフィド基(−S−S−)、アミノカルボニル基(−NHCO−)、ウレイレン基(−NHCONH−)、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基))、及びアミノスルホニル基(−NHSO2−)からなる群から選ばれる極性基である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
Xが、1つ以上の極性基を含むことを特徴とする請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
Yが、1つ以上の極性基を含むことを特徴とする請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
X及びYがそれぞれ、1つ以上の極性基を含むことを特徴とする請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
前記1つ以上の極性基が、水酸基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
Zのフッ素原子含有率が、50質量%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
Zに含まれる前記任意の1種又は2種の原子が、酸素原子(O)、窒素原子(N)、及び硫黄原子(S)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
前記少なくとも一種の式(1)で表される化合物が、下記式(2)で表される化合物である請求項1〜8のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【化2】

[式中、Xは置換されていてもよい環状基を表し、Yは2価以上の連結基を表し、但し、X及びYの少なくとも一方は、1つ以上の極性基を含み;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;s及びtはそれぞれ1以上の実数を表す。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またtが2以上の時、複数のs及びYはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項10】
1分子当たりのフッ素含有率が、35質量%以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
Xが、芳香族性環状基、非芳香族性環状基、又は金属に配位している配位子の残基である請求項1〜10のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
Yが、芳香族性環状基及び極性基を少なくとも有する2価以上の連結基であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
Yが、極性基で置換された芳香族性環状基を含有する2価以上の連結基であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項14】
tが、2以上の実数であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
1分子当たりのフッ素含有率が、40質量%以上であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
Yが、極性基で置換された、ベンゼン、アセン、フェナントレン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ピセン、テトラフェン、ペリレン、コロネン、アヌレン、ピロール、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、チオフェン、ベンゾチオフェン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、プリン、ピラゾール、インダゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾ−ル、イソチアゾール、ベンゾチアゾ−ル、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノキサリン、アクリジン、キナゾリン、シンノリン、及びトリアジンからなる群から選ばれる芳香環の残基を含有する2価以上の連結基であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
Yが、極性基で置換された、ベンゼン環の残基を含有する2価以上の連結基であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
式(1)中のs個の−Z−Cn2n+1-mmのうち少なくとも1つが、末端に、−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を含む請求項1〜17のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項19】
式(1)中のs個の−Z−Cn2n+1-mmのうち少なくとも1つが、末端に、−OCH2CF2−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)を含む請求項1〜17のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項20】
少なくとも一種の式(1)で表される化合物が、下記式(3)で表されることを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【化3】

[式中、X3は、置換されていてもよい環状基を表し;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項21】
3が、置換されていてもよい、ベンゼン、トリフェニレン、ペリレン、トリアジン、フタロシアニン、ポルフィリン、コロール、及びコロネンからなる群から選択される芳香族環の残基である請求項20に記載の潤滑剤組成物。
【請求項22】
少なくとも一種の式(1)で表される化合物が、下記式(4)で表される化合物である請求項1〜21のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【化4】

[式中、V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bが2〜5であり;Rは任意の置換基を表し、cは0〜1の実数を表し、但しc+t=3である。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項23】
Wが、イミノ基(NH又はNR(R:は置換基))、炭素原子数1〜20のアルキレン基(但し1つの炭素原子、又は隣接しない2以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい)、カルボニル基(C=O)、オキシ基(O)、及びそれらから選択される一つ以上の組合せからなる2価の連結基である請求項20〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項24】
Vが、単結合、オキシ基、−NH−、−N(アルキル)−、−N(置換アルキル)、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基またはそれらの組合せである請求項20〜23のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項25】
式中の少なくとも1つのポリフッ化ポリエーテル鎖が、−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)である請求項20〜24のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項26】
式中の少なくとも1つの、−Wとポリフッ化ポリエーテル鎖とから構成される鎖が、−OCH2CF2−(OCF2CF2kOCn2n+1(但し、k+nは8以下で、且つkは6以下)である請求項20〜25のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項27】
式(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかで表されるパーフルオロアルキルポリエーテルオリゴマーの少なくとも1種をさらに含有する請求項1〜26のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物:
A−CF2O(CF2CF2O)r(CF2O)sCF2−B (a)
[A及びBはそれぞれ、OHCH2−又は下式から選ばれる少なくとも1種の基を表し;rは1〜30のいずれかの数であり、sは1〜30のいずれかの数であり;
【化5】

但し、xは1〜5のいずれかの数である。]
X−CF2O(CF2CF2O)m(CF2O)nCF2−Y (b)
[X及びYはそれぞれ、F、HO(CH2CH2O)tCH2−、HOCH2CH(OH)CH2OCH2−、HOOC−及びピペロニル基から選ばれる基を表し;mは1〜60のいずれかの数であり;nは1〜60のいずれかの数であり;tは1〜30のいずれかの数である。]
F[CF(CF3)CF2O]uCF(CF3)−X’ (c)
[X’は、F又は−COOHを表し;uは1〜60のいずれかの数である。]
F[CF2CF2CF2O]vCF2CF2CH2−Z (d)
[Zは、F、HO−及びCOOH−から選ばれる基を表し;vは1〜60のいずれかの数である。]
【請求項28】
磁気記録媒体用ディスクの潤滑剤として用いられることを特徴とする請求項1〜27のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項29】
請求項1〜28のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物からなる膜。
【請求項30】
ディプコート法、スピンコート法又は真空蒸着法により形成される請求項29に記載の膜。
【請求項31】
少なくとも表面の一部がカーボンを主原料とする基板と、その上に、請求項29又は30に記載の膜を有する積層体。
【請求項32】
少なくとも、磁性層、及び請求項29又は30に記載の膜を有する磁気記録媒体。
【請求項33】
前記磁性層と前記膜との間に、保護層を有する請求項32に記載の磁気記録媒体。
【請求項34】
磁気ヘッドを備えたヘッドスライダであって、少なくとも一部の表面に、請求項29又は30に記載の膜を有するヘッドスライダ。
【請求項35】
請求項32又は33に記載の磁気記録媒体、及び請求項34に記載のヘッドスライダの少なくとも一方を有する磁気記録装置。
【請求項36】
下記式(3)で表される化合物。
【化6】

[式中、X3は、置換されていてもよい環状基を表し;V及びWはそれぞれ、単結合又は2価以上の連結基を表し;p1は1〜4の実数を表し;p2及びp3はそれぞれ0〜4の実数を表し;qは1〜30の実数を表し;nは1〜10の実数を表し;mは0〜1の実数を表し;sは1以上の実数を表し;tは2以上の実数を表し;a及びbはそれぞれ1〜4の実数を表し、但しa+bは2〜5である。但し、式中のポリフッ化ポリエーテル鎖中の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−を構成する、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3の結合の順番は限定されず、−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は、−(CF2p1−、−(CFCF3p2−、及び−(C(CF32p3−から選ばれるパーフルオロアルキレン単位と酸素原子とがランダムに分布した基を意味するものとし、qが2以上の時、複数の−((CF2p1(CFCF3p2(C(CF32p3O)−は互いに同一でも異なっていてもよく、またsが2以上の時、複数のn、m及びqはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、またbが2以上の時、複数のs及びWはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、tが2以上の時、複数のb及びVはそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項37】
3が置換もしくは無置換のトリアジン環残基、置換もしくは無置換のトリフェニレン残基、又はアザクラウンエーテル環の残基である請求項36に記載の化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−248463(P2010−248463A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216679(P2009−216679)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】