説明

火災監視システム

【課題】 火災の発生の際に火点位置を特定することにより、人命救助、消火活動を正確、かつ的確に行う。
【解決手段】 火災監視対象室2の天井面3に設置され、火災の発生時に火災監視対象室2の温度又は煙濃度を検出して火災情報として出力する複数のセンサ4と、各センサ4から出力される火災情報を受信し、この火災情報と予め記憶させておいた各センサ4の位置情報とに基づいて火点位置を算出し特定する情報処理部5とを備える。情報処理部5から出力される火点位置情報に基づいて火点位置を正確に把握することができるので、人命救助、消火活動等を正確かつ的確に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災監視システムに関し、特に、火点位置及び火源発熱速度を特定することにより火災状況を正確に把握し、その把握した情報に基づいて人命救助、消火活動を迅速に行うことが可能な火災監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、火災は、時間の経過とともに大きくなるため、火災の発生を早期に感知して警報を発することができれば、建物内の在館者はいち早く避難行動に移ることができる。また、消防隊も早期に駆けつけることができるため、火災が拡大する前に消火・救助活動を行うことができる。
【0003】
しかし、消防隊は、建物の外部から火点にアクセスし、状況に応じて消火・救助活動を行わなければならないため、これらの消防活動を安全かつ的確に行うためには、活動前に火災区画内の状況(火点の位置及び火災規模)を正確に把握することが不可欠である。さらに、火災後の調査においては、出火元(出火点)を特定することや延焼経路を特定することが重要になる。
【0004】
現在、一般に使用されている感知器の多くは、感知区域(床面積)ごとに1つの割合で設置されているため、出火区域(エリア)を特定することはできても、出火点(ポイント)まで特定することができない。さらに、熱気流の温度や煙濃度、放射熱等が所定の値以上になった時点で火災信号を発する機能しか有していなため、感知器付近の今現在の状況を把握することもできない。
【0005】
感知器を使用した火災監視システムの一例として、炎感知器と、この炎感知器の監視区域が視野に入るように設置されるCCDカメラとを備え、CCDカメラの画像から火点位置を求めるように構成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、他の例として、炎感知器と、走査型炎感知器とを有し、走査型炎感知器からの火災位置情報により、火点の位置を求めるように構成したものが提案されている(例えば、特許文献2参照。)
【0007】
さらに、他の例として、天井面に設置された温度センサの温度情報から、出火室において火煙が危険なレベルに達しているか否かの判断情報を得るように構成したものが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
さらに、他の例として、天井面に設置された温度センサの温度情報から、火災成長率を計算し、火災成長率から滞在限界状態を報知するように構成したものが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【特許文献1】特開2001−34864号公報
【特許文献2】特開2000−353286号公報
【特許文献3】特開2002−8155号公報
【特許文献4】特開2004−246542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記のような構成の各種の火災監視システムのうち、特許文献1及び2に記載されているものは、火点の位置を求めることはできても、一般的な天井高さの空間や物品が集積される空間では可燃物が炎を遮ってしまうため、天井の高い空間(8m以上)でしか使用することができない。
【0010】
また、特許文献3に記載されているものは、火煙が危険なレベルに達しているか否かの判断情報を得ることはできるが、出火点を特定することを目的としていない。また、熱気流の温度分布を考慮できないため、正確な火災規模を把握することができない。従って、消防活動を安全かつ的確に行うことができない。
【0011】
さらに、特許文献4に記載されているものは、火災室が滞在限界状態に達しているか否かの判断情報を得ることができるが、出火点を特定することを目的としていない。また、熱気流の温度分布を考慮できないため、正確な火災規模を把握することができない。従って、消防活動を安全かつ的確に行うことができない。
【0012】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、火災の発生の際に、火点位置及び火源発熱速度を特定することができて、火災の状況を正確に把握することができ、これにより、人命救助、消火活動等の消防活動を安全かつ的確に行うことができる火災監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記のような課題を解決するために、以下のような手段を採用している。
すなわち、請求項1に係る発明は、火災監視対象室の天井面に設置され、火災の発生時に前記火災監視対象室の温度又は煙濃度を検出して火災情報として出力する複数のセンサと、各センサから出力される火災情報を受信し、この火災情報と予め記憶させておいた各センサの位置情報とに基づいて火点位置を算出し特定する情報処理部とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明による火災監視システムによれば、火災の発生の際に火点位置を特定することができるので、消防隊が火点への最短ルートを選択したり、火災後の調査において出火元を容易に特定したりすることができる。また、火点の移動した軌跡を表示したり、移動速度を計算したりすることも可能になるので、延焼方向を予想することも可能になる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の火災監視システムであって、前記複数のセンサから任意の4つのセンサを選定し、この選定した4つのセンサから出力される火災情報と、前記情報処理部に記憶させておいた前記4つのセンサの位置情報とに基づいて、火点位置を算出し特定することを特徴とする。
【0016】
本発明による火災監視システムによれば、4つのセンサからの火災情報を情報処理部で処理することにより火点位置を特定することができるので、火点位置を特定する際に要する時間を短縮することができ、正確な火点位置を短時間で把握することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の火災監視システムであって、前記情報処理部は、前記センサから出力される火災情報と、予め記憶させておいた各センサの位置情報と、火災監視対象室の天井面の高さと、前記特定した火点位置情報とに基づいて、火源発熱速度を算出することを特徴とする。
【0018】
本発明による火災監視システムによれば、特定した火点位置情報に基づいて正確な火源発熱速度を得ることができるとともに、火源発熱速度から火源面積を推定したり、火源発熱速度と経過時間との関係から、火災拡大の速度を把握することも可能になる。さらに、火源発熱速度や火源面積から消火に必要な散水量を推定することも可能になる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1から3の何れかに記載の火災監視システムであって、前記情報処理部から出力される火点位置情報又は火源発熱速度情報を受信し、この受信した情報に基づいて、前記火災監視対象室の天井面に設置される散水設備、排煙設備、及び火災監視対象室の区画壁に設置される防火設備の作動を制御する制御部を備えていることを特徴とする。
【0020】
本発明による火災監視システムによれば、情報処理部から出力される火点位置情報又は火源発熱速度情報に基づいて、制御部により散水設備、排煙設備、防火設備の作動を制御することができるので、火災の発生時に消火活動を正確にかつ迅速に行うことができる。
【0021】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の火災監視システムであって、前記散水設備は、前記火災監視対象室の天井面に設置される複数の散水ヘッドと、各散水ヘッドを開閉させる制御弁とからなり、各制御弁の開閉動作を前記制御部によって制御することを特徴とする。
【0022】
本発明による火災監視システムによれば、特定した火点位置情報及び火源発熱速度情報に基づいて、延焼方向や火災規模を正確に把握することができるので、延焼方向に位置する散水ヘッドを選択してその制御弁を早めに開放させたり、火点を包囲するように散水ヘッドを選択してその制御弁を開放させたりすることができる。また、火災拡大が予想以上に速い場合には、火点を多重に包囲するように散水ヘッドを選択してその制御バルブを開放させることができる。従って、延焼を確実に防止することができる。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1から5の何れかに記載の火災監視システムであって、前記制御部は、前記火災監視対象室から遠隔した位置に配置される火災監視室に設置され、該火災監視室において前記制御部に出力される前記センサからの火災情報、前記センサの位置情報、前記特定した火点位置情報、前記火源発熱速度情報、前記散水設備の作動情報、前記排煙設備の作動情報、及び前記防火設備の作動情報を遠隔監視することを特徴とする。
【0024】
本発明による火災監視システムによれば、屋外からアプローチしやすい1階、地階等に火災監視室を設置しておくことにより、火災監視室において、火災情報、センサの位置情報、特定した火点位置情報、火源発熱速度情報等を正確に把握することができる。従って、人命救助、消火活動を行うための消防戦術が立て易くなる。また、火災監視室と火点までの距離が大きくなる大規模物販店舗、超高層ビル等においては、時々刻々と変化する火災情報等を火点付近で消火活動中の消防隊員に正確に伝えることが可能になる。従って、消火・救助活動を安全かつ的確に遂行することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上、説明したように、本発明の請求項1に記載の火災監視システムによれば、火災の発生の際に火点位置を特定することができるので、消防隊が火点への最短ルートを選択したり、火災後の調査において出火元を容易に特定したりすることができる。また、火点の移動した軌跡を表示したり、移動速度を計算したりすることも可能になるので、延焼方向を予想することも可能になる。
【0026】
また、本発明の請求項2に記載の火災監視システムによれば、4つのセンサからの火災情報を情報処理部で処理することにより火点位置を特定することができるので、火点位置を特定する際に要する時間を短縮することができる。従って、正確な火点位置を短時間で把握することができ、火災の発生の際に、人命救助、消火活動を迅速に行うことができる。
【0027】
さらに、本発明の請求項3に記載の火災監視システムによれば、特定した火点位置情報に基づいて正確な火源発熱速度を得ることができる。従って、火源発熱速度から火源面積を推定したり、火源発熱速度と経過時間との関係から火災拡大の速度を把握することが可能になる。また、火源発熱速度や火源面積から消火に必要な散水量を推定することも可能になる。
【0028】
さらに、本発明の請求項4に記載の火災監視システムによれば、情報処理部から出力される火点位置情報又は火源発熱速度情報に基づいて、制御部により散水設備、排煙設備、防火設備の作動を制御することができる。従って、火災発生の際に、散水が必要とされる箇所に確実に散水することができるとともに、必要に応じて排煙を開始したり、防火扉等を閉じることができ、消火活動を迅速に行うことができる。
【0029】
さらに、本発明の請求項5に記載の火災監視システムによれば、特定した火点位置情報及び火源発熱速度情報に基づいて、延焼方向や火災規模を正確に把握することができる。従って、延焼方向に位置する散水ヘッドを選択してその制御弁を早めに開放させたり、火点を包囲するように散水ヘッドを選択してその制御弁を開放させたりすることができる。また、火災拡大が予想以上に速い場合には、火点を多重に包囲するように散水ヘッドを選択してその制御バルブを開放させることができ、延焼を確実に防止することができる。
【0030】
さらに、請求項6に記載の火災監視システムによれば、屋外からアプローチしやすい1階、地階等に火災監視室を設置しておくことにより、火災監視室において、火災情報、センサの位置情報、特定した火点位置情報、火源発熱速度情報等を正確に把握することができる。従って、人命救助、消火活動を行うための消防戦術が立て易くなる。また、火災監視室と火点までの距離が大きくなる大規模物販店舗、超高層ビル等においては、時々刻々と変化する火災情報等を火点付近で消火活動中の消防隊員に正確に伝えることが可能になり、消火・救助活動を安全かつ的確に遂行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1には、本発明による火災監視システムの一実施の形態が示されていて、この火災監視システム1は、建物の火災監視対象室2の天井面3に設けられ、火災発生時に所定の火災情報を検出するセンサ4と、センサ4から出力される火災情報に基づいて火点位置及び火源発熱速度を算出し特定する情報処理部5とを備えている。
【0032】
センサ4は、火災監視対象室2の天井面3に縦横に所定の間隔ごとに格子状をなすように複数箇所に設置される。各センサ4は、火災監視対象室2内に火災が発生したときに、所定の火災情報(熱気流の温度、煙濃度等)を検出し、この検出した火災情報を情報処理部5に送信する。
【0033】
センサ4としては、火災の発生を検出できるものであれば特に制限はないが、障害物等の影響を受けることなく正確に火災情報を検出するためには温度センサ又は煙濃度センサが有効である。温度センサは、火災によって発生する熱気流の温度を検出し、煙濃度センサは、火災によって発生する煙濃度を検出し、この検出した火災情報を情報処理部5に送信する。
【0034】
情報処理部5は、例えば、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータによって構成される。そして、この情報処理部5は、各センサ4から送信される火災情報を受信し、その火災情報と予め記憶させておいた各センサ4の位置情報とに基づいて火点位置を算出し特定する火点位置検出手段、及び火点位置検出手段により特定した火点位置に基づいて火源発熱速度を算定し特定する火源発熱速度算定手段として機能する。
【0035】
各センサ4の位置情報、各センサ4からの火災情報、情報処理部5で得られた火点位置情報、火源発熱速度情報等の情報は、情報処理部5を介して火災監視対象室2から遠隔した位置(1階、地階等)に設置されている火災監視室6に送信され、火災監視室6の情報出力部7の表示手段(モニター等)に表示される。
【0036】
火災監視室6の表示手段に表示される火災情報により、消防隊が火点への最短ルートを選択したり、火災後の調査において出火元を特定することができる。また、火点の移動した軌跡を表示したり、移動速度を計算したりすることもできるので、延焼方向を予想することもできる。さらに、火源発熱速度を特定することにより、正確な火源発熱速度が得られ、火源面積を推定したり、火源発熱速度と経過時間との関係から、火災拡大の速度を把握したりすることが可能になる。さらに、火源発熱速度や火源面積から消火に必要な散水量を推定することができる。
【0037】
火災監視対象室2の天井面3には散水設備8が設置されている。散水設備8は、天井面3に縦横に所定の間隔ごとに設置される複数の散水ヘッド9と、各散水ヘッド9に設けられて各散水ヘッド9を開閉させる制御弁10と、各散水ヘッド9に配管11を介して給水する給水源である給水タンク12(給水ポンプ)と、各制御弁10の開閉動作を制御する制御部13(制御盤)とから構成されている。
【0038】
散水設備8の制御部13も、また、CPU、ROM、RAMを備えたコンピュータであり、火災監視システム1の情報処理部5からの火災情報(火点位置情報及び火源発熱速度情報)を受信し、この受信した火災情報に基づいて、複数の散水ヘッド9のうちの特定の散水ヘッド9の制御弁10を開放させる制御を行う。
【0039】
例えば、延焼方向や火災規模に応じて、延焼方向に位置する散水ヘッド9を選択してその制御弁10を早めに開放させたり、火点を包囲するように散水ヘッド9を選択してその制御弁10を開放させたりする制御を行う。また、火災拡大が予想以上に速い場合には、火点を多重に包囲するように散水ヘッド9を選択してその制御弁10を開放させる制御を行う。このような制御を火災の状況に応じて行うことにより、延焼を確実に防止することができる。
【0040】
本実施の形態において情報処理部5は、火点位置の特定、火源発熱速度情報を以下に示す実験式(1)を用いて算出している。なお、センサ4には温度センサを使用している。
ΔT(r)=5.38Q2/3/H2/3(ただし、0.18<r/H) ……(1)
ΔT(r):火源中心軸からr離れた位置における熱気流上昇温度(K)
:火源発熱速度)(kW)
:天井高さ(m)
r:火源中心軸からの距離(m)
すなわち、可燃物(火源)の燃焼により発生したガスは、高温のために浮力を生じて上昇気流となり、この上昇気流は天井に衝突すると、天井に沿って同心円状に広がる熱気流となる。天井に衝突した後の熱気流の温度は、火源の中心軸からの距離rが大きくなるに従って減衰する。
【0041】
以下、上記の実験式(1)を用いて、ランダムに配置された4つの温度センサ(センサ1〜4)から火点位置を算出する方法の一例を図2及び図3を参照しながら説明する。なお、火点位置の算出方法は、この方法に限らず他の周知の方法を用いてもよい。
【0042】
まず、図2に示すように、センサ1の位置情報を(x、y)、温度情報を(ΔT)、センサ2の位置情報を(x、y)、温度情報を(ΔT)、センサ3の位置情報を(x、y)、温度情報を(ΔT)、センサ4の位置情報を(x、y)、温度情報を(ΔT)とする。
【0043】
次に、図3に基づいて、火点位置の算出計算を開始する。
まず、ステップ1において、情報処理部5は、センサ1〜4の温度情報(ΔT)〜(ΔT)、位置情報(x、y)〜(x、y)を取得する。
【0044】
次に、ステップ2において、火点位置(出火点)の位置情報を(x、y)と仮定し、ステップ3において、火点位置(x、y)からセンサ1までの距離r、火点位置(x、y)からセンサ2までの距離r、火点位置(x、y)からセンサ3までの距離r、火点位置(x、y)からセンサ4までの距離rの計算を行う。
【0045】
次に、ステップ4において、センサ1〜4の温度情報(ΔT)〜(ΔT)とステップ3で求めたr〜rを次式(a)〜(c)に代入し、Σ、Σ、Σを求める計算を行う。
Σ=X−ΔT……(a)
(ただし、X=(r/r2/3ΔT
Σ=X−ΔT……(b)
(ただし、X=(r/r2/3ΔT
Σ=X−ΔT……(c)
(ただし、X=(r/r2/3ΔT
【0046】
次に、ステップ5において、ステップ4で求めたΣ〜Σに対して|Σ|+|Σ|+|Σ|の計算を行い、ステップ6において、その結果を記憶させる。そして、ステップ7において、センサ1〜4で囲まれる領域の全ての対象点について計算結果が得られた否かの判断を行う。そして、全ての対象点について計算が終了していない場合には、火点位置を再設定して、ステップ3〜ステップ6を繰り返す。全ての対象点について計算結果が得られた場合には、ステップ8において、記憶させておいたデータの中から最小値(例えば、0)を取得し、ステップ9において、この最小値を火点位置(x、y)として出力し、計算を終了する。
【0047】
図4に火点位置の算出方法のシミュレーション結果の一例を示す。
このシミュレーションは、図3のステップ4において、|Σ|+|Σ|+|Σ|の最小値が0、すなわち、Σ=0、Σ=0、Σ=0としたときの計算結果をプロットしたものである。上段は、センサ1〜センサ4の温度情報及び位置情報をプロットしたものであり、下段は計算結果を示したものである。「0」は、Σ=0の計算結果をプロットしたもの、「1」はΣ=0の計算結果をプロットしたもの、「2」はΣ=0の計算結果をプロットしたものである。「0」の曲線(円)と「1」の曲線(円)と「2」の曲線(円)との交点が求める火点位置となる。
【0048】
次に、火源の発熱速度情報の算出方法の一例について説明する。
すなわち、火源の発熱速度は、前述した式(1)を用い、温度センサ設置位置における熱気流温度ΔT、火点から温度センサ設置位置までの距離r、及び天井高さHから算定することができる。
すなわち、式(1)より、火源発熱速度は、
=ΔT3/23/2/12.5
で示されるので、この式に各パラメータ(熱気流温度、距離、天井高さ)を代入することにより、発熱速度(kW)が得られる(図5参照)。
【0049】
次に、複数の温度センサを格子状に配置した場合の火点位置の特定方法の一例について説明する。
この場合、図6に示すように、複数の温度センサはx方向、y方向に等間隔で設置されているものとし、x方向の間隔をD、y方向の間隔をDとし、温度センサの位置情報を(x、y)とし、天井の高さをHとする。なお、D=Dである必要はない。
【0050】
まず、図7に示すように、情報処理部5は、ステップ1において、複数の温度センサから温度の一番高い温度センサ(x、y)を選定する。ここで、各温度センサが正常に作動しているか否かの判定も同時に行う。
【0051】
次に、ステップ2において、温度センサ(xm−1、y)と温度センサ(xm+1、y)の温度を比較して、温度の高い温度センサを選定する。例えば、温度センサ(xm+1、y)を選定する。
【0052】
次に、ステップ3において、温度センサ(x、yn−1)と温度センサ(x、yn+1)の温度を比較して、温度の高い温度センサを選定する。例えば、温度センサ(x、yn+1)を選定する。
【0053】
次に、ステップ4において、出火エリアの特定を行う。例えば、出火エリアは、ステップ2およびステップ3より、温度センサ(x、y)、温度センサ(x、yn+1)、温度センサ(xm+1、y)、温度センサ(xm+1、yn+1)で囲まれる範囲とする。
【0054】
次に、ステップ5において、温度センサ(x、y)、温度センサ(x、yn+1)、温度センサ(xm+1、y)、温度センサ(xm+1、yn+1)における温度情報及び位置情報から出火点を特定する計算を行う。
【0055】
図8に示すように、火災が発生すると、温度センサ(x、y)、温度センサ(x、y)、温度センサ(x、y)及び温度センサ(x、y)の位置における熱気流温度は、火災の進展と共に上昇する。ある時間における熱気流温度をそれぞれ、ΔT(x、y)、ΔT(x、y)、ΔT(x、y)及びΔT(x、y)とする。また、温度センサの設置間隔は、x方向、y方向それぞれD、Dとする。
【0056】
ここで、情報処理部5は、出火点の座標を(x、y)と仮定し、各温度センサの設置位置とのx方向、y方向の距離をそれぞれ図8のように設定する。
すなわち、
x1=x−x ……(2)
x2=x−x=D−dx1 ……(3)
y1=y−y ……(4)
y2=y−y=D−dy1 ……(5)
また、出火点(x、y)から各温度センサ設置位置までの距離をそれぞれr11、r21、r12およびr22と仮定する。このとき、r11、r21、r12およびr22は、式(2)〜(5)の関係を用いて、
11=dx1+dy1 ……(6)
21=dx2+dy1=D−2Dx1+dx1+dy1
……(7)
12=dx1+dy2=dx1+D−2Dy1+dy1
……(8)
22=dx2+dy2=D−2Dx1+dx1+D−2Dy1+dy1
……(9)
と表される。
一方、各温度と出火点から各温度センサ設置位置までの距離との関係は、式(1)に依存する。従って、r21、r12およびr22とr11との間には以下の関係が成り立つ。
21=(ΔT(x、y)/ΔT(x、y))3/211=α2111……(10)
12=(ΔT(x、y)/ΔT(x、y))3/211=α1211……(11)
22=(ΔT(x、y)/ΔT(x、y))3/211=α2211……(12)
式(6)と(7)により、
21−r11=D−2Dx1……(13)
さらに、式(10)を式(13)に代入してdx1について解くと、
x1=((1−α21)r11+D)/2D……(14)
を得る。ただし、
α21=(ΔT(x、y)/ΔT(x、y))3/2 ……(15)
同様にして、式(6)と式(8)より、
12−r11=D−2Dy1……(16)
式(11)を式(16)に代入してdy1について解くと、下式を得る。
y1=((1−α12)r11+D)/2D……(17)
但し、
α12=(ΔT(x、y)/ΔT(x、y))3/2 ……(18)
ここで、式(14)および式(17)を式(6)に代入して、整理すると、
Ar11−2Br11+C=0 ……(19)
を得る。ただし、
A=(1−α21/D+(1−α12/D、B=α21+α12、C=D+D ……(20)
式(19)より
11=(B±(B−AC)1/2)/A ……(21)
を得る。大きい方の解は、出火点が火炎エリアの範囲外にあることを意味する。ただし、ステップ4で火炎エリアが特定されているので、小さい方の解のみを用いればよい。すなわち、
11=((B−(B−AC)1/2)/A)1/2 ……(22)
を得る。従って、式(15)および式(22)より得られた値を式(14)に代入し、式(18)および式(22)より得られた値を式(17)に代入することにより、出火点を特定することができる。
なお、上記の場合、4つの温度センサを特定した後に、図2及び図3に示したように、4つの温度センサによって囲まれる領域において、火点位置を順次変えて計算を行うことにより、火点位置を特定してもよい。
【0057】
なお、上記の特定法で用いた式(1)は、0.18<r/Hの範囲での使用に限られるので、火災エリアの頂点にある温度センサのうち、最高温度を示す位置の温度情報は使用しないのが望ましい。例えば、前述した図8の温度センサ設置位置(x、y)における温度ΔT(x、y)が最高温度を示していると仮定した場合、残る3点の温度情報および位置情報から、前述の手順に従って出火点を特定すればよい。
【0058】
なお、前記の説明においては、制御部13により散水設備8の散水ヘッド9の制御弁10の開閉動作を制御するように構成したが、火災監視対象室2の天井面3に排煙設備を設け、この排煙設備の排煙開始、排煙停止の動作を制御部13によって制御してもよいし、火災監視対象室2の区画壁に設置される防火扉等の防火設備の開閉動作を制御部13によって制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による火災監視システムの全体を示した概略図である。
【図2】温度センサと出火点との関係を示した説明図である。
【図3】火点位置の算出方法の一例を示したフロー図である。
【図4】図3の火点位置の算出方法により得られたシミュレーション結果の一例を示した説明図である。
【図5】図3の火点位置の算出方法により特定された火点位置情報に基づいて算出した火源発熱速度の説明図である。
【図6】格子状に配置された温度センサの位置情報及び天井の高さを示した説明図である。
【図7】図6に示す温度センサを用いて出火点を特定する方法の一例を示したフロー図である。
【図8】図6に示す温度センサと出火位置との関係を示した説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1 火災監視システム
2 火災監視対象室
3 天井面
4 センサ
5 情報処理部
6 火災監視室
7 情報出力部
8 散水設備
9 散水ヘッド
10 制御弁
11 配管
12 給水タンク
13 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災監視対象室の天井面に設置され、火災の発生時に前記火災監視対象室の温度又は煙濃度を検出して火災情報として出力する複数のセンサと、各センサから出力される火災情報を受信し、この火災情報と予め記憶させておいた各センサの位置情報とに基づいて火点位置を算出し特定する情報処理部とを備えていることを特徴とする火災監視システム。
【請求項2】
前記複数のセンサから任意の4つのセンサを選定し、この選定した4つのセンサから出力される火災情報と、前記情報処理部に記憶させておいた前記4つのセンサの位置情報とに基づいて、火点位置を算出し特定することを特徴とする請求項1に記載の火災監視システム。
【請求項3】
前記情報処理部は、前記センサから出力される火災情報と、予め記憶させておいた各センサの位置情報と、火災監視対象室の天井面の高さと、前記特定した火点位置情報とに基づいて、火源発熱速度を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の火災監視システム。
【請求項4】
前記情報処理部から出力される火点位置情報又は火源発熱速度情報を受信し、この受信した情報に基づいて、前記火災監視対象室の天井面に設置される散水設備、排煙設備、及び火災監視対象室の区画壁に設置される防火設備の作動を制御する制御部を備えていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の火災監視システム。
【請求項5】
前記散水設備は、前記火災監視対象室の天井面に設置される複数の散水ヘッドと、各散水ヘッドを開閉させる制御弁とからなり、各制御弁の開閉動作を前記制御部によって制御することを特徴とする請求項4に記載の火災監視システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記火災監視対象室から遠隔した位置に配置される火災監視室に設置され、該火災監視室において前記制御部に出力される前記センサからの火災情報、前記センサの位置情報、前記特定した火点位置情報、前記火源発熱速度情報、前記散水設備の作動情報、前記排煙設備の作動情報、及び前記防火設備の作動情報を遠隔監視することを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の火災監視システム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−268495(P2006−268495A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86282(P2005−86282)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】