澱粉結合ドメインを含む組換えタンパク質とその使用
【課題】野生型の澱粉ドメインの炭水化物結合活性と比較して低下した炭水化物結合活性を有する改変された澱粉結合ドメインを提供する。
【解決手段】野生型の澱粉ドメインの炭水化物結合活性と比較して低下した炭水化物結合活性を有する改変された澱粉結合ドメインであって、特定のアミノ酸シーケンスの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に変異を有するアミノ酸シーケンスを有することを特徴とする改変された澱粉結合ドメイン。
【解決手段】野生型の澱粉ドメインの炭水化物結合活性と比較して低下した炭水化物結合活性を有する改変された澱粉結合ドメインであって、特定のアミノ酸シーケンスの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に変異を有するアミノ酸シーケンスを有することを特徴とする改変された澱粉結合ドメイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌Rhizopus spp.におけるグルコアミラーゼの澱粉結合ドメイン(SBD)の機能に関する。SBDを含む組換えタンパク質は、SBDを標識として用いることにより作製され、精製される。本発明はさらに、組換えタンパク質の新しい精製法およびキットと、SBDおよび組換えタンパク質の新しい応用例に関する。本発明は、澱粉結合ドメインを含む原線維を提供する。本発明はまた、澱粉酵素の候補における澱粉結合ドメインのリガンド結合部位の同定法も提供する。
【背景技術】
【0002】
微生物系において発現させ作製されたタンパク質は、価値の高い、医学的に重要なタンパク質の主な供給源となっている。組換えタンパク質の精製および回収は、発酵プロセスを計画する上で主要な検討事項である。従来のタンパク質精製法は生成物の分離に使用されるが、改良された方法には組換えタンパク質の使用が含まれる。組換えタンパク質は親和性カラムクロマトグラフィーにより精製され、親和性マトリックスと結合して、ポリペプチドへ共有結合することによって組換えタンパク質の任意の構成成分が精製される。
【0003】
親和性カラムクロマトグラフィーの原理によりタンパク質を分離する所定のシステムは存在する。
【0004】
特許文献1は、マルトース結合タンパク質(MBP)を含むシステムが記載されている。クローン化した遺伝子をmaIEから下流のpMALベクターへ挿入し、MBPをコードする。そのベクターが宿主細胞へ形質転換され、その宿主細胞で組換えタンパク質が発現する。細胞可溶化物または培地画分を親和性マトリックスであるアミロースを含むカラムに負荷して数回洗浄し、大量のマルトースを用いて組換えタンパク質を溶出する。
【0005】
特許文献2では、セルロース結合ドメインを含むシステムについて詳述さ れている。セルロース・カラムを使用して、セルロース結合ドメインを含む組換えタンパク質が精製される。細胞可溶化物または培地画分をカラムに負荷して洗浄する。セルロース結合ドメインとセルロースとの間の相互作用は、pHが中性時の疎水性相互作用に左右されると考えられる。一般的な溶出方法ではエチレングリコールなどの極性の低い溶媒が使用され、その後その極性の低い溶媒は、透析および濾過により除去される。
【0006】
キチン結合ドメインおよび誘導型のスプライシングを受けたリンカー領域は、標的タンパク質のC末端またはN末端で融合され得る。細胞可溶化物または培地画分はカラムに負荷され、洗浄される。キチン結合ドメインがキチンカラムに結合して、組換えタンパク質を固定する。DTTまたはシステインなどのチオール類の存在下で、リンカー領域は特異的な自己切断を受け、キチンが結合したキチン結合ドメインから標的タンパク質を遊離させる。
【特許文献1】米国特許第5643758号明細書
【特許文献2】米国特許第5202247号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら現行のタンパク質精製システムにはいくつかの欠点がある。これらの精製過程は利便性が悪く、労力がかかる。精製で使用されるカラムは高価である。これらのシステムにおいてタンパク質を精製する上での制限は、EDTA含有試料など所定の条件下で組換えタンパク質を分離できないことと、使用されている現行のタンパク質標識が、本発明のタンパク質よりも大きな標的タンパク質と比較して比較的大きいことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特徴的な解離定数(Kd)0.5〜2.29μMを含む澱粉結合ドメインを提供する。本発明はまた、ポリペプチドと本発明の澱粉結合ドメインとを含む組換えタンパク質も提供する。本発明はまた、本発明の澱粉結合ドメインをコードする遺伝子を含む発現ベクターも提供する。本発明はまた、ベクターにより形質転換または形質移入される宿主細胞も提供し、目的のポリペプチドと本発明の澱粉結合ドメインとを含む組換えタンパク質をコードするDNAを複製し、発現させる。本発明はさらに、ポリペプチドと本発明の澱粉結合ドメインとを含む組換えタンパク質を生物学的液体から精製する方法も提供する。本発明はさらに、組換えタンパク質を発現させるのに用いる発現ベクターを含む組み換えタンパク質を精製するキットも提供する。本発明はさらに、様々な炭水化物含有分子を含む試料において、炭水化物含有分子を選別する方法も提供する。本発明はさらに、澱粉結合ドメインを含む原線維も提供していて、その原線維はβシートとβシートの相互作用および/または電荷と電荷の相互作用により形成されることを特徴とする。本発明はまた、澱粉酵素候補における澱粉結合ドメインのリガンド結合部位の同定法も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、真菌Rhizopus属、なかでもRhizopus oryzae由来酵素グルコアミラーゼの澱粉結合ドメイン(SBD)の、特に高親和性および強力な結合能により提供される。グルコアミラーゼ(1,4‐α‐D‐グルカングルコヒドロラーゼ,EC3.2.1.3)とは、澱粉および関連基質において非還元性末端からのβ‐D‐グルコースの遊離を触媒するマルチドメインエキソ型グリコシドヒドロラーゼである。グルコアミラーゼは、触媒ドメイン(CD)および澱粉結合ドメイン(SBD)を含むモジュールタンパク質であり、炭水化物結合モジュール(CBM)に分類される。この独立する2つのドメインは、O‐グリコシル化リンカーに接続されている(詳細な情報については、URL http://afmb.cnrs‐mrs.fr/CAZY/index.html参照:Borastonら、Biochem.J.(2004)382:769‐781。Fangら、Protein Engineering(1998)11:119‐126。Sauerら、Biochemistry(2001)40:9336‐9346)。
【0010】
CBMは、触媒ドメインを不溶性多糖の表面上に集中させることにより、グリコシドヒドロラーゼと基質との相互作用を仲介する(Bolamら。Biochem.J.(1998)331:775‐781)。タンパク質分解による切り出しと、グリコシドヒドロラーゼからのCBMの切断により、可溶性多糖ではなく、不溶性多糖上の酵素の活性が顕著に低下する(Charonckら、Biochemistry(2000)39:5013‐5021。Aliら、Biosci.Biotechnol.Biochem.(2001)65:41‐47)。すべてのC末端SBDがCBMファミリー20に属しているのとは異なって、グルコアミラーゼのN末端SBDはCBMファミリー21に分類されている。現在、Rhizopus oryzae、Arxula adeninivorans、およびMucor circinelloides由来グルコアミラーゼのCBMファミリー21の澱粉結合ドメインは、N末端に位置づけられている(Houghton‐Larsenら、Appl.Microbiol.Biotechnol.(2003)62:210‐217)。
【0011】
これらの種由来SBDのアミノ酸シーケンスとA.niger SBDとの比較によれば、R. oryzae SBDとA. adeninivorans、M.circinelloides、およびAspergillus nigerのSBDとの間の相同性は、それぞれ35.4%、67.3%、および26.1%である。CBM20ファミリーとCBM21ファミリーとの間のタンパク質シーケンスの差異は、これらのSBDの生物学的機能および生化学的機能が異なることを意味する。
【0012】
本発明によるSBDのポリペプチドは、CBM20、CBM21、CBM25、CBM26、CBM34、およびCBM41から、好ましくはCBM20またはCBM21から、より好ましくはCBM21由来グルコアミラーゼの澱粉結合ドメインから、さらにより好ましくはRhizopus sppから、もっとも好ましくはRhizopus oryzaeから得ることである。SEQ IDのNos.1、Nos.2、およびNos.3で示されたとおり、Simpson株、野生型株、およびU.S.Pat.No.4863864の株から得られるSBDのアミノ酸シーケンスは、互いに異なる。対立遺伝子変異および誘導体を含むRhizopus oryzaeのSBDは、既知のSBDと比較して澱粉との親和性が高く、強力な澱粉結合能を発現する。
【0013】
本発明では、SBDをコードするDNA分子をPCRにより増幅する。PCR産物をクローニングして発現ベクターを作製し、宿主細胞へ形質転換する。形質転換された宿主細胞を誘導してSBDを発現させる。細胞可溶化物を採取し、上清を親和性マトリックスに直接適用したのち洗浄・溶出する。溶出緩衝液は、塩、砂糖、および/または酸性またはアルカリ性と考えられる。本発明におけるRhizopus spp.におけるSBDは第1に、広範なpHで安定しており、酸性またはアルカリ性の環境下で澱粉と一緒に解離することを特徴とする。本発明では第1に、Rhizopus sppにおけるSBDの解離定数(Kd)値がAspergillus nigerなど既知の種よりも低く、また、Rhizopus sppのSBDの澱粉結合能がAspergillus nigerなど既知の種を大幅に上回ることが確認されている。顆粒状のコーンスターチに対するRhizopusのSBDの解離定数(Kd)値の好適な実施形態は、0.5〜2.29である。この解離定数(Kd)値のより好適な実施形態は1.0〜2.0である。この解離定数(Kd)のさらに好適な実施形態は1.3〜1.6である。この解離定数(Kd)のもっとも好適な実施形態は1.43である。
【0014】
本発明のSBDは、炭水化物結合に関するシーケンスの芳香族アミノ酸残基32、47、67、83、および93の上に活性部位を有していて、そのアミノ酸残基がチロシンまたは/およびトリプトファンであることを特徴とする。好適な実施形態では、この活性部位は残基32のチロシン、残基47のトリプトファン、残基83のチロシン、および残基93のチロシンである。より好適な実施形態では、活性部位は残基47のトリプトファンおよび残基32のチロシンである。本発明では、芳香族残基からなる活性部位は、二次構造の順次相関および位相的マッピングにより同定される。
【0015】
本発明はまた、本発明のSBDと目的のポリペプチドとを含む組換えタンパク質も提供する。以前述べたとおり、目的のポリペプチドをコードする遺伝子をクローニングしてSBD発現ベクターを作製する。このクローニング部位はsbd遺伝子に隣接していて、sbd遺伝子の上流または下流のいずれかである。このSBDはN末端またはC末端においてポリペプチドと連結される。この融合遺伝子発現ベクターは、細菌、酵母菌、真菌、哺乳類の細胞、または昆虫の細胞を含む宿主細胞へ形質転換または形質移入され得る。組換えタンパク質は、形質転換または形質移入された細胞で発現される。したがって、本発明によるこの組換えタンパク質は、親和性マトリックスとして澱粉を使用することにより、SBDと澱粉との間の関係を介して精製される。
【0016】
組換えタンパク質精製で使用される親和性マトリックスは、SBDにより認識される構成成分であると考えられる。本発明によるSBDは、グルコースとグルコースの連鎖構造、すなわちα‐1,4‐連鎖とα‐1,6‐連鎖の両方を結合させ得る。この特徴により、親和性マトリックスは、
【0017】
【化1】
の化学式を含む構成成分と考えられる。Xはグルコース分子であり、グルコースとグルコースとの間の連鎖はα‐1,4‐連鎖またはα‐1,6‐連鎖であり、nは1以上である。構造の一部に、主鎖、側鎖、または修飾残基など以前の構造を含む構成要素が、親和性マトリックスとして選択され得る。例えば、澱粉、マンノース、デキストラン、またはグリコーゲンが親和性マトリックスとなり得る。
【0018】
本発明は、本発明の澱粉結合ドメインおよび親和性マトリックスを使用することにより、組換えタンパク質を精製する方法を提供する。本法は、(a)組換えタンパク質を含有する生物学的液体を親和性マトリックスに直接適用することと、(b)溶出緩衝液により組換えタンパク質を溶出することと、(c)組換えタンパク質を含有する溶出液を透析することを含む。本発明を使用して、組換えタンパク質およびポリペプチドの作製、活性、安定性、または可溶性が増加され得る。本発明は、広範な至適pHを用いる大規模なタンパク質精製に適している。精製組換えタンパク質の収量は高く、純度も十分である(95%超)。本発明の利点には、様々な溶出緩衝液および親和性マトリックスが選択され得ることと、商業利用が可能になることも含まれ、前者には砂糖、塩、および/またはpHが含まれ、後者には澱粉、マンノース、デキストラン、またはグリコーゲンが含まれる。さらに、SBDは、グルタチオン‐S‐転移酵素、(GST)、MBP、チオレドキシン(Trx)、またはNusを含む通常使用される融合タンパク質の標識よりも小さく、また、本システムはEDTA‐、EGTA‐、またはDTT‐含有試料を含む特定の試料を精製するのに適している。
【0019】
本発明は、組換えタンパク質とその応用例を精製するキットを提供する。このキットは、本発明による組換えタンパク質を発現する発現ベクターを含む。このキットはさらに、親和性マトリックスおよび溶出緩衝液を含む。この親和性マトリックスは、SBDと結合して組換えタンパク質を分離する。溶出緩衝液を使用して、SBDと親和性マトリックスとの間の関係を断つ。
【0020】
以前述べたとおり、目的のポリペプチドは、抗体、抗原、治療用化合物、酵素、またはタンパク質と考えられる。本発明により提供されるキットを介して、これらの生成物が過剰産生また、速やかに精製され得る。これらの生成物の応用例は、以下のとおりである。
【0021】
目的のポリペプチドは、病原の損傷/破壊または検出を標的とし、これを可能にする抗体または治療用化合物と考えられる。本発明は、澱粉を用いて抗体または治療用化合物が容易に精製され、さらにSBD領域を切断することにより分離され得るようになる。この精製された生成物を使用して、病原が治療または検出される。
【0022】
目的のポリペプチドは、免疫反応を誘導する抗体または抗原化合物と考えられる。この融合タンパク質は、澱粉などの親和性マトリックスと結合する。この融合タンパク質結合澱粉は、食糧源として供給され得る。融合タンパク質結合澱粉を食するとき、使用者はワクチン効果を得ることができる。融合タンパク質結合澱粉は、経口ワクチンとなり得る。
【0023】
本発明はさらに、口腔ケアの構成物に関する応用例を提供する。この口腔ケアの構成物は本発明のSBDを含んでいて、その構成物は、練り歯磨き、デンタルクリーム、ジェルまたは歯磨き粉、歯用洗浄剤、口腔用洗浄剤、歯磨きの前または後のすすぎ液、チューインガム、口内錠、およびキャンディからなるグループから選択されることを特徴とする。この口腔ケアの構成物はさらに、1またはそれ以上のSBD間の融合産物と、酸化酵素、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、エステラーゼ、デアミナーゼ、ウレアーゼ、および多糖加水分解酵素からなるグループから選択される酵素とを含む。この口腔ケア産物は経口多糖を消化し、虫歯を予防する。
【0024】
本発明はさらに、炭水化物結合ドメインの様々なKd値を使用することにより、炭水化物含有分子を選別する方法も提供する。炭水化物含有分子は様々な糖タンパク質の混合物であり、その炭水化物は単糖、二糖、または多糖と考えられる。例えば使用者は、セパレータ(おそらくカラム)として澱粉結合ドメイン(SBD)を使用して糖タンパク質を選別することができる。様々なKd値を用いて、勾配のあるリガンド結合能を有する一連のマトリックスを生成する。このSBDは、野生型および突然変異型を含む、本発明のRhizopus sppから得られると考えられる。このSBDは、CBMファミリー21およびCBMファミリー20などのSBDを産生することがわかっている種から得られると考えられる。この既知の種には、Arxula、Lipomyces、Aspergillus、Bacillus、Clostridium、Cryptococcus、Fusarium、Geobacillus、Neurospora、Pseudomonas、Streptomyces、Thielavia、およびThermoanaerobacterが含まれる。
【0025】
試料を一組のセパレータに負荷すると、SBD結合分子がカラムに保持され、非結合分子は排除される。したがって、この試料はSBD結合群と非結合群とに選別され得る。一つの容器に非結合分子を収集し、別の容器にSBD結合分子を溶出し、どちらもさらに選別することもできる。さらなる選別法は、液体カラムクロマトグラフィ解析、質量分析、レクチン免疫センサ法、二次元ゲル電気泳動、酵素学的方法、および化学的誘導体化など、化学的特性、物理的特性、または生物学的特性に基づくと考えられる。
【0026】
本発明はさらに、ベータシートとベータシートの相互作用によりモノマーが互いに相互作用する澱粉結合ドメインを含む原線維も提供していて、その澱粉結合ドメインが、Rhizopus、Arxula、Lipomyces、Aspergillus、Bacillus、Clostridium、Cryptococcus、Fusarium、Geobacillus、Neurospora、Pseudomonas、Streptomyces、Thielavia、およびThermoanaerobacterから選択されることを特徴とする。好適な実施形態では、澱粉結合ドメインはRhizopus oryzae由来である。原線維の実施形態では、この原線維は管状構造である。この原線維は、炭水化物分離および薬物送達システムに適用される。
【0027】
本発明はまた、澱粉酵素候補における澱粉結合ドメインのリガンド結合部位の同定法も提供していて、その同定法は、(a)候補酵素および既知のリガンド結合部位を含む既知の澱粉酵素の構造に基づく多重シーケンスアラインメントおよび芳香族残基を作製することと、(b)二次構造の順次相関アルゴリズム(PSSC)による、既知の酵素と候補酵素との間でシーケンスアラインメントのトポロジーを比較することと、(c)既知の酵素の既知のリガンド結合部位を、候補酵素において相当する位置に存在する残基に相関させることを含む。
【0028】
結果として生じる候補酵素の残基の機能を同定するため、本発明の方法はさらに、部位特異的突然変異、化学修飾、UV差分光法、または定性的および定量的結合アッセイなどの測定法を含む。
【0029】
本願明細書で使用される「リガンド」という用語は、澱粉、シクロデキストリン、マルトヘプタオース、マルトヘキサオース、およびマルトペンタオースからなるグループから選択されるが、それに限定されない。
【0030】
この候補酵素は、CBM20、CBM21、CBM25、CBM26、CBM34、およびCBM41からなるグループから選択される。好適な酵素は、CBM20およびCBM21から選択される。より好適な酵素は、真菌属Rhizopusから得られる。もっとも好適な酵素は、Rhizopus oryzaeから得られる。
【0031】
この候補酵素は、グルコアミラーゼ、α‐アミラーゼ、β‐アミラーゼ、acarviose transferase、グルコシルトランスフェラーゼ、グルカノトランスフェラーゼ、シクロデキストリン、グルコシルトランスフェラーゼ、マルトペンタオヒドロラーゼ、マルトジェニックα‐アミラーゼ、アミロプルラナーゼ、α‐グルカン水ジキナーゼ、genethonin‐1、ラフォリン、催色強調タンパク質、またはプロテインフォスファターゼであるが、それに限定されない。
【0032】
この候補酵素のリガンド結合部位を予測するのに使用される既知の酵素は、CBM20、CBM25、CBM26、またはCBM34から選択される。この既知の酵素の好適な実施形態は、CBM20またはCBM34から選択される。この既知の酵素のより好適な実施形態は、Aspergillus nigerから選択される。
【0033】
本法では、二次構造の順次相関(PSSC)アルゴリズムは、(1)αヘリックスとβストランドの位置および境界を割当てるための既存の予測システムを用いて多くの二次構造を得ることと、(2)αヘリックスおよびβストランドを象徴化し、制約された残基として予め規定される、芳香族残基Y、W、Fが選択され、標識化することにより、予測される二次構造をそれぞれ新しいシーケンスに変換することと、(3)テンプレートとして分解した三次元構造を用いて、1つのタンパク質シーケンス上で順次相関操作を実施することの3つのステップを含む。
【0034】
具体的には、予測される二次構造と既知のテンプレートとの間で考え得るすべてのアラインメントのセットからスコアが計算される。最高値を示すアラインメントは、テンプレート構造の残基に相当する主要な残基を同定し得る最善のアラインメント候補である。相関操作を実施して、二次構造および制約された芳香族残基の位置に関して、最善のアラインメントを提供する。
【0035】
本発明では、トポロジーは免疫グロブリン様トポロジーである(CATH code 2.60.40)。
【0036】
以下の実施例は、制限のためではなく、例示のために提供するものである。
【実施例1】
【0037】
(A)SBD‐6Hの構築
【0038】
フォワードプライマー5’‐CATATGGCAAGTATTCCTAGCAGT‐3’およびリバースプライマー5’CTCGAGTGTAGATACTTGGT‐3’(太字で示した制限酵素認識部位はこの2つのプライマーへ組み込まれた)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により残基26〜131からグルコアミラーゼのSBDをコードする遺伝子を精製した。PCR産物をクローニングしてpGEM‐T簡易クローニングベクター(Promaga)を作製し、DNA塩基配列決定により検証した。その後、sbd遺伝子のフラグメントをNodeI部位およびXhoI部位でpET23a(+)発現ベクター(Novagen)に結合し、pET‐SBDを生成した。pET‐SBDによりコードされたSBD‐6Hは、C末端にHis6タグを含む。この構築物を形質転換の受容性のあるEscherichia coli BL21‐Gold(DE3)(Novagen)へ形質転換して、タンパク質を発現させた。
【0039】
SBD‐6Hの発現および精製
【0040】
pET‐SBDを用いて形質転換したBL21‐Gold(DE3)細胞を、OD600が0.6に達するまで、100μg/mlアンピシリン含有LB培養液中で、37℃で増殖させた。次に温度を20℃まで下げ、最終濃度400μMまでイソプロピルβ‐D‐チオガラクトシド(IPTG)を添加して、組換えタンパク質を発現させた。さらに16時間インキュベートしたのち、4℃で3,700 g、15分間の遠心により細胞を採取し、その結果生じたペレットを結合緩衝液20 ml(50 mM酢酸ナトリウム、pH5.5)中で再懸濁後、破砕した(細胞破砕機EmulsiFlex‐C5)。4℃で16,000 g、15分間の遠心により、細胞の破片を除去した。上清を顆粒状のコーンスターチ(あらかじめ結合緩衝液で洗浄)に直接適用後、25℃で軽く振盪しながらインキュベートした。その澱粉を10カラム容量の結合緩衝液を用いて2回洗浄し、次に2カラム容量の溶出緩衝液(50 mMグリシン/NaOH、pH10)を用いて溶出した。PM‐10膜(カットオフ値10 kDa)を備えたAmicon攪拌型濃縮器(Millipore)を使用して、その溶液を結合緩衝液に対し透析した。15%SDS‐PAGEゲルにより各画分を解析し、次にクマシーブリリアントブルーで染色した。タンパク質濃度は、ビシンコニン酸(BCA)試薬キット(Pierce)により測定した。
【0041】
融合SBD‐6Hは、至適条件においてE. coli BL21‐Gold(DE3)で発現させた。誘導期ののち、顆粒状のコーンスターチにより可溶性画分をワンステップで精製した。以前報告された方法を採用して溶出剤としてマルトースを使用したときのSBDの溶出効率が低かったため(Paldiら、Biochem.J.(2003)372:905‐910)、本願明細書ではグリシン/NaOH(pH10)を使用してSBDを溶出する代替法を適用した。15%SDS‐PAGEにより精製SBD‐6Hを解析し、図1に示したとおり、クマシーブリリアントブルーで染色した。単一ステップで精製されて生じたSBD‐6Hは均質である。この改良された方法により、細菌可溶化液からSBDを迅速かつ効率的に精製できるようになった。純度(>98%)および収率(>90%)は高値となる。
【実施例2】
【0042】
結合能および安定性に対するpHの効果
【0043】
澱粉結合アッセイで詳述したとおり、結合能を測定するため、SBD‐6Hおよび顆粒状のコーンスターチを緩衝液に入れ、様々なpH値で1時間インキュベートした。安定性については、グリシン/HCl(pH3)、酢酸ナトリウム/酢酸(pH4〜5)、Na2HPO4/NaH2PO4(pH6〜7)、Tris/HCl(pH8)、およびグリシン/NaOH(pH9〜10)を含む異なる緩衝液にSBD‐6Hを入れ、25℃で30分間保持することにより測定した。残る結合能については、酢酸ナトリウム緩衝液(50 mM、pH5.5)に入れ、25℃で1時間測定した。pH5のときに測定されたSBD‐6Hの相対的結合能を100%として基準とした。
【0044】
SBD‐6Hの安定性について、pH3〜10の範囲で解析したところ、SBD‐6Hは広範なpH、すなわち極度の酸性およびアルカリ性の条件でも安定していた(図2)。結合アッセイを用いて、不溶性澱粉の吸収に関する至適pHの範囲を同定した。図2に示したとおり、SBD‐6Hの結合が最大となるpHの範囲は5〜6であり、pH4およびpH8の相対的結合能は、それぞれわずか60.6%および55.1%であった。
【0045】
図2に示したとおり、SBD‐6Hは広範な範囲のpH、すなわち極度の酸性およびアルカリ性のpHでも安定していた。これにより、SBDの澱粉に対する結合能がpH依存性であることも示された。結合のための至適pHは約5〜6であり、マルトースを使用した以前の試験と同等であった。この以前の試験では、マルトースは至適溶出剤ではなかったが、澱粉からSBDを放出させるために使用された。ここでわれわれは、pH依存性の結合能という特性に基づいて、この問題を克服した。溶出剤としてアルカリ性緩衝液を用いて、溶出効率を増加させた(>90%)。
【実施例3】
【0046】
SBD−6Hの不溶性澱粉に対する会合定数
【0047】
15.6〜27.2 μMの濃度範囲の精製SBD‐6Hをあらかじめ洗浄した顆粒状のコーンスターチ1mg/mlに添加し、25℃で軽く攪拌しながら5時間インキュベートした。澱粉の沈殿ごとに、様々な時間間隔で結合を終了した。4℃で16,000g、10分間の遠心後、BCAアッセイにより上清のタンパク質濃度(非結合タンパク質)を測定し、最初のタンパク質濃度と非結合タンパク質濃度との間の差から結合タンパク質量を計算した。澱粉グラム当たりのタンパク質(マイクロモル)として表される平衡時の結合タンパク質は、測定されたタンパク質濃度の範囲では遊離(非結合)タンパク質の一次関数となっていた。
【0048】
図3に示したとおり、異なるタンパク質濃度時に、顆粒状のコーンスターチに対するSBD‐6Hの吸着速度を測定した。最初の10分間で、SBD‐6Hの約50%が不溶性澱粉と結合した(平衡状態時の結合タンパク質量に対し)。初回期間(40分まで)に、吸着は線形位相を示した。結合タンパク質量は、培養時間に比例した。異なるSBD‐6H濃度時の初回結合曲線の傾きにより示された会合定数はほぼ同じであった(0.18±0.1 μmol/min・g)。線形位相後(40分後)、延長された培養時間内に結合タンパク質が徐々に増加した。120分後には、相対的結合が95%超に達した。平衡に達するのに必要な時間は、Aspergillus SBDとほぼ同じであった(Paldiら、Biochem. J.(2003)372:905‐910)。
【実施例4】
【0049】
澱粉結合アッセイ
【0050】
飽和結合アッセイとして、澱粉結合等温線を解析した。SBD‐6Hをあらかじめ洗浄した顆粒状のコーンスターチ1 mg/mlと混和し、25℃軽く攪拌しながら16時間インキュベートした。4℃で16,000 g、10分間の遠心後、結合タンパク質量を計算した。アッセイ期間中に沈殿が生じていないことを確認するために、澱粉ではなく、タンパク質を含む対照を含めた。結合タンパク質(Bmax)の解離定数(Kd)および最大量は、非線形回帰を示す結合等温線にあてはめることにより計算し、また、方程式(1)を用いて結合部位1箇所の飽和結合を求めた。
【0051】
【数1】
ここではB(μmol)は結合タンパク質を示し、Bmax(μmol)は結合タンパク質の最大量、F(μmol)は本システムの遊離タンパク質、Kd(μmol)は平衡解離定数であった。BmaxおよびKdの計算値の単位は、それぞれμmol/gおよびμMに変換した。
【0052】
SBDの結合親和性および結合能
【0053】
図4に示したとおり、澱粉結合等温線を用いて精製SBD‐6Hの親和性および結合能について試験した。方程式(1)を用いて非線形回帰曲線を示す平衡等温線を計算し、結合パラメータ(BmaxおよびKd)を算出した。結合部位1箇所の飽和結合について2つのパラメータモデルにより算出された結合パラメータ(KdおよびBmax)は、それぞれ1.43±0.14 μMおよび41.14±1.05 μmol/gであった。さらに、改変され、タンパク質分解により作製されたAspergillusのSBDの解離定数(それぞれ3.2±0.9 μMおよび12.7±0.5 μM)は、SBD‐6Hより約2〜10倍高かった(Paldiら、Biochem.J.(2003)372:905‐910。Belshawら、FEBS Lett(1990)269:350‐353)。これらの観察結果は、不溶性澱粉に対するSBD‐6Hの結合親和性のほうがAspergillusのSBDを上回ることを示している。一方、この改変された、タンパク質分解的に作製されたAspergillusのSBD(それぞれ0.56 μmol/gおよび1.08±0.02 μmol/g)は、SBD‐6Hと著しく異なっていた。SBD‐6HのKdはAspergillusのSBDの約2分の1であるが、SBD‐6HのBmaxはAspergillusのSBD‐6Hの約70倍と顕著に高い。これらの結果から、SBD‐6Hの澱粉結合の親和性および結合能は、いずれもAspergillusのSBDを上回っていることが示された。
【実施例5】
【0054】
(A)SBD‐eGFPの構築
【0055】
続いて、eGFP遺伝子のフラグメントをNcoIおよびXhoI部位でpET‐SBDに結合し、pSBD‐eGFPを生成した。図5に示したとおり、プラスミドを構築した。pSBD‐eGFPによりコードされたSBD‐eGFPは、N末端にSBD‐6Hを、C末端にeGFPを含む。この構築物を形質転換受容性のあるEscherichia coli BL21‐Gold(DE3)(Novagen)へ形質転換して、タンパク質を発現させた。
【0056】
(B)SBD‐eGFPの発現および精製
【0057】
pET‐SBDを用いて形質転換したBL21‐Gold(DE3)細胞を、OD600が0.6に達するまで、100μg/mlアンピシリン含有LB培養液中で、37℃で増殖させた。次に温度を20℃まで下げ、最終濃度400μMまでイソプロピルβ‐D‐チオガラクトシド(IPTG)を添加して、組換えタンパク質を発現させた。さらに16時間インキュベートしたのち、4℃で3,700 g、15分間の遠心により細胞を採取し、その結果生じたペレットを結合緩衝液20 ml(50 mM酢酸ナトリウム、pH5.5)中で再懸濁後、破砕した(細胞破砕機EmulsiFlex‐C5)。4℃で16,000 g、15分間の遠心により、細胞の破片を除去した。上清を顆粒状のコーンスターチ(あらかじめ結合緩衝液で洗浄)に直接適用後、25℃で軽く振盪しながらインキュベートした。その澱粉を10カラム容量の結合緩衝液を用いて2回洗浄し、次に2カラム容量の溶出緩衝液(50 mMグリシン/NaOH、pH10)を用いて溶出した。PM‐10膜(カットオフ値10 kDa)を備えたAmicon攪拌型濃縮器(Millipore)を使用して、その溶液を結合緩衝液に対し透析した。15%SDS‐PAGEゲルにより各画分を解析し、次にクマシーブリリアントブルーで染色した。タンパク質濃度は、ビシンコニン酸(BCA)試薬キット(Pierce)により測定した。
【0058】
15%SDS−PAGEゲルにより精製SBD‐eGFPを解析し、図6に示したとおり、クマシーブリリアントブルーで染色した。
【実施例6】
【0059】
(A)構造に基づく多重シーケンスアラインメント
【0060】
Jpred server(URL、http://www.compbio.dundee.ac.uk/〜www‐jpred/Cuff,J.A.,Clamp,M.E.,Siddiqui,A.S.,Finlay,M.およびBarton,G.J.(1998)Jpred:共通二次構造予測サーバー。Bioinformatics14、892‐893)およびNetwork Protein Sequence Analysis(NPSA)サーバー(URL、http://npsa‐pbil.ibcp.fr/Combet,C.,Blanchet,C.,Geourjon,C.およびDeleage,G.(2000)NPS@:ネットワークタンパク質シーケンス解析。Trends Biochem.Sci.25、147‐150)で、二次構造予測を実施した。ClustalXプログラム(Thompson,J.D.,Gibson,T.J.,Plewniak,F.,Jeanmougin,F.およびHiggins,D.G.(1997)。CLUSTAL Xウィンドウズ・インターフェース:品質管理ツール支援下の柔軟な多重シーケンスアラインメント戦略。Nucleic Acids Res.25、4876‐4882)を活用し、二次構造予測結果を用いて、R.oryzae、A.adeninivorans、M.circinelloides、およびA.niger由来GAの4つの澱粉結合ドメインの多重シーケンスアラインメントを求め、二次構造プロファイルアラインメントを選択した。
【0061】
(B)累進的二次構造相関アルゴリズム
【0062】
本試験において、われわれはPSSCアルゴリズムを開発したが、これはタンパク質ファミリーの関連シーケンスから二次構造および機能的に重要な残基を予測する組み合わせの情報科学を基礎とした。PSSCは、(1)αヘリックスとβストランドの位置および境界を割当てるための既存の予測システムを用いて多くの二次構造を得ることと、(2)αヘリックスおよびβストランドを象徴化し、制約された残基として予め規定される、芳香族残基Y、W、Fが選択され、標識化することにより、予測される二次構造をそれぞれ新しいシーケンスに変換することと、(3)テンプレートとして分解した三次元構造を用いて、1つのタンパク質シーケンス上で順次相関操作を実施することの3つのステップを含む。予測されるすべての二次構造のなかで、最高スコアを示す二次構造は、テンプレート構造の残基に相当する主要な残基を同定し得る最善の候補である。注釈をつけたαヘリックスおよびβストランドのセグメントは、それぞれ「α」および「β」という記号で簡略化し、ループ構造は、制約された規定の残基か、あるいは芳香族残基が割当てられていないときは記号「N」を代用した。最終ステップでは相関操作を実施し、二次構造および制約された芳香族残基の位置に関して最善のアラインメントを提供した。スコアを適合させるため、様々な重み付けを割当てて、二次構造の関係性を強化した。記号「α」および「β」にマッチしたときはスコア2を、「Y」、「W」、「F」、「N」にマッチしたときはスコア1を、ミスマッチのときはペナルティとしてスコア−1を割当てた。主要な残基を同定するため、さらなる相関アラインメントにより、最高スコアを示すと予測される二次構造を選択した。
【0063】
(C)モデル構築
【0064】
RoGACBM21の分子モデルは、テンプレートとしてAnGACBM20の核磁気共鳴構造(PDB code 1AC0(Sorimachi,K.,ら(1996)核磁気共鳴スペクトル測定法によるAspergillus niger由来グルコアミラーゼの顆粒状の澱粉結合ドメインの溶液構造。J.Mol.Biol.259、970‐987)を用いて、タンパク質モデリングサーバーSwiss Model(Schwede, T., Kopp,J.,Guex,N.およびPeitsch,M.C.(2003)SWISS‐MODEL:自動タンパク質相同性モデリングサーバー。Nucleic Acids Res.31、3381‐3385)により作製した。AnGACBM20には相当する残基が存在しなかったため、修飾されたシーケンスアラインメントに基づいて、RoGACBM21モデル構造から残基1〜13を削除した。DeepViewのGROMOS96を実行することにより、このモデルのエネルギー最小化を行った。WebLab ViewerLiteを用いて、分子グラフィックスを行った。
【0065】
(D)磁気円偏光二色性
【0066】
450‐Wキセノンアークランプを備えたAviv circuar dichroism spectrometer(モデル202)に、磁気円偏光二色性(CD)スペクトルを記録した。長方形の石英ガラス製キュベット(25℃および96℃時のパス長0.1 cm、スキャン速度4 nm秒-1、バンド幅0.5 nm)において、波長200〜260 nmの遠紫外線スペクトル測定を行った。各スペクトルは連続3回のスキャンの平均とし、スペクトルのバッファを減算することで補正した。
【0067】
(E)RoGACBM21モデルの構築
【0068】
CBM20、CBM21、CBM25、CBM26、CBM34、およびCBM41の6つのCBMファミリーはSBDを含んでいるが、現在のところ構造が解明されているのはCBM20、CBM25、CBM26、およびCBM34のみである。これらの三次元構造は、免疫グロブリン様トポロジーを共有しているため(CATH code 2.60.40)(Pearl,Fら(2005)CATHドメイン構造データベース、関連リソースGene3D、DHSはゲノム解析に対し包括的なドメインファミリー情報を提供する。Nucleic Acids Res.33、D247‐251)、シーケンスの同一性が高くなくても、GAのすべてのSBDが同じ三次元構造を有すると提唱されている。
【0069】
CBM21のシーケンスは以前解明されたCBM20の構造との同一性レベルが高くないため、構造に基づく新規の多重シーケンスアラインメント戦略を用いて、トポロジーは同じであるが、シーケンスが異なるタンパク質同士を比較した。本試験で用いたCBM21のSBDシーケンスの二次構造は、当初は、共通二次構造予測サーバーJpredおよびNPSAを用いて予測した。これらのサーバーは、多数の二次構造予測法を用いて共通結果を構築する。AaGACBM21を除く全CBM21のSBDの二次構造の共通構造から、AaGACBM21では8個のβストランドがCBM20の構造的特徴と一致していて、7番目のβストランドがαヘリックスと置き換わっていることが明らかになった。図7Aは、CBM20およびCBM21ファミリーの構造に基づく多重シーケンスアラインメントの結果を示す。芳香族残基および二次構造要素の大半は配列されていないと考えられたが、CBM21に保存されている芳香族残基Tyr16、Tyr33、Trp47、およびTyr86は、AnGACBM20の主要なリガンド結合残基Tyl527、Trp543、Tyr556、およびTrp590の近傍に存在していた。RMoGACB21において可能性のあるリガンド結合残基を他にも同定しようとして、PSSCアルゴリズムを用いて構造に基づく多重シーケンスアラインメントを求めた。αヘリックスおよびβストランドの相対的な構造からだけでなく、リガンド結合に関与してテンプレートと同等の機能を維持するループ領域上の主要な残基からも、強力に相関する結果が得られるとの仮説を立てた。図7Bに示したとおり、相対的な位置および長さの観点から言えば、二次構造要素の配列は良好であり、また、RoGACBM21の8個の芳香族残基は、AnGACMB21において相当する残基とともに保存された。
【0070】
リガンド結合に関与すると考えられる芳香族残基について、構造に基づくシーケンスアラインメント(図8A)によりさらに検討したが、このシーケンスアラインメントはPSSCとClustalXを組み合わせて作製した。この結果から、RoGACBM21において可能性のあるリガンド結合残基(Tyr32、Trp47、Tyr58、Tyr67、Tyr83、Tyr93、およびTyr94)がいくつか確認された。AnGACBM20に従って、14〜106にわたる残基からRoGACBM21の分子モデル(図8B左パネル)を作製した。重なった主原子(356原子)の二乗平均平方根は1.38Åであり、このモデルがテンプレート構造に非常によく適合していることを示している。AnGACBM20の構造および2つのリガンド結合部位(図8B右パネル)から判断して、われわれはRoGACBM21のリガンド結合残基を2つの部位、つまり部位I(Tyr32、Tyr58およびTyr67)と部位II(Trp47、Tyr83、Tyr93およびTyr94)に分類することが可能で、側鎖に位置するTyr58およびTyr94はRoGACBM21の構造内部に向っていてリガンド結合に関与していないとの仮説も立てた。
【0071】
RoGACBM21モデルは、三重のβシートおよび五重のβシートを含む(図8C左パネル)。この2種類のβシートはβストランドおよび位相的構成(1↓2↑5↓)と(4↑3↓6↑7↓8↓)を有する逆平行のβストランドからなる。RoGACBM21のβストランド2〜8は、AnGACMB20のβストランド1〜7に重なると考えられ(図8C右パネル)、RoGACBM21の1番目のストランドは、逆方向ではあるが、AnGACBM20の8番目のβストランドに重なる可能性が考えられた。
【0072】
(F)全βストランドの二次構造
【0073】
未変性状態のRoGACBM21のCDスペクトル(図9)のトラフ値は215 nmであり、βストランドのみを含むタンパク質の典型である。これは、RoGACBM21がらせん構造を含んでいないことと、βストランド構造とランダムコイル構造のどちらも高次元構造全体に著明に貢献していることを示唆している。この観察結果は、澱粉結合CBMの二次構造予測および一般的な全βストランド構造の結果と一致している。スペクトルには約230 nmのピークも含まれていて、これはある種の炭水化物結合ドメインには珍しい特徴であるが、これらのドメインでは、ジスルフィド結合や、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの芳香族側鎖により、スペクトルのピークが正の楕円率となると考えられる(Roberge,M.,Lewis,R.N.,Shareck,F.,Morosoli,R.,Kluepfel,D.,Dupont,C.およびMcElhaney,R.N.(2003)Streptomyces lividans由来キシラナーゼAの熱変性に関する示差走査熱量測定、磁気円偏光二色性スペクトル、およびフーリエ変換赤外分光法による特徴付け。Proteins 50、341‐354)。RoGACBM21は18個の芳香族残基を含むがシステインは認められない(図8A)。これはピークが約230 nmの正の楕円率であることの原因が芳香族残基である可能性を示唆している。
【実施例7】
【0074】
(A)特定部位の突然変異誘発
【0075】
RoGABMC21の突然変異はいずれも、PCRに基づくQuickChamge特定部位の突然変異誘発法(Stratagene)を使用して、テンプレートとしてpET‐RoGACBM21を、そして任意の突然変異を含む2つの相補プライマーとPfu Turbo DNAポリメラーゼ(Stratagene)とを用いて作製した。各突然変異プラスミドのシーケンスを検証して、PCR誘発性の突然変異がさらに導入されていないことを確認した。すべての構築物を形質転換の受容性のあるE coli BL21‐Gold(DE3)へ形質転換して、タンパク質を発現させた。
【0076】
(B)野生型および変異型RoGACBM21のUVの差スペクトル
【0077】
全スペクトルは、270〜300 nm、バンド幅0.5 nmにおいて、紫外可視分光計(Hitachi U‐3310)を用いて得た。30 μMの野生型または変異型RoGACBM21のスペクトルは、25℃で、pH5.5、50 mMの酢酸ナトリウムに入れ、βシクロデキストリン(βCD)(Sigma)の有無によって記録した。タンパク質のみのスペクトルをタンパク質リガンドスペクトルから減算して算出した各差スペクトルを用いて、モデル化合物N-アセチルトリプトファン(50 μM)(Sigma)およびN‐アセチルチロシン(100 μM)(Sigma)(20%DMSOにて摂動)の差スペクトルと比較した。
【0078】
(C)N‐ブロモスクシンイミド(NBS)によるトリプトファン残基の化学修飾
【0079】
長方形の石英ガラス製キュベット(パス長1 cm、25℃)において、500 μMのβCDまたは変性剤(尿素8 M)の存在下で、NBS(1 mMを新たに調製)(Sigma)を用いて、未変性の野生型およびW47AのRoGACBM21タンパク質(酢酸ナトリウム50 μM中30 μM、pH5.5)を滴定することにより、トリプトファン残基の酸化を行った。各滴定時に混合物を3分間インキュベートし、紫外可視分光計を用いて280 nm時の吸光度を記録した。滴定過程は、280 nm時の吸光度の減少傾向が止む、あるいは上昇し始めるまで継続した。NBSにより酸化されたトリプトファン残基の数を、吸光法を用いて計算した(Spande,T.F.およびWitkop,B.(1967)N‐ブロモスクシンイミドによるタンパク質のトリプトファン含量の測定。Methods Enzymol.11,498‐506)。
【0080】
(D)テトラニトロメタン(TNM)によるチロシン残基の化学修飾
【0081】
Sokolovskyら(1966)(テトラニトロメタン。タンパク質中のチロシル残基のニトロ化用試薬。Biochemistry 5、3582‐3589)による報告のとおり、TNMを用いてチロシン残基のニトロ化を実施した。RoGACBM21(Tris‐HCl100 mM中10 μM、pH8.0)を25℃で180分間TNM(95%エタノール中1 mM)に添加して、紫外可視分光計を用いて428 nm時の吸光度をモニタリングした。TNMにより酸化されたチロシン残基の数を、3‐ニトロチロシンのモル吸光係数4,100 M−1cm−1を用いて計算した。
【0082】
(E)RoGACBM21における2個のトリプトファン残基の異なる役割
【0083】
NBSを使用して、RoGACBM21の表面上で作用を受けたトリプトファン残基の数についてさらに評価した。RoGACBM21におけるトリプトファン残基に対するNBSの修飾を、280 nm時の吸光度の減少を記録することによりモニタリングした(図10A)。未変性RoGACBM21のA280の減少は、NBSとタンパク質の比率が2.5の時に増加し始めた。このようにNBSにより誘発される280 nm時の吸光度の増加は、チロシン残基の酸化後に観察されるのが一般的である(Bray,M.R.,Carriere,A.D.およびClarke,A.J.(1994)タンパク質における4次微分分光法によるトリプトファン残基およびチロシン残基の定量化。Anal.Biochem.221、278‐284)。しかし、尿素溶液中のチロシン残基はNBSにより修飾されなかったため、変性RoGACBM21のA280は増加しなかった(Sokolovskyら(1966))。図10Aに示したとおり、未変性および変性RoGACBM21の修飾トリプトファン残基の数は、それぞれ1.6および2.0と算出された。未変性および変性という条件下では、RoGACBM21に存在するトリプトファン残基の中で修飾され得るのは2個のみであり、このTrp47とTrp70のどちらもタンパク質表面上で作用を受ける可能性のあることが示されている。
【0084】
2つのTrp残基がリガンド結合部位内に存在しているかどうかを確認するため、リガンドβCDの存在下でNBSによる酸化を実施した。未変性RoGACBM21およびβCDのプレインキュベーションにより、Trp残基1個が酸化から明らかに保護された(図10A)が、これはβCD結合に関与するトリプトファン残基が1個のみであることを示唆している。
【0085】
さらにどのトリプトファン残基がリガンド結合部位に存在するのか探るため、Trp47とTrp70の両方を個々にアラニンへ突然変異させた。W47A変異体はE.coliに発現し、ここから精製された。しかし、W70A変異体の溶解性は試験したあらゆる発現条件下で非常に乏しかったことから、RoGACBM21の正確な折りたたみにはTrp70が極めて重要であることが示唆された。未変性W47A変異体をNBSで処理したところ、その結果はβCD存在下で試験した野生型RoGACBM21の結果と一致した(図10A)。これによりTrp47が主要なリガンド結合残基であることが強く示唆された。この結果は、野生型および変異型RoGACBM21のUVの差スペクトルによっても確認された(図10B)。このUVの差スペクトルは500 μMのβCDを用いて摂動し、次に20%DMSOを用いて摂動したモデル化合物N‐アセチルトリプトファンおよびN‐アセチルチロシンと比較した。277、285、および293 nm付近に3つのピークを有する野生型RoGACBM21のスペクトル(図10B、c線)は、トリプトファンおよびチロシンの摂動スペクトルと類似していた(図10B、a線およびb線)が、これによりRoGACBM21においては摂動されたトリプトファン残基およびチロシン残基がリガンド結合部位に存在することが示唆された。W47Aの差スペクトル(図10B、e線)は小さく、ベースラインスキャン時と実質的に同じであることから、Trp47残基は可溶性のリガンド結合に関与することが明らかになった。これらのデータは、可溶性リガンドとの結合においてTrp47が重要な役割を果たしていることと、Trp70が構造の維持に不可欠であることを示唆している。
【0086】
(F)リガンド結合に関する主要なチロシン残基の同定
【0087】
RoGACBM21においてTNMを用いてチロシン残基をニトロ化し、ニトロ化チロシン(3‐ニトロチロシン)のモル吸光係数を用いて表面上で作用を受けたチロシン残基の数を計算した(図10C)。全チロシン残基12個中6個を超えるTNMによりニトロ化された。これによりチロシンの50%以上が表面上で作用を受け、可能性のあるリガンド結合部位に寄与していると考えられることが示唆された。RoGACBM21に存在する重要なチロシン残基についてさらに検討するため、個別にアラニンを代用した。
【0088】
野生型RoGACBM21、トリプトファン変異体(W47A)、およびチロシン変異体(Y32A、Y58A、Y67A、Y83A、Y93AおよびY94A)において定性的結合アッセイを実施し、可能性のあるリガンド結合残基の数および位置を探った。図11に示したとおり、Tyr32、Trp47、Tyr67、Tyr83、およびTyr93をアラニンと置き換えることにより、不溶性澱粉との結合が著明に減少した。予想どおり、変異体Y58AおよびY94Aでは変化は認められなかった。これらの結果から、RoGACBM21の三次元モデルのみに基づくわれわれの仮説の妥当性が証明された。しかし、Y67A、Y83A、およびY93Aの可溶性はその他の異性体よりかなり低く、Tyr67、Tyr83、およびTyr93もRoGACBM21構造の安定化に重要であることが示された。したがって、これらの残基に関与する可溶性の二重変異体は認められなかった。したがって、以後の試験ではTyr32およびTrp47に焦点をしぼった。
【0089】
変異体Y32Aと野生型RoGACBM21のUVの差スペクトル(図10B、d線)に顕著な差は認められず、結合部位IがβCD結合に関与していないことが示された。ダイレクトシーケンスアラインメントから推測された推定上の結合残基Tyr16およびTyr86は、可溶性リガンド(図10、f線およびg線)および不溶性リガンド(図11)のどちらに対する結合にも関与していないことには注意を払うべきである。
【実施例8】
【0090】
(A)不溶性澱粉との結合の定性的測定
【0091】
野生型および変異型RoGACBM21(16 μM、100 μl)をpH5.5、50 mMの酢酸ナトリウムに入れ、それぞれ不溶性澱粉0.1mg(Sigma)と混和し、その混合液を25℃で軽く攪拌しながら5時間インキュベートし、続いてその不溶性澱粉を4℃で13,000 g、2分間の遠心によりペレット化した。15%ゲルを用いてSDS−PAGEによりそのペレット(結合画分)および上清(非結合画分)を解析した。アッセイ期間中に沈殿が生じていないことを確認するために、不溶性澱粉を含まないタンパク質を対照として含めた。
【0092】
(B)不溶性澱粉との結合の定量的測定
【0093】
飽和結合アッセイとして、澱粉結合等温線を解析した。野生型および変異型RoGACBM21(pH5.5の50 mM酢酸ナトリウム中100 μl)をあらかじめ洗浄した不溶性澱粉0.1 mgとそれぞれ混和し、25℃で軽く攪拌して16時間インキュベートした。4℃で16,000 g、10分間の遠心後、BCAアッセイを用いて上清(非結合タンパク質)のタンパク質濃度を測定し、最初のタンパク質濃度と非結合タンパク質濃度との間の差から結合タンパク質量を計算した。結合タンパク質(Bmax)の解離定数(Kd)および最大量は、標準的な単一部位結合モデルを用いて非線形回帰を示す結合等温線にあてはめることにより算出した。
【0094】
(C)可溶性多糖との結合の定量的測定
【0095】
野生型および変異型RoGACBM21の可溶性多糖(Sigma)との結合について、蛍光分光法で内在性タンパク質の蛍光強度の変化を測定することにより記録した。Perkin−Elmer LS‐55分光計を用いて、25℃で、pH5.5の50 mM酢酸ナトリウム中で実験を行った。環状構造および鎖状構造の炭水化物(2〜20 mM)をRoGACBM21(10 μM、2 ml)に滴定し、励起波長を280 nmに固定して350 nm時の蛍光スペクトルをモニタリングした。リガンド濃度に対する蛍光強度の相対的変化をプロットし、単一の結合部位に関する適切な方程式を用いて、そのデータを擬似曲線に当てはめた。
【0096】
(D)データ解析
【0097】
GraphPad Prism(GraphPad Software)を用いて、速度および親和性のパラメータに関するデータ解析を実施した。
【0098】
(E)異なるリガンド特異性を有する2つの結合部位
【0099】
精製RoGACBM21の平衡澱粉結合等温線データを非線形回帰曲線に当てはめた(図12)。単一の結合部位飽和結合に関する2パラメータモデルにより算出されたRoGACBM21の結合パラメータKdおよびBmaxは、それぞれ1.43±0.14 μMおよび41.14±1.05 μmol g−1であった(表1)。しかし、改変されたAnGACBM20(3.2±0.9 μM)およびタンパク質分解により作製されたAnGACBM20(12.7±0.5 μM)の解離定数(Paldi,T.,ら(2003)Aspergillus niger B1のグルコアミラーゼ澱粉結合ドメイン:分子クローニングおよび機能的特徴付け。Biochem.J.372、905‐910およびBelshaw,N.J.ら(1990)Aspergillus niger由来グルコアミラーゼ1の顆粒状の澱粉結合ドメインの作製および精製。FEBS Lett。269、350‐353)は、それぞれ約2倍および10倍高かった。さらに、改変されたAnGACBM20(0.56 μmol/g)およびタンパク質分解により作製されたAnGACBM20(1.08±0.02 μmolg−1)のBmax値は、それぞれRoGACBM21より70倍および40倍低かった。リガンド結合能は、アミロペクチンとアミロースとの様々な比率、澱粉粒のサイズおよび形状、あるいはその澱粉が緩衝液中にどのくらいの期間存在するかに左右される膨張効果の影響を受ける可能性があることに注意を払うべきである。
表I.不溶性澱粉に関して脱着等温線により算出されたRoGACBM21誘導体の親和性
【0100】
【表1】
【0101】
定量的結合等温線およびスキャッチャード解析(図12および表I)により、両変異体の不溶性澱粉の結合能が野生型に対して約50%まで減少したことが明らかになった。Y32A変異体およびW47変異体の結合親和性は野生型とほぼ同じであり、Y32A/Y47A二重変異体の不溶性澱粉との結合はほぼ完全に失われた。可溶性リガンドとの定量的結合データを表IIに示す。環状炭水化物について、βCD(Kd=5.1±0.7 μM)に対する野生型RoGACBM21の親和性は、γCD(Kd=8.3±1.5 μM)に対する親和性よりもやや強く、αCD(Kd>300 μM)に対する結合は比較的乏しかった。直鎖状炭水化物について、野生型RoGACBM21のKd値はリガンドの長さが増加するとともに減少した。これらの結果から、結合部位に存在する芳香族側鎖間の距離および配位がRoGACBM21とのリガンド結合における重要な決定因子であることが示された。したがって、環状炭水化物との結合はリガンドの表面のラジアンに依存し、直鎖状炭水化物との結合はリガンドの長さに支配されていた。α‐1,6‐グリコシド結合を有するリガンドについて、RoGACBM21のイソマルトトリオースに対する親和性(Kd=3.8±0.7μM)は、α‐1,4‐グリコシド結合を有する可溶性リガンド結合よりも強力であり、どちらかと言えばRoGACBM21はこの澱粉の分枝に結合する可能性があることが示唆された。
【0102】
本試験で使用した可溶性炭水化物に対するW47A変異体の親和性はあまりに低かったため、蛍光滴定のスペクトルにより測定することもできず、アラニンと置き換えることによる実質的な影響を受けることもできなかった。この結果は、実際にはTrp47が可溶性および不溶性の両リガンドとの結合に関与する重要な残基であることを示唆している。Y32A変異体および野生型RoGACBM21は様々なシクロデキストリンに対する親和性がほぼ同じであることが示され、Tyr32がシクロデキストリンとの結合に関与していないことが確認された。さらに、直鎖状少糖類の長さがY32Aとの結合に及ぼす影響は、野生型RoGACBM21に対して比較的小さかった。このことは、結合部位IがRoGACBM21とより長い直鎖状少糖類との結合を促進する可能性があることを示唆している。
表II.蛍光滴定のスペクトルにより算出された可溶性少糖類に対するRoGACBM21誘導体の親和性
【0103】
【表2】
【0104】
同等の結合親和性を持つ2つの結合部位を有する澱粉結合CBM20とは違って(Williamson,M.P.ら(1997)Aspergillus nigerのグルコアミラーゼ1澱粉結合ドメインにおいて保存されるトリプトファンの機能。Biochemistry36、7535‐7539およびGiardina,T.ら(2001)Aspergillus nigerのグルコアミラーゼの澱粉結合ドメインの両結合部位はアミロースの立体配座を変化させるのに重要である。J.Mol.Biol.313、1149‐1159)、RoGACBM21は異なる結合特異性を有する2つの結合部位を含んでいるが、このことは、炭水化物‐タンパク質を認識するにあたって、各結合部位が、異なってはいるが、協力的な役割を果たしていることを示唆している。結合部位IIは可溶性および不溶性リガンドの重要な結合部位であり、結合部位Iは長鎖炭水化物と関連してRoGACBM21を補助する。
【実施例9】
【0105】
本発明の方法を適用して、CBM20モジュールおよびCBM21モジュールを含む酵素およびタンパク質を予測することができた。GenBankを検索してcgtBacma2を除く全シーケンスを取り出した(UniProt:P31835)。以下のように、これらの酵素およびタンパク質のリガンド結合部位として予測される残基Y、W、およびFに下線を引いた。
amYAspka/538-634 TLPITFEELV TTTYGEEVYL SGSISQLGEW HTSDAVKLSA DDYTSSNPEW SVTVSLPVGT TFEYKFIKVD EGGSVTWESD PNREYTVPEC GSGSGET
amYAspnd/521-617 AITVVFQERV QTAYGENVFL AGSISQLGNW DTTEAVALSA AQYTATDPLW TVAIELPVGT SFEFKFLKKR QDGSIVWESN PNRSAKVNEG CARTTQT
amYBacsp/515-608 TSNVTFTVNN ATTTSGQNVY VVANIPELGN WNTANAIKMN PSSYPTWKAT IALPQGKAIE FKFIKKDQAG NVIWESTSNR TYTVPFSSTG SYTA
amYCrYsp/528-624 AGTVVFDVYV QTQYGQSVVI AGNIPQLGNW SPANGLNLNA NQYTASSPKW TGTITGVAPG TTFQWKPIVV TNGNDNWYPG NNQQATTGSA CSSPAAD
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amYStrlm/470-562 QTSASFHVNA TTAWGENIYV TGDQAALGNW DPARALKLDP AAYPVWKLDV PLAAGTPFQY KYLRKDAAGK AVWESGANRT ATVGTTGALT LND
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amYStrli2/478-569 SSGVSFAVDA TTSWGQDIYV TGNRPGLGHW DPGGGLQLDP AAYPVWKRDV ELPEGTTFEY KSLRKADAGN VTWESGANRT ATVNTTKTTL ND
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amY AspaW/534-630 TLPITLEELV TTTYGEEIYL SGSISQLGEW DTSDAVKLSA DDYTSSNPEW YVTVSLPVGT TFEYKFIKVE EDGSVTWESD PNREYTVPEC GSGETVV
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4agt OrYsa/12-108 TVTLVFKLPY YTQWGQSLLI AGSEPALGSW NVKQGLSLSP VHQGNELIWS GRVSVATGFT CQYMNYYVVDD NKNVLRSESG EKRKLVLPEG VQDGDVV
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laFHomsa/2-130 RFRFGVVVPP AVAGARPELL VVGSRPELGR WEPRGAVRLR PAGTAAGDGA LALQEPGLWL GEVELAAEEA AQDGAEPGRV DTFWYKFLKR EPGGELSWEG NGPHHDRCCT YNENNLVDGV YCLPIGHWI
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pfHomsa/122-230 QLQIQKAILE STESLLGSTS IKGIIRVLNV SFEKLVYVRM SLDDWQTHYD ILAEYVPNSC DGETDQFSFK IVLVPPYQKD GSKVEFCIRY ETSVGTFWSN NNGTNYTFI
【実施例10】
【0106】
原線維の形成
【0107】
実施例1で作製したSBD‐6Hを97℃まで加温し、室温で放冷した(加温速度:2℃/分)。その試料を37℃で2日間インキュベートした。熱誘起アミロイド様SBD‐6H原線維を含む試料をグリッド上に30分間滴下した。試料を4%(w/v)酢酸ウラニルで5分間染色し、次にそのグリッドを風乾させてから透過型電子顕微鏡を用いて解析した。図13に示したとおり、SBD‐6Hの原線維が作製された。
【0108】
代替案として、Yen‐Chung ChangおよびChin Yu,J.Biol.Chem.,Vol.277、No.21、5月24日発行pp19027‐19036、2002で開示された内容に従って、アミロイド様原線維形成を作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】澱粉を用いたSBD−6Hの精製を示す。精製SBD−6HをSDS/PAGE(15%ゲル)にかけ、そのゲルをCoomassie Brilliant BlueR‐250で染色してタンパク質を検出する。レーン1は分子量の基準(左に表示した分子量)、レーン2はコーンスターチにおいて精製されたSBD−6Hが2マイクログラムのときのもの。
【図2】pHが結合能および安定性に対して及ぼす効果を示す。実験セクションで詳述したとおり、様々なpH時のSBD−6Hの結合能(●)および安定性(○)に対する効果を測定する。pH5のときに測定されたSBD−6Hの相対的結合能を100%として基準とする
【図3】不溶性澱粉を用いたときのSBD−6Hの吸収率を示す。様々な濃度(■15.6μM、▲22.5μM、●27.2μM)の時のSBD−6Hをコーンスターチに5時間適用することにより、SBDの会合定数を分析する。異なる時点での最初のタンパク質濃度と非結合タンパク質濃度との間の差から結合タンパク質を計算し、会合定数を算出する。
【図4】SBDと澱粉の相互作用によるKdおびBmax算出。様々なタンパク質濃度の時に、顆粒状のコーンスターチを用いて澱粉結合アッセイを実施する。1つの結合部位の飽和結合について、非線形回帰を示す結合等温線にあてはめることにより、KdおよびBmaxを算出する。
【図5】SBD標識融合タンパク質の構築を示す。eGFP:緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、SBD:澱粉結合ドメイン、Kmr:カナマイシン耐性遺伝子。
【図6】でんぷんを用いたSBD標識融合タンパク質の精製を示す。精製融合タンパク質をSDS/PAGE(15%ゲル)にかけ、そのゲルをCoomassie Brilliant Blue R−250で染色してタンパク質を検出する。レーン1は分子量の基準(左に表示した分子量)、レーン2は可溶性画分、レーン3は溶出物。矢印I:SBD−eGFP、矢印II:eGFP、矢印III:SBD。
【図7】構造に基づく多重シーケンスアラインメントCBM20およびCBM21の比較。(A)R.oryzae(RoGACBM21)、M.circinelloides(McGACBM21)、A.adeninivorans(AnGACBM21)、Lipomyces kononenkoae α‐amylase(LkαACBM21)、ヒトのタンパク質ホスファターゼ(HsPPCBM21)、およびA.niger(AnGACB20)におけるSBDを有する構造に基づく多重シーケンスアラインメント。その白、黒、およびグレーのセグメントは、それぞれ予測される二次構造要素であるループ、βストランド、およびαへリックスである。黒のY、W、およびFは、それぞれループ領域のチロシン、トリプトファン、およびフェニルアラニンを示す。白のY、W、およびFは、βストランドの芳香族残基である。(B)PSSCアルゴリズムを用いた構造に基づくシーケンスアラインメントと、それぞれ図の上および下にRoGACBM21およびAnGACBM20の図式化されたシーケンスが記されている。βは、βストランドである。Nは、そのループ領域に芳香族残基が存在しないことを示す。AnGACBM20における主要なリガンド結合残基は、二重下線により示す。(C)R.oryzae(RoGACBM21)、M.circinelloides(McGACBM21)、A.adeninivorans(AnGACBM21)、Lipomyces kononenkoae α‐amylase(LkαACBM21)、ヒトのタンパク質ホスファターゼ(HsPPCBM21)の三次元構造のシミュレートおよび推定上のリガンド結合部位と、二次構造および本発明のトポロジーマッピングによるテンプレートとしてのA.niger(AnGACB20)の既知の構造およびリガンド結合部位。
【図8】構造に基づくシーケンスアラインメントを用いたRoGACBM21の分子モデリングを示す。(A)RoGACBM21およびAnGACBM20のβストランドの位置はグレーの矢印で表示されており、それぞれシーケンスの上および下に記されている。下線部はAnGACBM20のリガンド結合部位である(結合部位I_、結合部位II=)。RoGACBM21において炭水化物結合に関与すると予測される芳香族残基はグレーで表示されている。(B)RoGACBM21(左パネル)のモデリング構造およびAnGACBM20のテンプレート構造(右パネル、Protein Data Bank 1AC0)をリボン図で示す。本モデルでは、RoGACBM21の最初のβストランドを形成するAla1からSer13までのポリペプチドシーケンスは示さない。AnGACBM20における特徴付けられたリガンド結合部位のリガンド(βCD)および側鎖と、RoGACBM21における考え得る結合部位も示す。(C)AおよびBの方向性および構成と一致するグレーの矢印を用いて、RoGACBM21およびAnGACBM20の二次構造の方向性および構成のトポロジーを示す。
【図9】遠紫外CDによるRoGACBM21の二次構造の決定を示す。未変性RoGACBM21(黒丸)の円二色性スペクトルを、25℃、50 mMの酢酸ナトリウム中で実行する。
【図10】RoGACBM21誘導体の化学修飾およびUVの差スペクトルを示す。(A)500μMのβCDが存在しない(黒四角)または存在する(白四角)ときの未変性野生型RoGACBM21、500μMのβCDが存在しない(黒丸)または存在する(白丸)ときの変性野生型RoGACBM21(黒三角)および未変性W47Aを、NBSを用いて滴定した。このデータを正規化し、各反応の元の吸光度を調節して1.0にした。(B)20%DMSOを用いて摂動したN−アセチルトリプトファン(50μM)(a)およびN−アセチルチロシン(100μM)(b)の差スペクトルを用いて比較した。βCDを用いて摂動した野生型組換えRoGACBM21(c)、Y32A(d)、W47A(e)、Y16A(f)、およびY86A(g)の差スペクトルを正規化してタンパク質濃度を等価にした。(C)野生型RoGACBM21(Tris−HCl 100 mM中10 μM、pH8.0)を、25℃で、タンパク質の100倍以上のテトラニトロメタン共存下で滴定した。
【図11】SDS−PAGEによる解析のとおり、RoGACBM21誘導体の不溶性澱粉との定性的結合を示す。RoGACBM21の精製された野生型と、Y16A、Y32A、W47A,Y58A、Y67A、Y83A、Y86A、Y93A、およびY94Aの変異体とを不溶性澱粉共存下でインキュベートし、遠心によりペレットを形成した。レーンSは、不溶性多糖と結合しなかったタンパク質を示す。レーンPは、不溶性多糖と結合したタンパク質を含む。
【図12】脱着等温線による解析のとおり、RoGACBM21誘導体の不溶性澱粉との結合を示す。RoGACBM21誘導体の澱粉結合アッセイを、様々なタンパク質濃度で、不溶性コーンスターチ共存下で実施した。野生型RoGACBM21(黒四角)、Y32A(黒三角)、W47A(黒丸)、およびY32A/W47A(白四角)の結合等温線(左パネル)とスキャチャード解析(右パネル)
【図13】電子顕微鏡下の澱粉結合ドメインにより形成された原線維。
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌Rhizopus spp.におけるグルコアミラーゼの澱粉結合ドメイン(SBD)の機能に関する。SBDを含む組換えタンパク質は、SBDを標識として用いることにより作製され、精製される。本発明はさらに、組換えタンパク質の新しい精製法およびキットと、SBDおよび組換えタンパク質の新しい応用例に関する。本発明は、澱粉結合ドメインを含む原線維を提供する。本発明はまた、澱粉酵素の候補における澱粉結合ドメインのリガンド結合部位の同定法も提供する。
【背景技術】
【0002】
微生物系において発現させ作製されたタンパク質は、価値の高い、医学的に重要なタンパク質の主な供給源となっている。組換えタンパク質の精製および回収は、発酵プロセスを計画する上で主要な検討事項である。従来のタンパク質精製法は生成物の分離に使用されるが、改良された方法には組換えタンパク質の使用が含まれる。組換えタンパク質は親和性カラムクロマトグラフィーにより精製され、親和性マトリックスと結合して、ポリペプチドへ共有結合することによって組換えタンパク質の任意の構成成分が精製される。
【0003】
親和性カラムクロマトグラフィーの原理によりタンパク質を分離する所定のシステムは存在する。
【0004】
特許文献1は、マルトース結合タンパク質(MBP)を含むシステムが記載されている。クローン化した遺伝子をmaIEから下流のpMALベクターへ挿入し、MBPをコードする。そのベクターが宿主細胞へ形質転換され、その宿主細胞で組換えタンパク質が発現する。細胞可溶化物または培地画分を親和性マトリックスであるアミロースを含むカラムに負荷して数回洗浄し、大量のマルトースを用いて組換えタンパク質を溶出する。
【0005】
特許文献2では、セルロース結合ドメインを含むシステムについて詳述さ れている。セルロース・カラムを使用して、セルロース結合ドメインを含む組換えタンパク質が精製される。細胞可溶化物または培地画分をカラムに負荷して洗浄する。セルロース結合ドメインとセルロースとの間の相互作用は、pHが中性時の疎水性相互作用に左右されると考えられる。一般的な溶出方法ではエチレングリコールなどの極性の低い溶媒が使用され、その後その極性の低い溶媒は、透析および濾過により除去される。
【0006】
キチン結合ドメインおよび誘導型のスプライシングを受けたリンカー領域は、標的タンパク質のC末端またはN末端で融合され得る。細胞可溶化物または培地画分はカラムに負荷され、洗浄される。キチン結合ドメインがキチンカラムに結合して、組換えタンパク質を固定する。DTTまたはシステインなどのチオール類の存在下で、リンカー領域は特異的な自己切断を受け、キチンが結合したキチン結合ドメインから標的タンパク質を遊離させる。
【特許文献1】米国特許第5643758号明細書
【特許文献2】米国特許第5202247号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら現行のタンパク質精製システムにはいくつかの欠点がある。これらの精製過程は利便性が悪く、労力がかかる。精製で使用されるカラムは高価である。これらのシステムにおいてタンパク質を精製する上での制限は、EDTA含有試料など所定の条件下で組換えタンパク質を分離できないことと、使用されている現行のタンパク質標識が、本発明のタンパク質よりも大きな標的タンパク質と比較して比較的大きいことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特徴的な解離定数(Kd)0.5〜2.29μMを含む澱粉結合ドメインを提供する。本発明はまた、ポリペプチドと本発明の澱粉結合ドメインとを含む組換えタンパク質も提供する。本発明はまた、本発明の澱粉結合ドメインをコードする遺伝子を含む発現ベクターも提供する。本発明はまた、ベクターにより形質転換または形質移入される宿主細胞も提供し、目的のポリペプチドと本発明の澱粉結合ドメインとを含む組換えタンパク質をコードするDNAを複製し、発現させる。本発明はさらに、ポリペプチドと本発明の澱粉結合ドメインとを含む組換えタンパク質を生物学的液体から精製する方法も提供する。本発明はさらに、組換えタンパク質を発現させるのに用いる発現ベクターを含む組み換えタンパク質を精製するキットも提供する。本発明はさらに、様々な炭水化物含有分子を含む試料において、炭水化物含有分子を選別する方法も提供する。本発明はさらに、澱粉結合ドメインを含む原線維も提供していて、その原線維はβシートとβシートの相互作用および/または電荷と電荷の相互作用により形成されることを特徴とする。本発明はまた、澱粉酵素候補における澱粉結合ドメインのリガンド結合部位の同定法も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、真菌Rhizopus属、なかでもRhizopus oryzae由来酵素グルコアミラーゼの澱粉結合ドメイン(SBD)の、特に高親和性および強力な結合能により提供される。グルコアミラーゼ(1,4‐α‐D‐グルカングルコヒドロラーゼ,EC3.2.1.3)とは、澱粉および関連基質において非還元性末端からのβ‐D‐グルコースの遊離を触媒するマルチドメインエキソ型グリコシドヒドロラーゼである。グルコアミラーゼは、触媒ドメイン(CD)および澱粉結合ドメイン(SBD)を含むモジュールタンパク質であり、炭水化物結合モジュール(CBM)に分類される。この独立する2つのドメインは、O‐グリコシル化リンカーに接続されている(詳細な情報については、URL http://afmb.cnrs‐mrs.fr/CAZY/index.html参照:Borastonら、Biochem.J.(2004)382:769‐781。Fangら、Protein Engineering(1998)11:119‐126。Sauerら、Biochemistry(2001)40:9336‐9346)。
【0010】
CBMは、触媒ドメインを不溶性多糖の表面上に集中させることにより、グリコシドヒドロラーゼと基質との相互作用を仲介する(Bolamら。Biochem.J.(1998)331:775‐781)。タンパク質分解による切り出しと、グリコシドヒドロラーゼからのCBMの切断により、可溶性多糖ではなく、不溶性多糖上の酵素の活性が顕著に低下する(Charonckら、Biochemistry(2000)39:5013‐5021。Aliら、Biosci.Biotechnol.Biochem.(2001)65:41‐47)。すべてのC末端SBDがCBMファミリー20に属しているのとは異なって、グルコアミラーゼのN末端SBDはCBMファミリー21に分類されている。現在、Rhizopus oryzae、Arxula adeninivorans、およびMucor circinelloides由来グルコアミラーゼのCBMファミリー21の澱粉結合ドメインは、N末端に位置づけられている(Houghton‐Larsenら、Appl.Microbiol.Biotechnol.(2003)62:210‐217)。
【0011】
これらの種由来SBDのアミノ酸シーケンスとA.niger SBDとの比較によれば、R. oryzae SBDとA. adeninivorans、M.circinelloides、およびAspergillus nigerのSBDとの間の相同性は、それぞれ35.4%、67.3%、および26.1%である。CBM20ファミリーとCBM21ファミリーとの間のタンパク質シーケンスの差異は、これらのSBDの生物学的機能および生化学的機能が異なることを意味する。
【0012】
本発明によるSBDのポリペプチドは、CBM20、CBM21、CBM25、CBM26、CBM34、およびCBM41から、好ましくはCBM20またはCBM21から、より好ましくはCBM21由来グルコアミラーゼの澱粉結合ドメインから、さらにより好ましくはRhizopus sppから、もっとも好ましくはRhizopus oryzaeから得ることである。SEQ IDのNos.1、Nos.2、およびNos.3で示されたとおり、Simpson株、野生型株、およびU.S.Pat.No.4863864の株から得られるSBDのアミノ酸シーケンスは、互いに異なる。対立遺伝子変異および誘導体を含むRhizopus oryzaeのSBDは、既知のSBDと比較して澱粉との親和性が高く、強力な澱粉結合能を発現する。
【0013】
本発明では、SBDをコードするDNA分子をPCRにより増幅する。PCR産物をクローニングして発現ベクターを作製し、宿主細胞へ形質転換する。形質転換された宿主細胞を誘導してSBDを発現させる。細胞可溶化物を採取し、上清を親和性マトリックスに直接適用したのち洗浄・溶出する。溶出緩衝液は、塩、砂糖、および/または酸性またはアルカリ性と考えられる。本発明におけるRhizopus spp.におけるSBDは第1に、広範なpHで安定しており、酸性またはアルカリ性の環境下で澱粉と一緒に解離することを特徴とする。本発明では第1に、Rhizopus sppにおけるSBDの解離定数(Kd)値がAspergillus nigerなど既知の種よりも低く、また、Rhizopus sppのSBDの澱粉結合能がAspergillus nigerなど既知の種を大幅に上回ることが確認されている。顆粒状のコーンスターチに対するRhizopusのSBDの解離定数(Kd)値の好適な実施形態は、0.5〜2.29である。この解離定数(Kd)値のより好適な実施形態は1.0〜2.0である。この解離定数(Kd)のさらに好適な実施形態は1.3〜1.6である。この解離定数(Kd)のもっとも好適な実施形態は1.43である。
【0014】
本発明のSBDは、炭水化物結合に関するシーケンスの芳香族アミノ酸残基32、47、67、83、および93の上に活性部位を有していて、そのアミノ酸残基がチロシンまたは/およびトリプトファンであることを特徴とする。好適な実施形態では、この活性部位は残基32のチロシン、残基47のトリプトファン、残基83のチロシン、および残基93のチロシンである。より好適な実施形態では、活性部位は残基47のトリプトファンおよび残基32のチロシンである。本発明では、芳香族残基からなる活性部位は、二次構造の順次相関および位相的マッピングにより同定される。
【0015】
本発明はまた、本発明のSBDと目的のポリペプチドとを含む組換えタンパク質も提供する。以前述べたとおり、目的のポリペプチドをコードする遺伝子をクローニングしてSBD発現ベクターを作製する。このクローニング部位はsbd遺伝子に隣接していて、sbd遺伝子の上流または下流のいずれかである。このSBDはN末端またはC末端においてポリペプチドと連結される。この融合遺伝子発現ベクターは、細菌、酵母菌、真菌、哺乳類の細胞、または昆虫の細胞を含む宿主細胞へ形質転換または形質移入され得る。組換えタンパク質は、形質転換または形質移入された細胞で発現される。したがって、本発明によるこの組換えタンパク質は、親和性マトリックスとして澱粉を使用することにより、SBDと澱粉との間の関係を介して精製される。
【0016】
組換えタンパク質精製で使用される親和性マトリックスは、SBDにより認識される構成成分であると考えられる。本発明によるSBDは、グルコースとグルコースの連鎖構造、すなわちα‐1,4‐連鎖とα‐1,6‐連鎖の両方を結合させ得る。この特徴により、親和性マトリックスは、
【0017】
【化1】
の化学式を含む構成成分と考えられる。Xはグルコース分子であり、グルコースとグルコースとの間の連鎖はα‐1,4‐連鎖またはα‐1,6‐連鎖であり、nは1以上である。構造の一部に、主鎖、側鎖、または修飾残基など以前の構造を含む構成要素が、親和性マトリックスとして選択され得る。例えば、澱粉、マンノース、デキストラン、またはグリコーゲンが親和性マトリックスとなり得る。
【0018】
本発明は、本発明の澱粉結合ドメインおよび親和性マトリックスを使用することにより、組換えタンパク質を精製する方法を提供する。本法は、(a)組換えタンパク質を含有する生物学的液体を親和性マトリックスに直接適用することと、(b)溶出緩衝液により組換えタンパク質を溶出することと、(c)組換えタンパク質を含有する溶出液を透析することを含む。本発明を使用して、組換えタンパク質およびポリペプチドの作製、活性、安定性、または可溶性が増加され得る。本発明は、広範な至適pHを用いる大規模なタンパク質精製に適している。精製組換えタンパク質の収量は高く、純度も十分である(95%超)。本発明の利点には、様々な溶出緩衝液および親和性マトリックスが選択され得ることと、商業利用が可能になることも含まれ、前者には砂糖、塩、および/またはpHが含まれ、後者には澱粉、マンノース、デキストラン、またはグリコーゲンが含まれる。さらに、SBDは、グルタチオン‐S‐転移酵素、(GST)、MBP、チオレドキシン(Trx)、またはNusを含む通常使用される融合タンパク質の標識よりも小さく、また、本システムはEDTA‐、EGTA‐、またはDTT‐含有試料を含む特定の試料を精製するのに適している。
【0019】
本発明は、組換えタンパク質とその応用例を精製するキットを提供する。このキットは、本発明による組換えタンパク質を発現する発現ベクターを含む。このキットはさらに、親和性マトリックスおよび溶出緩衝液を含む。この親和性マトリックスは、SBDと結合して組換えタンパク質を分離する。溶出緩衝液を使用して、SBDと親和性マトリックスとの間の関係を断つ。
【0020】
以前述べたとおり、目的のポリペプチドは、抗体、抗原、治療用化合物、酵素、またはタンパク質と考えられる。本発明により提供されるキットを介して、これらの生成物が過剰産生また、速やかに精製され得る。これらの生成物の応用例は、以下のとおりである。
【0021】
目的のポリペプチドは、病原の損傷/破壊または検出を標的とし、これを可能にする抗体または治療用化合物と考えられる。本発明は、澱粉を用いて抗体または治療用化合物が容易に精製され、さらにSBD領域を切断することにより分離され得るようになる。この精製された生成物を使用して、病原が治療または検出される。
【0022】
目的のポリペプチドは、免疫反応を誘導する抗体または抗原化合物と考えられる。この融合タンパク質は、澱粉などの親和性マトリックスと結合する。この融合タンパク質結合澱粉は、食糧源として供給され得る。融合タンパク質結合澱粉を食するとき、使用者はワクチン効果を得ることができる。融合タンパク質結合澱粉は、経口ワクチンとなり得る。
【0023】
本発明はさらに、口腔ケアの構成物に関する応用例を提供する。この口腔ケアの構成物は本発明のSBDを含んでいて、その構成物は、練り歯磨き、デンタルクリーム、ジェルまたは歯磨き粉、歯用洗浄剤、口腔用洗浄剤、歯磨きの前または後のすすぎ液、チューインガム、口内錠、およびキャンディからなるグループから選択されることを特徴とする。この口腔ケアの構成物はさらに、1またはそれ以上のSBD間の融合産物と、酸化酵素、ペルオキシダーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、エステラーゼ、デアミナーゼ、ウレアーゼ、および多糖加水分解酵素からなるグループから選択される酵素とを含む。この口腔ケア産物は経口多糖を消化し、虫歯を予防する。
【0024】
本発明はさらに、炭水化物結合ドメインの様々なKd値を使用することにより、炭水化物含有分子を選別する方法も提供する。炭水化物含有分子は様々な糖タンパク質の混合物であり、その炭水化物は単糖、二糖、または多糖と考えられる。例えば使用者は、セパレータ(おそらくカラム)として澱粉結合ドメイン(SBD)を使用して糖タンパク質を選別することができる。様々なKd値を用いて、勾配のあるリガンド結合能を有する一連のマトリックスを生成する。このSBDは、野生型および突然変異型を含む、本発明のRhizopus sppから得られると考えられる。このSBDは、CBMファミリー21およびCBMファミリー20などのSBDを産生することがわかっている種から得られると考えられる。この既知の種には、Arxula、Lipomyces、Aspergillus、Bacillus、Clostridium、Cryptococcus、Fusarium、Geobacillus、Neurospora、Pseudomonas、Streptomyces、Thielavia、およびThermoanaerobacterが含まれる。
【0025】
試料を一組のセパレータに負荷すると、SBD結合分子がカラムに保持され、非結合分子は排除される。したがって、この試料はSBD結合群と非結合群とに選別され得る。一つの容器に非結合分子を収集し、別の容器にSBD結合分子を溶出し、どちらもさらに選別することもできる。さらなる選別法は、液体カラムクロマトグラフィ解析、質量分析、レクチン免疫センサ法、二次元ゲル電気泳動、酵素学的方法、および化学的誘導体化など、化学的特性、物理的特性、または生物学的特性に基づくと考えられる。
【0026】
本発明はさらに、ベータシートとベータシートの相互作用によりモノマーが互いに相互作用する澱粉結合ドメインを含む原線維も提供していて、その澱粉結合ドメインが、Rhizopus、Arxula、Lipomyces、Aspergillus、Bacillus、Clostridium、Cryptococcus、Fusarium、Geobacillus、Neurospora、Pseudomonas、Streptomyces、Thielavia、およびThermoanaerobacterから選択されることを特徴とする。好適な実施形態では、澱粉結合ドメインはRhizopus oryzae由来である。原線維の実施形態では、この原線維は管状構造である。この原線維は、炭水化物分離および薬物送達システムに適用される。
【0027】
本発明はまた、澱粉酵素候補における澱粉結合ドメインのリガンド結合部位の同定法も提供していて、その同定法は、(a)候補酵素および既知のリガンド結合部位を含む既知の澱粉酵素の構造に基づく多重シーケンスアラインメントおよび芳香族残基を作製することと、(b)二次構造の順次相関アルゴリズム(PSSC)による、既知の酵素と候補酵素との間でシーケンスアラインメントのトポロジーを比較することと、(c)既知の酵素の既知のリガンド結合部位を、候補酵素において相当する位置に存在する残基に相関させることを含む。
【0028】
結果として生じる候補酵素の残基の機能を同定するため、本発明の方法はさらに、部位特異的突然変異、化学修飾、UV差分光法、または定性的および定量的結合アッセイなどの測定法を含む。
【0029】
本願明細書で使用される「リガンド」という用語は、澱粉、シクロデキストリン、マルトヘプタオース、マルトヘキサオース、およびマルトペンタオースからなるグループから選択されるが、それに限定されない。
【0030】
この候補酵素は、CBM20、CBM21、CBM25、CBM26、CBM34、およびCBM41からなるグループから選択される。好適な酵素は、CBM20およびCBM21から選択される。より好適な酵素は、真菌属Rhizopusから得られる。もっとも好適な酵素は、Rhizopus oryzaeから得られる。
【0031】
この候補酵素は、グルコアミラーゼ、α‐アミラーゼ、β‐アミラーゼ、acarviose transferase、グルコシルトランスフェラーゼ、グルカノトランスフェラーゼ、シクロデキストリン、グルコシルトランスフェラーゼ、マルトペンタオヒドロラーゼ、マルトジェニックα‐アミラーゼ、アミロプルラナーゼ、α‐グルカン水ジキナーゼ、genethonin‐1、ラフォリン、催色強調タンパク質、またはプロテインフォスファターゼであるが、それに限定されない。
【0032】
この候補酵素のリガンド結合部位を予測するのに使用される既知の酵素は、CBM20、CBM25、CBM26、またはCBM34から選択される。この既知の酵素の好適な実施形態は、CBM20またはCBM34から選択される。この既知の酵素のより好適な実施形態は、Aspergillus nigerから選択される。
【0033】
本法では、二次構造の順次相関(PSSC)アルゴリズムは、(1)αヘリックスとβストランドの位置および境界を割当てるための既存の予測システムを用いて多くの二次構造を得ることと、(2)αヘリックスおよびβストランドを象徴化し、制約された残基として予め規定される、芳香族残基Y、W、Fが選択され、標識化することにより、予測される二次構造をそれぞれ新しいシーケンスに変換することと、(3)テンプレートとして分解した三次元構造を用いて、1つのタンパク質シーケンス上で順次相関操作を実施することの3つのステップを含む。
【0034】
具体的には、予測される二次構造と既知のテンプレートとの間で考え得るすべてのアラインメントのセットからスコアが計算される。最高値を示すアラインメントは、テンプレート構造の残基に相当する主要な残基を同定し得る最善のアラインメント候補である。相関操作を実施して、二次構造および制約された芳香族残基の位置に関して、最善のアラインメントを提供する。
【0035】
本発明では、トポロジーは免疫グロブリン様トポロジーである(CATH code 2.60.40)。
【0036】
以下の実施例は、制限のためではなく、例示のために提供するものである。
【実施例1】
【0037】
(A)SBD‐6Hの構築
【0038】
フォワードプライマー5’‐CATATGGCAAGTATTCCTAGCAGT‐3’およびリバースプライマー5’CTCGAGTGTAGATACTTGGT‐3’(太字で示した制限酵素認識部位はこの2つのプライマーへ組み込まれた)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により残基26〜131からグルコアミラーゼのSBDをコードする遺伝子を精製した。PCR産物をクローニングしてpGEM‐T簡易クローニングベクター(Promaga)を作製し、DNA塩基配列決定により検証した。その後、sbd遺伝子のフラグメントをNodeI部位およびXhoI部位でpET23a(+)発現ベクター(Novagen)に結合し、pET‐SBDを生成した。pET‐SBDによりコードされたSBD‐6Hは、C末端にHis6タグを含む。この構築物を形質転換の受容性のあるEscherichia coli BL21‐Gold(DE3)(Novagen)へ形質転換して、タンパク質を発現させた。
【0039】
SBD‐6Hの発現および精製
【0040】
pET‐SBDを用いて形質転換したBL21‐Gold(DE3)細胞を、OD600が0.6に達するまで、100μg/mlアンピシリン含有LB培養液中で、37℃で増殖させた。次に温度を20℃まで下げ、最終濃度400μMまでイソプロピルβ‐D‐チオガラクトシド(IPTG)を添加して、組換えタンパク質を発現させた。さらに16時間インキュベートしたのち、4℃で3,700 g、15分間の遠心により細胞を採取し、その結果生じたペレットを結合緩衝液20 ml(50 mM酢酸ナトリウム、pH5.5)中で再懸濁後、破砕した(細胞破砕機EmulsiFlex‐C5)。4℃で16,000 g、15分間の遠心により、細胞の破片を除去した。上清を顆粒状のコーンスターチ(あらかじめ結合緩衝液で洗浄)に直接適用後、25℃で軽く振盪しながらインキュベートした。その澱粉を10カラム容量の結合緩衝液を用いて2回洗浄し、次に2カラム容量の溶出緩衝液(50 mMグリシン/NaOH、pH10)を用いて溶出した。PM‐10膜(カットオフ値10 kDa)を備えたAmicon攪拌型濃縮器(Millipore)を使用して、その溶液を結合緩衝液に対し透析した。15%SDS‐PAGEゲルにより各画分を解析し、次にクマシーブリリアントブルーで染色した。タンパク質濃度は、ビシンコニン酸(BCA)試薬キット(Pierce)により測定した。
【0041】
融合SBD‐6Hは、至適条件においてE. coli BL21‐Gold(DE3)で発現させた。誘導期ののち、顆粒状のコーンスターチにより可溶性画分をワンステップで精製した。以前報告された方法を採用して溶出剤としてマルトースを使用したときのSBDの溶出効率が低かったため(Paldiら、Biochem.J.(2003)372:905‐910)、本願明細書ではグリシン/NaOH(pH10)を使用してSBDを溶出する代替法を適用した。15%SDS‐PAGEにより精製SBD‐6Hを解析し、図1に示したとおり、クマシーブリリアントブルーで染色した。単一ステップで精製されて生じたSBD‐6Hは均質である。この改良された方法により、細菌可溶化液からSBDを迅速かつ効率的に精製できるようになった。純度(>98%)および収率(>90%)は高値となる。
【実施例2】
【0042】
結合能および安定性に対するpHの効果
【0043】
澱粉結合アッセイで詳述したとおり、結合能を測定するため、SBD‐6Hおよび顆粒状のコーンスターチを緩衝液に入れ、様々なpH値で1時間インキュベートした。安定性については、グリシン/HCl(pH3)、酢酸ナトリウム/酢酸(pH4〜5)、Na2HPO4/NaH2PO4(pH6〜7)、Tris/HCl(pH8)、およびグリシン/NaOH(pH9〜10)を含む異なる緩衝液にSBD‐6Hを入れ、25℃で30分間保持することにより測定した。残る結合能については、酢酸ナトリウム緩衝液(50 mM、pH5.5)に入れ、25℃で1時間測定した。pH5のときに測定されたSBD‐6Hの相対的結合能を100%として基準とした。
【0044】
SBD‐6Hの安定性について、pH3〜10の範囲で解析したところ、SBD‐6Hは広範なpH、すなわち極度の酸性およびアルカリ性の条件でも安定していた(図2)。結合アッセイを用いて、不溶性澱粉の吸収に関する至適pHの範囲を同定した。図2に示したとおり、SBD‐6Hの結合が最大となるpHの範囲は5〜6であり、pH4およびpH8の相対的結合能は、それぞれわずか60.6%および55.1%であった。
【0045】
図2に示したとおり、SBD‐6Hは広範な範囲のpH、すなわち極度の酸性およびアルカリ性のpHでも安定していた。これにより、SBDの澱粉に対する結合能がpH依存性であることも示された。結合のための至適pHは約5〜6であり、マルトースを使用した以前の試験と同等であった。この以前の試験では、マルトースは至適溶出剤ではなかったが、澱粉からSBDを放出させるために使用された。ここでわれわれは、pH依存性の結合能という特性に基づいて、この問題を克服した。溶出剤としてアルカリ性緩衝液を用いて、溶出効率を増加させた(>90%)。
【実施例3】
【0046】
SBD−6Hの不溶性澱粉に対する会合定数
【0047】
15.6〜27.2 μMの濃度範囲の精製SBD‐6Hをあらかじめ洗浄した顆粒状のコーンスターチ1mg/mlに添加し、25℃で軽く攪拌しながら5時間インキュベートした。澱粉の沈殿ごとに、様々な時間間隔で結合を終了した。4℃で16,000g、10分間の遠心後、BCAアッセイにより上清のタンパク質濃度(非結合タンパク質)を測定し、最初のタンパク質濃度と非結合タンパク質濃度との間の差から結合タンパク質量を計算した。澱粉グラム当たりのタンパク質(マイクロモル)として表される平衡時の結合タンパク質は、測定されたタンパク質濃度の範囲では遊離(非結合)タンパク質の一次関数となっていた。
【0048】
図3に示したとおり、異なるタンパク質濃度時に、顆粒状のコーンスターチに対するSBD‐6Hの吸着速度を測定した。最初の10分間で、SBD‐6Hの約50%が不溶性澱粉と結合した(平衡状態時の結合タンパク質量に対し)。初回期間(40分まで)に、吸着は線形位相を示した。結合タンパク質量は、培養時間に比例した。異なるSBD‐6H濃度時の初回結合曲線の傾きにより示された会合定数はほぼ同じであった(0.18±0.1 μmol/min・g)。線形位相後(40分後)、延長された培養時間内に結合タンパク質が徐々に増加した。120分後には、相対的結合が95%超に達した。平衡に達するのに必要な時間は、Aspergillus SBDとほぼ同じであった(Paldiら、Biochem. J.(2003)372:905‐910)。
【実施例4】
【0049】
澱粉結合アッセイ
【0050】
飽和結合アッセイとして、澱粉結合等温線を解析した。SBD‐6Hをあらかじめ洗浄した顆粒状のコーンスターチ1 mg/mlと混和し、25℃軽く攪拌しながら16時間インキュベートした。4℃で16,000 g、10分間の遠心後、結合タンパク質量を計算した。アッセイ期間中に沈殿が生じていないことを確認するために、澱粉ではなく、タンパク質を含む対照を含めた。結合タンパク質(Bmax)の解離定数(Kd)および最大量は、非線形回帰を示す結合等温線にあてはめることにより計算し、また、方程式(1)を用いて結合部位1箇所の飽和結合を求めた。
【0051】
【数1】
ここではB(μmol)は結合タンパク質を示し、Bmax(μmol)は結合タンパク質の最大量、F(μmol)は本システムの遊離タンパク質、Kd(μmol)は平衡解離定数であった。BmaxおよびKdの計算値の単位は、それぞれμmol/gおよびμMに変換した。
【0052】
SBDの結合親和性および結合能
【0053】
図4に示したとおり、澱粉結合等温線を用いて精製SBD‐6Hの親和性および結合能について試験した。方程式(1)を用いて非線形回帰曲線を示す平衡等温線を計算し、結合パラメータ(BmaxおよびKd)を算出した。結合部位1箇所の飽和結合について2つのパラメータモデルにより算出された結合パラメータ(KdおよびBmax)は、それぞれ1.43±0.14 μMおよび41.14±1.05 μmol/gであった。さらに、改変され、タンパク質分解により作製されたAspergillusのSBDの解離定数(それぞれ3.2±0.9 μMおよび12.7±0.5 μM)は、SBD‐6Hより約2〜10倍高かった(Paldiら、Biochem.J.(2003)372:905‐910。Belshawら、FEBS Lett(1990)269:350‐353)。これらの観察結果は、不溶性澱粉に対するSBD‐6Hの結合親和性のほうがAspergillusのSBDを上回ることを示している。一方、この改変された、タンパク質分解的に作製されたAspergillusのSBD(それぞれ0.56 μmol/gおよび1.08±0.02 μmol/g)は、SBD‐6Hと著しく異なっていた。SBD‐6HのKdはAspergillusのSBDの約2分の1であるが、SBD‐6HのBmaxはAspergillusのSBD‐6Hの約70倍と顕著に高い。これらの結果から、SBD‐6Hの澱粉結合の親和性および結合能は、いずれもAspergillusのSBDを上回っていることが示された。
【実施例5】
【0054】
(A)SBD‐eGFPの構築
【0055】
続いて、eGFP遺伝子のフラグメントをNcoIおよびXhoI部位でpET‐SBDに結合し、pSBD‐eGFPを生成した。図5に示したとおり、プラスミドを構築した。pSBD‐eGFPによりコードされたSBD‐eGFPは、N末端にSBD‐6Hを、C末端にeGFPを含む。この構築物を形質転換受容性のあるEscherichia coli BL21‐Gold(DE3)(Novagen)へ形質転換して、タンパク質を発現させた。
【0056】
(B)SBD‐eGFPの発現および精製
【0057】
pET‐SBDを用いて形質転換したBL21‐Gold(DE3)細胞を、OD600が0.6に達するまで、100μg/mlアンピシリン含有LB培養液中で、37℃で増殖させた。次に温度を20℃まで下げ、最終濃度400μMまでイソプロピルβ‐D‐チオガラクトシド(IPTG)を添加して、組換えタンパク質を発現させた。さらに16時間インキュベートしたのち、4℃で3,700 g、15分間の遠心により細胞を採取し、その結果生じたペレットを結合緩衝液20 ml(50 mM酢酸ナトリウム、pH5.5)中で再懸濁後、破砕した(細胞破砕機EmulsiFlex‐C5)。4℃で16,000 g、15分間の遠心により、細胞の破片を除去した。上清を顆粒状のコーンスターチ(あらかじめ結合緩衝液で洗浄)に直接適用後、25℃で軽く振盪しながらインキュベートした。その澱粉を10カラム容量の結合緩衝液を用いて2回洗浄し、次に2カラム容量の溶出緩衝液(50 mMグリシン/NaOH、pH10)を用いて溶出した。PM‐10膜(カットオフ値10 kDa)を備えたAmicon攪拌型濃縮器(Millipore)を使用して、その溶液を結合緩衝液に対し透析した。15%SDS‐PAGEゲルにより各画分を解析し、次にクマシーブリリアントブルーで染色した。タンパク質濃度は、ビシンコニン酸(BCA)試薬キット(Pierce)により測定した。
【0058】
15%SDS−PAGEゲルにより精製SBD‐eGFPを解析し、図6に示したとおり、クマシーブリリアントブルーで染色した。
【実施例6】
【0059】
(A)構造に基づく多重シーケンスアラインメント
【0060】
Jpred server(URL、http://www.compbio.dundee.ac.uk/〜www‐jpred/Cuff,J.A.,Clamp,M.E.,Siddiqui,A.S.,Finlay,M.およびBarton,G.J.(1998)Jpred:共通二次構造予測サーバー。Bioinformatics14、892‐893)およびNetwork Protein Sequence Analysis(NPSA)サーバー(URL、http://npsa‐pbil.ibcp.fr/Combet,C.,Blanchet,C.,Geourjon,C.およびDeleage,G.(2000)NPS@:ネットワークタンパク質シーケンス解析。Trends Biochem.Sci.25、147‐150)で、二次構造予測を実施した。ClustalXプログラム(Thompson,J.D.,Gibson,T.J.,Plewniak,F.,Jeanmougin,F.およびHiggins,D.G.(1997)。CLUSTAL Xウィンドウズ・インターフェース:品質管理ツール支援下の柔軟な多重シーケンスアラインメント戦略。Nucleic Acids Res.25、4876‐4882)を活用し、二次構造予測結果を用いて、R.oryzae、A.adeninivorans、M.circinelloides、およびA.niger由来GAの4つの澱粉結合ドメインの多重シーケンスアラインメントを求め、二次構造プロファイルアラインメントを選択した。
【0061】
(B)累進的二次構造相関アルゴリズム
【0062】
本試験において、われわれはPSSCアルゴリズムを開発したが、これはタンパク質ファミリーの関連シーケンスから二次構造および機能的に重要な残基を予測する組み合わせの情報科学を基礎とした。PSSCは、(1)αヘリックスとβストランドの位置および境界を割当てるための既存の予測システムを用いて多くの二次構造を得ることと、(2)αヘリックスおよびβストランドを象徴化し、制約された残基として予め規定される、芳香族残基Y、W、Fが選択され、標識化することにより、予測される二次構造をそれぞれ新しいシーケンスに変換することと、(3)テンプレートとして分解した三次元構造を用いて、1つのタンパク質シーケンス上で順次相関操作を実施することの3つのステップを含む。予測されるすべての二次構造のなかで、最高スコアを示す二次構造は、テンプレート構造の残基に相当する主要な残基を同定し得る最善の候補である。注釈をつけたαヘリックスおよびβストランドのセグメントは、それぞれ「α」および「β」という記号で簡略化し、ループ構造は、制約された規定の残基か、あるいは芳香族残基が割当てられていないときは記号「N」を代用した。最終ステップでは相関操作を実施し、二次構造および制約された芳香族残基の位置に関して最善のアラインメントを提供した。スコアを適合させるため、様々な重み付けを割当てて、二次構造の関係性を強化した。記号「α」および「β」にマッチしたときはスコア2を、「Y」、「W」、「F」、「N」にマッチしたときはスコア1を、ミスマッチのときはペナルティとしてスコア−1を割当てた。主要な残基を同定するため、さらなる相関アラインメントにより、最高スコアを示すと予測される二次構造を選択した。
【0063】
(C)モデル構築
【0064】
RoGACBM21の分子モデルは、テンプレートとしてAnGACBM20の核磁気共鳴構造(PDB code 1AC0(Sorimachi,K.,ら(1996)核磁気共鳴スペクトル測定法によるAspergillus niger由来グルコアミラーゼの顆粒状の澱粉結合ドメインの溶液構造。J.Mol.Biol.259、970‐987)を用いて、タンパク質モデリングサーバーSwiss Model(Schwede, T., Kopp,J.,Guex,N.およびPeitsch,M.C.(2003)SWISS‐MODEL:自動タンパク質相同性モデリングサーバー。Nucleic Acids Res.31、3381‐3385)により作製した。AnGACBM20には相当する残基が存在しなかったため、修飾されたシーケンスアラインメントに基づいて、RoGACBM21モデル構造から残基1〜13を削除した。DeepViewのGROMOS96を実行することにより、このモデルのエネルギー最小化を行った。WebLab ViewerLiteを用いて、分子グラフィックスを行った。
【0065】
(D)磁気円偏光二色性
【0066】
450‐Wキセノンアークランプを備えたAviv circuar dichroism spectrometer(モデル202)に、磁気円偏光二色性(CD)スペクトルを記録した。長方形の石英ガラス製キュベット(25℃および96℃時のパス長0.1 cm、スキャン速度4 nm秒-1、バンド幅0.5 nm)において、波長200〜260 nmの遠紫外線スペクトル測定を行った。各スペクトルは連続3回のスキャンの平均とし、スペクトルのバッファを減算することで補正した。
【0067】
(E)RoGACBM21モデルの構築
【0068】
CBM20、CBM21、CBM25、CBM26、CBM34、およびCBM41の6つのCBMファミリーはSBDを含んでいるが、現在のところ構造が解明されているのはCBM20、CBM25、CBM26、およびCBM34のみである。これらの三次元構造は、免疫グロブリン様トポロジーを共有しているため(CATH code 2.60.40)(Pearl,Fら(2005)CATHドメイン構造データベース、関連リソースGene3D、DHSはゲノム解析に対し包括的なドメインファミリー情報を提供する。Nucleic Acids Res.33、D247‐251)、シーケンスの同一性が高くなくても、GAのすべてのSBDが同じ三次元構造を有すると提唱されている。
【0069】
CBM21のシーケンスは以前解明されたCBM20の構造との同一性レベルが高くないため、構造に基づく新規の多重シーケンスアラインメント戦略を用いて、トポロジーは同じであるが、シーケンスが異なるタンパク質同士を比較した。本試験で用いたCBM21のSBDシーケンスの二次構造は、当初は、共通二次構造予測サーバーJpredおよびNPSAを用いて予測した。これらのサーバーは、多数の二次構造予測法を用いて共通結果を構築する。AaGACBM21を除く全CBM21のSBDの二次構造の共通構造から、AaGACBM21では8個のβストランドがCBM20の構造的特徴と一致していて、7番目のβストランドがαヘリックスと置き換わっていることが明らかになった。図7Aは、CBM20およびCBM21ファミリーの構造に基づく多重シーケンスアラインメントの結果を示す。芳香族残基および二次構造要素の大半は配列されていないと考えられたが、CBM21に保存されている芳香族残基Tyr16、Tyr33、Trp47、およびTyr86は、AnGACBM20の主要なリガンド結合残基Tyl527、Trp543、Tyr556、およびTrp590の近傍に存在していた。RMoGACB21において可能性のあるリガンド結合残基を他にも同定しようとして、PSSCアルゴリズムを用いて構造に基づく多重シーケンスアラインメントを求めた。αヘリックスおよびβストランドの相対的な構造からだけでなく、リガンド結合に関与してテンプレートと同等の機能を維持するループ領域上の主要な残基からも、強力に相関する結果が得られるとの仮説を立てた。図7Bに示したとおり、相対的な位置および長さの観点から言えば、二次構造要素の配列は良好であり、また、RoGACBM21の8個の芳香族残基は、AnGACMB21において相当する残基とともに保存された。
【0070】
リガンド結合に関与すると考えられる芳香族残基について、構造に基づくシーケンスアラインメント(図8A)によりさらに検討したが、このシーケンスアラインメントはPSSCとClustalXを組み合わせて作製した。この結果から、RoGACBM21において可能性のあるリガンド結合残基(Tyr32、Trp47、Tyr58、Tyr67、Tyr83、Tyr93、およびTyr94)がいくつか確認された。AnGACBM20に従って、14〜106にわたる残基からRoGACBM21の分子モデル(図8B左パネル)を作製した。重なった主原子(356原子)の二乗平均平方根は1.38Åであり、このモデルがテンプレート構造に非常によく適合していることを示している。AnGACBM20の構造および2つのリガンド結合部位(図8B右パネル)から判断して、われわれはRoGACBM21のリガンド結合残基を2つの部位、つまり部位I(Tyr32、Tyr58およびTyr67)と部位II(Trp47、Tyr83、Tyr93およびTyr94)に分類することが可能で、側鎖に位置するTyr58およびTyr94はRoGACBM21の構造内部に向っていてリガンド結合に関与していないとの仮説も立てた。
【0071】
RoGACBM21モデルは、三重のβシートおよび五重のβシートを含む(図8C左パネル)。この2種類のβシートはβストランドおよび位相的構成(1↓2↑5↓)と(4↑3↓6↑7↓8↓)を有する逆平行のβストランドからなる。RoGACBM21のβストランド2〜8は、AnGACMB20のβストランド1〜7に重なると考えられ(図8C右パネル)、RoGACBM21の1番目のストランドは、逆方向ではあるが、AnGACBM20の8番目のβストランドに重なる可能性が考えられた。
【0072】
(F)全βストランドの二次構造
【0073】
未変性状態のRoGACBM21のCDスペクトル(図9)のトラフ値は215 nmであり、βストランドのみを含むタンパク質の典型である。これは、RoGACBM21がらせん構造を含んでいないことと、βストランド構造とランダムコイル構造のどちらも高次元構造全体に著明に貢献していることを示唆している。この観察結果は、澱粉結合CBMの二次構造予測および一般的な全βストランド構造の結果と一致している。スペクトルには約230 nmのピークも含まれていて、これはある種の炭水化物結合ドメインには珍しい特徴であるが、これらのドメインでは、ジスルフィド結合や、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンの芳香族側鎖により、スペクトルのピークが正の楕円率となると考えられる(Roberge,M.,Lewis,R.N.,Shareck,F.,Morosoli,R.,Kluepfel,D.,Dupont,C.およびMcElhaney,R.N.(2003)Streptomyces lividans由来キシラナーゼAの熱変性に関する示差走査熱量測定、磁気円偏光二色性スペクトル、およびフーリエ変換赤外分光法による特徴付け。Proteins 50、341‐354)。RoGACBM21は18個の芳香族残基を含むがシステインは認められない(図8A)。これはピークが約230 nmの正の楕円率であることの原因が芳香族残基である可能性を示唆している。
【実施例7】
【0074】
(A)特定部位の突然変異誘発
【0075】
RoGABMC21の突然変異はいずれも、PCRに基づくQuickChamge特定部位の突然変異誘発法(Stratagene)を使用して、テンプレートとしてpET‐RoGACBM21を、そして任意の突然変異を含む2つの相補プライマーとPfu Turbo DNAポリメラーゼ(Stratagene)とを用いて作製した。各突然変異プラスミドのシーケンスを検証して、PCR誘発性の突然変異がさらに導入されていないことを確認した。すべての構築物を形質転換の受容性のあるE coli BL21‐Gold(DE3)へ形質転換して、タンパク質を発現させた。
【0076】
(B)野生型および変異型RoGACBM21のUVの差スペクトル
【0077】
全スペクトルは、270〜300 nm、バンド幅0.5 nmにおいて、紫外可視分光計(Hitachi U‐3310)を用いて得た。30 μMの野生型または変異型RoGACBM21のスペクトルは、25℃で、pH5.5、50 mMの酢酸ナトリウムに入れ、βシクロデキストリン(βCD)(Sigma)の有無によって記録した。タンパク質のみのスペクトルをタンパク質リガンドスペクトルから減算して算出した各差スペクトルを用いて、モデル化合物N-アセチルトリプトファン(50 μM)(Sigma)およびN‐アセチルチロシン(100 μM)(Sigma)(20%DMSOにて摂動)の差スペクトルと比較した。
【0078】
(C)N‐ブロモスクシンイミド(NBS)によるトリプトファン残基の化学修飾
【0079】
長方形の石英ガラス製キュベット(パス長1 cm、25℃)において、500 μMのβCDまたは変性剤(尿素8 M)の存在下で、NBS(1 mMを新たに調製)(Sigma)を用いて、未変性の野生型およびW47AのRoGACBM21タンパク質(酢酸ナトリウム50 μM中30 μM、pH5.5)を滴定することにより、トリプトファン残基の酸化を行った。各滴定時に混合物を3分間インキュベートし、紫外可視分光計を用いて280 nm時の吸光度を記録した。滴定過程は、280 nm時の吸光度の減少傾向が止む、あるいは上昇し始めるまで継続した。NBSにより酸化されたトリプトファン残基の数を、吸光法を用いて計算した(Spande,T.F.およびWitkop,B.(1967)N‐ブロモスクシンイミドによるタンパク質のトリプトファン含量の測定。Methods Enzymol.11,498‐506)。
【0080】
(D)テトラニトロメタン(TNM)によるチロシン残基の化学修飾
【0081】
Sokolovskyら(1966)(テトラニトロメタン。タンパク質中のチロシル残基のニトロ化用試薬。Biochemistry 5、3582‐3589)による報告のとおり、TNMを用いてチロシン残基のニトロ化を実施した。RoGACBM21(Tris‐HCl100 mM中10 μM、pH8.0)を25℃で180分間TNM(95%エタノール中1 mM)に添加して、紫外可視分光計を用いて428 nm時の吸光度をモニタリングした。TNMにより酸化されたチロシン残基の数を、3‐ニトロチロシンのモル吸光係数4,100 M−1cm−1を用いて計算した。
【0082】
(E)RoGACBM21における2個のトリプトファン残基の異なる役割
【0083】
NBSを使用して、RoGACBM21の表面上で作用を受けたトリプトファン残基の数についてさらに評価した。RoGACBM21におけるトリプトファン残基に対するNBSの修飾を、280 nm時の吸光度の減少を記録することによりモニタリングした(図10A)。未変性RoGACBM21のA280の減少は、NBSとタンパク質の比率が2.5の時に増加し始めた。このようにNBSにより誘発される280 nm時の吸光度の増加は、チロシン残基の酸化後に観察されるのが一般的である(Bray,M.R.,Carriere,A.D.およびClarke,A.J.(1994)タンパク質における4次微分分光法によるトリプトファン残基およびチロシン残基の定量化。Anal.Biochem.221、278‐284)。しかし、尿素溶液中のチロシン残基はNBSにより修飾されなかったため、変性RoGACBM21のA280は増加しなかった(Sokolovskyら(1966))。図10Aに示したとおり、未変性および変性RoGACBM21の修飾トリプトファン残基の数は、それぞれ1.6および2.0と算出された。未変性および変性という条件下では、RoGACBM21に存在するトリプトファン残基の中で修飾され得るのは2個のみであり、このTrp47とTrp70のどちらもタンパク質表面上で作用を受ける可能性のあることが示されている。
【0084】
2つのTrp残基がリガンド結合部位内に存在しているかどうかを確認するため、リガンドβCDの存在下でNBSによる酸化を実施した。未変性RoGACBM21およびβCDのプレインキュベーションにより、Trp残基1個が酸化から明らかに保護された(図10A)が、これはβCD結合に関与するトリプトファン残基が1個のみであることを示唆している。
【0085】
さらにどのトリプトファン残基がリガンド結合部位に存在するのか探るため、Trp47とTrp70の両方を個々にアラニンへ突然変異させた。W47A変異体はE.coliに発現し、ここから精製された。しかし、W70A変異体の溶解性は試験したあらゆる発現条件下で非常に乏しかったことから、RoGACBM21の正確な折りたたみにはTrp70が極めて重要であることが示唆された。未変性W47A変異体をNBSで処理したところ、その結果はβCD存在下で試験した野生型RoGACBM21の結果と一致した(図10A)。これによりTrp47が主要なリガンド結合残基であることが強く示唆された。この結果は、野生型および変異型RoGACBM21のUVの差スペクトルによっても確認された(図10B)。このUVの差スペクトルは500 μMのβCDを用いて摂動し、次に20%DMSOを用いて摂動したモデル化合物N‐アセチルトリプトファンおよびN‐アセチルチロシンと比較した。277、285、および293 nm付近に3つのピークを有する野生型RoGACBM21のスペクトル(図10B、c線)は、トリプトファンおよびチロシンの摂動スペクトルと類似していた(図10B、a線およびb線)が、これによりRoGACBM21においては摂動されたトリプトファン残基およびチロシン残基がリガンド結合部位に存在することが示唆された。W47Aの差スペクトル(図10B、e線)は小さく、ベースラインスキャン時と実質的に同じであることから、Trp47残基は可溶性のリガンド結合に関与することが明らかになった。これらのデータは、可溶性リガンドとの結合においてTrp47が重要な役割を果たしていることと、Trp70が構造の維持に不可欠であることを示唆している。
【0086】
(F)リガンド結合に関する主要なチロシン残基の同定
【0087】
RoGACBM21においてTNMを用いてチロシン残基をニトロ化し、ニトロ化チロシン(3‐ニトロチロシン)のモル吸光係数を用いて表面上で作用を受けたチロシン残基の数を計算した(図10C)。全チロシン残基12個中6個を超えるTNMによりニトロ化された。これによりチロシンの50%以上が表面上で作用を受け、可能性のあるリガンド結合部位に寄与していると考えられることが示唆された。RoGACBM21に存在する重要なチロシン残基についてさらに検討するため、個別にアラニンを代用した。
【0088】
野生型RoGACBM21、トリプトファン変異体(W47A)、およびチロシン変異体(Y32A、Y58A、Y67A、Y83A、Y93AおよびY94A)において定性的結合アッセイを実施し、可能性のあるリガンド結合残基の数および位置を探った。図11に示したとおり、Tyr32、Trp47、Tyr67、Tyr83、およびTyr93をアラニンと置き換えることにより、不溶性澱粉との結合が著明に減少した。予想どおり、変異体Y58AおよびY94Aでは変化は認められなかった。これらの結果から、RoGACBM21の三次元モデルのみに基づくわれわれの仮説の妥当性が証明された。しかし、Y67A、Y83A、およびY93Aの可溶性はその他の異性体よりかなり低く、Tyr67、Tyr83、およびTyr93もRoGACBM21構造の安定化に重要であることが示された。したがって、これらの残基に関与する可溶性の二重変異体は認められなかった。したがって、以後の試験ではTyr32およびTrp47に焦点をしぼった。
【0089】
変異体Y32Aと野生型RoGACBM21のUVの差スペクトル(図10B、d線)に顕著な差は認められず、結合部位IがβCD結合に関与していないことが示された。ダイレクトシーケンスアラインメントから推測された推定上の結合残基Tyr16およびTyr86は、可溶性リガンド(図10、f線およびg線)および不溶性リガンド(図11)のどちらに対する結合にも関与していないことには注意を払うべきである。
【実施例8】
【0090】
(A)不溶性澱粉との結合の定性的測定
【0091】
野生型および変異型RoGACBM21(16 μM、100 μl)をpH5.5、50 mMの酢酸ナトリウムに入れ、それぞれ不溶性澱粉0.1mg(Sigma)と混和し、その混合液を25℃で軽く攪拌しながら5時間インキュベートし、続いてその不溶性澱粉を4℃で13,000 g、2分間の遠心によりペレット化した。15%ゲルを用いてSDS−PAGEによりそのペレット(結合画分)および上清(非結合画分)を解析した。アッセイ期間中に沈殿が生じていないことを確認するために、不溶性澱粉を含まないタンパク質を対照として含めた。
【0092】
(B)不溶性澱粉との結合の定量的測定
【0093】
飽和結合アッセイとして、澱粉結合等温線を解析した。野生型および変異型RoGACBM21(pH5.5の50 mM酢酸ナトリウム中100 μl)をあらかじめ洗浄した不溶性澱粉0.1 mgとそれぞれ混和し、25℃で軽く攪拌して16時間インキュベートした。4℃で16,000 g、10分間の遠心後、BCAアッセイを用いて上清(非結合タンパク質)のタンパク質濃度を測定し、最初のタンパク質濃度と非結合タンパク質濃度との間の差から結合タンパク質量を計算した。結合タンパク質(Bmax)の解離定数(Kd)および最大量は、標準的な単一部位結合モデルを用いて非線形回帰を示す結合等温線にあてはめることにより算出した。
【0094】
(C)可溶性多糖との結合の定量的測定
【0095】
野生型および変異型RoGACBM21の可溶性多糖(Sigma)との結合について、蛍光分光法で内在性タンパク質の蛍光強度の変化を測定することにより記録した。Perkin−Elmer LS‐55分光計を用いて、25℃で、pH5.5の50 mM酢酸ナトリウム中で実験を行った。環状構造および鎖状構造の炭水化物(2〜20 mM)をRoGACBM21(10 μM、2 ml)に滴定し、励起波長を280 nmに固定して350 nm時の蛍光スペクトルをモニタリングした。リガンド濃度に対する蛍光強度の相対的変化をプロットし、単一の結合部位に関する適切な方程式を用いて、そのデータを擬似曲線に当てはめた。
【0096】
(D)データ解析
【0097】
GraphPad Prism(GraphPad Software)を用いて、速度および親和性のパラメータに関するデータ解析を実施した。
【0098】
(E)異なるリガンド特異性を有する2つの結合部位
【0099】
精製RoGACBM21の平衡澱粉結合等温線データを非線形回帰曲線に当てはめた(図12)。単一の結合部位飽和結合に関する2パラメータモデルにより算出されたRoGACBM21の結合パラメータKdおよびBmaxは、それぞれ1.43±0.14 μMおよび41.14±1.05 μmol g−1であった(表1)。しかし、改変されたAnGACBM20(3.2±0.9 μM)およびタンパク質分解により作製されたAnGACBM20(12.7±0.5 μM)の解離定数(Paldi,T.,ら(2003)Aspergillus niger B1のグルコアミラーゼ澱粉結合ドメイン:分子クローニングおよび機能的特徴付け。Biochem.J.372、905‐910およびBelshaw,N.J.ら(1990)Aspergillus niger由来グルコアミラーゼ1の顆粒状の澱粉結合ドメインの作製および精製。FEBS Lett。269、350‐353)は、それぞれ約2倍および10倍高かった。さらに、改変されたAnGACBM20(0.56 μmol/g)およびタンパク質分解により作製されたAnGACBM20(1.08±0.02 μmolg−1)のBmax値は、それぞれRoGACBM21より70倍および40倍低かった。リガンド結合能は、アミロペクチンとアミロースとの様々な比率、澱粉粒のサイズおよび形状、あるいはその澱粉が緩衝液中にどのくらいの期間存在するかに左右される膨張効果の影響を受ける可能性があることに注意を払うべきである。
表I.不溶性澱粉に関して脱着等温線により算出されたRoGACBM21誘導体の親和性
【0100】
【表1】
【0101】
定量的結合等温線およびスキャッチャード解析(図12および表I)により、両変異体の不溶性澱粉の結合能が野生型に対して約50%まで減少したことが明らかになった。Y32A変異体およびW47変異体の結合親和性は野生型とほぼ同じであり、Y32A/Y47A二重変異体の不溶性澱粉との結合はほぼ完全に失われた。可溶性リガンドとの定量的結合データを表IIに示す。環状炭水化物について、βCD(Kd=5.1±0.7 μM)に対する野生型RoGACBM21の親和性は、γCD(Kd=8.3±1.5 μM)に対する親和性よりもやや強く、αCD(Kd>300 μM)に対する結合は比較的乏しかった。直鎖状炭水化物について、野生型RoGACBM21のKd値はリガンドの長さが増加するとともに減少した。これらの結果から、結合部位に存在する芳香族側鎖間の距離および配位がRoGACBM21とのリガンド結合における重要な決定因子であることが示された。したがって、環状炭水化物との結合はリガンドの表面のラジアンに依存し、直鎖状炭水化物との結合はリガンドの長さに支配されていた。α‐1,6‐グリコシド結合を有するリガンドについて、RoGACBM21のイソマルトトリオースに対する親和性(Kd=3.8±0.7μM)は、α‐1,4‐グリコシド結合を有する可溶性リガンド結合よりも強力であり、どちらかと言えばRoGACBM21はこの澱粉の分枝に結合する可能性があることが示唆された。
【0102】
本試験で使用した可溶性炭水化物に対するW47A変異体の親和性はあまりに低かったため、蛍光滴定のスペクトルにより測定することもできず、アラニンと置き換えることによる実質的な影響を受けることもできなかった。この結果は、実際にはTrp47が可溶性および不溶性の両リガンドとの結合に関与する重要な残基であることを示唆している。Y32A変異体および野生型RoGACBM21は様々なシクロデキストリンに対する親和性がほぼ同じであることが示され、Tyr32がシクロデキストリンとの結合に関与していないことが確認された。さらに、直鎖状少糖類の長さがY32Aとの結合に及ぼす影響は、野生型RoGACBM21に対して比較的小さかった。このことは、結合部位IがRoGACBM21とより長い直鎖状少糖類との結合を促進する可能性があることを示唆している。
表II.蛍光滴定のスペクトルにより算出された可溶性少糖類に対するRoGACBM21誘導体の親和性
【0103】
【表2】
【0104】
同等の結合親和性を持つ2つの結合部位を有する澱粉結合CBM20とは違って(Williamson,M.P.ら(1997)Aspergillus nigerのグルコアミラーゼ1澱粉結合ドメインにおいて保存されるトリプトファンの機能。Biochemistry36、7535‐7539およびGiardina,T.ら(2001)Aspergillus nigerのグルコアミラーゼの澱粉結合ドメインの両結合部位はアミロースの立体配座を変化させるのに重要である。J.Mol.Biol.313、1149‐1159)、RoGACBM21は異なる結合特異性を有する2つの結合部位を含んでいるが、このことは、炭水化物‐タンパク質を認識するにあたって、各結合部位が、異なってはいるが、協力的な役割を果たしていることを示唆している。結合部位IIは可溶性および不溶性リガンドの重要な結合部位であり、結合部位Iは長鎖炭水化物と関連してRoGACBM21を補助する。
【実施例9】
【0105】
本発明の方法を適用して、CBM20モジュールおよびCBM21モジュールを含む酵素およびタンパク質を予測することができた。GenBankを検索してcgtBacma2を除く全シーケンスを取り出した(UniProt:P31835)。以下のように、これらの酵素およびタンパク質のリガンド結合部位として予測される残基Y、W、およびFに下線を引いた。
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【実施例10】
【0106】
原線維の形成
【0107】
実施例1で作製したSBD‐6Hを97℃まで加温し、室温で放冷した(加温速度:2℃/分)。その試料を37℃で2日間インキュベートした。熱誘起アミロイド様SBD‐6H原線維を含む試料をグリッド上に30分間滴下した。試料を4%(w/v)酢酸ウラニルで5分間染色し、次にそのグリッドを風乾させてから透過型電子顕微鏡を用いて解析した。図13に示したとおり、SBD‐6Hの原線維が作製された。
【0108】
代替案として、Yen‐Chung ChangおよびChin Yu,J.Biol.Chem.,Vol.277、No.21、5月24日発行pp19027‐19036、2002で開示された内容に従って、アミロイド様原線維形成を作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】澱粉を用いたSBD−6Hの精製を示す。精製SBD−6HをSDS/PAGE(15%ゲル)にかけ、そのゲルをCoomassie Brilliant BlueR‐250で染色してタンパク質を検出する。レーン1は分子量の基準(左に表示した分子量)、レーン2はコーンスターチにおいて精製されたSBD−6Hが2マイクログラムのときのもの。
【図2】pHが結合能および安定性に対して及ぼす効果を示す。実験セクションで詳述したとおり、様々なpH時のSBD−6Hの結合能(●)および安定性(○)に対する効果を測定する。pH5のときに測定されたSBD−6Hの相対的結合能を100%として基準とする
【図3】不溶性澱粉を用いたときのSBD−6Hの吸収率を示す。様々な濃度(■15.6μM、▲22.5μM、●27.2μM)の時のSBD−6Hをコーンスターチに5時間適用することにより、SBDの会合定数を分析する。異なる時点での最初のタンパク質濃度と非結合タンパク質濃度との間の差から結合タンパク質を計算し、会合定数を算出する。
【図4】SBDと澱粉の相互作用によるKdおびBmax算出。様々なタンパク質濃度の時に、顆粒状のコーンスターチを用いて澱粉結合アッセイを実施する。1つの結合部位の飽和結合について、非線形回帰を示す結合等温線にあてはめることにより、KdおよびBmaxを算出する。
【図5】SBD標識融合タンパク質の構築を示す。eGFP:緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子、SBD:澱粉結合ドメイン、Kmr:カナマイシン耐性遺伝子。
【図6】でんぷんを用いたSBD標識融合タンパク質の精製を示す。精製融合タンパク質をSDS/PAGE(15%ゲル)にかけ、そのゲルをCoomassie Brilliant Blue R−250で染色してタンパク質を検出する。レーン1は分子量の基準(左に表示した分子量)、レーン2は可溶性画分、レーン3は溶出物。矢印I:SBD−eGFP、矢印II:eGFP、矢印III:SBD。
【図7】構造に基づく多重シーケンスアラインメントCBM20およびCBM21の比較。(A)R.oryzae(RoGACBM21)、M.circinelloides(McGACBM21)、A.adeninivorans(AnGACBM21)、Lipomyces kononenkoae α‐amylase(LkαACBM21)、ヒトのタンパク質ホスファターゼ(HsPPCBM21)、およびA.niger(AnGACB20)におけるSBDを有する構造に基づく多重シーケンスアラインメント。その白、黒、およびグレーのセグメントは、それぞれ予測される二次構造要素であるループ、βストランド、およびαへリックスである。黒のY、W、およびFは、それぞれループ領域のチロシン、トリプトファン、およびフェニルアラニンを示す。白のY、W、およびFは、βストランドの芳香族残基である。(B)PSSCアルゴリズムを用いた構造に基づくシーケンスアラインメントと、それぞれ図の上および下にRoGACBM21およびAnGACBM20の図式化されたシーケンスが記されている。βは、βストランドである。Nは、そのループ領域に芳香族残基が存在しないことを示す。AnGACBM20における主要なリガンド結合残基は、二重下線により示す。(C)R.oryzae(RoGACBM21)、M.circinelloides(McGACBM21)、A.adeninivorans(AnGACBM21)、Lipomyces kononenkoae α‐amylase(LkαACBM21)、ヒトのタンパク質ホスファターゼ(HsPPCBM21)の三次元構造のシミュレートおよび推定上のリガンド結合部位と、二次構造および本発明のトポロジーマッピングによるテンプレートとしてのA.niger(AnGACB20)の既知の構造およびリガンド結合部位。
【図8】構造に基づくシーケンスアラインメントを用いたRoGACBM21の分子モデリングを示す。(A)RoGACBM21およびAnGACBM20のβストランドの位置はグレーの矢印で表示されており、それぞれシーケンスの上および下に記されている。下線部はAnGACBM20のリガンド結合部位である(結合部位I_、結合部位II=)。RoGACBM21において炭水化物結合に関与すると予測される芳香族残基はグレーで表示されている。(B)RoGACBM21(左パネル)のモデリング構造およびAnGACBM20のテンプレート構造(右パネル、Protein Data Bank 1AC0)をリボン図で示す。本モデルでは、RoGACBM21の最初のβストランドを形成するAla1からSer13までのポリペプチドシーケンスは示さない。AnGACBM20における特徴付けられたリガンド結合部位のリガンド(βCD)および側鎖と、RoGACBM21における考え得る結合部位も示す。(C)AおよびBの方向性および構成と一致するグレーの矢印を用いて、RoGACBM21およびAnGACBM20の二次構造の方向性および構成のトポロジーを示す。
【図9】遠紫外CDによるRoGACBM21の二次構造の決定を示す。未変性RoGACBM21(黒丸)の円二色性スペクトルを、25℃、50 mMの酢酸ナトリウム中で実行する。
【図10】RoGACBM21誘導体の化学修飾およびUVの差スペクトルを示す。(A)500μMのβCDが存在しない(黒四角)または存在する(白四角)ときの未変性野生型RoGACBM21、500μMのβCDが存在しない(黒丸)または存在する(白丸)ときの変性野生型RoGACBM21(黒三角)および未変性W47Aを、NBSを用いて滴定した。このデータを正規化し、各反応の元の吸光度を調節して1.0にした。(B)20%DMSOを用いて摂動したN−アセチルトリプトファン(50μM)(a)およびN−アセチルチロシン(100μM)(b)の差スペクトルを用いて比較した。βCDを用いて摂動した野生型組換えRoGACBM21(c)、Y32A(d)、W47A(e)、Y16A(f)、およびY86A(g)の差スペクトルを正規化してタンパク質濃度を等価にした。(C)野生型RoGACBM21(Tris−HCl 100 mM中10 μM、pH8.0)を、25℃で、タンパク質の100倍以上のテトラニトロメタン共存下で滴定した。
【図11】SDS−PAGEによる解析のとおり、RoGACBM21誘導体の不溶性澱粉との定性的結合を示す。RoGACBM21の精製された野生型と、Y16A、Y32A、W47A,Y58A、Y67A、Y83A、Y86A、Y93A、およびY94Aの変異体とを不溶性澱粉共存下でインキュベートし、遠心によりペレットを形成した。レーンSは、不溶性多糖と結合しなかったタンパク質を示す。レーンPは、不溶性多糖と結合したタンパク質を含む。
【図12】脱着等温線による解析のとおり、RoGACBM21誘導体の不溶性澱粉との結合を示す。RoGACBM21誘導体の澱粉結合アッセイを、様々なタンパク質濃度で、不溶性コーンスターチ共存下で実施した。野生型RoGACBM21(黒四角)、Y32A(黒三角)、W47A(黒丸)、およびY32A/W47A(白四角)の結合等温線(左パネル)とスキャチャード解析(右パネル)
【図13】電子顕微鏡下の澱粉結合ドメインにより形成された原線維。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型の澱粉ドメインの炭水化物結合活性と比較して低下した炭水化物結合活性を有する改変された澱粉結合ドメインであって、SEQ ID No.2または3のアミノ酸シーケンスの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に変異を有するアミノ酸シーケンスを有することを特徴とする改変された澱粉結合ドメイン。
SEQ ID No.2:ASIPSSASVQ LDSYNYDGST FSGKIYVKNI AYSKKVTVIY ADGSDNWNNN GNTIAASYSA PISGSNYEYW TFSASINGIK EFYIKYEVSG KTYYDNNNSA NYQVSTS
SEQ ID No.3:ASIPSSASVQ LDSYNYDGST FSGKIYVKNI AYSKKVTVIY ANGSDNWNNN GNTIAASYSA PISGSNYEYW TFSASINGIK EFYIKYEVSG KTYYDNNNSA NYQVSTS
【請求項2】
前記32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基の変異は、アラニンへの置換であることを特徴とする、請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメイン。
【請求項3】
請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメインおよび標的ポリペプチドを含む組換えタンパク質。
【請求項4】
請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメインをコードする遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項5】
式
(X−X)n
(式中、Xはグルコース分子であり、グルコースとグルコースとの間の連鎖がα−1,4−連鎖またはα−1,6−連鎖であり、nが1以上であり、その構造の一部に、主鎖、側鎖、または修飾残基を含む)で示される化合物を含有する親和性マトリックスと結合するための、請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメインの使用。
【請求項6】
前記親和性マトリックスが、前記改変された澱粉結合ドメインの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に結合することを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
(a)請求項3に記載の組換えタンパク質を含有する生物学的液体を親和性マトリックスに直接適用することと、
(b)溶出緩衝液により前記組換えタンパク質を溶出することとを含み、前記親和性マトリックスが、
式
(X−X)n
(式中、Xはグルコース分子であり、グルコースとグルコースとの間の連鎖が、α−1,4−連鎖またはα−1,6−連鎖であり、nは1以上であり、その構造の一部に、主鎖、側鎖、または修飾残基を含む)で示される化合物を含有することを特徴とする、組換えタンパク質を精製するための方法。
【請求項8】
前記親和性マトリックスが、前記改変された澱粉結合ドメインの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に結合することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項4に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする、組換えタンパク質を精製するためのキット。
【請求項10】
前記改変された澱粉結合ドメインに結合する親和性マトリックスをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記組換えタンパク質および前記親和性マトリックスを分離するために使用される溶出緩衝液をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項1】
野生型の澱粉ドメインの炭水化物結合活性と比較して低下した炭水化物結合活性を有する改変された澱粉結合ドメインであって、SEQ ID No.2または3のアミノ酸シーケンスの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に変異を有するアミノ酸シーケンスを有することを特徴とする改変された澱粉結合ドメイン。
SEQ ID No.2:ASIPSSASVQ LDSYNYDGST FSGKIYVKNI AYSKKVTVIY ADGSDNWNNN GNTIAASYSA PISGSNYEYW TFSASINGIK EFYIKYEVSG KTYYDNNNSA NYQVSTS
SEQ ID No.3:ASIPSSASVQ LDSYNYDGST FSGKIYVKNI AYSKKVTVIY ANGSDNWNNN GNTIAASYSA PISGSNYEYW TFSASINGIK EFYIKYEVSG KTYYDNNNSA NYQVSTS
【請求項2】
前記32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基の変異は、アラニンへの置換であることを特徴とする、請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメイン。
【請求項3】
請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメインおよび標的ポリペプチドを含む組換えタンパク質。
【請求項4】
請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメインをコードする遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項5】
式
(X−X)n
(式中、Xはグルコース分子であり、グルコースとグルコースとの間の連鎖がα−1,4−連鎖またはα−1,6−連鎖であり、nが1以上であり、その構造の一部に、主鎖、側鎖、または修飾残基を含む)で示される化合物を含有する親和性マトリックスと結合するための、請求項1に記載の改変された澱粉結合ドメインの使用。
【請求項6】
前記親和性マトリックスが、前記改変された澱粉結合ドメインの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に結合することを特徴とする、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
(a)請求項3に記載の組換えタンパク質を含有する生物学的液体を親和性マトリックスに直接適用することと、
(b)溶出緩衝液により前記組換えタンパク質を溶出することとを含み、前記親和性マトリックスが、
式
(X−X)n
(式中、Xはグルコース分子であり、グルコースとグルコースとの間の連鎖が、α−1,4−連鎖またはα−1,6−連鎖であり、nは1以上であり、その構造の一部に、主鎖、側鎖、または修飾残基を含む)で示される化合物を含有することを特徴とする、組換えタンパク質を精製するための方法。
【請求項8】
前記親和性マトリックスが、前記改変された澱粉結合ドメインの32番目、47番目、67番目、83番目、または93番目のアミノ酸残基に結合することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項4に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする、組換えタンパク質を精製するためのキット。
【請求項10】
前記改変された澱粉結合ドメインに結合する親和性マトリックスをさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記組換えタンパク質および前記親和性マトリックスを分離するために使用される溶出緩衝液をさらに含むことを特徴とする、請求項9に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−44993(P2012−44993A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203696(P2011−203696)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【分割の表示】特願2007−557310(P2007−557310)の分割
【原出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(507289313)シンプソン バイオテク カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【分割の表示】特願2007−557310(P2007−557310)の分割
【原出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウィンドウズ
【出願人】(507289313)シンプソン バイオテク カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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