説明

潤滑油供給装置

【課題】潤滑油の供給不足を抑制して潤滑性能の向上を可能とする。
【解決手段】ケース12内にカウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17を順次噛み合わせて収容すると共に、オイル貯留部18と通路部材19とを収容し、通路部材19により、デフリングギア17により掻き上げた潤滑油を導く第1案内通路31と、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部から押し出された潤滑油を導く第2案内通路32とを設け、第1案内通路31及び第2案内通路32から導かれた潤滑油をMG2リダクションギア16が回転することで掻き上げてオイル受け部25に供給可能とし、第1案内通路31の第1吐出口31bと第2案内通路32の第2吐出口32bをMG2リダクションギア16の回転軸心方向にずれて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシングに貯留された潤滑油を回転部材により鉛直方向における上方へ掻き上げて所定の位置へ供給する技術が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載された変速機の潤滑構造は、変速機ケース内に入力軸とカウンタ軸とを略平行に配設すると共に、カウンタ軸の端部にデフのファイナルギヤを連絡して設け、このファイナルギヤに対して略平行に変速機ケースに案内筒部を有するブリーザプレートを設け、ブリーザプレートの内部空間をブリーザ室として形成すると共に、ファイナルギヤによって掻き上げられたオイルの流れをファイナルギヤの回転方向に規制するオイルガイドとしてブリーザプレートを兼用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−099275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、歯車の回転により潤滑油を所定の供給部に供給する方式として、従来、上述した変速機の潤滑構造のように、ファイナルギヤの回転により発生する遠心力を利用するものと、2つの歯車の噛み合いにより潤滑油を押し出すものがある。このような2つの方式を利用して潤滑油供給装置を構成すると、2つの案内通路がほぼ鉛直方向に沿って設けられ、その上端部が合流した合流部の上方に潤滑油の供給部が設けられて構成されることとなる。すると、各案内通路における潤滑油の供給速度(供給量)が相違するとき、潤滑油の供給速度が高い案内通路から供給速度の低い案内通路へオイルが流れ込んでしまうおそれがある。すると、潤滑油の供給部は、十分な量のオイルを受け取ることが困難となり、潤滑油不足が生じてしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、潤滑油の供給不足を抑制して潤滑性能の向上を可能とする潤滑油供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の潤滑油供給装置は、潤滑油を供給する第1潤滑油供給手段と、前記第1潤滑油供給手段により供給される潤滑油を導く筒形状をなす第1案内通路と、潤滑油を供給する第2潤滑油供給手段と、前記第2潤滑油供給手段により供給される潤滑油を導く筒形状をなす第2案内通路と、前記第1案内通路及び前記第2案内通路から導かれた潤滑油を歯車が回転することで掻き上げて供給する第3潤滑油供給手段と、を備え、前記第1案内通路の吐出口と前記第2案内通路の吐出口が前記歯車の回転軸心方向にずれて配置される、ことを特徴とする。
【0008】
上記潤滑油供給装置にて、前記第2案内通路は、前記第1案内通路により導かれる潤滑油の圧力よりも高い圧力の潤滑油を導くことが可能であり、前記第2案内通路の吐出口が前記第1案内通路の吐出口より前記歯車における回転方向の下流側に配置されることが好ましい。
【0009】
上記潤滑油供給装置にて、前記第1案内通路と前記第2案内通路とは、前記歯車の回転軸心方向に重なるように配置されることが好ましい。
【0010】
上記潤滑油供給装置にて、前記第1潤滑油供給手段により供給される潤滑油を前記第2潤滑油供給手段に導く第3案内通路が設けられ、前記第1潤滑油供給手段は、貯留部に貯留された潤滑油を第1歯車の回転により掻き上げ、前記第1案内通路が上方の前記第3潤滑油供給手段に導くと共に、前記第3案内通路が前記第2潤滑油供給手段に導き、前記第2潤滑油供給手段は、前記第3案内通路から供給された潤滑油を第1、第2歯車の噛み合いにより押し出し、前記第2案内通路が上方の前記第3潤滑油供給手段に導くことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る潤滑油供給装置は、筒形状をなして潤滑油を歯車に導く第1、第2案内通路を設け、第1案内通路の吐出口と第2案内通路の吐出口を歯車の回転軸心方向にずれて配置するので、第1、第2案内通路の潤滑油の圧力が相違しても、この第1案内通路の吐出口と第2案内通路の吐出口との間で潤滑油の流れ込みが防止され、潤滑油の供給不足を抑制して潤滑性能を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施形態1に係る潤滑油供給装置を表す概略図である。
【図2】図2は、実施形態1の潤滑油供給装置の断面を表す図1のII−II断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態2に係る潤滑油供給装置を表す概略図である。
【図4】図4は、実施形態2の潤滑油供給装置の作用を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る潤滑油供給装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0014】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る潤滑油供給装置を表す概略図、図2は、実施形態1の潤滑油供給装置の断面を表す図1のII−II断面図である。
【0015】
実施形態1の潤滑油供給装置は、図1及び図2に示すように、例えば、ハイブリッド車両の動力伝達装置11に適用されたものであり、この動力伝達装置11は、ケース12と、カウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17、オイル貯留部18、通路部材19とから構成されている。
【0016】
ケース12は、中空形状をなし、内部に上述したカウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17、オイル貯留部18、通路部材19が収容されている。この場合、カウンタドライブギア13は、カウンタドリブンギア14よりも車両前後方向の前側に配置され、MG2リダクションギア16及びデフリングギア17は、カウンタドリブンギア14よりも車両前後方向の後側に配置されている。また、MG2リダクションギア16は、カウンタドリブンギア14及びドライブピニオンギア15よりも鉛直方向上方に配置され、このカウンタドリブンギア14及びドライブピニオンギア15は、デフリングギア17よりも鉛直方向上方に配置されている。
【0017】
カウンタドライブギア13は、図示しないエンジンの出力軸及び第1のモータジェネレータ(MG1)の回転軸と遊星歯車機構を介して接続されており、エンジンの出力が、カウンタドライブギア13及びMG1に分割して入力可能となっている。カウンタドリブンギア14及びドライブピニオンギア15は、同軸上に配置され、且つ、一体に回転可能となっている。このカウンタドリブンギア14は、カウンタドライブギア13と噛合っている。MG2リダクションギア16は、第2のモータジェネレータ(MG2)20における回転軸21に連結されており、この回転軸21と一体に回転可能となっている。このMG2リダクションギア16は、カウンタドリブンギア14と噛合っている。また、MG2リダクションギア16は、カウンタドリブンギア14よりも小径であり、第2のモータジェネレータ20の出力がMG2リダクションギア16からカウンタドリブンギア14に増幅して伝達可能となっている。
【0018】
ドライブピニオンギア15は、デフリングギア17と噛合っており、カウンタドリブンギア14に入力されたエンジンの出力トルク及び第2のモータジェネレータ20の出力トルクが、ドライブピニオンギア15を介してデフリングギア17に伝達可能となっている。このデフリングギア17は、差動機構22を介して図示しない駆動輪と接続されており、駆動輪の回転と連動して回転可能である。なお、カウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17は、図1に表す矢印方向に回転可能となっている。
【0019】
ケース12は、その内部にて、鉛直方向の下部に潤滑油(例えば、ATF)を貯留するオイル貯留部18が形成されている。デフリングギア17は、ケース12内の下部に配置されており、オイル貯留部18に潤滑油が貯留されているとき、その貯留された潤滑油にその一部が浸漬可能となっている。
【0020】
また、ケース12は、その内部にて、鉛直方向の上部に潤滑油を供給するオイル受け部25が設けられている。このオイル受け部25は、カウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15の上方に設けられたリブ26により構成され、MG2リダクションギア16により掻き上げられた潤滑油をリブ26の上方に貯留可能となっている。そして、ケース12は、オイル受け部25に連通するオイル供給孔27が形成され、オイル受け部25に貯留された潤滑油が動力伝達装置11の潤滑油供給部(図示略)に供給し、潤滑及び冷却可能となっている。
【0021】
通路部材19は、デフリングギア17によって掻き上げられて送られる潤滑油を鉛直方向上方へ導き、この潤滑油を必要箇所に供給するものである。即ち、この通路部材19は、オイル貯留部18からデフリングギア17により掻き上げられた潤滑油を上方に導き、カウンタドリブンギア14やドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16に供給すると共に、デフリングギア17とドライブピニオンギア15との噛み合い部から押し出された潤滑油を上方に導き、MG2リダクションギア16に供給するものである。
【0022】
ここで、デフリングギア17が本発明の第1潤滑油供給手段(第1歯車)として機能し、デフリングギア17及びドライブピニオンギア15が本発明の第2潤滑油供給手段(第1、第2歯車)として機能し、MG2リダクションギア16が本発明の第3潤滑油供給手段(歯車)として機能する。そして、実施形態1の潤滑油供給装置は、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17、通路部材19により構成される。
【0023】
この通路部材19は、デフリングギア17によりオイル貯留部18から掻き上げられて供給された潤滑油を導く第1案内通路31と、デフリングギア17とドライブピニオンギア15との噛み合い部から押し出されて供給された潤滑油を導く第2案内通路32とを有し、この第2案内通路32は、第1案内通路31により導かれる潤滑油の圧力よりも高い圧力の潤滑油を導くことができる。この場合、通路部材19は、デフリングギア17によりオイル貯留部18から掻き上げられて供給された潤滑油をデフリングギア17とドライブピニオンギア15との噛み合い部に導く第3案内通路33を有している。そのため、デフリングギア17によりオイル貯留部18から掻き上げられた潤滑油は、第1案内通路31により上方に導かれると共に、第3案内通路33によりデフリングギア17とドライブピニオンギア15との噛み合い部に導かれ、この噛み合い部から押し出された潤滑油は、第2案内通路32により上方に導かれる。
【0024】
また、通路部材19は、上述したように、第1案内通路31と第2案内通路32とを形成しており、第1、第2案内通路31,32は、筒形状をなす第1、第2筒状部31a,32aを有し、鉛直方向における上方に第1、第2吐出口31b,32bが形成されている。そして、この第1案内通路31の吐出口31bと第2案内通路32の吐出口32bは、MG2リダクションギア(歯車)16の回転軸心方向にずれて配置されている。
【0025】
具体的に、第1案内通路31と第2案内通路32とは、MG2リダクションギア16の回転軸心方向に重なるように、つまり、交差(クロス)するように配置されており、第2案内通路32の吐出口32bが第1案内通路31の吐出口31bよりMG2リダクションギア16における回転方向の下流側に配置されている。
【0026】
即ち、通路部材19は、デフリングギア17の周方向に沿ってこのデフリングギア17と対向して設けられ、デフリングギア17との間にデフリングギア17によって送られる潤滑油が流入する掻き上げ通路41を形成している。この掻き上げ通路41は、デフリングギア17を軸方向に挟んで互いに対向する一対の側壁部41aと、デフリングギア17の外周面と径方向に対向して形成された曲面部41bとから構成されている。曲面部41bは、デフリングギア17と同心上に配置されており、デフリングギア17の外周面と所定の隙間が確保されており、この隙間の大きさは、周方向において略一様となっている。2つの側壁部41aは、外側端部が曲面部41bによって接続されている。そのため、掻き上げ通路41は、デフリングギア17の両側面及び外周面と、側壁部41a及び曲面部41bとが対向する領域に確保されていることとなる。
【0027】
この掻き上げ通路41は、デフリングギア17のほぼ半周にわたって設けられ、且つ、このデフリングギア17の回転方向における前方の歯面が鉛直方向の上側を向くような位置に設けられており、流入口41cがオイル貯留部18の潤滑油に浸漬した位置に設けられている。そのため、デフリングギア17が回転することで、オイル貯留部18の潤滑油を掻き上げ通路41に掻き上げ、このデフリングギア17の外周部に沿って上方に供給することができる。
【0028】
また、通路部材19は、掻き上げ通路41から分岐した第1案内通路31と第3案内通路33を形成している。第1案内通路31は、掻き上げ通路41から上方に分岐して所定の傾斜角度で延在している。この第1案内通路31は、第1筒状部31aが掻き上げ通路41に対してその外側から接続している。第3案内通路33は、掻き上げ通路41から同形状をなして連続するように、デフリングギア17の外周部に沿って水平方向に延在している。この第3案内通路33は、デフリングギア17とドライブピニオンギア15との噛み合い部まで設けられている。
【0029】
通路部材19は、ドライブピニオンギア15の周方向に沿ってこのドライブピニオンギア15と対向して設けられ、ドライブピニオンギア15との間にドライブピニオンギア15によって送られる潤滑油が流入する押し出し通路42を形成している。この押し出し通路42は、ドライブピニオンギア15を軸方向に挟んで互いに対向する一対の側壁部42aと、ドライブピニオンギア15の外周面と径方向に対向して形成された曲面部42bとから構成されている。曲面部42bは、ドライブピニオンギア15と同心上に配置されており、ドライブピニオンギア15の外周面と所定の隙間が確保されており、この隙間の大きさは、周方向において略一様となっている。2つの側壁部42aは、外側端部が曲面部42bによって接続されている。そのため、押し出し通路42は、ドライブピニオンギア15の両側面及び外周面と、側壁部42a及び曲面部42bとが対向する領域に確保されていることとなる。
【0030】
この押し出し通路42は、ドライブピニオンギア15のほぼ半周にわたって設けられ、且つ、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17とが噛み合う位置(噛み合い部)から上側を向くように設けられている。そのため、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17とが回転することで、第3案内通路33を流れる潤滑油の一部がドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部から上方に押し出され、ドライブピニオンギア15の外周部に沿って上方に供給することができる。
【0031】
また、通路部材19は、押し出し通路42から分岐した第2案内通路32を形成している。第2案内通路32は、押し出し通路42から上方に分岐して所定の傾斜角度で延在している。この第2案内通路32は、第2筒状部32aが押し出し通路42に対してその外側から接続している。
【0032】
そして、第1案内通路31は、第1筒状部31aが鉛直方向に対して所定の傾斜角度で傾斜しており、下部が掻き上げ通路41に連通し、上部がMG2リダクションギア16の外周部の近傍まで延出されて第1吐出口31bが形成されている。第2案内通路32は、第2筒状部32aが鉛直方向に対して所定の傾斜角度で第1筒状部31aとは逆方向に傾斜しており、下部が押し出し通路42に連通し、上部がMG2リダクションギア16の外周部の近傍まで延出されて第2吐出口32bが形成されている。
【0033】
この場合、図1にて、第1案内通路31が手前側に位置し、第2案内通路32が向こう側に位置するように、第1案内通路31と第2案内通路32がMG2リダクションギア16の回転軸心方向に重なるように交差している。そして、第1案内通路31と第2案内通路32は、第1吐出口31bと第2吐出口32bがMG2リダクションギア16の回転軸心方向にずれて配置されると共に、第2吐出口32bが第1吐出口31bよりMG2リダクションギア16における回転方向の下流側に配置されている。また、通路部材19は、第2吐出口32bからMG2リダクションギア16の回転方向における下流側に湾曲するように延在するガイド部43が形成されている。
【0034】
従って、デフリングギア17が回転すると、オイル貯留部18の潤滑油は、デフリングギア17に送られて流入口41cから掻き上げ通路41に流入する。デフリングギア17により掻き上げ通路41に継続的に潤滑油が送り込まれることで、掻き上げ通路41の油圧が上昇する。掻き上げ通路41の油圧が上昇すると、この掻き上げ通路41内の潤滑油は、第1案内通路31及び第3案内通路33へ供給される。そして、第3案内通路33から第2案内通路32に供給された潤滑油は、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送られ、この噛み合い部から押し出されて押し出し通路42に送り出され、第2案内通路32へ供給される。
【0035】
その後、第1、第2案内通路31,32に送られた潤滑油は、第1、第2吐出口31b,32bからMG2リダクションギア16に供給され、ガイド部43に一時的に貯留される。そして、MG2リダクションギア16が回転することで、この潤滑油を掻き上げてオイル受け部25に供給し、オイル受け部25に貯留された潤滑油は、各オイル供給孔27を通して動力伝達装置11の潤滑油供給部に供給される。
【0036】
このとき、デフリングギア17は、差動機構22を介して駆動輪と接続されていることから、デフリングギア17の回転速度と駆動輪の回転速度とはほぼ同速となっている。そのため、車両が中速から高速で走行しているとき、デフリングギア17は、中速から高速で回転することとなり、オイル貯留部18の潤滑油は、この回転するデフリングギア17により掻き上げ通路41に継続的に潤滑油が送り込まれることで油圧が上昇し、この掻き上げ通路41内で高圧となった潤滑油は、第1案内通路31及び第3案内通路33へ供給される。そして、高圧の潤滑油は、第3案内通路33からドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送られ、この噛み合い部から押し出され、押し出し通路42から第2案内通路32へ供給される。
【0037】
高圧の潤滑油が第1案内通路31に供給されると共に、第2案内通路32にも供給されることとなり、第1案内通路31を流れる潤滑油の圧力が所定圧力以上のとき、第1、第2案内通路31,32は、第1、第2吐出口31b,32bからMG2リダクションギア16に向けて適正に潤滑油を供給することができ、MG2リダクションギア16は、適正量の潤滑油をオイル受け部25に供給する。
【0038】
一方、車両が低速で走行しているとき、デフリングギア17は、低速で回転することとなり、オイル貯留部18の潤滑油は、この回転するデフリングギア17により掻き上げ通路41に継続的に潤滑油が送り込まれることで油圧が上昇し、第1案内通路31及び第3案内通路33へ供給される。そして、この潤滑油は、第3案内通路33からドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送られ、この噛み合い部から押し出され、押し出し通路42から第2案内通路32へ供給される。
【0039】
このとき、車両が低速であることから、デフリングギア17も低速回転となり、オイル貯留部18の潤滑油は、低圧状態で第1案内通路31及び第3案内通路33へ供給される。すると、第1案内通路31は、鉛直方向における上方側に延在していることから、低圧の潤滑油を吐出口31bから送り出すことができず、潤滑油の油面が第1案内通路31に位置することとなる。一方、第3案内通路33は、水平方向に延在していることから、低圧の潤滑油をドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送り出すことができ、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部で押し出された潤滑油が第2案内通路32に送り出され、この第2案内通路32は、この潤滑油を吐出口32bから送り出すことができる。
【0040】
高圧の潤滑油が第2案内通路32にのみ供給されることとなり、第1案内通路31を流れる潤滑油の圧力が所定圧力未満であるとき、第2案内通路32は、第2吐出口32bからMG2リダクションギア16に向けて適正に潤滑油を供給することができ、MG2リダクションギア16は、適正量の潤滑油をオイル受け部25に供給する。
【0041】
この場合、第2案内通路32は、第2吐出口32bからMG2リダクションギア16に潤滑油を供給することができるが、第1案内通路31は、第1吐出口31bからMG2リダクションギア16に向けて潤滑油を供給することができない。しかし、第1吐出口31bと第2吐出口32bがMG2リダクションギア16の軸方向にずれていること、また、第2吐出口32bが第1吐出口31bよりMG2リダクションギア16の回転方向における下流側にずれていることから、第2吐出口32bから第1吐出口31bに潤滑油が流れ込むことはない。
【0042】
このように実施形態1の潤滑油供給装置にあっては、ケース12内にカウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17を順次噛み合わせて収容すると共に、オイル貯留部18と通路部材19とを収容し、通路部材19により、デフリングギア17により掻き上げた潤滑油を導く第1案内通路31と、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部から押し出された潤滑油を導く第2案内通路32とを設け、第1案内通路31及び第2案内通路32から導かれた潤滑油をMG2リダクションギア16が回転することで掻き上げてオイル受け部25に供給可能とし、第1案内通路31の第1吐出口31bと第2案内通路32の第2吐出口32bをMG2リダクションギア16の回転軸心方向にずれて配置している。
【0043】
従って、デフリングギア17が低速で回転するとき、潤滑油は高圧とならず、第1案内通路31は第1吐出口31bからMG2リダクションギア16に潤滑油を送ることができない。一方、第2案内通路32は、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部から押し出された潤滑油を第2吐出口32bからMG2リダクションギア16に送ることができる。その結果、第1案内通路31の潤滑油の圧力が低くなっても、潤滑油を第2案内通路32からMG2リダクションギア16に供給することができると共に、第1吐出口31bと第2吐出口32bがMG2リダクションギア16の回転軸心方向にずれていることから、第2案内通路32から第1案内通路31への潤滑油の流れ込みを防止することができ、潤滑油の供給不足を抑制して潤滑性能を向上することができる。
【0044】
また、実施形態1の潤滑油供給装置では、第2案内通路32は、第1案内通路31により導かれる潤滑油の圧力よりも高い圧力の潤滑油をMG2リダクションギア16に導くことが可能であり、第2案内通路32の第2吐出口32bを第1案内通路31の第1吐出口31bよりMG2リダクションギア16における回転方向の下流側に配置している。従って、第1案内通路31の潤滑油の圧力が低下しても、第2案内通路32の第2吐出口32bからの潤滑油は、第1案内通路31の第1吐出口31bよりMG2リダクションギア16における回転方向の下流側に供給されることとなり、第2案内通路32から第1案内通路31への潤滑油の流れ込みを防止することができる。
【0045】
また、実施形態1の潤滑油供給装置では、第1案内通路31と第2案内通路32とをMG2リダクションギア16の回転軸心方向に重なるように配置している。従って、第1案内通路31と第2案内通路32を効率的に配置することで、第2案内通路32から第1案内通路31への潤滑油の流れ込みを防止することができると共に、構造の簡素化を可能とすることができる。
【0046】
また、実施形態1の潤滑油供給装置では、デフリングギア17により掻き上げた潤滑油の一部をドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部に導く第3案内通路33を設け、デフリングギア17により掻き上げた潤滑油を第1案内通路31からMG2リダクションギア16に導くと共に、第3案内通路33からドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部に導き、第2案内通路32から上方のMG2リダクションギア16に導くようにしている。従って、デフリングギア17の遠心力を利用した潤滑油の掻き上げ供給方式と、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部を利用した潤滑油の押し出し供給方式との共用化を可能とし、潤滑性能を向上することができる。
【0047】
〔実施形態2〕
図3は、本発明の実施形態2に係る潤滑油供給装置を表す概略図、図4は、実施形態2の潤滑油供給装置の作用を表す概略図である。なお、上述した実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0048】
実施形態2の潤滑油供給装置は、図3に示すように、例えば、ハイブリッド車両の動力伝達装置11に適用されたものであり、この動力伝達装置11は、ケース12内に、カウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17、オイル貯留部18、通路部材50が収容されて構成されている。
【0049】
この通路部材50は、デフリングギア17によりオイル貯留部18から掻き上げられた潤滑油をMG2リダクションギア16に導く第1案内通路51と、デフリングギア17によりオイル貯留部18から掻き上げられた潤滑油をドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部に導く第3案内通路53と、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部から押し出された潤滑油をMG2リダクションギア16に導く第2案内通路52とを形成している。また、通路部材50は、第1案内通路51の下流部と第2案内通路52の下流部とが合流すると共に鉛直方向における上方に潤滑油を導く合流部54を形成している。
【0050】
この第1案内通路51は、鉛直方向に対して所定の傾斜角度で傾斜しており、下部が掻き上げ通路41に連通し、上部が合流部54に連通している。第2案内通路52は、鉛直方向に対して所定の傾斜角度で第1案内通路51とは逆方向に傾斜しており、下部が押し出し通路42に連通し、上部が合流部54に連通している。そして、合流部54は、MG2リダクションギア16の外周部の近傍まで延出されて吐出口54aが形成されると共に、ガイド部55が形成されている。この場合、各案内通路51,52と合流部54との接続部は、各案内通路51,52側、例えば、各案内通路51,52と合流部54とを併せた鉛直方向の高さの半分以下の高さ位置に配置されている。
【0051】
従って、デフリングギア17が回転すると、オイル貯留部18の潤滑油は、デフリングギア17に送られて流入口41cから掻き上げ通路41に流入する。デフリングギア17により掻き上げ通路41に継続的に潤滑油が送り込まれることで、掻き上げ通路41の油圧が上昇する。掻き上げ通路41の油圧が上昇すると、この掻き上げ通路41内の潤滑油は、第1案内通路51及び第3案内通路53へ供給される。そして、第1案内通路51に供給された潤滑油は、合流部54に送られる。一方、第3案内通路53に供給された潤滑油は、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送られ、この噛み合い部から押し出されて押し出し通路42に送り出され、第2案内通路52へ供給される。そして、第2案内通路52に供給された潤滑油は、合流部54に送られる。第1、第2案内通路51,52から合流部54に送られた潤滑油は、吐出口54aからMG2リダクションギア16に供給される。
【0052】
その後、第1、第2案内通路51,52から合流部54に送られた潤滑油は、吐出口54aからMG2リダクションギア16に供給され、ガイド部55に一時的に貯留される。そして、MG2リダクションギア16が回転することで、この潤滑油を掻き上げてオイル受け部25に供給し、オイル受け部25に貯留された潤滑油は、各オイル供給孔27を通して動力伝達装置11の潤滑油供給部に供給される。
【0053】
ところで、車両が低速で走行していると、デフリングギア17は、低速で回転することとなり、オイル貯留部18の潤滑油は、この回転するデフリングギア17により掻き上げ通路41に継続的に潤滑油が送り込まれることで油圧が上昇し、第1案内通路51及び第3案内通路53へ供給される。そして、この潤滑油は、第3案内通路53からドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送られ、この噛み合い部から押し出され、押し出し通路42から第2案内通路52へ供給される。
【0054】
このとき、車両が低速であることから、デフリングギア17も低速回転となり、オイル貯留部18の潤滑油は、低圧状態で第1案内通路51及び第3案内通路53へ供給される。すると、第1案内通路51は、鉛直方向における上方側に延在していることから、低圧の潤滑油を合流部54に送り出すことができず、潤滑油の油面が第1案内通路51に位置することとなる。一方、第3案内通路53は、水平方向に延在していることから、低圧の潤滑油をドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部に送り出すことができ、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17との噛み合い部で押し出された潤滑油が第2案内通路52に送り出され、この第2案内通路52は、この潤滑油を合流部54に送り出すことができる。
【0055】
即ち、各案内通路51,52と合流部54との接続部は、各案内通路51,52側に配置されている。そのため、第2案内通路52の潤滑油は、合流部54を通して吐出口54aからMG2リダクションギア16に供給される。また、第1案内通路51における潤滑油の油面が低位置にあることから、第2案内通路52から合流部54に送られた潤滑油が第1案内通路51に流れ込むことはない。
【0056】
このように実施形態2の潤滑油供給装置にあっては、ケース12内にカウンタドライブギア13、カウンタドリブンギア14、ドライブピニオンギア15、MG2リダクションギア16、デフリングギア17を順次噛み合わせて収容すると共に、オイル貯留部18と通路部材50とを収容し、通路部材50により、デフリングギア17により掻き上げた潤滑油を導く第1案内通路51と、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部から押し出された潤滑油を導く第2案内通路52と、各案内通路51,52の下流部が合流すると共に鉛直方向における上方に潤滑油を導く合流部54とを設け、第1、第2案内通路51,52と合流部54との接続部を各案内通路51,52側に配置している。
【0057】
従って、デフリングギア17が低速で回転するとき、潤滑油は高圧とならず、第1案内通路51は上方の合流部54に潤滑油を送ることができない。一方、第2案内通路52は、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部から押し出された潤滑油を合流部54に送ることができ、合流部54の潤滑油がMG2リダクションギア16に供給される。その結果、第1案内通路51の潤滑油の圧力が低くなっても、潤滑油は第2案内通路52から合流部54を通してMG2リダクションギア16に供給することができると共に、第2案内通路52から第1案内通路51への潤滑油の流れ込みを防止することができ、潤滑油の供給不足を抑制して潤滑性能を向上することができる。
【0058】
なお、上述した各実施形態では、本発明の第1潤滑油供給手段を、デフリングギア17の遠心力を利用した潤滑油の掻き上げ供給方式とし、本発明の第2潤滑油供給手段を、ドライブピニオンギア15とデフリングギア17の噛み合い部を利用した潤滑油の押し出し供給方式としたが、この方式に限るものではない。例えば、本発明の第1潤滑油供給手段を押し出し供給方式とし、本発明の第2潤滑油供給手段を掻き上げ供給方式としてもよく、また、両者を掻き上げ供給方式としたり、押し出し供給方式としてもよい。
【0059】
また、上述した各実施形態では、本発明の潤滑油供給装置を、ハイブリッド車両の動力伝達装置に適用して説明したが、これに限定されるものではない。本発明の潤滑油供給装置を、例えば、自動変速機や、手動変速機などの動力伝達装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
11 動力伝達装置
12 ケース
13 カウンタドライブギア
14 カウンタドリブンギア
15 ドライブピニオンギア(第2歯車、第2潤滑油供給手段)
16 MG2リダクションギア(歯車、第3潤滑油供給手段)
17 デフリングギア(第1歯車、第1潤滑油供給手段、第2潤滑油供給手段)
18 オイル貯留部
19,50 通路部材
25 オイル受け部
31,51 第1案内通路
31b 第1吐出口
32,52 第2案内通路
32b 第2吐出口
33,53 第3案内通路
41 掻き上げ通路
42 押し出し通路
54 合流部
54a 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を供給する第1潤滑油供給手段と、
前記第1潤滑油供給手段により供給される潤滑油を導く筒形状をなす第1案内通路と、
潤滑油を供給する第2潤滑油供給手段と、
前記第2潤滑油供給手段により供給される潤滑油を導く筒形状をなす第2案内通路と、
前記第1案内通路及び前記第2案内通路から導かれた潤滑油を歯車が回転することで掻き上げて供給する第3潤滑油供給手段と、
を備え、
前記第1案内通路の吐出口と前記第2案内通路の吐出口が前記歯車の回転軸心方向にずれて配置される、
ことを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記第2案内通路は、前記第1案内通路により導かれる潤滑油の圧力よりも高い圧力の潤滑油を導くことが可能であり、前記第2案内通路の吐出口が前記第1案内通路の吐出口より前記歯車における回転方向の下流側に配置されることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記第1案内通路と前記第2案内通路とは、前記歯車の回転軸心方向に重なるように配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記第1潤滑油供給手段により供給される潤滑油を前記第2潤滑油供給手段に導く第3案内通路が設けられ、前記第1潤滑油供給手段は、貯留部に貯留された潤滑油を第1歯車の回転により掻き上げ、前記第1案内通路が上方の前記第3潤滑油供給手段に導くと共に、前記第3案内通路が前記第2潤滑油供給手段に導き、前記第2潤滑油供給手段は、前記第3案内通路から供給された潤滑油を第1、第2歯車の噛み合いにより押し出し、前記第2案内通路が上方の前記第3潤滑油供給手段に導くことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の潤滑油供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237352(P2012−237352A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105896(P2011−105896)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】