説明

炎光光度検出器

【課題】1つの保温ブロックを使用して、高感度のシングルフォトマル型と複数成分同時検出が可能なデュアルフォトマル型との両方の構成を、分析目的等に応じて適宜実現できるようにする。
【解決手段】内部に水素炎フレームを形成する保温ブロック1は、筒状の内部空間11を有する第1部材10と、半球状内部空間21を有しそれに面して半球状の鏡面22を持つ第2部材20と、から成る。第2部材20を第1部材10の一方の開放端面から嵌挿するとで両者を一体化し、筒状の内部空間11と半球状内部空間21とを連ねることで、シングルフォトマル型用の保温ブロック1として使用する。また、第2部材20を第1部材10から取り外し、第1部材10のみをデュアルフォトマル型用の保温ブロック1として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてガスクロマトグラフ装置の検出器として利用される、炎光光度検出器(FPD=Flame Photometric Detector)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ装置の検出器として、様々な方式の検出器が実用化されている。その中で、炎光光度検出器は硫黄化合物やリン化合物を選択的に検出する検出器であり、硫化水素、メチルメルカプタン等の悪臭成分の分析、薬品中の微量硫黄分の検出、残留農薬の分析、生化学成分の分析などに、広く利用されている。
【0003】
図4は、特許文献1に記載の、従来知られている炎光光度検出器の概略構成図である。ガスクロマトグラフのカラム出口に連結される試料ガス管31、水素供給管32、及び空気供給管33は、上方にガス噴出口を有するノズル3に接続されている。ノズル3の周囲には透明な石英筒34が配設され、石英筒34全体は保温ブロック1で覆われている。保温ブロック1には図示しないヒータ及び温度センサが埋設されており、これにより保温ブロック1は所定温度に維持される。
【0004】
保温ブロック1の側方には、凸レンズ37が配設された検出窓36が開口しており、検出窓36の外側には冷却フィンを備える接続筒体4を介して、干渉フィルタ5と光電子増倍管6とが配設されている。ノズル3の上部に形成される水素炎フレーム7を挟んで凸レンズ37と反対側の保温ブロック1内壁は球面状に形成されており、その内面は金属膜の蒸着等による凹面鏡35とされている。
【0005】
試料ガス管31を通して供給される窒素等のキャリアガス、水素供給管32を通して供給される水素ガス、及び、空気供給管33を通して供給される空気をノズル3先端で混合し、これを燃焼して水素炎フレーム7を形成する。ガスクロマトグラフのカラムから流出した試料成分がその水素炎フレーム7中に導入されると、試料成分は燃焼して固有の波長を有する光を発する。特に過水素の還元炎では、硫黄化合物やリン化合物の燃焼によって、それぞれ394[μm]、526[μm]の波長の光を発する。水素炎フレーム7から発した光は透明な石英筒34を透過し、干渉フィルタ5により特有の波長を有する光のみが選択的に透過されて光電子増倍管6に到達する。
【0006】
水素炎フレーム7中の試料成分の燃焼部7aから発した光は四方に拡散するが、図4で右方向に進行して凸レンズ37に到達した光は、凸レンズ37によって平行光化される。そのため、凸レンズ37を通過した光の多くは干渉フィルタ5にほぼ垂直に入射し、干渉フィルタ5の波長特性に応じた特定の波長光のみが透過して光電子増倍管6に到達する。
【0007】
一方、図1で左方向に進行して凹面鏡35に到達した光は、凹面鏡35によってほぼ入射方向と反対方向に反射される。したがって、反射光は燃焼部7a付近を通過して凸レンズ37に到達する。このため、上述のように燃焼部7aから直接的に凸レンズ37に到達した光に加えて、この反射光も凸レンズ37により平行光化され、干渉フィルタ5に送られる。したがって、光電子増倍管6に入射する光量は凹面鏡35がない場合に比べてかなり増加するため、高い検出感度を達成することができる。このような、単一の光電子増倍管を用いた炎光光度検出器の構造を、シングルフォトマル(シングルフィルタ、又は全光反射)型という。
【0008】
上記シングルフォトマル型の炎光光度検出器は高感度であるものの、装着した干渉フィルタ5の通過波長に対応した成分のみしか検出することができない。そのため、硫黄化合物とリン化合物と同時に検出することはできず、両化合物の混在した試料を分析する際には、例えば干渉フィルタを交換して2回の分析を実施する必要があり手間が掛かる。
【0009】
一方、リンと硫黄とにそれぞれ対応した波長光を透過させる2個の干渉フィルタと、それら透過光をそれぞれ検出する2個の光電子増倍管とを備えた、いわゆるデュアルフォトマル型の炎光光度検出器が従来知られている(特許文献2参照)。この検出器では、保温ブロックの側方の対向する2箇所に検出窓が設けられ、各検出窓の外側に干渉フィルタと光電子増倍管とが設けられる。これにより、水素炎フレーム中の燃焼部から発した光を同時に2つの光電子増倍管に導入して、異なる波長の光を検出することができる。しかしながら、この構造の場合、上記シングルフォトマル型とは異なり、球面状の凹面鏡による反射光を利用することができないため、感度が犠牲になることは避けられない。
【0010】
上述のようにシングルフォトマル型とデュアルフォトマル型とではそれぞれ長所、短所がある。
【0011】
【特許文献1】特開平11−237340号公報
【特許文献2】特開平11−237339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来、シングルフォトマル型炎光光度検出器とデュアルフォトマル型炎光光度検出器とは全く別の装置としてユーザに提供されている。そのため、シングルフォトマル型炎光光度検出器を購入したユーザは、複数の成分の分析を行いたい場合に、複数回の分析を行わなければならなかった。その結果、手間や時間が掛かるだけでなく、試料の量も余分に用意する必要があった。こうした手間や分析時間の増加を避けるには、デュアルフォトマル型の装置を購入しなければならないが、余計なコストが掛かり、低い頻度でしか複数同時分析の必要がない場合には大きな無駄が生じることになる。
【0013】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、分析の目的に応じて、シングルフォトマル型による高感度分析とデュアルフォトマル型による複数成分同時分析とを適宜選択することができる炎光光度検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明は、保温ブロックの内部で発生させた水素炎フレーム中に試料成分を導入して燃焼させ、その燃焼により発した光を前記保温ブロックから取り出して特定の波長光を透過させる透過手段を通して光検出器へ導入する炎光光度検出器において、
前記保温ブロックは、両端面に開口が形成され、内壁が略筒状である第1部材と、該第1部材の一方の開口に装着自在で、内壁が凹面状の鏡面である第2部材と、から成り、
前記第2部材を前記第1部材に装着した状態で、該第1部材の他方の開口から取り出した光を検出するシングルフォトマル型の構成と、前記第2部材を用いずに、前記第1部材の両方の開口から取り出した光をそれぞれ検出するデュアルフォトマル型の構成とを選択可能としたことを特徴としている。
【0015】
なお、第1部材の略筒状の内壁面も鏡面とすることにより、シングルフォトマル型、デュアルフォトマル型のいずれの構成とした場合でも、より多くの光を保温ブロックから取り出して光検出器に導入することができる。
【0016】
また、第2部材において、凹面状の鏡面は、水素炎フレーム中の燃焼部を中心とする円形状とすることが好ましい。
【0017】
本発明に係る炎光光度検出器では、第2部材を第1部材の一方の開口に装着することにより、保温ブロックの内部に形成される水素炎フレームの燃焼部から発する光のうち、第1部材側に進む光は凹面鏡で反射されて他方の開口に向かって進む。つまり、図4に示したような、一体構造の保温ブロックを用いた場合と同様に、光検出器が設置された側とは反対側に放出された光も、試料成分の検出に有効に利用することができる。したがって、シングルフォトマル型の構成を採る場合には、高い検出感度を達成することができる。
【0018】
一方、第2部材を第1部材から取り外して第1部材のみを保温ブロックとして使用し、その両側の開口にそれぞれ異なる波長特性の透過手段(干渉フィルタ)と光検出器(光電子増倍管)とを取り付ける場合には、凹面鏡による集光効果が得られないので、検出感度はシングルフォトマル型の構成と比べて落ちるものの、複数成分を同時に検出することができる。このようにデュアルフォトマル型の構成を採る場合には、シングルフォトマル型では不可能であった複数成分同時分析を達成することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る炎光光度検出器によれば、1つの保温ブロックを使用し、分析目的や試料の種類等に応じてシングルフォトマル型の構成とデュアルフォトマル型の構成とを簡便に組み替えることができる。それによって、ユーザは2種類の検出器を購入しなくても、高感度な単一成分分析と感度は若干落ちるものの複数成分の同時分析とを適宜選択的に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係る炎光光度検出器の一実施例を、図1〜図3を参照して説明する。図1は本実施例による炎光光度検出器の主要な構成部材である保温ブロック1の概略縦断面図である。図2は本実施例による炎光光度検出器をシングルフォトマル型として使用する場合の概略構成図である。図3は本実施例による炎光光度検出器をデュアルフォトマル型として使用する場合の概略構成図である。
【0021】
図1(b)に示すように、本実施例の炎光光度検出器における保温ブロック1は、大別して2つの部材、つまり、シングルフォトマル型/デュアルフォトマル型のいずれの構成でも使用される第1部材10と、シングルフォトマル型の構成でのみ使用される第2部材20と、から成る。両部材10、20ともに、ステンレス等の金属体を切削加工したものとすることができる。
【0022】
第1部材10は両端面が開放された略筒状の内部空間11を有し、その内壁面は光を反射可能であるように鏡面12となっている。なお、図示していないが、第1部材10には後述するノズルを取り付けるための開口部や、両端開口以外に内部空間11と外部とを連通する排気孔などの開口部などが形成されている。
【0023】
第2部材20は、第1部材10の一方の端面開口の内側に嵌挿可能な外形を有し、その内部は略半球状に切削されて半球状内部空間21となっている。この半球状内部空間21に面する内壁面は、光を反射可能であるように鏡面22となっている。第1部材10、第2部材20の鏡面12、22はいずれも、金属体表面の細かい凹凸を除去するための表面加工がなされた後に、所定の金属が蒸着されて金属薄膜が形成されることにより、高効率の反射面となっている。もちろん、これ以外の方法で鏡面12、22を形成してもよい。
【0024】
第2部材20を第1部材10の内部空間11に完全に嵌挿すると、図1(a)に示すように、筒状の内部空間11のほぼ半分と半球状内部空間21とが連なって、一方の端面のみが開放された内部空間が形成された保温ブロック1となる。このとき、この内部空間に面する面のほぼ全ては鏡面12、22である。
【0025】
シングルフォトマル型の構成として使用する場合、図1(a)に示したように両部材10、20を一体化して構成した保温ブロック1に、ノズル3を取り付け、その保温ブロック1の唯一の端面開口を検出窓として、その外側に接続筒体4を装着し、それを介して干渉フィルタ5と光電子増倍管6を取り付ける。つまり、図2に示した構成となる。ここでは、水素炎フレーム7を囲む石英管や凸レンズは記載していないが、こうした部材を取り付けることは当然可能であり、基本的には、図4に示したシングルフォトマル型の構成と同一となる。
【0026】
即ち、ノズル3の先端上方に水素炎フレーム7を形成し、その中で試料成分を燃焼させて、成分に固有の光を発生させる。その光を半円形状の鏡面22で反射し、さらには散逸する光も鏡面12で反射して、効率良く干渉フィルタ5に導入し、その干渉フィルタ5に特有の波長光のみを選択して光電子増倍管6に導入して検出する。干渉フィルタ5は、例えばリン又は硫黄に対応した波長光を透過する特性を持つものとすればよい。これにより、高い感度で目的成分を検出することができる。
【0027】
一方、デュアルフォトマル型の構成として使用する場合には、図1(b)に示したように第2部材20を第1部材10から取り外し、第1部材10のみで構成した保温ブロック1に、ノズル3を取り付け、その保温ブロック1の両側の2つの端面開口を検出窓として、その外側にそれぞれ接続筒体4a、4bを装着し、それを介して干渉フィルタ5a、5bと光電子増倍管6a、6bを取り付ける。つまり、図3に示した構成となる。ここでも、水素炎フレーム7を囲む石英管や凸レンズは記載していないが、こうした部材を取り付けることは当然可能である。2つの干渉フィルタ5a、5bは、例えば一方(5a)をリンに対応した波長光を透過する特性を持つものとし、他方(5b)を硫黄に対応した波長光を透過する特性を持つものとすればよい。
【0028】
分析時には、ノズル3の先端上方に水素炎フレーム7を形成し、その中で試料成分を燃焼させて、成分に固有の光を発生させる。水素炎フレーム7から放出された光は同時に両側の干渉フィルタ5a、5bに導入され、干渉フィルタ5aではリンに対応した波長光のみが選択されて光電子増倍管6aに導入される。干渉フィルタ5bでは硫黄に対応した波長光のみが選択されて光電子増倍管6bに導入される。これにより、ノズル3に供給される試料ガス中に複数の成分(リン化合物と硫黄化合物)が混じっている場合でも、それらをそれぞれ独立に検出することができる。
【0029】
以上のように本実施例の炎光光度検出器では、1つの保温ブロック1を利用して、干渉フィルタや光電子増倍管などを適宜に組み合わせることで、シングルフォトマル型とデュアルフォトマル型とを自由に構成することができる。
【0030】
なお、上記実施例は一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行なえることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例による炎光光度検出器の主要な構成部材である保温ブロックの概略縦断面図。
【図2】本実施例による炎光光度検出器をシングルフォトマル型として使用する場合の概略構成図。
【図3】本実施例による炎光光度検出器をデュアルフォトマル型として使用する場合の概略構成図。
【図4】従来知られている炎光光度検出器の概略構成図。
【符号の説明】
【0032】
1…保温ブロック
10…第1部材
11…内部空間
12…鏡面
20…第2部材
21…半球状内部空間
22…鏡面
3…ノズル
31…試料ガス管
32…水素供給管
33…空気供給管
4、4a、4b…接続筒体
5、5a、5b…干渉フィルタ
6、6a、6b…光電子増倍管
7…水素炎フレーム
7a…燃焼部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保温ブロックの内部で発生させた水素炎フレーム中に試料成分を導入して燃焼させ、その燃焼により発した光を前記保温ブロックから取り出して特定の波長光を透過させる透過手段を通して光検出器へ導入する炎光光度検出器において、
前記保温ブロックは、両端面に開口が形成され、内壁が略筒状である第1部材と、該第1部材の一方の開口に装着自在で、内壁が凹面状の鏡面である第2部材と、から成り、
前記第2部材を前記第1部材に装着した状態で、該第1部材の他方の開口から取り出した光を検出するシングルフォトマル型の構成と、前記第2部材を用いずに、前記第1部材の両方の開口から取り出した光をそれぞれ検出するデュアルフォトマル型の構成とを選択可能としたことを特徴とする炎光光度検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−288209(P2009−288209A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144102(P2008−144102)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】