説明

濃縮イソプレゴールの調製方法

本発明は、イソプレゴールを含む溶融物からの晶析により濃縮イソプレゴールを調製する方法に関する。本発明は、特に、鏡像体過剰率が低い光学活性イソプレゴールから開始し、溶融物からの晶析により鏡像異性体が濃縮されたn-イソプレゴールを調製する方法に関する。また、溶融物からの晶析により得られた鏡像異性体および/またはジアステレオマーが濃縮されたn-イソプレゴールから開始し、メントールを調製する方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレゴールを含む溶融物からの晶析により濃縮イソプレゴールを調製する方法に関する。本発明は、具体的には、鏡像体過剰率が比較的低い光学活性イソプレゴールから開始し、溶融物からの晶析により鏡像異性的に濃縮されたn-イソプレゴールを調製する方法に関する。さらに、本発明は、溶融物からの晶析により調製した、鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮されたn-イソプレゴールから開始し、メントールを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メントールは、薬学、化粧品、および食品業界で広く使用される天然の活性成分である。天然源、例えばペパーミントオイルでは、メントールは、4つのジアステレオマーの鏡像異性体対の形態で存在し、その中で、主成分である(-)-メントールのみが、望ましい味質および他の感覚特性を有する。従って、天然メントールの多段階精製は常に必至である。合成によりメントールを得る場合、その合成経路によって確実に最終生成物が純粋な(-)-メントールになるようにする必要がある。一般的に、完全にはこれを実行できないので、仮に行うとしても、ここでも製造技術方法により、反応生成物を互いに分離する必要がある。(-)-および(+)-メントールに加えて、存在する別のジアステレオマーは、相当な費用がかかり不便ではあるが、蒸留によって除去することができる。それに対して、(-)-および(+)-メントールは、その物性が同一であるために、この方法では分離することができない。
【0003】
一般的な光学異性体、または具体的には(+)-および(-)-メントールを分離する方法は多数知られている。重要な方法群は、a)溶媒または溶融物から活性成分を直接晶析する方法、b)キラル剤によりジアステレオマー誘導体を形成し(例えば、塩またはエステルの形態)、その物性が異なる、形成されたジアステレオマー混合物を晶析または蒸留する方法、c)クロマトグラフィー法、およびd)酵素による方法である。さらに、あるとすれば、実験的として見なされる実験室での方法もあるが、それらは工業用途には重要ではない。全ての関連する方法およびそれらの様々な実施形態の包括的概説は、例えば、非特許文献1に見ることができる。
【0004】
極めて困難なメントールの直接結晶形成法は数多く研究されてきた。メントールが、融点近辺で相互変換できる数種の多形で結晶化することは以前から知られている(参照、非特許文献2)。Kuhnert-Brandstatterらにより非特許文献3に記載されているように、記載の多形は、温度に応じて、同三形の(isotrimorphic)混晶を形成する極めて複雑な相系を形成する。この異常な挙動により、固体状態において異性体が実質的に相互に混和し(いわゆる固溶体)、通常、直接晶析による異性体の分離が妨げられる。
【0005】
技術水準
溶媒を使用しない非常に低い温度(−60℃)での溶融物からのメントールの晶析が特許文献1に記載されている。この事例では、天然源から得られ、さらに多数の成分を含む油からメントールが単離される。
【0006】
−35℃に下げた温度での晶析により、精油からメントールを単離する類似の方法が、S. Tandonらによって非特許文献4に記載されている。
【0007】
特許文献2は、種晶を適用する冷却表面での晶析によって液体共晶混合物を分離する方法に関し、個々の種類の結晶はその表面で成長し、表面を加熱した後に液体の形で除去される。
【0008】
合成メントールは、通常、イソプレゴールの中間体段階を経由して得られるが、このイソプレゴールはイソプロピル側鎖の二重結合によってのみメントールと異なる。メントールは、立体特異性を失うことなく水素化によってそこから放出される。晶析によりメントールの異性体分離を達成する方法は、困難を伴ってしか達成できないが、特許文献3に開示されている:そこでは、−40℃〜−75℃の温度で石油エーテルまたはアセトンから分別晶出するイソプレゴールの精製法が記載されている。これにより、その3種の別のジアステレオマーからイソプレゴールを分離することができる。
【0009】
特許文献4には、−20℃〜−60℃の温度で、石油エーテルから、または有利にはアセトンから晶析する(-)-n-イソプレゴールの精製法が開示されている。この方法によっても、光学純度を上げることができる。
【特許文献1】国際公開第03/083028号
【特許文献2】独国特許発明第19536827号
【特許文献3】仏国特許発明第1,374,732号
【特許文献4】米国特許第5,663,460号
【非特許文献1】Jaques, J.ら、Enantiomers, Racemates and Resolutions, Krieger Publishing Co. 1994
【非特許文献2】K. Schaum, Lieb. Ann. Chem. 308 (1899), p. 37
【非特許文献3】Archiv der Pharmazie 307 (1974) p. 497
【非特許文献4】Journal of Medicinal and Aromatic Plant Sciences, 20, (1998) 25-27
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来技術から前進して、イソプレゴールを化学的にも光学的にも高い純度で提供でき、そして工業規模で安価に実施可能な使用に適した方法を提供することが本発明の目的である。調製しようとするイソプレゴールまたはその変換生成物のヒトにおける使用に関しては、生理学的に安全でない試薬または有機溶媒を実質的に使用しないものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、本発明に従って、式(I)のイソプレゴール
【化1】

を含む溶融物からの晶析により、式(I)の濃縮イソプレゴールを調製する方法を提供することによって達成される。
【0012】
従って、本発明は、イソプレゴールに加えて、他の望ましくない不純物または化合物、例えば、使用するイソプレゴールの調製で生じる副生成物も含むが、溶媒は本質的に含まない溶融物からの晶析によるイソプレゴールの精製法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明との関連において、「濃縮イソプレゴール」という用語は、化学純度が少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%、より好ましくは約95〜約99.95重量%であるものを意味すると理解される。式(I)のイソプレゴールは、イソプレゴールの4種の可能なジアステレオマー、すなわちn-イソプレゴール、イソ−イソプレゴール、ネオ−イソプレゴールおよびネオイソ−イソプレゴールの混合物を意味すると理解される。
【0014】
本発明による方法を実施するのに適した出発物質は、任意の起源のイソプレゴール、すなわち、天然源から単離したイソプレゴールまたは合成イソプレゴールである。本発明に従って使用する溶融物は、好ましくは少なくとも約70重量%程度、より好ましくは少なくとも約75重量%程度、さらにいっそう好ましくは約80〜約100重量%程度、そして特に好ましくは約85〜約100重量%程度でイソプレゴールを含む。
【0015】
本発明は、具体的には、式(II)のn-イソプレゴール
【化2】

と、イソプレゴールの別のジアステレオマーとを含む溶融物、または式(II)のn-イソプレゴールを含むが、イソプレゴールの別のジアステレオマーを含まない溶融物からの晶析により、鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮された式(II)のn-イソプレゴールを調製するための方法に関する。
【0016】
好ましい出発物質またはその溶融物は、少なくとも約70重量%程度、より好ましくは少なくとも約75重量%程度、より好ましくは約80〜約100重量%程度、そして最も好ましくは約85〜約100重量%の式(II)のn-イソプレゴールを含む。そのような溶融物は、その起源および本発明に従って変換されるn-イソプレゴールの調製の種類に従って、様々な比率で、そして様々な程度でイソプレゴールの前記ジアステレオマーもまた含みうる。
【0017】
本発明の晶析法により溶融物から得ることができる式(II)のn-イソプレゴールは、典型的にはジアステレオ異性的に濃縮された形で得られる。「ジアステレオ異性的に濃縮された」という用語は、本発明に従って得ることができる生成物が、本発明に従って使用する溶融物よりも、その他の前記ジアステレオマーに比べて高い含有率で所望のn-イソプレゴールジアステレオマーを含むことを意味すると理解すべきである。
【0018】
光学活性な出発物質、すなわちn-イソプレゴールの2種の鏡像異性体が同じ比率で存在しない出発物質を使用する場合には、本発明による晶析法で鏡像異性的に濃縮されたn-イソプレゴールが得られる。「鏡像異性的に濃縮された」という用語は、本発明に従って得ることができる生成物が、本発明に従って使用する溶融物よりも、n-イソプレゴールの一方の鏡像異性体の含有率が他方の鏡像異性体に比べて高いこと、すなわち鏡像体過剰率(ee)が高いことを意味すると理解すべきである。
【0019】
従って、本発明による方法によって、比較的低い鏡像体過剰率の光学活性n-イソプレゴールを含む溶融物からの晶析により、鏡像異性的およびジアステレオ異性的に濃縮されたn-イソプレゴールの調製もできる。
【0020】
本発明に従って好ましい出発物質またはその溶融物には、鏡像体過剰率が少なくとも約75%ee、より好ましくは少なくとも約80%ee、そして最も好ましくは約85〜約90%eeのn-イソプレゴールが含まれる。
【0021】
本発明による方法において、光学活性の出発物質を上記のように使用する場合、得られるものは、典型的には、鏡像体過剰率が少なくとも約85%ee、好ましくは約90〜約100%ee、より好ましくは約95〜約99.9%ee、そして最も好ましくは約97〜約99.9%eeのn-イソプレゴールである。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明による晶析法は、L-(-)-n-イソプレゴールを含む溶融物を晶析することにより、鏡像異性的に濃縮された式(II*)のL-(-)-n-イソプレゴール
【化3】

を調製するのに適切であり、式中、いずれの場合にも、「*」は図示する絶対配置の不斉炭素原子を表す。
【0023】
「溶融物からの晶析」または「溶融晶析」という用語は、当業者に周知であり、例えば、G.F. Arkenbout, Melt Crystallization Technology, Lancaster/PA, Technomic Publ. Co., 1995に詳述されている。本発明との関連において、これは、別の成分、例えば、溶媒または他の助剤を加えることなしに、溶融物から、すなわち液体混合物、すなわち溶融し、場合により既に固化している出発物質から実施する晶析を意味すると理解すべきである。
【0024】
本発明の溶融晶析は、層晶析(layer crystallization)の形で、または懸濁晶析(suspension crystallization)の形で実施することができる。層晶析を実施するためには、典型的には、出発物質として使用する光学的に活性または不活性なイソプレゴールの溶融物に、冷却した表面を導入する。その後、導入した冷却表面上に鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮された、または濃縮されていないイソプレゴールの結晶層が形成され、次いでその残りの母溶融物からこの結晶層を分離することができる。このようにして得られた結晶性の濃縮イソプレゴールは、さらなる助剤不使用精製ステップ(例えば、純粋な生成物による洗浄、融点よりわずかに低い温度での「発汗」によるステップ)で再度溶融することができる。続いて、所望により、この操作を繰り返して、溶融結晶および母溶融物における純度および収量を高めることができる。一般的に、本発明に従って有利に実施される層晶析法との関連において、動的方法と静的方法は区別されるべきである。動的方法では、母相、すなわち溶融出発物質は、結晶または冷却表面に沿って能動的にまたは受動的に移動する。静的方法では、本発明の溶融晶析は静置溶融物中で実施される。
【0025】
従って、本発明による方法は、動的層晶析の形で実施することもできる。好ましい実施形態では、この変形型は、G.F. Arkenbout, Melt Crystallization Technology, Lancaster/PA, Technomic Publ. Co., 1995 (chap. 6.2)に記載されているような管束熱交換器で実施される。この方法では、溶融物および冷却剤は、例えば細流膜(trickle film)の形で熱交換器の内壁と外壁に沿って伝導される。そのような装置によって、母溶融物から得られる結晶性イソプレゴール、および重力作用下で単純な流出によって得られるあらゆる発汗画分の除去が容易であり、循環ポンプは別として、スターラーユニットを必要としない。
動的層晶析を実施するためには、通常、その融点を超え、溶融図から読み取ることができる温度で、出発物質として働く光学的に活性または不活性なイソプレゴールを上記のような溶融晶析装置に導入し、ポンプ循環によって、冷却した管束熱交換器中に伝導する。有利な晶析結果を得るためには、約0.5時間〜約10時間以内に、好ましくは約1時間〜約4時間以内に、厚さ約1mm〜約50mm、好ましくは約5mm〜約20mmの結晶層が形成されるように、低温担体温度の低下を選択するのが好ましい。この目的のために必要な冷却剤の温度は、一般的に特定の融点より約1K〜約40K、好ましくは約5K〜約20K低い。
【0026】
動的層晶析を実施した後、通常、残りの母溶融物は排出される。熱交換器の加熱または冷却媒体の温度を上げることによって、付着しているあらゆる母溶融物残留物または含まれているあらゆる不純物を溶融すること、またはドレナージによってそれらを除去することができる。有利な熱担体温度は、約15℃〜約60℃の範囲であり、約20〜約30℃が特に有利である。「発汗」と称するこの方法では、純度の要件に従って、約1〜約50重量%、しばしば約5〜約20重量%の晶析したイソプレゴールを再度溶融させることができる。最後に、残りの鏡像異性的またはジアステレオ異性的に濃縮された結晶層は有利に溶融され、その次の使用に送られるか、あるいはさらに精製するために、または鏡像異性体過剰率もしくはジアステレオマー過剰率を高めるために再度晶析される。記載したように除去された母溶融物および発汗によって放出された画分は、収量を高めるために本発明による方法に再利用することができる。あるいは、結晶層の「発汗」の前に、溶融した純粋な生成物と接触させることによって結晶層を洗浄する、すなわち、強固に付着しているあらゆる母液を結晶層から除去することがあり得る。
【0027】
あるいは、本発明の溶融晶析は、懸濁晶析の形で実施することもできる。この場合は、典型的には、結晶層を形成する必要はなく、結晶はその母溶融物中に懸濁した形で得られる。一定の温度での連続法および温度を徐々に下げる不連続法が可能である。ここで、有用な冷却表面は、例えば、クローズクリアランススターラーを備えた攪拌槽、いわゆるスクラッチングクーラーの壁、または冷却ディスク晶析装置の拭き取られた表面である。あるいは、溶融物は、有用な物質(または、あまり好ましくはないが助剤として添加された溶媒)を真空および断熱蒸発することによって冷却することもできる。次いで、懸濁している結晶は、当業者には公知の方法で、例えば、任意のフィルターユニット、例えば、吸引フィルター、遠心分離機、またはベルトフィルターによって除去することができる。原理上達成可能な極めて高い精製作用のために、洗浄カラムによって除去することもでき、その場合、上部からフィルターに向けて伝導され、底で溶融した純粋な生成物の懸濁液は、洗浄媒体として反対方向に伝導される。
【0028】
溶融物からイソプレゴールまたはn-イソプレゴールを晶析する本発明の方法は、約−20℃〜約15℃の温度範囲で実施するのが有利であり、約−10℃〜約15℃の範囲が好ましく、約−5℃〜約14℃の範囲がより好ましい。温度範囲の正確な位置は、出発物質の光学的および化学的出発純度、ならびに所望する収量にのみ依存し、特定の場合に使用するイソプレゴールの溶融図から当業者が読み取ることができる。
【0029】
濃縮された、好ましくは鏡像異性的またはジアステレオ異性的に濃縮されたイソプレゴールのための本発明による調製方法の場合には、記載の方法全てを使用し良好な成果を挙げることができる。本発明による方法の好ましい実施形態では、内部熱交換器表面を備えた静的層晶析装置で晶析を実施する。記載の熱交換器表面の構成に特定の要件は求められない。典型的には、溶融図から読み取ることができ、その融点を超える温度で出発物質として使用されるイソプレゴールを溶融晶析装置に導入し、そして出発物質の純度に応じて、晶析装置の内容物を約5時間〜約30時間、好ましくは約10〜約20時間以内に、約−20℃〜約15℃、好ましくは約−10℃〜約15℃の温度に冷却する。有利な晶析結果を得るためには、約0.1K/h〜約20K/h、より好ましくは約0.5K/h〜約5K/hの冷却速度を選択するのが好ましい。
【0030】
所望の量の出発物質を晶析した後、残りの母溶融物を排出するのが有利である。熱交換器の熱/冷却媒体の温度を静かに上昇させることによって、付着しているあらゆる母溶融物残留物または含まれているあらゆる不純物を溶融すること、またはドレナージによってそれらを除去することができる。有利な加熱速度は、約0.1〜約20K/hの範囲であり、約0.5〜約5K/hの範囲が好ましい。「発汗」と称するこの方法では、純度の要件に従って、晶析したイソプレゴールの約3〜約60重量%、しばしば約10〜約30重量%を再度溶融することができる。最後に、鏡像異性的に濃縮された残りの結晶層を有利に溶融し、その次の使用に送り、あるいはさらに精製し、または鏡像体過剰率を高めるために再度晶析することができる。記載のように除去された母溶融物および発汗により放出された画分は、収量を増大させるために本発明による方法に再利用することができる。
【0031】
本発明による方法のさらに好ましい実施形態では、光学的に活性または不活性なイソプレゴールの動的懸濁晶析も実施することができる。この目的のためには、適切な攪拌晶析リアクター、例えば、クローズクリアランススターラーを備えたリアクターで、または、例えば、拭き取られた冷却表面を備えた冷却ディスク晶析装置で、上記のような懸濁晶析を実施する。この懸濁晶析は、バッチ式に、または連続的に行うことができる。バッチ式懸濁晶析を実施するためには、溶融図から読み取ることができ、その融点を超える温度で、溶融晶析装置に、出発物質として働く光学的に活性または不活性なイソプレゴールを導入し、そして出発物質の純度に応じて、晶析装置の内容物を約0.5時間〜約12時間、好ましくは約2〜約6時間以内に、約−20℃〜約15℃、好ましくは約−10℃〜約15℃の温度に冷却する。有利な晶析結果を得るために、約0.1K/h〜約20K/h、より好ましくは約2K/h〜約10K/hの冷却速度を選択するのが好ましい。
【0032】
バッチ式の懸濁晶析を実施するためには、典型的には、出発物質として働く光学活性イソプレゴールを、溶融図から読み取ることができ、その融点を超える温度で、上記のような溶融晶析装置に導入し、出発物質の特定の純度および所望の収量に従って、溶融図から読み取ることができる温度に冷却する。この一定の温度で、典型的には、連続的に、または一部分ずつ晶析装置に新鮮な出発物質を供給しつつ、他方で等量の多量の結晶含有懸濁液を連続的に、または一部分ずつ晶析装置から取り除く。有利な晶析結果を得るために、結晶の滞留時間が約0.5時間〜約12時間、より好ましくは約2時間〜約6時間となるように、晶析装置の大きさを選択するのが好ましい。
【0033】
本発明による方法によって、鏡像異性体純度またはジアステレオマー純度が低いイソプレゴールから開始し、鏡像異性的またはジアステレオ異性的に濃縮されたイソプレゴールを得るための経済的に特に有利な経路が開かれる。同時に、本方法は、1工程のみで、非常に単純な装置または製造技術条件下、技術的にも経済的にも非常に効率よく実現できる温度で実施することができる。本発明による方法は、有機溶媒の非存在下、そして別の助剤または成分、例えば種晶を添加せずに行われる。その鏡像体過剰率に関して、精製しようとする出発化合物を誘導体化する必要もない。
【0034】
最初に記載したように、イソプレゴールまたはその異性体は、メントールまたはその異性体を調製するための重要な中間体である。メントールは、当業者に周知の水素化法、具体的には、例えば、Pickardら、J. Chem. Soc. 1920, 1253; Ohloffら、Chem. Ber. 1962, 95, 1400; Paviaら、Bull. Soc. Chim. Fr. 1981, 24, Otsukaら、Synthesis 1991, 665、または欧州特許第1053974号に記載されているような、適切な遷移金属触媒による触媒的水素化によってイソプレゴールから得ることができる。反応条件が適切に選択されている場合には、使用するイソプレゴールの相対的または絶対的配置は、実質的に、そして多くの場合に完全に保存される。よって、本発明に従って得ることができる鏡像異性的またはジアステレオ異性的に濃縮されたイソプレゴールは、鏡像異性的またはジアステレオ異性的に濃縮されたメントールを調製するための魅力的な出発物質を構成する。
【0035】
従って、本発明はまた、メントールを調製する方法であって、
a)式(II)または(II*)のn-イソプレゴール、および適切であれば、上記のイソプレゴールの別のジアステレオマーを含む溶融物からの晶析により、鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮された式(II)または(II*)のn-イソプレゴールを調製するステップ、および
b)ステップa)で得られた鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮されたn-イソプレゴールを水素化するステップ
を含む、上記方法にも関する。
【0036】
好ましい実施形態では、本方法は、L-(-)-イソプレゴールから開始し、L-(-)-メントールを調製するのに適している。L-(-)-イソプレゴールは、当業者に周知の様々な方法、例えば、欧州特許第1225163号に記載されているように、例えば、トリス(2,6−ジアリールフェノキシ)アルミニウム触媒の存在下、光学的に活性なシトロネラールを環化オキソ−エン反応することによって得られる。
【0037】
これに関連して、晶析によるメントールの精製または鏡像体過剰率の上昇が、現在まで技術的に不適切な方法でしか解決されていないという問題を構成していることは特に注目に値する。イソプレゴールとメントールの顕著な化学的および立体的類似性を考慮すると、メントールの場合と同じ不利な混晶を形成して本発明のイソプレゴール溶融晶析は達成できないと考えられるべきであり、驚くべきことである。
【0038】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、決して本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0039】
イソプレゴール溶融物の静的層晶析
最初に、晶析装置のジャケット式ガラス製チューブに、温度15℃で、融点が13℃であり、組成が95%(-)-n-イソプレゴールおよび5%(+)-n-イソプレゴール(90%ee)のイソプレゴール205gを充填した。30時間以内に晶析装置を9℃に冷却した。最初の液体生成物は、この実験の最後には大部分が固化した形態で存在した。続いて、10時間以内にジャケット温度を13℃から25℃に上げた。母液70gおよび発汗画分50gに加えて、溶融した結晶層85gが得られた。(-)-イソプレゴールに基づいて、この最終生成物の光学純度は99.9%eeであった。
【実施例2】
【0040】
イソプレゴール溶融物の動的層晶析
最初に、(G.F. Arkenbout, Melt Crystallization Technology, Lancaster/PA, Technomic Publ. Co., 1995 (ch. 10.4.1)に記載されているような)ジャケットによって冷却する平底攪拌装置に、温度12℃で、融点が10℃であり、組成が94.7%(-)-n-イソプレゴールおよび5.3%(+)-n-イソプレゴール(89.4%ee)のイソプレゴール1003gを充填した。晶析装置底部の冷却ジャケットを2時間のうちに−14℃に冷却した。この過程で、重量が124gであり12mm厚の結晶層が形成された。続いて、装置を180°回転させ、10時間以内にジャケット温度を8℃から13℃に上げた。これにより、発汗画分52gおよび溶融した結晶層124gが得られた。(-)-n-イソプレゴールに基づいて、この最終生成物の光学純度は99%であった。
【実施例3】
【0041】
イソプレゴール溶融物の懸濁晶析
最初に、(Arkenbout, ch. 10.4.2に記載されているような)1lの攪拌晶析装置に、溶融物として、(-)-n-イソプレゴールに基づく光学純度が95.2%(90.4%ee)のイソプレゴール異性体混合物860gを充填した。混合物の融点は約10℃であった。使用したスターラーは、クローズクリアランスへリカルスターラーであった。3℃に短時間冷却し、続いて9℃に加熱することによって溶融物のインサイチュシーディング(in situ seeding)を行った。続いて、1.5時間以内に攪拌しながら装置を7℃に冷却した。これにより、懸濁液の固形分が約35重量%になった。この懸濁液から、試料を採取し、遠心分離によって付着している母液を除去した。1分間遠心分離した後、結晶の純度は(-)-n-イソプレゴールに基づいて99%eeであり、5分間遠心分離した後は99.4%であった。
【0042】
比較例1
メントールの溶液晶析
1lの攪拌晶析装置で、メントール異性体混合物(80%ee、(-)-メントールに基づく純度:90%)560gをアセトン240gに溶解した。混合物の飽和温度は5.8℃であった。5.7℃に冷却後、過飽和溶液に純粋な(-)-メントールの種晶14gを添加し、0.5〜1K/hの速度でさらに冷却した。温度が−6.9℃、かつ懸濁液中の固形分が22.4重量%に達したとき、試料を採取し、遠心分離によって付着している母液を除去した。結晶の純度は98.2%(96.4%ee)であった。
【0043】
比較例2
メントールの溶融晶析
最初に、晶析装置としてのジャケット式ガラス製チューブに、組成が95%(-)-メントールおよび5%(+)-メントール(90%ee)のメントール324gを充填した。混合物の融点は38℃であった。15時間のうちに晶析装置を38.4℃から37.4℃に冷却した。最初の液体生成物は、この実験の最後ではほぼ完全に固化した形態で存在した。続いて、5時間以内にジャケット温度を38℃から39℃に上げた。これにより、2つの発汗画分(51gおよび198g)と溶融した結晶層75gが得られた。分析によって、出発溶液、2つの発汗画分、および結晶層が、約90%という事実上同一のee値を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のイソプレゴール
【化1】

を含む溶融物からの晶析により、式(I)の濃縮イソプレゴールを調製する方法。
【請求項2】
式(II)のn-イソプレゴール
【化2】

と、イソプレゴールの別のジアステレオマーとを含む溶融物、または式(II)のn-イソプレゴールを含むが、イソプレゴールの別のジアステレオマーを含まない式(II)のn-イソプレゴールを含む溶融物からの晶析により、鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮された式(II)のn-イソプレゴールを調製するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶融物が、少なくとも70重量%程度で式(I)のイソプレゴールを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶融物が、少なくとも70重量%程度で式(II)のn-イソプレゴールを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
鏡像体過剰率が比較的低い光学活性n-イソプレゴールを含む溶融物からの晶析により、鏡像異性的およびジアステレオ異性的に濃縮されたn-イソプレゴールを調製するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶融物からの晶析を−20℃〜15℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
層晶析(layer crystallization)の形で溶融物からの晶析を実施する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
懸濁晶析(suspension crystallization)の形で溶融物からの晶析を実施する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
静的または動的に晶析を実施する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
種晶の非存在下で溶融物からの晶析を実施する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
鏡像体過剰率が少なくとも75%eeであるn-イソプレゴールを使用する、請求項2〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
化学純度が少なくとも95%であるイソプレゴールを調製するための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
鏡像体過剰率が少なくとも85%eeであるn-イソプレゴールを調製するための、請求項2〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
鏡像異性的に濃縮されたL-(-)-n-イソプレゴールを調製するための、請求項2〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
メントールを調製する方法であって、
a)式(II)のn-イソプレゴール、および適切であれば、請求項2〜14のいずれか1項に記載のイソプレゴールの別のジアステレオマーを含む溶融物からの晶析により、鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮された式(II)のn-イソプレゴールを調製するステップ、および
b)ステップa)で得られた、鏡像異性的および/またはジアステレオ異性的に濃縮されたn-イソプレゴールを水素化するステップ
を含む、上記方法。
【請求項16】
L-(-)-n-イソプレゴールを含む溶融物を晶析するステップを含む、L-(-)-メントールを調製するための、請求項15に記載の方法。

【公表番号】特表2009−506005(P2009−506005A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527436(P2008−527436)
【出願日】平成18年8月15日(2006.8.15)
【国際出願番号】PCT/EP2006/065322
【国際公開番号】WO2007/023109
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】