説明

澱粉老化防止剤および澱粉含有食品

【課題】澱粉老化も食品の品質低下にとって重要な問題であり、この澱粉老化を防止するために、各種澱粉老化防止方法が提供されているが、澱粉老化防止の効果が十分でなく、食品自体の味質、食感に影響を与えたり、煩雑性であるといった問題があった。
【解決手段】澱粉含有製品に不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類を添加することにより、それぞれを単独で添加した場合よりも高い澱粉老化防止効果を示し、食品に添加しても風味、食感を損なうことのない澱粉老化防止剤、及び前記澱粉老化防止剤を含有する澱粉含有製品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉老化防止剤および澱粉含有食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の生活環境の変化、及び流通の変化により、食品の製造から消費までに要する時間が延びてきている。以前であれば店先で製造し、購入後即消費されていた生菓子などにおいても、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで数日間店頭に並ぶことも珍しくない。このような中で食品の経時的な品質低下が食品業界にとって課題となっているが、腐敗や着色などと同様、澱粉老化も食品の品質低下にとって重要な問題となる。この澱粉老化を防止するために、各種方法が提供されている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−79689号公報
【特許文献2】特開平8−242784号公報
【特許文献3】特開平9−107899号公報
【特許文献4】特開平9−107900号公報
【特許文献5】特開2003−250473号公報
【特許文献6】特開2003−253263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のようにグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤を配合する場合には、味を損なう上、老化防止効果が弱いという問題があった。また、酵素剤を使用する場合には温度管理が煩雑であり、また澱粉由来の食感が損なわれると言う問題があった。またトレハロースなどの糖質を使用する場合、少量添加だと効果が弱いという問題点があった。また不凍蛋白質を使用する場合、特有の苦味を感じるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記のような従来提案の欠点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、澱粉含有製品に不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類を添加することにより、不凍蛋白質やオリゴ糖類または/および単糖類を単独で添加した場合よりも高い澱粉老化防止効果を示し、食品に添加しても風味、食感を損なうことのない澱粉老化防止剤、及び前記澱粉老化防止剤を含有する澱粉含有製品を得ることが出来た。
【0006】
即ち、本発明は不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類を含有することにより、風味や食感を損ねることなく、澱粉老化を防止する澱粉老化防止剤、好ましくはオリゴ糖類がトレハロース、直鎖オリゴ糖、オリゴ糖アルコール、単糖類がソルビトールである、澱粉老化防止剤に関する。また、さらに好ましくは、不凍蛋白質の配合量1重量部に対し、オリゴ糖類または/及び単糖類を1〜50000000重量部添加した澱粉老化防止剤に関する。さらには前記澱粉老化防止剤を添加した澱粉含有製品や、前記澱粉老化防止剤を添加することにより、澱粉の老化を防止する澱粉老化防止方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類が添加されていることを特徴とし、これによって、不凍蛋白質及びオリゴ糖類または/および単糖類を単独で配合した場合よりも高い澱粉老化防止効果を示し、食品の風味や食感を損なうことのない、澱粉老化防止剤を提供できる。さらには不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類を含有し、計量等のハンドリング性に優れた澱粉老化防止剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
不凍蛋白質は、氷の結晶表面を認識し、氷結晶表面に吸着し氷結晶の成長を抑制することで、凍結保存中や解凍中の氷の再結晶化を極力防止する。また、水の凍結点の低下作用を有することが知られている。また、澱粉の老化防止効果を有することも報告されている。不凍蛋白質は、植物や魚類、昆虫、微生物等に存在することが知られている。本発明における不凍蛋白質は、植物、魚類、昆虫、微生物のどれを起源としても良いが、中でも植物もしくは微生物を起源とするものが好ましく、更にアブラナ科、セリ科、ユリ科、キク科に属する植物もしくはキノコ類を起源とするものがより好ましい。また、2種類以上の異なる起源から得られた不凍蛋白質を組み合わせても良い。この植物由来の不凍蛋白質は、植物から公知の手段によって抽出、精製され製造される。例としては特開2003−250473記載の製造法が挙げられる。また、製造した不凍蛋白質の不凍活性は公知の方法にて測定される。例としては特開2003−253263号公報記載の測定法が挙げられる。
【0009】
本発明においてオリゴ糖類とは、糖質のうち、構成している単糖類の分子数が2〜10程度のものを言う。構成している単糖類としてはグルコースやフルクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース及びこれらを水素添加した糖アルコールなどが例示できる。オリゴ糖としては、例えばマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、トレハロース、スクロース、イソマルトース、ラクトース、パラチノース、ツイントース、パノース、ゲンチオビオース、ラフィノース、マルトシルトレハロース、ラクチュロース、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、マンノオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など、及びそれらを水素添加したマルチトール、マルトトリイトール、マルトテトライオール、イソマルチトール、ラクチトール、還元パラチノースなどを例示できる。また、2種類以上のオリゴ糖を組み合わせても良い。
【0010】
本発明において澱粉含有製品とは、澱粉を含む製品であればどのようなものでも良い。澱粉としては、小麦澱粉、とうもろこし澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉などを例示できる。また、アルファー化澱粉、可溶化澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、グラフト化澱粉、焙焼デキストリン、酵素変性デキストリンなどの化工澱粉であっても良い。また、本発明の澱粉含有製品には澱粉、不凍蛋白質、オリゴ糖以外に、水や各種食品素材、食品添加物などを添加することが出来る。
【0011】
本発明における澱粉老化防止剤は、不凍蛋白質1重量部に対し、オリゴ糖類または/及び単糖類を1〜50000000重量部、好ましくは10〜500000重量部添加した澱粉老化防止剤に関する。本発明における澱粉老化防止剤は、不凍蛋白質とオリゴ糖または/および単糖以外に、水や各種食品素材、食品添加物などを添加することが出来る。不凍蛋白質は澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対して0.000001重量部という極微量でも効果を発揮するため、少量の澱粉含有製品を調製する際に使用する場合は、計量等の問題やその分散性の問題が生じる場合がある。そこで、オリゴ糖または/および単糖を含む食品素材や食品添加物、水等で媒散することにより、計量等のハンドリング性が良好になるというメリットが生じる。本発明における澱粉老化防止剤は、不凍蛋白質とオリゴ糖類または/及び単糖類を前記の比率にすると、特に計量等のハンドリング性や不凍蛋白質の分散性が良好となり、さらに澱粉老化防止効果に優れた澱粉老化防止剤が得られる。また、不凍蛋白質とオリゴ糖類または/及び単糖類を前記の比率にすると、不凍蛋白質に特有の苦味を低減することが出来る。
【0012】
本発明における澱粉老化防止剤は、澱粉含有食品中の澱粉100重量部に対し、0.000001〜50重量部、好ましくは0.00001〜30重量部添加することができる。0.000001%重量部以下では、澱粉老化防止効果は得られず、50重量部以上ではその添加量以上の効果は期待できない。
不凍蛋白質は多量に添加すると特有の苦味を感じるが、オリゴ糖または/および単糖添加により不凍蛋白質の苦味を低減することが出来る。但しオリゴ糖または/および単糖を添加した場合においても、澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対して不凍蛋白質1重量部以上の添加率としても、澱粉老化防止効果はその添加以上の効果は得られず、また不凍蛋白質が持つ苦味により、食品の風味が低下することがあるので、澱粉含有製品製品中の澱粉100重量部に対して不凍蛋白質1重量部以下の添加量であることが好ましいが、その場合においても、澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対して不凍蛋白質が0.000001重量部未満になると澱粉老化防止効果が少なくなるため、澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対し不凍蛋白質の添加量は0.000001〜1重量部が好ましい。また、オリゴ糖や単糖は、その種類によっては緩下性が問題になる場合があり、またオリゴ糖や単糖の添加による甘味が食品への味に影響を及ぼすことがあるため、澱粉含有食品中の澱粉100重量部に対しオリゴ糖または/および単糖の量は50重量部以下が好ましい。すなわち、澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対し、不凍蛋白質を0.000001〜1重量部、かつオリゴ糖類または/および単糖類を0.1〜50重量部含有させることを特徴とする澱粉老化防止方法である。
【0013】
以下、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
表1の配合にてだんごを調製した。使用した不凍蛋白質は特開2003−250473の実施例1の方法にて調製した大根葉抽出液を凍結乾燥して得られた不凍蛋白質粉末を使用した。オリゴ糖として、トレハロースを用いた。調製後、サランラップに包み、10℃で4日間保存した後、レオメーターにて最大荷重を測定したところ、不凍蛋白質+トレハロース配合(配合4)の最大荷重が最も低く、柔らかいだんごであった。また、保存後のだんごの官能検査を行った。だんごの弾力感、及び柔らかさについての官能検査を、0日目の無添加配合(配合1)を10、10℃4日間保存後の不凍蛋白質のみの配合(配合2)を5点として、評点法にて行ったところ、配合4が最も弾力感及び柔らかさを有していた。
【0015】
【表1】

【実施例2】
【0016】
オリゴ糖として、マルトトリオースを主成分とした固形分濃度72%の水飴(販売者日研化成:オリゴトース)139gに不凍タンパク質0.2gを添加して混合して、澱粉老化防止剤を得た。
【実施例3】
【0017】
表2の配合にてだんごを調製した。配合6で使用した澱粉老化防止剤は、実施例2で製造したものである。調製後、サランラップに包み、10℃で4日間保存した後、レオメーターにて最大荷重を測定したところ、不凍蛋白質+オリゴトース配合(配合6)が、最大荷重が最も低く、柔らかいだんごであった。また、実施例1同様に保存後のだんごの官能検査を行ったところ、配合6が最も弾力感及び柔らかさを有していた。
【0018】
【表2】

【実施例4】
【0019】
表3の配合にてだんごを調製した。オリゴ糖として、マルチトールとマルトトリイトールを主成分とした還元水飴(日研化成製エスイー57)を用いた。調製後、サランラップに包み、10℃で4日間保存した後、レオメーターにて最大荷重を測定したところ、不凍蛋白質+エスイー57配合(配合8)が、最大荷重が最も低く、柔らかいだんごであった。また、実施例1同様に保存後のだんごの官能検査を行ったところ、配合8が最も弾力感及び柔らかさを有していた。
【0020】
【表3】

【実施例5】
【0021】
表4の配合にてだんごを調製した。単糖として、ソルビトールを用いた。調製後、サランラップに包み、10℃で4日間保存した後、レオメーターにて最大荷重を測定したところ、不凍蛋白質+ソルビトール配合(配合10)が、最大荷重が最も低く、柔らかいだんごであった。また、実施例1同様に保存後のだんごの官能検査を行ったところ、配合10が最も弾力感及び柔らかさを有していた。
【0022】
【表4】

【実施例6】
【0023】
表5の配合にてだんごを調製した。糖質は単糖であるソルビトールと、オリゴ糖であるマルチトールを主成分とした還元水飴(日研化成製エスイー600)を用いた。調製後、サランラップに包み、10℃で4日間保存した後、レオメーターにて最大荷重を測定したところ、不凍蛋白質+エスイー600配合(配合12)が、最大荷重が最も低く、柔らかいだんごであった。また、実施例1同様に保存後のだんごの官能検査を行ったところ、配合12が最も弾力感及び柔らかさを有していた。
【0024】
【表5】

【実施例7】
【0025】
表6の配合にてだんごを調製した。オリゴ糖として、トレハロースを用いた。調製後、サランラップに包み、10℃で4日間保存した後、レオメーターにて最大荷重を測定したところ、不凍蛋白質0.000001g未満だと、最大荷重が不凍蛋白質無添加とほとんど変わらず、不凍蛋白質の澱粉老化防止効果が見られなかった。また、保存後のだんごの官能検査を行ったところ、不凍蛋白質の配合量が多いほど弾力感、柔らかさともに点数が高かったが、不凍蛋白質の配合量が2重量部のときには苦味を感じた。
【0026】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0027】
不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類が添加されていることにより、それぞれを単独で配合した場合よりも高い澱粉老化防止効果を示し、食品の風味や食感を損なうことのない、澱粉老化防止剤を提供できる。さらには不凍蛋白質とオリゴ糖類または/および単糖類を含有し、計量等のハンドリング性に優れた澱粉老化防止剤を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不凍蛋白質と、オリゴ糖類または/および単糖類を含有することを特徴とする、澱粉老化防止剤。
【請求項2】
オリゴ糖類または/および単糖類が、トレハロース、直鎖オリゴ糖、オリゴ糖アルコール、ソルビトールから選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1記載の澱粉老化防止剤。
【請求項3】
不凍蛋白質1重量部に対し、オリゴ糖類または/および単糖類を1〜50000000重量部含有する請求項1または2記載の澱粉老化防止剤。
【請求項4】
請求項1〜3記載の澱粉老化防止剤を、澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対し、0.000001〜50重量部添加することを特徴とする澱粉含有製品。
【請求項5】
請求項1〜3記載の澱粉老化防止剤を澱粉含有製品に添加することを特徴とする澱粉老化防止方法。
【請求項6】
澱粉含有製品中の澱粉100重量部に対し、不凍蛋白質を0.000001〜1重量部、かつオリゴ糖類または/および単糖類を0.1〜50重量部含有させることを特徴とする澱粉老化防止方法。

【公開番号】特開2007−195467(P2007−195467A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18285(P2006−18285)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000226415)日研化成株式会社 (30)
【Fターム(参考)】