説明

潤滑状態評価装置、潤滑状態評価方法、プログラム及び記録媒体

【課題】大型設備等における潤滑対象部の潤滑状態を正確に評価することができる潤滑状態評価装装置を提供する。
【解決手段】潤滑対象部の潤滑状態を評価する潤滑状態評価装置であって、粒子数測定器3で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータLpを算出する第1パラメータ算出手段(ステップS2)と、予め試験により得られた、前記第1評価パラメータLpと摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータ(摩擦係数μ、比摩耗量Ws)との相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータLpに対応する第2評価パラメータを算出する第2パラメータ算出手段(ステップS3)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑状態評価装置、潤滑状態評価方法、プログラム及び記録媒体に関し、さらに詳しくは、大型設備等における潤滑対象部の潤滑状態を正確に評価することができる潤滑状態評価装置、潤滑状態評価方法、プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の潤滑状態評価方法として、自動車のエンジンオイルに含まれるスーツ(カーボン粒子)の粒子数の検出により粒径分布を算出し、この粒径分布からエンジンオイルの劣化状態、及びエンジンの摩耗状態を評価するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、発電機等の大型設備では、潤滑油が供給される潤滑対象部(例えば、軸受部、ギヤ部等)が多数あり、これら潤滑対象部毎で良好な潤滑状態であると考えられる粒径分布はそれぞれ異なっている。従って、この大型設備に上記従来の潤滑状態評価方法を適用しても、潤滑油の汚染度の管理は行えるが、粒径分布のみからでは各潤滑対象部の摩耗状態を正確に評価することが困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−19788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上より本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、大型設備等における潤滑対象部の潤滑状態を正確に評価することができる潤滑状態評価装置、潤滑状態評価方法、プログラム及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、摩擦現象で発生する摩耗粒子の数は、摩耗の程度を示す代表的なパラメータである「比摩耗量」や摩擦状態を示す代表的なパラメータである「摩擦係数」との間に一定の関係があることを知見し、これに基づいて、潤滑油中の摩耗粒子数の時間変化率を示す潤滑状態評価パラメータLpと上記「比摩耗量」及び/又は「摩擦係数」との間に一定の相関関係が見られ、この相関関係を利用すれば潤滑状態を正確に評価できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、以下の通りである。
1.潤滑対象部の潤滑状態を評価する潤滑状態評価装置であって、
粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータ(Lp)を算出する第1パラメータ算出手段と、
予め試験により得られた、前記第1評価パラメータ(Lp)と摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータ(Lp)に対応する第2評価パラメータを算出する第2パラメータ算出手段と、を備えることを特徴とする潤滑状態評価装置。
2.前記第2パラメータ算出手段で算出された第2評価パラメータに基づいて潤滑状態を診断する潤滑状態診断手段を更に備える上記1.記載の潤滑状態評価装置。
3.前記第1パラメータ算出手段は、複数の粒径範囲毎の粒子数の時間変化率を示す複数の第1評価パラメータ(Lp)を算出し、前記第2パラメータ算出手段は、前記相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された複数の第1評価パラメータ(Lp)のそれぞれに対応する複数の第2評価パラメータを算出する上記1.又は2.に記載の潤滑状態評価装置。
4.前記第1評価パラメータ(Lp)は、潤滑対象部の単位摺動距離当たりの粒子数を示す値である上記1.乃至3.のいずれか一項に記載の潤滑状態評価装置。
5.前記第2評価パラメータは、摩擦係数及び/又は比摩耗量である上記1.乃至4.のいずれか一項に記載の潤滑状態評価装置。
6.潤滑対象部の潤滑状態を評価する潤滑状態評価方法であって、
粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータ(Lp)を算出する工程と、
予め試験により得られた、前記第1評価パラメータ(Lp)と摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータ(Lp)に対応する第2評価パラメータを算出する工程と、を備えることを特徴とする潤滑状態評価方法。
7.潤滑対象部の潤滑状態を評価するためのプログラムであって、
コンピュータに、
粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータ(Lp)を算出する手順と、
予め試験により得られた、前記第1評価パラメータ(Lp)と摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータ(Lp)に対応する第2評価パラメータを算出する手順と、を実行させるためのプログラム。
8.上記7.記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の潤滑状態評価装置によると、第1パラメータ算出手段によって、粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータが算出され、第2パラメータ算出手段によって、予め試験により得られた、第1評価パラメータと摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータに対応する第2評価パラメータが算出される。その結果、この第2評価パラメータを用いて、大型設備等における潤滑対象部の潤滑状態を正確に評価できる。特に、潤滑油のサンプリング周期を短周期(例えば、数分オーダー等)にすれば、潤滑対象部の潤滑状態をより短時間で評価できる。
また、潤滑状態診断手段を更に備える場合は、第2評価パラメータに基づいて潤滑状態を自動診断できる。
また、前記第1パラメータ算出手段が、複数の第1評価パラメータを算出し、前記第2パラメータ算出手段が、複数の第2評価パラメータを算出する場合は、複数の第2評価パラメータを用いて、比較的大径な粒子が多く発生する場合と比較的小径な粒子が多く発生する場合とを識別でき、潤滑状態を更に正確に評価できる。
また、前記第1評価パラメータが、潤滑対象部の単位摺動距離当たりの粒子数を示す値である場合は、潤滑状態をより正確に評価できる。
また、前記第2評価パラメータが、比摩耗量及び/又は摩擦係数である場合は、より一般的な評価パラメータを用いて潤滑状態を評価できる。
【0008】
本発明の潤滑状態評価方法によると、第1パラメータ算出手段によって、粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータが算出され、第2パラメータ算出手段によって、予め試験により得られた、第1評価パラメータと摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータに対応する第2評価パラメータが算出される。その結果、この第2評価パラメータを用いて、大型設備等における潤滑対象部の潤滑状態を正確に評価できる。
本発明のプログラムによると、コンピュータに、粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータを算出する手順と、予め試験により得られた、第1評価パラメータと摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、第1パラメータ算出手順で算出された第1評価パラメータに対応する第2評価パラメータを算出する手順を実行させることができる。そして、この第2評価パラメータを用いて、大型設備等における潤滑対象部の潤滑状態を正確に評価できる。
本発明のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体によると、上述のプログラムを記録した記憶媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
1.潤滑状態評価装置
本実施形態1.に係る潤滑状態評価装置は、以下に述べる第1パラメータ算出手段及び第2パラメータ算出手段を備える。
上記潤滑状態評価装置は、例えば、後述するパラメータ表示手段及び潤滑状態診断手段のうちの少なくとも1種を更に備えることができる。
【0010】
尚、上記「潤滑対象部」としては、例えば、すべり軸受部、転がり軸受部、ギヤ部、摺動部等を挙げることができる。上記摺動部は、例えば、変圧器における接点切換機構の摺動部であることができる。また、上記潤滑対象部を備える設備としては、例えば、各種発電機、変圧器、工作機械等の固定設備、車両、航空機、船舶等の移動設備などを挙げることができる。
上記「潤滑油」としては、例えば、石油系潤滑油であるスピンドル油、マシン油、ダイナモ油、タービン油等を挙げることができる。
上記「粒子」としては、例えば、潤滑対象部で生じる摩耗粒子、潤滑対象部の外部から侵入する粒子等を挙げることができる。
【0011】
上記「第1パラメータ算出手段」は、粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータを算出する手段である限り、その算出形態、タイミング等は特に問わない。
尚、上記「粒子数測定器」は、潤滑油中の粒子数を測定する限り、その測定形態、タイミング等は特に問わない。この粒子数測定器の測定形態としては、例えば、光散乱式、光遮断式、電気抵抗式等のうちの1種又は2種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0012】
上記「第1評価パラメータLp」は、例えば、潤滑対象部の単位摺動距離当たりの粒子数を示す値であることができる。具体的には、下式により求めることができる。
Lp=Pc/(k・L)
ここで、Pcは、上記粒子数測定器で測定される粒子数(個/100ml)である。また、kは、潤滑対象部の摺動面積等に応じて決まる補正係数(例えば、0.15等)である。また、Lは、潤滑対象部の摺動面積及び摺動時間から求まる摺動距離(m)である。
【0013】
上記「第2パラメータ算出手段」は、予め試験により得られた特定の相関関係に基づいて、上記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータに対応する第2評価パラメータを算出する手段である限り、その算出形態、タイミング等は特に問わない。
【0014】
上記「相関関係」は、上記第1評価パラメータと摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの関係である限り、その取得形態等は特に問わない。
上記相関関係は、例えば、すべり摩擦試験により求めることができる。具体的には、すべり摩擦試験にて、一対の試験片を、所定の荷重で接触させつつ所定のすべり速度で相対的にすべらせ、その際に、上記粒子数測定器で潤滑油中の粒子数及びすべり距離を測定すると共に、第2評価パラメータ(例えば、摩擦係数、比摩耗量等)を測定し、これを油膜厚さの異なる複数の潤滑油を用いて繰り返し行う。そして、測定された粒子数及びすべり距離から上記第1評価パラメータLpを求め、この第1評価パラメータLpと第2評価パラメータとから上記相関関係が作成される。
【0015】
上記「第2評価パラメータ」は、摩耗及び/又は摩擦の状態を示す値である限り、その種類、個数等は特に問わない。
上記第2評価パラメータとしては、例えば、比摩耗量Ws、摩擦係数μ等を挙げることができる。
【0016】
上記「パラメータ表示手段」は、上記第2パラメータ算出手段で算出された第2評価パラメータを表示する手段である限り、その表示形態、タイミング等は特に問わない。
上記パラメータ表示手段としては、例えば、表示モニタ、プリンタ等を挙げることができる。
【0017】
上記「潤滑状態診断手段」は、上記第2パラメータ算出手段で算出された第2評価パラメータに基づいて潤滑状態を診断する手段である限り、その診断形態、タイミング等は特に問わない。
上記潤滑状態の診断形態としては、例えば、上記第2評価パラメータに基づいて、潤滑対象部の摩耗形態、その発生原因、摩耗対策、その実施時期等のうちの1種又は2種以上を推定する形態を挙げることができる。上記摩耗形態としては、例えば、凝着摩耗、アブレッシブ摩耗(切削摩耗)、疲労摩耗等を挙げることができる。また、上記発生原因としては、例えば、凝着摩耗を発生させる油膜切れ、アブレッシブ摩耗を発生させる外部混入異物や摩耗粒子、疲労摩耗を発生させる振動や過負荷等を挙げることができる。また、上記摩耗対策としては、例えば、潤滑油濾過、添加剤投入、更油、運転停止、オーバーホール、部品交換等を挙げることができる。
【0018】
ここで、例えば、上記第1パラメータ算出手段は、上記粒子数測定器で測定された複数の粒径範囲毎の粒子数の時間変化率を示す複数の第1評価パラメータを算出し、上記第2パラメータ算出手段は、上記相関関係に基づいて、上記第1パラメータ算出手段で算出された複数の第1評価パラメータのそれぞれに対応する複数の第2評価パラメータを算出することができる。この場合、例えば、複数の第2評価パラメータのうちの一番厳しい値に基づいて潤滑状態を評価することができる。
【0019】
2.潤滑状態評価方法
本実施形態2.に係る潤滑状態評価方法は、以下に述べる第1パラメータ算出工程及び第2パラメータ算出工程を備える。
上記潤滑状態評価方法は、例えば、後述するパラメータ表示工程及び潤滑状態診断工程のうちの少なくとも1種を更に備えることができる。
上記潤滑状態評価方法は、例えば、上述の実施形態1.で説明した潤滑状態評価装置を用いる評価方法であることができる。
【0020】
上記「第1パラメータ算出工程」は、粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータを算出する工程である限り、その算出形態、タイミング等は特に問わない。
上記「第2パラメータ算出工程」は、予め試験により得られた特定の相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータに対応する第2評価パラメータを算出する工程である限り、その算出形態、タイミング等は特に問わない。
上記「パラメータ表示工程」は、上記第2パラメータ算出工程で算出された第2評価パラメータを表示する工程である限り、その表示形態、タイミング等は特に問わない。
上記「潤滑状態診断工程」は、上記第2パラメータ算出工程で算出された第2評価パラメータに基づいて潤滑状態を診断する工程である限り、その診断形態、タイミング等は特に問わない。
なお、上記第1パラメータ算出工程、第2パラメータ算出工程、パラメータ表示工程、潤滑状態診断工程、及びこれらに係わる構成としては、例えば、上記実施形態1.で説明した第1パラメータ算出手段、第2パラメータ算出手段、パラメータ表示手段、潤滑状態診断手段、及びこれらに係わる構成をそのまま適用することができる。
【0021】
3.プログラム
本実施形態3.に係るプログラムは、コンピュータに、以下に述べる第1パラメータ算出手順及び第2パラメータ算出手順を実行させるためのものである限り、その構成、取得形態等は特に問わない。
上記プログラムは、例えば、コンピュータに、後述するパラメータ表示手順及び潤滑状態診断手順を更に実行させるためのものであることができる。
【0022】
上記第1パラメータ算出手順、第2パラメータ算出手順、パラメータ表示手順、潤滑状態診断手順、及びこれらに係わる構成としては、例えば、上記実施形態2.で説明した第1パラメータ算出工程、第2パラメータ算出工程、パラメータ表示工程、潤滑状態診断工程、及びこれらに係わる構成をそのまま適用することができる。
【0023】
4.プログラム
本実施形態4.に係るコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、上記実施形態3.のプログラムを記録してなる限り、その構成、取得形態等は特に問わない。
【実施例】
【0024】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。
(1)潤滑状態評価装置の構成
本実施例に係る潤滑状態評価装置1は、図1に示すように、複数の発電機A,Bの各潤滑対象部a1,a2,b1,b2(例えば、軸受部、ギヤ部等)に連絡される粒子数測定器3と、この粒子数測定器3にネットワークNを介して接続されるコンピュータ2とを備えている。
【0025】
上記コンピュータ2は、図2に示すように、各粒子数測定器3から複数の粒径範囲毎の粒子数情報が入力されると(ステップS1参照)、それらの粒子数情報に基づいて、単位すべり距離当たりの発生粒子数を示す潤滑状態評価パラメータLp(本発明に係る「第1評価パラメータ」として例示する。)を算出する(ステップS2参照)。そして、後述する相関関係に基づいて、この潤滑状態評価パラメータLpに対応する摩擦係数μ及び比摩耗量Ws(本発明に係る「第2評価パラメータ」として例示する。)を算出する(ステップS3参照)。その後、その算出された摩擦係数μと予め記憶された設定値(例えば、0.8)とを比較すると共に、その算出された比摩耗量Wsと予め記憶された設定値(例えば、10の6乗)とを比較する(ステップS4参照)。その結果、摩擦係数μ及び比摩耗量Wsが各設定値を超えた場合に異常であると判定し(ステップS5のYES判定参照)、発電機又は潤滑対象部に運転停止信号を出力する(ステップS6参照)。
【0026】
ここで、上記実施例のステップS2等によって、本発明に係る「第1パラメータ算出手段」が構成されていると言える。また、上記実施例のステップS3等によって、本発明に係る「第2パラメータ算出手段」が構成されていると言える。さらに、上記実施例のステップS4及びS5等によって、本発明に係る「潤滑状態診断手段」が構成されていると言える。
【0027】
(2)相関関係の作成方法
次に、上記潤滑状態評価装置1で用いられる第1及び第2相関関係Q1,Q2の作成方法について説明する。
上記相関関係Q1,Q2は、すべり摩擦試験により求められる。このすべり摩擦試験では、所定の表面粗さ(例えば、Ra:0.2μm)のブロック試験片と所定の表面粗さ(例えば、Ra:0.5±0.2μm)のディスク試験片とを、所定の荷重(例えば、400N)で接触させつつ所定のすべり速度(例えば、3m/s)で相対的にすべらせる。その際に、平均摩擦係数μ及び比摩耗量Ws等が測定される(図3参照)。また、上記粒子数測定器3で潤滑油中の複数の粒径範囲(例えば、5〜15μm、15〜25μm、25〜50μm等)の粒子数が測定される(図4参照)。
【0028】
上記すべり摩擦試験を、油膜厚さの異なる潤滑油(例えば、油供給量4.2L)で繰り返し行って、図5に示すように、試験番号1〜7における各摩擦係数μ、比摩耗量Ws(mm3/Nm)、すべり距離L(m)、及び発生粒子数Pc(個/100ml)が測定された。これらの測定結果によって潤滑状態評価パラメータLp{Lp=Pc/(k・L)}が求められる。そして、図6に示すように、縦軸に摩擦係数μをとり、横軸に潤滑状態評価パラメータLpをとると第1相関関係Q1(検量線)が作成される。また、図7に示すように、縦軸に比摩耗量wsをとり、横軸に潤滑状態評価パラメータLpをとると第2相関関係Q2(検量線)が作成される。これら第1及び第2相関関係Q1,Q2は、発生粒子数の複数の粒径範囲毎に応じて複数作成される。
【0029】
なお、上記kは、潤滑対象部の摺動面積等に応じて決まる補正係数(例えば、0.15等)である。また、上記すべり摩擦試験1〜4は混合潤滑の初期状態であり、上記すべり摩擦試験5は混合潤滑の中期状態であり、上記すべり摩擦試験6は混合潤滑の後期状態であり、上記すべり摩擦試験7は境界潤滑の状態である。また、実際の潤滑対象部a1,a2,b1,b2おいても、粒子数測定器3で潤滑油中の所定の粒径範囲毎の発生粒子数が測定される。そして、各潤滑対象部a1,a2,b1,b2の摺動面積及び摺動時間から摺動距離が求まり、上記潤滑状態評価パラメータLpが算出されることとなる。
【0030】
(2)潤滑状態評価装置の作用
次に、上記潤滑状態評価装置1の作用について説明する。
先ず、各粒子数測定器3から複数の粒径範囲毎の粒子数情報が入力されると(図2のステップS1参照)、その粒子数情報に基づいて複数の粒径範囲毎に対応した複数の潤滑状態評価パラメータLpが算出される(ステップS2参照)。そして、第1相関関係Q1に基づいて、その算出された複数の潤滑状態評価パラメータLpに対応する複数の摩擦係数μが算出されると共に、第2相関関係Q2に基づいて、その算出された複数の潤滑状態評価パラメータLpに対応する複数の比摩耗量Wsが算出される(ステップS3参照)。その後、その算出された複数の摩擦係数μ及び比摩耗量Wsのうち厳しい値と各設定値とが比較される(ステップS4参照)。その結果、摩擦係数μ及び比摩耗量Wsの両値が各設定値を超えた場合に異常であると判定され(ステップS5参照)、発電機又は潤滑対象部に運転停止信号が出力される(ステップS6参照)。
【0031】
(3)実施例の効果
本実施例の潤滑状態評価装置1では、潤滑対象部の単位摺動距離当たりの発生粒子数を示す潤滑状態評価パラメータLpを算出し、予め試験により得られた第1及び第2の相関関係Q1,Q2に基づいて、潤滑状態評価パラメータLpに対応する摩擦係数μ及び比摩耗量Wsを算出し、この摩耗係数μ及び比摩耗量Wsと各設定値とを比較して潤滑対象部a1,a2,b1,b2の異常を自動診断するようにしたので、摩擦の程度を示す代表的なパラメータである摩擦係数μ、及び摩耗の程度を示す代表的なパラメータである比摩耗量Wsを用いて、大型設備等における潤滑対象部a1,a2,b1,b2の潤滑状態を正確に評価できる。特に、潤滑油のサンプリング周期を短周期(例えば、数分オーダー等)にすれば、潤滑対象部a1,a2,b1,b2の潤滑状態をより短時間で評価できる。
また、本実施例では、発生粒子の異なる粒径範囲毎に応じて複数の摩擦係数μ及び比摩耗量Wsに基づいて潤滑状態を診断するようにしたので、比較的大径な粒子が多く発生する場合と比較的小径な粒子が多く発生する場合とを識別でき潤滑状態を更に正確に評価できる。
【0032】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、上記実施例では、摩擦係数μ及び比摩耗量Wsを用いて潤滑状態を診断するようにしたが、これに限定されず、例えば、摩擦係数μ及び比摩耗量Wsのうちの一方を用いて潤滑状態を診断したり、摩擦係数μ及び比摩耗量Esに加えて他の評価パラメータを用いて潤滑状態を診断したりできる。
また、摩擦係数μ及び/又は比摩耗量Wsに準ずる評価パラメータ(例えば、摩耗率、摩耗速度等)を用いて潤滑状態を診断するようにしてもよい。
また、摩擦係数μ及び/又は比摩耗量Wsに基づいて他の評価パラメータ(例えば、潤滑対象部の摩耗深さ等)を求め、その他の評価パラメータから潤滑状態を診断するようにしてもよい。
【0033】
また、上記実施例では、摩擦係数μ及び比摩耗量Wsと各設定値とを比較判定して潤滑状態を自動診断するようにしたが、これに限定されず、例えば、コンピュータ2で算出された摩擦係数μ及び比摩耗量Wsを表示モニタ2aやプリンタに出力し、その出力表示された摩擦係数μ及び比摩耗量Wsに基づいて作業者が潤滑状態を診断するようにしてもよい。
【0034】
また、上記実施例では、各発電機や潤滑対象部の運転停止時期を診断するようにしたが、これに限定されず、例えば、潤滑油濾過、添加剤投入、更油、運転停止、オーバーホール、部品交換等のうちの1種又は2種以上の組み合わせの異常対策を診断するようにしてもよい。
また、上記実施例において、各発電機に対して管理センタが遠隔地にある場合には、粒子数測定器の測定結果や運転停止信号等をインターネットを介して送受信するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
潤滑対象部の潤滑状態を評価する技術として広く利用される。特に、大型設備の潤滑状態を評価する技術として好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施例に係る潤滑状態評価装置の全体構成を説明するための説明図である。
【図2】コンピュータの制御処理を説明するためのフローチャート図である。
【図3】すべり摩擦試験を説明するための説明図である。
【図4】すべり摩擦試験を説明するための説明図である。
【図5】すべり摩擦試験を説明するための説明図である。
【図6】潤滑状態評価パラメータと摩擦係数との相関関係を説明するための説明図である。
【図7】潤滑状態評価パラメータと比摩耗量との相関関係を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1;潤滑状態評価装置、3;粒子数測定器、a1,a2,b1,b2;潤滑対象部、Lp;第1評価パラメータ、μ;摩擦係数、Ws;比摩耗量、Q1,Q2;第1及び第2相関関係。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑対象部の潤滑状態を評価する潤滑状態評価装置であって、
粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータ(Lp)を算出する第1パラメータ算出手段と、
予め試験により得られた、前記第1評価パラメータ(Lp)と摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータ(Lp)に対応する第2評価パラメータを算出する第2パラメータ算出手段と、を備えることを特徴とする潤滑状態評価装置。
【請求項2】
前記第2パラメータ算出手段で算出された第2評価パラメータに基づいて潤滑状態を診断する潤滑状態診断手段を更に備える請求項1記載の潤滑状態評価装置。
【請求項3】
前記第1パラメータ算出手段は、複数の粒径範囲毎の粒子数の時間変化率を示す複数の第1評価パラメータ(Lp)を算出し、前記第2パラメータ算出手段は、前記相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された複数の第1評価パラメータ(Lp)のそれぞれに対応する複数の第2評価パラメータを算出する請求項1又は2に記載の潤滑状態評価装置。
【請求項4】
前記第1評価パラメータ(Lp)は、潤滑対象部の単位摺動距離当たりの粒子数を示す値である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の潤滑状態評価装置。
【請求項5】
前記第2評価パラメータは、摩擦係数及び/又は比摩耗量である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の潤滑状態評価装置。
【請求項6】
潤滑対象部の潤滑状態を評価する潤滑状態評価方法であって、
粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータ(Lp)を算出する工程と、
予め試験により得られた、前記第1評価パラメータ(Lp)と摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータ(Lp)に対応する第2評価パラメータを算出する工程と、を備えることを特徴とする潤滑状態評価方法。
【請求項7】
潤滑対象部の潤滑状態を評価するためのプログラムであって、
コンピュータに、
粒子数測定器で測定された潤滑油中の粒子数の時間変化率を示す第1評価パラメータ(Lp)を算出する手順と、
予め試験により得られた、前記第1評価パラメータ(Lp)と摩耗及び/又は摩擦の状態を示す第2評価パラメータとの相関関係に基づいて、前記第1パラメータ算出手段で算出された第1評価パラメータ(Lp)に対応する第2評価パラメータを算出する手順と、を実行させるためのプログラム。
【請求項8】
請求項7記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−164294(P2008−164294A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350509(P2006−350509)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(501016995)トライボテックス株式会社 (9)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)