説明

潤滑油組成物

【課題】通常使用されている鉱油系基油あるいはワックス異性化系基油を使用した潤滑油より、はるかに高い基油粘度と粘度指数を両立させ、同等の極圧性を保持する潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)100℃の動粘度が2mm/s以上15mm/s以下であるシリコーンオイルおよび(B)100℃の動粘度が2.5mm/s以上5mm/s以下である鉱油系及び/又はワックス異性化系基油を含み、かつ互いに溶解してなる、100℃の動粘度が3mm/s以上である基油を含有することを特徴とする潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンオイルを含有し、従来の鉱油系あるいはワックス異性化系潤滑油より、はるかに高い基油粘度と粘度指数を両立させ、かつ鉱油系あるいはワックス異性化系と同等の極圧性を保持する潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油による機械装置の消費エネルギーの低減は、潤滑油の低粘度化による潤滑粘性抵抗の低減と、摺動面間の接触が始まる程度に潤滑油部位の油膜が薄くなった場合の、接触抵抗を低減させる摩擦調整剤の添加によってなされている。本発明の技術は、前者の潤滑粘性抵抗の低減に極めて有効なものである。
【0003】
潤滑油を使用する機械装置の潤滑は、通常流体潤滑、すなわち摺動部に油膜が介在している条件下で行われている。この流体潤滑を確保するためにはその使用負荷条件で油膜が形成されるのに必要な粘度が必須である。機械装置は一般にいろいろな条件で使用されるため、例えば自動車の場合、−30℃の極地から熱帯の50℃を越える条件下で、しかも過酷な運転条件、たとえば油温が160℃を超える条件でも正常に稼動する必要がある。
【0004】
このため、潤滑油の粘度はもっと過酷な条件で必要となる粘度を最低の粘度が要求される。ところが通常の使用条件は、自動車のエンジン油や変速機油の油温は70℃から90℃程度である。潤滑油は温度が下がると粘度が上がるため、160℃で必要な粘度で設計された潤滑油の粘度よりはるかに高い粘度であり、その分、粘性抵抗として無駄なエネルギー消費の原因となっている。
【0005】
この無駄なエネルギー消費を低減するためには温度が低くなっても粘度が高くなりにくい潤滑油が必要となる。この温度と粘度の関係を示すのが粘度指数であり、この指数が高いほど低温時の粘度上昇が小さくなるため、粘度指数の高い潤滑油が消費エネルギーを低減する潤滑油となる。
粘度指数を高くするには、粘度指数の高い基油を使用する方法と、基油に粘度指数向上剤と呼ばれる高分子量のものを溶解させる方法がある。基油として最も一般的な炭化水素系のものでは、粘度指数の高い基油として、通常150程度が限界である。これ以上高くなると、ワックス分が多く、低温では固体となるため、実用上使用できない。
【0006】
これに対して、合成油には様々なものがあるが、最も高い粘度指数を示すものにシリコーンオイルがある。しかしシリコーンオイルは炭化水素系の基油に比べて、耐摩耗性や耐焼付き性に劣る。このため、単純に炭化水素系基油の代わりに使用することは困難である。また耐摩耗性や耐焼付き性等の欠点を補うため、炭化水素系基油では通常添加剤を使用するが、炭化水素系基油に溶解する添加剤は一般にはシリコーンオイルには溶解しない。これらの理由から、従来の潤滑油へのシリコーン油の使用は、消泡剤としてせいぜい100ppm以下の添加されているのみであり、あとは溶解性が問題とならないグリースへの応用がほとんどであった。
【0007】
このようにシリコーンオイルは通常の潤滑油としてはほとんど使用されてこなかった。シリコーンオイルを炭化水素系のオイルの代わりに使用した例としては、トラクションフルードとしてシリコーンオイルとα−オレフィン重合体やシクロペンタジエン、α−アルキルスチレンの2量体水素化物などとの混合物(特許文献1〜3)や、アクティブサスペンションフルードとして、同様にPAOやエステル、ジアルキルカーボネートとの混合物(特許文献4〜5)が知られている程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願平4−72560号公報
【特許文献2】特開平5−247481号公報
【特許文献3】特開平5−255681号公報
【特許文献4】特開平5−247482号公報
【特許文献5】特開平5−247486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、通常使用されている鉱油系あるいはワックス異性化系基油を使用した潤滑油より、はるかに高い基油粘度と粘度指数を両立させ、同等の極圧性を保持する潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、少なくとも1種類以上のシリコーンオイルを含み、少なくとも1種類以上の鉱油系及び/又はワックス異性化系基油を含有させ、互いに溶解してなる基油の100℃の動粘度を3mm/s以上にすることにより、通常使用されている鉱油系あるいはワックス異性化系基油を使用した潤滑油より、はるかに高い基油粘度と粘度指数を両立させ、かつ、鉱油系あるいはワックス異性化系基油を使用した潤滑油に使用される添加剤を使用可能とすることで、同等の極圧性を保持する潤滑油組成物を提供可能とした。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)100℃の動粘度が2mm/s以上15mm/s以下であるシリコーンオイルおよび(B)100℃の動粘度が2.5mm/s以上5mm/s以下である鉱油系及び/又はワックス異性化系基油を含み、かつ互いに溶解してなる、100℃の動粘度が3mm/s以上である基油を含有することを特徴とする潤滑油組成物にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、通常使用されている鉱油系あるいはワックス異性化系基油を使用した潤滑油に比べ、はるかに高い基油粘度と粘度指数を両立させ、同等の極圧性を保持する潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油は、少なくとも(A)シリコーンオイルおよび(B)鉱油系あるいはワックス異性化系基油を含むものである。
本発明における(A)成分はシリコーンオイルであり、その構造に特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)中、Rは炭素数1〜18の炭化水素基を示し、各々同一でも異なっていてもよい。ここでいう炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を示し、これらはフッ素を含んでいてもよい。Rとしては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、炭素数1又は2のアルキル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0016】
上記シリコーンオイルとしては、具体的には、ジメチルシリコーン、ジメチルシリケート、トリフルオロプロピルメチルシリコーン等が挙げられる。
【0017】
本発明におけるシリコーンオイルとしては、100℃における動粘度が2mm/s以上であり、好ましくは2.5mm/s以上、より好ましくは3mm/s以上、特に好ましくは3.5mm/s以上である。また100℃における動粘度が15mm/s以下であり、好ましくは12mm/s以下、より好ましくは10mm/s以下、特に好ましくは8mm/s以下である。100℃における動粘度が2mm/s未満の場合、高温における蒸発量が多くなりすぎ、オイル消費が多くなるだけではなく、潤滑性に問題が生じる懸念がある。一方、15mm/sより高くなると鉱油系あるいはワックス異性化系基油に溶解しにくくなる。
【0018】
本発明において(A)シリコーンオイルの含有量は、基油組成物全量基準で5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、特に好ましくは20質量%以上である。また50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。(A)成分の含有量が5質量%未満の場合、基油の粘度指数を向上させる効果に乏しく、また、50質量%を超える場合は、鉱油系あるいはワックス異性化系基油に溶解性しにくくなるため好ましくない。
【0019】
本発明における(B)成分の鉱油系基油あるいはワックス異性化系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。なお、これらの基油は単独でも、2種以上任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0020】
好ましい鉱油系潤滑油基油あるいはワックス異性化系基油としては以下の基油を挙げることができる。
(1) パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油;
(2) パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留留
出油(WVGO);
(3) 潤滑油脱ろう工程により得られるワックスおよび/またはGTLプロセス等によ
り製造されるフィッシャートロプシュワックス;
(4) (1)〜(3)の中から選ばれる1種または2種以上の混合油のマイルドハイドロクラ
ッキング処理油(MHC);
(5) (1)〜(4)の中から選ばれる2種以上の油の混合油;
(6) (1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO);
(7) (6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC);
(8) (1)〜(7)の中から選ばれる2種以上の油の混合油などを原料油とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、通常の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる潤滑油。
【0021】
ここでいう通常の精製方法とは特に制限されるものではなく、潤滑油基油製造の際に用いられる精製方法を任意に採用することができる。通常の精製方法としては、例えば、(ア)水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製、(イ)フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製、(ウ)溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう、(エ)酸性白土や活性白土などによる白土精製、(オ)硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)精製などが挙げられる。本発明ではこれらの1つまたは2つ以上を任意の組み合わせおよび任意の順序で採用することができる。
【0022】
本発明で用いる鉱油系潤滑油基油あるいはワックス異性化系基油としては、上記(1)〜(8)から選ばれる基油をさらに以下の処理を行って得られる基油が特に好ましい。
すなわち、上記(1)〜(8)から選ばれる基油をそのまま、またはこの基油から回収された潤滑油留分を、水素化分解あるいはワックス異性化し、当該生成物をそのまま、もしくはこれから潤滑油留分を回収し、次に溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、その後、溶剤精製処理するか、または、溶剤精製処理した後、溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行って製造される水素化分解鉱油及び/又はワックス異性化イソパラフィン系基油が好ましく用いられる。
【0023】
鉱油系基油の全芳香族分については特に制限はないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を超える場合は、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0024】
また、鉱油系基油中の硫黄分についても特に制限はないが、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0025】
本発明において(B)鉱油系及び/又はワックス異性化系基油の含有量は、基油組成物全量基準で好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、特に好ましくは70質量%以上使用することが望ましい。
【0026】
本発明の潤滑油組成物においては、基油として前記(A)成分および(B)成分に加え、さらに(C)成分として100℃における動粘度が1.5mm/s以上、10mm/s以下であるエステル系基油を配合することが好ましい。
【0027】
ここでいうエステルは有機酸エステルであり、具体的には、以下に示す1価アルコール類又は多価アルコールと1塩基酸又は多塩基酸とのエステル等が例示される。
(a)1価アルコールと1塩基酸とのエステル
(b)多価アルコールと1塩基酸とのエステル
(c)1価アルコールと多塩基酸とのエステル
(d)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(e)1価アルコール及び多価アルコールとの混合物と、多塩基酸との混合エステル
(f)多価アルコールと、1塩基酸及び多塩基酸の混合物との混合エステル
(g)1価アルコール及び多価アルコールとの混合物と、1塩基酸及び多塩基酸の混合物との混合エステル
【0028】
上記1価アルコール又は多価アルコールとしては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜18の炭化水素基を有する1価アルコール又は多価アルコール類が挙げられる。
また、上記1塩基酸又は多塩基酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜18の炭化水素基を有する1塩基酸又は多塩基酸類が挙げられる。
ここでいう炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等の炭化水素基が挙げられる。
【0029】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数4〜20のアルキル基、特に好ましくは炭素数6〜18のアルキル基である。
【0030】
アルケニル基としては、ビニル基、直鎖又は分枝のプロペニル基、直鎖又は分枝のブテニル基、直鎖又は分枝のペンテニル基、直鎖又は分枝のへキセニル基、直鎖又は分枝のヘプテニル基、直鎖又は分枝のオクテニル基、直鎖又は分枝のノネニル基、直鎖又は分枝のデセニル基、直鎖又は分枝のウンデセニル基、直鎖又は分枝のドデセニル基、直鎖又は分枝のトリデセニル基、直鎖又は分枝のテトラデセニル基、直鎖又は分枝のペンタデセニル基、直鎖又は分枝のヘキサデセニル基、直鎖又は分枝のヘプタデセニル基、直鎖又は分枝のオクタデセニル基、直鎖又は分枝のノナデセニル基、直鎖又は分枝のイコセニル基、直鎖又は分枝のヘンイコセニル基、直鎖又は分枝のドコセニル基、直鎖又は分枝のトリコセニル基、直鎖又は分枝のテトラコセニル基等の炭素数2〜30のアルケニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数4〜20のアルケニル基、特に好ましくは炭素数6〜18のアルケニル基である。
【0031】
また、上記1価アルコール類としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール(1−プロパノール、2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール)、ペンタノール(1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール)、ヘキサノール(1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,2−ジメチルブタノール)、ヘプタノール(1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−メチル−1−ヘキサノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−メチル−3−ヘキサノール、5−メチル−2−ヘキサノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、4,4−ジメチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ヘキサノール、4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、2−エチルペンタノール)、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−メチル−3−ヘプタノール、6−メチル−2−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキサノール、2−メチル−1−ヘプタノール、2,2−ジメチル−1−ヘキサノール)、ノナノール(1−ノナノール、2−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、5−メチルオクタノール等)、デカノール(1−デカノール、2−デカノール、4−デカノール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、2,4,6−トリメチルヘプタノール等)、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール等)、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、トリコサノール、テトラコサノール等の炭素数1〜30の1価アルキルアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良い。);エテノール、プロペノール、ブテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、オクタデセノール(オレイルアルコール等)等炭素数2〜40の1価アルケニルアルコール類(これらアルケニル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、二重結合の位置も任意である。)等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0032】
上記多価アルコール類としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ヘプタデカンジオール、1.16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−イコサデカンジオール等の炭素数2〜30の2価のアルキル又はアルケニルジオール類(これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルケニル基の二重結合の位置は任意であり、ヒドロキシル基の置換位置も任意である。);グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等のトリメチロールアルカン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等、及びこれらの重合体又は縮合物(例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のグリセリンの2〜8量体等、ジトリメチロールプロパン等のトリメチロールプロパンの2〜8量体等、ジペンタエリスリトール等のペンタエリスリトールの2〜4量体等、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等の縮合化合物(分子内縮合化合物、分子間縮合化合物又は自己縮合化合物))等が挙げられる。
【0033】
また、上記アルコール類は、炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルキレンオキサイドあるいはその重合体又は共重合体を付加させ、アルコール類のヒドロキシル基をハイドロカルビルエーテル化又はハイドロカルビルエステル化したものを用いても良い。炭素数2〜6のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン(α−ブチレンオキサイド)、2,3−エポキシブタン(β−ブチレンオキサイド)、1,2−エポキシ−1−メチルプロパン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。これらの中では、低摩擦性に優れる点から、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドがより好ましい。なお、2種以上のアルキレンオキサイドを用いた場合には、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよい。また、ヒドロキシル基を2〜6個有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加させる際、全てのヒドロキシル基に付加させてもよいし、一部のヒドロキシル基のみに付加させてもよい。
【0034】
また、上記1塩基酸としては、メタン酸、エタン酸(酢酸)、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸、イソ酪酸等)、ペンタン酸(吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸等)、ヘキサン酸(カプロン酸等)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸等)、ノナン酸(ペラルゴン酸等)、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸等)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸等)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸等)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸等)、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸等の炭素数1〜30の飽和脂肪族モノカルボン酸(これら飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でも良い。);プロペン酸(アクリル酸等)、プロピン酸(プロピオール酸等)、ブテン酸(メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等)、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸等)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の炭素数1〜30の不飽和脂肪族モノカルボン酸(これら不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。)等が挙げられる。
【0035】
また、上記多塩基酸としては、エタン二酸(シュウ酸)、プロパン二酸(マロン酸等)、ブタン二酸(コハク酸、メチルマロン酸等)、ペンタン二酸(グルタル酸、エチルマロン酸等)、ヘキサン二酸(アジピン酸等)、ヘプタン二酸(ピメリン酸等)、オクタン二酸(スベリン酸等)、ノナン二酸(アゼライン酸等)、デカン二酸(セバシン酸等)、プロペン二酸、ブテン二酸(マレイン酸、フマル酸等)、ペンテン二酸(シトラコン酸、メサコン酸等)、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸等の炭素数2〜30の飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。);プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、ヘプタントリカルボン酸、オクタントリカルボン酸、ノナントリカルボン酸、デカントリカルボン酸等の飽和又は不飽和脂肪族トリカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。);飽和又は不飽和脂肪族テトラカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。)等が挙げられる。
【0036】
本発明における(C)成分のエステル系基油としては、上記規定を満たす1種又は2種以上のエステル系基油を混合して用いることができ、また、混合物が上記規定を満たす限り、上記規定を満たす1種又は2種以上のエステル系基油と上記規定を満たさないエステル系基油を混合して用いても良い。
【0037】
本発明における(C)エステル系基油としては多価アルコールエステル系基油が好ましく、最も好ましいものとしては、炭素数6〜18、好ましくは炭素数12〜18の1価の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(これら脂肪酸は、直鎖状でも分枝状でもよく、二重結合位置は任意である。)と多価脂肪族アルコールとのエステルから選ばれることが特に好ましい。
【0038】
(C)成分のエステル系基油の100℃における動粘度は1.5mm/s以上であり、好ましくは2mm/s以上、より好ましくは2.5mm/s以上、特に好ましくは3mm/s以上である。また100℃における動粘度は10mm/s以下であり、好ましくは8mm/s以下、より好ましくは6mm/s以下、特に好ましくは5mm/s以下である。100℃における動粘度が1.5mm/s未満の場合、高温における蒸発量が多くなりすぎ、オイル消費が多くなるだけではなく、潤滑性に問題が生じる懸念があり、10mm/sより高くなるとシリコーンオイル系基油に溶解しにくくなる。
【0039】
また本発明においては、(C)成分として、前述したエステル系合成油に加え、さらに他の合成油を混合して使用することも可能である。他の合成油としては、具体的には、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等の炭素数2から15までのα−オレフィンの重合物又はその水素化物、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の芳香族系合成油、ポリオキシエーテルやジアルキルエーテル、芳香族系エーテル等のエーテル系合成油、又はこれらの混合物等を例示することができる。これらの中ではエーテル系合成油が特に好ましい。
【0040】
また、本発明において(C)成分の含有量は特に制限はないが、基油全量基準で0〜40質量%の範囲で用いられるが、5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。一方、シール材膨潤性能の観点から、40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましい。
【0041】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油は、100℃における動粘度が3mm/s以上であり、好ましくは3.5mm/s以上、さらに好ましくは4mm/s以上、一方、8mm/s以下が好ましく、さらに好ましくは7mm/s以下、最も好ましくは6.5mm/s以下に調整してなる潤滑油基油であることが好ましい。
基油の粘度は疲労寿命に大きく影響し、高いほうが、基本的に寿命が長くなるが、低温粘度が悪化するため適正な粘度範囲が存在する。
【0042】
本発明の潤滑油組成物の基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくない。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
【0043】
本発明の潤滑油組成物の基油の粘度指数は、優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは120以上であり、より好ましくは150以上であり、更に好ましくは180以上である。粘度指数の上限については特に制限はないが、シリコーンオイルと他の基油との溶解性に限界があり自動的に限界が存在する。
【0044】
本発明の潤滑油組成物は、さらに少なくとも1種類以上の(D)粘度指数向上剤を含むことが好ましい。
粘度指数向上剤としては、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体を、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。
【0045】
本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤(D)成分は、下記一般式(2)で表されるモノマーから誘導される構造単位を実質的に含有するポリ(メタ)アクリレート系添加剤であることが好ましい。
【0046】
【化2】

【0047】
一般式(2)において、Rは水素又はメチル基、好ましくはメチル基、Rは炭素数1から30の炭化水素基を示す。
炭素数1から30の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基等が挙げられる。
【0048】
本発明における(D)成分は、下記一般式(3)や(4)で表されるモノマーから誘導される構造単位を含むこともできる。
【0049】
【化3】

【0050】
一般式(3)において、Rは水素又はメチル基、好ましくはメチル基、Rは炭素数1〜30のアルキレン基、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1の整数を示す。
【0051】
【化4】

【0052】
一般式(4)において、Rは水素又はメチル基、好ましくはメチル基であり、Eは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。
【0053】
およびEで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、およびピラジノ基等が例示できる。
【0054】
およびEの好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0055】
粘度指数向上剤(D)成分は、具体的には、下記(Da)〜(Dd)からなる一般式(2)のモノマーと、必要に応じて使用される一般式(3)および/または(4)で表される(De)極性基含有モノマーとの共重合体である。
(Da)Rが炭素数1〜4のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Db)Rが炭素数5〜10のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Dc)Rが炭素数12〜18のアルキル基である(メタ)アクリレート
(Dd)Rが炭素数20以上のアルキル基である(メタ)アクリレート
(De)極性基含有モノマー
【0056】
本発明においては、(D)成分におけるモノマーの構成比としては、ポリ(メタ)アクリレートを構成するモノマー全量基準で、以下の通りであることが好ましい。
(Da)成分:好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%、
(Db)成分:好ましくは0〜50質量%、より好ましくは0〜20質量%
(Dc)成分:好ましくは10〜60質量%、より好ましくは20〜40質量%、
(Dd)成分:好ましくは1〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%、
(De)成分:好ましくは0〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%、特に好ましくは0〜5質量%
【0057】
特にDe成分を含ませることにより組成物の低温粘度特性と疲労寿命延長効果を両立させることができるばかりか、本発明の目的のひとつである、シリコーンの溶解性を改善することができる。
【0058】
上記ポリ(メタ)アクリレートの製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、モノマー(Da)〜(De)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0059】
本発明における(D)成分としてポリメタクリレート系粘度指数向上剤を使用する場合、重量平均分子量50,000以下のポリ(メタ)クリレートを組成物全量基準で2〜10質量%使用する。
なお、ここでいう重量平均分子量は、ウォーターズ社製150−C ALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0060】
また、本発明において用いられる(D)粘度指数向上剤は、ポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマーの共重合体であることが特に好ましい。
ポリオレフィンからなる高分子モノマーとは、具体的には炭素数2から10のアルケン、例えばエチレン、プロピレン、ノルマルブテン、イソブテンなど、および/または炭素数2から10のアルカジエン、例えばブタジエン、イソプレンなどを重合することによって合成されるものである。
【0061】
この高分子モノマーの数平均分子量は500から50000であり、好ましくは1500から5000である。分子量が500より小さいと、モリブデン化合物の沈降を防ぐ効果が認められない。また分子量が50000を超えると、粘度指数向上効果が小さくなる。
【0062】
(D)粘度指数向上剤におけるポリオレフィンからなる高分子モノマーの量は、共重合体基準で、5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。また30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下である。5質量%未満では粘度指数向上効果が少なく、30質量%を超えると潤滑油組成物の低温粘度特性の上昇が大きく、潤滑油組成物として使用できない。
一方、(メタ)アクリレートモノマーの量は、共重合体基準で、50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。また95質量%以下であり、好ましくは80質量%以下である。50質量%未満では粘度指数向上効果がなく、95質量%を超えるとシリコーンの溶解性に劣る。
【0063】
本発明において用いられる粘度指数向上剤は、少なくともポリオレフィンからなる高分子モノマーと(メタ)アクリレートモノマー、ならびに、これら以外のモノマーを共重合体であることが好ましいが、これらのモノマーの混合物を共重合させ方法については特に制限はなく任意の方法で製造することができる。通常は、重合開始剤の存在下にラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0064】
また、粘度指数向上剤の重量平均分子量は、好ましくは20×10以下、より好ましくは10×10、更に好ましくは5×10以下である。また好ましくは5×10以上、より好ましくは1×10以上、更に好ましくは1.5×10以上である。20×10を超える場合、剪断安定性が悪く、必要な粘度を維持できない。逆に5×10未満の場合は、粘度指数向上効果が小さく、省燃費性能が不足する。
【0065】
本発明の潤滑油組成物における(D)粘度指数向上剤の配合量は、潤滑油組成物の80℃における動粘度が5〜10mm/s、好ましくは6〜9mm/s、かつ、潤滑油組成物の粘度指数が120〜270、好ましくは150〜250、より好ましくは170〜220となるような量であり、より具体的には、その配合量は、潤滑油組成物全量基準で15質量%以下、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下であり、2質量%以上、好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。15質量%を超えると高剪断粘度が高くなりすぎ、2質量%未満で十分な組成物粘度を確保できない。
【0066】
本発明の潤滑油組成物は超音波剪断試験8時間後の80℃での粘度低下率が8%以下であることが好ましい。さらに好ましくは5%以下である。ここでいう超音波剪断試験とはJPI−5S−29−88規定される試験法によるものである。
【0067】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、それぞれ適用される機械装置の運転条件と負荷によって決まる。
一般的な例としては、乗用車用手動変速機、自動変速機やベルト式無段変速機であれば、8mm/s以下であることが好ましく、好ましくは7.5mm/s以下、より好ましくは7.0mm/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは4mm/s以上、より好ましくは4.5mm/s以上、さらに好ましくは5mm/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が4mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、8mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0068】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、220以上であることが好ましく、好ましくは250以上、より好ましくは280以上、さらに好ましくは310以上である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が220未満の場合には、本発明の目的である、従来の潤滑油組成物の省燃費性を向上させることが困難となるおそれがある。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数の上限はないが、基油の粘度指数と粘度指数向上剤の分子量、添加量、さらに組成物としての粘度の上限から限界がある。
【0069】
本発明の潤滑油組成物には、その性能をさらに向上させる目的で、又は潤滑油組成物に必要な性能を付与するために、必要に応じて、極圧剤、分散剤、金属系清浄剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。
【0070】
極圧剤としては、亜リン酸、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のリン系極圧剤、硫化油脂類、硫化オレフィン類、ジヒドロカルビルポリスルフィド類、ジチオカーバメート類、チアジアゾール類、及びベンゾチアゾール類から選ばれる少なくとも1種の硫黄系極圧剤、及び/又は、チオ亜リン酸、チオ亜リン酸モノエステル類、チオ亜リン酸ジエステル類、チオ亜リン酸トリエステル類、ジチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸モノエステル類、ジチオ亜リン酸ジエステル類、ジチオ亜リン酸トリエステル類、トリチオ亜リン酸、トリチオ亜リン酸モノエステル類、トリチオ亜リン酸ジエステル類、トリチオ亜リン酸トリエステル類、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種のリン−硫黄系極圧剤からなる極圧剤を配合するのが好ましい。
【0071】
分散剤としては、炭素数40〜400の炭化水素基を有する、コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン、及び/又はそのホウ素化合物誘導体等の無灰分散剤を配合することができる。
本発明においては、上記分散剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01〜15質量%、好ましくは0.1〜8質量%である。
【0072】
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート等の金属系清浄剤が挙げられる。
本発明においては、上記金属系清浄剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0073】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、イミド化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が好ましく用いられる。
本発明においては、上記摩擦調整剤の中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、組成物全量基準で0.01〜5.0質量%、好ましくは0.03〜3.0質量%である。
【0074】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物やアミン系化合物等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。
具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4,4−ビスフェノール(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛等のジアルキルジチオリン酸亜鉛類、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)あるいは(3−メチル−5−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタノール、オクタデカノール、1,6−ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が挙げられる。
これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物は、任意の量を含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%であるのが望ましい。
【0075】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0076】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0077】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0078】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0079】
流動点降下剤としては、潤滑油基油に応じて公知の流動点降下剤を任意に選択することができるが、重量平均分子量が好ましくは20,000〜500,000、より好ましくは50,000〜300,000、特に好ましくは80,000〜200,000のポリ(メタ)クリレートが好ましい。
【0080】
消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で配合することができる。
【0081】
シール膨潤剤としては、潤滑油用のシール膨潤剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、エステル系、硫黄系、芳香族系等のシール膨潤剤が挙げられる。
【0082】
着色剤としては、通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、また任意の量を配合することができるが、通常その配合量は、組成物全量基準で0.001〜1.0質量%である。
【0083】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、流動点降下剤、金属不活性化剤では0.005〜2質量%、シール膨潤剤では0.01〜5質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0085】
(実施例1〜15、比較例1〜9)
表1に示す組成に従い、本発明に係る変速機用としての潤滑油組成物(実施例1〜15)を調製し、相溶性試験を評価し、その結果も表1に示した。
また、表1に示す組成に従い、比較のための変速機用潤滑油組成物(比較例1〜9)を調製し、これらの組成物についても同様の相溶性試験を行い、その結果も表1に示した。
【0086】
(実施例16〜17、比較例10〜11)
表2に示す組成に従い、本発明に係る自動変速機用としての潤滑油組成物(実施例16〜17)を調製し、性能を評価し、その結果も表2に示した。
また、表2に示す組成に従い、比較のための自動変速機用潤滑油組成物(比較例10〜11)を調製し、これらの組成物についても同様の性能を評価し、その結果も表2に示した。
【0087】
(実施例18、比較例12〜13)
表3に示す組成に従い、本発明に係る自動変速機用としての潤滑油組成物(実施例18)を調製し、性能を評価し、その結果も表3に示した。
また、表3に示す組成に従い、比較のための自動変速機用潤滑油組成物(比較例12〜13)を調製し、これらの組成物についても同様の性能を評価し、その結果も表3に示した。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の潤滑油組成物は、従来品からさらに潤滑にかかる抵抗を低減できるため、例えば自動車用手動変速機用、自動変速機用、ベルト式無段変速機用又は手動変速機用あるいは自動車用終減速機用として使用することで自動車の燃費の向上に寄与することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃の動粘度が2mm/s以上15mm/s以下であるシリコーンオイルおよび(B)100℃の動粘度が2.5mm/s以上5mm/s以下である鉱油系及び/又はワックス異性化系基油を含み、かつ互いに溶解してなる、100℃の動粘度が3mm/s以上である基油を含有することを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項2】
基油がさらに(C)100℃の動粘度が1.5mm/s以上10mm/s以下であるエステル系合成油、あるいはさらにエーテル系合成油を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(A)シリコーンオイル、(B)鉱油系及び/又はワックス異性化系基油および(C)エステル系合成油の含有量が、基油全量基準で、それぞれ5〜50質量%、30〜95質量%および0〜40質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
(D)粘度指数向上剤を含み、粘度指数が250以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
ギヤを使用した変速装置用に使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−207082(P2012−207082A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72463(P2011−72463)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】