説明

潤滑油組成物

【課題】 電力消費量削減に寄与することができる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤が配合された潤滑油組成物であって、該基油と該オレフィン系粘度指数向上剤の混合物の20℃における屈折率が1.453〜1.470、かつ該組成物の40℃における動粘度が19〜51mm/sであることを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力型潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での温暖化が進行し、温室効果ガスの一つである二酸化炭素排出量削減が急務となっている。わが国でも、2006年にエネルギーの使用の合理化に関する法律、地球温暖化対策の推進に関する法律がそれぞれ改正施行され、工場、輸送事業者等はこれまで以上に電力消費量の削減が求められるようになってきた。
【0003】
電力消費量削減の一つの方法として、産業機械や輸送機械で使用される潤滑油側からの省電力化が図られている。省電力化の例として、特定の添加剤を配合することによる摩擦・摩耗の低減化が挙げられ、リン酸エステル、リン酸エステルのアミン塩、脂肪酸エステル、カルボン酸アミド、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオカーバメートなどの配合技術による対応が試みられている(例えば、特許文献1、2参照。)。また、特定の基油を使用することにより、配管等の圧力損失の低減を図った例も挙げられる(特許文献3参照。)。
【0004】
一方、最近では産業機械の高出力化が進んでおり、それに伴い、潤滑油の高圧条件下での使用もいっそう増加していくことが考えられる。よって、電力消費量削減のためには、高圧条件下での潤滑油の摩擦低減、すなわち低トラクション性が求められる。
また、通常運転時の他にも、起動時の電力消費量削減も求められ、潤滑油においては優れた低温流動性も求められる。
【0005】
【特許文献1】特開平5−140556号公報
【特許文献2】特開2001−040383号公報
【特許文献3】特開2004−250504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低トラクション性かつ優れた低温流動性を示す潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、特定の高圧粘度を有する炭化水素系の潤滑油基油に特定のオレフィン系粘度指数向上剤を配合し、特定の組成とすることで、低トラクション性かつ優れた低温流動性を示す潤滑油組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤が配合された潤滑油組成物であって、該基油と該オレフィン系粘度指数向上剤の混合物の20℃における屈折率が1.453〜1.470、かつ該組成物の40℃における動粘度が19〜51mm/sであることを特徴とする潤滑油組成物を提供するものである。
また、本発明は、上記潤滑油組成物において、オレフィン系粘度指数向上剤がエチレンと炭素数3〜30のオレフィンとの共重合体であり、かつその屈折率が20℃において1.453〜1.480である潤滑油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、特定の組成、高圧粘度を有する炭化水素系潤滑油基油を用いることで低トラクション性かつ優れた低温流動性を示し、省電力型潤滑油として産業機械等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の潤滑油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油の高圧粘度は、40℃、1.7GPaにおいて1.0×1010〜2.0×1012cPであり、より好ましくは2.0×1010〜5.0×1011cPであり、さらに好ましくは2.5×1010〜4.0×1011cPであり、特に好ましくは3.5×1010〜2.5×1011cPである。高圧粘度が1.0×1010cP未満であると適当な油膜厚さが保たれなくなり、十分な摩耗防止性が得られないため好ましくない。高圧粘度が2.0×1012cPを超えるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなるため、本願の省電力効果を十分に得ることができない。
【0011】
本願における高圧粘度は、以下のBarusの式を用いて算出される。
Barusの式は一般式(1)で表される。
η=ηexp(αP) (1)
(一般式(1)において、ηは圧力Pにおける絶対粘度(cP)、ηは大気圧における絶対粘度(cP)、αは粘度圧力係数である。)
一般式(1)の粘度圧力係数αは一般式(2)で表される大野の式を用いて算出した。
α=0.62ν0.1762.047ρ0.293 (2)
(一般式(2)において、νは大気圧下における動粘度 (mm/s)、ρは大気圧下における密度
(g/cm)、Bは粘度温度傾斜係数である。)
【0012】
また、一般式(2)の粘度温度傾斜係数Bは、ASTM D341−93 による一般式(3)を用いて算出した。
【数1】

(一般式(3)において、T1、T2は温度(℃)、νT1、ν2は温度T1、T2における動粘度(mm/s)である。)
【0013】
本発明の潤滑油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油の、ASTM D3238環分析方法による%CAは5以下であり、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下である。%CAが5を超えるとトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向にある。なお、%CAは芳香族系炭化水素の含有量と相関するが、芳香族系炭化水素はトラクション係数が高い傾向にあるため、より少ない方が好ましく、上記数値以下であれば下限値に限定はなく、芳香族系炭化水素を実質的に含有しなくてもよい。
【0014】
本発明の潤滑油組成物に用いる炭化水素系潤滑油基油の屈折率は特に制限はないが、JIS K0062屈折率測定方法による20℃における屈折率が、好ましくは1.455〜1.473であり、より好ましくは1.456〜1.468であり、さらに好ましくは1.456〜1.466であり、特に好ましくは1.457〜1.464であり、最も好ましくは1.460〜1.464である。20℃における屈折率が1.455以上とすることで、該基油とオレフィン系粘度指数向上剤の混合物の20℃における屈折率が1.453〜1.470の屈折率を1.453以上に調整しやすくなる傾向にあり、また良好な耐摩耗性としやすい。20℃における屈折率が1.473以下とすることで、後述するオレフィン系粘度指数向上剤を配合した際の該基油と該オレフィン系粘度指数向上剤の混合物の20℃における屈折率を1.470以下に調整しやすい傾向がある。すなわち、組成物のトラクション係数が低く抑えやすく、省電力を得やすい傾向にある。
【0015】
本発明の炭化水素系潤滑油基油は、本発明の構成を満たす限り、どのような方法で製造されたものでもよく、例えば原油の潤滑油留分を溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製など適宜組合せた製造方法が挙げられるが、好ましい製造方法としては、以下の方法が挙げられる。まず、原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理する。そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行い、その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得る。この残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分を水素化脱ロウ処理、安定化処理を行う。水素化脱ロウ処理の条件としては、アルミナ、シリカ-アルミナ、ゼオライト担体上に、Mo、W、Ni、Pdなどの周期律表の第6族、第8族金属を担持した触媒を用い、反応圧155〜190 kg/cmG、反応温度230〜300℃、LHSV0.7〜1.3h−1が好ましい。
【0016】
また、溶剤脱ロウによるスラックワックスやフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等を原料とし、これらを水素化処理、水素化分解する方法も好ましい方法として挙げられる。
さらに、本発明の基油である、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油に該当しない炭化水素系潤滑油基油を2種以上混合することにより、本発明の基油を調製できる。例えば、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1013cP、環分析による%CAが7である炭化水素系潤滑油基油と、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×10cP、環分析による%CAが0である炭化水素系潤滑油基油とを、混合する調製法が挙げられる。
【0017】
上記の炭化水素系潤滑油基油は、記載の高圧粘度範囲である限り、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の炭化水素系潤滑油基油には、ポリαオレフィン基油は含まない。ここで、ポリαオレフィン基油とは、αオレフィンの重合体からなる基油である。
また、本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的を害さない範囲内で、前記基油以外の他の基油を含んでもよいが、前記基油の含有割合は、全ての基油の合計量に対して70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の潤滑油組成物に用いるオレフィン系粘度指数向上剤は、エチレンとエチレン以外のモノマーからなる共重合体である。
エチレンと共重合体を形成するエチレン以外のモノマーとしては、例えば、オレフィン系炭化水素、ジエン系炭化水素、ビニル芳香族炭化水素等が挙げられる。これらのエチレン以外のモノマーの炭素数は、好ましくは3〜30であり、より好ましくは3〜25であり、さらに好ましくは3〜15であり、特に好ましくは3〜8であり、最も好ましくは3〜5である。エチレン以外のモノマーの炭素数が30以下とすることで、粘度指数向上剤の分子量を比較的低く抑えることができ、耐せん断安定性を向上させることができるため好ましい。
【0019】
エチレン以外のモノマーとして用いられるオレフィン系炭化水素としては、直鎖であっても環状であっても良く、分岐があっても良い。オレフィン系炭化水素の具体例としては、プロピレン、n−ブテン、i−ブチレン、シクロブテン、n−ペンテン、i−ペンテン、シクロペンテン、n−へキセン、i−へキセン、n−へプテン、i−へプテン等が挙げられる。
エチレン以外のモノマーとして用いられるジエン系炭化水素は、鎖状であっても、環状であってもよく、分岐鎖があってもよい。ジエン系炭化水素の具体例としては、ブタジエン、シクロブタジエン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン等が挙げられる。
【0020】
エチレン以外のモノマーとして用いられるビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
これらのエチレン以外のモノマーの内、好ましいものはオレフィン系炭化水素であり、特に好ましいものは炭素数3〜5のオレフィン系炭化水素である。
オレフィン系粘度指数向上剤はエチレンとエチレン以外のモノマーを重合して合成するが、エチレン以外のモノマーは1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0021】
エチレンとエチレン以外のモノマーのモル比は特に制限されないが、好ましくは80:20〜20:80であり、より好ましくは70:30〜30:70であり、さらに好ましくは65:35〜35:65である。
オレフィン系粘度指数向上剤は、規則的交互重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト重合体のいずれであってもよい。
【0022】
オレフィン系粘度指数向上剤の好ましい重量平均分子量は1000〜180,000であり、より好ましくは1200〜145,000であり、さらに好ましくは3000
〜140,000であり、特に好ましくは8000〜130,000であり、最も好ましくは10,000〜50,000である。重量平均分子量を1000以上とすることで、所定のトラクション特性が得やすくなる傾向にある。重量平均分子量が180,000以下とすることで、せん断下における粘度低下を抑制しやすい傾向にある。なお、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィ-で測定され、ポリスチレン換算による値である。
【0023】
オレフィン系粘度指数向上剤は、本発明の目的が損なわれないかぎり、分散型、非分散型のいずれであってもよい(モノマー由来の極性基を有するものを分散型、極性基を有さないものを非分散型という)。すなわち、エチレン以外のモノマー分子として窒素原子含有化合物やアルキルエステル類が用いられている分散型であってもよい。このような窒素原子含有化合物の具体例としては、アルキル-ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール等が挙げられる。また、アルキルエステル類の具体例として、ポリアルキレングリコールエステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル等が挙げられる。これらは1種でも、2種以上でも用いることができる。
【0024】
ただし、オレフィン系粘度指数向上剤中の分散基を有するモノマーとそれ以外のモノマーのモル比は、分散基のモル比が25を超えると、基油とオレフィン系粘度指数向上剤の混合物のトラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向がある。そのため、分散基を有するモノマーとそれ以外のモノマーのモル比は、好ましくは0:100〜25:75であり、より好ましくは0:100〜10:90である。
【0025】
オレフィン系粘度指数向上剤の屈折率は特に制限はないが、JIS K0062屈折率測定方法による20℃における屈折率は、好ましくは1.453〜1.480であり、より好ましくは1.455〜1.478であり、さらに好ましくは1.460〜1.475である。20℃における屈折率を1.453以上とすることで、組成物の屈折率を1.453に調整しやすい傾向にあり、良好な耐摩耗性を得やすくできる。20℃における屈折率を1.480以下とすることで、組成物の屈折率を1.470以下に調整しやすい。そのため組成物のトラクション係数が低くなり、省電力効果を得易くできる傾向がある。
【0026】
オレフィン系粘度指数向上剤の潤滑油組成物に対する配合量は、好ましくは1〜60質量%であり、より好ましくは2〜40質量%であり、さらに好ましくは3〜30質量%であり、特に好ましくは3.5〜20質量%である。配合量を1質量%以上とすることで、トラクション係数を低く抑えやすくなり、省電力効果を得やすくできる傾向にある。配合量が60質量%を超えると、配合量の増加量に比べて効果の上昇が得られず、経済的ではない。
上記のオレフィン系粘度指数向上剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明の該基油と該オレフィン系粘度指数向上剤の混合物の、JIS K0062屈折率測定方法による20℃における屈折率は、1.453〜1.470であり、より好ましくは1.454〜1.468であり、さらに好ましくは1.455〜1.465であり、特に好ましくは1.456〜1.463ある。20℃における屈折率が1.453未満であると耐摩耗性が低下する傾向がある。20℃における屈折率が1.470を超えるとトラクション係数が高くなり、十分な省電力効果を得ることができない。
【0028】
本発明の潤滑油組成物の40℃動粘度は、JIS K2283動粘度試験方法(40℃)において、19〜51mm/sであり、好ましくは24〜42mm/sであり、さらに好ましくは28〜35mm/sである。40℃動粘度が19mm/s未満であると、適切な油膜厚さが保たれなくなり、耐摩耗性が低下する傾向がある。40℃動粘度が51mm/sを超えると、トラクション係数が高くなり、電力消費量が多くなる傾向がある。
【0029】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、JIS K2283動粘度試験方法において、好ましくは103以上であり、より好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは130以上である。粘度指数が低すぎると低温粘度が高くなり、低温始動時の電力消費量が多くなる傾向がある。
【0030】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種公知の添加剤を配合することができる。例えば酸化防止剤、極圧剤、油性剤、清浄分散剤、さび止め剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、泡消剤、抗乳化剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等のフェノール系酸化防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、ホスホン酸エステル等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0031】
極圧剤としては、ホスフェート、ホスファイト等のリン系極圧剤、硫化オレフィン等の硫黄系極圧剤、ZnDTP、ZnDTC等の有機金属系極圧剤が挙げられる。
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、オレイルアルコール等の高級アルコール、オレイルアミン等のアミン、ブチルステアレート等のエステルが挙げられる。
【0032】
清浄分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸エステル等の無灰系清浄分散剤、アルカリ土類金属系清浄分散剤が挙げられる。
さび止め剤としては、カルボン酸、金属セッケン、カルボン酸アミン塩、スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分エステル等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾ−ルおよびその誘導体、アルキルコハク酸誘導体が挙げられる。
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート、ポリアルキルアクリレート等が挙げられる。
【0033】
消泡剤としては、シリコーン油やエステル系消泡剤等が挙げられる。
抗乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤等の抗乳化剤が挙げられる。
これら添加剤は、1種を単独使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の潤滑油組成物は、種々の用途に適用できるが、油圧作動油、軸受油、圧縮機油、タービン油、工作機械油などの工業用潤滑油として特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
各実施例、比較例において潤滑油組成物の調製に用いた基油、添加剤成分は次のとおりである。
【0035】
<炭化水素系潤滑油基油の製造方法>
(1)実施例の炭化水素系潤滑油基油
原油の常圧蒸留で得られたボトム油を減圧蒸留装置で処理し、そこで得られた減圧軽油を水素化処理および水素化分解を行った。その後、軽質分、燃料分を減圧ストリッパーで除去した残渣物を得た。残渣物を減圧蒸留し、得られた潤滑油留分の水素化脱ロウ処理、安定化処理を行った。水素化脱ロウ処理は、反応圧160〜180kg/cmG、反応温度270〜290℃、LHSV0.9〜1.1h−1の条件にて行ない、基油(A−1)及び(A−2)を得た。
以下に、基油(A−1)及び(A−2)の性状を示す。
【0036】
(A−1)水素化分解鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:20.1mm/s、100℃動粘度:4.3mm/s、20℃における屈折率:1.463、40℃における密度:0.817、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:2.1×1011cP、%CA:0.6
(A−2)水素化分解鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:13.2mm/s、100℃動粘度:3.2mm/s、20℃における屈折率:1.460、40℃における密度:0.820、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:1.7×1011cP、%CA:0.9
【0037】
(2)比較例の基油
原油を常圧蒸留し、分留後の残油を減圧下で分留、得られた留出油をフルフラール溶剤抽出法によってパラフィンリッチラフィネートを精製した。つづいてそのラフィネートを脱ロウ処理して得られた脱ロウ油の高圧水素化処理を行った。高圧水素化処理は、アルミナ担体上にMo、Niを担持した触媒を用い、反応圧170 kg/cmG、反応温度325℃、LHSV0.36h−1の条件にて行った。以下に、得られた基油(A−3)の性状を示す。
(A−3)水素化精製鉱油(炭化水素系潤滑油基油)
40℃動粘度:30.8mm/s、100℃動粘度:5.4mm/s、20℃における屈折率:1.472、40℃における密度:0.842、40℃、1.7GPaにおける高圧粘度:4.6×1012cP、%CA:0.4
【0038】
※40℃動粘度はJIS K2283動粘度試験方法、密度はJIS K2249密度試験方法、20℃における屈折率はJIS K0062屈折率測定方法により測定した。高圧粘度は、Barusの式を用いて、高圧粘度を算出した。算出に必要な、粘度圧力係数は大野の式を用いて算出した。また、絶対粘度は 動粘度/密度 から算出でき、それぞれ40℃における測定値から算出した。
%CAはASTM D3238環分析により測定した。算出に必要な屈折率、密度、分子量および硫黄分は、JIS K0062屈折率測定方法、JIS K2249密度試験方法、ASTM D2502分子量試験方法、JIS K2541硫黄分試験方法にて測定した。
【0039】
粘度指数向上剤
(B−1) 重量平均分子量が16,000、20℃における屈折率が1.473、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレン/プロピレンランダム共重合体
(B−2) 重量平均分子量が5,000、20℃における屈折率が1.468、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレン/プロピレンランダム共重合体
(B−3) 重量平均分子量が1,400、20℃における屈折率が1.461、エチレン/プロピレンのモル比が53:47であるエチレンプロピレンランダム共重合体
(B−4) 重量平均分子量が125,000、20℃における屈折率が1.463、エチレン/プロピレンのモル比が55/45であるエチレン/プロピレンランダム共重合体
【0040】
(B−5) 重量平均分子量が180,000、20℃における屈折率が1.476、エチレン/プロピレンのモル比が60/40であるエチレン/プロピレンランダム共重合体
(B−6) 重量平均分子量が150,000であるポリイソブチレン
(B−7) 重量平均分子量が22,000であるポリメタクリレート
【0041】
※20℃における屈折率はJIS K0062屈折率測定方法により測定した。
また、重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにて測定し、ポリスチレン換算にて算出した。ゲル浸透クロマトグラフィーはカラムにShodex
GPC LF−804を3本、移動層にTHF、検出器に示差屈折検出器を用いた。
【0042】
(評価方法)
炭化水素系潤滑油基油の高圧粘度、潤滑油組成物の粘度指数、低温粘度およびトラクション係数について、下記の評価方法により評価した。
<低温粘度>
ASTM D4684 MRV低温粘度により、−25℃における低温粘度を評価した。
【0043】
<トラクション係数>
四円筒疲労摩擦試験機にてトラクション係数を評価した。
材質SUJ−2、外径40 mm、幅10 mm、表面粗さ0.08μm以下の試験片を用い、すべり率5.3%、最大ヘルツ荷重1.7 GPa、油温40℃、試験時間5分にて試験を実施した。
<耐摩耗性>
以下の試験条件でシェル四球試験を実施し、摩耗痕径で評価した。
試験条件
テストピース : 鋼(固定球)-鋼(回転球)
回転数 :
1800rpm
荷重 :
10kgf
試験時間 :
30min
【0044】
(実施例1〜6)
基油に粘度指数向上剤を表1の上段に示す割合(質量%)で配合し、潤滑油組成物を調製した。それらの潤滑油組成物の各種性能を評価し、その結果を表1の下段に示す。
(比較例1〜5)
基油に粘度指数向上剤を表荷の上段に示す割合(質量%)で配合し、潤滑油組成物を調製した。それらの潤滑油組成物の各種性能を評価し、その結果を表2の下段に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
※粘度指数:JIS K2283動粘度試験方法により測定。
【0047】
【表2】

【0048】
※粘度指数:JIS K2283動粘度試験方法により測定。
【0049】
実施例1〜6は、ポリイソブチレンを配合した比較例1、ポリメタクリレートを配合した比較例2、オレフィン系粘度指数向上剤を含まない比較例3、4に比べトラクション係数が低い。また、実施例1〜6は高圧粘度の高い基油にオレフィン系粘度指数向上剤を配合した比較例5に比べてもトラクション係数が低い。よってこれら実施例は省電力効果が得られる。
また、実施例は比較例4と比べて低温粘度も低く、起動時の電力削減効果も得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃、1.7GPaにおける高圧粘度が1.0×1010〜2.0×1012cP、環分析による%CAが5以下である炭化水素系潤滑油基油(ただし、ポリαオレフィン基油を除く。)に、エチレンとエチレン以外のモノマーとの共重合体からなるオレフィン系粘度指数向上剤が配合された潤滑油組成物であって、該基油と該オレフィン系粘度指数向上剤の混合物の20℃における屈折率が1.453〜1.470、かつ該組成物の40℃における動粘度が19〜51mm/sであることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
オレフィン系粘度指数向上剤がエチレンと炭素数3〜30のオレフィンとの共重合体であり、かつその屈折率が20℃において1.453〜1.480であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−126897(P2009−126897A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301249(P2007−301249)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(398053147)コスモ石油ルブリカンツ株式会社 (123)
【Fターム(参考)】