説明

潤滑油組成物

【課題】分散性が改善されたカーボンナノカプセルを含む潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】潤滑油組成物は、基油と、基油中に分散するアルキル基がグラフトされたカーボンナノカプセルと、を含む。カーボンナノカプセルは、中空であっても良いし、または、金属、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物若しくは金属ホウ化物を内包していても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関し、より詳細には、カーボンナノカプセルを含む潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノカプセルは、球を内包した球殻(ball-in-ball)の多層グラファイト構造からなる、直径が3〜100nm、主には30〜40nmの多面体カーボンクラスターである。カーボンナノカプセルは中空であっても良いし、または金属を内包することもできる。カーボンナノカプセルのシェル(shell)は、中央部位の六員環と、末端部位の五員環とで構成される。各炭素原子はいずれもsp混成軌道をとる。カーボンナノカプセルはその特殊な多層グラファイト構造のために、高熱伝導性、高導電性、高強度および化学安定性を備える。カーボンナノカプセルの保護スペースにより、内部金属粒子の凝集、拡散または外部環境の影響による酸化が防止され、内部のナノ金属構造および量子効果が保たれる。
【0003】
従来の扁平なグラファイト材料と比べると、球状のカーボンナノカプセルは、各層の構造がジオデシックドーム(geodesic dome)に似ており、その直径は約10nmから100nmである。カーボンナノカプセルは閉じた構造からなり、活性境界(active boundaries)が露出しないため、カーボンナノカプセルを含有する潤滑剤は、優れた特性を有しており、マイクロエレクトロニクスへの使用に適している。従来の層状グラファイト材料は、滑りやすい(slipped)層状化合物からなる。層状グラファイト材料は平坦な滑りやすい(slipped)ゲルであり、摩擦力を低減することができる。しかし、層状の境界は化学的に活性であるため、次第に分解して剥がれ、潤滑すべき金属の表面と結合する。これに対し、球状ナノ粒子は、微細なボールベアリングの活用により、摩擦力および磨耗を低減する。各ナノ粒子は金属表面のくぼみに入り込むことができる。更に、球状ナノ粒子は活性の境界が露出しないため、これを用いる潤滑剤は、劣悪な環境にも耐えることができる。
【0004】
しかしながら、活性の境界が露出しない球状ナノ粒子は、溶剤中に分散させることが困難である。そこで、有機相(潤滑油)へのナノ粒子の分散性を改善して摩擦力を低減させることが求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、潤滑油への分散性などが改善されたカーボンナノカプセルを含む潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することのできた本発明の潤滑油組成物は、基油と、前記基油中に分散するアルキル基がグラフトされたカーボンナノカプセルと、を含んでいる。
【0007】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の潤滑油組成物は、カーボンナノカプセルにアルキル基が共有結合でグラフトされている。アルキル基の好ましい炭素数は12〜18である。
【0008】
本発明の好ましい実施形態において、上記カーボンナノカプセルは中空である。
【0009】
本発明の好ましい実施形態において、上記カーボンナノカプセルは、金属、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物または金属ホウ化物を内包する。また、上記カーボンナノカプセルに窒素、リンまたはホウ素がドープされていることが好ましい。
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、上記カーボンナノカプセルの直径は3〜100nmである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアルキル基がグラフトされた改変カーボンナノカプセルは、潤滑油中に均一に分散されているため、潤滑油の潤滑性、熱伝導効率および寿命が改善される。そのため、圧延油(mill oil)、熱伝導油(heat transfer oil)、含浸油(impregnation oil)、ローラーチェーンオイル(roller chain oil)、エンジンオイル、機械油および真空シーリングオイル(vacuum sealing oil)への使用に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の記載は本発明を実施するための最良の形態である。この記載は本発明の主要な原理を説明することを目的としたものであり、限定の意味で解釈されるべきではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲を参照することによって決定されるべきである。
【0013】
本発明の一実施形態は、基油と、基油中に分散するアルキル基がグラフトされたカーボンナノカプセルと、を含む潤滑油組成物を提供する。
【0014】
上記カーボンナノカプセルは、炭素数が約12〜18のアルキル基、例えば、C18のステアリン酸が共有結合でグラフトされている。カーボンナノカプセルは、中空であっても良いし、または、例えば金属、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物、若しくは金属ホウ化物が内包されていても良い。カーボンナノカプセルのシェルは、純炭素から構成されていても良いし、または、窒素、リン若しくはホウ素がドープされていても良い。カーボンナノカプセルの直径は3〜100nm、主に30〜40nmとすることができる。本発明の潤滑油組成物は、例えば圧延油、熱伝導油、含浸油、ローラーチェーンオイル、エンジンオイル、機械油および真空シーリングオイルに用いることができる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物中に分散された改変されたカーボンナノカプセルは、例えばフリーラジカル除去能(free-radical scavenging ability)が高く(1×10−2×10(g/l)−1−1)、酸素下での熱安定性が高く(600℃超)、溶剤への分散性に優れる(1〜10mg/ml)などの優れた特性を備える。
【0016】
カーボンナノカプセルの量は各種基油によってそれぞれ異なるが、潤滑油組成物の重量に対し、0.05wt%から1wt%の範囲である。SRV潤滑油性能試験では、1000ppmの潤滑油組成物の荷重は700Nに達し、基油に比べて56%上昇した。
【0017】
カーボンナノカプセルの改変は次のとおりに行う。先ず、例えば過酸化水素(H)などの溶剤にカーボンナノカプセルを分散させ、フリーラジカルの付加によりカーボンナノカプセル表面に共有結合するヒドロキシル基を形成する。ヒドロキシル基のみならず、例えば適切な化学反応により形成されるアミノ基またはカルボキシル基など、適切な他の基を付加することができる。続いて、ヒドロキシル基がグラフトされたカーボンナノカプセルを、当量のC12−18 アルキル化合物、例えばC18ステアリン酸と酸性溶液中で還流しながら反応させる。精製の後、例えばステアリン酸がグラフトされたカーボンナノカプセルなどの潤滑油添加剤が調製される。
【0018】
カーボンナノカプセルのシェルは、閉じた多層グラファイト構造からなる。その内部は中空、または金属が内包される。よって、カーボンナノカプセルは、大きな表面積、安定した構造、熱伝導性およびフリーラジカル除去能などの特性を備える。球状のカーボンナノカプセルは、従来の平板状グラファイト材料に比べて、高圧下での潤滑性、熱伝導効率およびフリーラジカル除去能をより高めることができ、圧延油、熱伝導油、含浸油、ローラーチェーンオイル、エンジンオイル、機械油および真空シーリングオイルへの使用に適している。更に、改変されたカーボンナノカプセルは、潤滑油中に均一に分散するので、油中に残留することが多い分散剤を用いる必要がない。
【実施例】
【0019】
実施例1
油溶性カーボンナノカプセルの調製
まず、カーボンナノカプセルを過酸化水素(H)中に分散させ、フリーラジカル付加によりカーボンナノカプセル表面に共有結合するヒドロキシル基を形成した。次いで、そのヒドロキシル基がグラフトされたカーボンナノカプセル(CNC(OH))を、当量のステアリン酸と酸性溶液中で還流しながら反応させた。
【0020】
精製後、潤滑油添加剤(CNC(OCOC18)を得た。SRV潤滑油性能試験を行ったところ、カーボンナノカプセルを含む潤滑油の荷重は700Nに達し、基油の荷重、例えば450Nよりも56%上昇した。本発明の潤滑油組成物の特性を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
以上、好適な実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれら実施例に限定されないと理解されるべきである。本発明は、(当業者であれば明らかであるように)種々の改変および類似のアレンジをカバーするように意図されている。よって、添付の特許請求の範囲は、かかる各種改変および類似のアレンジがすべて包含されるように、最も広い意味に解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
前記基油中に分散するアルキル基がグラフトされたカーボンナノカプセルと、
を含む潤滑油組成物。
【請求項2】
前記カーボンナノカプセルに前記アルキル基が共有結合でグラフトされる請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記アルキル基の炭素数が12〜18である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記カーボンナノカプセルが中空である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記カーボンナノカプセルが、金属、金属合金、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属窒化物または金属ホウ化物を内包する請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記カーボンナノカプセルに、窒素、リンまたはホウ素がドープされる請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノカプセルの直径が3〜100nmである請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2009−161756(P2009−161756A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326968(P2008−326968)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】