説明

火災覚知時間算出方法、プログラム及びシステム

【課題】 建築空間のレイアウトを考慮して、火災の発生時点から、その火災によって生じ天井付近で滞留する煙を目視することにより在室者がその火災を覚知するまでの時間を求める。
【解決手段】 建築空間の中にいる在室者が、建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出方法であって、建築空間の設計図に基づいて目視率を求め、求められた目視率に基づいて必要煙拡散率を求め、求められた必要煙拡散率に基づいて煙拡散面積を求め、求められた煙拡散面積に基づいて煙拡散時間を求め、求められた煙拡散時間に基づいて在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築空間において在室者が火災を覚知するのに要する時間を求める方法、プログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に建築物の設計時に、設計者は、その建築物の避難安全性能の検討、すなわち建築物内の在室者が建築物から安全に避難可能か否かの検討を行う。この検討は、避難開始時間と歩行時間と扉通過時間の総和により求められる避難完了時間に基づいて検討される。ここで、避難開始時間は、例えば、火災発生時点から、建築空間内にいる在室者が煙を目視することにより火災の発生を覚知するまでの時間であり、建築物の避難安全性能の検討において重要な要素である。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1においては、火災が発生した建築空間の床面積Aarea[m]を用いて式1により該建築空間の在室者の避難開始時間tstart[s]を算定することとしている。

【特許文献1】特開2007−334683号公報
【非特許文献1】平成12年建設省告示第1441号
【非特許文献2】田中哮義著、「建築火災安全工学入門」、改訂版、日本建築センター、2002年1月、p.232−234
【非特許文献3】Society of Fire Protection Engineers(SFPE)著、「THE SFPE HANDBOOK of Fire Protection Engineering」第3版、National Fire Protecttion Association、2002年1月、p.4−30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、建築空間に間仕切りがなく見通しの良いレイアウトとなっていれば、その建築空間内の在室者は火災を覚知しやすい。しかし、建築空間の間仕切りや形状等によって見通しが制限されるレイアウトとなっていれば、その建築空間内の在室者は火災を覚知するのに時間を要する。すなわち、上記式1では建築空間の床面積のみに基づいて避難開始時間を算定しており、建築空間の間仕切りや形状等のレイアウトの影響は考慮されていないとの問題がある。
【0005】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、建築空間のレイアウトを考慮して、火災の発生時点から、その火災によって生じ天井付近で滞留する煙を目視することにより在室者がその火災を覚知するまでの時間を求めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、建築空間の中にいる在室者が、前記建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出方法であって、前記建築空間の設計図に基づいて、前記建築空間内の任意の地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積のうち最小の面積を前記建築空間の総天井面積で除した値である目視率を求め、求められた前記目視率に基づいて、前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示す必要煙拡散率を求め、求められた前記必要煙拡散率に基づいて、前記煙に覆われる天井の面積である煙拡散面積を求め、求められた前記煙拡散面積に基づいて、前記火災発生から前記煙拡散面積となるまでに要する煙拡散時間を求め、求められた前記煙拡散時間に基づいて、前記在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求めることを特徴とする火災覚知時間算出方法である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、建築空間内に間仕切り等があって見通しが制限される場合には、建築空間のレイアウトを考慮して、火災の発生時点から、その火災によって生じ天井付近で滞留する煙を目視することにより在室者がその火災を覚知するまでの時間を求めることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の火災覚知時間算出方法であって、前記必要煙拡散率は、求められた前記目視率に基づいて、前記在室者が目視できない所で発生した前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示すことを特徴とする火災覚知時間算出方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、在室者が目視できない所で発生した火災の発生時点から、その火災によって生じ天井付近で滞留する煙を目視することにより在室者がその火災を覚知するまでの時間を求めることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の火災覚知時間算出方法であって、前記必要煙拡散率は、1から前記目視率を減じることによって求められる数値以上、1以下とすることを特徴とする火災覚知時間算出方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、建築空間の間仕切り等のレイアウトに伴う見通しを考慮して、必要煙拡散率を簡易かつ的確に求めることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の火災覚知時間算出方法であって、前記目視天井面積は、前記建築空間内の任意の地点から所定の限界距離以内であって、その地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる面積であることを特徴とする火災覚知時間算出方法である。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、煙を目視できる距離を考慮することによって、遠くまで見通せるレイアウトとなっている建築空間においても、火災覚知時間を簡易かつ的確に求めることができる。すなわち、在室者の視力にもよるが、一般的には近くにある煙はよく見え遠くにある煙は見えにくいが、この発明によれば煙と在室者の距離と煙の視認性との関係も考慮に入れることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れかに記載の火災覚知時間算出方法であって、火源発熱速度Q[kW]が、火災成長率Q[kW/s]と時間t[s]と時間に対するべき乗数nとから、Q=Qで与えられる場合に、求められた前記煙拡散面積A[m]と、煙発生係数β[m4/3/kJ1/3s2/3]と、天井高さH[m]と、火災成長率Q[kW/sn]と、時間に対するべき乗数nとを用いて、下式により前記煙拡散時間t[s]求めることを特徴とする火災覚知時間算出方法である。

【0015】
請求項5に記載の発明によれば、煙発生係数β、天井高さH、火災成長率Q及び時間に対するべき乗数nという入力パラメータに対して、該当する具体的数値を代入しさえすれば、火災覚知時間を即座に求めることができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、建築空間の中にいる在室者が、前記建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出プログラムであって、コンピュータに、前記建築空間の設計図に基づいて、前記建築空間内の任意の地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積のうち最小の面積を前記建築空間の総天井面積で除した値である目視率を求めるステップと、求められた前記目視率に基づいて、前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示す必要煙拡散率を求めるステップと、求められた前記必要煙拡散率に基づいて、前記煙に覆われる天井の面積である煙拡散面積を求めるステップと、求められた前記煙拡散面積に基づいて、前記火災発生から前記煙拡散面積となるまでに要する煙拡散時間を求めるステップと、求められた前記煙拡散時間に基づいて、前記在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求めるステップと、を実行させることを特徴とする火災覚知時間算出プログラムである。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、コンピュータ上で火災覚知時間算出方法を利用することによって、火災覚知時間を簡易かつ的確に求めることができる。また、インターネット等の電気通信回線を利用して前記プログラムを頒布することができ、もって希望者は火災覚知時間算出方法を容易に利用できる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、建築空間の中にいる在室者が、前記建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出システムであって、前記建築空間の設計図に基づいて、前記建築空間内の任意の地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積を前記建築空間の総天井面積で除した値である目視率を求める目視率算出部と、求められた前記目視率に基づいて、前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示す必要煙拡散率を求める煙拡散率算出部と、求められた前記必要煙拡散率に基づいて、前記煙に覆われる天井の面積である煙拡散面積を求める煙拡散面積算出部と、求められた前記煙拡散面積に基づいて、前記火災発生から前記煙拡散面積となるまでに要する煙拡散時間を求める煙拡散時間算出部と、求められた前記煙拡散時間に基づいて、前記在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求める火災覚知時間算出部と、を備えることを特徴とする火災覚知時間算出システムである。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、データ処理システムを利用することによって、火災覚知時間を簡易かつ的確に求めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、建築空間のレイアウトを考慮して、在室者が煙を目視することにより火災の発生を覚知するまでの時間を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
===第1実施形態===
図1は、本願発明の火災覚知時間算出方法を用いて在室者が火災を覚知するのに要する時間を求める建築空間1の間仕切りを示す平面図である。本実施形態においては、図1Bや図1Cのように間仕切りされた建築空間1の中にいる在室者2が、この建築空間1内の目視できないところにおいて発生した火災を覚知するのに要する時間を求める。
【0022】
図2は、本実施形態における火災覚知時間算出方法の手順を示すフロー図である。
【0023】
まず、建築空間の設計図に基づいて、目視率C[%]を求める(S202)。ここで、目視率C[%]とは、建築空間内の任意の地点から在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積A[m]のうち最小の面積を建築空間の総天井面積A[m]で除した値である。
【0024】
図1に示された例では、間仕切りが400mの建築空間の右壁から中央に向かって延びているが、図1Aに示された位置からは、建築空間全体を見渡すことができる。すなわち、この位置における目視天井面積Aは400mである。一方、図1Bに示された位置からは、間仕切りに遮られることにより建築空間の天井の一部が目視できず、目視天井面積A[m]は300mである。また、図1Cに示された位置からは、同様に間仕切りに遮られることにより建築空間の天井の半分が目視できず、目視天井面積Aは200mである。以上により、この建築空間の目視天井面積Aの最小値は200mであり、これを総天井面積A=400mで除すると目視率C=50%が求められる。なお、総天井面積A[m]は、建築空間の図面等から取得する。
【0025】
次に、上記で求めた目視率C[%]に基づいて、必要煙拡散率C[%]を算出する(S204)。ここで、必要煙拡散率C[%]とは、在室者が目視できない所で発生した前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を見ることによって、在室者が火災を覚知するのに最低限必要な煙の拡散状況を示すものである。また、目視できない所とは、在室者の位置からは、間仕切り壁に遮られることによって直接見えない所や、広い部屋において間仕切り等で遮られていなくても遠くて見え難い所である。
【0026】
図3は、火災によって生じ天井付近で滞留する煙の拡散率と目視率の関係を示す概念図である。図3Aに示された例では、目視率75%である位置にいる在室者が、間仕切りの背後で発生した火災を覚知するためには、必要煙拡散率Cが25%以上であれば十分である。すなわち、必要煙拡散率Cが25%以上であれば、在室者が目視できない部分を煙が満たした上でさらに目視できる部分にも漏れ出すことになるので、在室者が煙を覚知できる。このように、在室者が煙を覚知するための火災覚知条件K[%]は、K≦C+Cを満たし、かつ100%≦K≦200%である必要がある。以下では、K=100%とするが、安全側に設定するために火災覚知条件Kの値を大きくしてもよい。図3Bに示すように、火災覚知条件K=100%から、S202で算出した目視率C=50%を差し引くことで、必要煙拡散率C=50%が求められる。
【0027】
そして、上記で求めた総天井面積A[m]と必要煙拡散率C[%]とに基づいて、煙拡散面積A[m]を算出する(S206)。具体的には、総天井面積A[m]に必要煙拡散率C[%]を乗ずることによって、煙拡散面積Aを算出する。
【0028】
さらに、煙拡散面積A[m]に基づいて、火災発生からこの煙拡散面積A[m]となるまでに要する煙拡散時間t[s]を求める(S208)。煙拡散時間t[s]
は、具体的には式2のように表される。

【0029】
ここで、これら入力パラメータβ、A、H、n及びQに該当する具体的数値を代入すれば、煙拡散時間t[s]を算出できる。天井高さHは、建築空間の図面等から取得する。nは火源の発熱速度の性質を示す値であり、本実施例で対象とする間仕切りされた建築空間においては時間の2乗で増加する火源(n=2)とするのが一般的である。火災成長率Qは、避難安全検証法を用いて火災空間の収納可燃物の燃焼による火災成長率[kW/s2]と火災空間の内装材料の燃焼による火災成長率[kW/s2]の和とするか、または建築空間において想定される可燃物の燃焼実験の結果から算出する。
【0030】
なお、式2の導出法については、後述する。
【0031】
煙拡散時間t[s]に基づいて、在室者が火災発生時から火災を覚知するまでに要する火災覚知時間tnotice[s]を求める(S210)。ここで、在室者は、煙拡散時間t[s]経過後の煙は目視可能な面積にまで広がっているので、即時に火災を覚知できる。よって、基本的に、火災覚知時間tnotice[s]は煙拡散時間t[s]と等しい。
【0032】
以上、本実施形態によれば、建築空間の間仕切りや形状等のレイアウトを考慮して、在室者が目視できない所で発生した火災の発生時点から、その火災によって生じ天井付近で滞留する煙を目視することにより在室者がその火災を覚知するまでの時間を求めることができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、当該建築空間内で最も見通しの悪い位置での目視天井面積に基づいて算出することで、安全サイドに立った火災覚知時間を簡易かつ的確に求めることができる。
【0034】
ところで、本実施形態の火災覚知時間tnotice[s]の算定方法は、パーソナルコンピュータに代表される一般的なデータ処理装置を用いて容易に実行することができる。例えば、前記データ処理装置としては、中央処理装置(CPU)、ハードディスク装置等のデータ記録装置、モニタ等の出力装置、キーボード等の入力装置、およびCD−ROMドライブ装置等のデータ読み取り装置を備えた通常構成のパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0035】
そして、そのデータ記録装置には、予め、前述の式2を計算するための演算プログラムが格納されているとともに、前記CPUは当該演算プログラムを読み込んで実行する。つまり、前記入力装置によって入力された具体的数値を、式2中のβ、A、H、Q及びnという入力パラメータに代入して火災覚知時間tnotice[s]を計算し、そして、この計算結果たる火災覚知時間tnotice[s]をモニタ表示する。
【0036】
ここで、上記の演算プログラムとしては、米マイクロソフト社「Microsoft Excel」(商標)等の汎用の表計算ソフト等を用いることができる。例えば、前記「Microsoft Excel」を起動すれば、モニタには、縦横に配された多数のセルからなるワークシートが表示され、設計者は、前記式2を所定のセル(参照元のセル)に入力する。この時、式2を構成する入力パラメータは、前記所定のセル(参照元のセル)内で計算可能にすべく、入力パラメータの具体的数値を入力するための参照先のセルに関連付けられている。よって、参照先のセルに具体的数値が入力されれば、この具体的数値に基づいて前記式2が自動計算されて、計算結果たる火災覚知時間tnotice[s]が各参照元のセルに書き込まれ、モニタ表示されるようになっている。
【0037】
なお、このような演算プログラムは、予めデータ記録装置に記録しておいても良いし、またはCD−ROM等のデータ記録媒体に記録された演算プログラムを、前記データ読み取り装置によって読み取るようにしても良い。更には、前記パーソナルコンピュータをインターネット等の電気通信回線に接続して、この回線に接続されたサーバーコンピュータからダウンロードするようにしても良い。
【0038】
===式2の導出法===
式2の導出法については、次の通りである。
【0039】
まず、非特許文献2によれば、建築空間で発生する火災の火源発熱速度は式3により与えられる。

【0040】
火災によって天井付近に形成される煙層の拡散は、火災発生後の初期の段階では煙層の温度上昇は小さいので温度を一定と見なし、質量保存の関係を用いて煙層の煙拡散面積A[m]の予測式を導出する。
【0041】
図4は、煙拡散面積の導出の概念図である。同図は、ある部屋10において火災12が発生した場合に、その火災12によって生じる火災プルーム16がその部屋の天井付近に流れ込むことによって煙層14を形成している状態を示す。同図に示す状態においては、煙層14への気体の出入りは火災プルーム16の流入のみなので、非特許文献2によれば、煙層14の質量保存式は、式4とすることができる。

ここで、mは火災プルーム16の流量[kg/s]であり、天井高さH[m]および煙層14の厚さZ[m]を用いて、式5により算出した。なお、非特許文献2においては、式5におけるkは0.08、QはQ、H−Zはzと表現されている。

ただし、kは火災プルーム16の巻き込み係数[kg/kJ1/3m5/3s2/3]である。
【0042】
ここで、煙層14の厚さZ[m]は、非特許文献3によれば天井高さH[m]に概ね比例することが知られているので、煙層14の厚さZ[m]の天井高さH[m]に対する比例定数をkとして式6として与える。

天井が水平である場合は、煙層14の体積V[m3]は、式7となる。

また、式7の左辺は、式8のように変形できる。

さらに、式5を式4の左辺に代入し、式8の関係を用いることにより、式9が得られる。

そして、式3を式9に代入して整理すると、

となる。
【0043】
式10を積分することにより、時間tにおける煙拡散面積Aの予測式として式11が得られる。

また、式11を時間tに対して変形すれば、煙拡散面積がAとなる時間tの予測式が式12の通り得られる。

ここで、式12に式6を代入して整理すると、式13が得られる。

ただし、βは、式14の通りである。

ここで、非特許文献2によれば、βはk=0.08[kg/kJ1/3m5/3s2/3]、ρ=1.0[kg/m3]、であり、非特許文献3によれば概ねk=0.112であるので、これらの数値を式14に代入すると、β=0.59が得られる。
【0044】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0045】
図5は、目視率C[%]の算出根拠となる目視天井面積A[m]の別の算出概念を示す図である。面積の小さい建築空間で出火した場合は比較的近い位置で煙を確認できるので火災覚知が容易である。一方で、面積の大きい建築空間で出火した場合は煙拡散率が同じであっても在室者から煙層までの距離が相対的に大きくなるため火災の覚知が困難になる。ここで、在室者が煙を覚知できる限界距離をR[m]とすると、ある地点から360度見渡した場合に半径Rの範囲内で目視できる部分を目視天井面積A[m]として求める。そして、目視率C[%]は、この目視天井面積A[m]を総天井面積A[m]で除することによって求められる。なお、この限界距離Rは、建築空間の明るさや天井高さ等に依存するが、誘導灯や誘導標識の設置間隔を目安に設定すれば良い。
【0046】
図6は、目視率C[%]のさらに別の算出概念を示す図である。例えば、同図に示すようなコの字型の建築空間の目視率C[%]を算出する場合に、建築空間を便宜的にA、B、C、D、Eの5つのブロックに区切り、それぞれのブロックについて最小の目視天井面積A[m]とそれに対応する目視率C[%]を求める。例えば、各ブロックが20mであるとすると、同図に示すようにブロックAとブロックDの目視率は80%、ブロックCの目視率は60%、ブロックBとブロックEの目視率は40%となる。この場合、ブロック毎の火災覚知時間tnotice[s]を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本願発明の火災覚知時間算出方法を用いて在室者が火災を覚知するのに要する時間を求める建築空間の間仕切りを示す平面図である。
【図2】本実施形態における火災覚知時間算出方法の手順を示すフロー図である。
【図3】火災によって生じ天井付近で滞留する煙の拡散率と目視率の関係を示す概念図である。
【図4】煙拡散面積の導出の概念図である。
【図5】目視率の算出根拠となる目視天井面積の別の算出概念を示す図である。
【図6】目視率のさらに別の算出概念を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 建築空間
2 在室者
3 火災
10 部屋
12 火災
14 煙層
16 火災プルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築空間の中にいる在室者が、前記建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出方法であって、
前記建築空間の設計図に基づいて、前記建築空間内の任意の地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積のうち最小の面積を前記建築空間の総天井面積で除した値である目視率を求め、
求められた前記目視率に基づいて、前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示す必要煙拡散率を求め、
求められた前記必要煙拡散率に基づいて、前記煙に覆われる天井の面積である煙拡散面積を求め、
求められた前記煙拡散面積に基づいて、前記火災発生から前記煙拡散面積となるまでに要する煙拡散時間を求め、
求められた前記煙拡散時間に基づいて、前記在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求めること
を特徴とする火災覚知時間算出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の火災覚知時間算出方法であって、
前記必要煙拡散率は、求められた前記目視率に基づいて、前記在室者が目視できない所で発生した前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示すことを特徴とする火災覚知時間算出方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の火災覚知時間算出方法であって、
前記必要煙拡散率は、1から前記目視率を減じることによって求められる数値以上、1以下とすることを特徴とする火災覚知時間算出方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の火災覚知時間算出方法であって、
前記目視天井面積は、前記建築空間内の任意の地点から所定の限界距離以内であって、その地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる面積であることを特徴とする火災覚知時間算出方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の火災覚知時間算出方法であって、
火源発熱速度Q[kW]が、火災成長率Q[kW/s]と時間t[s]と時間に対するべき乗数nとから、Q=Qで与えられる場合に、求められた前記煙拡散面積A[m]と、煙発生係数β[m4/3/kJ1/3s2/3]と、天井高さH[m]と、火災成長率Q[kW/sn]と、時間に対するべき乗数nとを用いて、下式により前記煙拡散時間t[s]求めることを特徴とする火災覚知時間算出方法。

【請求項6】
建築空間の中にいる在室者が、前記建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出プログラムであって、
コンピュータに、
前記建築空間の設計図に基づいて、前記建築空間内の任意の地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積のうち最小の面積を前記建築空間の総天井面積で除した値である目視率を求めるステップと、
求められた前記目視率に基づいて、前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示す必要煙拡散率を求めるステップと、
求められた前記必要煙拡散率に基づいて、前記煙に覆われる天井の面積である煙拡散面積を求めるステップと、
求められた前記煙拡散面積に基づいて、前記火災発生から前記煙拡散面積となるまでに要する煙拡散時間を求めるステップと、
求められた前記煙拡散時間に基づいて、前記在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求めるステップと、
を実行させることを特徴とする火災覚知時間算出プログラム。
【請求項7】
建築空間の中にいる在室者が、前記建築空間内において発生した火災を覚知するのに要する時間を求める火災覚知時間算出システムであって、
前記建築空間の設計図を取得する設計図取得部と、
前記設計図取得部が取得した建築空間の設計図に基づいて、前記建築空間内の任意の地点から前記在室者が360度見渡した場合に目視できる目視天井面積を前記建築空間の総天井面積で除した値である目視率を求める目視率算出部と、
前記目視率算出部が求めた目視率に基づいて、前記火災によって生じ天井付近で滞留する煙を、前記在室者が覚知するのに必要な前記煙の拡散状況を示す必要煙拡散率を求める煙拡散率算出部と、
前記煙拡散率算出部が求めた必要煙拡散率に基づいて、前記煙に覆われる天井の面積である煙拡散面積を求める煙拡散面積算出部と、
前記煙拡散面積算出部が求めた煙拡散面積に基づいて、前記火災発生から前記煙拡散面積となるまでに要する煙拡散時間を求める煙拡散時間算出部と、
前記煙拡散時間算出部が求めた煙拡散時間に基づいて、前記在室者が火災の発生を覚知するのに要する火災覚知時間を求める火災覚知時間算出部と、
を備えることを特徴とする火災覚知時間算出システム。

【図2】
image rotate

【図6】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−157120(P2010−157120A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335343(P2008−335343)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】