説明

濾過機

【課題】塩化物イオンを含む水溶液と被濾過物とを含む80℃以上の含水混合物から、被濾過物を濾別するための、耐腐蝕性に優れた濾過機を提供する。
【解決手段】濾過機は、少なくとも含水混合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0を越え、0.030重量%以下、シリコン:0を越え、0.80重量%以下、マンガン:0を含み、1.00重量%以下、リン:0を越え、0.030重量%以下、硫黄:0を含み、0.020重量%以下、クロム:24.00重量%以上、26.00重量%以下、ニッケル:6.00重量%以上、8.00重量%以下、モリブデン:2.50重量%以上、3.50重量%以下、銅:0.20重量%以上、0.80重量%以下、タングステン:1.50重量%以上、2.50重量%以下、窒素:0.24重量%以上、0.32重量%以下(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた濾過機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種化合物(中間物や最終製品)の製造過程においては、当該化合物の水溶液から触媒等の固形物を濾別する(濾過して除去する)操作が行われることがある。また、目的物である上記化合物の脱色や脱臭を行うために、当該化合物の水溶液に活性炭を投入して攪拌した後、活性炭を濾別する操作が行われることもある。さらに、上記各操作は、化合物の物理的性質(溶解度、安定性等)や製造効率等の製造過程の都合上、腐蝕性の高い塩化物イオンを含む水溶液や、80℃以上の水溶液に対して行われることもある。つまり、各種化合物の製造過程においては、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液から触媒や活性炭等の被濾過物を濾過する操作が行われることがある。
【0003】
従来、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に接触しても腐蝕しない(特に耐隙間腐蝕性に優れた)Ni基合金(ニッケル基合金)としてUNS N06022が知られており、市販されている(例えば、MA22(商品名):三菱マテリアル株式会社製;化学組成は、例えば、炭素:0.003重量%、シリコン:0.01重量%以下、マンガン:0.23重量%、リン:0.01重量%以下、硫黄:0.01重量%以下、クロム:21.20重量%、モリブデン:13.30重量%、タングステン:2.90重量%(残りはニッケルであり、ニッケルを含めた化学組成が100重量%となる))。それゆえ、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液から触媒や活性炭等の被濾過物を濾過する操作には、一般に、上記Ni基合金からなる濾過機が使用されている。
【0004】
尚、強酸水溶液に対する腐蝕防止に関する技術内容として、例えば特許文献1には、ステンレス鋼の腐蝕を防止するために、当該強酸水溶液にアルミニウム化合物の水溶液を添加する方法が記載されている。ところが、この方法では水溶液にアルミニウム化合物が混入してしまうので、特殊な用途にしか用いることができず、汎用性が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−331465号公報(1995年12月19日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記Ni基合金(UNS N06022)はステンレス鋼と比較して高価であることから、工業的に大掛かりな濾過機に用いることはコストの面から現実的ではない。そこで、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に接触しても腐蝕せず(特に耐隙間腐蝕性に優れ)、しかも工業的に大掛かりな(汎用性のある)濾過機に用いることができる比較的安価なステンレス鋼が求められている。つまり、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた、安価なステンレス鋼からなる濾過機が求められている。しかしながら、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対するステンレス鋼の腐蝕性について検討(研究)した文献は無く、従って、当業者においてもどのようなステンレス鋼が当該水溶液に対して耐腐蝕性を有するのか不明であるという問題点を有している。
【0007】
一方、ステンレス鋼やNi基合金における耐隙間腐蝕性の指標として適用されるPRE(Pitting Resistance Equivalent) は、一般に、下記式
PRE=Cr+3.3(Mo+0.5W)+nN
(式中、Crは、ステンレス鋼におけるクロムの重量%含有量、Moは、ステンレス鋼におけるモリブデンの重量%含有量、Wは、ステンレス鋼におけるタングステンの重量%含有量、Nは、ステンレス鋼における窒素の重量%含有量、nは係数であり16または30を表す。但し、PREは無名数である。)
で算出される。そして、ステンレス鋼やNi基合金は、PREの数値が大きいほど、耐隙間腐蝕性に優れていると評価されており、PREが約40以上(文献によって上記Nの係数が異なる)のステンレス鋼は、塩化物イオンを含む常温の水溶液では腐蝕されないので、スーパーステンレス鋼と称されている。上記Ni基合金(UNS N06022)のPREは69.9である。
【0008】
そこで、当該Ni基合金(UNS N06022)よりも安価で、PREが48.6であるステンレス鋼(UNS S32707)や、PREが49.9であるNi基合金(UNS N06625)について、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性を検討した。しかしながら、これらスーパーステンレス鋼と称されているステンレス鋼や高耐食性とされているNi基合金には、上記水溶液に対する耐腐蝕性は認められなかった。つまり、PREが40以上である、スーパーステンレス鋼と称されているステンレス鋼や高耐食性とされているNi基合金であっても、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対して耐腐蝕性が劣る場合があること、即ち、PREの数値だけで塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対するステンレス鋼やNi基合金の耐腐蝕性を判断することができないことが判った。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、Ni基合金(UNS N06022)よりも安価なステンレス鋼からなり、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた濾過機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る濾過機は、上記の課題を解決するために、塩化物イオンを含む水溶液と被濾過物とを含む80℃以上の含水混合物から、被濾過物を濾別するための濾過機であって、少なくとも上記含水混合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0を越え、0.030重量%以下、シリコン:0を越え、0.80重量%以下、マンガン:0を含み、1.00重量%以下、リン:0を越え、0.030重量%以下、硫黄:0を含み、0.020重量%以下、クロム:24.00重量%以上、26.00重量%以下、ニッケル:6.00重量%以上、8.00重量%以下、モリブデン:2.50重量%以上、3.50重量%以下、銅:0.20重量%以上、0.80重量%以下、タングステン:1.50重量%以上、2.50重量%以下、窒素:0.24重量%以上、0.32重量%以下(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る濾過機は、上記ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0.018重量%、シリコン:0.30重量%、マンガン:0.54重量%、リン:0.026重量%、硫黄:0.001重量%、ニッケル:7.03重量%、クロム:25.82重量%、モリブデン:3.18重量%、銅:0.60重量%、タングステン:2.12重量%、窒素:0.30重量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)であることがより好ましく、遠心濾過機であることがより好ましく、塩化物イオンを0.01重量%以上、22.0重量%以下の範囲内で含む水溶液の濾過に用いられることがより好ましく、被濾過物が活性炭であり、活性炭の濾過に用いられることがより好ましい。
【0012】
上記特定の化学組成を有するステンレス鋼は、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れている。従って、上記の構成によれば、Ni基合金(UNS N06022)よりも安価なステンレス鋼からなり、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた濾過機を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る濾過機によれば、Ni基合金(UNS N06022)よりも安価なステンレス鋼からなり、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた濾過機を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例で作成した隙間腐蝕試験片の概略の構成を示す正面図である。
【図2】実施例で用いた試験装置の概略の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る濾過機は、塩化物イオンを含む水溶液と被濾過物とを含む80℃以上の含水混合物から、被濾過物を濾別するための濾過機であって、少なくとも上記含水混合物に接触する箇所が特定の化学組成を有するステンレス鋼からなる構成である。
【0016】
本発明において塩化物イオンを含む水溶液とは、塩化物イオンを生じる化合物の水溶液を指す。塩化物イオンを生じる化合物としては、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化第二鉄、塩酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等が挙げられる。また、本発明において水溶液を構成する溶媒(水)には、アルコールやエーテル等の有機溶媒が50重量%未満の範囲で含まれていてもよい。つまり、塩化物イオンを含む水溶液には、水よりも少ない量(重量)の有機溶媒が含まれていてもよい。尚、塩化物イオンを含む水溶液には、塩化物イオン以外の他のイオンが含まれていてもよい。
【0017】
上記水溶液における塩化物イオンの濃度は、特に問わないものの、0.01重量%以上、22.0重量%以下の範囲内であることが望ましく、1.0重量%以上、22.0重量%以下の範囲内であることがより望ましい。
【0018】
本発明において被濾過物とは、濾過によって上記水溶液から濾別される固形物、つまり、濾過機を用いて水溶液から濾過して除去することが必要な固形物(粉体や粒体も含まれる)を指す。当該被濾過物としては、具体的には、例えば、活性炭、触媒(反応触媒)、不純物や重合物等の不溶物、反応生成物等が挙げられる。尚、被濾過物の形状や大きさは、濾別することができるのであれば、特に問わない。
【0019】
従って、本発明において含水混合物とは、塩化物イオンを含む水溶液に被濾過物が混合されてなる固液混合物を指す。含水混合物としては、より具体的には、例えば、塩化ナトリウムを含む水溶液中に、活性炭が分散されてなる固液混合物が挙げられる。
【0020】
本発明に係る濾過機は、80℃以上の上記含水混合物から被濾過物を濾別することができるのであれば、その形式は特に問わないものの、効率面を考慮すれば、遠心濾過機であることがより好ましい。当該遠心濾過機としては、例えば、バスケット型、押出型、振動排出型、自動排出型、スクリュー排出型が好適である。また、本発明においては、上記遠心濾過機と同様に被濾過物を濾別することができる遠心分離機(遠心沈降分離機)も、本発明に係る濾過機の範疇に含まれることとする。当該遠心分離機としては、例えば、スクリューデカンター型、多筒型、無孔バスケット型が好適である。
【0021】
(濾過機の材質)
本発明において、ステンレス鋼における耐隙間腐蝕性の指標として適用されるPRE(Pitting Resistance Equivalent) は、下記式
PRE=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N
(式中、Crは、ステンレス鋼におけるクロムの重量%含有量、Moは、ステンレス鋼におけるモリブデンの重量%含有量、Wは、ステンレス鋼におけるタングステンの重量%含有量、Nは、ステンレス鋼における窒素の重量%含有量を表す。但し、PREは無名数である。)
で算出される数値を指すこととする。クロム、モリブデン、タングステンおよび窒素は、ステンレス鋼の耐隙間腐蝕性を向上させる性質を有している。
【0022】
本発明に係る濾過機は、少なくとも上記含水混合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0を越え、0.030重量%以下、シリコン:0を越え、0.80重量%以下、マンガン:0を含み、1.00重量%以下、リン:0を越え、0.030重量%以下、硫黄:0を含み、0.020重量%以下、クロム:24.00重量%以上、26.00重量%以下、ニッケル:6.00重量%以上、8.00重量%以下、モリブデン:2.50重量%以上、3.50重量%以下、銅:0.20重量%以上、0.80重量%以下、タングステン:1.50重量%以上、2.50重量%以下、窒素:0.24重量%以上、0.32重量%以下(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)である。上記ステンレス鋼は、金属組織としてオーステナイト相とフェライト相とをほぼ同じ比率で備えた2相ステンレス鋼であり、表面に比較的強固な不働態皮膜を有している。
【0023】
上記化学組成は、炭素:0.018重量%、シリコン:0.30重量%、マンガン:0.54重量%、リン:0.026重量%、硫黄:0.001重量%、ニッケル:7.03重量%、クロム:25.82重量%、モリブデン:3.18重量%、銅:0.60重量%、タングステン:2.12重量%、窒素:0.30重量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)であることがより好ましい。当該化学組成を有するステンレス鋼のPREは44.6である。当該ステンレス鋼の化学組成と同等の化学組成を有するステンレス鋼は市販されており(例えば、DP−3W(商品名):住友金属工業株式会社製)、Ni基合金(UNS N06022)よりも安価である。
【0024】
工業的に大掛かりな(汎用性のある)濾過機として用いることができるためには、本発明に係る濾過機の材質は、後述する耐隙間腐蝕性試験において、凡そ200日経過した後においても浸漬電位の低下が認められず、隙間腐蝕試験片の腐蝕を確認することができないことが要求される。上記化学組成を有するステンレス鋼は、上記条件を満足することができる。それゆえ、工業的に大掛かりな(汎用性のある)濾過機として用いることができる。上記濾過機は、少なくとも含水混合物に接触する箇所がステンレス鋼からなっていればよいが、より安定的に使用するには濾過機内部(内壁)全体が上記特定の化学組成を有するステンレス鋼からなっている方がより好ましく、さらに安定的に使用するには濾過機全体が上記特定の化学組成を有するステンレス鋼からなっている方がさらに好ましい。
【0025】
上記特定の化学組成を有するステンレス鋼は、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れている。従って、上記の構成によれば、Ni基合金(UNS N06022)よりも安価なステンレス鋼からなり、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた濾過機を提供することができる。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕
(濾過機の材質)
濾過機の材質としてステンレス鋼(A)を用いた。ステンレス鋼(A)の化学組成は、炭素:0.018重量%、シリコン:0.30重量%、マンガン:0.54重量%、リン:0.026重量%、硫黄:0.001重量%、ニッケル:7.03重量%、クロム:25.82重量%、モリブデン:3.18重量%、銅:0.60重量%、タングステン:2.12重量%、窒素:0.30重量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)であり、PREは44.6である。尚、ステンレス鋼(A)の化学組成と同等の化学組成を有するステンレス鋼はUNS S39274として知られており、市販されている(例えば、DP−3W(商品名):住友金属工業株式会社製)。
【0027】
上記ステンレス鋼(A)を縦50mm×横10mm×厚さ2mmの平板に加工し、その中央部に直径6mmの穴を空けることにより、試験片を作成した。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる厚さ1mmのシートを外径15mm,内径6mmのリング状に加工し、リング状シートとした。そして、図1に示すように、上記試験片1を2枚のリング状シート2・2で穴の位置が互いに一致するように挟み込み、チタン製のワッシャ3・3、チタン製のM5六角ボルト4およびナット5で締め付けて固定した。但し、六角ボルト4と試験片1とが互いに電気的に接触しないように、試験片1との接触部分である六角ボルト4のボルトネジ部には、ポリテトラフルオロエチレン製のシールテープを巻いて絶縁した。これにより、隙間腐蝕試験片10を作成した。
【0028】
そして、上記隙間腐蝕試験片10は、純水を用いて洗浄し、水分を拭き取り、大気中で乾燥させた後、下記耐隙間腐蝕性試験に供した。
(耐隙間腐蝕性試験の方法)
一般に、食塩水(塩化ナトリウム水溶液)に活性炭を混合してなる含水混合物は、食塩水よりもステンレス鋼に対する隙間腐蝕性が強い(腐蝕が促進される)ことが知られている。そこで、耐隙間腐蝕性試験においては、塩化物イオンを含む80℃の水溶液を用いると試験に長期間を要するため、より厳しい条件下である、塩化物イオンを含む水溶液と活性炭とを含む80℃の含水混合物を用いて試験を行った。
【0029】
即ち、塩化物イオンを生じる化合物として塩化ナトリウムを用いて、塩化物イオンを含む水溶液を作成した。当該水溶液には、塩化ナトリウムが3.0重量%、NaSOが1/20モル濃度の割合で含まれていた。そして、当該水溶液に、水溶液と活性炭との重量比が3:2となるように、活性炭として球状白鷺X7100H−8/32(商品名:日本エンバイロ工業株式会社製)を混合して分散させた。これにより、含水混合物である試験液を調製した。
【0030】
図2に示すように、ガラス製のセパラブルフラスコ11内に活性炭12aが分散された上記試験液12を仕込むと共に、上記隙間腐蝕試験片10を試験液12に浸漬した。また、セパラブルフラスコ11の周囲に加熱装置としてマントルヒータ(図示しない)を配置すると共に、セパラブルフラスコ11の上部に水蒸気を凝縮させるコンデンサ13を設けた。また、セパラブルフラスコ11内に、試験液12に空気を連続的に吹き込むための吹込管14を配置した。尚、試験液12に空気を連続的に吹き込むのは、隙間腐蝕をさらに促進させるためである。
【0031】
一方、ガラス製のセル21内に、上記水溶液の組成と同一組成の水溶液22を、試験液12の液面の高さと同じ高さの液面になるように仕込むと共に、水溶液22と試験液12とを液絡23を用いて連絡した。そして、電位測定装置24に導電線25aを介して電気的に接続されている参照電極25を、水溶液22に浸漬した。また、電位測定装置24に上記隙間腐蝕試験片10を、導電線10aを介して電気的に接続した。上記参照電極25として、飽和KClカロメル(甘汞)電極(SCE:saturated calomel electrode )を用いた。
【0032】
上記構成の試験装置を用いて、耐隙間腐蝕性試験を実施した。即ち、マントルヒータを用いて当該試験液12を80℃に加熱し、同温度を維持した。また、吹込管14を介して試験液12に空気を約50cc/分の割合で連続的に吹き込んだ。そして、電位測定装置24を用いて隙間腐蝕試験片10の浸漬電位を連続的に測定(モニタリング)し、当該浸漬電位の変化(低下)を観察する耐隙間腐蝕性試験を行った。
【0033】
その結果、試験液12の温度が80℃に達した時点での浸漬電位は凡そ0.20Vであり、当該時点から1.9×10秒以上(凡そ220日)経過した後においても上記浸漬電位の低下は認められなかった。また、目視にて隙間腐蝕試験片10の腐蝕を確認することはできなかった。
〔比較例1〕
濾過機の材質として比較ステンレス鋼(B)を用いた。比較ステンレス鋼(B)の化学組成は、炭素:0.013重量%、シリコン:0.37重量%、マンガン:0.89重量%、リン:0.015重量%、硫黄:0.0005重量%、ニッケル:6.45重量%、クロム:26.45重量%、モリブデン:4.77重量%、タングステン:0重量%、コバルト0.97重量%、窒素:0.40重量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)であり、PREは48.6である。尚、比較ステンレス鋼(B)の化学組成と同等の化学組成を有するステンレス鋼はUNS S32707として知られており、市販されている(例えば、SAF2707(商品名):SANDVIK MATERIALS TECHNOLOGY製)。
【0034】
上記比較ステンレス鋼(B)をステンレス鋼(A)と同様に加工等して、隙間腐蝕試験片とした。そして、上記隙間腐蝕試験片を用いて実施例1と同様に、耐隙間腐蝕性試験を行った。
【0035】
その結果、試験液の温度が80℃に達した時点での浸漬電位は凡そ0.18Vであったが、当該時点から5.4×10秒程度(凡そ6日)経過した後では上記浸漬電位の低下(凡そ−0.10V)が認められた。また、目視にて隙間腐蝕試験片の腐蝕を確認することができた。
〔比較例2〕
濾過機の材質として比較Ni基合金(C)を用いた。比較Ni基合金(C)の化学組成は、炭素:0.03重量%、シリコン:0.18重量%、マンガン:0.24重量%、リン:0.002重量%、硫黄:0.001重量%、クロム:20.90重量%、モリブデン:8.80重量%、タングステン:0重量%、鉄:3.70重量%、アルミニウム:0.25重量%、チタン:0.28重量%、コバルト0.10重量%、ニオブ(コロンビウム)+タンタル:3.47重量%(残りはニッケルであり、ニッケルを含めた化学組成が100重量%となる)であり、PREは49.9である。尚、比較Ni基合金(C)の化学組成と同等の化学組成を有するステンレス鋼はUNS N06625として知られており、市販されている(例えば、MA625(商品名):三菱マテリアル株式会社製)。
【0036】
上記比較Ni基合金(C)をステンレス鋼(A)と同様に加工等して、隙間腐蝕試験片とした。そして、上記隙間腐蝕試験片を用いて実施例1と同様に、耐隙間腐蝕性試験を行った。
【0037】
その結果、試験液の温度が80℃に達した時点での浸漬電位は凡そ0.17Vであったが、当該時点から5.2×10秒程度(凡そ60日)経過した後では上記浸漬電位の低下(凡そ0.01V)が認められた。また、目視にて隙間腐蝕試験片の腐蝕を確認することができた。
〔参考例1〕
濾過機の材質として参考Ni基合金(D)を用いた。参考Ni基合金(D)の化学組成は、炭素:0.003重量%、シリコン:0.01重量%以下、マンガン:0.23重量%、リン:0.01重量%以下、硫黄:0.01重量%以下、クロム:21.20重量%、モリブデン:13.30重量%、タングステン:2.90重量%(残りはニッケルであり、ニッケルを含めた化学組成が100重量%となる)であり、PREは69.9である。尚、参考Ni基合金(D)の化学組成と同等の化学組成を有するステンレス鋼はUNS N06022として知られており、市販されている(例えば、ハステロイC−22(商品名):三菱マテリアル株式会社製)。
【0038】
上記参考Ni基合金(D)をステンレス鋼(A)と同様に加工等して、隙間腐蝕試験片とした。そして、上記隙間腐蝕試験片を用いて実施例1と同様に、耐隙間腐蝕性試験を行った。
【0039】
その結果、試験液の温度が80℃に達した時点での浸漬電位は凡そ0.16Vであり、当該時点から1.9×10秒以上(凡そ220日)経過した後においても上記浸漬電位の低下は認められなかった。また、目視にて隙間腐蝕試験片の腐蝕を確認することはできなかった。
〔まとめ〕
本発明に係る濾過機の材質として好適なステンレス鋼(A)では浸漬電位の低下が認められず、隙間腐蝕試験片の腐蝕を確認することはできなかった。これに対して、比較ステンレス鋼(B),Ni基合金(C)では浸漬電位の低下が認められ、隙間腐蝕試験片の腐蝕を確認することができた。即ち、上記結果から明らかなように、本発明に係る濾過機の材質として好適なステンレス鋼(A)は、PREが44.6であるにも関わらず、PREが48.6である比較ステンレス鋼(B)やPREが49.9である比較Ni基合金(C)と比較して、試験液(つまり、塩化物イオンを含む水溶液と活性炭とを含む80℃の含水混合物)に対する耐隙間腐蝕性に著しく優れているだけでなく、耐隙間腐蝕性が優れていることが知られているPREが69.9である参考Ni基合金(D)と同等の耐隙間腐蝕性を備えていることが判る。
【0040】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施でき、従って、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る濾過機によれば、Ni基合金(UNS N06022)よりも安価なステンレス鋼からなり、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液に対する耐腐蝕性、特に耐隙間腐蝕性に優れた濾過機を提供することができるという効果を奏する。
【0042】
それゆえ、本発明に係る濾過機は、例えば、塩化物イオンを含む80℃以上の水溶液から触媒や活性炭等の被濾過物を濾過する操作が行われる各種化合物の製造過程において、つまり、耐腐蝕性が要求される濾過操作を行う各種産業において広範に利用され得る。
【符号の説明】
【0043】
1 試験片
10 隙間腐蝕試験片
11 セパラブルフラスコ
12 試験液
12a 活性炭
24 電位測定装置
25 参照電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンを含む水溶液と被濾過物とを含む80℃以上の含水混合物から、被濾過物を濾別するための濾過機であって、
少なくとも上記含水混合物に接触する箇所がステンレス鋼からなり、当該ステンレス鋼の化学組成が、
炭素:0を越え、0.030重量%以下、
シリコン:0を越え、0.80重量%以下、
マンガン:0を含み、1.00重量%以下、
リン:0を越え、0.030重量%以下、
硫黄:0を含み、0.020重量%以下、
クロム:24.00重量%以上、26.00重量%以下、
ニッケル:6.00重量%以上、8.00重量%以下、
モリブデン:2.50重量%以上、3.50重量%以下、
銅:0.20重量%以上、0.80重量%以下、
タングステン:1.50重量%以上、2.50重量%以下、
窒素:0.24重量%以上、0.32重量%以下
(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)
であることを特徴とする濾過機。
【請求項2】
上記ステンレス鋼の化学組成が、炭素:0.018重量%、シリコン:0.30重量%、マンガン:0.54重量%、リン:0.026重量%、硫黄:0.001重量%、ニッケル:7.03重量%、クロム:25.82重量%、モリブデン:3.18重量%、銅:0.60重量%、タングステン:2.12重量%、窒素:0.30重量%(残りは鉄であり、鉄を含めた化学組成が100重量%となる)であることを特徴とする請求項1に記載の濾過機。
【請求項3】
遠心濾過機であることを特徴とする請求項1または2に記載の濾過機。
【請求項4】
塩化物イオンを0.01重量%以上、22.0重量%以下の範囲内で含む水溶液の濾過に用いられることを特徴とする請求項1,2または3に記載の濾過機。
【請求項5】
被濾過物が活性炭であり、活性炭の濾過に用いられることを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の濾過機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−96140(P2012−96140A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244074(P2010−244074)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】