説明

炎症性疾患処置カラム

【課題】
本発明の課題は、ビーズ状の細胞吸着材料を充填した血液処理用カラムにおいて、ビーズの径を考慮したコンパクトな細胞吸着カラムを実現させることである。
【解決手段】
下記式にて表される、ビーズ状の細胞吸着材料が容器に充填された炎症性疾患処置カラム。
0.1≦2R<2.0
N≧49650/R
22.1≦V≦315.5
ここで、N:容器に充填されたビーズ状の細胞吸着材料の個数(個)、R:ビーズ状の細胞吸着材料の半径(mm)、V:ビーズ状の細胞吸着材料が充填される容器の容量(cm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の白血球、特に顆粒球などの細胞を効率的に捕捉する炎症性疾患処置カラムの容量に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全身性エリトマトーデス、悪性関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病等の自己免疫性疾患、白血病、癌、炎症性疾患などの治療、又は移植前の免疫抑制の目的で白血球を除去する技術が進歩してきている。これらの技術として様々な炎症性疾患処置カラムが研究され、例えば白血球除去や顆粒球除去を目的としたカラム(特許文献1,2)、サイトカイン吸着を目的としたカラム(特許文献3,4)、白血球と毒素を同時に吸着することを目的としたカラム(特許文献5)等がそれぞれ開発されてきた。これらは、通常、カラム内部にそれぞれ目的とする物質を除去・吸着するための濾過材または吸着担体を有している。これら濾過材または吸着担体としてはこれまで様々な物質、形状のものが用いられてきた。例えば、ポリエステル不織布からなる白血球除去担体(特許文献1)では、複数の繊維径からなる繊維を混合した不織布を作成し、血球の目詰まり解消のため改良が施されている。また、直径2mm程度の酢酸セルロースビーズからなる吸着担体(特許文献2)も開発されており、こちらは補体を活性化させることで顆粒球を選択的に吸着させることが可能である。現在のところ、細胞吸着材料としては繊維(不織布)あるいはビーズが主だっているが、細胞吸着材料の製造あるいはカラムへの充填という観点に立つと、ビーズの方が繊維(不織布)に比べ製造も容易であり充填も簡便である。またビーズにおいては選択的に細胞を吸着させることも可能である(特許文献2)。しかしこのビーズを充填したカラムにおいて容量を出来うるかぎり縮小させた効率のよいカラムついての検討は行われていない。
【特許文献1】特開昭60−193468号公報
【特許文献2】特開平5−168706号公報
【特許文献3】特開平10−225515号公報
【特許文献4】特開平12−237585号公報
【特許文献5】特開平14−113097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、ビーズ状の細胞吸着材料を充填した血液処理用カラムにおいて、ビーズの径を考慮したコンパクトな細胞吸着カラムを実現させることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1.下記式にて表される、ビーズ状の細胞吸着材料が容器に充填された炎症性疾患処置カラム。
0.1≦2R<2.0
N≧49650/R
22.1≦V≦315.5
ここで、N:容器に充填されたビーズ状の細胞吸着材料の個数(個)、R:ビーズ状の細胞吸着材料の半径(mm)、V:ビーズ状の細胞吸着材料が充填される容器の容量(cm
2.該細胞が顆粒球であることを特徴とする前記1記載の炎症性疾患処置カラム。
3.該顆粒球の吸着率が30%以上である前記2記載の炎症性疾患処置カラム。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、細胞吸着材料を充填した血液処理用カラムにおいて、該細胞吸着材料の充填量を考慮したコンパクトな細胞吸着カラムを実現させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明で用いる細胞吸着材料の材質としては、血球にダメージを与えにくいものであれば特に限定はなく各種のものを用いることができ、有機高分子、無機高分子、金属等が挙げられる。その中でも有機高分子は、切断等の加工性に優れるため好ましい素材である。有機高分子としては、例えば、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリスルホン、セルロース、セルロースアセテート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリトリフルオロクロロビニル、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエーテルスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドブロツクコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー等が挙げられるが上記例示に限定されるものではない。
【0007】
細胞吸着材料として用いるビーズの径2Rは0.1mm以上2.0mm未満である。ここでRとは、ビーズ状の細胞吸着材料の半径(mm)である。径が0.1mmよりも小さいと血球との分別が困難になり、また血液等の被処理液体を流したときの圧力損失の増加の懸念も生じる。また、2.0mm以上であると、30%以上の細胞吸着率を達成するためには容量の大きなカラムが必要となるため、治療に多くの血液が必要となり患者の負担が大きくなる。ここでいう径は、真球の場合、真球でない場合を含め、任意に選んだ10個のビーズについて、任意の方向の径を1回/個計測したときの平均値を指す。
【0008】
本発明において、ビーズは吸着対象の細胞に対する吸着機能を有するものであるため、例えば、ビーズの表面は吸着対象の細胞に対して特異的結合親和性を有する認識分子により修飾されることが好ましい態様として有り得る。これらの認識分子の例として、抗体、ペプチド、タンパク質、核酸、糖鎖、糖タンパク質、低分子化合物などがあげられる。吸着対象が白血球である場合はE-セレクチンを導入することが考えられる。ただし上記認識分子は例としてあげたものであり、これらに限定するものではない。ここでいう吸着とは、該細胞が該細胞吸着材料に吸着する場合の他、付着して容易に剥離しない状態のものを含めるものとする。
【0009】
基材表面への認識分子の修飾においては、基材表面に認識分子を直接結合あるいは活性基を介して結合することが考えられる。修飾は基材から認識分子または活性基が剥離しない結合状態であれば、いずれの結合状態であってもよい。結合状態としては、共有結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、水素結合または疎水結合の単独またはそれら複数の合力が挙げられる。認識分子の流出を抑制する点から、共有結合、疎水結合がより好ましく、最も好ましくは共有結合である。結合反応は、置換反応、付加反応、縮合反応、重合反応または開環反応等が挙げられる。
【0010】
本発明に係る炎症性疾患処理カラムにおいて、該細胞のひとつとして白血球が挙げられる。白血球には、顆粒球、単球、リンパ球があり、本発明においては、人体に有用なリンパ球は吸着対象物質ではない。顆粒球である場合、被処理液体を流したときの吸着率は30%以上であることが好ましい。これは炎症性疾患においては、顆粒球が過剰に増加し、活性酸素などを放出し、組織を破壊する負の効果があることが知られているため、血液中から除くことが好ましいことに因る。吸着率の測定法は、吸着材料を円筒状カラム(内径0.8cm、長さ1cm〜14.3cm)に充填し、LPS(リポ多糖)を70U/mLになるよう添加した健常人血液を、37℃、1時間、血流量0.68mL/minで下から上の向きに室温で通過させた後、血球計算機でカラム通過開始から0分後の血液(吸着前液)および60分後の血液(回収液)に残存する顆粒球数を測定し、次式を用いて算出する。
顆粒球吸着率(%)=
{(吸着前液中の顆粒球数)−(回収液中の顆粒球数)}/(吸着前液中の顆粒球数)
白血球数の計測は血球計測用に販売されている装置であれば特に指定はなく、例を挙げるならば多項目自動血球分析装置XT−1800i(シスメックス株式会社)等を用いることができる。
【0011】
本発明において、除去されるべき細胞は対象とする炎症性疾患の病態に近いものであることが好ましい。特に顆粒球を吸着の対象とする場合は、上記のようにLPSを添加した血液を用いてその吸着性能を評価することが好ましい。これは、LPSは、LPS分子のリピドA部分の強い炎症性および免疫賦活特性のために、非常に劇的な生物学的作用を有し、LPSは概して、グラム陰性菌感染および他の病気の病因に大いに寄与すると考えられているためである。従って、LPSを健常人血液に添加することで血液を炎症性疾患患者のものに近づけることができる。
【0012】
本発明においては、上記範囲の径を有するビーズ状の細胞吸着材料を用いて、顆粒球の吸着率が30%以上となる機能を達成するために鋭意検討した結果、ビーズ状細胞吸着材料の半径R(mm)と容器に充填されたビーズ状の細胞吸着材料の個数N(個)の関係が以下のように表されることを見出した。
【0013】
N≧49650/R
またこの式から導き出された個数を納めることのできる充填容器の容量V(cm)は、径が0.1以上2.0mm未満のときに必要な容器の容量であり、22.1cm以上315.5cm以下となる。ここでいう容量Vとは、カラムにおける該細胞吸着材料が充填されている部分の容量を指すものであり、上下に存在するヘッダー部分等の付属容器、機器の体積を含むものではない。
【0014】
本発明のカラムは、流入口と流出口を有する容器からなり、その容器内に細胞吸着用の吸着材料が充填されており、炎症性疾患処置に用いるものである。
【0015】
これらの流入口と流出口とは、体外循環して用いる炎症性疾患処置カラムに体液を流入・流出させる手段であり、体外循環の治療に使用するとき循環系の回路に接続される部位になる。形状は特に限定されるものではないが、体外循環用の回路を形成するチューブに接続できる形態であることが望ましい。さらに好ましくは、コネクター形状を有し、回路チューブとの着脱が容易になっていることが望ましい。
【0016】
また、かかる容器の形状は、被処理液体の誘導作用を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、断面形状が円形、四角形、三角形、その他の多角形の断面を有するパイプやそれを組み合わせた形状のパイプなどを挙げることができる。流路方向の形状としては、被処理液体の滞留などを生じないようにするために直線状に真っ直ぐなものが好ましい。
【0017】
本発明に係るカラムは、全身性エリトマトーデス、悪性関節リウマチ、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、クローン病等の自己免疫性疾患、白血病、癌、炎症性疾患などの治療、又は移植前の免疫抑制の目的で白血球を除去する炎症性疾患処置カラムとして有用に用いることが可能である。
【実施例】
【0018】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、発明の内容が実施例に限定されるものではない。
【0019】
以下において血液中の血球数の測定は、多項目自動血球分析装置XT−1800i(シスメックス株式会社)を用いて行った。ここで、顆粒球数は、顆粒球の大部分を占める好中球数を以て計算した。顆粒球吸着率は以下の式により算出した。
顆粒球吸着率(%)=
{(吸着前液中の顆粒球数)−(回収液中の顆粒球数)}/(吸着前液中の顆粒球数)
ここで吸着前液とはカラム通過開始から0分後の血液であり、回収液とはカラム通過開始から60分後の血液である
また細胞吸着材料として用いたビーズの径は校正されたノギスで測定した。径は、任意に選んだ10個のビーズについて、任意の方向の径を1回/個計測したときの平均値を指す。実施例中におけるビーズ吸着材料の体積は充填されたビーズ自体の全体積を表しており、嵩体積ではない。
さらにヒト血液を用いた本目的の炎症性疾患処置カラム(実カラム)サイズでの実験は倫理上困難であるため、ミニカラムを用いてスケールダウンして実施した。この際、実際の臨床で行われている体外循環が血流量30mL/minであることを踏まえて、ミニカラムと実カラムの容積比に比例させて血流速を変更し、実験をおこなった。
(実施例1)
直径(=2R)0.1mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体0.237cm(452488個)及び0.9重量%塩化ナトリウム水溶液を、上下に血液の出入り口のある内径0.8cm、長さ1cmのポリカーボネート製ミニカラムに充填した。このカラムに、ヘパリンを添加(ヘパリン濃度:30U/ml)した健常者ボランティアの血液にLPSを70U/mLになるよう添加した血液を、37℃、1時間、血流量0.68mL/minで下から上の向きに室温で通過させた。この条件は直径0.1mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体10.4cm(19860000個)を22.1cmの容器に充填したカラムに血液を30mL/minで通液させること(A)に相当する。その後、血球計算機で0分後および60分後の血液に残存する顆粒球数を測定し、吸着率を算出した。結果を表1に示す。
(実施例2)
直径1.0mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体2.37cm(4525個)及び0.9重量%塩化ナトリウム水溶液を、上下に血液の出入り口のある内径0.8cm、長さ10cmのポリカーボネート製ミニカラムに充填した。このカラムに、ヘパリンを添加(ヘパリン濃度:30U/ml)した健常者ボランティアの血液にLPSを70U/mLになるよう添加した血液を、37℃、1時間、血流量0.68mL/minで下から上の向きに室温で通過させた。この条件は直径1.0mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体104.0cm(198600個)を221cmの容器に充填したカラムに血液を30mL/minで通液させること(B)に相当する。その後、血球計算機で0分後および60分後の血液に残存する顆粒球数を測定し、吸着率を算出した。結果を表1に示す。
(実施例3)
直径1.9mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体4.50cm(1253個)及び0.9重量%塩化ナトリウム水溶液を、上下に血液の出入り口のある内径0.8cm、長さ14.3cmのポリカーボネート製ミニカラムに充填した。このカラムに、ヘパリンを添加(ヘパリン濃度:30U/ml)した健常者ボランティアの血液にLPSを70U/mLになるよう添加した血液を、37℃、1時間、血流量0.68mL/minで下から上の向きに室温で通過させた。この条件は直径1.9mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体197.6cm(55013個)を315.5cmの容器に充填したカラムに血液を30mL/minで通液させること(C)に相当する。その後、血球計算機で0分後および60分後の血液に残存する顆粒球数を測定し、吸着率を算出した。結果を表1に示す。
【0020】
実施例1〜3から、ビーズ状細胞吸着材料の径(=2R)と容器に充填する最低限必要なビーズ状細胞吸着材料の個数(N)との関係は以下のように表されることを見出した。
【0021】
N≧49650/R
ただし、Rの単位はmmとする。またこの式から導き出された個数を納めることのできる充填容器の容量は、径が0.1以上2.0mm未満のときに必要な容器の容量であることから、22.1cm以上315.5cm以下となる。
(比較例1)
直径2.1mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体4.53cm(934個)及び0.9重量%塩化ナトリウム水溶液を、上下に血液の出入り口のある内径0.8cm、長さ14.3cmのポリカーボネート製ミニカラムに充填した。このカラムに、ヘパリン採血(ヘパリン濃度:30U/ml)した健常者ボランティアの血液にLPSを70U/mLになるよう添加した血液を、37℃、1時間、血流量0.68mL/minで下から上の向きに室温で通過させた。この条件は直径2.1mmの酢酸セルロース製ビーズ吸着体198.8cm(41000個)を315.5cmの容器に充填したカラムに血液を30mL/minで通液させること(D)に相当する。その後、血球計算機で0分後および60分後の血液に残存する顆粒球数を測定し、吸着率を算出した。結果を表1に示す。
ビーズ径が2.1mmである場合は、315.5cmの容器を用いたとしても細胞吸着率は30%に届かないことがわかった。
【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式にて表される、ビーズ状の細胞吸着材料が容器に充填されたことを特徴とする炎症性疾患処置カラム。
0.1≦2R<2.0
N≧49650/R
22.1≦V≦315.5
ここで、N:容器に充填されたビーズ状の細胞吸着材料の個数(個)、R:ビーズ状の細胞吸着材料の半径(mm)、V:ビーズ状の細胞吸着材料が充填される容器の容量(cm
【請求項2】
該細胞が顆粒球であることを特徴とする請求項1記載の炎症性疾患処置カラム。
【請求項3】
該顆粒球の吸着率が30%以上であることを特徴とする請求項2記載の炎症性疾患処置カラム。

【公開番号】特開2008−206753(P2008−206753A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46699(P2007−46699)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】