説明

濾過膜

本発明は流体または液体媒質からエンドトキシンおよびバクテリアDNAまたはDNA断片を含むサイトカイン誘導物質(CIS)を保持できる限外濾過膜を対象とする。さらに本発明はこの限外濾過膜を高品質かつ効率的かつ時間を節約した手順で製造する方法、および流体または液体から物質を保持するこの膜の使用を対象とする。本発明の限外濾過膜は骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーと、親水性、非荷電のポリビニルピロリドンのホモポリマーと、カチオン電荷を含むポリマーとを有するポリマーブレンドからなる。この限外濾過膜を製造する方法は、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーと、親水性、非荷電のポリビニルピロリドンのホモポリマーと、カチオン電荷を含むポリマーとを溶媒に溶解してポリマー溶液を形成し、形成したポリマー溶液に拡散誘起相分離を受けさせて限外濾過膜を調製し、限外濾過膜を洗浄し、引き続いて乾燥することを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は限外濾過膜に向けられる。さらにこの発明は、流体または液体からの物質を保持するための先述したような種類の限外濾過膜の製造方法および、このような膜の使用に向けられる。
【0002】
半導体および食品加工産業もしくは医療および環境応用において、流体または液体媒質から好ましくない物質を除去するための、向上した高性能濾過膜の需要が引き続いて存在する。
【0003】
点滴液の調製または人間の血液の透析のようないくらかの医療の応用例において、流体からバクテリアのエンドトキシンおよび/または発熱性物質を保持することができる濾過膜を備えることが要求される。発熱物質またはサイトカイン誘導物質(CIS)は、例えばバクテリアの細胞断片、例えばリポポリサッカリドかもしれない。0.2μg/kgを下回るCISでも、静脈内に入った場合は人体に発熱を引き起こすのに十分である。
【0004】
物質の保持のためのフィルタ装置の発展におけるアプローチは、強力な吸着効果の材料、特に多孔質構造の材料を含む。保持特性をさらに向上させるために、いくらかの材料は非荷電膜マトリクス上に適用された荷電ポリマーを含んだ被膜とともに提供されている。
【0005】
US 5,531,893は、親水性相互貫入ネットワークの電荷修飾微孔膜を開示し、微孔膜基材内に架橋相互貫入ネットワークを形成する荷電修飾システムを含む。ネットワークは加熱硬化で固定される。
【0006】
既知の材料は通常、0.01〜10μmの孔サイズの微孔膜である。これらの材料の欠点は、多量のDNA,特に小さなDNA断片を通過させてしまうことであるとわかる。混入したオリゴヌクレオチドは、一般に主としてバクテリアおよび他の微生物由来の二本鎖デオキシヌクレオチドであるが、一本鎖デオキシ核酸またはリボ核酸もあり得る。これらのオリゴヌクレオチドは、およそ200〜500ヌクレオチドから5〜10ヌクレオチドぐらいの小ささのサイズ範囲をとり得る。
【0007】
この文脈においてオリゴヌクレオチドは主な慢性および急性炎症性刺激の原因としての役を担い、リポポリサッカリドおよびバクテリアのDNAが相乗的に前炎症性サイトカイン、例えばマクロファージによるTNFαの放出を刺激する事実によって強調される(Gao et al.(2001) J Immunol;166:6855−6860)。したがって、先述の小さなDNA断片でさえも液体媒質から濾過することができる向上した限外濾過膜の需要がある。
【0008】
既知の荷電したポリマー被膜をもつ材料のさらなる欠点は、被膜工程が第2の製造工程であり、さらに形成層の溶解性を減じるために被膜を架橋させる工程を続けて行わなければならないことである。明らかにこの製造手順は複雑で時間がかかる。
【0009】
それゆえに、流体および/または液体媒質からエンドトキシンおよびバクテリアのDNAおよび/またはDNA断片を含むサイトカイン誘起物質(CIS)を保持することができる先述した種類の膜を提供することが、本発明の目的である。さらに、このような膜を高品質かつ効率的に、時間を節約した手順で製造する方法を提供することがこの発明に従った目的である。
【0010】
この目的は、
a)骨格に硫黄を含有する少なくとも1つの疎水性ポリマーと、
b)少なくとも1つの親水性かつ非電荷の、ポリビニルピロリドンのホモポリマーと、
c)カチオン電荷を含んだ少なくとも1つのポリマーと
を含むポリマーブレンドからなる限外濾過膜によって解決され、限外濾過膜は100,000g/molを下回る名目カットオフ値を持つ。名目カットオフ(g/mol)は、異なる分子量をもつ物質に対する膜のふるい係数から決定された値を表す。これは、10%のふるい係数を持った化合物の分子量に対する計算値を示す。膜のふるい係数は、所定の条件のもとでプロテイン溶液を膜バンドルを通して送出し、供給液中、保持液中、濾液中のプロテイン濃度を決定することによって決定する。これらは以下でさらに詳しく説明されるだろう。
【0011】
この出願は多孔質構造内にカチオン電荷基を持ち、水または透析液のようなプロセス流体からバクテリアのDNAおよび他のサイトカイン誘導物質ならびにエンドトキシンを除去することができる限外濾過膜を記述する。正に荷電したポリマーが、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーとポリビニルピロリドンとを含んだポリマーマトリクスのブレンド内に分布していることが非常に重要である。
【0012】
本発明による膜の利点は、分離が3つの異なる分離原理の組み合わせに基づいていることである。一方、本発明の膜はアニオン交換体として機能し、それらのイオン特性によってプロセス流体から好ましくない物質を濾過するであろう。さらに、本発明の膜は非特異的に各々の物質を吸着することができる疎水性ドメインを提供する。本発明の膜の保持特性に関する第3の特徴は、或る分子サイズの物質のサイズ排除濾過である。
【0013】
先述の分離原理の組み合わせにより、本発明の組成および構造の膜は、プロセス流体からバクテリアのDNA断片を含むサイトカイン誘導物質を除去する能力を持つ。同時に、本発明の膜はプロセス流体から、主にサイズ排除によってエンドトキシンをも除去する。
【0014】
バクテリアのDNAおよび他のサイトカイン誘導物資を除去できるようにするために、ポリマーマトリクス内の孔が、バクテリアのDNAおよび他のサイトカイン誘導物質を強制的にポリマーマトリクス内のアニオン交換位置である正に荷電した結合サイトに密接に接触させるのに十分な程小さいことが非常に重要である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンからなる群の少なくとも1つの成分を含む。
【0016】
骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーは、ブレンドの疎水特性をある程度決定し、材料に増強された熱的安定性を与える。上記の群から1つまたは複数の疎水性ポリマーを選択することによって、疎水性および/または熱的特性を所望のレベルに改良してもよい。
【0017】
ポリマーブレンドの疎水性/親水性特性の精密な調整のために、ブレンドは好ましくは少なくとも2つの親水性かつ非荷電のポリビニルピロリドンのホモポリマーを含む。ポリビニルピロリドンが、ブレンド内でポリビニルピロリドンの少なくとも1つのホモポリマーの平均相対分子量がおよそ10,000ないし100,000となるように選択される場合は特に好ましい。最も好ましくは、ポリビニルピロリドンの少なくとも1つのホモポリマーの分子量がおよそ30,000ないし60,000である。ブレンド内のポリビニルピロリドンの少なくとも1つの第2のホモポリマーについて、平均相対分子量はおよそ500,000ないし2,000,000である。好ましくは、このポリビニルピロリドンの第2のホモポリマーはおよそ800,00ないし2,000,000の平均相対分子量を持つ。
【0018】
物質の相対分子量はこの物質内の原子の相対原子量の合計として定義され、相対原子量は(ある元素の原子あたりの平均質量)/(核種12Cの質量の1/12)の比として定義される。
【0019】
上記範囲内から選択された2つの異なるポリビニルピロリドンを組み入れる利点は、発明の膜の疎水性/親水性特性を広い範囲で非常に精密に、的確に調整することができることである。これは確実な重要性である。なぜならばこのような膜の流束はこれらの特性によって大いに影響され、例えば孔サイズが同じのままで膜の疎水特性が増大する場合には、流束を保つためにはより低い圧力が要求されるからである。さらに、疎水性/親水性性質を、供給液流からの非荷電成分の吸着容量を最適化して疎水性サイド上のファンデルワールス力および吸着を向上させるように調整しなければならない。十分な水流束の他に貢献しなければならない第2の態様は、処理される各々の流体または液体に関して要求される濡れ性をもつ膜を提供することである。
【0020】
限外濾過膜の疎水性/親水性特性をさらに精密に調整するために、好ましい実施形態においてポリマーブレンドは追加で少なくとも1つのポリアミドを含む。
【0021】
膜成分の分子量に関しては、水溶性の場合にはカチオン電荷を含んだポリマーが200,000を上回る、好ましくは500,00を上回る平均相対分子量を持つことが好ましい。カチオン荷電修飾ポリマーの分子量の選択は非常に重要である。なぜならば、それは膜構造において溶解性を減じる、ポリマーマトリクス内の十分な絡みを与えるのに十分なほどに大きくなければならないからである。すなわち、荷電ポリマーの分子量が大きくなる程、膜を使用する間のこの修飾ポリマーの損失が極小化される。
【0022】
好ましくは、カチオン電荷を含んだポリマーは3級および/または4級アンモニウム基を含む。本発明の特に好ましい実施形態において、カチオン電荷を含んだポリマーはポリエチレンイミンおよび/または修飾ポリエチレンイミンを含み、両方は水溶性である。本発明の他の好ましい実施形態において、カチオン電荷を含むポリマーはカチオン電荷を持った修飾ポリフェニレンオキシドを含む。
【0023】
本発明による膜は好ましくは0.001ないし0.01μmの孔サイズの孔を持つ。最も好ましくは、膜の選択層において平均孔サイズは0.01μmを下回る。
【0024】
先述の膜を得るために、本発明は限外濾過膜の製造方法を提供し、前記方法は骨格に硫黄を含有する少なくとも1つの疎水性ポリマーと、少なくとも1つの親水性かつ非荷電のポリビニルピロリドンと、カチオン電荷を含んだ少なくとも1つのポリマーとを少なくとも1つの溶媒に溶解し、ポリマー溶液を形成し、形成されたポリマー溶液に拡散誘起相分離を受けさせて限外濾過膜を調製し、限外濾過膜を洗浄し、引き続いて乾燥する。この工程の利点は、カチオン荷電修飾膜が一段階で形成されることである。すなわち、先行技術における追加の工程、例えば非荷電膜マトリクス上に荷電ポリマー種を含んだ被膜を適用し、その後形成された層の溶解性を減じるために架橋させることは、本発明の方法においては要求されず、それゆえに本発明による限外濾過膜の製造工程は時間とコストを節約する。
【0025】
限外濾過膜を形成するポリマーブレンドに含まれる異なるポリマー類は、互いに全く共有結合されていないが、異なるポリマーがお互いに絡み合い、それによって使用される間に膜内に留まるポリマーブレンドを形成する。これは先行技術と比較して工程の単純化の利点を提供する。先行技術US 5,531,893においては、追加の架橋工程が実施され、膜内で異なるポリマーがお互いに共有結合される。
【0026】
好ましくは、拡散誘起相分離を溶液転相紡糸(solvent phase inversion spinning)によって実施し、形成されたポリマー溶液を2つの同心の開口をもつノズルの外側のリングスリットを通して押し出し、中央流体をノズルの内側の開口を通して押し出す。この方法によって、本発明の膜は中空繊維の形状で得られる。ノズルの内側の開口を通して押出された中央流体は、30ないし55重量%の溶媒と、水、グリコールおよび他のアルコール含む群より選択された45ないし70重量%の沈殿媒質を含む。より好ましくは、中央流体は追加で親水性ポリマーを含み、これは好ましくは0.1ないし2重量%の濃度で含まれる。
【0027】
外側のスリット開口から出てくるポリマー溶液は、本発明の限外濾過膜の製造方法の特定の実施形態においては、沈殿する中空繊維の外側で湿潤蒸気/空気混合物に暴露される。好ましくは、蒸気/空気混合物の温度は30ないし70℃の範囲内である。湿潤蒸気/空気混合物における相対湿度は60〜100%である。好ましくは、湿潤蒸気/空気混合物は、水の含有量に関係して0.5ないし5重量%の間の溶媒含有量を持つ。
【0028】
ポリマー溶液におけるポリマー成分の濃度に関して、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーは、好ましくは溶液中におよそ8ないし23重量%の濃度で、より好ましくはおよそ11ないし17重量%の濃度で含まれる。少なくとも1つのポリビニルピロリドンは、溶液中におよそ1ないし15重量%の濃度で含まれる。より好ましくは、ポリマー溶液中の少なくとも1つのポリビニルピロリドンの濃度はおよそ2ないし10重量%である。しかしながら最も好ましくは、ポリマー溶液は少なくとも2つの異なる親水性、非荷電ポリビニルピロリドン類を含む。すなわち、本発明の方法の好ましい実施形態において、ポリマー溶液中に含まれる少なくとも2つのポリビニルピロリドン類は、ともに1ないし15重量%、より好ましくは2ないし10重量%の濃度で含まれる。
【0029】
ポリマー溶液中に少なくとも2つの異なるポリビニルピロリドンが用いられる場合は、好ましくは少なくとも2つの異なるポリビニルピロリドンのうち第1のものがおよそ10,000ないし100,000の範囲の平均相対分子量を持つ。この好ましい方法において、少なくとも2つの異なるポリビニルピロリドンのうち第2のものがおよそ500,000ないし2,000,000の範囲の平均相対分子量を持つ。最も好ましくは、ポリマー溶液中の前記第1のポリビニルピロリドンの第2のポリビニルピロリドンに対する比は2:1ないし10:1の範囲であり、特に好ましくはおよそ3:1である。
【0030】
低分子量のポリビニルピロリドンは、製造工程の間に部分的に洗い流されてしまうと推測される。洗浄により、所望の孔のいくらかの部分が得られるだろう。しかしながら、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマー、例えばポリエーテルスルホンは拡散誘起相分離自体の間に孔を形成する。
【0031】
好ましい実施形態において、カチオン電荷を含んだポリマーは、溶液中におよそ0.1ないし4.0重量%の濃度で含まれ、特に好ましい実施形態においては溶液中におよそ0.2ないし2重量%の濃度で含まれる。
【0032】
本発明による他の好ましい方法において、ポリマー溶液に拡散誘起相分離を受けさせる前に、ポリマー溶液中に溶解した少なくとも1つのポリアミドが追加で存在し、好ましくはポリアミドがポリマー溶液中におよそ0.005ないし1重量%の濃度で含まれる。最も好ましくは、少なくとも1つのポリアミドがポリマー溶液中におよそ0.01ないし1重量%の濃度で含まれる。ポリアミドはポリマー溶液中に均一に溶解されないが、好ましくは本発明のポリマー溶液は均一で、ほとんどの場合に透明である。しかしながら或る場合には、形成されたポリマー溶液はかすかに濁っているように見えるかもしれない。いくらかの場合において濁りの影響を克服するために、溶媒の交換が要求されるであろう(例2を参照のこと)。好ましくは、溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ブチロラクトン、N−エチルピロリドン(NEP)、N−オクチルピロリドン(NOP)を含む群より選択される。当業者にとって、上記の溶媒の混合物を使用してもよいことは明らかである。本発明の製造工程において好ましい溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)である。
【0033】
本発明の特に好ましい実施形態において、膜形成のためのポリマー紡糸溶液の組成は、8ないし23重量%のポリアリールエーテルスルホンと、0.2ないし4重量%のカチオン荷電ポリマーと、0.5ないし7重量%のおよそ500,000〜2,000,000の範囲の平均相対分子量のポリビニルピロリドンと、0.5ないし8重量%のおよそ10,000〜100,000の範囲の平均相対分子量のポリビニルピロリドンとを含み、5重量%以下の水と、1重量%以下のポリアミドとを含み、N-メチルピロリドンを用いて100重量%に達するまで添加する。他の好ましい実施形態において、上記のポリマー紡糸溶液の組成は、7.5重量%までの濃度で含まれる或る量の適当な添加剤を含有する。好ましくは、これらの添加剤は水、グリコールおよび他のアルコールを含む群より選択される。
【0034】
先述した本発明の膜は、好ましくはサイトカイン誘導物質および/またはオリゴヌクレオチドを保持するために使用される。さらにより好ましくは、本発明の限外濾過膜はサイトカイン誘導オリゴヌクレオチドを保持するために使用される。さらに、本発明の膜を液体または流体からエンドトキシンを除去するために使用してもよい。限外濾過膜は中空繊維、チューブまたは平坦膜の形状で使用されてもよい。特に好ましいのは、本発明による限外濾過膜を親水性中空繊維膜の形状で使用することである。
【0035】
本発明の限外濾過膜を、食品加工産業および環境応用における水の精製のために使用してもよい。好ましくは、本発明の膜は医療応用、例えば点滴液のため、および人間の血液透析において使用される。さらに、膜を半導体製造工程における水の脱イオンに使用してもよい。
【0036】
本発明の組成および構造の膜、ならびに本発明の製造手順によって得られる膜は異方性膜であって、外側の孔は限外濾過膜の内側部分上のものよりもサイズが大きい。これは図1および2に示される発明の中空繊維の壁を通る断面の走査性電子顕微鏡写真からより明確になる。本発明による膜は、好ましくは0.001ないし0.01μmの孔サイズの孔を持つ。最も好ましくは、膜の選択層において平均孔サイズが0.01μmを下回る。
【0037】
分離層のモルフォロジーおよび膜の全体構造は大きく変化し、膜の保持および吸着挙動に影響を与え得る。全体構造はスポンジ様構造またはむしろ他の非対称構造、例えばフィンガー型構造を持つかもしれない。しかしながら、吸着膜のためのこれらの構造の混成物、例えば壁中央、等における大きなキャビティを持つスポンジ様構造も可能だろう。
【0038】
2つの異なるポリマー溶液を紡糸する可能性を持ったトリプル口金を使用することで、異なる組成のこれらの層をもつ層構造を作ることができる。層の数は、必要とされる口金を構築する能力に応じて増やすことができる。3層または4層すら可能だろう。マルチ口金を使用することで、壁構造における荷電修飾層の位置を調整することができる。内側における1または2μmの非荷電層と、構造内に荷電部分をもつ下部構造層とを持つことができるであろう。これにより、膜の内側における感受性のある物質を輸送することが可能になり、濾液を膜壁の荷電表面に接触したままにすることが可能になるだろう。これらは構造の異なる部分において荷電ポリマーをいかに分布させるかの例にすぎない。経験のある膜技術者は、ここに記載したものとはさらに異なる構造を生み出すかもしれない。
【0039】
オリジナルな開示の目的のために、本明細書、図面および請求項から当業者によって収集されるであろうあらゆる特徴は、特定のさらなる特徴と組み合わせて記述されただけであっても、これが明らかに除外されるか、もしくは技術状況からこのような組み合わせが不可能または無意味でない限りは、本明細書で開示された特徴または特徴の群と個々におよび任意の組み合わせで組み合わせてもよいことは特筆されるべきである。
【0040】
教示されるであろう特徴の任意の組み合わせの包括的で明示的な議論は、単に明細書および請求項の簡潔かつ読みやすさのために省いている。しかしながら、これらの組み合わせのいくらかは、例えば以下の図および例を考慮して明らかになるだろう。
【0041】
以下の図は本明細書に包含され、さらに以降の例においてより詳細に議論されるであろう。
【0042】

例の分析方法
1.膜バンドルの調製
紡糸工程後の膜バンドルの調製は、その後の性能試験(水力学的透過率の測定、様々なふるい係数の測定および1本鎖(ss)DNA保持試験)のための試験装置を製造するために必要である。繊維バンドルをフィラメントによってそれらの端付近で固定する。繊維バンドルを滅菌管に移し、その後蒸気滅菌を実施する。しかしながら、滅菌は蒸気に限定されない。他の滅菌方法を使用してもよい。滅菌後、繊維バンドルを所定の長さに切断する。次の工程は繊維の端を閉じることからなる。光学制御が、全ての繊維が閉じられていることを保証する。次に、繊維バンドルの端をポッティングキャップ内に移す。ポッティングキャップを機械的に固定し、ポッティングチューブをポッティングキャップに被せる。その後、ポッティングをポリウレタンまたはエポキシドのグルーで行う。次の工程段階において、ポッティングした膜バンドルを所定の長さに切断する。
【0043】
その後、膜バンドルを様々な性能試験に使用される前に、乾燥貯蔵する。
【0044】
2.水力学的透過率(Lp)
膜バンドルの水力学的透過率は、所定の圧力下で正確な所定体積の水をバンドルの片側で閉じた膜バンドルを通して加圧し、所要時間を計測することによって決定する。水力学的透過率は決定された時間、有効膜表面積、印加された圧力および加圧されて膜を通った水の体積を用いて計算することができる。有効膜表面積は繊維の数、繊維の長さ、および繊維の内径から計算することができる。膜バンドルは、試験を実施する前に湿潤させなければならない。それゆえに、膜バンドルを500mlの超純水の入ったボックス内に入れる。しばらくして、膜バンドルを試験システムに移す。試験システムは、37℃に調節したウォーターバスと、膜バンドルを機械的に実装することができるデバイスとからなる。
【0045】
Lp値は、cm/(cm×sec×bar)で表される。
【0046】
3.ふるい係数および名目カットオフ
膜のふるい係数を、所定の条件(流速、TMPおよび濾過率)のもとでプロテイン溶液(アルブミン、ミオグロビン)を膜バンドルを通して送出し、供給液中、保持液中および濾液中のプロテイン濃度を決定することによって決定する。濾液中のプロテイン濃度がゼロの場合は、0%のふるい係数が得られる。濾液中のプロテイン濃度が供給液および保持液中のプロテイン濃度と等しい場合は、100%のふるい係数が得られる。異なる分子量の物質のふるい係数(対数スケール)により、計測されたデータから補間法および補外法によって膜の名目カットオフを決定できるようになる(名目カットオフ(g/mol):ふるい係数の10%に相当する)。
【0047】
ふるい係数の決定のために、使用するミオグロビンの濃度は10〜10000mg/lに調節し得る。ミオグロビンはpH7.2のPBS緩衝液に溶解する。使用するアルブミンの濃度は100〜80000mg/lに調製し得る。アルブミンはpH7.2のPBS緩衝液に溶解する。溶解中にフレークが生じる場合は、フィルタ濾過を行うべきである。
【0048】
4.ssDNA試験
全ての応用例において、いくつかの類義語を使用して一本鎖(ss)DNAの吸着を記述する。本明細書において、ss−DNAを記述するためにDNA、ssDNA、オリゴヌクレオチドおよびss−オリゴヌクレオチドを使用する。二本鎖DNAを使用して試験を実施する場合は、明示的に言及する。
【0049】
ss−DNAはTIB MOLBIOL Syntheselabor,Berlin,Germanyから入手された。ss−DNAを分析する試験キットは、Molecular Probes Inc.,USAから入手した。OliGreen ssDNA認定試薬およびキット(オーダーナンバー0−7582および0−11492)の製品情報は、ssDNAを決定する分析手順を十分に記述している。試験装置は、膜バンドル、配管、ポンプおよび試験流体からなる。試験流体は所定の量のssDNAを含む。試験はデッドエンド濾過モードで行う。
【0050】
保持性、すなわち吸着挙動は以下のように表される。
【0051】
DNA−LRV(濃度)=log(出発溶液/MW1)
MW1=(試験手順の間に採取した様々な濾過試料の濃度の合計)/(採取した試料の数)
DNA−LRV(質量)=log(DNA出発溶液の質量)/(DNA濾液プールの質量)
例1
ポリマー溶液を、ポリエーテルスルホン(PES;BASF Ultrason 6020)、ポリビニルピロリドン(PVP;BASF K30およびK90)、水および荷電修飾ポリフェニレンオキシド(PPO;FUMATECH)をN−メチルピロリドン(NMP)中に溶解することによって調製する。ポリマー紡糸溶液における様々な成分の重量分率(wt%)は、
PES 14.22
PVP(K90) 1.5
PVP(K30) 5.0
PPO 0.28
水 2
NMP 77
であった。
【0052】
使用した荷電修飾ポリフェニレンオキシドのモノマー単位の化学構造を以下に示す。
【化1】

【0053】
しかしながら、この出願はポリフェニレンオキシド(PPO)のこの特定のカチオン荷電修飾に限定されない。カチオン電荷をもつポリフェニレンオキシドの他の修飾も可能であろう。経験のある化学者はPPOをベースとして多くの様々な物質群を生み出すかもしれない。上記の材料の利点は、ポリマーが使用した濃度範囲においてNMP中のポリマー溶液(PES;PVP;水)の成分で均一な溶液を形成するということである。
【0054】
溶液を調製するために、まずNMP溶液を中央の口にフィンガーパドル攪拌機を付けた三つ口フラスコに入れる。PVPをNMPに加え、50℃で均一な透明溶液が調製されるまで攪拌する。この後、ポリエーテルスルホンを加え、最後に荷電修飾ポリフェニレンオキシドおよび水を加える。混合物を透明な高粘性の溶液が得られるまで攪拌する。
【0055】
ポリマー溶液を40℃に達するまで加熱し、溶液を紡糸ダイを通過させることにより膜を形成する。ボア液体として、55重量%の水と、1重量%のPVP K30と、44重量%のNMPを含む水/NMP/PVP K30混合物を使用する。内側ボアの直径は170μmであって、外側のオリフィスの直径は600μmである。中空繊維膜を、28mm/minの紡糸速度で形成する。ダイを出る液体キャピラリーを調整室を通して20℃の温度を持つウォーターバスに入れる。形成された中空繊維膜を5つの異なるウォーターバスを通してガイドする。最終的に、膜を巻き上げ装置に巻き取る。繊維をバンドルに転換し、75℃にて水で洗浄し、微量のNMPおよび水溶性ポリマー残渣を除く。乾燥中空繊維膜は、214μmの内径および312μmの外径、ならびに完全な非対称膜構造を持つ。膜の活性分離層は内側ルーメン側にある。活性分離層は、最小の孔をもつ層として規定される。膜の水力学的透過率(Lp値)を、先に記載した方法を用いて内側から外側へ向かって測定する。膜は、53×10−4cm/(cm×bar×sec)の水力学的透過率を示した。アルブミン(分子量 69,000g/mol)のふるい係数は8%であり、ミオグロビン(分子量 17,000g/mol)のふるい係数は80%であった。ふるい係数は水溶液中で測定する。これより、名目カットオフ(或る溶質のふるい係数が10%である)はおよそ68,000である。
【0056】
得られた中空繊維膜(CMUF−1)の壁断面の走査電子顕微鏡写真を図1に示す。壁は中空繊維の内壁(ルーメン側)に最小の孔を持った非対称構造を示す。構造は、全体にスポンジ様構造を示す。
【0057】
例1に対する比較例
似通ったふるい係数および名目カットオフをもつ膜を、荷電修飾ポリフェニレンオキシドを含まない溶液から調製する。この非荷電限外濾過膜(UUF−1)および先述したように調製した修飾ポリフェニレンオキシドを含む荷電修飾膜(CMUF−1)を、一本鎖DNAの保持実験に使用する。
【0058】
a)膜を蒸気滅菌し、360cmの内表面積を持つ繊維バンドルから小さなモジュールを調製した。DNA保持を試験し(DNA試験法を参照のこと)、以下のDNAの保持値を測定する。CMUF−1から2つの異なるバッチを調製して、試験する。これら2つの異なるバッチをCMUF−1試料1および2と命名する。
【0059】
CMUF−1およびUUF−1試料のためのDNA保持測定結果を表1に示す。
【表1】

【0060】
b)例1で調製された膜:(i)修飾ポリフェニレンオキシドを含んだ荷電修飾膜(CMUF−1)、および(ii)非荷電限外濾過膜(UUF−1)を、二重らせん構造のDNA(二本鎖DNA)の保持挙動を測定するために使用した。デオキシリボ核酸(大腸菌からの)を、ICN Biomaterials,Aurora,Ohio,USAから入手した;発注番号101503。この材料の分子量分布は非常に広いことを述べておかねばならない。
【0061】
UUF−1およびCMUF−1の二本鎖DNA保持挙動を図3に示す。大きな分子量分布に起因して、サイズ排除効果が、使用されたDNAの分離において役割を果たすことも理解される。サイズ排除効果によって、UUF−1膜は二本鎖DNAの拒絶を示す。
【0062】
調製された両方の膜(UUF−1およびCMUF−1)は同じ水力学的透過率を示し、同じ技術を使用して調製されており、同じ全体の膜モルフォロジーを示し、同じカットオフ測定結果を与える。これら全ての結果から、ふるい係数特性は同一であって、保持性の違いは吸着の事実に起因していると結論付けることができる。
【0063】
例2
ポリマー溶液を、ポリエーテルスルホン(PES;BASF Ultrason 6020)、ポリビニルピロリドン(PVP;BASF K30およびK90)、水およびポリエチレンイミン(BASF,Ludwigshafen;Germanyから入手したLupasol SK)をN−メチルピロリドン(NMP)中に溶解することによって調製する。ポリマー紡糸溶液における様々な成分の重量分率(wt%)は、
PES 17.0
PVP(K90) 0.6
PVP(K30) 6.0
Lupasol SK 0.80
水 2.6
NMP 73
であった。
【0064】
Lupasol SKは修飾高分子量エチレンイミンホモポリマーであって、およそ23〜25.5重量%の固形成分を持つ水性液として販売されている。この材料のカチオン電荷密度は、製造者によっておよそ8meq/gと規定されている。Lupasol SKはおよそ2,000,000g/molの相対平均分子量(M)を持つ。
【0065】
形成された溶液はかすかに濁っている。溶液の濁り効果を克服するため、またはNMPの量を調整するために、溶媒交換を実施してもよい。このために、水性Lupasol SK溶液を同じ量のNMPと混合し、水を減圧下で蒸発によって除去する。こうすることで、過剰な濃度をポリマー溶液中で調節でき、それでも透明溶液を得ることができる。
【0066】
溶液調製手順は例1と同じである。
【0067】
ポリマー溶液を50℃に達するまで加熱し、溶液を紡糸ダイを通過させることによって膜を形成する。ボア液体として、54重量%の水と、46重量%のNMPを含んだ水/NMP混合物を使用する。170μmの内径を持つ内側のチューブの壁厚は85μmである。中空繊維膜を40m/minの紡糸速度で形成する。ダイを出る液体キャピラリーを、調整室を通して20℃の温度を持ったウォーターバスに入れる。形成された中空繊維膜を、5つの異なるウォターバスを通してガイドする。最終的に、膜を巻き上げ装置に巻き取る。乾燥中空繊維膜は215μmの内径および311μmの外径、ならびに完全に非対称な膜構造を持つ。膜の活性分離層は内側ルーメン側にある。膜の活性分離層は、最小の孔をもつ層として規定される。膜の水力学的透過率(Lp値)は、先に記載した方法を用いて内側から外側へ向かって測定する。膜は、45×10−4cm/(cm×bar×sec)の水力学的透過率を示した。アルブミンおよびミオグロビンのふるい係数は水溶液中で測定した。これより、およそ60,000の名目カットオフ(或る溶質のふるい係数は10%である)を計算した。
【0068】
得られた中空繊維膜(CMSK−1)の壁断面の走査電子顕微鏡写真を図2に示す。壁は中空繊維の内壁(ルーメン側)に最小の孔を持った非対称構造を示す。構造は全体にフィンガー型構造を示す。
【0069】
例2に対する比較例
似通ったふるい係数および名目カットオフをもつ膜を、カチオン荷電Lupasol SKを含まない溶液から調製する。この非荷電限外濾過膜(UUF−2)と先述のように調製された修飾Lupasol SKを含んだ荷電修飾膜(CMSK−1)を一本鎖DNAの保持実験のために使用する。
【0070】
膜を蒸気滅菌し、小モジュールを360cmの内表面積を持つ繊維バンドルから調製する。DNA保持を試験し(DNA試験方法を参照のこと)、以下のDNAの保持値を測定する。CMSK−1バッチから2つの試料を調製し、試験する。これら2つの異なる試料をCMSK−1試料1および2と命名する。
【0071】
CMSK−1およびUUF−2試料のためのDNA保持試験結果を表2に示す。
【表2】

【0072】
例3
第3の実験を例2と同様に実施した。しかしながら、紡糸ダイの温度を4℃だけ上げ、ポリマー溶液に添加したLupasol SKの量は0.28重量%であった。ポリマー溶液の水含有量は2.0重量%であった。他の全てのポリマーフラクションは一定に保った。ポリマー調製手順、膜形成手順および他の全ての工程段階は例2に記載されたままにした。
【0073】
乾燥中空繊維膜は213μmの内径および311μmの外径、ならびに完全に非対称な膜構造を持つ。膜の活性分離層は内側ルーメン側にある。膜の水力学的透過率(Lp値)を、先に記載した方法を用いて内側から外側に向かって測定する。膜は、127×10−4cm/(cm×bar×sec)の水力学的透過率を示した。アルブミン(分子量 69,000g/mol)のふるい係数は20%であり、ミオグロビン(分子量 17,000g/mol)のふるい係数は89%であった。ふるい係数は水溶液中で測定する。これより、名目カットオフ(或る溶質のふるい係数は10%である)はおよそ82,000である。この値は、測定されたふるい係数の線形補外法によって得られた。
【0074】
先述のように調製された修飾Lupasol SKを含んだ荷電修飾膜(CMSK−2)を、一本鎖DNAの保持実験のために使用する。膜を蒸気滅菌し、小モジュールを360cmの内表面積を持った繊維バンドルから調製する。DNA保持を試験し(DNA試験方法を参照のこと)、以下のDNAの保持値を測定する。
【0075】
CMSK−2についてのLRV(DNA)質量を測定し、結果は2.29であった。使用した溶液の量は250mlであって、供給溶液の出発濃度は827640pg/mlであった。
【0076】
例4
ポリマー溶液を、ポリエーテルスルホン(PES;BASF Ultrason 6020)、ポリビニルピロリドン(PVP;BASF K30およびK85)、水およびポリエチレンイミン(BASF,Ludwigshafen;Germanyから入手したLupasol P)をN−メチルピロリドン(NMP)中に溶解することによって調製する。ポリマー紡糸溶液中の様々な成分の重量分率(wt%)は、
PES 14.0
PVP(K85) 1.5
PVP(K30) 5.0
Lupasol P 0.50
NMP 79
であった。
【0077】
形成された溶液は透き通った透明であった。
【0078】
Lupasol Pは高分子量ポリエチレンイミンであって、およそ48〜52重量%の固形成分を持つ水性液として販売されている。この材料のカチオン電荷密度は、製造者によっておよそ20meq/gと規定されている。Lupasol Pはおよそ750,000g/molを超える適切な平均分子量(M)を持つ。
【0079】
ポリマー溶液に加える水の量を独立に調節するために、Luoasol P溶液で溶媒交換を行った。同量のNMPをLupasol P溶液に加え、水を真空蒸留によって除去した。得られたLupasol PおよびNMPしか含んでいない溶液を、この例に使用した。
【0080】
溶液調製手順は例1と同じである。しかしながら、NMP中にLupsol Pを含む溶液を、溶液調製のために最初に加えた。
【0081】
ポリマー溶液を50℃に達するまで加熱し、溶液を紡糸ダイを通過させることによって膜を形成する。ボア液体として、56重量%の水と、44重量%のNMPを含んだ水/NMP混合物を使用する。内側のボアの直径は170μmであり、外側のオリフィスの直径は600μmである。中空繊維膜を45m/minの紡糸速度で形成する。ダイを離れる液体キャピラリーは、調整室を通して20℃の温度を持ったウォーターバスに入れる。形成された中空繊維膜を、5つの異なるウォーターバスを通してガイドする。最終的に、膜を巻き上げ装置に巻き取る。乾燥中空繊維膜は218μmの内径および315μmの外径、ならびに完全に非対称な膜構造を持つ。膜の活性分離層は内側ルーメン側にある。活性分離層は、最小の孔をもつ層として規定する。膜の水力学的透過率(Lp値)は、先に記載した方法を用いて内側から外側に向かって測定する。膜(CMP−1)は、67×10−4cm/(cm×bar×sec)の水力学的透過率を示した。アルブミンおよびミオグロビンのふるい係数を水溶液中で決定し、測定した。これより、およそ73,000の名目カットオフ(或る溶質のふるい係数は10%である)が計算された。
【0082】
例4に対する比較例
似通ったふるい係数および名目カットオフをもつ膜を、カチオン荷電Lupasol P(Lp:63×10−4cm/cm×bar×sec)を含まない溶液から調製する。この非荷電限外濾過膜(UUF−3)および先述のように調製された修飾Lupasol Pを含んだ荷電修飾膜(CMP−1)を一本鎖DNAの保持実験のために使用する。
【0083】
膜を蒸気滅菌し、小モジュールを360cmの内表面積を持った繊維バンドルから調製する。DNA保持を試験し(DNA試験方法を参照のこと)、以下のDNAの保持値を測定する。CMP−1バッチから2つの試料を調製し、試験する。これら2つの異なる試料を、CMP−1試料1および2と命名する。試験結果を表3に示す。
【表3】

【0084】
例5
第5の実験を実験1および4と同様に実施した。しかしながら、紡糸ダイの温度は50℃であって、ポリマー紡糸溶液中の様々な成分の重量分率(wt%)は、
PES 18.0 %
PVP(K90) 0.5 %
PVP(K30) 4 %
Lupasol P 4 %
NMP 73.5 %
であった。
【0085】
ポリマー調製手順、膜形成手順および他の全ての工程段階は例4に記載したままにした。
【0086】
乾燥中空繊維膜は215μmの内径および315μmの外径、ならびに完全に非対称な膜構造を持つ。膜の活性分離層は内側ルーメン側にある。膜の水力学的透過率(Lp値)は、先に記載した方法を用いて内側から外側に向かって測定する。膜は、80×10−4cm/(CM×bar×sec)の水力学的透過率を示した。アルブミンおよびミオグロビンのふるい係数を水溶液中で決定し、測定した。これより、名目カットオフ(或る溶質のふるい係数は10%である)はおよそ85,000であった。
【0087】
先述したようなLupasol Pを含む荷電修飾膜を、例1および4に記載したような一本鎖DNAの保持実験に使用する。
【0088】
この例による膜についてのLRV(DNA)質量を測定し、結果は2.51であった。使用した溶液の量は3000mlであって、供給溶液の出発濃度は868659pg/ml ssDNAであった。
【0089】
例6
第6の実験を実験1および4と同様に実施した。しかしながら、紡糸ダイの温度は52℃であって、紡糸速度は35m/minであり、ポリマー紡糸溶液中の様々な成分の重量分率(wt%)は、
PES 18 %
ポリアミド(Trogamid T5000) 0.5 %
PVP(K90) 0.5 %
PVP(K30) 4 %
Lupasol P 4 %
NMP 73.5 %
であった。
【0090】
ポリマー調製手順、膜形成手順および他の全ての工程段階は例4に記載したままにした。
【0091】
乾燥中空繊維膜は215μmの内径および315μmの外径、ならびに完全に非対称な膜構造を持つ。膜の活性分離層は内側ルーメン側にある。膜の水力学的透過率(Lp値)を、先に記載した方法を用いて内側から外側へ向かって測定する。膜は、75×10−4cm/(cm×bar×sec)の水力学的透過率を示した。アルブミンおよびミオグロビンのふるい係数を水溶液中で決定し、測定した。これより、名目カットオフ(或る溶質のふるい係数は10%である)はおよそ83,000であった。
【0092】
先述したようなLupasol Pを含む荷電修飾膜を、例1および4に記載したような一本鎖DNAの保持実験に使用する。
【0093】
この例による膜についてのLRV(DNA)質量を測定し、結果は2.11であった。使用された溶液の量は300mlであって、供給溶液の出発濃度は754267pg/ml ssDNAであった。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、例1に記述した中空繊維膜の壁断面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図2】図2は、例2に記述した中空繊維膜の壁断面の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図3】例1に対する比較例の項(b)において記述した膜の二本鎖DNA保持特性のグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)骨格内に硫黄を含有する少なくとも1つの疎水性ポリマーと、
b)少なくとも1つの親水性かつ非荷電の、ポリビニルピロリドンのホモポリマーと、
c)カチオン電荷を含んだ少なくとも1つのポリマーと
を含むポリマーブレンドからなる限外濾過膜であって、100,000g/molを下回る名目カットオフ値を持つ限外濾過膜。
【請求項2】
請求項1による限外濾過膜であって、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマー(a)が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリアリールエーテルスルホンからなる群の少なくとも1つの要素を含むをこと特徴とする限外濾過膜。
【請求項3】
請求項1による限外濾過膜であって、ブレンドが少なくとも2つの親水性かつ非荷電の、ポリビニルピロリドンのホモポリマー(b)を含むことを特徴とする限外濾過膜。
【請求項4】
請求項1または2による限外濾過膜であって、ブレンド中の少なくとも1つのポリビニルピロリドンのホモポリマー(b)の平均相対分子量がおよそ10,000ないし100,000、好ましくはおよそ30,000ないし60,000であることを特徴とする限外濾過膜。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかによる限外濾過膜であって、ブレンド中の少なくとも1つのポリビニルピロリドンのホモポリマー(b)の平均相対分子量がおよそ500,000ないし2,000,000、好ましくはおよそ800,000ないし2,000,000であることを特徴とする限外濾過膜。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかによる限外濾過膜であって、カチオン電荷を含んだポリマー(c)が3級および/または4級アンモニウム基を含むことを特徴とする限外濾過膜。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかによる限外濾過膜であって、カチオン電荷を含んだポリマー(c)がポリエチレンイミンおよび/または修飾ポリエチレンイミンを含むことを特徴とする限外濾過膜。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかによる限外濾過膜であって、カチオン電荷を含んだポリマー(c)がカチオン電荷を持った修飾ポリフェニレンオキシドを含むことを特徴とする限外濾過膜。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかによる濾過膜であって、カチオン電荷を含んだ水溶性ポリマーが200,000を上回る相対分子量を持つことを特徴とする濾過膜。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかによる限外濾過膜であって、ポリマーブレンドが追加で少なくとも1つのポリアミドを含むことを特徴とする限外濾過膜。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかによる限外濾過膜であって、0.001ないし0.01μmの孔サイズの孔を含み、好ましくは膜の選択層における平均孔サイズが0.01μmを下回ることを特徴とする限外濾過膜。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかによる限外濾過膜を製造する方法であって、前記方法は、骨格内に硫黄を含有する少なくとも1つの疎水性ポリマーと、少なくとも1つの親水性かつ非荷電のポリビニルピロリドンのホモポリマーと、カチオン電荷を含んだ少なくとも1つのポリマーとを少なくとも1つの溶媒に溶解してポリマー溶液を形成し、形成されたポリマー溶液に拡散誘起相分離を受けさせてポリマーブレンドを含んだ限外濾過膜を調製し、限外濾過膜を洗浄し、引き続いて乾燥することを含む限外濾過膜を製造する方法。
【請求項13】
請求項12による方法であって、拡散誘起相分離を溶媒転相紡糸によって実施し、形成されたポリマー溶液を2つの同心の開口をもつノズルの外側リングスリットを通って押出し、中央流体をノズルの内側開口を通って押出す方法。
【請求項14】
請求項13による方法であって、中央流体が、30ないし55重量%の溶媒と、水、グリコールおよび他のアルコールを含む群より選択された45ないし70重量%の沈殿媒質を含む方法。
【請求項15】
請求項14による方法であって、中央流体が、追加で親水性ポリマーを含み、これは好ましくは0.1ないし2重量%の濃度で含まれる方法。
【請求項16】
請求項12ないし15のいずれかによる方法であって、外側のスリット開口から出てくる前記ポリマー溶液を沈殿する中空繊維の外側で湿潤蒸気/空気混合物に暴露させる方法。
【請求項17】
請求項16による方法であって、湿潤蒸気/空気混合物が30ないし70℃の範囲内である方法。
【請求項18】
請求項16または17による方法であって、湿潤蒸気/空気混合物の相対湿度が60〜100%である方法。
【請求項19】
請求項16ないし18のいずれかによる方法であって、湿潤蒸気/空気混合物が、水の含有量に関係して0.5〜5重量%の溶媒含有量を持つ方法。
【請求項20】
請求項12ないし19のいずれかによる方法であって、骨格内に硫黄を含有する疎水性ポリマーが、溶液中におよそ8〜23重量%、好ましくはおよそ11ないし17重量%の濃度で含まれる方法。
【請求項21】
請求項12ないし20のいずれかによる方法であって、少なくとも1つのポリビニルピロリドンが、溶液中におよそ1ないし15重量%の濃度で、好ましくはおよそ2ないし10重量%の濃度で含まれる方法。
【請求項22】
請求項12ないし21のいずれかによる方法であって、ポリマー溶液が少なくとも2つの異なる親水性かつ非荷電のポリビニルピロリドンを含む方法。
【請求項23】
請求項22による方法であって、少なくとも2つのポリビニルピロリドンのうち第1のものがおよそ10,000ないし100,000の範囲の平均相対分子量を持ち、少なくとも2つのポリビニルピロリドンのうち第2のものがおよそ500,000ないし2,000,000の範囲の平均相対分子量を持ち、ポリマー溶液中の前記第1のポリビニルピロリドンの第2のポリビニルピロリドンに対する比が2:1ないし10:1であることが好ましく、好ましくはおよそ3:1である方法。
【請求項24】
請求項12ないし23のいずれかによる方法であって、カチオン電荷を含んだポリマーが溶液中におよそ0.1ないし4.0重量%、好ましくは0.2ないし2重量%の濃度で含まれる方法。
【請求項25】
請求項12ないし23のいずれかによる方法であって、追加で少なくとも1つのポリアミドを、ポリマー溶液に拡散誘起相分離を受けさせる前にポリマー溶液に溶解し、好ましくはポリアミドが溶液中におよそ0.005ないし1重量%、特に好ましくは0.01ないし1重量%の濃度で含まれる方法。
【請求項26】
請求項12ないし25のいずれかによる方法であって、溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、N−エチルピロリドン、N−オクチルピロリドンおよびこれらの混合物を含む群より選択され、N−メチルピロリドンが溶媒として好ましい方法。
【請求項27】
サイトカイン誘導物質および/またはオリゴヌクレオチドを保持するため、好ましくはサイトカイン誘導オリゴヌクレオチドを保持するための、請求項1ないし11のいずれかによる限外濾過膜および/または請求項12ないし26のいずれかによって製造される限外濾過膜の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−534274(P2008−534274A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504774(P2008−504774)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/061396
【国際公開番号】WO2006/106133
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(501473877)ガンブロ・ルンディア・エービー (49)
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
【Fターム(参考)】