濾過システム
【課題】微粒子状の吸着材が摩耗するのを抑制し、且つμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔と微粒子を用いることにより、長期間に渡っての使用を可能にする。
【解決手段】キャリアに含有する異物を濾過する濾過システムであって、μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子と、表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、袋状に形成した不織布2とを有し、前記不織布2の撥水処理を施した内壁2aに前記微粒子の表面を当てがい、前記不織布2で前記微粒子をブロック状に保形する。
【解決手段】キャリアに含有する異物を濾過する濾過システムであって、μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子と、表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、袋状に形成した不織布2とを有し、前記不織布2の撥水処理を施した内壁2aに前記微粒子の表面を当てがい、前記不織布2で前記微粒子をブロック状に保形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば不純物を含んだ湿し水を印刷に適した状態にクリアーにする濾過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、平版印刷では印刷の非画線部にインキが付着しないように版面を湿し水で湿らせて印刷を行う事が行われている。前記印刷を行う際、紙面に付着した粉末状のごみである紙粉が印刷時に版面やブランケットに付着すると、その紙粉が原因となって印刷部分が白点状にぬけるヒッキーの現象が生じる。したがって、湿し水に含まれる紙粉などの不純物を除去する必要がある。
【0003】
湿し水を浄化する技術として、特開2004−97968号公報(特許文献1)に開示されたものがある。この技術は、容器内に多孔質火山岩を複数収納し、汚れを含む機械水が流入口から流出口に至る間に、機械水中の乳化物や微粉などの汚れを多孔質火山岩中の孔に吸着することにより湿し水を浄化する構成のものである。
【0004】
前記特許文献1に開示された技術では、容器内に収納する多孔質火山岩の粒径を5cm〜15cmになるように多孔質火山岩を整粒している。そして、孔表面に汚れが付着した多孔質火山岩は、前記容器から取り出して加熱するか又は洗浄することによって再使用することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−97968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1では、多孔質火山岩の再使用を前提としているため、その多孔質火山岩の大きさが5cm〜15cmであるから、多孔質火山岩を容器に充填させた際に、多孔質火山岩同士の隙間が紙粉の粒径の大きさ以上になるため、紙粉がその隙間を擦り抜けてしまい、濾過効果を十分に発揮させることができないという課題がある。
【0007】
また、静圧の下で紙粉を多孔質火山岩の表面に付着させることも可能であるが、容器内での多孔質火山岩間に紙粉の粒径以上の隙間が存在するため、紙粉が多孔質火山岩間を擦り抜けて容器の底部に滞留する可能性が大であり、濾過効果を十分に発揮することはできないという課題がある。
【0008】
さらに、印刷に使用する湿し水には、紙粉に加えてパウダーやインキや油分等の汚れも含まれている。パウダーやインキや油分等の汚れは、紙粉の大きさと比較してさらに小さい粒径であるから、これらの汚れを多孔質火山岩で捕捉することは難しいものとなる。
【0009】
また、吸着材として活性炭が用いられているが、その用法は原材料を砕いて微粒子化して用いるものであり、その微粒子の表面の凹凸構造或いは内部に形成されている連通孔に汚れを付着させるものであり、この活性炭を袋に充填して使用している。この場合、活性炭の表面が異質の袋に接触した状態で袋に充填されている。
【0010】
本発明者等は、種々の実験を繰り返して次のことを解明した。
すなわち、本発明者等は、
(1)汚水を流動させる際に水圧の変動等によって、袋に当てがわれている活性炭が袋と摩擦して、その摩耗粉が袋の網目を閉塞すること、
(2)袋に当てがわれた活性炭が摩耗すると、それが起因して活性炭同士の摩擦に発展し、大部分の活性炭の粒径を縮小させることとなり、短期間で濾過効果が低下すること、
(3)活性炭の用法が、微粒子状の粉砕した形態のみに止まり、その活性炭の表面に形成されている凹凸や連通孔の寸法に着目しておらず、活性炭の特性を十分に発揮させていないこと、
(4)活性炭の用法が、その活性炭のみによる濾過であって、大きさの異なる汚れに対して十分対処できていないこととを解明した。
【0011】
本発明の目的は、微粒子状の吸着材が摩耗するのを抑制し、且つμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔と微粒子を用いることにより、長期間に渡っての使用を可能にした濾過システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明に係る濾過システムは、キャリアに含有する異物を濾過する濾過システムであって、μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子と、表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、袋状に形成した不織布とを有し、前記不織布の撥水処理を施した内壁に前記微粒子の表面を当てがい、前記不織布で前記微粒子をブロック状に保形したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、不織布を内外二重構造とし、その表面領域で微粒子との馴染みを向上させて前記微粒子の鈍りを抑制するとともに、前記不織布が備えているフィルタ機能と、前記微粒子が備えているμmオーダの凹凸とnmオーダの連通孔とにより、キャリアに含まれている異物を捕捉することにより、濾過効果を向上させると共に、その濾過効果を長期間に亘って発揮させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る濾過システムを示す原理図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態に係る濾過システムを正面から撮影した写真、(b)は上面から撮影した写真である。
【図3】従来の用法に基づいて粉砕したままの珪藻土を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【図4】(a)は、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真、(b)は(a)の微粒子(吸着材)を倍率を上げて走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【図5】(a)(b)は、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した写真である。
【図6】本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子を横断面方向から走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【図7】本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した写真である。
【図8】(a)は、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる袋状不織布を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真、(b)は、(a)に示す袋状不織布を高倍率で走査顕微鏡により撮影した写真である。
【図9】(a)は本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)のnmサイズにおける状態を袋状不織布に充填してブロック状に保形した状態を模式化して示す平面図、(b)は本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)の断面形態を模式化した図である。
【図10】本発明の実施形態に係る濾過システムを使って湿し水を濾過した実験の結果を示す写真である。
【図11】(a)は本発明の実施形態に係る濾過システムに用いるμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔に加工した吸着前の微粒子(吸着材)を示す写真、(b)は本発明の実施形態に係る濾過システムにより捕捉した異物(有機物等)を含んだ微粒子(吸着材)を示す写真である。
【図12】本発明の実施形態に係る濾過システムにより捕捉した異物(有機物、紙粉など)の残渣をEDS(エネルギー分散型X線分光)分析した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の実施形態に係る濾過システムは図1及び図2(a)(b)に示す様に、キャリア3に含有する異物(有機物,紙粉など)5a,5b、5c、5dを濾過する濾過システムであって、図4(a)(b)に示すμmオーダの凹凸1b及び図4(a)(b)及び図5(a)(b)に示すnmオーダの連通孔1c、1dを有する微粒子(吸着材)1と、図7(a)(b)に示す様に表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、図2(a)(b)に示す様に袋状に形成した不織布2とを有し、図1のCに拡大したように前記不織布2の撥水処理を施した内壁2aに前記微粒子1の表面1aを当てがい、図2(a)(b)に示す様に前記不織布2で前記微粒子1をブロック状に保形したことを特徴とするものである。
また、前記袋状の不織布2には、図2(a)に示す様に前記キャリア3の取水口4が設けてある。以下の説明では、キャリア3として、印刷業界で用いられている湿し水を用いた例を説明するが、キャリア3としては前記湿し水に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る濾過システムの原理を図示したものである。図1においては、袋状の不織布2と吸着材として用いた微粒子1との関係を示すために、Aで示す様に袋状の不織布2をシート状のものとして図示している。なお、以降の説明では、前記微粒子1を吸着材1として表記する。
【0018】
図2(a)の右側の写真に示す様に、本発明の実施形態は、不織布2を袋状に成形し、その袋状の不織布2内に吸着材をなす微粒子1を充填して、吸着材をなす微粒子1を袋状不織布2でブロック状に保形している。図2(a)の左側の写真は、内部に吸着材をなす微粒子1を充填した後の不織布2を示している。この状態では、袋状不織布2には取水口4が取り付けられていない。次に、本発明の実施形態では、図2(a)に示す袋状不織布2に取水口4を取り付けている。なお、使用前の袋状不織布2の取水口4はキャップ4aにより栓がされている。
【0019】
本発明の実施形態では、前記吸着材1として、例えば珪藻土或いは活性炭を粉砕し且つ熱処理などを施した微粒子の単体或いはそれらの混合体を用いているが、吸着材としては、珪藻土や活性炭以外のものであってもよいものである。以下の説明では、吸着材1として珪藻土或いは活性炭の微粒子を単体で用いた例を説明する。
【0020】
本発明の実施形態では、珪藻土或いは活性炭の構造を変性させることにより、表面1aにμmオーダの凹凸1bを有し且つ内部にnmオーダの連通孔1cを有する微粒子に仕上げている。なお、前記微粒子の内、珪藻土の構造を変成させる方法としては、NOx雰囲気中で加熱処理を行う方法を採用することが可能である。また、活性炭の場合、その内部構造を変性させる方法としては、アルゴン+3%水素ガス雰囲気中で加熱する方法を採用することが可能である。これらの方法が有効であることは走査電子顕微鏡による写真及び透過電子顕微鏡による写真に基づいて実証する。なお、これら以外の方法により前記微粒子の構造を変性させてもよいものである。
【0021】
次に、一般的な珪藻土を単に粉砕した微粒子と、本発明の実施形態のように内部構造の変性処理を施すことによりμmオーダの凹凸1bとnmオーダの連通孔1bを有する微粒子とを比較して、その違いについて考察する。
【0022】
一般的な珪藻土を単純に粉砕した場合、これをSEM観察すると、図3に示す様に表面6が平坦であり、しかも連通孔8はμmオーダの径を有している。これでは、湿し水3内に含まれる約3μmオーダの紙粉やnmオーダの有機物を捕捉することは不可能であることが走査顕微鏡による写真を用いた観察結果からして明らかである。
【0023】
これに対して、本発明の実施形態に用いる吸着材をなす微粒子1は図4(a)に示す様に、その表面1aには、μmオーダの凹凸1bが形成されている。更に、倍率を上げてSEM観察すると、図4(b)に示す様に、μmオーダの凹凸1bより小さな孔径をもつnmオーダの連通孔1cが形成されていることが分かる。また、連通孔1cの内壁には突起1dが形成されている。この突起1dの構造が有機物(インキ成分、パウダー、油脂)や紙粉などを捕捉するのに有効に寄与するものである。
【0024】
したがって、本発明の実施形態では、μmオーダの凹凸1bにより、図1に示す様に湿し水に含まれる約3μmの紙粉5aを捕捉することが可能であると共に、nmオーダの連通孔1cにより、湿し水3に含まれるnmオーダの有機物(パウダー5b,インキ成分5c,油分5d等)を捕捉することが可能であることが分かる。また、前記nmオーダの連通孔1cの内壁の突起1dによっても、前記有機物をさらに有効に捕捉することができる。
【0025】
さらに、本発明の実施形態において物質内部の構造を変性させた吸着材1をなす珪藻土を透過電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を図5(a)(b)に基づいて説明する。図5(a)(b)に示す様に、微粒子1の内部に黒縞のコントラスト7が認められ、その幅が50〜100nmであって連通孔1cとしての形態に形成されている。この場合でも、連通孔1cはnmオーダである。
【0026】
また、本発明の実施形態において物質内部の構造を変性させた吸着材1をなす活性炭を透過電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を説明する。図7(a)(b)(c)は、図6に示すD領域を透過顕微鏡で観察したTEM写真である。図7(a)(b)(c)の写真からも連通孔1cの痕跡と思われる突起が観察された。図6に示す走査電子顕微鏡によるSEM観察からは平坦に見えた連通孔1cの側面にも、図7(a)(b)(c)に示す様に10〜100nmの突起1dがあり、この突起1dの構造が有機物(インキ成分、パウダー、油脂)や紙粉などを捕捉するのに有効に寄与するものである。
【0027】
以上のように走査電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた微粒子の観察を考慮すると、本発明の実施形態では、微粒子1の表面1aにμmオーダの凹凸1bを形成させていると共に、nmオーダの連通孔1cを形成させているため、例えば湿し水3に含まれる有機物であるインキ成分,パウダー,油脂などをnmオーダの連通孔1cで捕捉し、約3μmの紙粉をμmオーダの凹凸1bで捕捉し、湿し水3の浄化に寄与させるものである。
【0028】
さらに、本発明の実施形態では、図7(a)(b)(c)に示す様に、連通孔1cの内壁にさらにnmオーダの突起1dを形成させているため、この突起1dが連通孔1cによる有機物の捕捉に寄与することとなり、連通孔1c及びその内部の突起1dにより、有機物の有効な捕捉に寄与させるものである。
【0029】
さらに、本発明の実施形態では、不織布2の表面領域に撥水処理を施している。具体的に説明すると、本発明の実施形態では、例えば日華化学株式会社の製品名「アデッソWR−1」を用いて不織布2の繊維に撥水処理を施しており、表面領域に形成した撥水層2cと内部に繊維の積層によるフィルタ機能2dとを有する内外二重構造の不織布2に仕上げている。さらに、前記内外二重構造の不織布2を図2(a)(b)に示す様に袋状に形成している。
【0030】
さらに、本発明の実施形態では図1及び図2に示す様に、前記内外二重構造の不織布2を、その表面領域の撥水層2cを袋の内壁として、袋状に成形している。そして、前記袋状の不織布2内に吸着材1をなす微粒子1を充填して、それらの微粒子1を袋状の不織布2でブロック状に保形している。
【0031】
さらに、本発明の実施形態では、袋状の不織布2の内壁2aが撥水処理を施した撥水層2bであることを応用して、微粒子1と不織布2の内壁2aとの馴染みを向上させて、ブロック状の表層側に位置する微粒子1と不織布2の内壁2aとを密着させている。
【0032】
次に、本発明の実施形態に用いた不織布2を走査電子顕微鏡で観察した結果について説明する。
【0033】
撥水処理後の不織布2をSEM観察すると、図8(a)に示す様に、不織布2を形成している繊維2dの径が約15〜20μmであり、それらの繊維2dが積層されているためにフィルタ機能としては実質数μmと考えられる。また、図8(b)に示す様に、不織布2の表面領域に位置する繊維2dを観察するとその繊維2dの表面が光っており、不織布2の表面領域に撥水層2cが存在していることが分かる。
これらの走査電子顕微鏡による観察結果を考察すると、表面領域に形成した撥水層2cと内部に繊維の積層によるフィルタ機能2dとを有する内外二重構造の不織布2に形成させていることが分かる。これは、従来の不織布が繊維の積層によるフィルタ機能のみを備えているものと、本発明の実施形態に用いる内外二重構造の不織布2との違いが図7に示すSEM写真から明らかになった。
【0034】
本発明の実施形態に用いた不織布2は、慣性作用,衝突作用,分散作用,重力作用,静電作用などによって、有機物や紙粉等を捕捉する。図8(a)から分かるように、その不織布2が備えているフィルタ機能が実質数μmであるから、紙粉などを十分捕捉できることが分かる。
【0035】
また、本発明の実施形態に用いた不織布2は、その繊維2d特に表面領域の繊維b2dに撥水処理が施され、その不織布2の表面領域には撥水層2cを備えているため、不織布2と微粒子1との馴染みが改善され、微粒子1は不織布2の内壁2aに密着して当てがわれることとなる。
そのため、取水口4から供給される湿し水3が水圧の変動などにより吸着材をなす微粒子1が不織布2の内壁2aと摩擦することが抑制され、その結果、吸着材をなす微粒子1の表面1aの形状が鈍ることはない。したがって、吸着材をなす微粒子1による濾過効果が長期間維持されることとなる。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係る濾過システムを用いて印刷業界で使用されている湿し水3を浄化する場合を説明する。
【0037】
袋状の不織布2の取水口4から汚れた湿し水3を不織布2内のブロック状の吸着材をなす微粒子1に供給すると、前記送り込まれた湿し水3は図9(a)に太線で示す様に、前記微粒子1の表面1aに沿って流動し、その湿し水3内に含まれる紙粉5aが図1のBに拡大して示す様に、前記微粒子1の表面1aに図4(a)(b)に示す様なμmオーダの凹凸1bで捕捉される。前記ブロック状の外周面に位置する微粒子1は、図8(b)に示す不織布2の撥水層2cに密着したままで、その表面1aの凹凸1bで紙粉5aを捕捉している。
【0038】
また、湿し水3は図9(a)に太線で示す様に微粒子の表面1aに沿って流動する及び内部浸透する際に、その内部に含まれる異物、具体的には有機物であるパウダー5b,インキ成分5c,油分5dが、模式化して示した図9(b)及び図4(b)並びに図5(a)(b)で示すnmオーダの連通孔1cを流動する際に、そのnmオーダの連通孔1cに捕捉される。この場合、図7(a)(b)(c)に示す様に連通孔1cの内壁に突起1dが形成されている場合には、前記有機物が前記連通孔1c内の突起1dによっても捕捉される。
【0039】
また、本発明の実施形態では、図1のCに拡大して示す様に、微粒子1の表面1aが不織布2の内壁2aに密着しているため、不織布2のメッシュ2bが微粒子2によって閉塞される可能性があるが、不織布2の表面領域には撥水層2cが存在するため、浄化された湿し水3は不織布2の撥水層2cによって微粒子1の表面1aと不織布2の内壁2aとの間を擦り抜けて袋状不織布2の外部に排水される。
【0040】
また、本発明の実施形態に用いた不織布2は図8(b)に示す様に表面領域に撥水層2cを有するが、図8(b)に示す様にその内部に繊維2dが積層して形成されるフィルタ機能を有しているため、湿し水3は図9(a)に示す微粒子1の表面1aに沿って流動することに加えて不織布2の繊維2d間を潜って流動し、不織布2の有するフィルタ機能によって不織布2に捕捉される。
【0041】
以上のように、本発明の実施形態によれば、吸着材をなす微粒子1のμmオーダの凹凸1bとnmオーダの連通孔1c、連通孔1cの内壁に形成した凹凸1d及び不織布2の有するnmオーダのフィルタ機能に基づいて、キャリア3に含まれる異物を除去することができるものである。
【0042】
次に、本発明の実施形態に係る濾過システムを用いて平版印刷に用いられた湿し水を濾過した結果を説明する。この実験は、連続吸水の湿し水装置(容量100リットル)の湿し水3を毎分15リットルで12ヶ月間、本発明の実施形態に係る濾過システムに循環することにより、紙粉や有機物の捕捉を検証したものである。
【0043】
図10の右側に示したビーカ内の湿し水が濾過前のものであり、左側に示したビーカ内の湿し水が濾過したものである。図10の比較結果から明らかなように、湿し水が濾過されて透明度が増していることが分かる。この実験結果からして、本発明の実施形態は、キャリアに含まれる紙粉や有機物を濾過する事に効果があることが分かる。更に、本発明の実施形態では、連続吸水の湿し水装置(容量100リットル)の湿し水3を毎分15リットルで12ヶ月間浄化しても濾過効果が維持されていた。
【0044】
これに対して、従来の濾過システムでは、数週間毎のメンテナンスの都度、湿し水を廃棄し、湿し水を貯留するタンク内を清掃した後、新たな湿し水に交換していた。
このことからしても、本発明の実施形態に係る濾過システムでは、吸着材1及び不織布2のみを交換することにより、湿し水を交換することが不要となる。そして、実験の結果からして、本発明の実施形態における吸着材1及び不織布2の交換時期は、吸着材1の充填量を調整することにより、数ヶ月ないし数年の期間に延長させることができる。
【0045】
図10に示す実験結果を、吸着材をなす微粒子1の粒径を種々変更しながら行った。その結果によれば、吸着材1をなす微粒子1の粒径を15μm〜30μmの範囲に設定し、前記不織布として、前記粒径の吸着材1を袋の内部に坦持するのに必要な透過用隙間をもつ不織布を用いることにより、最も効率的且つ長期間に亘って汚れを浄化できることが分かっている。したがって、不織布2の繊維間に形成される隙間が、吸着材として15μmの微粒子1を用いる場合には約10μm〜14μmのものを用い、吸着材として30μmの微粒子1を用いる場合には約15μm〜28μmのものを用いることが最適であるとの結果が出ている。
【0046】
また、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いたμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔に加工した吸着材をなす微粒子であって、吸着前の微粒子1を図11(a)に、吸着後の紙粉や有機物を含む吸着材をなす微粒子1を図11(b)に示す。
【0047】
次に、本発明の実施形態において、図11(b)に示す吸着後の吸着材をなす微粒子1の珪藻土をEDS分析した結果を表1および表2に示す。主体はSiO2(二酸化珪素)であるが、わずかにAl2O3(アルミナ)などが分析された。
【表1】
【表2】
【0048】
次に、本発明の実施形態に係る濾過システムによって図11(a)(b)に示す様に捕捉した有機物(残渣)を分析した。
図11(a)(b)に示す捕捉した有機物(残渣)をEDS分析した結果を表3〜表5に示す。印刷インキの主体はプロピレングリコール(CH3CH(OH)CH2OH)やクエン酸(C6H8O7)と言われているが、これらに該当する有機物の詳細な組成は不明である。環境対応型平版インキの生産比率はUVインキ4.3%、大豆油インキ74.2%、ノンVOCインキ0.9%であり、湿し水のうち、インキ成分が占める割合が79.4%であることから、インキ成分は有機系の組成であると考えられる。特に、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などの有機物合成に不可欠な成分などが主体である。また、光沢成分としてマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)なども含まれている。一部に塩素(Cl)なども捕捉していることが判明した。
【表3】
【表4】
【表5】
【0049】
図12は捕捉有機物残渣(3)のEDSスペクトルである。このスペクトルから吸着材1及び不織布2上には、かなり多くの有機物質が捕捉されていることが明らかになった。
【0050】
以上の結果に基づいて、本発明の実施形態に係る濾過システムを考察すると、不織布に撥水処理を施すことにより、不織布と微粒子状の吸着材との馴染みを向上させるとともに、不織布のキャリアに対する流動抵抗を低下させることにより、不織布と吸着材との摩耗を抑制して、濾過効果を長期間に亘って発揮させることができる。
【0051】
さらに、μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子状の吸着材と、撥水処理を施して袋状に成形した不織布とを用いるため、例えば湿し水の汚れの大きさに対処することができ、吸着材と不織布とのいずれか或いは双方を用いて確実に汚れを浄化することができる。
【0052】
さらに、不織布の撥水処理を施した内壁に前記微粒状の吸着材の表面を当てがい、前記不織布で前記微粒子状の吸着材をブロック状に保形することにより、上述した様に不織布と吸着材との摩擦が抑制でき、微粒子状の吸着材全体に発展する摩擦現象を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、平版印刷の湿し水の浄化ばかりでなく、nmオーダの汚れを含むキャリアを浄化するのに適しており、食品業界などの浄化処理にも適用でき、しかも熱を使わないため、環境に負担をかけることがない濾過方式を提供できる。
【符号の説明】
【0054】
1 吸着材をなす微粒子
1b 凹凸
1c 連通孔
1d 突起
2 不織布
2a 不織布の内壁
2c 撥水層
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば不純物を含んだ湿し水を印刷に適した状態にクリアーにする濾過システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、平版印刷では印刷の非画線部にインキが付着しないように版面を湿し水で湿らせて印刷を行う事が行われている。前記印刷を行う際、紙面に付着した粉末状のごみである紙粉が印刷時に版面やブランケットに付着すると、その紙粉が原因となって印刷部分が白点状にぬけるヒッキーの現象が生じる。したがって、湿し水に含まれる紙粉などの不純物を除去する必要がある。
【0003】
湿し水を浄化する技術として、特開2004−97968号公報(特許文献1)に開示されたものがある。この技術は、容器内に多孔質火山岩を複数収納し、汚れを含む機械水が流入口から流出口に至る間に、機械水中の乳化物や微粉などの汚れを多孔質火山岩中の孔に吸着することにより湿し水を浄化する構成のものである。
【0004】
前記特許文献1に開示された技術では、容器内に収納する多孔質火山岩の粒径を5cm〜15cmになるように多孔質火山岩を整粒している。そして、孔表面に汚れが付着した多孔質火山岩は、前記容器から取り出して加熱するか又は洗浄することによって再使用することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−97968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1では、多孔質火山岩の再使用を前提としているため、その多孔質火山岩の大きさが5cm〜15cmであるから、多孔質火山岩を容器に充填させた際に、多孔質火山岩同士の隙間が紙粉の粒径の大きさ以上になるため、紙粉がその隙間を擦り抜けてしまい、濾過効果を十分に発揮させることができないという課題がある。
【0007】
また、静圧の下で紙粉を多孔質火山岩の表面に付着させることも可能であるが、容器内での多孔質火山岩間に紙粉の粒径以上の隙間が存在するため、紙粉が多孔質火山岩間を擦り抜けて容器の底部に滞留する可能性が大であり、濾過効果を十分に発揮することはできないという課題がある。
【0008】
さらに、印刷に使用する湿し水には、紙粉に加えてパウダーやインキや油分等の汚れも含まれている。パウダーやインキや油分等の汚れは、紙粉の大きさと比較してさらに小さい粒径であるから、これらの汚れを多孔質火山岩で捕捉することは難しいものとなる。
【0009】
また、吸着材として活性炭が用いられているが、その用法は原材料を砕いて微粒子化して用いるものであり、その微粒子の表面の凹凸構造或いは内部に形成されている連通孔に汚れを付着させるものであり、この活性炭を袋に充填して使用している。この場合、活性炭の表面が異質の袋に接触した状態で袋に充填されている。
【0010】
本発明者等は、種々の実験を繰り返して次のことを解明した。
すなわち、本発明者等は、
(1)汚水を流動させる際に水圧の変動等によって、袋に当てがわれている活性炭が袋と摩擦して、その摩耗粉が袋の網目を閉塞すること、
(2)袋に当てがわれた活性炭が摩耗すると、それが起因して活性炭同士の摩擦に発展し、大部分の活性炭の粒径を縮小させることとなり、短期間で濾過効果が低下すること、
(3)活性炭の用法が、微粒子状の粉砕した形態のみに止まり、その活性炭の表面に形成されている凹凸や連通孔の寸法に着目しておらず、活性炭の特性を十分に発揮させていないこと、
(4)活性炭の用法が、その活性炭のみによる濾過であって、大きさの異なる汚れに対して十分対処できていないこととを解明した。
【0011】
本発明の目的は、微粒子状の吸着材が摩耗するのを抑制し、且つμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔と微粒子を用いることにより、長期間に渡っての使用を可能にした濾過システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明に係る濾過システムは、キャリアに含有する異物を濾過する濾過システムであって、μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子と、表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、袋状に形成した不織布とを有し、前記不織布の撥水処理を施した内壁に前記微粒子の表面を当てがい、前記不織布で前記微粒子をブロック状に保形したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、不織布を内外二重構造とし、その表面領域で微粒子との馴染みを向上させて前記微粒子の鈍りを抑制するとともに、前記不織布が備えているフィルタ機能と、前記微粒子が備えているμmオーダの凹凸とnmオーダの連通孔とにより、キャリアに含まれている異物を捕捉することにより、濾過効果を向上させると共に、その濾過効果を長期間に亘って発揮させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る濾過システムを示す原理図である。
【図2】(a)は、本発明の実施形態に係る濾過システムを正面から撮影した写真、(b)は上面から撮影した写真である。
【図3】従来の用法に基づいて粉砕したままの珪藻土を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【図4】(a)は、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真、(b)は(a)の微粒子(吸着材)を倍率を上げて走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【図5】(a)(b)は、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した写真である。
【図6】本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子を横断面方向から走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
【図7】本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した写真である。
【図8】(a)は、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる袋状不織布を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真、(b)は、(a)に示す袋状不織布を高倍率で走査顕微鏡により撮影した写真である。
【図9】(a)は本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)のnmサイズにおける状態を袋状不織布に充填してブロック状に保形した状態を模式化して示す平面図、(b)は本発明の実施形態に係る濾過システムに用いる微粒子(吸着材)の断面形態を模式化した図である。
【図10】本発明の実施形態に係る濾過システムを使って湿し水を濾過した実験の結果を示す写真である。
【図11】(a)は本発明の実施形態に係る濾過システムに用いるμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔に加工した吸着前の微粒子(吸着材)を示す写真、(b)は本発明の実施形態に係る濾過システムにより捕捉した異物(有機物等)を含んだ微粒子(吸着材)を示す写真である。
【図12】本発明の実施形態に係る濾過システムにより捕捉した異物(有機物、紙粉など)の残渣をEDS(エネルギー分散型X線分光)分析した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の実施形態に係る濾過システムは図1及び図2(a)(b)に示す様に、キャリア3に含有する異物(有機物,紙粉など)5a,5b、5c、5dを濾過する濾過システムであって、図4(a)(b)に示すμmオーダの凹凸1b及び図4(a)(b)及び図5(a)(b)に示すnmオーダの連通孔1c、1dを有する微粒子(吸着材)1と、図7(a)(b)に示す様に表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、図2(a)(b)に示す様に袋状に形成した不織布2とを有し、図1のCに拡大したように前記不織布2の撥水処理を施した内壁2aに前記微粒子1の表面1aを当てがい、図2(a)(b)に示す様に前記不織布2で前記微粒子1をブロック状に保形したことを特徴とするものである。
また、前記袋状の不織布2には、図2(a)に示す様に前記キャリア3の取水口4が設けてある。以下の説明では、キャリア3として、印刷業界で用いられている湿し水を用いた例を説明するが、キャリア3としては前記湿し水に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る濾過システムの原理を図示したものである。図1においては、袋状の不織布2と吸着材として用いた微粒子1との関係を示すために、Aで示す様に袋状の不織布2をシート状のものとして図示している。なお、以降の説明では、前記微粒子1を吸着材1として表記する。
【0018】
図2(a)の右側の写真に示す様に、本発明の実施形態は、不織布2を袋状に成形し、その袋状の不織布2内に吸着材をなす微粒子1を充填して、吸着材をなす微粒子1を袋状不織布2でブロック状に保形している。図2(a)の左側の写真は、内部に吸着材をなす微粒子1を充填した後の不織布2を示している。この状態では、袋状不織布2には取水口4が取り付けられていない。次に、本発明の実施形態では、図2(a)に示す袋状不織布2に取水口4を取り付けている。なお、使用前の袋状不織布2の取水口4はキャップ4aにより栓がされている。
【0019】
本発明の実施形態では、前記吸着材1として、例えば珪藻土或いは活性炭を粉砕し且つ熱処理などを施した微粒子の単体或いはそれらの混合体を用いているが、吸着材としては、珪藻土や活性炭以外のものであってもよいものである。以下の説明では、吸着材1として珪藻土或いは活性炭の微粒子を単体で用いた例を説明する。
【0020】
本発明の実施形態では、珪藻土或いは活性炭の構造を変性させることにより、表面1aにμmオーダの凹凸1bを有し且つ内部にnmオーダの連通孔1cを有する微粒子に仕上げている。なお、前記微粒子の内、珪藻土の構造を変成させる方法としては、NOx雰囲気中で加熱処理を行う方法を採用することが可能である。また、活性炭の場合、その内部構造を変性させる方法としては、アルゴン+3%水素ガス雰囲気中で加熱する方法を採用することが可能である。これらの方法が有効であることは走査電子顕微鏡による写真及び透過電子顕微鏡による写真に基づいて実証する。なお、これら以外の方法により前記微粒子の構造を変性させてもよいものである。
【0021】
次に、一般的な珪藻土を単に粉砕した微粒子と、本発明の実施形態のように内部構造の変性処理を施すことによりμmオーダの凹凸1bとnmオーダの連通孔1bを有する微粒子とを比較して、その違いについて考察する。
【0022】
一般的な珪藻土を単純に粉砕した場合、これをSEM観察すると、図3に示す様に表面6が平坦であり、しかも連通孔8はμmオーダの径を有している。これでは、湿し水3内に含まれる約3μmオーダの紙粉やnmオーダの有機物を捕捉することは不可能であることが走査顕微鏡による写真を用いた観察結果からして明らかである。
【0023】
これに対して、本発明の実施形態に用いる吸着材をなす微粒子1は図4(a)に示す様に、その表面1aには、μmオーダの凹凸1bが形成されている。更に、倍率を上げてSEM観察すると、図4(b)に示す様に、μmオーダの凹凸1bより小さな孔径をもつnmオーダの連通孔1cが形成されていることが分かる。また、連通孔1cの内壁には突起1dが形成されている。この突起1dの構造が有機物(インキ成分、パウダー、油脂)や紙粉などを捕捉するのに有効に寄与するものである。
【0024】
したがって、本発明の実施形態では、μmオーダの凹凸1bにより、図1に示す様に湿し水に含まれる約3μmの紙粉5aを捕捉することが可能であると共に、nmオーダの連通孔1cにより、湿し水3に含まれるnmオーダの有機物(パウダー5b,インキ成分5c,油分5d等)を捕捉することが可能であることが分かる。また、前記nmオーダの連通孔1cの内壁の突起1dによっても、前記有機物をさらに有効に捕捉することができる。
【0025】
さらに、本発明の実施形態において物質内部の構造を変性させた吸着材1をなす珪藻土を透過電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を図5(a)(b)に基づいて説明する。図5(a)(b)に示す様に、微粒子1の内部に黒縞のコントラスト7が認められ、その幅が50〜100nmであって連通孔1cとしての形態に形成されている。この場合でも、連通孔1cはnmオーダである。
【0026】
また、本発明の実施形態において物質内部の構造を変性させた吸着材1をなす活性炭を透過電子顕微鏡(TEM)により観察した結果を説明する。図7(a)(b)(c)は、図6に示すD領域を透過顕微鏡で観察したTEM写真である。図7(a)(b)(c)の写真からも連通孔1cの痕跡と思われる突起が観察された。図6に示す走査電子顕微鏡によるSEM観察からは平坦に見えた連通孔1cの側面にも、図7(a)(b)(c)に示す様に10〜100nmの突起1dがあり、この突起1dの構造が有機物(インキ成分、パウダー、油脂)や紙粉などを捕捉するのに有効に寄与するものである。
【0027】
以上のように走査電子顕微鏡及び透過電子顕微鏡を用いた微粒子の観察を考慮すると、本発明の実施形態では、微粒子1の表面1aにμmオーダの凹凸1bを形成させていると共に、nmオーダの連通孔1cを形成させているため、例えば湿し水3に含まれる有機物であるインキ成分,パウダー,油脂などをnmオーダの連通孔1cで捕捉し、約3μmの紙粉をμmオーダの凹凸1bで捕捉し、湿し水3の浄化に寄与させるものである。
【0028】
さらに、本発明の実施形態では、図7(a)(b)(c)に示す様に、連通孔1cの内壁にさらにnmオーダの突起1dを形成させているため、この突起1dが連通孔1cによる有機物の捕捉に寄与することとなり、連通孔1c及びその内部の突起1dにより、有機物の有効な捕捉に寄与させるものである。
【0029】
さらに、本発明の実施形態では、不織布2の表面領域に撥水処理を施している。具体的に説明すると、本発明の実施形態では、例えば日華化学株式会社の製品名「アデッソWR−1」を用いて不織布2の繊維に撥水処理を施しており、表面領域に形成した撥水層2cと内部に繊維の積層によるフィルタ機能2dとを有する内外二重構造の不織布2に仕上げている。さらに、前記内外二重構造の不織布2を図2(a)(b)に示す様に袋状に形成している。
【0030】
さらに、本発明の実施形態では図1及び図2に示す様に、前記内外二重構造の不織布2を、その表面領域の撥水層2cを袋の内壁として、袋状に成形している。そして、前記袋状の不織布2内に吸着材1をなす微粒子1を充填して、それらの微粒子1を袋状の不織布2でブロック状に保形している。
【0031】
さらに、本発明の実施形態では、袋状の不織布2の内壁2aが撥水処理を施した撥水層2bであることを応用して、微粒子1と不織布2の内壁2aとの馴染みを向上させて、ブロック状の表層側に位置する微粒子1と不織布2の内壁2aとを密着させている。
【0032】
次に、本発明の実施形態に用いた不織布2を走査電子顕微鏡で観察した結果について説明する。
【0033】
撥水処理後の不織布2をSEM観察すると、図8(a)に示す様に、不織布2を形成している繊維2dの径が約15〜20μmであり、それらの繊維2dが積層されているためにフィルタ機能としては実質数μmと考えられる。また、図8(b)に示す様に、不織布2の表面領域に位置する繊維2dを観察するとその繊維2dの表面が光っており、不織布2の表面領域に撥水層2cが存在していることが分かる。
これらの走査電子顕微鏡による観察結果を考察すると、表面領域に形成した撥水層2cと内部に繊維の積層によるフィルタ機能2dとを有する内外二重構造の不織布2に形成させていることが分かる。これは、従来の不織布が繊維の積層によるフィルタ機能のみを備えているものと、本発明の実施形態に用いる内外二重構造の不織布2との違いが図7に示すSEM写真から明らかになった。
【0034】
本発明の実施形態に用いた不織布2は、慣性作用,衝突作用,分散作用,重力作用,静電作用などによって、有機物や紙粉等を捕捉する。図8(a)から分かるように、その不織布2が備えているフィルタ機能が実質数μmであるから、紙粉などを十分捕捉できることが分かる。
【0035】
また、本発明の実施形態に用いた不織布2は、その繊維2d特に表面領域の繊維b2dに撥水処理が施され、その不織布2の表面領域には撥水層2cを備えているため、不織布2と微粒子1との馴染みが改善され、微粒子1は不織布2の内壁2aに密着して当てがわれることとなる。
そのため、取水口4から供給される湿し水3が水圧の変動などにより吸着材をなす微粒子1が不織布2の内壁2aと摩擦することが抑制され、その結果、吸着材をなす微粒子1の表面1aの形状が鈍ることはない。したがって、吸着材をなす微粒子1による濾過効果が長期間維持されることとなる。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係る濾過システムを用いて印刷業界で使用されている湿し水3を浄化する場合を説明する。
【0037】
袋状の不織布2の取水口4から汚れた湿し水3を不織布2内のブロック状の吸着材をなす微粒子1に供給すると、前記送り込まれた湿し水3は図9(a)に太線で示す様に、前記微粒子1の表面1aに沿って流動し、その湿し水3内に含まれる紙粉5aが図1のBに拡大して示す様に、前記微粒子1の表面1aに図4(a)(b)に示す様なμmオーダの凹凸1bで捕捉される。前記ブロック状の外周面に位置する微粒子1は、図8(b)に示す不織布2の撥水層2cに密着したままで、その表面1aの凹凸1bで紙粉5aを捕捉している。
【0038】
また、湿し水3は図9(a)に太線で示す様に微粒子の表面1aに沿って流動する及び内部浸透する際に、その内部に含まれる異物、具体的には有機物であるパウダー5b,インキ成分5c,油分5dが、模式化して示した図9(b)及び図4(b)並びに図5(a)(b)で示すnmオーダの連通孔1cを流動する際に、そのnmオーダの連通孔1cに捕捉される。この場合、図7(a)(b)(c)に示す様に連通孔1cの内壁に突起1dが形成されている場合には、前記有機物が前記連通孔1c内の突起1dによっても捕捉される。
【0039】
また、本発明の実施形態では、図1のCに拡大して示す様に、微粒子1の表面1aが不織布2の内壁2aに密着しているため、不織布2のメッシュ2bが微粒子2によって閉塞される可能性があるが、不織布2の表面領域には撥水層2cが存在するため、浄化された湿し水3は不織布2の撥水層2cによって微粒子1の表面1aと不織布2の内壁2aとの間を擦り抜けて袋状不織布2の外部に排水される。
【0040】
また、本発明の実施形態に用いた不織布2は図8(b)に示す様に表面領域に撥水層2cを有するが、図8(b)に示す様にその内部に繊維2dが積層して形成されるフィルタ機能を有しているため、湿し水3は図9(a)に示す微粒子1の表面1aに沿って流動することに加えて不織布2の繊維2d間を潜って流動し、不織布2の有するフィルタ機能によって不織布2に捕捉される。
【0041】
以上のように、本発明の実施形態によれば、吸着材をなす微粒子1のμmオーダの凹凸1bとnmオーダの連通孔1c、連通孔1cの内壁に形成した凹凸1d及び不織布2の有するnmオーダのフィルタ機能に基づいて、キャリア3に含まれる異物を除去することができるものである。
【0042】
次に、本発明の実施形態に係る濾過システムを用いて平版印刷に用いられた湿し水を濾過した結果を説明する。この実験は、連続吸水の湿し水装置(容量100リットル)の湿し水3を毎分15リットルで12ヶ月間、本発明の実施形態に係る濾過システムに循環することにより、紙粉や有機物の捕捉を検証したものである。
【0043】
図10の右側に示したビーカ内の湿し水が濾過前のものであり、左側に示したビーカ内の湿し水が濾過したものである。図10の比較結果から明らかなように、湿し水が濾過されて透明度が増していることが分かる。この実験結果からして、本発明の実施形態は、キャリアに含まれる紙粉や有機物を濾過する事に効果があることが分かる。更に、本発明の実施形態では、連続吸水の湿し水装置(容量100リットル)の湿し水3を毎分15リットルで12ヶ月間浄化しても濾過効果が維持されていた。
【0044】
これに対して、従来の濾過システムでは、数週間毎のメンテナンスの都度、湿し水を廃棄し、湿し水を貯留するタンク内を清掃した後、新たな湿し水に交換していた。
このことからしても、本発明の実施形態に係る濾過システムでは、吸着材1及び不織布2のみを交換することにより、湿し水を交換することが不要となる。そして、実験の結果からして、本発明の実施形態における吸着材1及び不織布2の交換時期は、吸着材1の充填量を調整することにより、数ヶ月ないし数年の期間に延長させることができる。
【0045】
図10に示す実験結果を、吸着材をなす微粒子1の粒径を種々変更しながら行った。その結果によれば、吸着材1をなす微粒子1の粒径を15μm〜30μmの範囲に設定し、前記不織布として、前記粒径の吸着材1を袋の内部に坦持するのに必要な透過用隙間をもつ不織布を用いることにより、最も効率的且つ長期間に亘って汚れを浄化できることが分かっている。したがって、不織布2の繊維間に形成される隙間が、吸着材として15μmの微粒子1を用いる場合には約10μm〜14μmのものを用い、吸着材として30μmの微粒子1を用いる場合には約15μm〜28μmのものを用いることが最適であるとの結果が出ている。
【0046】
また、本発明の実施形態に係る濾過システムに用いたμmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔に加工した吸着材をなす微粒子であって、吸着前の微粒子1を図11(a)に、吸着後の紙粉や有機物を含む吸着材をなす微粒子1を図11(b)に示す。
【0047】
次に、本発明の実施形態において、図11(b)に示す吸着後の吸着材をなす微粒子1の珪藻土をEDS分析した結果を表1および表2に示す。主体はSiO2(二酸化珪素)であるが、わずかにAl2O3(アルミナ)などが分析された。
【表1】
【表2】
【0048】
次に、本発明の実施形態に係る濾過システムによって図11(a)(b)に示す様に捕捉した有機物(残渣)を分析した。
図11(a)(b)に示す捕捉した有機物(残渣)をEDS分析した結果を表3〜表5に示す。印刷インキの主体はプロピレングリコール(CH3CH(OH)CH2OH)やクエン酸(C6H8O7)と言われているが、これらに該当する有機物の詳細な組成は不明である。環境対応型平版インキの生産比率はUVインキ4.3%、大豆油インキ74.2%、ノンVOCインキ0.9%であり、湿し水のうち、インキ成分が占める割合が79.4%であることから、インキ成分は有機系の組成であると考えられる。特に、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)などの有機物合成に不可欠な成分などが主体である。また、光沢成分としてマグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)なども含まれている。一部に塩素(Cl)なども捕捉していることが判明した。
【表3】
【表4】
【表5】
【0049】
図12は捕捉有機物残渣(3)のEDSスペクトルである。このスペクトルから吸着材1及び不織布2上には、かなり多くの有機物質が捕捉されていることが明らかになった。
【0050】
以上の結果に基づいて、本発明の実施形態に係る濾過システムを考察すると、不織布に撥水処理を施すことにより、不織布と微粒子状の吸着材との馴染みを向上させるとともに、不織布のキャリアに対する流動抵抗を低下させることにより、不織布と吸着材との摩耗を抑制して、濾過効果を長期間に亘って発揮させることができる。
【0051】
さらに、μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子状の吸着材と、撥水処理を施して袋状に成形した不織布とを用いるため、例えば湿し水の汚れの大きさに対処することができ、吸着材と不織布とのいずれか或いは双方を用いて確実に汚れを浄化することができる。
【0052】
さらに、不織布の撥水処理を施した内壁に前記微粒状の吸着材の表面を当てがい、前記不織布で前記微粒子状の吸着材をブロック状に保形することにより、上述した様に不織布と吸着材との摩擦が抑制でき、微粒子状の吸着材全体に発展する摩擦現象を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、平版印刷の湿し水の浄化ばかりでなく、nmオーダの汚れを含むキャリアを浄化するのに適しており、食品業界などの浄化処理にも適用でき、しかも熱を使わないため、環境に負担をかけることがない濾過方式を提供できる。
【符号の説明】
【0054】
1 吸着材をなす微粒子
1b 凹凸
1c 連通孔
1d 突起
2 不織布
2a 不織布の内壁
2c 撥水層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアに含有する異物を濾過する濾過システムであって、
μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子と、
表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、袋状に形成した不織布とを有し、
前記不織布の撥水処理を施した内壁に前記微粒子の表面を当てがい、前記不織布で前記微粒子をブロック状に保形したことを特徴とすることを特徴とする濾過システム。
【請求項2】
前記連通孔の内壁に突起を有する請求項1に記載の濾過システム。
【請求項1】
キャリアに含有する異物を濾過する濾過システムであって、
μmオーダの凹凸及びnmオーダの連通孔を有する微粒子と、
表面領域に撥水処理を施し且つ内部に繊維の積層によるフィルタ機能を有する内外二重構造であって、袋状に形成した不織布とを有し、
前記不織布の撥水処理を施した内壁に前記微粒子の表面を当てがい、前記不織布で前記微粒子をブロック状に保形したことを特徴とすることを特徴とする濾過システム。
【請求項2】
前記連通孔の内壁に突起を有する請求項1に記載の濾過システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−79181(P2011−79181A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232044(P2009−232044)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(500171316)大道産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(500171316)大道産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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