説明

潤滑用ガラス成形材、および熱間押出製管用ビレットの製造方法

【課題】中空ビレットの熱間押広げ穿孔に際し、穿孔力の上昇を抑制できる潤滑用ガラス成形材を提供する。
【解決手段】コンテナ内に挿入された中空ビレットを、プラグを用いて熱間押広げ穿孔する際に、上面潤滑剤として用いられる潤滑用ガラス成形材であって、本体と突起部とからなり、当該潤滑用ガラス成形材を構成するガラスの粘度が1080〜1170℃において1000〜2000poiseであり、当該ガラスが、メッシュ32〜80の粒度の粒子を60質量%以上含有し、残部がメッシュ20〜32の粒度の粒子であり、当該潤滑用ガラス成形材を構成するバインダーの転移点と、当該バインダーの当該ガラス成形材に占める配合比率との組み合わせが、450±10℃に対して5.0〜6.0質量%、475±10℃に対して5.0〜5.5質量%、または500±10℃に対して4.5〜5.0質量%であることを特徴とする潤滑用ガラス成形材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユジーン・セジュルネ製管法において、素材として使用される中空ビレットの熱間押広げ穿孔時に、中空ビレットの上面潤滑剤として用いられる潤滑用ガラス成形材に関する。また、本発明は、この潤滑用ガラス成形材を用いた熱間押出製管用ビレットの製造方法に関する。
【0002】
別に記載がない限り、本明細書における用語の定義は次のとおりである。
「中空ビレット」:熱間押広げ穿孔に供されるビレットをいう。予め機械加工によってガイドホールが形成され、中空形状に加工されたビレットである。
「熱間押出製管用ビレット」:熱間押出製管に供されるビレットをいう。熱間押広げ穿孔が行われた後のビレットである。以下、単に「製管用ビレット」ともいう。
「上面潤滑剤」:中空ビレットの熱間押広げ穿孔時に、中空ビレットの上面に載せた状態で使用に供される潤滑剤である。
「成型性」:潤滑用ガラス成形材の、形状の崩壊しにくさをいう。
【背景技術】
【0003】
ユジーン・セジュルネ製管法では、ビレットを熱間押出製管する際の潤滑剤としてガラスが使用される。ユジーン・セジュルネ製管法は製管性に優れており、中空ビレットを比較的高い加工度で加工することができる。そのため、ユジーン・セジュルネ製管法は、高合金等の難加工材を素材とする継目無管の製造に多用されている。
【0004】
ユジーン・セジュルネ製管法により製造される継目無管の素材として使用されるビレットには、予め機械加工によってガイドホールが形成される。熱間押出製管時には、このガイドホール内に押出プレスのマンドレルが挿入される。
【0005】
ビレットを熱間押出製管する場合には、マンドレルの径に応じたビレットの下孔加工(機械加工)が必要になる。この下孔加工によって作業能率が著しく低下するとともに、歩留まり損失も増加する。通常、ユジーン・セジュルネ製管法では、押出プレス機に供給されるビレットに、予備加工として熱間押広げ穿孔が行われる。
【0006】
図1は、ビレットの予備加工として行われる熱間押広げ穿孔の加工工程を説明する図である。図1(a)はコンテナ内に中空ビレットを装入した状況を示す。図1(b)は中空ビレットを穿孔する過程を示す。図1(c)は穿孔後の中空ビレット(熱間押出製管用ビレット)の状況を示す。
【0007】
図1(a)に示すように、ガイドホール1aが形成された中空ビレット1は、コンテナ2内に、底部がコンテナ2の内面に接する状態で装入される。中空ビレット1は、装入される前に、1100〜1200℃程度に加熱される。
【0008】
装入された中空ビレット1は、図1(b)、(c)に示すように、先端に所定径のエキスパンション用のプラグ3を備えたマンドレル4により穿孔され、ガイドホール1aが押し広げられる。中空ビレット1のガイドホール1aが押し広げられることにより、熱間押出製管用ビレット1bが形成される。熱間押出製管用ビレット1bは、下方向からエジェクタにより突き上げられてコンテナ2から抽出される。抽出された熱間押出製管用ビレット1bは、再加熱され、ユジーン・セジュルネ製管に用いられる。
【0009】
図1に示した熱間押広げ穿孔の加工工程において、中空ビレットが難加工材で構成されている場合は、熱間穿孔により形成された製管用ビレットの外面や内面に、潤滑不良に起因する工具焼き付き、引っかき疵等の欠陥が発生し易い。このような難加工材としては、高Cr−高Niで、合金元素を多く含む高合金や、Tiを含有する合金鋼などが挙げられる。
【0010】
潤滑不良に起因する欠陥の発生を防止するための従来技術としては、下記のものがある。
【0011】
非特許文献1には、ユジーン・セジュルネ製管において、ガラスを潤滑剤として使用する方法が記載されている。例えば、中空ビレットの内孔(ガイドホール)および中空ビレット上面の面取り部に、ガラス粉末やガラス粉末の成形材を潤滑剤として供給する。
【0012】
特許文献1、特許文献2および特許文献3には、ユジーン・セジュルネ製管に供給される中空ビレットの熱間押広げ穿孔において、中空ビレットの外面および内面にガラス潤滑剤を散布することが記載されている。被加工材として、特許文献1では高合金のハステロイC276が、特許文献2では高ニッケル合金が、特許文献3ではSUS304材がそれぞれ使用されている。
【0013】
ガラス潤滑剤の具体的な形状として、例えば、特許文献1の図1(b)に、ボール状のガラス潤滑剤が示されている。このボール状のガラス潤滑剤は中空ビレット上面の面取り部に置かれている。また、同文献の図4(a)には、リング状に成形したガラス潤滑剤(ガラス成形材)が示されている。このリング状のガラス潤滑剤は中空ビレット1の上面に置かれている。なお、ガラス成形材は、ガラス粉末を水ガラスや樹脂などのバインダで成形固化したものである。
【0014】
難加工材の熱間穿孔においては、中空ビレット上面の面取り部へガラス粉末を散布したり、ガラス成形材を載せたりするだけでは、潤滑が十分ではない。特に中空ビレットの内面の潤滑が不十分である。そのため、中空ビレットの上面にリング状に成形したガラス成形材を載せる方法が採用される場合がある(例:上記特許文献1の図4(a)に示されるガラス成形材)。
【0015】
しかし、単にリング状のガラス成形材を中空ビレットの上面に載置するだけでは、穿孔時の振動やプラグの位置ずれ等によって、ガラス成形材の所定の位置からのずれや、ガラスの飛散が発生する。そのため、ガラスによる潤滑が不十分となり、穿孔後の中空ビレットに偏肉が発生することがある。
【0016】
従来は、熱間穿孔する際に、中空ビレットの上面に載置されたガラス成形材の周囲に金属製リングを装着していた(後述の図2(a)参照)。この金属製リングの装着により、ガラス成形材の所定位置からのずれや、ガラスの飛散を防止することができる。
【0017】
しかし、ガラス成形材の周囲に金属製リングを装着する方法には、次の2つの問題がある。
(1)熱間穿孔の前後に金属製リングを着脱する作業は熱間での作業である。そのため、作業者の安全性の確保が容易ではない。
(2)中空ビレットの内面の潤滑は、中空ビレットの上面へガラス潤滑剤を載せるだけでは十分ではない。そのため、熱間穿孔後のビレットの内面に欠陥が発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特許第4218383号公報
【特許文献2】特願2008−116548号
【特許文献3】特許第3671868号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会編「鉄鋼便覧第3版第3巻条鋼・鋼管・圧延設備」丸善(株)、昭和57年1月20日、p.1020〜1021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、中空ビレットの熱間押広げ穿孔に際し、下記(1)〜(4)を満たす潤滑用ガラス成形材を提供することである。
(1)所定の位置に配置しやすいこと。
(2)金属製リングを使用しなくても所定の位置からのずれが発生しにくいこと。
(3)製管用ビレットの内面に発生する欠陥(引っかき疵や焼き付き疵等)を防止できること。
(4)穿孔力の安定した穿孔が可能であること。
本発明の他の目的は、本発明の潤滑用ガラス成形材を用いた熱間押出製管用ビレットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の要旨は次のとおりである:
【0022】
(I)コンテナ内に挿入された中空ビレットを、プラグを用いて熱間押広げ穿孔する際に、中空ビレットの上面潤滑剤として用いられる潤滑用ガラス成形材であって、
当該潤滑用ガラス成形材は本体と突起部とからなり、
当該本体は、中心にプラグを挿入するための円形の開口部を備えた円形平板状をなし、
当該突起部は、当該本体の開口部に取り付けられ、当該本体に対して垂直に、かつリング状に突出した形状をなし、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するガラスの粘度が1080℃〜1170℃において1000〜2000poiseであり、
当該ガラスが、メッシュ32〜80の粒度の粒子を60質量%以上含有し、残部がメッシュ20〜32の粒度の粒子であり、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するバインダーの転移点と、当該バインダーの当該ガラス成形材に占める配合比率との組み合わせが、450±10℃に対して5.0〜6.0質量%、475±10℃に対して5.0〜5.5質量%、または500±10℃に対して4.5〜5.0質量%であること、
を特徴とする潤滑用ガラス成形材。
【0023】
(II)コンテナ内に挿入された中空ビレットを、プラグを用いて熱間押広げ穿孔する際に、中空ビレットの上面潤滑剤として用いられる潤滑用ガラス成形材であって、
当該潤滑用ガラス成形材は本体と突起部とからなり、
当該本体は、中心にプラグを挿入するための円形の開口部を備えた円形平板状をなし、
当該突起部は、当該本体の開口部に取り付けられ、当該本体に対して垂直に、かつリング状に突出した形状をなし、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するガラスの粘度が1140℃〜1200℃において1000〜2000poiseであり、
当該ガラスが、メッシュ32〜80の粒度の粒子を60質量%以上含有し、残部がメッシュ20〜32の粒度の粒子であり、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するバインダーの転移点と、当該バインダーの当該ガラス成形材に占める配合比率との組み合わせが、450±10℃に対して5.0〜6.0質量%、または475±10℃に対して5.0〜5.5質量%であること、
を特徴とする潤滑用ガラス成形材。
【0024】
(III)熱間押出製管用ビレットの製造方法であって、
コンテナ内に中空ビレットを挿入し、プラグを用いて上方から熱間押広げ穿孔する際に、
中空ビレットの上面潤滑剤として、前記(I)または(II)の潤滑用ガラス成形材を用いて熱間穿孔すること、
を特徴とする熱間押出製管用ビレットの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の潤滑用ガラス成形材は、下記の顕著な効果を有する。
(1)中空ビレット上面の所定の位置に配置しやすい。
(2)中空ビレットの熱間押広げ穿孔に際し、金属製リングを使用しなくても所定の位置からのずれを発生しにくくすることができる。
(3)製管用ビレットの内面に発生する欠陥(引っかき疵や焼き付き疵等)を防止することができる。
(4)穿孔力の安定した穿孔が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ビレットの予備加工として行われる熱間押広げ穿孔の加工工程を説明する図である。(a)はコンテナ内に中空ビレットを装入した状況を示す。(b)は中空ビレットを穿孔する過程を示す。(c)は穿孔後の中空ビレット(熱間押出製管用ビレット)の状況を示す。
【図2】潤滑用ガラス成形材の形状を模式的に例示する図である。(a)は従来の潤滑用ガラス成形材の縦断面図である。(b)は本発明の潤滑用ガラス成形材の縦断面図である。
【図3】本発明の潤滑用ガラス成形材の形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の潤滑用ガラス成形材について、図面を参照して説明する。
【0028】
図2は、潤滑用ガラス成形材の形状を模式的に例示する図である。図2(a)は従来の潤滑用ガラス成形材の縦断面図である。図2(b)は本発明の潤滑用ガラス成形材の縦断面図である。
【0029】
図2(a)に示すように、従来の潤滑用ガラス成形材9は、中心に開口部8を備えたリング状の平板のみで構成される。従来の潤滑用ガラス成形材9を使用する際には、その外周に金属製リング10が取り付けられる。金属製リング10を取り付けることにより、穿孔時の振動やプラグの位置ずれ等で潤滑用ガラス成形材9が移動するのを防ぐことができる。
【0030】
図2(b)に示すように、本発明の潤滑用ガラス成形材5は本体6と突起部7とで構成される。本体6は、中心にプラグ(図示せず)を挿入するための円形の開口部8を備えた円形平板状をなす。突起部7は、本体6の開口部8に形成され、本体6に対して垂直に、かつリング状に突出した形状をなす。
【0031】
図2(b)は、潤滑用ガラス成形材5が中空ビレット1の上面に載せられた状態を示す。突起部7が中空ビレット1の中空部(ガイドホール1a)内に挿入されている。
【0032】
本発明の潤滑用ガラス成形材5の突起部7は、ガイドとして機能する。そのため、潤滑用ガラス成形材5を中空ビレット1の上面に載置する際には、突起部7をガイドホール1a内に挿入するだけで所定位置に配置することができる。すなわち、潤滑用ガラス成形材5の中心軸を中空ビレット1のガイドホール1aの中心軸に容易に合致させることができる。その結果、潤滑用ガラス成形材5を中空ビレット1の上面に載せる作業を、円滑に、かつ安全に行うことができる。
【0033】
本発明の潤滑用ガラス成形材5は、中空ビレット1の上面に載置された状態では、図2(b)に示すように、突起部7が中空ビレット1のガイドホール1a内に挿入されている。すなわち、潤滑用ガラス成形材5は中空ビレット1のガイドホール1aによって拘束されている。そのため、穿孔時の振動やプラグの位置ずれ等が生じても、潤滑用ガラス成形材5の所定位置からのずれを防ぐことができる。その結果、従来使用していた金属製リングが不要となる。これにより、作業者は、安全性の確保が容易ではない熱間での金属製リングの着脱作業から解放される。
【0034】
本発明の潤滑用ガラス成形材5は、中空ビレット1の上面に載置された状態では、突起部7が中空ビレット1のガイドホール1a内に挿入されている。中空ビレット1は加熱されているため、その熱で突起部7が粘稠(溶融)状態になる。加熱により生じた溶融ガラスはガイドホール1aの内壁面とプラグ間の潤滑に寄与する。さらに、図2(a)中の矢印Aで示すように、溶融ガラスは潤滑用ガラス成形材5の本体6からも供給される。これにより、ガイドホール1aの内壁面とプラグ間の潤滑に必要な量の潤滑剤が確保される。その結果、中空ビレット1を熱間押広げ穿孔することにより形成される製管用ビレットの内面における欠陥の発生が防止される。
【0035】
しかし、突起部を有する潤滑用ガラス成形材を用いた場合において、中空ビレットを穿孔する際の穿孔力が、突起部を有しない潤滑用ガラス成形材を用いた場合よりも上昇するという問題が発生した。これは、突起部を有する潤滑用ガラス成形材では穿孔時に突起部を潰す必要があり、その分穿孔力が上昇するためである。潤滑用ガラス成形材に配合するバインダーの比率を低減させれば、穿孔力を低下させることができる。しかし、バインダーの配合比率を低減させると、潤滑用ガラス成形材、特に突起部が崩壊しやすくなり、上面潤滑剤として使用できなくなる。
【0036】
そこで、本発明者らがさらに検討したところ、潤滑用ガラス成形材を構成するガラスの粘度およびガラス粒子の粒度、ならびにバインダーの転移点およびバインダーの配合比率の4項目を最適化することによって、成形性を維持しつつ、穿孔力の上昇を抑制できることを見出した。この知見に基づき、本発明の潤滑用ガラスは、上記4項目を表1に示す以下の2つの構成のいずれかを満たすものとする。この2つの構成のうち、構成1が構成2よりも好ましい。メッシュとは、篩の1インチあたりの目開き数である。バインダーの転移点とは、軟化点と同等の温度である。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の潤滑用ガラス成形材は、上記4項目について上記構成1または2を満たす構成とすることにより、潤滑性を犠牲とすることなく、突起部が潰れやすくなる。そのため、穿孔力の上昇を抑制し、穿孔力の安定した穿孔が可能となる。バインダーの配合比率を減少させると、穿孔力を低下させることができるものの、潤滑用ガラス成形材が崩壊しやすくなる。しかし、上記構成1または2を満たす構成とすることにより、穿孔力の上昇を抑制しつつ、潤滑用ガラス成形材の成型性を維持することができる。
【0039】
本発明の潤滑用ガラス成形材は、その形状が下記(a)〜(d)の条件を満たすことが好ましく、下記(e)および(f)の条件を満たすことがより好ましい。
(a)突起部のリングの厚さが5〜20mmである、
(b)突起部の外半径が中空ビレットの内半径よりも1〜10mm小さい、
(c)突起部の高さ方向長さが5〜20mmである、
(d)本体のビレット上面からの高さが10〜35mmである、
(e)本体の開口部の上側が面取りされている、
(f)面取りされた部分の角度が鉛直線に対して10〜20°である。
【0040】
図3は、本発明の潤滑用ガラス成形材の形状を説明する図である。本発明の潤滑用ガラス成形材において、上記(a)〜(d)の条件を満たすのが好ましい理由は次のとおりである。
【0041】
(a)突起部のリングの厚さ
突起部7のリングの厚さ(図3の符号(i))は、5〜20mmとすることが好ましい。リングの厚さが5mm未満であれば、潤滑剤の供給量が少なく、潤滑性が損なわれる。さらに、突起部7の溶融が早期に進行するので、穿孔時の振動等により潤滑用ガラス成形材の所定位置からのずれが生じ易い。リングの厚さが20mmを超えると、潤滑剤の供給量が多すぎて、内表面肌の表面性状が悪くなる。突起部7のリングの厚さを5〜20mmに維持することにより、中空ビレット1とプラグ間の潤滑性を保持し、潤滑用ガラス成形材5の所定位置からのずれを効果的に防止することができる。
【0042】
(b)突起部の外径と中空ビレットの内径との差
突起部7の外径は中空ビレット1の内径よりも1〜10mm小さいことが好ましい。言い換えれば、中空ビレット1の中心軸と潤滑用ガラス成形材5の中心軸が同軸である状態における突起部7の外半径と中空ビレット1の内半径との差(図3の符号(ii))は、0.5〜5mmとすることが好ましい。突起部7の外径と中空ビレット1の内径との差が1mm未満であると、突起部7のガイドホール1a内への挿入が困難になる。突起部7の外径と中空ビレット1の内径との差が10mmを超えると、中空ビレット1の中心軸と潤滑用ガラス成形材5の中心軸とのずれが生じやすくなる。その結果、中空ビレット1の内面の均一な潤滑が行われず、偏肉等の支障が起こりやすくなる。
【0043】
(c)突起部の高さ方向長さ:
突起部7の高さ方向長さ(図3の符号(iii))は5〜20mmとすることが好ましい。突起部7の高さ方向長さが5mm未満であれば、潤滑剤の供給量が少なく、潤滑性が損なわれる。突起部7の高さ方向長さが極端に短い場合は、穿孔時の振動等により潤滑用ガラス成形材の所定位置からのずれが生じ易い。突起部7の高さ方向長さが20mmを超えると、潤滑剤の供給量が多すぎて、内表面肌の表面性状が悪くなる。突起部7の高さ方向長さを5〜20mmに維持することにより、中空ビレット1とプラグ間の潤滑性を保持し、潤滑用ガラス成形材5の所定位置からのずれを効果的に防止することができる。
【0044】
(d)本体のビレット上面からの高さ(厚さ):
本体6の厚さ(図3の符号(iv))は、10〜35mmとすることが好ましい。本体6の厚さが10mm未満であれば、潤滑性が損なわれ易い。本体6からのガラスの供給量(図2(a)中の矢印A参照)が減少するからである。本体6の厚さが35mmを超えると、穿孔時の押出力が増加する。また、必要以上の潤滑剤がガイドホール内へ導入されるので、ガラス原単位が悪化する。
【0045】
本発明のガラス成形材において、上記(a)〜(d)の条件を満たし、さらに(e)および(f)の条件を満たすのがより好ましい理由は次のとおりである。
【0046】
(e)本体の開口部の上側の面取り
本体6の開口部8の上側は、面取りされていることが望ましい。なぜなら、プラグが本体6の開口部8の上側に接触する際の衝撃により、本体6が破損し、それにともない突起部7が落下する場合があるからである。
【0047】
(f)面取りされた部分の角度
本体6の開口部8の上側の面取りされた部分の角度(図3の符号(v))は、鉛直線に対して10〜20°とすることが望ましい。面取り角度がこの範囲から外れると、プラグの本体6への接触により突起部7の落下が生じやすくなる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0049】
1.試験方法
機械穿孔ままのビレットに予備穿孔を施して中空ビレットを作製した。この中空ビレットに押広げ穿孔を施して熱間押出製管用ビレットを作製した。その際、上面潤滑剤として本発明の潤滑用ガラス成形材を使用した。ビレットの材質およびその他穿孔時の条件は以下の通りである。
ビレットの材質 :高Cr−Ni材(25質量%Cr−30質量%Ni)
ビレットおよび工具の寸法:表2参照
潤滑用ガラス :SiO2−Al23−B23−CaO系ガラス
【0050】
【表2】

【0051】
機械穿孔ままのビレットの外面および内面にガラス潤滑剤を散布した後、約1200℃まで加熱した。加熱したビレットをコンテナ内に装入し、ビレットの上面に上面潤滑剤を載置して予備穿孔および仕上げ穿孔を行った。仕上げ穿孔に用いる上面潤滑剤として、表3に示す本発明の潤滑用ガラス成形材および比較例としての潤滑用ガラス成形材を使用した。表3の「区分」欄において、「構成1」および「構成2」は、潤滑用ガラス成形材の構成が、それぞれ前記表1の構成1および構成2に属することを示す。本発明の潤滑用ガラス成形材は、上記(a)〜(f)を満たす形状とした。比較例としての潤滑用ガラス成形材は、形状は本発明の潤滑用ガラス成形材と同じであり、構成するガラスの粘度および粒度、ならびにバインダーの転移点および配合比率が本発明の潤滑用ガラス成形材と異なるものとした。表3に示すガラスの粘度および粒度、ならびにバインダーの転移点および配合比率の詳細は表4に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
2.試験結果
上記試験の評価項目として、潤滑用ガラス成形材の成型性および、仕上げ穿孔時の穿孔力を採用した。試験結果を、試験条件と併せて表3に示した。
【0055】
潤滑用ガラス成形材の成型性は、同一構成のガラス成形材を所定数作成し、そのうち突起部の形状不具合が発生したものの割合によって評価した。
表3の「成形性」欄の記号の意味は次のとおりである:
○:良。突起部の形状不具合の発生率が0〜5%であったことを示す。
△:可。突起部の形状不具合の発生率が5〜15%であったことを示す。
×:不可。突起部の形状不具合の発生率が15%以上であったことを示す。
【0056】
仕上げ穿孔時の穿孔力は、穿孔時のプラグの負荷の最大値を、同様の構成のガラス成形材の周囲に金属製リングを装着する方法での穿孔時のプラグの負荷の最大値と比較することによって評価した。金属製リングを装着する方法で用いたガラス成形材は、前記図2(a)に示す形状とした。
表3の「穿孔力」欄の記号の意味は次のとおりである:
○:良。金属製リングを装着する方法と比較して穿孔時のプラグの負荷が
減少したことを示す。
△:可。金属製リングを装着する方法と比較して穿孔時のプラグの負荷が
同等であったことを示す。
×:不可。金属製リングを装着する方法と比較して穿孔時のプラグの負荷が
上昇したことを示す。
【0057】
上記「成形性」および「穿孔力」の評価結果に基づき、総合評価を決定した。
表3の「総合評価」欄の記号の意味は次のとおりである:
○:良。「成形性」および「穿孔力」のいずれも評価が○であったことを示す。
△:可。「成形性」および「穿孔力」の一方の評価が○、他方の評価が△であったことを示す。
×:不可。「成形性」および「穿孔力」の少なくとも一方の評価が×であったことを示す。
【0058】
表3に示すように、成形性は、バインダーの転移点が高く、またはバインダーの配合比率が高いほど、良好であった。
【0059】
穿孔力は、ガラスの粘度が低く、ガラスの粒度が細かく、バインダーの転移点が低く、またはバインダーの配合比率が低いほど、良好であった。
【0060】
比較例は、いずれも総合評価が×であった。
【0061】
本発明例のうち構成2は、いずれも総合評価が△であった。構成1は、総合評価が○または△であり、バインダーの転移点が低いほど評価が高かった。
【符号の説明】
【0062】
1:中空ビレット、 1a:ガイドホール、 1b:熱間押出製管用ビレット、 2:コンテナ、 3:プラグ、 4:マンドレル、 5:潤滑用ガラス成形材、 6:本体、 7:突起部、 8:開口部、 9:従来の潤滑用ガラス成形材、 10:金属製リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンテナ内に挿入された中空ビレットを、プラグを用いて熱間押広げ穿孔する際に、中空ビレットの上面潤滑剤として用いられる潤滑用ガラス成形材であって、
当該潤滑用ガラス成形材は本体と突起部とからなり、
当該本体は、中心にプラグを挿入するための円形の開口部を備えた円形平板状をなし、
当該突起部は、当該本体の開口部に取り付けられ、当該本体に対して垂直に、かつリング状に突出した形状をなし、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するガラスの粘度が1080℃〜1170℃において1000〜2000poiseであり、
当該ガラスが、メッシュ32〜80の粒度の粒子を60質量%以上含有し、残部がメッシュ20〜32の粒度の粒子であり、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するバインダーの転移点と、当該バインダーの当該ガラス成形材に占める配合比率との組み合わせが、450±10℃に対して5.0〜6.0質量%、475±10℃に対して5.0〜5.5質量%、または500±10℃に対して4.5〜5.0質量%であること、
を特徴とする潤滑用ガラス成形材。
【請求項2】
コンテナ内に挿入された中空ビレットを、プラグを用いて熱間押広げ穿孔する際に、中空ビレットの上面潤滑剤として用いられる潤滑用ガラス成形材であって、
当該潤滑用ガラス成形材は本体と突起部とからなり、
当該本体は、中心にプラグを挿入するための円形の開口部を備えた円形平板状をなし、
当該突起部は、当該本体の開口部に取り付けられ、当該本体に対して垂直に、かつリング状に突出した形状をなし、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するガラスの粘度が1140℃〜1200℃において1000〜2000poiseであり、
当該ガラスが、メッシュ32〜80の粒度の粒子を60質量%以上含有し、残部がメッシュ20〜32の粒度の粒子であり、
当該潤滑用ガラス成形材を構成するバインダーの転移点と、当該バインダーの当該ガラス成形材に占める配合比率との組み合わせが、450±10℃に対して5.0〜6.0質量%、または475±10℃に対して5.0〜5.5質量%であること、
を特徴とする潤滑用ガラス成形材。
【請求項3】
熱間押出製管用ビレットの製造方法であって、
コンテナ内に中空ビレットを挿入し、プラグを用いて上方から熱間押広げ穿孔する際に、
中空ビレットの上面潤滑剤として、請求項1または2に記載の潤滑用ガラス成形材を用いて熱間穿孔すること、
を特徴とする熱間押出製管用ビレットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−121095(P2011−121095A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281534(P2009−281534)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】