説明

炎症性リウマチ性疾患の治療におけるヒト骨形成細胞

本発明は、特に炎症性リウマチ性疾患の治療における、単離骨形成細胞の新規の治療的使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炎症性リウマチ性疾患(IRD)の治療、特にIRDにおける炎症(IRDの炎症性要素)の治療における骨形成細胞の治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リウマチ性疾患は運動系、特に関節、筋肉、結合組織、関節及び骨の周辺の軟組織等に影響を及ぼす、様々な痛みを伴う障害を包含する。
【0003】
炎症及び/又は自己免疫反応は、多くのリウマチ性疾患の病因(aetiology)に関与する。一般に炎症性リウマチ性疾患又はIRDと称されるかかる状態としては、様々な原因による関節炎、骨関節炎等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0004】
現在利用可能なIRDの治療は主に、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、グルココルチコイド、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)及び鎮痛剤を含む。
【0005】
したがって、IRDにおけるさらなる治療法、特にIRDの炎症性要素を標的とする治療法が必要とされている。
【0006】
特許文献1は、骨関節炎において骨軟骨界面を再生する足場装置における造骨細胞を含む。特許文献2は、関節リウマチ及び骨壊死の治療に骨芽細胞を使用することを示唆している。これらの文献は骨形成細胞の抗炎症作用を開示しておらず、リウマチ性疾患の炎症性要素を抑制するための骨形成細胞の使用を開示していない。
【0007】
非特許文献1は、同種組織移植という状況下で間葉系幹細胞から分化する造骨細胞の免疫学的寛容(immuoprivileged)性及び免疫調節性を開示している。しかしながら、同種移植における組織拒絶反応の機構は、リウマチ性疾患における炎症の基礎をなす機構とは明らかに異なる。このことは、これらの状態を治療するために現在使用されている薬物群の差異に特に反映されている。したがって、非特許文献1は、骨形成細胞のいかなる抗炎症作用も開示しておらず、リウマチ性疾患の炎症性要素を抑制するための骨形成細胞の使用を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/089127号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/093431号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】リウ(Liu)ら、「ザ ジャーナル オブ イムノロジー(J Immunol)」、2006年、第176巻、第5号、p.2864−71
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは驚くべきことに、骨形成細胞が、予期される骨再生作用に加えて強力な免疫抑制作用、具体的には抗炎症作用を示し、したがって被験体における炎症性リウマチ性疾患(IRD)の治療、より具体的には被験体におけるIRDにおける炎症(すなわち、IRDの炎症性要素)の治療に特に有用であることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】骨形成細胞による間葉系マーカー及び骨マーカーの発現を示す図である。
【図2】骨形成細胞による石灰化(A)及びALP(B)染色を示す図である。
【図3】CARRA処理動物(薄灰色)、CARRA+DEX処理動物(濃灰色)、CARRA+OB処理動物(黒色)及びCARRA+OB+DEX処理動物(点線)における両足首の直径の間の比較を示す図である。直径は基準に対する増加(%)として報告する。
【図4】CARRA処理動物(菱形)、CARRA+DEX処理動物(四角)、及びCARRA+OB処理動物(三角)における両足の直径の間の比較を示す図である。直径は基準に対する増加(%)として報告する。
【図5】ADJ処理動物(菱形)、ADJ+DEX処理動物(四角)、及びADJ+OB処理動物(三角)における両足の直径の間の比較を示す図である。直径は基準に対する増加(%)として報告する。
【0012】
図面において使用される略号は以下である:CARRA:カラギーナン(0.7%);ADJ:完全フロインドアジュバント(75μg);DEX:デキサメタゾン(1mg/kg);OB:骨芽細胞(1×10個)
【発明を実施するための形態】
【0013】
したがって、本発明はその態様において、IRDの治療において使用される単離骨形成細胞、及びIRDの治療用薬剤を製造するための単離骨形成細胞の使用を提供する。IRDにおける炎症(IRDの炎症性要素)の治療において使用される単離骨形成細胞、及びIRDにおける炎症(IRDの炎症性要素)の治療用薬剤を製造するための単離骨形成細胞の使用がさらに開示される。
【0014】
本発明はまた、かかる治療を必要とする被験体において、IRDを予防及び/又は治療する方法であって、上記被験体に予防的又は治療的に有効な量の単離骨形成細胞を投与することを含む方法に関する。かかる治療を必要とする被験体において、IRDにおける炎症(IRDの炎症性要素)を予防及び/又は治療する方法であって、上記被験体に予防的又は治療的に有効な量の単離骨形成細胞を投与することを含む方法も開示される。また、本発明は、IRDの治療において使用される単離骨形成細胞を含む医薬組成物に関する。IRDにおける炎症(IRDの炎症性要素)の治療において使用される単離骨形成細胞を含む医薬組成物も開示される。
【0015】
炎症の治療において使用される単離骨形成細胞、及び炎症の治療用薬剤を製造するための単離骨形成細胞の使用も記載される。かかる治療を必要とする被験体において、炎症を予防及び/又は治療する方法であって、上記被験体に予防的又は治療的に有効な量の単離骨形成細胞を投与することを含む方法も同様に記載される。炎症の治療において使用される単離骨形成細胞を含む医薬組成物がさらに記載される。
【0016】
「単離」という用語は、細胞又は細胞集団に関して本明細書中で使用される場合、かかる細胞又は細胞集団が動物又はヒトの体の一部を形成せず、そこから取り出されているか、又は分離されているという意味を含む。
【0017】
上記骨形成細胞は、好ましくは非ヒト哺乳類起源を含む哺乳類起源であることがあり、より好ましくはヒト起源である。骨形成細胞は通常、被験体(好ましくはヒト被験体又は非ヒト哺乳類被験体等)の生体試料(すなわち、被験体から取り出された、被験体の細胞を含む試料)から得られるか、又はそれに由来するものであり得る。
【0018】
被験体は、好ましくは温血動物、より好ましくは哺乳類被験体(ヒト被験体及び非ヒト哺乳類被験体を含む)、さらに好ましくは霊長類被験体(ヒト被験体及び非ヒト霊長類被験体を含む)、さらにより好ましくはヒト被験体を包含する。骨形成細胞は、したがってかかる起源のものでもあり得る。
【0019】
上記骨形成細胞は、好ましくは自家投与(autologous administration)(すなわち、細胞が得られた又は由来した被験体と同じ被験体に投与される)、又は同種投与(allogeneic administration)(すなわち、細胞が得られた又は由来した被験体と同じ種であるが、その被験体以外の被験体に投与される)に採用され得る。上記骨形成細胞の異種投与(xenogenic administration)(すなわち、或る種の被験体から得られた又は由来した細胞が別の種の被験体に投与される)もまた可能であり得る。
【0020】
本明細書中では、ヒト骨形成細胞は好ましくは、IRDを有するヒト被験体への自家投与又は同種投与に採用される。自家投与が特に好適であり得る。
【0021】
「骨形成細胞」という用語は、本明細書中で使用される場合、たいてい、骨材料及び/又は骨マトリクスの形成に寄与することが可能であるか、又はそれに寄与し得る細胞に成長することが可能な細胞を指し、特にa)造骨分化を行なうことが可能である、又はb)造骨分化の方向に拘束されている(committed)、又はc)少なくとも部分的に造骨分化が進行している単離細胞又は細胞集団を表し、より好ましくはb)又はc)のいずれかに挙げられる単離細胞又は細胞集団を表す。骨形成細胞は特に、骨前駆細胞、骨芽細胞、骨細胞、及び当該技術分野で既知である造骨系列の他の細胞型を包含するが、これらに限定されない。
【0022】
したがって当業者は一般に、「骨形成細胞」という用語の境界を、本明細書中で意図されるように理解する。しかしながら、さらなる指針によれば、それに限定するものではないが、本発明の骨形成細胞は以下の特徴のうちいずれか1つ、複数又は全てを示し得る:
a)細胞がアルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALPの発現、又はオステオカルシンの発現、又はその両方の発現を有すること;
b)任意で、細胞が1型プロコラーゲンアミノ末端プロペプチド(P1NP)、オステオネクチン(ON)、オステオポンチン(OP)及び骨シアロタンパク質(BSP)のうちいずれか1つ又は複数の発現を有すること;
c)任意で、細胞が間葉系マーカーCD105、CD73及びCD90のうちいずれか1つ又は複数の発現を有すること;
d)細胞が外部環境を石灰化するか、又はカルシウム含有細胞外マトリクスを合成する能力の証拠を示すこと(例えば造骨培地に曝露した場合、ジャイスワル(Jaiswal)ら、「ジャーナル オブ セルラー バイオケミストリー(J Cell Biochem)」、1997年、第64巻、p.295−312を参照されたい)。細胞内でのカルシウム蓄積及びマトリクスタンパク質へのカルシウム沈着は、常法により、例えば45Ca2+中で培養し、洗浄し、再培養した後、細胞内に存在する又は細胞外マトリクスに沈着した全ての放射能を求めることにより(米国特許第5,972,703号明細書)、又は培養基質をCa2+アッセイキット(Sigma、キット番号587)を用いて石灰化について分析することにより、又は実施例に記載されるように測定することができる;
e)細胞が実質的に、脂肪細胞系列の細胞(例えば脂肪細胞)又は軟骨細胞系列の細胞(例えば軟骨細胞)のうちいずれか一方、好ましくはそのいずれにも分化しない。かかる細胞系列への分化の欠如は、当該技術分野で確立された標準的な分化誘導条件(例えば、ピッテンガー(Pittenger)ら、「サイエンス(Science)」、1999年、第284巻、p.143−147を参照されたい)、及び分析法(例えば、誘導されると、脂肪細胞は典型的には脂質の蓄積を示すオイルレッドOにより染色され、軟骨細胞は典型的にはアルシアンブルー又はサフラニンOにより染色される)を用いて試験され得る。脂肪細胞分化及び/又は軟骨細胞分化の傾向の実質的な欠如とは典型的には、それぞれの試験に適用される場合、試験された細胞の50%未満、又は30%未満、又は5%未満、又は1%未満しか脂肪細胞分化又は軟骨細胞分化の兆候を示さないことを意味し得る。
【0023】
一実施の形態では、骨形成細胞は上記a)、d)及びe)に挙げられる全ての特徴を示し得る。
【0024】
細胞が特定の成分(例えばマーカー又は酵素)に関して陽性であると言われる場合(wherein)、その成分に関して明確なシグナルの存在又は証拠が、適切な測定法を行なった場合に、好適な対照と比較して、例えば抗体により検出可能であるか、又は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法により検出可能であると当業者により判断されることを意味する。該方法により成分の定量的評価が可能である場合、陽性の細胞は概して、対照とは有意に異なる、例えば、限定されるものではないが、対照細胞により発生されるかかるシグナルより少なくとも1.5倍高い、例えば少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍高い、又はさらに高いシグナルを発生し得る。
【0025】
上記細胞特異的マーカーの発現は、当該技術分野で既知である任意の好適な免疫学的技法、例えば免疫細胞化学、若しくはアフィニティ吸着、ウエスタンブロット解析、FACS、ELISA等、又は酵素活性、例えばALPに関する酵素活性の任意の好適な生化学分析、又はマーカーmRNAの量を測定する任意の好適な技法、例えばノーザンブロット法、半定量的若しくは定量的RT−PCR等を用いて検出することができる。本開示において挙げられるマーカーの配列データは既知であり、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等の公開データベースから得ることができる。
【0026】
本発明において使用される単離骨形成細胞又は細胞集団は、当該技術分野で既知の任意の好適な方法で得るか又は派生させる(derived)ことができる。一実施の形態では、骨形成細胞又は細胞集団は、比較的未分化の成体前駆細胞又は幹細胞、例えば間葉系幹細胞からの分化により、自体公知の分化プロトコルを用いて派生させることができる。限定されるものではないが、骨形成骨芽細胞を得るのに好適な一方法は特許文献2に開示されており、単離骨髄幹細胞(BMSC)又は間葉系幹細胞(MSC)を、血漿及び塩基性線維芽細胞成長因子(FGF−2)の存在下で培養することを含む。別の例では、造骨系列細胞は、Pittenger et al. 1999(Science 284: 143-7)及びJaiswal et al. 1997(上掲)により記載されるように、MSCを造骨培地中で分化させることにより得ることができる。別の実施の形態では、骨形成細胞又は細胞集団は、かかる細胞を含む生体試料から単離し、任意で培養及び/又は増殖させることができる。例えば、スクジョット(Skjodt)ら(「ジャーナル オブ エンドクリノロジー(J Endocrinol)」、1985年、第105巻、p.391−6)により記載されるように、骨芽細胞を骨梁から直接単離及び培養することができる。
【0027】
「炎症性リウマチ性疾患」又は「IRD」という用語は、本明細書中で使用される場合、概して、炎症性要素及び/又は自己免疫要素を伴う、特に少なくとも1つの炎症性要素を伴う全てのリウマチ性疾患を含む。例としては、限定されるものではないが、IRDは特に、骨関節炎(OA)、乾癬性関節症、痛風、偽痛風、並びに中でも関節リウマチ(RA)、腸疾患性関節炎、反応性関節炎及びライター症候群を含む様々な原因による関節炎、骨壊死、少関節型若年性関節リウマチ、スティル病、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、敗血症性関節炎、並びにとりわけ強直性脊椎炎及び腸疾患性脊椎炎及び未分化脊椎関節症等の脊椎関節症を含む。
【0028】
したがって、一実施の形態では、本開示は骨関節炎(OA)、乾癬性関節症、痛風、偽痛風、並びに中でも関節リウマチ(RA)、腸疾患性関節炎、反応性関節炎及びライター症候群を含む様々な原因による関節炎、骨壊死、少関節型若年性関節リウマチ、スティル病、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、敗血症性関節炎、並びにとりわけ強直性脊椎炎及び腸疾患性脊椎炎及び未分化脊椎関節症等の脊椎関節症から選択されるIRDのいずれか1つに関連し得る。
【0029】
別の実施の形態では、本開示は骨関節炎(OA)、骨壊死及び関節リウマチ(RA)以外のIRDのいずれか1つに関連し得る。
【0030】
さらに別の実施の形態では、本開示は乾癬性関節症、痛風、偽痛風、並びに中でも腸疾患性関節炎、反応性関節炎及びライター症候群を含む様々な原因による関節炎、少関節型若年性関節リウマチ、スティル病、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、敗血症性関節炎、並びにとりわけ強直性脊椎炎及び腸疾患性脊椎炎及び未分化脊椎関節症等の脊椎関節症から選択されるIRDのいずれか1つに関連し得る。
【0031】
本発明の骨形成細胞は、自己免疫要素を有するか又は有しない炎症、及び骨病変(複数可)、例えば侵食又は軟骨下病変の両方を含むIRD疾患の治療(又は上記疾患における炎症若しくはその炎症性要素の治療)に特に有用であり得る。この実施の形態では、骨形成細胞は上記病状の両方を相乗的に改善することができ、それにより、より顕著な治療上の改善が達成され得る。
【0032】
別の実施の形態では、炎症を含むが、骨病変(複数可)を含まないIRD疾患の治療(又は上記疾患における炎症若しくはその炎症性要素の治療)において、骨形成細胞を使用することができる。例としては、炎症要素が存在するが、骨病変(複数可)は未だ起こっていないIRD疾患が患者において治療され得る。骨形成細胞の抗炎症効果についての本開示以前には、かかる疾患における骨形成細胞の投与によるいかなる利益も予期されていなかったため、かかる疾患における骨形成細胞の使用はこれまで示されていない。
【0033】
IRDにおける炎症(すなわち、IRDの炎症性要素)の予防及び/又は治療は、特に上記IRDにおいて全身性炎症及び/又は局所炎症のレベル又は程度を抑制する、低減する、又は減少させること、すなわち炎症(炎症性要素)を抑制する、低減する、又は減少させることを含む。上記炎症のレベル又は程度は、自体公知のように、例えば、限定されるものではないが、炎症の症状(例えば熱、組織腫脹、痛み、機能喪失等)を測定すること、及び/又は炎症の細胞マーカー及び/又は分子マーカー、例えばIL−1α、IL−1β、IL−2、IL−6、IL−8及びTNFαを測定すること、例えば上記マーカーの局所レベル及び/又は全身レベルを測定することにより好適に評価することができる。
【0034】
本発明に採用される単離骨形成細胞は、医薬組成物として好適に調合して投与することができる。
【0035】
かかる医薬組成物は、本明細書中に記載されるような骨形成細胞に加えて、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝剤、保存剤、安定剤、酸化防止剤、又は当業者に既知の他の材料を含み得る。かかる材料は非毒性でなくてはならず、細胞の活性を妨げるものであってはならない。担体又は他の材料の的確な性質は、投与経路によって異なる。例えば、該組成物は、発熱物質を含有せず(pyrogen-free)且つ好適なpH、等張性及び安定性を有する非経口的に許容可能な水溶液の形態であり得る。医薬品調合の一般原則については、「セル セラピー(Cell Therapy):ステムセル トランスプランテーション、ジーン セラピー アンド セルラーイムノロジー(Stem Cell Transplantation, Gene Therapy, and CellularImmunotherapy)」、モルスティン(G. Morstyn)およびシェリダン(W. Sheridan)編、ケンブリッジ大学出版(Cambridge UniversityPress)、1996年、及び「ヘマトポイエティック ステムセル セラピー(Hematopoietic Stem Cell Therapy)」、バール(E.D. Ball)、リスター(J. Lister)およびロー(P. Law)、チャーチル リビングストン、2000年を参照されたい。
【0036】
かかる医薬組成物は、その中での細胞の生存能力を保証するさらなる成分を含有していてもよい。例えば、該組成物は、所望のpH、より一般には中性に近いpHを達成するのに好適な緩衝系(例えばリン酸緩衝系又は炭酸緩衝系)を含むことができ、そして細胞に対して等浸透圧状態を保証して浸透圧ストレスを予防するのに十分な塩を含み得る。例えば、これらの目的に好適な溶液は、当該技術分野で既知のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、塩化ナトリウム溶液、リンガー液又は乳酸加リンガー液であり得る。さらに、該組成物は、細胞の生存能力を増大し得る担体タンパク質、例えばアルブミンを含んでいてもよい。
【0037】
医薬組成物は、骨創傷及び骨欠損の修復において有用なさらなる要素を含み得る。例えば、かかる要素としては、ヒドロキシアパタイト/リン酸三カルシウム粒子(HA/TCP)、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリ乳酸グリコール酸、ヒアルロン酸、キトサン、ポリ−L−リシン、及びコラーゲンが挙げられ得るが、これらに限定されない。例えば、骨形成細胞は脱石灰化骨マトリクス(DBM)、又は複合体を造骨性(osteogenic)(それ自体で骨を形成する)且つ骨誘導性にする他のマトリクスと組み合わせてもよい。自己骨髄細胞を同種DBMと共に用いる同様の方法により、良好な結果が得られている(コノリー(Connolly)ら、「クリニカル オルソペディクス アンド リレーテッド リサーチ(Clin Orthop)」、1995年、第313巻、p.8−18)。
【0038】
医薬組成物は、骨形態形成タンパク質、例えばBMP−2、又はBMP−4、BMP−7、又は任意の他の成長因子等の補完的生物活性因子をさらに含んでいても、又はそれと同時投与してもよい。他の可能な共存要素としては、骨再生を補助するのに好適なカルシウム又はリン酸塩の無機源(国際公開第00/07639号パンフレット)が挙げられる。必要に応じて、組織再生を向上させるために、細胞調製品を担体マトリクス又は担体材料上に投与することができる。例えば、材料は粒状セラミック、又はゼラチン、コラーゲン、オステオネクチン、フィブリノーゲン、若しくはオステオカルシン等の生体高分子であり得る。多孔質マトリクスは、標準的な技法(例えば、ミコス(Mikos)ら、「バイオマテリアルズ(Biomaterials)」、1993年、第14巻、p.323、ミコス(Mikos)ら、「ポリマー(Polymer)」、1994年、第35巻、p.1068、クック(Cook)ら、「ジャーナル オブ バイオメディカル マテリアルズ リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.」、1997年、第35巻、p.513)に従って合成することができる。
【0039】
医薬組成物は、IRDに有用な当該技術分野で既知の任意の治療剤(therapies)、例えば、限定されるものではないが、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、グルココルチコイド、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)又は鎮痛剤をさらに含んでいても、又はそれと組み合わせて同時投与してもよい。したがって、本発明は、骨形成細胞、並びにIRDの治療において同時使用、逐次使用又は個別使用される、DMARD、グルココルチコイド、NSAID及び鎮痛剤から選択される薬物を含む医薬組成物も提供する。
【0040】
骨形成細胞は「予防的に有効な量」(すなわち、研究者、獣医師、医師又は他の臨床医により求められるような、被験体において障害の発症を阻害するか又は遅延させる量)、又は「治療的に有効な量」(すなわち、研究者、獣医師、医師又は他の臨床医により求められる、被験体において生物学的応答又は薬理学的(medicinal)応答(とりわけ治療される疾患又は障害の症状の緩和を含み得る)を引き起こす量)で投与される。使用される骨形成細胞は、1つ又は複数の他の活性剤との組み合わせが任意で、その投与量又は量は、個々のケースに応じて異なり、最適な効果を達成するために個々の状況に適応させるのが常である。したがって、投与量又は量は、治療される障害の性質及び重症度に応じて、そして治療を受ける被験体の性別、年齢、体重、全身状態、食生活、投与の様式及び時期、並びに個々の反応性にも応じて、投与経路、作用の有効性、安定性及び持続時間に応じて、療法が急性療法若しくは長期療法若しくは予防的療法のいずれであるかに応じて、又は本発明の骨形成細胞に加えて他の活性化合物が投与されるか否かに応じて異なる。
【0041】
例としては、限定されるものではないが、約1×10個〜約1×10個の骨形成細胞、又は約1×10個〜約1×10個の骨形成細胞、又は約1×10個〜約1×10個の骨形成細胞、又は約1×10個〜1×10個の骨形成細胞の用量が、被験体、好ましくは非ヒト哺乳類又はヒトの被験体に対して局所投与及び/又は全身投与され得る。かかる投与は単回投与であっても、若しくは反復投与であってもよく、又は単位量(unit of volume)により行なってもよい。例としては、限定されるものではないが、反復投与の頻度は1日に1回若しくは2回、1週間に1回、2回若しくはそれ以上、又は1ヶ月に1回、2回若しくはそれ以上であり得る。
【0042】
本発明は、また、本明細書中で開示されるような骨形成細胞を、上記のような1つ又は複数の付加的成分と混合することにより、IRDの治療において使用されることが意図される上記医薬組成物を製造する方法をさらに包含する。
【0043】
骨形成細胞又はそれを含む医薬製剤は、目的とする組織部位にそれらを移植するか又は移動させて、機能性を欠く領域を再構成又は再生することを可能にする方法で投与することができる。組成物の投与は、修復を受ける筋骨格部位によって異なる。例えば、投与は関節の障害の場合、関節内腔に直接注射又は移植することによって行なってもよい。他の状況では、骨形成細胞又はそれを含む医薬製剤は全身に投与されてもよく、それによりそれらの抗炎症作用が全身的に起きることがあり、又はそれらが罹患部に移動することがある。したがって、一般的な例では、投与はとりわけ全身、局所、関節内又は関節周囲への投与であり得る。
【0044】
したがって、一実施の形態では、上記で規定される医薬細胞調製品は、液体組成物の形態で投与され得る。
【0045】
別の実施の形態では、骨形成細胞又は細胞集団を好適な基質上に移して、及び/又はそこで培養し、移植材料を提供することができる。細胞を適用し培養することのできる基質は、チタン、コバルト/クロム合金又はステンレス鋼等の金属、リン酸カルシウム等の生物活性表面、ポリエチレン等の高分子表面等であり得る。あまり好ましくはないが、ガラスセラミックス等のケイ質材料も基質として使用され得る。チタン等の金属、及びリン酸カルシウムが最も好ましいが、リン酸カルシウムは基質の必須成分ではない。基質は多孔質であっても、又は非多孔質であってもよい。
【0046】
例えば、必要に応じて、増殖させた細胞又は培養皿において分化途中の細胞を三次元固体支持体上に移して、この固体支持体を本発明の液体栄養培地中でインキュベートすることにより細胞を増やしても、及び/又は分化過程を継続させてもよい。細胞は三次元固体支持体上に、例えば上記支持体に上記細胞を含有する液体懸濁液を含浸させることにより移すことができる。このようにして得られた含浸支持体をヒト被験体に移植することができる。かかる含浸支持体は、最終的に移植する前に、液体培養培地中に浸漬させることにより再培養することもできる。
【0047】
三次元固体支持体は、ヒトに移植可能なように生体適合性である必要がある。三次元固体支持体は円筒、球、プレート等の任意の好適な形状であっても、又は任意の形状の一部であってもよい。生体適合性の三次元固体支持体に好適な材料のうち、炭酸カルシウム、特にアラゴナイト(具体的にはサンゴ骨格の形態である)、多孔質セラミックスであってアルミナベース、ジルコニアベース、リン酸三カルシウムベースのもの、及び/又はヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウムのヒドロキシアパタイトへの変換を可能にする熱水交換により得られる模造サンゴ骨格、又は他にアパタイト−ウォラストナイトガラスセラミックス、Bioglass(商標)ガラス等の生物活性ガラスセラミックスを特に挙げることができる。
【0048】
一般的定義
特に定義しない限り、本発明を開示するにあたって使用される、技術用語及び科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野の通常の技術を有する者(当業者)によって一般に理解される意味を有する。
【0049】
本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上他に明確な指示のない限り、単数及び複数の両方の指示対象を含む。例えば、「細胞(a cell)」という用語は、1つのというより1つ又は複数の細胞を指す。
【0050】
「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「から成る(comprised of)」という用語は、本明細書中で使用される場合、「含む(including)」、「含む(includes)」、又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、そして包括的又は無制限であり、そして付加的な、列挙されていない成員、要素又は方法工程を除外するものではない。
【0051】
端点による数値範囲の列挙は、その範囲内に含まれる全ての数及び分数、並びに列挙された端点を含む。
【0052】
「約」という用語は、本明細書中で使用される場合、パラメータ、量、時間幅(temporal duration)等の測定可能な値を指す際には、指定の値の(of and from)±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらにより好ましくは±0.1%以下の変動を、かかる変動が開示の発明における実行に適切である限りにおいて包含することを意味する。修飾語「約」が指す値自体も、具体的且つ好適に開示されることを理解されたい。
【0053】
本明細書に引用される全ての文献は、その全体が参照により本明細書中に援用される。特に、本明細書中で具体的に言及される全ての文献の教示が参照により援用される。
【実施例1】
【0054】
実験手順
以下に(A)特許文献2に実質的に記載されるような骨髄幹細胞(BMSC)からの骨形成細胞の誘導、又は(B)(A)の細胞を造骨培地においてさらに分化させることによる骨形成細胞の誘導、又は(C)骨梁から骨芽細胞を増殖させることによる骨形成細胞の誘導を引き起こす手順を記載する。
【0055】
A.BMSCからの骨芽細胞誘導
20ml〜60mlのヘパリン化骨髄(BM)を、骨疾患を患う患者の腸骨稜から得た。BMをリン酸緩衝生理食塩水(PBS、2v:v)と混合し、密度勾配Ficoll溶液上に重層した。遠心分離後、単核細胞を界面から採取し、PBS中で2回洗浄した。並行して、患者又は健常ドナーからの血清を、乾燥管(dry tube)に注いだ160mlの血液を遠心分離して得た。20%同種血漿及び10ng/mlのFGF2(又は骨芽細胞表現型を誘導する当該技術分野で既知の別の成長因子、例えばBMP)を添加したαMEM培地中に細胞を再懸濁した。細胞を1×10細胞/175cmでフラスコにプレーティングし、5%COを含有する37℃の加湿雰囲気下で維持した。細胞を4日間付着させた後、初期培地を交換した。さらに2回の部分的培地交換(半量を交換)を7日目及び11日目に行なった。14日目に細胞を、37℃で1分〜5分間トリプシン−EDTA溶液を用いて分離した。細胞を計数し、1×10細胞/175cmでプレーティングして、さらに1週間培養した。
【0056】
B.造骨培地における骨髄間葉系細胞の分化
標準的なMSC増殖培養から得た骨髄間葉系幹細胞を、トリプシン−EDTAと共にインキュベートすることにより回収し、6ウェルプレートにおいて、60細胞/ウェル〜120000細胞/ウェルで増殖培地にプレーティングした(12500細胞/cm)。翌日、培地を2.5mlの造骨培地に取り替えた。細胞を2週間、3週間又は4週間培養した。培地は3日〜4日毎に取り替えた。
【0057】
培地
デキサメタゾン希釈物:
Dex1(5×10−4M):2μlのデキサメタゾン原液(5×10−2M)+198μlのα−MEM
Dex2(10−6M):2μlのDex1(5×10−4M)+998μlのα−MEM
造骨培地(40ml)
容量 最終濃度
αMEM 31ml /
FCS 6ml 15%
PenStrepGlu(100×) 400μl 1×
デキサメタゾン(Dex2) 400μl 10−8
アスコルビン酸 200μl 50μg/ml
β−グリセロリン酸 2ml 10mM
【0058】
C.骨梁由来骨芽細胞(Trabecular osteoblasts)の増殖
ヒト骨検体から、軟結合組織及び皮質骨を慎重に除去し、残りの骨梁を小断片(1mm)に刻んだ。骨断片をPBS中で十分に洗浄して、付着した骨髄細胞を除去し、25cmの組織培養フラスコにおいて、自己血清を添加し、成長因子を添加した又は添加していない培養培地に播種した(上記を参照されたい)。培地を1週間に2回交換した。4週間後、トリプシン−EDTA溶液を用いて細胞を遊離させ、計数して、最後に5000細胞/cmの密度で再プレーティングした。
【0059】
フローサイトメトリー
細胞の免疫生物学的細胞表面マーカーをフローサイトメトリーにより解析した。骨形成細胞を、以下の標識モノクローナル抗体:HLA−I、HLA−DR、CD80、CD86、CTLA−4、CD40L及びCD28と共に15分間インキュベートした後、PBSで洗浄し、遠心分離し、0.3mlのPBS中に再懸濁した。
【0060】
細胞の固定及び透過化の後、OCNを特異抗体を用いて免疫検出し、フローサイトメトリーにより染色を解析した。
【0061】
石灰化アッセイ
石灰化能の誘導を、細胞に造骨培地を添加することにより評価した。約6000個/cmの骨形成細胞(上記を参照されたい)を、0.1μMデキサメタゾン、0.05mMアスコルビン酸、及び3mMグリセロリン酸塩を添加した5%自己血漿の存在下で6ウェルプレートにプレーティングした。2週間、3週間又は4週間の培養の後、細胞を3.7%ホルムアルデヒド/PBSで固定し、アリザリンレッドにより染色した。
【0062】
ALP染色
細胞をALP検出のために染色した。骨形成細胞(上記を参照されたい)をPBSで2回洗浄した後、60%クエン酸緩衝アセトン中で室温にて30秒間固定し、蒸留水で45秒間再度リンスした。次いで、ファストブルーRR/ナフトールAS−MXホスフェート溶液を用いて室温にて暗所で30分間、細胞を染色した。細胞を2分間蒸留水で洗浄した後、マイヤーヘマトキシリン溶液中で10分間対比染色した。最後に、細胞を3分間蒸留水中で洗浄した。
【0063】
増殖アッセイ
個体Aから得た200000個/mlのヒトT細胞(末梢血単核細胞、PBMCa)を、個体Bから得た放射線照射PMBC又はCD3枯渇PMBC(APCb)、及び第3の個体から得たヒト骨形成細胞と共に96ウェルマイクロタイタープレートにおいて、総体積200μlで、PHA(T細胞の細胞分裂活性化因子)の存在下又は非存在下で10日間平板培養した。ヒト骨形成細胞は20000個/ml、100000個/ml及び200000個/mlで播種した。PBMCa及びAPCbをPHAと共に又はPHAの非存在下で共インキュベートした場合、PBMCa細胞がAPCb上の表面抗原により活性化される混合リンパ球反応が起こった。培養物を培養期間18時間で1μCi/mlの3H−チミジンと共にインキュベートし、T細胞の増殖を測定した。細胞を氷冷PBSで2回、及び氷冷5%トリクロロ酢酸(TCA)で2回洗浄した。最後に、0.1N NaOH及び0.1%トリトンX100を含有する溶液により細胞を溶解した。上清を採取しシンチレーション液と混合してベータカウンター上で解析した。
【0064】
結果
骨再建特性
3週間後、細胞マーカー(骨マーカー及び間葉系マーカー)又は細胞膜マーカー(membrane markers)のレベルをフローサイトメトリーにより評価した(図1)。骨マーカー(ALP、OCN)及び間葉系マーカー(CD105、CD73、CD90)は、高度に発現していたが、造血マーカー(CD45)は陰性であった。
【0065】
ALP産生(ALP染色)及びカルシウム沈着(石灰化)を用いて骨の生物学的機能との関連付けを行なった。21日目には、全てではないがほとんどの細胞によりALPが発現され、かなりの石灰沈着が、顕微鏡検査下の総面積の65%を超えて、観察された(図2)。
【0066】
免疫調節特性
表1及び表2に示す結果は、APCがPBMCにより異物細胞として認識されたこと、その結果PBMCが増殖していたことを示す。PBMCa及びAPCbを、自己BM由来骨芽細胞(個体Bから得た、BMOBb)の存在下で混合した場合、混合リンパ球反応が40%〜50%抑制された。
【0067】
同様の効果が、強いT細胞増殖刺激因子であるPHA(10μg/ml)の存在下で観察された(表2)。骨芽細胞の免疫抑制効果は、刺激されたT細胞に対して、55%〜65%と、より顕著だった。
【0068】
興味深いことに、同種BM由来骨芽細胞(個体Cから得た、BMOBc)の存在下で混合した場合、混合リンパ球反応が同様に、標準条件下(表1)で30%〜40%及びPHA刺激条件下で60%〜65%と、有意に抑制された。個体Cから得たBM由来骨芽細胞(BMOBc)を96ウェルマイクロタイタープレートにロードし、PBMCa及びAPCbと共インキュベートした。培養物を培養期間18時間で3H−チミジンと共にインキュベートし、T細胞の増殖を測定した。これらの結果は、HLAサブタイプに関して抑制の特異性が存在しないことを示唆する。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【0071】
結論
骨前駆細胞、前骨芽細胞又は骨芽細胞等の骨形成細胞は、骨再建特性及び抗炎症特性の両方を示すため、炎症性リウマチ性疾患の治療において有用であり得る。これらの細胞は、ALP酵素活性及び石灰化能と相関し、それらの骨生物学的プロファイルを裏付ける、間葉系マーカー及び骨表面マーカーの高い発現レベルを特徴とする。細胞はさらに、刺激されたT細胞の増殖応答を自己レベル及び同種レベルで(on anautologous and allogeneic basis)下方制御することが可能である。このことは、自己骨髄又は同種骨髄に由来する骨形成細胞の産物が、炎症性リウマチ性疾患の治療に特に有用であり得ることを実証するものである。
【実施例2】
【0072】
in vivo炎症(IRD)のモデル
カラギーナン誘発性足首/足炎症のモデル(1)
PBS中に1%のカラギーナン(CARRA;Sigma,Switzerland)を含有する溶液を、8週齢スイスマウスの後足に注射することにより炎症を誘発させた(表3)。各々の動物は各後足に単回注射を受けた。カラギーナン注射を受けた動物に、注射の直後に、PBSのみ、又はデキサメタゾン(DEX;Sigma,Switzerland)の溶液を1mg/kgの濃度で、又は1×10個のヒト骨形成細胞(OB)(実施例1のAに記載されるような骨髄間葉系間質細胞に由来する)、又はDEX及びOBの組み合わせを与えた。
【0073】
【表3】

【0074】
T0における注射前、及びT1、T4及びT24(それぞれ、CARRA投与前、並びに注射後1時間、4時間、6時間及び24時間)にイソフルラン鎮静下で、足首及び足の周囲をデジタルノギスを用いて測定した。
【0075】
カラギーナン誘発性足首/足炎症のモデル(2)
PBS中に1%のλ−カラギーナン(CARRA;Sigma,Switzerland)を含有する溶液を、8週齢スイスマウスの後足に注射することにより炎症を誘発させた(表4)。各々の動物は各後足に単回注射を受けた。カラギーナン注射を受けた動物に、注射の直後に、PBSのみ、又はデキサメタゾン(DEX;Sigma,Switzerland)の溶液を1mg/kgの濃度で、又は1×10個のヒト骨形成細胞(OB)(実施例1のAに記載されるような骨髄間葉系間質細胞に由来する)を与えた。
【0076】
【表4】

【0077】
T0における注射前、及びT1、T4、T6及びT24(それぞれ、CARRA投与前、並びに注射後1時間、4時間、6時間及び24時間)にイソフルラン鎮静下で、足首及び足の周囲をデジタルノギスを用いて測定した。
【0078】
アジュバント誘発性足首/足炎症のモデル
PBS中に0.5%の完全フロインドアジュバント(ADJ;Sigma,Switzerland)を含有する溶液を、8週齢スイスマウスの後足に注射することにより炎症を誘発させた(表5)。各々の動物は各後足に単回注射を受けた。アジュバント注射を受けた動物に、注射の直後に、PBSのみ、又はデキサメタゾン(DEX)の溶液を1mg/kgの濃度で、又は1×10個のヒト骨形成細胞(OB)(実施例1のAに記載されるような骨髄間葉系間質細胞に由来する)を与えた。
【0079】
【表5】

【0080】
T0における注射前、及びT1、T4、T6及びT24(それぞれ、ADJ投与前、並びに注射後1時間、4時間、6時間及び24時間)にイソフルラン鎮静下で、足首及び足の周囲をデジタルノギスを用いて測定した。
【0081】
結果:カラギーナン誘発性炎症に対する効果
カラギーナンの注射により、注射を受けた動物の(足又は足首)直径の増加により測定可能な即時型炎症性反応が誘発される。直径は、ベースラインより1時間後でおよそ20%、4時間後で25%、及び24時間後で17%増加する(図3)。
【0082】
足首においては、デキサメタゾン(1mg/kg)により、カラギーナンを注射した足/足首の炎症及び腫脹の強力な阻害が誘導される(図3)。デキサメタゾンにより誘導される炎症阻害は、1時間及び4時間の時点では100%であるが、その後消え始め、24時間の時点では完全に失われる。
【0083】
足首での比較により、骨形成細胞の投与は、1時間及び4時間の時点で中程度であるがかなりの炎症阻害(それぞれ30%及び40%の減少)を誘導し、また、この阻害は長期にわたるようであり、24時間の時点で40%の阻害が維持される。
【0084】
興味深いことに、カラギーナン誘発性炎症において、骨形成細胞及びデキサメタゾンの組み合わせにより相乗的な(且つ強力な)効果が観察される(図3)。抗炎症効果は1時間、4時間及び24時間の時点で、それぞれ50%、80%及び75%である。
【0085】
骨形成細胞に関する抗炎症効果は、足ではより強く、また長期にわたる。1時間、6時間及び24時間の時点で、デキサメタゾンがそれぞれ100%、70%及び38%の阻害を示すのに対し、骨形成細胞に関しては80%、90%及び95%である(図4)。これは、足では注射された細胞がより良好に分布及び拡散するためであり得る。
【0086】
結果:アジュバント誘発性炎症に対する効果
アジュバント誘発性炎症においては、足/足首のより激しい炎症、すなわち、4時間〜6時間の時点でベースラインに対して40%〜50%の直径の増加にもかかわらず、骨形成細胞はデキサメタゾンによる抑制と同様、強力な抗炎症効果(75%〜90%のピーク効果)を示す傾向があり(図5)、この効果は24時間維持される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症性リウマチ性疾患(IRD)の炎症性要素の治療において使用される単離骨形成細胞。
【請求項2】
該骨形成細胞が、a)造骨分化を行なうことが可能であるか、又はb)造骨分化の方向に拘束されている(committed)か、又はc)少なくとも部分的に造骨分化が進行している、請求項1に記載の使用される単離骨形成細胞。
【請求項3】
該骨形成細胞が、以下の特徴:
i)該細胞がアルカリホスファターゼ(ALP)、より具体的には骨−肝臓−腎臓型のALP、及び/又はオステオカルシン(OCN)の発現を有すること;
ii)該細胞が外部環境を石灰化するか、又はカルシウム含有細胞外マトリクスを合成する能力の証拠を示すこと;及び
iii)該細胞が実質的に、脂肪細胞系列又は軟骨細胞系列の細胞のうちいずれか一方、好ましくはそのいずれにも分化しないこと、
を示す、請求項1又は2に記載の使用される単離骨形成細胞。
【請求項4】
該骨形成細胞がヒト起源のものであり、且つ該薬剤がヒト被験体への自家投与又は同種投与に採用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用される単離骨形成細胞。
【請求項5】
前記投与が全身、局所、関節内、又は関節周囲への投与である、請求項4に記載の使用される単離骨形成細胞。
【請求項6】
該IRDが骨関節炎(OA)、乾癬性関節症、痛風、偽痛風、並びに関節リウマチ(RA)、腸疾患性関節炎、反応性関節炎及びライター症候群を含む様々な原因による関節炎、骨壊死、少関節型若年性関節リウマチ、スティル病、ベーチェット病、全身性エリテマトーデス、敗血症性関節炎、並びに強直性脊椎炎、腸疾患性脊椎炎及び未分化脊椎関節症を含む脊椎関節症から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用される単離骨形成細胞。
【請求項7】
該IRDが骨関節炎(OA)、関節リウマチ(RA)及び骨壊死以外のものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用される単離骨形成細胞。
【請求項8】
該IRDが炎症及び骨病変(複数可)の両方を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離骨形成細胞。
【請求項9】
該IRDが炎症を含むが、骨病変(複数可)を含まない、請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離骨形成細胞。
【請求項10】
骨形成細胞、並びにIRDの炎症性要素の治療において同時使用、逐次使用又は個別使用される、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、グルココルチコイド、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)及び鎮痛剤から選択される薬物を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−505860(P2011−505860A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538756(P2010−538756)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068007
【国際公開番号】WO2009/080749
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(510172826)
【Fターム(参考)】