説明

火災抑制システム

【課題】火災抑制システムと火災抑制方法とを提供する。
【解決手段】反応型火災抑制輸送剤は、反応ゾーンにおいて触媒型火災抑制剤を放出するために用いられ、この触媒型火災抑制剤が、自然発生流路によって下流側に向かい、保炎領域の近傍に運ばれ、例えば航空機における火災抑制を行なう。反応型火災抑制剤はまた、発射体において、及び/又は、例えば加圧による火災抑制剤の推進によって配送されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火災抑制の技術に関し、特に、触媒型抑制剤を用いた火災抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒型抑制剤を用いた技術を含め、火災抑制のための多くの技術が知られている。必要とされているのは、火災抑制及び検知のための改善された技術と、そのようなシステムを試験するための、より便利な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許5,626,786号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】フォアマン・ウィリアムズ著「燃焼理論」(ニューヨーク:アディソン−ウェズリー社)、1985年、
【非特許文献2】ケネス・クオ著「燃焼の原理」(ニューヨーク:ワイリー社)、1986年、
【非特許文献3】ジョン・タンヒル、デール・アンダーソン、及びリチャード・プレッチャー著「計算流体力学及び熱伝導」(フィラデルフィア、テイラー・アンド・フランシス社)1997年発行(ISBN1−56032−046−X)
【非特許文献4】D.J.トリトン著「トリトン流体力学」(オックスフォード、クラレンドン・プレス社)1988年発行(ISBN019854493.6)
【非特許文献5】ケネス・クオ著「燃焼の原理」(ニューヨーク・ワイリー社)、1986年、第4章。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の態様において、火災抑制システムは、燃料源と空気取入口と出口とを有する構造であって、前記取入口及び出口により空気が前記構造中を流れるようにされた構造と、反応型抑制剤と、前記反応型抑制剤が反応して触媒型火災抑制剤を発生させる反応ゾーンと、前記構造に関連付けられた投入ポイントであって、前記反応型抑制剤を選択的に放出して前記反応ゾーンに接触させることにより前記触媒型火災抑制剤が空気流路によって運ばれて前記構造内の発火ポイントに関連付けられた火災を抑制するようにした投入ポイントとを含む。
【0006】
本発明の更なる態様において、火災抑制システムは、火災の際に少なくとも一箇所において火炎付着が起こり得る空気流路によって特徴づけられる構造と、反応して触媒型火災抑制剤を発生させる火災抑制剤であって、前記触媒型火災抑制剤が前記空気流路により選択的に運ばれて火炎付着における火災を触媒的に抑制するようにした火災抑制剤とを含む。
【0007】
本発明の更なる態様において、火災を抑制する方法は、反応型抑制剤を反応ゾーンに投入し、前記反応ゾーンにおいて前記反応型抑制剤が、火炎化学反応に触媒的に干渉する化学種を生じるようにすることと、前記化学種を火災に運ぶことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一般的な火災ゾーンの概略的表示である。
【図2】計算流体力学の計算結果の例であり、保炎領域を発生させ得る再循環ゾーンを発生させる段差を通過する層流の、流線及び速度ベクトルを示す図である。
【図3】計算流体力学の計算結果の例であり、保炎領域を発生させ得る再循環ゾーンを発生させる段差を通過する乱流の、流線及び速度ベクトルを示す図である。
【図4】火災ゾーン及び保炎領域を示す垂直ダクトの断面図である。
【図5】火災ゾーン及び保炎領域を示す水平ダクトの断面図である。
【図6】ジェットエンジンの容積を規定する内表面の斜視図であり、空気及び燃料の流れに影響する突起を示す。
【図7】ジェットエンジンナセルの外部境界面を示す斜視図である。
【図8】ジェットエンジンナセルの流れ容積を示す斜視図であり、火災ゾーンを通過する気流の流入及び排出ポイントを示す。
【図9】ジェットエンジンナセルの切欠き図であり、ナセルを通過する気流の、計算流体力学の計算例による速度場を示す。
【図10】ジェットエンジンナセルの斜視図であり、ナセルを通過する自然流路を示す流線の例を示す。
【図11a】保炎領域からインジェクタ位置に向かって後方に伝搬する流線を示す斜視図である。
【図11b】保炎領域からインジェクタ位置に向かって後方に伝搬する流線を示す上面図である。
【図12】航空機キャビンの断面側面図であり、加圧ゾーンを通過する自然流路と、保炎領域に接続された、火災又は煙検知器ならびに抑制剤インジェクタの位置を示す。
【図13】ダクトの一部分を示す斜視図であり、各インジェクタから出る抑制剤が、保炎領域に向かって流れる自然流路に向かって導かれるように配置された複数のインジェクタを示す。
【図14】コンピュータキャビネットの断面側面図であり、インジェクタから出る抑制剤が、複数の保炎領域に向かって流れる自然流路に向かって導かれるように配置された一つのインジェクタを示す。
【図15】排気フードの断面側面図であり、各インジェクタから出る抑制剤が、保炎領域に向かって流れる自然流路に向かって導かれるように配置された複数のインジェクタを示す。
【図16】燃料タンクの断面側面図であり、インジェクタから出る抑制剤が、保炎領域に向かって流れる自然流路に向かって導かれるように配置された一つのインジェクタを示す。
【図17】部分的に囲まれた空間の断面側面図であり、部分的に囲まれた空間の外側にタンクが位置している。
【図18】部分的に囲まれた空間の断面側面図であり、部分的に囲まれた空間の内側にタンクが位置している。
【図19】保炎領域に向かって流れる自然流路内に抑制剤を分配するインジェクタの拡大図である。
【図20】ジェットの周囲を流れる流体によってベンチュリ効果が生み出され、抑制剤をジェットから引き出して、保炎領域に向かって流れる自然流路内に導入するように、自然流路内に配置されたジェットの拡大図である。
【図21】反応型火災抑制システムを備えたジェットエンジンナセルの切欠き側面図である。
【図22】反応型火災抑制剤とともに用いられる火災抑制技術のブロック図であり、非反応型テスト剤を用いたテスト中の状態を示す。
【図23】テスト用抑制剤のパルスを、保炎領域において検出されたテスト用抑制剤の、時間の関数としての密度と比較したグラフである。
【図24】フラッディング剤を用いた火災抑制システムのブロック図である。
【図25】ストリーミング剤を用いた火災抑制システムのブロック図である。
【図26】反応型抑制剤(reactive agent)及びフラッディング剤のパルスと検知器出力のグラフである。
【図27】火災検知システムを含む、図21のジェットエンジンナセルの切欠き図である。
【図28】航空機における火災抑制システムの概略図である。
【図29】反応型火災抑制剤を燃焼ゾーンの近傍に運ぶための発射体を用いた火災抑制システムの側面図である。
【図30】緊急着陸時に航空機によって火災抑制剤が放出される例を示す図である。
【図31】航空機において有用な火災抑制システムの概略図である。
【図32】携帯可能な消火器の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照して、火災ゾーンは4つの特徴を持つものとして分析される。
【0010】
1.境界1によって部分的に囲まれた容積と;
2.酸化剤が、部分的に囲まれた容積に出入りするための一つ以上の開口であり、図1において2及び5で示されたものと;
3.可燃性燃料源であり、図1において3で示されたものと;
4.発火源。
【0011】
火災ゾーンの一例は、深く厚い揚げ鍋の上方の換気ダクトである。ダクトは、一つ以上の出入開口を備えた囲まれた容積を持ち、凝固した脂肪が燃料となり、フードの送風モータの火花や、調理面からの高温粒子から発火が起る。火災ゾーンの他例は、ジェットエンジンのナセルである。これは、内部の部品を冷却するため強制的に換気され、炭化水素やトランスミッション液が燃料となり、高温の表面や電気的火花によって発火が起きる。火災ゾーンのさらなる例は、自動車のエンジン室、コンピュータを収容する換気キャビネット、電気通信交換局、天然ガスパイプライン、燃料タンク、その他、発火源と燃料及び酸化剤の流入を許容する開口とを備えた包囲部である。
【0012】
酸化剤は、燃料と反応してエネルギーを放出する物質である。空気は、最も一般的な気体酸化剤である。その他の気体酸化剤としては、純酸素、及び、酸素やオゾン、塩素ガス、亜酸化窒素、三フッ化窒素などを含む、空気以外の混合ガスがある。一般的な液体及び固体の酸化剤には、臭素、ブロメート、塩素化イソシアヌレート、塩素酸塩、クロム酸塩、二クロム酸塩、ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸塩、無機過酸化物、過酸化ケトン、硝酸塩、硝酸、亜硝酸塩、過ホウ酸塩、過塩素酸塩、過ヨウ素酸塩、過マンガン酸塩、過酸化物、ペルオキシ酸、過硫酸塩などがある。
【0013】
火災を開始させるには、燃料と、酸化剤と、発火源が必要である。一旦発火すると、火災自体が継続的発火源となり、燃焼を継続するために必要となるものは燃料及び酸化剤の流れだけとなる。火災を抑制するには、少なくとも5つの方法がある。
【0014】
(i)火災ゾーンへの燃料の流入を制限する。
(ii)酸化剤の流れを、不活性ガス(例えばN、CO、Ar)で置換あるいは制限する。
(iii)燃焼ゾーンから熱を奪い、自立燃焼に必要な温度よりも低い温度に冷却する(例えば、液体水を蒸発させるか、NaHCOを熱分解する)。
(iv)流体の機械的せん断を利用して、酸化剤と燃料の混合を妨害する(すなわち、火を吹き消す)。
(v)火炎化学反応を妨害する(例えばハロン、特許文献1に記載された不安定臭素抑制剤、CFI等)。
【0015】
実際には、これらのメカニズムのうちの複数が同時に作用し得る。例えば、ハロン1211(CFBrCl)は、上記(iii)項にしたがって火災の熱によって蒸発し、上記(ii)項にしたがって酸素を押しのけ、上記(iv)項にしたがって火炎化学反応を妨害するBr及びCl原子を発生する液体である。同様に、抑制剤としての水は、上記(iii)項にしたがって蒸発し、上記(ii)項にしたがって酸化剤を押しのける。
【0016】
酸化剤及び/又は燃料の自然流路は、反応型抑制剤を火災ゾーン内の保炎領域に効率的に運搬するために利用され得る。この、保炎領域をターゲットとした自然流の利用によって、トータルフラッディング法に必要とされるよりもかなり少ない量の抑制剤を用いて火災を抑制することが可能となる。従来、トータルフラッディングの要件は、予め定められた期間にわたり、閾値より高い均一な抑制剤濃度を維持するように、火災ゾーンの容積と換気度によって決定されている。フラッディング剤が保炎領域を迂回する限りにおいて、これは、火災の抑制には効果的でない。フラッディングによる火災抑制に要する抑制剤の量は、自然流路を利用して抑制剤を火災ゾーンに運ぶことにより、好適に減らすことができる。反応型抑制剤は火災ゾーン内で化学的又は物理的に相互作用して、火炎化学反応に触媒的に干渉する化学種を生成する物質である。
【0017】
火災抑制システムを設計するにおいて、火災ゾーンにおける酸化剤及び燃料の自然流路や流動場が特徴づけられてもよい。「自然流路」という用語は、通常の動作条件と火災ゾーン内に火災が存在する条件の両方の条件のもとで、火災ゾーンを通過する酸化剤及び燃料の軌道のセットを含むことを意図している。多くの流動条件において、自然流路は流線によって説明することができ、流線とは、どの点においても接線がその点における流れと同一方向にあるような、流動場における線である。あるいは、火災ゾーンを通過する自然流路を評価するために、局所的速度場を直接用いてもよい。自然流路は、層流であれ乱流であれ、音速以下であれ超音速であれ、非粘性であれ粘性であれ、抑制剤に対して運動量(推進力)を伝達するという特徴を持ち、したがって、火災ゾーン内で抑制剤を運ぶために用いることができる。ここで、自然流路は、部分的に囲まれた空間内に自然に存在するいかなる液体又は気体の流路であってもよい。これらの流れを特徴づけるためにさまざまな方法が利用可能であり、流れの視覚化、計算流体力学、流れの速度及び方向の測定、これらの組み合わせなどがあるが、それに限定されるものではない。流れの視覚化には、流動場における流線をたどる粒子、ストリーマ、煙、その他の視認可能な媒体の運動を目視すること、写真撮影すること、録画することが含まれる。計算流体力学は、火災ゾーンの流れを有限空間要素の集合体として数学的にモデル化することにより、エネルギー及び運動量の保存を含め、流れにおける気体や液体についての運動方程式を解くことを含む。流速の測定は、流量トランスデューサ(例えばピトー管、タービン、質量流量計など)を流動場に配置して、流れの速度及び方向を示す電気信号を監視することにより達成される。これらの技術は、火災ゾーンにおける酸化剤及び燃料の流動場を定量的に特徴づけるために、単独で又は組み合わせて用いることができる。
【0018】
火災抑制システムを設計するにおいて、火災ゾーン内の保炎領域又は火炎付着領域を特定することが有益である。火炎付着や保炎は燃焼科学の分野における当業者にはよく知られており、例えば、非特許文献1の特に第12章に、また、非特許文献2の特に第9章に説明されている。保炎領域は、酸化剤の流れの渦巻き運動や再循環が燃料源と組み合わさって、空間的に安定した火炎の可能性を生じる場所である。このプロセスは、火炎付着や火炎安定化としても知られている。段差23や31などの段差を越えてあるいは鈍頭物体(blunt object)の周囲を流れる空気の層流(図2)又は乱流(図3)が保炎領域を発生させ、これは、燃料が再循環流24に導入されると活性化され得る。
【0019】
保炎領域の一例が、図1の一般的な火災ゾーンに示されている。ここでは、燃料源3からの燃料が固体突起9に衝突してこれを濡らす。入口2から供給された空気は突起9の近傍で再循環し、燃料−空気の混合物が発火した後、そこに火炎を付着させる。図4に示す保炎領域の他例は、垂直ダクトの断面図である。気流43は、ダクトの出口に取り付けられた送風機44からの吸引により駆動される。ダクトのセグメント同士を接続するフランジ41は火災ゾーン内に突出し、凝固した脂肪や油などの可燃性調理残滓に覆われることがある。これらの突起は、酸化剤と燃料の再循環流を結合させるため、ダクトの流動場において火炎の付着ポイントとなり得る。
【0020】
自然流と保炎領域の別の一例を、図2の段差の断面図に示す。空気が入口21から入り、流れが段差23を通過する前に境界層22が形成される。この段差によって、図2に速度ベクトル(矢印)及び流線(実線)で示す再循環気流が誘起される。段差の形状により、閉じた流線24で示される領域内に、火炎保持(保炎)を許容する再循環が誘起される。空気は別の開口25から出ていく。
【0021】
図2の流動場は層流であり、図3に示す段差31を越える乱流についても同様の結果が得られる。保炎領域32は、段差31の下流側に発生し、燃料及び発火源の存在のもとで火炎をこの領域に付着させる再循環によって示されている。図2と同様に、局所的速度ベクトルは矢印で示され、実線が、乱流における流線をなぞっている。
【0022】
図5を参照して、火炎保持の別の例が、フランジ53によって接合された管部材の断面図によって示されている、ここでは、シラン(SiH)、水素(H)、又はメタン(CH)などの低圧可燃性のガス51がパイプや管部材の各セグメントを通って流れる。シーリングガスケット52が燃料流内に突出し、接合部付近の溶接の割れ54から空気が入り込む。再循環ゾーンでは、燃料と、酸化剤と、突出したガスケットの下流側の再循環が結合され、55で示す各位置に保炎領域を発生させる。
【0023】
保炎領域のさらに別の例は、図6、図7、図8におけるジェットエンジンナセルにおいて見られる。このナセルは、エンジンコア(図6)と航空機の外被(図7)に囲まれたトロイダル状の容積である。図8を参照して、空気は、2つの沈埋ダクト82から流入し、2つのルーバー付き通気孔83のうちの一方から出ていく前に、補助ギアボックス63などの突起の周囲を流れる。
【0024】
自然流路をたどり保炎領域に至る抑制剤の量は、化学分野における当業者によく知られた標準的方法によって決定することができる。例えば、気体状抑制剤は、保炎領域に質量分析計又は光学検知器を配置し、火災ゾーン内の自然流へのシステムの放出の後その位置に到達する抑制剤のフラックスを記録することにより、モニタリングすることができる。
【0025】
あるいは、計算流体力学の技術を、投入された抑制剤のうち、保炎領域に到達した分の比率を計算するために適用することができる。
【0026】
従来のトータルフラッディングシステムにおいて、抑制剤のうち、保炎領域に到達する部分の割合は、火災ゾーンの総容積のうち、保炎部を含む部分の割合に等しい。保炎領域をターゲットとした抑制剤の量は、この割合を、少なくとも10%、好ましくは50%、最も好ましくは少なくとも75%越え、トータルフラッディング用途において生じる均一な投与量よりも多い。
【0027】
保炎領域を通過する自然流内を抑制剤のターゲットとすることの効果は、消火に必要な抑制剤の量を大幅に減らすことができることである。例えば、火災ゾーンが、100リットルの容積をもち、計2リットルの容積の保炎領域を含むものと想定する。火災を抑制するのに必要な抑制剤の濃度が1リットルあたり1グラムだとすると、消火濃度をもって火災ゾーンを浸すには、従来、100グラムの総質量が必要であった。保炎領域に到達する抑制剤の割合を、自然流を用いてフラッディング値から10%増加させると、必要とされる抑制剤の量を、数1にしたがって、90.9グラムに減らすことになる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、ecは消火濃度すなわち保炎領域において局所的に火災を抑制するために必要な抑制剤の最低濃度であり、mは火災ゾーンに投入される抑制剤の質量であり、Vは火災ゾーンの容積であり、efは保炎領域を通過する自然流への投入によってもたらされる増大係数である。上述の具体例において、ecは1リットルあたり1グラムであり、Vは100リットルであり、efは10%=0.1である。この式をmについて解くと、次の数2となる。
【0030】
【数2】

【0031】
保炎領域をターゲットとする抑制剤の割合を50%(ef=0.5)増加させると、本例においては、66.7グラムしか必要とされない。この割合を75%増加させると、抑制剤は57グラムしか必要とされない。本例に用いられる式を考察すれば、異なる容積をもつ火災ゾーン、異なる容積をもつ保炎領域、異なる消火濃度をもつ抑制剤についても同様の結果が明らかであり、火災ゾーンにおける一つ以上の開口を通じて排出される抑制剤を補償するために必要とされる調整についても同じである。
【0032】
この式によれば、抑制剤が、保炎領域に至る自然流内にのみ投入される場合に、可能な最大限の増強効果が得られる。前述の例において、2リットルの保炎領域に、1リットルあたり1グラムの消火濃度をもたらすためには、2グラムが必要となるため、最大増強係数は4900%=49である。
【0033】
【数3】

【0034】
要するに、火災を抑制するために必要な抑制剤の量を減らすことは、その投入を、保炎領域にそれを運ぶ自然流をターゲットとして行なうことにより達成できる。この減少は、火災ゾーンの保炎領域内の抑制剤の濃度を、質量分析、光学質量分析、ガスクロマトグラフィ、等を用いてサンプリングし、この量が、全火災ゾーンの容積に対する抑制剤質量の割合をどれだけの割合越えているかを計算することによって直接的に測定し得る増大係数として定量化可能である。あるいは、この増大係数は、抑制剤質量を用いて火災抑制を滴定し、トータルフラッディングによる抑制に必要とされる抑制剤の質量と比較することにより、定量化することができる(すなわち、保炎領域をターゲットとする自然流を使用せずに)。
【0035】
火災ゾーンの環境に導入されたときに、触媒的に燃焼を妨げる種を生成する反応型抑制剤を選択することが有益である。触媒的に燃焼を妨げる種は、OH,Hなどの火炎ラジカルと、燃焼における中間体であるその他の反応残留物の再結合の速度を加速させる。このような触媒種の例は、原子状のBr、Cl、I、分子状のHBr、HCl、HIなどであるが、これに限定されるものではない。これらの触媒種を生成する抑制剤には、Brや、Clや、Iを含む炭化水素種及びハイドロフルオロカーボン種があり、例えば、次の化1である。
【0036】
【化1】

【0037】
これらの抑制剤は、火災ゾーンにおける熱と、水素原子の存在に依存して火災の中に触媒剤を放出する。反応型抑制剤のその他の例は、米国特許第5,626,786号に説明されている、PBr等の、不安定な臭素種であり、これは対応するハロカーボン類よりも臭素との結合が弱い。PBrなどの不安定臭素抑制剤は、燃焼ゾーン内の熱及び原子種と、下記のように反応する:
【化2】

【0038】
不安定臭素抑制剤はまた、次式のように、環境水分による加水分解を介して火災ゾーンに送られる。
【0039】
【化3】

【0040】
ハロゲン原子の触媒能は、触媒が消費も生成もされず、火炎種の変換を促進する、反応サイクルの結果であり、火炎種は、さもなければ、火災を支える発熱反応を行なうことになる。例えば、水素原子の酸化(水への)は、炭化水素の燃焼の最もエネルギーの高い態様である。原子状Brによる触媒作用の一例は、次の化4である。
【0041】
【化4】

【0042】
また、HBrについては、次の化5である。
【0043】
【化5】

【0044】
原子状水素を分子状水素に変換することにより、その酸化を防ぎ、燃焼ゾーンにおける熱放出を減少させ、これによって火災を消す。OHラジカル、燃料ラジカル等が関与するその他の触媒的反応が可能であり、消火に寄与し得ることは、化学反応動力学の分野の当業者には自明である。
【0045】
触媒種は、抑制剤がその他の、気流の中の種(例えばO,N,HO)や、燃料流の中の種(例えば炭化水素、アルコール、その他の可燃性媒体)や、周囲表面の種(例えばアルミニウム、スチール)と反応することにより生成される。例えば、PBrは、次の化6にしたがって、表面上及び空気中の水分と反応する。
【0046】
【化6】

【0047】
この、水分との相互作用により生成されたHBrが、火災抑制のための同じ触媒サイクルに関与することは上述の通りである。
【0048】
原子状の臭素、塩素、及びヨウ素による火炎抑制のための触媒作用に加えて、その他の原子状又は分子状種を、火炎化学反応に触媒的に干渉するために用いることができる。例えば、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)などの熱酸化安定性をもつ酸化物の固体粒子は、不燃性の表面を提供し、これは、水素−酸素炎における原子種の再結合に触媒作用を及ぼす。このような粒子は、例えば、SiBr又はAlClが燃焼ゾーン内で酸素及び水と反応して、微小な(ナノメートルから数マイクロメートル、フュームドとも呼ばれる)酸化物粒子を生じることにより生成される。非常に小さな直径をもつ粒子は、この点で特に効果的である。なぜならば、それらは、抑制剤の単位質量あたりの表面積が大きいからである。
【0049】
Br、Cl、I原子等の触媒種は、CFBr(ハロン1301)及びCFBrCk(ハロン1211)などの従来のハロンや、CFI等の熱分解により生成される。しかし、これらの抑制剤は、不安定臭素物質よりも効率的でない。触媒活性をもつハロゲン類は炭素に強固に結合され、したがって、火炎において活性化することがより困難であり、環境に対して望ましくない影響を及ぼすことがあり、このことにより、不安定臭素物質よりも、抑制剤として魅力が少ないものとなっている。特許文献1に記載されている、PBr、POBr、SOBr、BrF,BrF,PBr、TiBr,SiBr,IBr、CuBr,NOBr、BrF,BBr、及びBrClを含む不安定臭素物質の効果は、ハロンと比べてより少ない質量と体積での火災抑制を可能にする。不安定な、すなわち結合が弱い塩素やヨウ素原子を備えた火災抑制剤もまた効果的な抑制剤である。何故ならば、これらの抑制剤は、触媒的に燃焼を妨げる原子状塩素やヨウ素原子を放出するからである。
【0050】
火災抑制システムを設計するにおいて、火災ゾーンに抑制剤を投入するための位置と推進技術の選択も重要である。このアプローチは、保炎領域と、酸化剤及び燃料の流動場の特定を必要とする。抑制剤投入の位置は、自然の酸化剤(例えば空気)及び燃料(例えば炭化水素)の流れによる抑制剤の保炎領域への搬送を容易にするように選択される。このことは、従来のシステムに比べて、火災抑制システムの重量と複雑さを軽減させる。これは、抑制剤を火災ゾーン内の保炎領域に運ぶために自然流動場が用いられているからである。
【0051】
抑制剤は、消火のために必要となるまで、環境から保護するための容器や、カートリッジや、コンテナに保管してもよい。このような容器や、カートリッジや、コンテナの内部は、オリフィスや、アパーチャや、開口を介して火災ゾーンに接続され、消火の際にここから抑制剤が導入される。保炎領域に至る自然流内に抑制剤を推進又は投入するために、推進手段によって、抑制剤に運動量を与えなければならない。この推進手段は、加圧ガスや加圧流体によるように物理的なものでも、爆燃性固体ガス生成カートリッジによるように化学的なものでも、ばね及びピストンによるように機械的なものでも、ポンプによるように電気機械的なものでも、オリフィスにおいて自然流により生じるベンチュリによるように流体機械的なものであってもよい。動作において、運動量源(つまり推進手段)が、抑制剤を容器からオリフィスを介して推進し、この抑制剤を火災ゾーン内の火炎保持部に至る自然流内に運ぶために用いられる。
【0052】
推進技術は、抑制剤の相(固体、液体、気体)及び抑制剤が投入される流動場の性質(層流、乱流、混合流)に依存する。一般的に、抑制剤には周囲を上回る圧力が加えられ、抑制剤はバルブ又はノズルを介して火災ゾーンに運ばれる。この圧力は、抑制剤の静的加圧、又は、機械的ばねや爆燃性固体不活性ガス発生器などによる動的加圧によって生成される。加圧の性質、その強さ、時間依存性、ノズルや管部材の形状を、火災ゾーンの保炎領域への自然流による抑制剤の搬送を最適化し、これにより、部品のサイズ及び複雑さを最小限に抑えるように選択する。さもなければ、複雑な形状の空間に均一且つ完全に抑制剤を分散させるために複雑な部品が必要となろう。
【0053】
火災ゾーン内の火炎はさまざまな強度を持ち、火災ゾーン内の一つ以上の保炎領域に存在し得る。さらに、火炎における熱放射と化学反応によって圧力が変化し、これは、火災が存在する場合に酸化剤及び燃料の流動場を変化させる。自然流動場に対する燃焼の影響は、計算流体力学の方法を用いて、又は好ましくは、典型的な圧力、流れ、温度、及び熱伝達条件下に設定した試験的な火災を消火することにより、モデル化することができる。
【0054】
火災抑制システムを設計するにおいて、火災ゾーン内の保炎領域の特定を含む、火災ゾーン内の流動場の分析が重要である。火災ゾーンに導入されると触媒的活性種を生成し、この触媒的活性種が燃焼化学反応に干渉して火災を消すような抑制剤を選択することが重要である。火災ゾーン内の保炎領域に自然流により運ばれる抑制剤を最大限にするように、抑制剤投入のための位置及び推進方法を選択する。好ましくは、典型的な火災条件のもとでのテストが、抑制方法の妥当性と、抑制剤と、投入ポイントと、推進方法を選択した効果を確認するために用いられる。
【0055】
抑制剤は、その抑制効果がもっとも顕著な領域に、燃料及び酸化剤の既存の流れによって、効果的に運ばれるため、火災ゾーン内において火災を抑制するために必要な抑制剤の量は最小限に抑えられる。
【0056】
自然流が抑制剤を火災ゾーン内の保炎領域に運ぶため、管部材や、バルブや、マニホルド(集合管)などの配管部材の質量と、容積と、複雑性は最小限に抑えられる。
【0057】
抑制剤の量が最小限になるため、環境全般への抑制剤の影響と、特に火災ゾーン内の環境への影響が最小限に抑えられる。環境への影響には、成層圏オゾン層減少、地球温暖化、その他、環境科学の分野における当業者によく知られた化学物質放出の結果への寄与が含まれる。
【0058】
また、火災ゾーン内にその活性体を迅速に放出する抑制剤を選択することによって、環境への影響を減少させることができる。なぜなら、これらの反応物質は、一般的に環境内に残留しないからである。
【0059】
酸化剤及び燃料の流れと、発火源が存在する環境の例としては、換気ダクト、航空機のエンジンナセル、換気電子キャビネット、加圧された航空機キャビン、電気通信又は電力交換局、フュームフード、天然ガスパイプライン、化学物質分配キャビネット、煙突、石油化学精製所などが挙げられる。これらの火災ゾーンの特徴は、火災ゾーンに酸化剤及び燃料の流れを出入りさせる一つ以上の開口と、火災を支える保炎領域を持つことである。
【0060】
有限要素法を用いた、火災ゾーンの計算流体力学シミュレーションは、火災抑制システムを設計するのに有用である。図1に、一般的な火災ゾーンについて、このような計算の代表的な結果を示す。酸化剤(空気)は2から入り、ゾーンを通過する複数の自然流路6、7、8をたどる。局所的速度ベクトルは矢印で示され、3つの代表的な自然流路は図1に流線6、7、8で示される。流線6は、保炎領域4から、時間において前後に速度場を積分することにより特定され、これにより、火炎保持部の上流側でこの流路に投入された抑制剤は効果的に保炎領域に運ばれる。流線7に沿って投入された反応型抑制剤は保炎領域の周囲に広がるため、消火にはあまり効果的ではない。流線8により規定される流路への反応型抑制剤の投入も保炎領域を通過せず、火災ゾーン内を再循環する。流線7で規定される自然流路上に抑制剤を投入することは、したがって、保炎領域4内の火災抑制剤の濃度を、火災抑制剤を用いてフラッディング領域1を浸すことの結果である濃度レベルよりも上に増加させる。
【0061】
ナセル環境にさらされたときに、触媒的火炎抑制種を生成する反応型火災抑制剤を選択することが重要である。参照することにより本明細書に組み込まれる特許文献1に記載された、不安定臭素火災抑制剤である三臭化リン(PBr)は、好ましい抑制剤である。なぜならば、火炎環境に放出されると、熱分解によってBr原子を、火炎水素原子との反応及び加水分解によってHBrを、迅速に生成するからであり、また、対流圏での寿命が非常に短く(1秒未満)、したがって、成層圏オゾン層減少及び地球温暖化のいずれの可能性もないためである。
【0062】
不安定臭素(PBr)剤は高密度液体である。この抑制剤を火災ゾーンに推進させることは、好ましくは、不燃性加圧ガス(N)又は部分的に液体に可溶なその他の推進剤を用いることにより達成できる。推進ガスが液体に可溶であることは、また、後者すなわち液体の凝固点の降下をもたらし、したがって、抑制システムの最低動作温度を低下させる。航空火災抑制という特定の事例において、−65℃までの動作のための要件では、大気圧での凝固点が−45℃のPBrの使用は、通常、排除される。ヘンリーの法則によれば、ある温度における、液体抑制剤内への気体の溶解度は、気体の分圧に比例する。言い換えれば、溶解した気体のモル分率は、気体の圧力にともなって増加する。気体が液体中にどの程度溶解できるかは、気体と液体の化学組成により、また、溶解温度にもよって変動する。この関係がヘンリーの法則の係数により定量化されることは、物理化学の分野における当業者にはよく知られている。一つの物質を別の物質に溶解することにより凝固点又は融点が降下することは、よく知られた溶解の束一的性質である。好ましい実施形態において、気体窒素の圧力を、凝固点を−65℃よりも下げ、且つ、航空機の飛行エンベロープにより必要とされる全温度範囲にわたって、液体抑制剤をその容器から推進させるための適切な圧力を与えるように選択する。約1.7MPa(1平方インチにつき250ポンド)の圧力がこれらの基準に合致することがわかった。気体及び液体抑制剤の異なる組み合わせを用いることもでき、これら組み合わせは、上述したような、対応するヘンリーの法則の係数及び溶解の束一的性質に基づいて算出可能な動作圧力及び温度範囲をもつ。
【0063】
加圧気体の溶解により抑制剤の凝固点が降下することは、抑制剤が相転移を行う可能性のある他の用途に非常に有用である。降下が起こらなければ、相転移により抑制剤の配送がかなり複雑になる。例えば、凝固点の降下なしでは、抑制剤の凝固を防ぐためにPBrの容器を加熱するか、又は効率の劣る抑制剤を選択する必要がある。これらの選択肢はいずれも、火災からエンジンナセルを保護するために必要な抑制剤及びマニホルド、バルブ、及び管部材の重量をともに増加させることになる。北極、潜水艦、高高度、及びその他の寒冷環境に見られる部分的に囲まれた空間における火災抑制もまた、上述のように、凝固点の降下により恩恵をうける。
【0064】
火災ゾーンにおいて火災が検知されるまでは、抑制剤は容器に収容されていてもよい。抑制剤を火災ゾーンに配送するため、抑制剤の運動量を変化させてこれを容器から火災ゾーンに運ぶための手段として推進手段を用いてもよい。一旦火災抑制剤が火災ゾーンに入ると、酸化剤と燃料の自然流が抑制剤の運搬に主として関与する。有用な推進手段は、バネ駆動ピストンにおけるように機械的なもの、ソレノイド又は蠕動式ポンプによって駆動されるシリンジにおけるように電気機械的なもの、爆燃性固体ガス生成組成におけるように化学的なもの、加圧した不燃性ガスの膨張や自然流のベンチュリ作用におけるように物理的なものであってもよい。
【0065】
塩素、臭素、又はヨウ素を含む物質が、十分長く対流圏に存続して成層圏に運ばれた場合には、成層圏のオゾンを枯渇させるおそれがある。成層圏では、太陽紫外線がCl,Br,又はIの自由原子を放出し、オゾン(O)から分子状酸素(O)への変換に触媒作用をあたえる。オゾン層破壊係数(ODP)は、化学物質がオゾンにおよぼす影響の、同様の質量のCFCl(CFC−11としても知られる)の影響に対する比率である。すなわち、CFClのODPは1.0と定められる。他のクロロフルオロカーボン類及びヒドロクロロフルオロカーボン(代替フロン)類は0.01から1.0の範囲のODPを持つ。ハロン類は10以下の範囲のODPを持つ。四塩化炭素は1.2のODPを持ち、メチルクロロホルム類のODPは0.11である。HFC類のODPはゼロである。なぜなら、これらは塩素を含まないからである。ある物質のODPは、若干の不確実性に左右される。なぜなら、大気中寿命、化学反応速度、光分解収率などの数値が完全に正確にはわかっていないからである。したがって、表1に示す数値は、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(1987年にほとんどの国家により署名され、1990年及び1992年に大幅に改正された)にて成文化された、科学界内のコンセンサスに基づくODP範囲である。
【0066】
同様に、地球温暖化係数(GWP)は、気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書において創出した指標であり、さまざまな温室効果ガスの同等な比較を可能とする。これは、大気中に1キログラムのガスを加えることにより生じる放射強制を、同質量の二酸化炭素の場合と比較して示したものである。過去100年以上にわたって、メタンのGWPは21であり、亜酸化窒素は310である。ODP及びGWPの両方とも物質の大気中寿命に左右されやすく、両方とも国際協定にしたがって規定されている。GWPの環境への影響は、物質の光学特性、特に赤外線放射を吸収・放出する能力に係わっている。
【0067】
表1は、オゾン層破壊物質を、米国環境保護庁によるオゾン破壊係数の現在の推定値とともに示すリストである。これらの量のうちのいくつかについては範囲が報告され、化合物の大気中寿命、紫外線光物理学特性、反応速度論特性における不確実性を反映している。この表はまた、クリーンエア法(大気汚染防止法)に規定された大気中寿命及び地球温暖化係数を示している。
【0068】
【表1−1】

【0069】
【表1−2】

【0070】
【表1−3】

【0071】
オゾン層破壊係数の定義から理解されるように、推進剤と抑制剤のような混合物のオゾン破壊係数は、その構成要素のオゾン破壊係数の質量重み付け平均となる。同様に、混合物の地球温暖化係数は、その構成要素の地球温暖化係数の質量重み付け平均となる。
【0072】
図6、図7、及び図8を参照して、ジェット機のエンジンナセル内の火災を抑制するのに用いられる好適な実施の形態が示されている。エンジンナセルは、図6に示すエンジンコアの外表面と、図7に示す空気力学的外皮によって境界づけられる容積である。図8に示す典型的なナセル内の火災ゾーンは、航空機のスリップストリームから気流を引き出す2つの入口82と、内部部品を冷却することが本来の機能である2つの出口83によって換気されている。ナセル容積内において、さまざまな付属品、ホース、ケーブル、構造物などが突出し、これらは上述したように保炎領域を生じ得る。典型的な飛行条件下におけるこのような保炎領域の一例は、アクセサリギアボックス63の後部の空間86である。
【0073】
図9を参照して、火災ゾーンを通過する自然流は、上述したように計算流体力学の計算を用いて見出すことができる。一秒あたり150メートルの入口空気速度についての典型的な計算結果を図9の切欠図に示す。ここで、入口(ダクト)82の一方と、排気口(出口)83と、アクセサリギアボックス63の後方の保炎領域86は、図6及び図8に示す同じ位置に対応する。矢印は方向を示し、その長さによって、ナセルに流入し通過する空気の相対速度を示す。
【0074】
図10を参照して、この火災ゾーンを通過する自然流は、速度場上の初期座標を積分することにより算出できる。図10に、入口101の近くで始まり、垂直な中央面を横切って延び、下方の排気口102´から出る、このような5つの経路を示す。
【0075】
保炎領域102を含む全ての保炎領域を、系統的に特定することが有益である。次に、これらの領域からの流線を時間をさかのぼって積分し、保炎領域に抑制剤が効率的に運ばれるような投入ポイントを特定する。入口における乱流、航空機のスリップストリームと入口及び排気口との相互作用、飛行条件の影響、気流の圧縮性など、流動場計算のさまざまな特徴は、流体流動及び空気力学の分野における当業者にとってはよく知られており、標準的な専門書、例えば、非特許文献3や非特許文献4に記載されている。
【0076】
図11a及び図11bを参照して、保炎領域110に到る5つの自然流路を、流線111とともに、2つの図で示す。流線111は、エンジンパイロン112付近の領域にさかのぼって積分され、ここから、投入された火災抑制剤が火災に運ばれる。この処理を、火災ゾーン内の火炎保持部ごとに繰り返して、一つ以上の抑制投入ポイントが特定される。この特定の火災ゾーンにおいて、火災抑制剤を含む容器113の、パイロン搭載領域に近接した位置は、火災ゾーン内の全ての保炎領域に、自然流路によって抑制剤を投入し搬送するのに有用であることがわかった。
【0077】
代替的且つ補足的な態様による視覚化は、実際のエンジンの内側面にテープで糸を貼りつけ、さまざまな流入条件において糸の方向を写真撮影することにより達成できる。実際のナセル設備内の火災によって発生した煙を視覚化することも、火災ゾーン内の自然流路の特定を確認するために用いることができる。
【0078】
自然流路及び火炎保持部の分析によって、抑制剤投入ポイントの数と位置の最適化が可能となり、最低数の投入ポイントから全ての保炎領域に抑制剤が確実に搬送される。例えば、特定のエンジンナセルの場合、分析によって112に近い単一のポイントが示され、ナセル内の全ての火災を抑制するのに適していることが実験により検証された。
【0079】
図12を参照して、典型的な加圧された航空機キャビン内の火災抑制を示す。エンジンコンプレッサ抽気は、バルブ121を介してキャビン122の占有領域に入る前にフィルタリングされ加湿される。ひとつの自然流が占有領域から航空電子機器及びバッテリー室124を通る経路123をたどり、キャビンの床下の電気室(electrical chase)125に入り、最終的に、外気に換気されている圧力制御バルブ126を通過する。火災ゾーン123及び124における火災抑制には、127で示すような投入又は抑制剤排出ポイントから各保炎領域に抑制剤を運ぶ自然流が用いられ、乗員に有害なおそれのある消火剤でキャビン全体を浸す必要がなくなる。保炎領域の形状は航空機キャビンの具体的な設計によって異なるため、複数個のインジェクタが必要となる場合がある。自然流路を用いて保炎領域に抑制剤を配送することは、抑制効果を向上させ、抑制システムのサイズ及び質量を軽減させる。
【0080】
図13を参照して、ダクト内の火災を抑制する技術が示されている。ダクト内の自然流は、外部送風機により、ダクトの入口、出口、内側、又はこれらの組み合わせにおいて推進される。ダクトを通る、133で示す概略方向の自然流133は、フランジ131、ねじ、屈曲部、結合部、T字型部などの突起の影響をうける。これらの突起の下流側にある空間は、ダクト内に燃料源が存在する場合に、火炎保持部134として作用し得る。この燃料は、調理ストーブ上方のダクト内の凝固した油脂、収納キャビネットを換気するダクト内の可燃性蒸気、半導体製造設備における漏出からの自燃性ガス、石油化学精製所のダクト内の可燃性物質などの形をとる。抑制剤135は、主流133の反対方向において、オリフィス132を通って自然流に入ることを許容されるか又は投入され、保炎領域134に直接向けられる。この逆流投入は、自然流から抑制剤ストリームへの運動量移動を用いて抑制剤を減速させ保炎領域134近傍における滞留時間を増加させる。
【0081】
ダクト内の流動場及び潜在的保炎領域の各々は、空気再循環及び燃料の利用可能性に基づいて計算し、測定し、特定することができる。図1及び図2を参照して、突起の下流側の再循環がダクト内の保炎領域になりやすいと予想される。図13は、抑制剤が保炎領域を通過し、且つ、可能な限り長時間にわたって抑制濃度を維持することを保証するように自然流を利用する投入ポイント132と方向を示す。特に、各突起の下流側で主流に逆らう抑制剤方向は、再循環ゾーンの瞬間的逆転、ならびに、ダクト内の自然流による抑制剤の減速及び再加速をもたらす。
【0082】
図14を参照して、換気キャビネット内の火災も自然流路に沿った投入を用いて抑制することができる。このようなキャビネットは、可燃性物質の貯蔵のためのものであっても、また、コンピュータサーバや電気通信スイッチなどの電気部品や電子部品を収容するキャビネットであってもよい。これらの構成は図14に概略的に示され、流れ、発火、燃料条件の詳細においてナセルの例とは異なる。この図において、空気は、140等の自然流路に沿って、さまざまな回路基板、トランスフォーマー、その他潜在的可燃性部品143の周囲を、ファン141によって推進され、複数の排気口142を介してキャビネットから出ていく。可燃性フュームの蓄積を防ぐため、及び、電気部品を冷却するための強制換気は、熱対流、移流、及び拡散によって駆動される、キャビネット内の自然流をもたらす。前述の考察から明らかなように、保炎領域及び自然流路の分析は、計算及び経験流体力学の組み合わせにより達成される。プラスチック断熱材、貯蔵された液体燃料、可燃性蒸気などの可燃性物質の源に近接した保炎領域が特定され、これらの領域に抑制剤を運ぶ自然流が、抑制剤145の投入ポイントと条件を特定するために用いられる。
【0083】
図15を参照して、キャビネットとダクトの組み合わせは、化学実験室において用いられるようなフュームフードとは若干異なる。フード151の作業面上を流れてダンパー153を通り、屈曲している場合もあるダクト154に入り、送風機155に入り、最後に煙突156から大気中に流れる自然流を、保炎領域に抑制剤を運ぶために使用してもよい。図15において、157における抑制剤投入は、送風機155からの強制流動を用いて、ダンパー153と煙突156の間の領域に火災抑制をもたらす。なぜならば、システムの自然流が本発明に従って抑制剤157を配給するからである。
【0084】
図16を参照して、火災抑制は、燃料161を備えた燃料タンクの部分的に囲まれた空間内においても実施される。燃料タンク内の自然流路は通常、主として対流であるが、圧力開放弁又は換気孔164及び開口163が通常存在し、この開口を介してタンクが満たされる。燃料タンク上方の空気は、アレッジ部(タンク内上方気相部)162と呼ばれることもあり、液体温度の燃料蒸気で飽和されている。そこで、燃焼のための限定試薬は通常は酸素である。燃料タンク内で、火花又はその他の発火源により火災が起こると、発生した熱によって対流165が駆動される。これらの流れ及び圧力逃がしバルブ164を通る流れは燃料タンクの自然流であり、166などの適切な位置における抑制剤投入は、これらの自然流を利用して、火炎保持が起こり得る領域に抑制剤を運ぶことができる。
【0085】
上述の構成において、火災ゾーンに導入された際に触媒的活性種を発生させる反応型抑制剤が用いられる。火災が検知された後、この抑制剤がコンテナや容器から投入口を介して火災ゾーンに推進されてもよい。
【0086】
図17を参照して、容器175は火災ゾーンの外側にあって、管、パイプ、又はフランジ176によって火災ゾーンに接続されている。抑制剤は火災ゾーンの自然流171内に推進され、この自然流によって、再循環及び173からの燃料流によって炎が付着する保炎領域174に送られる。
【0087】
図18を参照して、反応型抑制剤を収容した容器185は火災ゾーンの内側に置かれる。このアプローチは管部材、パイプ、フランジなどの必要性を排除し、通常、重量と、容積と、複雑性を低下させる。この図において、抑制剤は、容器185からバルブ及びノズル186を介して自然流181に投入される。この自然流は、183からの燃料流によって濡れた保炎領域184に至る。
【0088】
推進手段によって火災ゾーンの自然流路に抑制剤を投入することは、自然流を利用して、保炎領域に抑制剤を運ぶことを意図している。これらの自然流路に、利用可能な抑制剤をできるかぎり多く投入することが望ましいが、形状の制約、ノズルのデザイン、流体力学、その他の設計基準によっては、全ての抑制剤が保炎領域に至る自然流路に分配されるとは限らない。火災を効果的に抑制するために保炎領域に至る自然流路に供給することが必要とされる抑制剤の量は、抑制剤に依存する。好ましくは、ノズルから出る抑制剤のうち少なくとも10重量%が、抑制剤を保炎領域に運ぶ自然流路に直接分配される。好ましくは、ノズルから出る抑制剤のうち少なくとも50重量%が、保炎領域に至る自然流路に直接分配される。最適には、ノズルから出る抑制剤のうち少なくとも75重量%が、保炎領域に至る自然流路に直接分配される。
【0089】
図19を参照して、加圧ガス193と抑制剤液192にガスを溶解した飽和溶液を含む容器190は、バルブ191と小区間の管部材197によって火災ゾーンから分離される。火災ゾーン195内の自然流は矢印で示され、図2を参照して、流れの中への突起は保炎領域194を生じ得る。抑制剤は火炎保持部194の方向に、且つ、主流方向とは逆に推進されるものとして示されている。この配置は、主流を一時的に逆転させ、保炎領域を抑制剤が通過することを可能にする。さらに、主流からの運動量移動は、投入された物質の速度を遅くし、次いでその方向を逆転させる。この結果、保炎領域194付近の抑制剤の滞留時間ならびに、火災抑制の効果が最大化される。
【0090】
図20を参照して、火炎保持部に通じる自然流路は、ベンチュリ力によって容器から抑制剤を引き出すために用いられる。ノズルを強い自然流201の中に浸すことにより、ノズル202の前で圧力降下が生じ、容器204からバルブ203を介して自然流内に抑制剤を引き出す。このアプローチは、周囲圧力下の抑制剤容器204を用いて機能し、反応型抑制剤の推進手段としてベンチュリ効果を用いるものである。前述したとおり、保炎領域の特定と、これらの領域に自然流路をもたらす抑制剤投入位置の特定は、本発明の実施にとって望ましい。
【0091】
図21〜図26を参照して、PBrなどの反応型輸送剤を自然流に投入してHBrなどの触媒型抑制剤を保炎領域に運んで火災を抑制するタイプの火災抑制システムを試験する技術が示されている。特に、テスト剤は、触媒型抑制剤が運ばれるのと略同様にして流路によって運ばれるものが選択される。テスト剤は、反応型輸送剤が投入されるのとほぼ同じ投入ポイントにおいて投入する。保炎領域内のテスト剤の有無がテストされ、流路によって保炎領域に運ばれた触媒型抑制剤の量が、火災を抑制するのに十分かどうかが決定される。
【0092】
火災を抑制するためには、保炎領域を囲む容積内に、十分な時間にわたり、臨界数の触媒型抑制剤分子が存在しなければならない。これにより、例えば十分な数の発熱反応を抑制して燃料の温度をその燃焼点よりも低く下げることにより、火災を消火するのに十分な触媒反応が発生する。触媒型抑制剤の各分子は、多数の発熱反応を妨げることができる。これは、触媒型抑制剤の分子は、ひとつ以上の発熱反応を妨げることによって破壊されないからである。抑制剤分子の臨界数と、消火をもたらすために保炎領域にこれら分子が存在しなければならない時間は、燃料と酸化剤の組成と流量、ならびに保炎領域の形状などの燃焼条件に依存して変動する。さらに、特定の保炎領域において特定の火災を抑制するために存在しなければならない触媒型抑制剤分子の絶対最低限の量すなわち臨界数があっても、消火に要する時間は、存在するこれら分子の数の関数として低減される。すなわち、触媒型抑制剤分子の量や数が増加すると、消火をもたらすために触媒型抑制分子が保炎領域内に存在しなければならない最小限の時間は減少することになる。
【0093】
触媒型火災抑制剤の量、及び消火に要する時間は、多くの異なる方法で表される。触媒型抑制剤の必要量は、分子の数、又はより好便には、触媒型抑制剤の質量で表される。便宜上、抑制剤の量は、通常、質量/長さの3乗の大きさをもつ「密度」や「濃度」などの用語を用いて、単位容積あたりの抑制剤の量又は質量として表される。「フラックス」なる用語は、保炎領域を横断する抑制剤の量又は質量を時間の関数として表すために用いられ、質量/(長さの2乗×時間)の単位をもつ。フラックスは、局所的密度と、長さ/時間の単位の局所的流速の積に等しい。規定された流れが通過する特定の面積を規定するために、アパーチャやオリフィスを用いることができ、これは長さの2乗などの面積単位をもつ。
【0094】
オリフィスを通る質量流量は、フラックスと、アパーチャやオリフィスなど、流れが通過する部材の面積の積であり、質量/時間の単位をもつ。投与量なる用語は、質量流量の時間積分、又は同様に、フラックス×面積の時間積分を示す。投与量は、質量単位を持ち、規定の領域又は容積を横切った、触媒型火災抑制剤などの物質の総量をいう。投与速度は、時間に関する投与量の導関数、又は同様にフラックスと面積の積、又は質量流量である。投与速度は、質量/時間の大きさをもつ。
【0095】
燃焼を抑制する触媒型火災抑制種は、燃焼のあいだに起こる熱発生すなわち発熱化学反応に干渉して、保炎領域に放出される熱を減少させることにより、燃焼を抑制する。触媒型抑制剤の臨界密度や濃度、及び触媒型抑制剤の臨界質量流量や投与速度の存在は、火災抑制を達成するために用いられる。これらの量の数値又はその同等物は、詳細には、燃料と酸化剤の組成と流量、ならびに、保炎領域の形状に依存する。
【0096】
言い換えれば、触媒抑制剤の各分子が多数の発熱反応を妨げるにも関わらず、熱反応を克服又は妨げて消火をもたらすに十分な分子数の触媒型抑制剤が、十分な時間、火炎ゾーンに存在しなければならない。つまり、触媒型抑制剤は、消火をもたらすに十分な時間、保炎領域の容積中に、ある濃度又は密度で存在しなければならない。これは、消火を可能にするための臨界質量の触媒型抑制剤が臨界長の時間存在するための要件として説明される。臨界時間に対する臨界質量の割合を、臨界投与速度と呼ぶ。
【0097】
特に図21を参照して、部分切欠き図に示したジェットエンジンナセル250に関して火災抑制の一例を説明する。ジェットエンジン252はナセル250内に搭載され、その表面には、図6、図7、図8に関してより詳細に上述した、パイプや、導管や、その他の構造などの多様な障害物254を含む。通常の動作において、エンジン空気256として示す大量の気流が引き込まれ、その中の燃料と結合してエンジン252から排出され、推力を発生させる。ジェットエンジンと動作条件によって、気流256は、例えば時速300ノット又は海里の高速で流れ得る。さらに、エンジン252とナセル250の間の略円筒形の空間251を、かなり少なく遅い気流が通過する。この気流の一部は10又は15ノットで流れ、自然流路258として示されている。流路258の経路は、障害物254として示されるさまざまな構造的障害物によって部分的に遮られ、したがって直線にはならない。
【0098】
火災抑制システムは、エンジン運転中の空間251内で発生した火災を消火するために有用であり、必要とされる。このような火災は、空間251内に存在する、ジェット燃料などの燃料源、及び、流路258内の空気などの酸化剤によって、複数の場所で発生し得る。このような場所のそれぞれが、エンジン火災のあいだにこのような場所のそれぞれに火災又は火炎が存在するという点において、保炎領域と考えられる。空間251の取入口付近の保炎領域262、又は流路258の出口付近の保炎領域264などの保炎領域の容積は、ジェットエンジン252の外表面からナセル250の内表面まで延在する略円筒形であると考えられる。保炎領域262を囲む保炎容積の高さは、図21に示す保炎領域262の概略側面図に見ることができる。保炎領域264を囲む保炎容積の直径は、やはり図21に示す保炎領域264の概略上面図に見ることができる。
【0099】
各保炎領域を囲む容積の正確な形状は重要なものではないが、火災抑制システムを設計し実現するためには、保炎領域の容積を知ることは有用である。図24及び図25に関してより詳細に後述するように、従来の火災抑制技術は、フラッディング式又はストリーミング式消火システムを用いていた。フラッディング式の第一の抑制システムは、図21に示すジェットエンジンナセルにおける火災を抑制するために用いられ、エンジン252とナセル250の間の空間251全体を浸すように火災抑制剤を供給することを必要とする。この火災抑制技術は、大量の火災抑制剤と、空間251を浸す手段を必要とする。一つ又は数個の投入ポイントを利用して空間251を浸すことはできるが、多数の投入ポイントから空間251全体にわたって望ましい濃度の火災抑制剤を得るために必要となる時間の方が少なくて済む。従来の火災抑制システム要件は、全浸を達成した後、特定長の時間、例えば6秒間、チャンバが浸された状態のままでなければならないことである。従来のストリーミング式火災抑制技術は、通常、火災抑制剤のストリームをそれぞれの保炎領域に、火災を消火するのに十分な時間だけ与えることを必要とする。このアプローチは、火災抑制剤の投入ポイントを複数個必要とし、ジェットエンジンナセルなどの対象物を実際に燃焼させて火災抑制の効果を決定することなしにテストすることは困難である。従来のフラッディング式及びストリーミング式火災抑制技術は、反応型輸送剤及び/又は触媒型抑制剤を用いることにより改良することができる。
【0100】
図21に示し、下記に説明するように、反応型火災抑制システムは、消火を達成するために、通常、かなり少ない火災抑制剤と、比較的少ない投入ポイントしか必要としない。さらに、反応型火災抑制システムは、いったん保炎領域と空気流路が決定されると、実際の火災の破壊性を必要とせずにテストすることができる。特に、自然流路258に沿った保炎領域262及び264により表わされる火災を抑制するためには、十分な質量の火災抑制剤の活性種を流路258に沿って運ぶだけでよく、これにより、保炎領域262及び264を囲む容積の両方において、各領域の温度を燃焼温度よりも低下させるに十分な程度に発熱反応を触媒的に妨げることにより火災を抑制するのに十分長く、臨界質量の活性種分子が利用可能となる。
【0101】
反応型火災抑制システムを、上述したような臨界質量よりもかなり多くの触媒型抑制剤を供給してセーフティファクターを提供するように設計することも適切である。反応型火災抑制システムによって運ばれる抑制剤の総量は、フラッディング式抑制システムに必要な質量と比べた、運ばれた質量の増加として便宜的に表される。保炎領域の最も下流側に対しては10%から100%の間の質量増加が適切であり、50%以上の増加か、より好ましくは約75%の増加が望ましいと考えられる。
【0102】
例えば、投入ポイント260において投入されたPBrなどの反応型火災抑制剤のパルスは、空気流路における及び/又は空間251内の表面上の水分と反応して、投入ポイント260において、ほぼ直ちにHBr分子を放出する。いくつかのBr分子もまた熱による反応によって、特に、投入ポイントが保炎領域などの発熱源に近い場合に、放出される。HBr(及び/又はBr)分子は、流路258に沿って、保炎領域262を囲む容積に運ばれる。ポイント260において投入されたPBrのパルスは、特定の質量流量において、十分に長くなければならない。すなわち、流路258に沿った運搬の間、少なくとも臨界質量のHBr(及び/又はBr)分子、すなわち、保炎領域262を囲む容積内の発熱反応を十分に触媒的に妨害して燃焼ポイントより低く温度を低下させるに十分な数の分子、が保炎領域262を囲む容積内に臨界時間、すなわち、発熱反応の所望の触媒的妨害を達成して保炎領域262内のいかなる火災をも消火するに十分な長さの時間、存在するように、十分に長くなければならない。
【0103】
しかし、保炎領域264はかなり風下側、すなわち、流路258のさらに先であるため、保炎領域264に運ばれる触媒型抑制剤分子は、より遅い時間に、より低い濃度又は密度で到着する。保炎領域264を囲む容積に、この保炎領域内の火災を消火するのに十分な臨界時間にわたって、臨界質量の触媒分子を運ばせるためには、ポイント260において投入されるPBrのパルスの長さは、保炎領域262における抑制に必要とされるものよりも長くしなければならない。ひとつの投入ポイントに与えられた火災抑制剤のひとつのパルスは、反応型火災抑制システムを用いた、複数の保炎領域内のひとつ以上の火災の消火をもたらし、これにより、従来のフラッディング法又はストリーミング法により必要とされたものよりも容積と複雑性が少なくて済む。PBrなどの反応型火災抑制剤は、ストリーミング法やフラッディング法、ならびに図24及び図25に関して下記に示すように反応型火災抑制法にも好首尾に用いられることに注目することもまた重要である。特定の状況においては、反応型火災抑制剤を用いた反応型、フラッディング式、ストリーミング式火災抑制技術の組合せを利用することが望ましい。
【0104】
反応型火災抑制剤の運搬の効果を、濃度及び時間関連の値を決定するための従来のフラッディング剤のテストと同様にして、実際の火災を消火することによる試験に固有の破壊性に頼ることなく、テストすることが望ましい。下記に図22から図26に関してより詳細に考察するように、PBrなどの反応型火災抑制剤の運搬をテストすることは、抑制剤の第一の活性分子、すなわちHBrと同じ運搬特性をもつ、Krなどの他の物質の分子を投入することにより達成される。
【0105】
図22を参照して、テストチャンバ206は、チャンバ入口208と、チャンバ出口210と、第一及び第二の保炎領域212及び214とを、反応型火炎抑制剤が用いられる多くの異なる構造形態の代表的なものとして備えている。抑制剤流路215は自然流路であり、バルブ217を介してパイプ及び/又は管部材218及び/又はノズル220を介して与えられる反応型火炎抑制剤とともに用いて、保炎領域212及び214にて発生している火災を消火するために選択される。ノズル220を介して流路215に与えられた反応型火炎抑制剤の効果的な分配又は運搬をテストするため、テスト剤216がバルブ217を介してパイプ218に与えられる。バルブ217は、電気的に又は油圧で操作されるバルブなどの動力操作手段を備えたバルブであり、テスト抑制剤216をタンクから所定の期間にわたって送出するためにパルス式に動作させることができる。
【0106】
反応型火炎抑制剤は、特に保炎領域212及び214を囲む、火災の周囲環境と化学的に反応することにより作用し、触媒的に強力な火災抑制物質を生じる。例えば、テストチャンバ206において用いられる、PBrなどの反応型火災抑制剤は、空気中及びチャンバ内の表面の水分と反応して、保炎領域12及び214において火炎化学反応を触媒的に妨害して火災を抑制する反応種としてのHBrガスを発生させる。HBrガスが保炎領域内に、十分な密度と十分な時間にわたって存在すれば、火災は完全に抑制される。反応型抑制剤PBrは、表面上あるいは周囲空気中の水分と非常に迅速に反応して、次の化7にしたがってHBrガスを発生させる:
【化7】

【0107】
50%の相対湿度において、この反応は87ミリ秒で63%完了する。
【0108】
火災抑制剤の配給は、配給されたPBr剤よりもむしろ、HBrガスと同様の特性をもつ非反応型テスト剤216を用いてテストすることが好ましい。すなわち、反応型抑制剤の火災抑制システムをテストするためには、抑制剤そのものと同様の特性よりむしろ、反応型抑制剤から放出される活性種と同様の特性をもつテスト剤を選択しなければならない。このようにして、臨界質量の活性種が、少なくとも火災を抑制するのに必要な臨界時間にわたり適切な領域に送られたかどうかをテストによって判定することができる。
【0109】
クリプトンガス(Kr)がPBR反応型抑制剤に対する適切な非反応型代替物、すなわちテスト剤、として選択された。これは、Krの流体力学特性、すなわち、流路215に沿った輸送をつかさどる特性が、PBr反応型火災抑制剤のHBr活性種のそれと類似しているからである。このような特性は、密度、分子量、粘度、熱伝導度、及び拡散率を含む。
【0110】
表2はHBrの流体力学的特性を、Krを含む様々な原子ガスのものと比較している。しかし、火災ゾーンにおいて非反応型であって、活性種と同様の流体力学的特性をもついかなる分子ガスも、代替物を選択する際に考慮され得る。ハロゲン化又は非ハロゲン化炭化水素、又は単純酸化物(CO、SO、NO、CO、NO)は、反応型火災抑制剤の代替物として考慮される非反応型分子ガスの例である。
【0111】
【表2】

【0112】
テスト中、テスト剤216(Krガスなど)は加圧タンクに蓄えられ、テストチャンバ206の部分的に囲まれた空間において、火災ゾーン内での火災抑制剤(HBrなど)の輸送のためのテスト用代替物として用いられる。チャンバ206は、入口208などの入口開口から出口210などの排気口への空気流によって換気される。空気流は、突起及び境界(図示せず)と相互作用して、保炎領域212及び214などの、一つ以上の保炎領域をテストチャンバ206内に作り出す。第一の保炎領域の風上の投入ポイントにおいて抑制剤を投入することにより、火災抑制剤、この場合には、火災抑制剤の代替物、すなわちテスト剤216を分配するように、抑制剤流路215が選択される。検知器222は、管部材224を介して保炎領域からガスをサンプリングする。
【0113】
テスト剤216は、ガスバルブ217のパルス状動作によって与えられ、管部材218を介して抑制剤投入領域221に入ることが許容される。管部材218は、テスト剤216の流れを方向づけるノズル220を被せられている。バルブ217によって与えられるテスト剤216のパルスは、持続時間、質量流量、及び速度プロフィールを持つものとして特徴づけられる。テスト目的のため、テスト剤216のパルスの持続時間と、質量流量と、速度プロフィールは、反応型火災抑制システムに用いるために提案された触媒型火災抑制剤において用いられるパルスに適合するように選択される。この適合が重要である。なぜならば、どちらの抑制剤が投入されても囲まれた空間の圧力を変動させ、これにより、入口208及び出口210を通る流れが変わるからである。
【0114】
クリプトンガス(Kr)などのテスト剤216は、テスト中、投入ポイント221から、抑制剤流路215などの自然流路又は流線に沿った移流及びそれらを横切る拡散によって運ばれる。バルブ217により、パイプ218と、もし使用される場合にはノズル220とを介して、投入ポイント221に送られるテスト剤216の各パルスは、保炎領域212及び214からの管部材224を介して検知器222によりサンプリングされ、時間の関数として、送られたテスト剤216の密度を決定する。投入ポイント221に送られたテスト剤216のパルス幅と密度と、各保炎領域においてサンプリングされたテスト剤216の、時間関数としての密度との間の相関は、抑制剤流路215を介したそれぞれの保炎領域212及び214へのテスト剤216の配給又は運搬の効果を定量化するために用いられる。
【0115】
上述のテストプロセスは様々な投入条件について繰り返し行なわれ、異なる投入質量、質量流量、パルスの時間的プロファイル、ならびに、投入位置、ノズル形状、保炎領域の位置、換気その他の条件の変更による影響を判定する。特に、一連のテストは、火災抑制システムの反応型抑制剤の分配のための設計を支援するための、テスト剤分配のマトリックスを作成するために用いられる。テストが完了して分析されると、テスト剤216は、テスト剤と同じ運搬特性をもつ抑制剤を生成する反応型抑制輸送剤に置換される。
【0116】
図23を参照して、領域212など、特定の保炎領域から採取したサンプルについての検知器出力228が分析され、各保炎領域に運ばれたテスト剤の、時間の関数としての密度が決定される。この密度プロファイルは、投入ポイント221において投入されたテスト剤パルス226と比較される。
【0117】
具体的に、テスト剤パルス226は時間t0において始まり、時間t1において終了する。クリプトンガスのパルスの持続時間と、質量流量と、速度プロファイルは、反応型火災抑制システムにできる限り適合するように選択される。テスト剤パルス226の密度は特定の値d1をとる。これらの値は、図1に示すバルブ217の動作設定により決定されるか、あるいは、ノズル220又は投入ポイント221の略近傍に到達する付加的な管部材224を用いて検知される。
【0118】
検知器出力228は、テスト剤216の検知可能な濃度又は密度が、保炎領域212などの検知ポイントに、時間t1より前の特定の時間に到達したことを示す。検知器出力224の密度はピークまで上昇し、その後、時間とともに減少する。検知器出力224は、各保炎領域内の火災を消火するために必要な臨界時間にわたり、ある特定のシステム構造に対し臨界質量の触媒型抑制剤が送られたかどうかを判定するために用いられる。この技術はまた、システムに対する、起こり得る変更をテストして結果のマトリックスを作成するために用いてもよい。
【0119】
例えば、結果のマトリックスは、最良の投入条件を決定するために経験的に用いることができる。好ましくは、テスト剤216を運ぶこと、ひいては触媒型抑制剤を火災ゾーン内に運ぶことは、計算流体力学を用いてモデル化され、これにより、最適な投入条件が、疎テストマトリックスを用いて効率的に特定できる。計算流体力学はまた、触媒型抑制剤とテスト剤の流体力学特性(例えば、拡散率、密度)のわずかな相違の影響を調べるためにも用いられる。
【0120】
図24を参照して、フラッディング式抑制システムについて、フラッディングチャンバ232内でのフラッディング又は触媒型抑制剤234の使用が示され、反応型抑制システムとの相違を比較して示す。そのテストについては、図21を参照して上述したとおりである。図24に示す保炎領域212及び214は説明の便宜上フラッディングチャンバ232の上に重ねられているが、従来のフラッディング式火災抑制システムは、通常、保炎領域を特定したり保炎領域の特定を利用したりはしない。使用において、フラッディング剤234は、フラッディング剤タンク230からバルブ217及びパイプ218を介して、所定の期間にわたり放出される。時間と、タンク230内の圧力及びフラッディング剤234の特性が、レベル236などの、チャンバ232のフラッディングの所定の充填レベルに達するように選択される。充填レベル236は、チャンバ232の内部容積の100%であってもよい。
【0121】
フラッディング式火災抑制システムは、触媒型抑制剤とともに用いることができ、フラッディング剤タンク230内の触媒型抑制剤を用いるか、又は、好ましくは、フラッディング剤タンク230内の反応型輸送剤を用い、この反応型輸送剤を、火災ゾーンから上流側で反応型輸送剤が触媒型抑制剤を生じる環境に導入する。例えば、フラッディング剤タンク230内でPBrが使用される場合には、触媒型抑制剤を放出するために、十分な水分が大気その他の源から、バルブ217に、あるいは好ましくはパイプ又は管部材218に、あるいはより好ましくは、ノズルが用いられた場合には、ノズルに導入される。この技術は、フラッディング剤タンク240に必要とされるサイズ及び/又は重量を低減させることが望ましい状況において、特に有用である。
【0122】
ハロン1301などのフラッディング剤のための従来のテストは、フラッディング式火災抑制システムが所定の標準レベルの濃度を与えるかどうかを判定するために行なわれる。ジェットエンジン室のためのFAA規格は、例えば、6体積%を超える濃度のフラッディング剤を、離散位置において、0.5秒より長く計測することを、現在要求している。検知器222及び一つ以上のパイプ又は管部材224が、これらの測定を行なうために用いられる。
【0123】
チャンバ232内におけるフラッディング式抑制剤の効果的な分配をテストするための上述のテスト技術は、図22を参照して考察した反応型火災抑制システムをテストするには有用ではない。
【0124】
図25を参照して、チャンバ238は、従来のストリーミング式抑制剤又は触媒型抑制剤を用いた、ストリーミング式火災抑制システムに用いられ、上述の理由により図においてチャンバに重ねられた保炎領域212及び214を有している。ストリーミング式火災抑制システムにおいて、従来の技術は、パイプ218やバルブ217を介して、ストリーミング剤タンク240から第一の抑制剤の一つ以上のストリームを提供し、これらストリームは、一つ以上のストリーミングノズル242によって、火災ゾーン244などの予測される火災ゾーンに導かれる。火災ゾーン244は、代表的と思われる火災からの予測される火炎すべてを囲む領域である。
【0125】
火災ゾーン244としてここに図示されるこれらの火災の伝搬と、空間広がりと、強度は可変である。ストリーミング式火災抑制システムのテストは、通常、実際の消火を判定するためのテストにより行なわれる。統計的に有意な数のこのような火災を設定して消火する費用は、特に、部分的に囲まれた空間が、タービンエンジン、電気通信スイッチ、コンピュータシステム、飛行計器類、等を含む場合には、手が出せないほど非常に高くつく。
【0126】
ストリーミング式火災抑制システムは、触媒型抑制剤とともに用いることができ、ストリーミング剤タンク240内の触媒型抑制剤を用いるか、又は、好ましくは、ストリーミング剤タンク240内の反応型輸送剤を用い、この反応型輸送剤を、火災ゾーンから上流側で反応型輸送剤が触媒型抑制剤を生じる環境に導入する。例えば、ストリーミング剤タンク240内でPBrが使用される場合には、触媒型抑制剤を放出するために、十分な水分が、大気その他の源から、バルブ217に、あるいは好ましくはパイプ又は管部材218に、あるいはより好ましくは、ノズル220に導入される。この技術はストリーミング剤タンク240に必要とされるサイズ及び/又は重量を低減させることが望ましい状況において、特に有用である。
【0127】
フラッディング式及びストリーミング式火災抑制システムをテストするための技術は、反応型火災抑制システムをテストするには直接的には有用ではない。
【0128】
まず、ハロン1301、HFC−125(CHF)、COなどの従来のフラッディング剤は、火災ゾーン内の化学反応によって減損しない。反応型火災抑制剤は、火災ゾーン内の環境によって、火災により生成される水分、酸素、表面、熱、又は化学種などと反応して変換される。フラッディング濃度は、包囲部内の流体力学によってのみ決定されるが、反応種の濃度は火災ゾーン内の化学反応にも影響される。
【0129】
さらに、フラッディングシステムは、包囲部又はチャンバ全体にわたって均一な濃度を生じるように設計されている。ノズル、管部材、その他の分配手段を備えた複雑なマニホルドが、トータルフラッディングシステムにおいてしばしば採用されている。一方、反応型システムは、包囲部内の自然流を利用して、反応種を保炎領域に優先的に運ぶように設計されている。必ずしも全ての位置が同程度に燃焼をサポートするわけではないため、反応型システムは、フラッディングシステムに必要とされるよりも少ない質量及び容積の抑制剤を用いて抑制を容易にする。
【0130】
同様に、ストリーミング式火災抑制システムをテストすることは、実際の火災が消火されるまでテストが行なわれるため、非常に面倒であり、且つ、費用がかかる。
【0131】
しかし、図26を参照して、抑制剤の分配がテストできるような最小限の基準を少なくとも設定することにより、反応型火災抑制システムの効果を定量化できるようにすることが望ましく且つ重要である。同様に、フラッディングシステムと反応型システムのような、異なる種類の火災抑制システムに用いられる基準を比較できるようにすることも望ましく且つ重要である。図23において上記に示したような密度及び時間の関数としての、反応型テスト剤パルス226及びその結果の反応型(テスト)剤検知器出力228は、フラッディングテスト剤パルス240及びフラッディング剤検知器出力238に重ねて示されている。考察の目的のために、上述のFAA基準が、0.5秒のあいだ6体積%のフラッディング抑制剤を与えるのに十分長いフラッディング剤パルス240を用いた満足できる火災抑制を提供すると仮定して、保炎領域に至る流路内において0.5秒のあいだ6体積%の等価物を少なくとも発生させる反応型抑制剤のパルスは、フラッディングに必要なものよりかなり少ない抑制剤しか必要としないことは明らかである。
【0132】
フラッディング剤のパルスは、チャンバ全体を浸さなければならないが、反応型抑制剤のパルスは、チャンバ全体を浸す必要なく、同等の時間のあいだ保炎領域の近傍に位置させればよい。さらに、反応型火災抑制システムによって保護される環境の形態によって、反応型火災抑制剤又は図21に示すテスト剤216のパルスは、複数の保炎領域において火災を消火するのに用いられる。例えば、まず、抑制剤流路215に沿って保炎領域212の近傍に運ばれた反応型抑制剤又はテスト剤のパルスは、その後、流路215に沿ってさらに第二の保炎領域214に運ばれる。ひとつではなく二つの保炎領域において十分に火災を抑制するためには、このようなパルスは持続時間が若干長くなくてはならないが、反応型抑制剤のパルスの持続又は存続時間は、ひとつの保炎領域において火災を抑制するのに必要なパルスの持続時間の2倍よりはかなり短い。
【0133】
さらに、反応型火災抑制剤は、フラッディング用火災抑制剤に優るさらなる長所を有する。なぜならば、反応型火災抑制剤は、火災ゾーンの環境と化学的に反応して、触媒的に強力な抑制物質を発生させるからである。例えば、上に示したように、反応型火災抑制剤PBrは水分と反応してHBrガスを発生させ、これが火炎化学反応に触媒的に干渉することにより火災を抑制する。ひとつの分子が何百万もの火炎反応の変質を促進する触媒反応は、触媒の濃度に弱くしか左右されない。したがって、ハロン1301などのフラッディング用火災抑制剤を1.5秒超、6体積%与えることによるものと同等の火災抑制は、同じく1.5秒以下、かなり低い濃度のHBr触媒型火災抑制剤を与えることによってもたらされる。
【0134】
例えば、上記のように、反応型火災抑制システムの数値的指標は、フラッディング式システムの最低必要条件と比較して、反応型火災抑制剤が、最小限110%から200%、より好ましくは150%から175%の触媒型抑制剤を同じ長さの時間のあいだ保炎領域に運ぶという要件である。
【0135】
図27を参照して、図21に示すジェットエンジンナセル250と、空間251と、ジェットエンジン252の変形図が示され、概略的に入口266として示される第一の入口から火災ゾーンに流入し、概略的に出口286として示される出口において火災ゾーンを出ていく流路258に沿って、保炎領域262及び264が位置している。空間251などの火災ゾーンは、一つより多い入口と出口を持ち、したがって、一つより多い流路を持つ。入口272から空間251に入り、出口274から出ていく流路270は、さらなる流路の一例として示されている。流路270もまた、領域276及び278などの複数の保炎領域を持つ。
【0136】
さらなる流路もまた、同じ入口及び/又は出口から入り及び/又は出ていく。例えば、流路271は、空間251に入口272から入り、流路270とは部分的に又は完全に異なる経路をたどり出口274から出ていく。図示のように、流路270及び271は、結合ポイント273において結合し、そこから出口274を介して一緒に出ていく。図示のように、流路271は保炎領域277を含む。
【0137】
領域262、264、276、277、及び278などの保炎領域における火災は、熱と光の放射、燃料の燃焼から生じるCOやHOその他の化合物のガス、煙の粒子などを含む燃焼の産物を放出する。保炎領域における火災を検知するには、一つ以上のこうした燃焼副産物を検知しなくてはならない。ひとつの方法として、火災ゾーンにおける各保炎領域の近くに検知器を配置することがあげられる。例えば、火災検知センサ280及び282が保炎領域262及び264にそれぞれ隣接して配置され、これらの領域内の火災を検知し、識別する。
【0138】
しかし、気体状及び微粒子状の副産物は、火災ゾーン内の特定可能な流路に沿う自然流によって運ばれ得る。したがって、センサ284などの単一の火災検知センサを、ナセル250の内側又は外側の、出口268に隣接して配置して、その出口において出ていく流路をもつどの保炎領域における火災もこれを検知できる。特に、図示のように、保炎領域262及び264のいずれか一方又は両方における火災は、センサ284によって検知できる。
【0139】
同様に、一つより多い保炎領域からの自然流が交差する場合には、交差部に近接した又はその下流側にある一つのセンサが、どちらかの保炎領域からの燃焼副産物を検知する。図示のように、流路270及び271は結合ポイント273で交差し、そこで、保炎領域276、277、及び278からの流路は全て結合ポイント273で交差する。火災検知センサ286は、結合ポイント273及び出口274のあいだに配置され、したがって、結合ポイント273において交差する流路270及び271に沿う、すべての保炎(fire holding)領域における火災を検知するために用いることができる。すなわち、一つ以上の保炎領域276、277、及び278における火災を、火災検知センサ286により検知できる。
【0140】
同様に、一つの検知器が、三つ以上の保炎領域に対応する各自然流路の交差部に近接して配置されていれば、これら保炎領域からの燃焼ガス及び煙をサンプリングすることもできる。
【0141】
複合的な火災ゾーンにおいては、非常に多数の保炎領域が存在し得るため、各保炎領域に検知器を設置することの複雑さと費用は高くなる。計算流体力学シミュレーションや流れの視覚化実験などにより発見できる、火災ゾーンにおける自然流を用いて、例えば、保炎領域に対する検知器の比率を1より少なく、好ましくは、1を保炎領域の数で割ったできるだけ小さい数に設定することができる。この後者の限度は、火災ゾーン内のどの保炎領域において発生した煙やガスをも検知するように配置されたひとつの検知器に対応する。火災ゾーン内の全てのポイントが最終的には出口268及び274の少なくとも一方に接続しているため、それぞれの出口における検知器は、火災ゾーン内のどの火災をも感知することは明らかである。しかし、これだけの数の検知器をもってしても、最適となるに十分な、空間及び時間における精度をもって、すべての保炎領域内の火災を感知することはできない。言い換えれば、燃焼生成物をセンサに運ぶ自然流路を用いてセンサの数と配置を選択することは、また、火災ゾーン内の火災の冗長性、時間応答、局在性を考慮することをも含む。
【0142】
検知器の数が一つより大きく、保炎領域の数より少ないという典型的な場合において、各検知器から発する信号は、特定の保炎領域への自然流によってリンクされた保炎領域の部分集合における火災についての情報を提供する。この情報は、火災が検知された特定の保炎領域に対する抑制剤の運搬を選択的に起動するために用いられる。好ましくは、抑制剤は、自然流路をたどり、触媒活性火災抑制剤原子又は分子を、燃焼ガス又は煙が検知された保炎領域に運ぶ、反応型抑制輸送剤である。
【0143】
火災ゾーン内の保炎領域の部分集合における火災の検知は、人間のオペレータに対する可視表示によって提供され、このオペレータが火災抑制システムのどの部分集合を放出するかを決定するようにしてもよい。好ましくは、保炎領域の部分集合からサンプリングする火炎検知器は、保炎領域の同じ部分集合に抑制剤を運ぶ、一つ以上の反応型抑制システムを、自動的に作動又は放出させる論理回路にリンクされている。特に、検知表示/抑制剤制御器288を設け、センサ284及び286等の火災検知センサに接続して、空間251における火災を検知し、自動的に抑制剤を提供し、同時に、要望に応じて、火災検知及び抑制活動の可視表示及び記録を提供するようにしてもよい。
【0144】
検知器の特徴は、検知及び消火が望まれる火災の性質によって異なる。例えば、燃料リッチな炭化水素火災は、大量の煙を発生させ、光散乱や移動度検出によるその検知は良く知られている。燃料希薄な炭化水素火災が発生させる煙はより少ないが、多量のCO及びCOを発生させ、これらは、赤外線吸収、質量分析、ラマン散乱、光音響分光、及びその他の分析化学の手法で検知することができる。また、可燃性プラスチック近辺の保炎部における火災は、HF、HCN、NO、SO、及びその他のガスを副産物として発生させる。これらのガスの濃度は、火災が存在しない場合にはごく小さい。これらのガスは、弾性表面波センサ、化学電解効果トランジスタ、共鳴蛍光、又はその他の分析化学技術によって検知することができる。
【0145】
保炎領域において、気体と、両燃焼生成物と、空気の加熱が起こる。高温ガスは自然流路に沿った対流によって運ばれ、放射冷却するにしたがって、光学的放射すなわち赤外線放射を放出し、センサによってこれが検出される。
【0146】
火災ゾーン内の保炎領域と、それらの、自然流路とのリンクを特定することによって、火災が最も存在しそうな領域に、検知及び抑制を集中させることができる。この特徴によって、検知及び抑制に用いられるシステムの数と複雑さを軽減できる。
【0147】
図28を参照して、航空機290は客室292と、燃料タンク294と、航空エンジン296と、反応型抑制剤タンク298と、手動で、又は火災を様々な火災検知センサのいずれかによって検知した際に、反応型抑制剤を放出するための、様々なライン及びバルブを含む。
【0148】
客室292は、客室床302に取り付けられた乗客席300と、客室292内に空気流路306に沿って配置された客室火災検知器304を含む。手動操作、もしくは、検知器304による火災検知、又は、客室292内の火災抑制を起動するように設計された航空機290のその他の部分における火災検知が起きると、バルブ308は接続310(コンピュータ又はその他の火災制御回路に接続されていてもよい)によって起動され、反応型抑制剤298を、反応型抑制剤パイプ310を介して、インジェクタ312から客室292内に放出する。インジェクタ312からの流れの位置及び方向は、反応型抑制剤314を、タンク298からパイプ310を介して反応ゾーン314に供給するように選択される。反応ゾーン314は、客室292の環境の既存の部分か、又は客室292の特別に導入又は変更された部分であり、ここで、反応型抑制剤314を、たとえば水分や熱と反応させ、触媒型火災抑制剤を、客室292を流れる空気流路306内に導入してその内部のあらゆる火災を抑制する。
【0149】
図示するように、空気流路306は、客室床302の下方の貨物室318をも通る。貨物室火災検知器320もまた、空気流路306に沿って配置され、接続310を介してバルブ322に接続されている。火災を検知すると、反応型抑制剤314が、タンク298からパイプ310及びバルブ322を介して、インジェクタ324から反応ゾーン326に与えられる。反応型抑制剤314は、反応ゾーン326内において反応し、触媒剤316を発生させ、この触媒剤が、検知器320によって検知された火災を抑制する。
【0150】
図示するように、検知器304からのライン310は、バルブ322ならびにバルブ308に接続され、検知器320は、ライン310を介してバルブ308ならびにバルブ322に接続される。このようにして、航空機火災制御システムは、貨物室318内で検知された火災の抑制を補助するために客室292のバルブ308を作動させることを選択的に選び、及び/又は、客室292において検知された火災が、空気流路306に沿って貨物室318で着火するのを防ぐためにバルブ322を作動させることを選択的に選ぶ。
【0151】
航空機290は、通常、部分的に燃料328で満たされた一つ以上の燃料タンク294を含む。タンクの、燃料より上方の残部は、蒸気と空気330の混合物(アレッジとしても知られる)を含み、これは、火花や高温表面など、発火点332における発火源が存在する時に、予混合火炎をもたらす恐れがある。予混合火炎が発火すると燃焼波が発生し、その、反応混合物を通過する伝搬速度は、従来、3つのカテゴリに分けられている。
【0152】
1.爆発(explosion):発熱速度は非常に速いが、爆発媒体を通る燃焼波の通路を必要としない。
2.爆燃(deflagration):亜音速の燃焼波。
3.爆轟(detonation):超音速の燃焼波。
【0153】
爆燃波及び爆轟波の特徴は、燃焼理論についての標準的なテキストに説明されているように、ランキン−ユゴニオの関係式を用いて、波の両側における熱力学パラメータに基づいて導き出される。標準テキストは、例えば、非特許文献5であり、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0154】
ランキン−ユゴニオの関係(クオ著における数式4−27)は次の数4の通りである。
【0155】
【数4】

【0156】
この式において、qは単位質量あたりの放熱量、γは一定圧力及び一定容積における比熱比、pは圧力、ρは密度、添字は燃焼波の前後の未燃(1)及び既燃(2)ガスをそれぞれ表す。
【0157】
気体の特性(γ、ρ、及びp)間の相互作用と熱放出qとは、燃焼波が超音速又は亜音速のいずれであるか、言い換えれば、爆燃波又は爆轟波が生じるかを決定する。この関係は複雑で、数学的に非線形であるが、ここでの考察目的での要点は、熱放出qの低減が燃焼波の速度の低減を、また、爆燃が爆轟に発展する可能性の低減をもたらすことである。あるいは、この事実は、エネルギー及び運動量の持続及び保存則の直接的な結果として考えることができる。燃料タンク内の燃料空気混合物の爆轟を防ぐことが、航空機産業における最優先事項である。
【0158】
従来の火災検知センサは、火災抑制が爆轟を防ぐことを可能にするに十分なほど高速ではない。専用の検知器331を用いて、初期燃焼波の発火を光学的又は音響的に検知することは、反応ゾーン334内で、又は発火点332において直接、触媒作用を及ぼして発火点332からの燃焼波における熱放出(q)の低減をもたらす反応型抑制剤314(タンク298内のあるいは他の供給源からの反応型抑制剤と同じでもよい)の迅速な投入をトリガーするために用いることができる。予混合された燃料/空気330は、物理的運動又は対流によって混合され、タンクアレッジ部330において対流336を発生させる。燃料タンク294は通常、注入口338及び圧力逃がしバルブ340を持つ。発火点332における火花又は火炎は、光学又は音響検知器331に検知される光又は音を放出し、この光や音は、発火点332から高速で伝播する燃焼波中に反応型抑制剤314を迅速かつ強力に投入することのトリガーとして用いることができる。
【0159】
反応型抑制剤314は、反応に対して触媒作用を及ぼして、熱放出qを低減させ、これにより、ランキン−ユゴニオ関係による(燃焼)波伝播速度を低減させる。触媒剤が熱放出をどの程度低減させるか、これにより燃焼波速度がどのくらい低下するか、また、爆燃から爆轟に遷移する可能性がどれほどかは、触媒剤フラックスならびに、可燃性燃料/空気混合物330の圧力と、密度と、組成に計算可能に依存する。反応型抑制剤314の量と種類、ならびに、発火点332において発達する燃焼波中への投入のモードと形状は、ランキン−ユゴニオ関係と、供給される燃料と、空気と、反応型抑制剤の固有の性質によって決定される。抑制剤の組成、量、投入の最適化は、応用数学と燃焼物理学の分野の当業者にはよく知られた方法にしたがって達成できる。
【0160】
一つ以上の光学センサ332のアレイを、航空機燃料タンク294内のアレッジ部330を完全に視野に入れるように配置することができる。タンク294からの反応型抑制剤314を用いる代わりに、一つ以上のカートリッジ342を用い、検知器332によって起動されると、対応するセンサ332の視野内に迅速に、反応型抑制剤をより強力に推進し、これにより、熱放出(q)を低減させ、燃焼波を停止させるようにしてもよい。
【0161】
反応型火災抑制を用いた爆轟及び爆燃波の抑制は、酸化剤と燃料がアレッジ330内で予混合されるため、火炎付着点を必要としないことにより、上記の考察と区別できる。それでもなお、反応型抑制剤を迅速に燃焼ゾーンに運搬するためにその流れ特性を利用することは、有利に用いられる。例えば、不安定臭素抑制剤PBrは、低い粘度と、アルミニウムより高い密度を持つ。火災抑制カートリッジ342の加圧とオリフィス形状を調整して、選択した方向における抑制剤の高速(毎秒何メートルもの)流であって、その推進力と運動エネルギーが、発火点332からの対抗燃焼波を制するのに十分である高速流を達成することができる。
【0162】
航空機290もまた、タンク294から燃料補給されるジェット又はその他のエンジンである一つ以上のエンジン296を持ち、このエンジンは、ナセル構造344に囲まれて冷却空気容積346を形成し、エンジン296の作動中には、この中に自然空気流路348が存在する。火災検知センサ350は、空気流路348に沿って及び/又はエンジンからの空気流路の出口に配置されている。検知器350による火災の検知の際、バルブ352が作動されて、反応型抑制剤314(又は他の抑制剤)をタンク298からインジェクタ354を介して、反応ゾーン356に放出し、火災を抑制する。図に示すように、燃料328は、タンク395から燃料ライン295を介して、エンジン296に供給される。
【0163】
図29を参照して、反応型火災抑制剤は、発射体に入れて直接燃焼ゾーンに、又は、燃焼ゾーン上方の空気中に抑制剤を放出する発射体に入れて運んでもよい。具体的には、発射体は送出装置358によって発射され、送出装置は、必要とされる発射体の大きさと進行距離に依存して、手持ち発射体から、肩掛けバズーカ、又は戦車搭載大砲まで、サイズは様々である。小さい発射体について、反応型火災抑制剤に比較的小さいサイズと重さが必要とされる場合には、手で発射できるコンテナ又はピストルによって発射されるプラスチック弾を用いることが便利である。
【0164】
発射体358のような擲(てき)弾を燃焼ゾーン360に向かって発射するために、銃356を用いてもよい。発射体358は多量の反応型火災抑制剤を含んでもよく、これは、地面や、壁362などの構造の一部と衝突して放出される。発射体358はまた、火薬を含んでもよく、衝突によって、又は遠隔操作で爆発して、反応型火災抑制剤を投与する。反応型火災抑制剤は、燃焼ゾーンの環境又は発射体358に付加されている反応性表面と反応し、触媒的に反応して燃焼ゾーン360内の火災を抑制する触媒種を放出する。
【0165】
発射体358は、銃356を使用する消防士やその他の人々によって、手動又は航空機(図示せず)によって発射されてもよく、反応型抑制剤の雲又はエアロゾルを放出し、これが、重力及び火災内に存在する自然対流によって、ゾーン360等の燃焼ゾーンに運搬され、そこで、触媒的に火炎を消火する。発射体364は、まっすぐに、言い換えれば、銃弾、擲弾、ロケット、ミサイルなどにおけるように視線方向に沿って運ぶことができる。あるいは、発射体は、迫撃弾、大砲の砲弾、手榴弾などにおけるようなまっすぐでない又は打ち上げ軌道によって運ぶこともできる。図示するように、発射体358は、燃焼ゾーン360上方に、照明弾のように、パラシュートによりぶらさげてもよい。
【0166】
これらの実施形態は、武器弾薬庫、化学倉庫、燃料貯蔵庫など、危険性、可燃性、又は爆発性の物質が存在する環境、における火災を抑制する際に、特に有用な遠隔消火を可能とする。更に、反応型火災抑制発射体の重量とサイズは、通常、同じ消火能力を有する手持ち又は車輪付き消火器よりもかなり小さく、消防職員の携帯防護具にも好適である。
【0167】
発射体364は、反応型抑制剤を、機械的手段又は爆発手段により放出してもよい。機械的な散布の例としては、発射体の加圧又は破砕及び衝撃力による内容物の飛散が挙げられる。爆発散布手段は、化学戦争兵器や燃料気化爆弾兵器において用いられるような指向性爆薬を含む。
【0168】
いくつかの形態において、発射体358及び364にゾーン366などの反応ゾーンを設け、送出装置内の反応型抑制剤が、火災ゾーン360に到達する前に発射体から放出されるときに、その少なくとも一部が反応を起こすようにしてもよい。
【0169】
発射体364は、重力によって駆動される流れを利用して、ゾーン360等の燃焼ゾーンに反応型抑制剤を配送する。発射体364は、内部の爆発装置又は推進装置を囲む反応型抑制剤を含むカートリッジを含んでもよい。発射体364は、火災ゾーン上方に垂直に発射されてもよい。予め選択された高度又は時間において、爆発物が爆発され、反応型抑制剤を雲状に分散させ、その空間的広がりは内部爆薬の形状と、爆発力によって決定される。SOBr(密度2.68g/cm)など、空気より大きい密度を持つ反応型抑制剤は、エアロゾルの雲として分散されると、重力の影響下で、一つ以上の燃焼ゾーンを包含する領域に落ち着く。抑制剤は火災の自然対流によって燃焼ゾーンに運ばれ、触媒的に消火を行う。
【0170】
図30を参照して、航空機368は、事故着陸用に、反応型火災抑制剤を含む発射体370を備えていてもよい。手動又は自動システムを用いて、緊急又は事故着陸の直前か直後に、航空機368から発射体370を発射又は切り離し、着陸の結果生じ得る火災を抑制するようにしてもよい。特に、発射体370を着陸の直前に発射して、反応型抑制剤が、潜在的燃焼ゾーンに与えられるようにしてもよい。このことは、発射体370を多くの異なる位置に搭載し、着陸の衝撃による故障から保護することを可能とする。あるいは、反応型火災抑制剤は、例えば、航空機368の翼内タンク下に衝撃を受けた後、コンテナ(発射体)370から放出されてもよい。
【0171】
図31を参照して、例えば航空機において用いられる典型的な火災抑制システムを概略的に示し、ここでは、タンク374からの火災抑制剤372は、燃焼ゾーン382の上流側の空気流路378にあるか、又はこれに近接した投入ポイント376において投入される。反応型抑制剤372は、反応ゾーン380と反応して、燃焼ゾーン382の上流側で触媒剤373を発生し放出する。触媒剤373は、空気流路378によって燃焼ゾーン382に運ばれ、そこで、触媒剤373は燃焼ゾーン382内の触媒反応により火災を抑制する。
【0172】
投入ポイント376が流路378上にあること、又は、例えばタンク374における加圧の結果としての反応型抑制剤372の運動量が、反応型抑制剤372を空気流路378に運ばせることに注目することが重要である。上述の通り、他の実施形態において、反応型抑制剤372は空気流路378に逆って、上流方向に投入されてもよい。
【0173】
また、本実施形態において、燃焼ゾーン382の上流側において反応型抑制剤372と反応ゾーン380の間の相互作用によって放出された触媒剤373が、反応ゾーン380の下流側に空気流路378によって運ばれて火災を抑制する限りにおいて、反応ゾーン380が、流路378上にあるか又はこれに近接しているか、もしくは、投入ポイント376にあるか又はこれに近接していることに注目することも重要である。具体的に、反応ゾーン380はタンク374に付加されるか、及び/又は、投入ポイント376もしくはこれに近接して配置され、この場合、反応型抑制剤372は、流路378に沿って長距離にわたってあるいは全く運ばれることはない。しかし、本実施形態において、触媒剤は、反応ゾーン380から空気流路378に沿って下流側に向かい、燃焼ゾーン382に運ばれる。
【0174】
図32を参照して、別の実施形態において、携帯消火器382は、反応型輸送剤タンク384と、反応型輸送剤をノズル388に対して放出するための手動操作可能なバルブ386を含む。ノズル388は、反応ゾーン部390を有し、ここで、反応型輸送剤が反応して触媒剤373を放出し、この触媒剤は、例えばタンク384内の加圧及び/又はノズル388の動作に関連したポンプ作用によって、火災392の近傍に推進され、これにより、火災が触媒反応により消火される。
【0175】
本発明の様々な特徴について、上記の実施形態を参照して説明した。開示した消火システム、開示した消火方法、及び開示した消火システム設計方法は、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、変形が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明に係る火災抑制システムは、燃料と酸化剤と発火源のある構造、例えば、換気ダクト、ジェットエンジンのナセル、自動車のエンジン室、コンピュータを収容する換気キャビネット、電気通信交換局、天然ガスパイプライン、燃料タンク、その他、発火源と燃料及び酸化剤の流入を許容する開口とを備えた包囲部等の火災抑制システム及び方法に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料源と空気取入口と出口とを有する構造であって、
前記取入口及び出口が前記構造中を流れる空気流路をもたらすようにされた構造と、反応型抑制剤と、前記反応型抑制剤が反応して触媒型火災抑制剤を発生させる反応ゾーンであって、前記反応型抑制剤が前記構造内の発火点と関連付けられた火災から離れた前記反応ゾーンに接触させる前記反応ゾーンと、前記に関連付けられた投入ポイントであって、前記反応型抑制剤を選択的に放出して前記反応ゾーンに接触させることにより、前記触媒型火災抑制剤が空気流路によって運ばれて前記火災を抑制するようにした前記投入ポイントとを含むことを特徴とする火災抑制システム。
【請求項2】
請求項1に記載の火災抑制システムにおいて、前記反応型抑制剤は、前記投入ポイントの近傍で化学的または物理的に反応して前記触媒型火災抑制剤を発生させることを特徴とする火災抑制システム。
【請求項3】
請求項1に記載の火災抑制システムにおいて、前記反応型抑制剤の少なくとも一部は、前記火災の下流側に投入され、前記触媒型火災抑制剤は、前記空気流路に逆らって推進されて前記火災を抑制することを特徴とする、火災抑制システム。
【請求項4】
請求項1に記載の火災抑制システムにおいて、前記投入ポイントは、潜在的発火源に近接して流れる空気流路近傍に設けられ、前記投入ポイントを介して前記反応型抑制剤を投入することにより前記化学種を形成して前記空気流路により運搬し前記潜在的発火源における火災を触媒的に抑制するための制御システムをさらに、有することを特徴とする火災抑制システム。
【請求項5】
請求項4に記載の火災抑制システムにおいて、前記反応ゾーンは前記火災から上流側にあることを特徴とする火災抑制システム。
【請求項6】
火災の近傍に反応型抑制剤を含む容器を発射することで、前記反応型抑制剤を前記反応ゾーンに投入し、前記反応ゾーンにおいて前記反応型抑制剤が、火炎化学反応に触媒的に干渉する化学種を生じるようにすることと、前記容器から前記反応型抑制剤を放出することで、前記化学種を前記火災に運ぶことを含むことを特徴とする火災抑制方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記化学種は、その少なくとも一部が、前記容器の運動量により前記火災に運ばれることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、前記化学種は、その少なくとも一部が、前記容器の爆破により前記火災に運ばれることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法において、前記化学種は、その少なくとも一部が、前記容器の破砕により前記火災に運ばれることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−35112(P2012−35112A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247094(P2011−247094)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【分割の表示】特願2007−551432(P2007−551432)の分割
【原出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(510323808)エクリプス エアロスペース,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】