説明

炭化ケイ素構造体の製造方法

【課題】従来法よりも簡単に、しかも従来法では実現できなかった主として炭素からなる構造体の形態を保持した炭化ケイ素構造体の製造を、低温で、かつ短時間で行うことことができる炭化ケイ素構造体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】不活性ガス雰囲気の反応容器中で、シリコンを含むナトリウムの融液を付加した状態で、主として炭素からなる構造体を加熱し、加熱した後に得られる炭化ケイ素構造体中の主たる炭化ケイ素の結晶構造がβ型であり、更に、主として炭素からなる構造体を加熱する温度は、600℃以上、1200℃以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温ガスや金属融液のフィルター、高温ガス吸着材、触媒担体、半導体製造装置部材、生体培養坦体材料として、実用化が期待されている炭化ケイ素構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素の多結晶体セラミックスは、高温においても高強度で、耐摩耗性、耐食性に優れた非酸化物半導体で、そのバルク体や多孔体などの構造体は、高温構造部材や半導体製造用部材、発熱体、ディーゼル車の廃ガス浄化用フィルターをはじめとする高温ガスフィルター、溶融金属濾過材、ガス分解浄化反応触媒の坦体などの用途に用いられている。また、炭化ケイ素は、地球の地殻中に豊富に存在する元素で構成されることや、非酸化物セラミックスの中では、表面酸化被膜の形成により耐酸化性も高く、低毒性で長寿命である。
【0003】
従来、炭化ケイ素の構造体は、炭化ケイ素粉体の固相および焼結助剤添加による液相焼結技術や加圧焼結技術、有機または無機前駆体の化学反応および熱分解反応を利用した製造技術、各種構造体にシリコンを含む溶液やシリコン融液を含浸させる技術等により合成されてきた。炭化ケイ素の前述の様々な特性を引き出すためには、α型またはβ型の結晶相でなければならず、α型やβ型の結晶相の炭化ケイ素を得るには、不活性雰囲気下で1200℃から2400℃におよぶ高温反応や焼成が必要である。高温での製造には時間がかかり効率が悪く、高温条件での処理に対応できる設備が必要となり、製造コストが高いという問題がある。
【0004】
この長時間の高温製造プロセスを短縮、または省略する製造方法として、非晶質炭素またはフラーレンの粉末とシリコンの粉末とを原料とし、これらの原料の混合体を金型圧縮成型し、ナトリウム蒸気下600℃から900℃に加熱することにより、β型結晶構造を有し、混合原料粉末の形態を維持した炭化ケイ素多孔体の合成方法が提案された(非特許文献1参照)。
【0005】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、炭素とシリコンとの原料粉末を混合成形しなければならず、炭化ケイ素構造体の形態や組織も、混合原料粉末から成形可能な形態に限られてしまうという問題点がある。
【0006】
【非特許文献1】川村文洋、山根久典、山田高広、殷シュウ、佐藤次雄,「Naを利用した炭化ケイ素粉末および多孔体の作製」,第45回セラミックス基礎科学討論会講演予稿集,東北大学金属材料研究所,2007年1月22日,p.562−563
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来法の原料粉末の混合工程を省き、従来法では実現できなかった主として炭素からなる構造体の形態を保持した炭化ケイ素構造体の製造を、低温で、かつ短時間で行うことことができる炭化ケイ素構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、不活性ガス雰囲気の反応容器中で、シリコンを含むナトリウムの融液を付加した状態で、主として炭素からなる構造体を加熱することを、特徴とする炭化ケイ素構造体の製造方法が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、前記主として炭素からなる構造体は、天然木材または植物・生体組織を炭化したもの、非晶質炭素、フラーレンまたはカーボンナノチューブを主な構成要素とする素材で人工的に合成された3次元バルク体、布、網、線、繊維、およびそれらが合わさったもののうち、少なくともいずれか一種類であることを、特徴とする炭化ケイ素構造体の製造方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記主として炭素からなる構造体を加熱して得られる炭化ケイ素構造体が、前記主として炭素からなる構造体の形態や組織、構造を保持していることを、特徴とする炭化ケイ素構造体の製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、前記主として炭素からなる構造体を加熱して得られる炭化ケイ素構造体中の主たる炭化ケイ素の結晶構造がβ型であることを、特徴とする炭化ケイ素構造体の製造方法が得られる。
【0012】
更に、本発明によれば、前記主として炭素からなる構造体を加熱する温度は、600℃以上、1200℃以下であることを、特徴とする炭化ケイ素構造体の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来よりも簡易に、低温で、かつ短時間で炭化ケイ素構造体を製造することができる炭化ケイ素構造体の製造方法が得られる。これにより、炭化ケイ素構造体を用いた低価格、高性能な高温構造部材や半導体製造用部材、発熱体、廃ガス浄化用フィルター、高温ガスフィルター、溶融金属濾過材、ガス分解浄化反応触媒の坦体、生体培養坦体材料等が得られるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、合成に使用した反応容器の概略図を示す。まず初めに、木材(バルサと檜材各10×10×30mm,バルサφ10mm×40mm)を80℃の空気中で4時間乾燥後、550℃の減圧下(約100Torr)で6時間加熱し、木材を炭化し、植物細胞壁の高次構造を保持した主に炭素からなる構造体とした。次に、得られた植物細胞壁の高次構造を保持した主に炭素からなる構造体である2つの炭化木1(合計296.2mg)を、シリコン3(814.6mg、三津和化学薬品株式会社製、純度99.999%、粒径−200mesh)、およびナトリウム2(790.7mg、日本曹達株式会社製、純度99.95%)とともに、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中で、焼結窒化ホウ素坩堝4(内径28mm、深さ25mm、昭和電工株式会社製、純度99.5%)の中に入れた。さらに、これらをニッケル製ルツボ5に入れた。図2(a)は、それぞれの材料をチャージした加熱前の焼結窒化ホウ素坩堝4である。
【0015】
次に、図1に示したように、熱電対8を通したニッケル台6の上にニッケル製ルツボ5を置き、ニッケル製キャップ7で覆った。試料部の雰囲気をArガスで約3atmに加圧し、ヒーター9により2時間で700℃まで昇温し、24時間保持加熱した後、炉冷した。炉冷後、グローブボックス中で焼結窒化ホウ素坩堝4内に入った試料を取り出した。600℃以下の反応温度では、炭化ケイ素の十分な生成反応が得られず、また、1000℃では、炭化ケイは合成されるが、ナトリウムの蒸発が激しくなり、1200℃以上の温度では、図1の装置を用いた合成が困難となる。従って、加熱する温度は、600℃以上、1200℃以下、好ましくは900℃以下の必要がある。
【0016】
図2(b)は、加熱冷却後の焼結窒化ホウ素坩堝4である。図2(b)から明らかに、加熱後の試料は加熱前の形態を維持しており、表面および内部には、固化したナトリウム−シリコン系の金属間化合物を含むナトリウムが付着していることが確認された。この試料に付着したナトリウムやナトリウム−シリコン系の金属間化合物を、イソプロピルアルコールやエタノールと反応させた。その後、この試料を蒸留水で超音波洗浄し、空気中200℃で乾燥させた。
【0017】
得られた試料をメノウ乳鉢で粉砕し、そのX線粉末回折(XRD)パターンをX線回折装置(株式会社リガク製、製品名「RINT2200」:CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA)を用いて測定した。図3は、バルサを使用して作製した粉砕試料のXRDパターンである。すべてのXRDピークは、立方晶系、格子定数a=0.436nmで指数付けされ、さらに各ピークの相対強度から、作製された試料がβ型の結晶構造を有する炭化ケイ素であることが分かる。
【0018】
洗浄後の試料の形態を、走査型電子顕微鏡:SEM(株式会社日立製作所製、製品名「X−650S」)で観察するとともに、このSEMに搭載されている半導体検出器(EDAX Inc製、製品名「NEW XL30」)を用いて元素分析を行った。図4は、炭化ケイ素試料のSEM像である。図4(a)は、檜材の炭化木から得られた試料で、図4(b)は、バルサ材の炭化木を用いて得られた試料である。両炭化ケイ素試料に植物特有のセル構造が観察されたことから、ミクロな構造も保持されていることが明らかである。これらの部分のエネルギー分散型X線分析(EDX分析)で、シリコンと炭素とがおおよそ50at%づつ含まれており、その他、0.6〜0.7at%のナトリウム、2〜3at%の酸素、および0.1at%の生体由来のカルシウムが検出された。
【0019】
更に、人工的に合成された炭素構造体として活性炭を使用し、内径28mmの焼結窒化ホウ素坩堝4内に、粒径6mmの活性炭を30mg、ナトリウム2を73mg、シリコン3を71mg入れ、Arガス雰囲気中、700℃で24時間加熱することにより、活性炭の形態を保持したβ型炭化ケイ素が合成された。
【0020】
本実施の形態では、バルサ材と桧材と活性炭とについて説明したが、炭素からなる構造体が得られる天然木材または植物・生体組織を炭化したもの、非晶質炭素、フラーレンまたはカーボンナノチューブなどを主な構成要素とする素材で人工的に合成された3次元バルク体、布、網、線、繊維、およびそれらが合わさったもののうち、少なくともいずれか一種類であれば、同様の反応が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の炭化ケイ素構造体の製造方法の、炭化ケイ素構造体の作製に使用した反応容器の概略図である。
【図2】図1に示す炭化ケイ素構造体の製造方法の、炭化ケイ素構造体の作製に使用した焼結窒化ホウ素坩堝内に炭化木、シリコンおよびナトリウムを入れた使用状態を示す(a)加熱前の斜視図、(b)加熱冷却後の斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の炭化ケイ素構造体の製造方法の、バルサを使用して作製した炭化ケイ素構造体の粉砕試料のX線粉末回折(XRD)パターンを示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の炭化ケイ素構造体の製造方法の、(a)檜材の炭化木から得られた炭化ケイ素構造体を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真、(b)バルサ材の炭化木から得られた炭化ケイ素構造体を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【符号の説明】
【0022】
1 炭化木
2 ナトリウム
3 シリコン
4 焼結窒化ホウ素坩堝
5 ニッケル製ルツボ
6 ニッケル台
7 ニッケル製キャップ
8 熱電対
9 ヒーター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気の反応容器中で、シリコンを含むナトリウムの融液を付加した状態で、主として炭素からなる構造体を加熱することを、特徴とする炭化ケイ素構造体の製造方法。
【請求項2】
前記主として炭素からなる構造体は、天然木材または植物・生体組織を炭化したもの、非晶質炭素、フラーレンまたはカーボンナノチューブを主な構成要素とする素材で人工的に合成された3次元バルク体、布、網、線、繊維、およびそれらが合わさったもののうち、少なくともいずれか一種類であることを、特徴とする請求項1記載の炭化ケイ素構造体の製造方法。
【請求項3】
前記主として炭素からなる構造体を加熱して得られる炭化ケイ素構造体が、前記主として炭素からなる構造体の形態や組織、構造を保持していることを、特徴とする請求項1または2記載の炭化ケイ素構造体の製造方法。
【請求項4】
前記主として炭素からなる構造体を加熱して得られる炭化ケイ素構造体中の主たる炭化ケイ素の結晶構造がβ型であることを、特徴とする請求項1、2または3記載の炭化ケイ素構造体の製造方法。
【請求項5】
前記主として炭素からなる構造体を加熱する温度は、600℃以上、1200℃以下であることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載の炭化ケイ素構造体の製造方法。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−62203(P2009−62203A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228893(P2007−228893)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】