説明

火室における可燃性クレオソート及び他の有機付着物を低減するための方法

固体燃料を燃焼する火室煙道中のクレオソート制御のための組成物及び方法は、疎水性金属添加剤を燃焼促進剤と組み合わせる。一定の態様にしたがえば、本組成物は、クレオソート付着物のほかに、金属煙道の腐食を抑制し得る。金属塩を有効な濃度で促進剤に添加した場合に、この組み合わせは、燃焼時に排気のライニングに金属触媒を送達する。かくして、金属が煙道まで都合よくかつ効率的に輸送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火室における可燃性クレオソート及び他の有機付着物を低減するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体燃料燃焼排出系のメンテナンスは、資産をだいなしにし得る煙突火災の発生を防止するために重要である。木材燃料及び他の固体燃料を燃焼するストーブにおいては、クレオソートが煙突又は煙道の壁に蓄積し、定期的に清掃しない場合は危険なレベルに到達する可能性がある。種々の遷移金属が、クレオソートの分解を触媒し、材料の可燃性を抑制することが示されている。これらの金属のうち殆どは無機塩を形成し、これは水溶液中に溶解するが、一般的な燃焼促進剤中には溶解しない。これらの金属はクレオソートを低減するのに有効であり得るが、煙道まで輸送するのは困難であり、使用の前に、金属を含有する水溶液を煙道に噴霧するなどの方法が必要となる。
【0003】
米国特許第2,141,848号明細書(特許文献1)及び米国特許第3,007,781号明細書(特許文献2)は、油燃焼炉中のすすを制御するために油中に溶解可能な、すす除去剤を開示しているが、油とは根本的に異なる付着物をもたらす固体燃料は扱っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2,141,848号明細書
【特許文献2】米国特許第3,007,781号明細書
【発明の概要】
【0005】
本発明は、固体燃料の燃焼から生ずるクレオソート付着物を防止し、除去し、及び/又は、抑制する、燃焼促進剤と組み合わせるための疎水性金属添加剤と、固体燃料の点火の際のその使用とに関する。更に、一定の態様にしたがえば、当該組み合わせは、クレオソート付着物に加えて、金属煙道の腐食を抑制し得る。この金属塩を有効な濃度で促進剤に添加すると、当該組み合わせは、燃焼時に金属触媒を排気系のライニングへと送達して、クレオソート残留物を効率的に分解し、新しいクレオソート付着物の蓄積を抑制する。この金属塩は、促進剤中において均一に分散し、使用の前に撹拌する必要がない。かくして、この金属は、都合よくかつ効率的に煙道まで輸送される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下に示す具体的な説明は、例示的な態様の説明として意図しており、例示的な態様を構成し得る、及び/又は、利用し得る形態のみを示すようには意図していない。この説明は、例示的な態様を構成するため、及び/又は、操作するための複数の工程の機能と配列を示す。しかし、同じか又は同等な機能と配列を異なる例示的な方法により達成することができ、それらは本発明の精神及び範囲の範疇にあり、当業者の範囲及び判断の範疇にあると意図していることも理解すべきである。
【0007】
本発明は、固体燃料の燃焼から生ずるクレオソート付着物を防止し、抑制し、及び/又は除去するために燃焼促進剤と組み合わせることができる疎水性金属塩を提供する。本発明は、クレオソート防除を提供する金属成分を、金属触媒に対して炭化水素溶解性を付与する、サルフェート、ナイトレート、アセテートなどの有機対イオンと組み合わせる。更に、これらの対イオン自体の一部は、第一鉄及び非第一鉄金属排気系の腐食抑制剤として作用することができる。したがって、一定の態様にしたがえば、当該組成物は、クレオソートと腐食の防除という二つの役割を有する金属塩を含有することができる。別の態様にしたがえば、当該組成物は、クレオソート抑制塩を腐食抑制塩と組み合わせる。
【0008】
本発明の金属塩の有効量を促進剤に添加すると、この組み合わせは、燃焼時に金属触媒を排気系のライニングへと送達する。これら金属触媒は、クレオソート残留物を効率的に分解し、新しいクレオソート付着物の蓄積を抑制するので、金属煙道の腐食を抑制するためにも作用することができる。
【0009】
本発明のクレオソート及び/又は腐食防除添加剤組成物は、次式:
+m[Y−n
(式中、Xは、+mのイオン電荷を有する遷移金属であり、Yは、−nの電荷を有する脂肪族アニオンであり、そしてm=pnである)
の化学構造を有する、炭化水素溶解性遷移金属塩を含む。
【0010】
好ましい遷移金属としては、Mn、Zn、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuが挙げられるが、Mnが最も好ましい。他の可能な遷移金属としては、これらに限定されないが、Zr、Mo、Ru、Rh、Pd、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、及びPbが挙げられる。他の遷移金属も当業者が理解するであろうように可能であり得るが、上記のものが最も理想的であると考えられる。
【0011】
好ましいアニオンとしては、カルボキシレート(RCOO)又はスルホネート(RSO)炭化水素が挙げられる。他の可能なアニオン基としては、これらに限定されないが、ホスホネート(RPOH又はRPO2−)、サルフィネート(RSO)、サルフェネート(RSO)、アルコキシド(RO)、サルファイド(RS)、アミド(RNR’タイプのもの)、アミド(RCONタイプのもの)、及びアセトアセテート(RCOC)が挙げられる。また、当業者により理解されるであろうように、他のアニオンも可能であるが、前述のものが最も理想的であると考えられる。
【0012】
更に、R及びR’は、各々、炭化水素基であることができ、H、脂肪族のアルキル、アルケニル、アルキニル、及び、ハロゲン、窒素、酸素、リン、硫黄等を含有する炭化水素鎖、芳香族及び環(複素環、炭素環など)、ならびに適する有機溶解性をもつ両親媒性鎖(ヘテロ原子含有鎖)を挙げることができる。
【0013】
クレオソート防除は、主として金属成分により取り扱われ、炭化水素溶解性は脂肪族アニオンにより提供される。また、一定の有機アニオンは、腐食抑制剤としても機能することができる。広い範囲の金属について効率的な腐食抑制剤であると知られている有機カチオンのリストについては、"Corrosion Inhibitors - An Industrial Guide" 2nd Edition; Flick, Ernest W. (c)1993 William Andrew Publishing/Noyes)を参照されたい。ジノニルナフタレンスルフォネートカルシウムは、第一鉄用途及び非第一鉄用途の両方に適する油溶解性の有機対イオンの一例である。任意の単一の腐食抑制剤について抑制の機構は、ほぼ間違いなく、腐食抑制剤の巨視的効果をもたらす多数の経路の複雑なセットである。有機サルフェート、アセテート、及びナイトレートは、酸化還元腐食系(系に依存する)の酸化又は還元部分を抑制しかつ系のpHを緩衝して、それによりプロトン還元を防止する、不動態層を形成すると考えられている。また、対イオンの有機溶解性の特徴は、有機クレオソート付着物中への拡散を可能とし、下にある金属排気系へのアクセスを提供する。
【0014】
金属塩は、およそ0.01%(w/v)を超える濃度で促進剤に添加した場合に有効であり得る。好ましくは、塩は、およそ0.1〜25%(w/v)、より好ましくはおよそ1〜5%(w/v)の濃度で促進剤に添加する。
【0015】
燃焼促進剤は、任意の商業的に入手可能な促進剤を挙げることができるが、好ましくは、飽和炭化水素から構成される。その引火点がおよそ74℃(165°F)である、分枝、直鎖、又は飽和環式構造の混合物であることができる。固体燃料燃焼開始における典型的な用途について、本発明の組成物をおよそ1〜5オンスを点火前に固体燃料に適用する。
【0016】
本発明の第一の態様は、固体燃料の点火のための可燃性特徴を有する添加剤混合物を形成するために、炭化水素溶解性マンガン塩を含み、飽和炭化水素の混合物で希釈された、炭化水素溶解性のクレオソート抑制剤組成物であり、前記組成物はおよそ以下のものを含む:
【0017】
【表1】

【0018】
本発明の第二の態様は、固体燃料の点火のための可燃性特徴を有する添加剤混合物を形成するために、炭化水素溶解性のジノニルナフタレンスルフォネートマンガン塩を含み、飽和炭化水素の混合物で希釈された、炭化水素溶解性のクレオソート及び腐食抑制剤の組成物であり、前記組成物はおよそ以下のものを含む:
【0019】
【表2】

【0020】
ジノニルナフタレンスルフォネートマンガンを調製するためには、プロピレンの三量化から誘導される分別蒸留した1−α−ノネンを用いて、塩化アルミニウムにより触媒される60℃でのアルキル化により、まず、ジノニルナフタレンを調製することができる。次いで、ジノニルナフタレンフラクションのハート・カット(heart cut)を−8℃でSulfan Bによりスルホン化し、水酸化ナトリウムにより中和まで滴定することができる。次いで、イソプロピルアルコール抽出を用いて、スルホン化されていない油からNaDNNSを分離し、濃MnCl溶液と接触させることによりこのマンガン塩を調製する("The Micelle Phase of Calcium Dinonylnaphthalene Sulfonate in n-Decane," Frederick M. Fowkes J. Phys. Chem.; 1962; 66(10); 1843-1845を参照されたい)。ジノニルナフタレンスルフォネートマンガンを調製するための他の方法は、当業者に知られている。
【0021】
本発明の第三の態様は、固体燃料の点火のための可燃性特徴を有する添加剤混合物を形成するために、クレオソート抑制性の炭化水素溶解性2−エチルヘキサン酸マンガンと腐食抑制性のスルホネート塩とを含み、飽和炭化水素の混合物により希釈された、炭化水素溶解性のクレオソート及び腐食抑制剤組成物であり、前記組成物はおよそ以下のものを含む:
【0022】
【表3】

【0023】
上述の組成物を調製する際、金属塩を均一に分散するまで促進剤中に混合する。一旦均一に分散したら、組成物は使用の前に撹拌する必要はない。
本発明の組成物を、スチール煙道を含有する木材燃焼装置を用いて実地試験したところ、性能に悪影響は見られなかった。同一の木材燃焼ストーブを構成し、同一のスチールストーブ−パイプ煙道を取り付けた。これらのストーブに少なくとも12日間にわたって等量の木材を連続的に燃料供給した。第一の「対照」のストーブは、24時間ごとに1〜2オンスのDrakesol 165(商標)で処理した。第二の競合ストーブは、24時間ごとに、2−エチルヘキサン酸マンガンを含有する(1%w/v)1〜2オンスのDrakesol 165(商標)により処理した。12日後に、ストーブパイプ部分を取り外して、分析した。マンガン処理したストーブパイプは、対照のストーブパイプより20%軽く、クレオソートの含有量は<50%であった。更に、対照のストーブパイプ上に存在するクレオソートは、ブタン/空気火炎(〜1200℃)を用いて直ちに点火したが(それにより、管理された(controlled)煙突火災が引き起こされる)、マンガン処理したクレオソートは、同じ火炎源に長く曝露(60秒)した後であっても点火できなかった。配合物は0.1%w/vマンガンまで効果があることを証明したが、より低い濃度も実行可能であろう。
【0024】
本発明の系及び組成物は、これらに限定されないが、木材、木炭、泥炭、石炭、及び、木材、とうもろこし、小麦、ライ麦、及び他の穀物から作られたペレットをはじめとする任意の一般的な固体燃料燃焼系に関して使用することができる。そのうえ、本発明は、石造及び金属をはじめとする任意の種類の煙道においてクレオソート付着物を処理するために有用であることができる。本組成物は、更に、固体燃料を定期的に燃焼する煙道系の可燃性を定期的に除去又は低減するために使用することができる。
【0025】
最後に、本明細書中の例示的な態様は本発明の原則を例証するものであることは理解すべきである。行うことができる他の修飾は本発明の範囲内である。このように、例としてであり限定するものではないが、本明細書中の教示にしたがって代替的な構成を利用してもよい。したがって、本説明は例証するものであり、その限定を意味するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料燃焼煙道において使用するための組成物であって、
(a)炭化水素を基材とする燃焼促進剤と
(b)前記促進剤に添加される、炭化水素溶解性の遷移金属塩とを含み、
前記金属塩は、次式:
+m[Y−n]p
(式中、
(i)Xは、+mのイオン電荷を有しかつMn、Zn、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される遷移金属であり;
(ii)Yは、−nの電荷を有しかつRCOO、RSO、RPOH、RPO2−、RSO、RSO、RO、RS、RNR’、RCON、及びRCOCからなる群から選択される脂肪族アニオンであり、
式中、R及びR’は、各々、H、脂肪族アルキル、アルケニル、アルキニル、及び、ハロゲン、窒素、酸素、リン、及び硫黄を含有する炭化水素鎖、芳香族、環、及び両親媒性鎖から選択される炭化水素基であり、そして、
(iii)m=pnである)
の化学構造を有し、
前記組成物は、火室煙道中の前記固体燃料の燃焼から生ずるクレオソート付着物を防除する際に有効である、前記組成物。
【請求項2】
前記炭化水素遷移金属塩が、ナフテン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガン、ジノニルナフタレンスルホネートマンガン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、ジノニルナフタレンスルホネートカルシウムを更に含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が、金属煙道の腐食を防除する際に有効である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、前記煙道の可燃性を抑制する際に有効である、請求項1記載の組成物
【請求項6】
前記遷移金属塩が、およそ0.01%〜25%(w/v)の濃度で前記促進剤に添加される、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
初期混合後に、前記遷移金属塩が前記促進剤中において均一に分散されたままである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
固体燃料を燃焼する煙道系を保守する方法であって、前記煙道系が排気を含み、前記方法が:
(a)金属塩が添加された飽和炭化水素を含む促進剤を提供すること、ここで前記金属塩は、前記飽和炭化水素中において溶解性でありかつ次式:
+m[Y−n]p
(式中、
(i)Xは、+mのイオン電荷を有しかつMn、Zn、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される遷移金属であり;
(ii)Yは、−nの電荷を有しかつRCOO、RSO、RPOH、RPO2−、RSO、RSO、RO、RS、RNR’、RCON、及びRCOCからなる群から選択される脂肪族アニオンであり、
式中、R及びR’は、各々、H、脂肪族アルキル、アルケニル、アルキニル、及び、ハロゲン、窒素、酸素、リン、及び硫黄を含有する炭化水素鎖、芳香族、環、及び両親媒性鎖から選択される炭化水素基であり、そして、
(iii)m=pnである)
の化学構造を有する;及び
(b)前記促進剤を点火すること、ここで金属塩は点火時に前記排気へと送達される、
を含む、前記方法。
【請求項9】
前記促進剤が、該促進剤により点火される固体燃料に適用される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記煙道系が少なくとも部分的に金属であり、前記金属塩が該金属の腐食を防除する際に有効である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記金属塩が、前記排気を含む前記煙道系の可燃性を抑制する際に有効である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記金属塩が、前記排気を含む前記煙道系中におけるクレオソート付着物を防除する際に有効である、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記促進剤が、ジノニルナフタレンスルホネートカルシウムを更に含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記促進剤が、ナフテン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガン、ジノニルナフタレンスルホネートマンガン、又はこれらの組み合わせと、場合によりジノニルナフタレンスルホネートカルシウムとを含む、請求項8記載の方法。
【請求項15】
前記固体燃料が、木材、木炭、泥炭、石炭、とうもろこし、穀物、又はこれらの組み合わせである、請求項8記載の方法。
【請求項16】
前記金属塩が、前記促進剤のおよそ0.01%〜25%(w/v)の濃度で存在する、請求項8記載の方法。
【請求項17】
前記煙道系を掃除するために、前記煙道系中における前記促進剤を定期的に点火することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項18】
固体燃料を燃焼する煙道系において、腐食、可燃性、及び/又は、クレオソート付着物を抑制する方法であって:
(a)次式:
+m[Y−n]p
(式中、
(i)Xは、+mのイオン電荷を有しかつMn、Zn、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される遷移金属であり;
(ii)Yは、−nの電荷を有しかつRCOO、RSO、RPOH、RPO2−、RSO、RSO、RO、RS、RNR’、RCON、及びRCOCからなる群から選択される脂肪族アニオンであり、
式中、R及びR’は、各々、H、脂肪族アルキル、アルケニル、アルキニル、及び、ハロゲン、窒素、酸素、リン、及び硫黄を含有する炭化水素鎖、芳香族、環、及び両親媒性鎖から選択される炭化水素基であり、そして、
(iii)m=pnである)
の化学構造を有する、炭化水素溶解性金属塩を提供すること;及び
(b)前記塩を、該系における燃料の点火の間に、該煙道系の構成要素へと送達すること、
を含む、前記方法。
【請求項19】
該煙道系に、ナフテン酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガン、ジノニルナフタレンスルホネートマンガン、又はこれらの組み合わせと、場合によりジノニルナフタレンスルホネートカルシウムとを送達することを含む、請求項18記載の方法。

【公表番号】特表2010−539281(P2010−539281A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524869(P2010−524869)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/010654
【国際公開番号】WO2009/035658
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(510071507)ティムバーン・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】