説明

潤滑油組成物

【課題】基油の蒸発が低減ないし抑制された潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】高温環境下で使用される潤滑油組成物であって、フッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下で使用される潤滑油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温環境下で使用される潤滑油組成物は、使用される間に基油の酸化劣化や蒸発が進行し、初期の潤滑性能が徐々に低下していくため、定期的に潤滑油を入れ替えたり、補充することが求められる。
潤滑油組成物の酸化劣化への対策としては、耐熱性の高い基油の使用や、基油に各種酸化防止剤を添加することで、潤滑油組成物の酸化劣化を抑制し、潤滑油組成物の寿命を延長させることが常套手段となっている(例えば特許文献1及び2)。
一方、添加剤で潤滑油組成物の基油の蒸発を抑制することは理論上難しく、現実には分子量の高い基油への変更で対応してきた。しかし、この手法では、潤滑油組成物の流動点や、粘度が高くなり、低温時の起動性が悪化したり、潤滑油の攪拌抵抗等による機械部品の運転トルクの上昇などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭58−22515
【特許文献2】特許第4049916号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、潤滑油組成物中の基油の蒸発を、特定の添加剤を使用することにより低減ないし抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、潤滑油組成物中の基油の蒸発を、特定の添加剤(フッ素系界面活性剤)を使用することにより低減ないし抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下に示す潤滑油組成物を提供するものである。
1.高温環境下で使用される潤滑油組成物であって、フッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
2.フッ素系界面活性剤が、
パーフルオロ脂肪族炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体(A)と、
ポリオキシアルキレン単位含有エチレン性不飽和単量体(B)、及び/又は(B)以外の非フッ素系アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(C)と
を重合して得られるフッ素系共重合体からなることを特徴とする上記1記載の潤滑油組成物。
3.フッ素系界面活性剤の含有量が、該潤滑油組成物の0.005〜10質量%であることを特徴とする上記1または2記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、潤滑油組成物に特定の添加剤を添加することにより、高温環境下で使用される潤滑油組成物の基油の蒸発を効果的に抑制するという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の潤滑油組成物に使用する基油は特に限定されず、基本的には全ての基油が使用可能である。基油は、単独でもあるいは組み合わせて使用することもできる。基油としては、大別して鉱物油、合成油がある。合成油の例としてはジエステル油、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油、ポリαオレフィンに代表される合成炭化水素油、アルキルジフェニルエーテルに代表されるエーテル系合成油、ポリプロピレングリコールに代表されるポリグリコール系合成油、シリコーン系合成油、フッ素系合成油などが挙げられる。
本発明の高温環境下で使用される潤滑油組成物の基油として特に好ましいものは、耐熱性に優れ、かつ経済性の観点から合成油、例えば、エステル系合成油、エーテル系合成油、合成炭化水素油である。
この明細書において高温環境とは、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上、特に180℃〜200℃の温度環境を意味する。
【0008】
本発明の潤滑油組成物に使用されるフッ素系界面活性剤としては、種々のものが挙げられる。
特に好ましいフッ素系界面活性剤は、パーフルオロ脂肪族炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体(A)と、ポリオキシアルキレン単位含有エチレン性不飽和単量体(B)、及び/又は(B)以外の非フッ素系アルキル含有エチレン性不飽和単量体(C)とを重合して得られるフッ素系共重合体であり、より好ましいフッ素系界面活性剤は、パーフルオロ脂肪族炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体(A)と、ポリオキシアルキレン単位含有エチレン性不飽和単量体(B)を重合して得られるフッ素系共重合体である。
【0009】
パーフルオロ脂肪族炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体(A)としては、例えば、フッ素化脂肪族炭化水素基を有するアクリレート、メタアクリレート、ビニルエステル、ビニルエーテル、マレート、フマレート、α-オレフィンなどが挙げられる。パーフルオロ脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数が1〜30のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルケニル基が挙げられ、直鎖状、分岐状、環状又はこれらの組み合わせたもののいずれでも良い。更に、フッ素化脂肪族炭化水素基は、その主鎖中に酸素原子又は窒素原子の介入したものであっても構わない。
【0010】
ポリオキシアルキレン単位含有エチレン性不飽和単量体(B)とは、ポリオキシアルキレン単位(非イオン性基)の両末端又は片末端にエチレン性不飽和二重結合を有する単量体である。オキシアルキレン単位としては、例えば、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位、これらの2種又は3種の単位を混合したものが例示される。
好ましいものは、ポリオキシプロピレン単位の両末端又は片末端にエチレン性不飽和二重結合を有する単量体である。オキシアルキレン基の繰り返し単位数は、好ましくは2〜100、更に好ましくは3〜50である。オキシプロピレン基の場合の繰返し単位数は、好ましくは2〜30、更に好ましくは3〜10である。
【0011】
(B)以外の非フッ素系アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(C)とは、非フッ素系アルキル基とエチレン性不飽和二重結合を有する単量体であり、そのアルキル基は炭素原子数1〜30の、直鎖状、分岐状、環状又はこれらの組み合わせたいずれの構造であっても良い。このような単量体としては、アルキルアクリレート、アルキルメタアクリレート、ヒドロキシル基含有アクリレート、ヒドロキシル基含有メタアクリレート、ポリジメチルシロキシル基含有アクリレート、ポリジメチルシロキシル基含有メタアクリレート、分子中にブリッジヘッドを含有するエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
分子中にブリッジヘッドを含有するエチレン性不飽和単量体の例としては、ジシクロペンタニルオキシエチルアクリレート、又はそのメタアクリレート、イソボルニルオキシエチルアクリレート、又はそのメタアクリレート、イソボルニルアクリレート、又はそのメタアクリレート、アダマンチルアクリレート、又はそのメタアクリレート、ジメチルアダマンチルアクリレート、又はそのメタアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、又はそのメタアクリレートなどが挙げられる。
【0012】
パーフルオロ脂肪族炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体(A)とポリオキシアルキレン単位含有エチレン性不飽和単量体(B)の共重合割合は特に制限されないが、不飽和単量体(A)100質量部当たりの不飽和単量体(B)の割合は、好ましくは1〜500質量部、さらに好ましくは5〜300質量部である。
ポリオキシプロピレン基単位含有エチレン性不飽和単量体の場合は、不飽和単量体(A)100質量部当たりのポリオキシプロピレン基単位含有エチレン性不飽和単量体の割合は、好ましくは1〜200質量部、さらに好ましくは5〜100質量部である。
非フッ素系アルキル含有エチレン性不飽和単量体(C)の共重合割合も特に制限されないが、不飽和単量体(A)100質量部に対して、好ましくは1〜100質量部、さらに好ましくは1〜30質量部である。なお、不飽和単量体(B)と不飽和単量体(C)の使用割合は任意に選択することができる。不飽和単量体(A)と、不飽和単量体(B)及び/又は不飽和単量体(C)とを重合して得られるフッ素系共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によるポリスチレン換算で、好ましくは1,000以上、さらに好ましくは1,000〜1,000,000であり、他種成分との相溶性を考慮した場合、1,000〜30,000が特に好ましい。
【0013】
本発明の潤滑油組成物に使用することができるフッ素系界面活性剤は市販されているものでもよく、市販品の例としては、 メガファックF-172D(DIC株式会社製)、メガファックF-480SF(DIC株式会社製)、メガファックF-489(DIC株式会社製)、メガファックF-178RM(DIC株式会社製)、ユニダインDS451(ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。
本発明の潤滑油組成物全体に対するフッ素系界面活性剤の添加量は、好ましくは0.005〜10質量%、さらに好ましくは0.01〜5質量%、最も好ましくは0.01〜2質量%である。添加量が0.005質量%未満では期待する効果が得られにくく、10質量%を超えると効果が飽和し、不経済である。
【0014】
本発明の潤滑油組成物には、上記フッ素系界面活性剤以外に、必要に応じて全ての添加剤が併用可能である。例えば、酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、固体潤滑剤、耐はく離添加剤、あるいはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0015】
本発明の潤滑油組成物は、増ちょう剤を添加し、グリース組成物とすることも可能である。
増ちょう剤としては全ての増ちょう剤が使用可能である。例えば、LiやNa等を含む金属石けん類、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素系増ちょう剤等の非石けん類などが挙げられる。特に好ましくは、Li石けんやウレア化合物である。これらは欠点が少なく、かつ高価でないため、実用性のある増ちょう剤である。グリース組成物として使用する場合の増ちょう剤の添加量はグリース組成物全体に対して通常は3〜30質量%程度である。
【0016】
本発明の潤滑油組成物において、フッ素系界面活性剤が潤滑油中の油分の蒸発を低減ないし抑制するメカニズムとしては、基油表面にフッ素系界面活性剤が膜を形成し、この膜が大気中への基油の蒸発を低減ないし抑制しているものと推定される。
【0017】
次に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例>
以下に示す成分を適宜混合して表1及び表2に示す潤滑油組成物を調製し、以下に示す試験方法により熱酸化安定性を評価した。結果を表1及び表2に示す。各成分の量は潤滑油組成物全体に対する質量%である。
基油
フェニルエーテル油:40℃の動粘度 103 mm2/s(アルキルジフェニルエーテル油)
エステル油:40℃の動粘度 76.9 mm2/s(ジペンタエリスリトールエステル油)
合成炭化水素油:40℃の動粘度 68 mm2/s(ポリα−オレフィン)
鉱物油:40℃の動粘度 98.9 mm2/s
添加剤
添加剤A:フッ素系ノニオン界面活性剤 パーフルオロアルキル基・親油性基含有オリゴマー(DIC株式会社製 メガファックF-172D)
添加剤B:非フッ素系界面活性剤 ソルビタントリオレート
添加剤C:非フッ素系界面活性剤 ジノニルナフタレンスルホン酸バリウム
添加剤D:アミン系酸化防止剤 アルキルジフェニルアミン
【0018】
<試験方法>
熱酸化安定性試験
高温下での基油の耐蒸発性を評価する試験。
試験手順:100mlガラスビーカーに、試験油50gを精秤し、これを180℃の空気循環型恒温槽に500時間静置後、蒸発減量(質量%)を算出する。「基油の蒸発減量」から「基油に添加剤を添加したものの蒸発減量」を差し引いたものを蒸発抑制量とする。
評価
蒸発抑制量=(基油の蒸発減量)−(基油に添加剤を添加したものの蒸発減量)
5質量%以上:合格(○)
5質量%未満:不合格(×)
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
添加剤A(フッ素系界面活性剤)を添加した本発明の実施例1〜6の潤滑油組成物はいずれも蒸発抑制量が5質量%以上であり、フッ素系界面活性剤を添加していない同種基油の比較例1〜4に対して明らかに蒸発抑制効果が認められた。
また添加剤B(非フッ素系界面活性剤)、添加剤C(非フッ素系界面活性剤)又は添加剤D(アミン系酸化防止剤)を添加した比較例5〜7の潤滑油組成物はいずれも蒸発抑制量が5質量%未満であり、他種の界面活性剤や既存の酸化防止剤では蒸発抑制効果は認められないことがわかる。
以上の結果より、潤滑油組成物中の油分(基油)の蒸発を特定の添加剤(フッ素系界面活性剤)を添加することにより低減ないし抑制できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温環境下で使用される潤滑油組成物であって、フッ素系界面活性剤を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
フッ素系界面活性剤が、
パーフルオロ脂肪族炭化水素基含有エチレン性不飽和単量体(A)と、
ポリオキシアルキレン単位含有エチレン性不飽和単量体(B)、及び/又は(B)以外の非フッ素系アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(C)と
を重合して得られるフッ素系共重合体からなることを特徴とする請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
フッ素系界面活性剤の含有量が、該潤滑油組成物の0.005〜10質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2010−163558(P2010−163558A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7831(P2009−7831)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】